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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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影従 6
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
6話完結 act.6

拍手[2回]


◇◆◇

 ダミアンの執務室から"ソウェル"の辞職願を持って返って来たルークは、自分の執務室の椅子へと腰を下ろすと、大きな溜め息を吐き出していた。
 前へ、進む為に。誰もが当たり前のように踏み出すその道は…いつから、棘の道だったのだろうか。
 それは、ルークだけではない。多分…ダミアンにとっても。"ソウェル"にとっても。
 再び溜め息を吐き出すと、諦めたようにラルへと連絡を入れた。
『…はい』
 数回の呼び出しで返って来た答え。それは、ルークの昔馴染みの参謀部実行班総長ラル。
「あ、ラル?えっとさぁ…あんたのとこに、まだシェリーっている…?」
 問いかけた声に、以前のどたばた騒動を思い出したのか、くすっと笑う声が聞こえた。
『おりますよ。シェリーに用事ですか?』
「うん、ちょっとね。呼んでくれる?」
『了解致しました』
 回線を切り、気分転換に…とコーヒーを淹れに立つ。そうして待つこと暫し。ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
『失礼致します』
 その声と共にドアが開かれ、見覚えのある明るい茶色の癖毛の短い髪と、金色の綺麗な瞳。中性的な顔立ちの、小柄な種族のシェリー。一時、ルークの補佐として任命されていたことがあった。結局、"オズウェル"の差し金だったこともあり、またラルの下に戻った半精霊の彼。その彼をルークが呼んだのには当然理由がある。
「…御呼びですか…?」
 シェリーの方は、呼ばれた理由が未だわからないのだろう。僅かに眉を寄せ、心配そうにルークの顔を見つめている。
「あぁ、ちょっとね。まぁ、座りなよ」
 ルークに促され、シェリーは遠慮がちにソファーへと座る。ルークはもう一杯のコーヒーを淹れると、シェリーの前へと置いた。そして、徐ろに話を切り出す。
「あのさぁ、あんたここへ来る前に枢密院にいたんだよね?"ソウェル"って奴知ってる?」
「…"ソウェル"様…ですか?存じ上げておりますが…」
「…知ってんの!?」
 自分で聞いておきながら、その反応はなんだ、と言う感じも無きにしも非ず、だが…驚いた表情を浮かべたルークに、シェリーは小さく頷いた。
「はい。研修時代に御世話になりまして…衛兵になってからも、時々御話をさせていただきました。御自身も、遣い魔の知識が多少あるからと相談に乗っていただいたり…」
「…へぇ…」
 もしもその時から、いつか利用価値があるとシェリーに目をつけていたのなら…そう考えると、その周到さに思わず息を飲む。
 そうやって…何名の悪魔を手下として丸め込んだのか。
「…あの…"ソウェル"様が何か…」
 ルークの表情に困惑したままのシェリーは、心配そうに問いかける。
「あぁ…ちょっとね…」
 何れ、シェリーも知ることとなるだろうが…今この場で、辞職したことを告げる必要はないだろう。そう考えたルークは、辞職に関しては飲み込むことにした。そして改めて、シェリーに視線を向けた。
「"ソウェル"って…どんな奴だったの?俺、逢ったことないんだけど…」
「"ソウェル"様、ですか?とても御優しい方でした。親身になってわたしの話を聞いてくれました。ですから…軍事局へ行った方が良いと言われた時も…相談に伺いました…」
「そしたら何て?」
「…伸びる可能性があるのなら、行った方が良いと…」
「…そう。因みに、"ソウェル"の容姿はどんな?背丈は?目の色と髪の色は?」
「…容姿、ですか?確か…背は高かったです。向かい合って立つと、見上げるくらいでしたから。ルーク様とそれ程変わらないくらいだったと思います。濃茶色の髪と同色の瞳で、紋様のない種族でした」
「そう、か…」
 小さく息を吐き出したルーク。シェリーから聞く分には、"ソウェル"の容姿はやはりターディルを髣髴とさせる。
 だがしかし。
「…で、あんたを軍事局へ、と誘った相手の容姿は覚えてないんだっけ?」
 以前聞いたことを、もう一度問いかけてみる。もしかしたら、何か思い出したのではないか…と期待したものの、結果はやはり同じだった。
「申し訳ありません…何も…」
「わかった。有難うね」
 小さな溜め息と共に吐き出されたその言葉。決して、投げやりではなかったのだが…シェリーは少し奇妙な顔をした。
「…御気に…触りましたか…?」
「うん?」
 その眼差しは、真っ直ぐにルークを見つめている。短い間だったとは言え、ルークの下で働いていたこともあり、ルークに対する憧れや信頼を浮かべたその姿に、ルークは小さく笑いを零した。
「いや、大丈夫。心配しなくて良いから」
 安心させるようにそう言うと、シェリーは小さな吐息を吐き出した。
「…で、どうなのさ?少しは上に上がれてる?」
 回線を入れてみて、未だラルの下にいるのはわかった。だが、ラルの部下と言ってもピンからキリまである訳で。ルークも通った道だから良くわかってはいるが、実力もそうだが何よりやる気がなければ上へは上がれない。
 様子を察するに…シェリーはまだそこまで上がって来てはいないようだが…と思いながら問いかけてみると、にっこりと笑いが返って来た。
「まだ少しずつですが、少しでも早くルーク様のところへ辿り着けるように頑張っております」
「そう。ま、頑張ってね。待ってるから」
 その健気な姿に、思わず笑いが零れる。
 ささやかな癒しを感じながら、シェリーを送り出す。そして再び一名になった執務室の中で、ゆっくりと想いを巡らせる。
 ダミアンとシェリーの様子を思い出すと…どうも、"ソウェル"は思った以上に強かなのか…それとも、親が親だっただけに警戒されていただけで、本当に穏やかで優しい悪魔だったのか。その辺りがどうも理解出来ないところだった。
 実際に"ソウェル"と顔を合わせてみなければわからない一面。だからこそ…謎でしょうがないのだ。
「…"ソウェル"の事を、良く知っている奴、か…」
 その方面から探りを入れても良いかと思ったのだが…直ぐに首を横に振った。
 今から探ったところで、"ソウェル"はもうこの近くにはいない。今更彼の事を知ったところで、変に感情を揺さ振られるだけの話。それはそれで迷惑この上ないだろう。
「…ま、"ソウェル"のことは置いといて…か」
 そう言いながら、書類の中からシェリーが以前持って来た任命書を探す。そしてその任命書が見つかると、改めて"オズウェル"のサインを見つめた。
 何故彼は…"オズウェル"の名前を使い始めたのだろうか。そして、その名を使い始めてから…まるで別魔のようになった、とダミアンが言っていたのを思い出した。
 いつからダミアンは、それを知っていたのだろうか。
 そして…どうして、彼を止めなかったのだろうか。
 考えれば考えるだけ、頭が痛くなる。
 大きな溜め息を一つ吐き出した時、ルークの元へ回線が届いた。
 発信元は…ダミアンの私邸、だった。
「…はい」
 回線を繋ぐと、見慣れた執事の顔が見えた。
『御忙しいところ、申し訳ありません』
 まず、そう言って頭を下げられた。
「いや、俺は大丈夫です。どうかしましたか?」
 執事が自ら連絡を入れて来ることは今までなかった。だからこそ、奇妙な感じがした。
『若様からの伝達でございます。何時でも構わないので、仕事が終わったらこちらへ来てくれないか、と。御話したいことがあるそうで』
 そう話す姿は、いつもと変わらない。いつも通り、冷静沈着。昔から、何も変わりない。けれど…もしかしたら、彼も内通者なのかも知れない、と思うと…本当に、誰を信用して良いのかわからなかった。
「…わかりました。こっちが終わり次第、伺います」
 そう言って回線を切ると、再び溜め息を吐き出す。
 正直、気は重い。けれど、ダミアンが何を話したいのかを知らないまま、と言うのもどうかと思う。と言うことは、行かない、と言う選択肢はないのだ。
 仕事が終わってダミアンの私邸に着くまで、溜め息は続いていた。

◇◆◇

 ルークがダミアンの私邸を訪れたのは、もう夜も遅い時間だった。
 いつも通り、案内されるままにその自室へと向かう。勿論、何処で誰が見ているのかわからないのだから、必要以上に警戒せざるを得ないのだが。
 ダミアンの自室のドアをノックすると、中から声が返って来る。そのドアを開けると、薄暗い部屋の中、テラスへと向かう掃き出し窓が開いているのを見た。
「…ダミ様?」
 姿の見えない主を追うようにテラスへと出ると、椅子に腰掛け、ぼんやりと空を見上げているダミアンがいた。
「…済みません。遅くなりまして…」
 そう声をかけると、ダミアンの視線がふっとルークへと向いた。
「いや、悪かったね。疲れているところ呼び出して」
 いつになく、元気のないその顔は…先ほどのことが色々と尾を引いているのだろう。
「別に…そんなに気にしなくても…」
 小さな溜め息を吐き出しつつ、ダミアンの傍へと歩み寄る。そして、ここへ来る前に届いたばかりの報告書を差し出した。
「一応…簡易ですが、"ソウェル"と"オズウェル"の筆跡鑑定の結果が出ました。同じ筆跡である確率はかなり高いそうです。ですから…これは、御返しします」
 そう言うと、内ポケットから"ソウェル"の辞職願をダミアンへと差し出した。
「……色々、話さないといけないな…」
 辞職願を受け取りながら、そう零したダミアン。
「…色々、って…?」
 ダミアンが何を言おうとしているのか、イマイチ辿り着けていないルーク。怪訝そうに首を傾げると、ダミアンはルークを自分の隣へと促した。
「デーモンにね、言われてしまったよ。御前に全部を話してやってくれ、とね。別に、故意的に黙っていた訳ではないんだが…御前の不安を取り除いてやってくれ、と言われてね。情けないったらないね…」
「…は?」
 くすっと笑いを零したダミアン。
「隠密使のことは…ルシフェルが決めたことだ。わたしを護る為に、必要なのだと言われてね。そこにどうして"ウェスロー"を入れたのか、子供だった当時のわたしには良くわからなかった。"ウェスロー"は面倒見の良い優しい兄さんのようでね、気をつけろ、とは言われていたが…危険など、一つも感じたことはなかったんだ。だが、ルシフェルは…ちゃんと見ていたんだ。彼の性格を。彼の、特性を。だからこそ、最後まで警戒を緩めなかった。そんなルシフェルを見ていたのに…安心し過ぎて、気を抜いたんだろうね。わたしが全てを知っているのをわかっていて、わたしに反旗を翻した。だが…裏切ったのは、わたしだったのかも知れないね。ルシフェルの言うことを、きちんと聞いていれば良かった。そうすれば…御前たちを巻き込むこともなかった。みんなが、こんなに苦しい想いをする必要もなかった。そう思うと…わたしの判断ミスだったんだろうね…」
 自嘲気味にそう話すダミアン。だが、口調とは裏腹にその表情はとても辛そうで。
「…御前たちを傷つけたのは…裏切ったのは、わたしだ。"アリス"のことも…護ってやれなかった。全て、わたしの責任だ。"アデル"には、見透かされていたのかも知れない。だからこそ…早々に見放されたんだろうね」
「…そんなこと…」
 明らかに落胆の声。勿論、"アデル"もダミアンに幻滅して隠密使を辞めた訳ではない。ただ、ダミアンにしてみれば…割り切れない想いが、何処かにあったのだろう。
 溜め息を一つ、吐き出したルーク。
 マラフィアが言っていた、自分を裏切ると言う身近な悪魔。それは、ダミアンの事だったのだろうか。そればっかりは、今更確認のしようがない。
 だがやはり、ダミアンは全て知っていたのだ。黒幕が誰なのか。自分が…誰に、狙われていたのか。
 それでも、彼を切れなかったのは…情を、捨てられなかったから。それが例え、自分たちを傷つけるであろうとわかっていても。
 沈黙の中…少しだけ、想いを巡らせる。
 そして…ルークは手を伸ばしてダミアンの手に重ねた。
「"アデル"は…ダミ様を見放した訳ではないですし、"アリス"だってダミ様を護ることが職務であって、貴方に護って貰おうとは思っていないですよ。貴方の生命が第一で、自分は二の次。それが、"隠密使"なんじゃないですか…?俺だってそうですし」
「…ルーク…」
 視線を向けたダミアンに、ルークはにっこりと微笑んだ。
「みんな、貴方を護りたいだけなんです。"アリス"だって、純粋に貴方を護りたかったから、"魔界防衛軍"に身を置いていたんです。それは、"ジュリアン"も同じなのでは?"ウェスロー"の…いえ、"ソウェル"の話を、少し聞いて来ました。時々、奇妙なことはあったようですが…穏やかで、優しい悪魔柄だったとも聞いています。貴方が感じていた性格は間違いじゃなかった。だから、あの辞職願なのではないですか?まぁ…何処までが彼の計算だったのかどうかはわかりませんけど」
「…つくづく、自分が嫌になる。御前にまで、こんな風に慰められるとはね…」
 苦笑するダミアン。
「俺はただ、貴方に笑っていて貰いたいだけです。貴方の笑顔で、自分が癒されたいからそう言っているだけなのかも知れない。でも…俺は、その為なら頑張りますよ?だって、貴方に惚れてるんですから」
 笑いながら、重ねた手をそっと握り締めた。
「みんな、同じです。貴方の大きな翼に護られているのを知っているから。だからみんな、貴方の為に戦うんです。貴方を、護る為に。でも俺は…他の悪魔よりも少しだけ、貴方の近くにいられるから……こんなことも出来るし」
 そう言いながら、そっと頬を寄せる。
「…盛大なヤキモチも焼くんですよ?」
 囁くように、その耳元で零した言葉。
 そう。ルークが"ソウェル"の辞職願の件から燻っていた理由が、漸くわかったのだ。
 "ソウェル"に、嫉妬していたのだと。
「俺は、貴方のモノです。それはわかっています。そして貴方は、魔界のモノです。それもわかっています。でも今は…こうしている間は…貴方は俺のモノ、ですよね?」
 思わず口を付いて出た言葉。そして、じっとダミアンを見つめた黒曜石の瞳。その瞳を暫く見つめていたダミアンだったが…やがて、くすっと笑いを零した。
「…そうだね。ここにいる間は、わたしは御前のモノに違いない」
 それは、いつものダミアンの笑い、だった。
 完全に全てを吹っ切れた訳ではない。けれど、いつもはシャイなルークがここまでしているのだから…と、その心根に胸が熱くなった。
 小さな吐息と共に、ダミアンは腕を伸ばしてルークを抱き寄せる。
 だがしかし。ふとあることを思い出したルークは、ダミアンから身体を引き離す。
「…どうした?」
 首を傾げたダミアンに、ルークは思わず背後を振り返る。
 この屋敷にも、諜報員がいる。そして、自分の行動が全て見張られている。
 それを思い出し、探るように気を澄ます。それを察したのか、ダミアンはルークを引き寄せ、その耳元で小さく囁いた。
「…誰も見ていない。この前は申し訳なかった、と…ジュリアンが言っていたよ」
「…もぉ…結局全部筒抜けじゃないですか…」
 溜め息を零しつつも…ダミアンが機嫌を直してくれたのなら、最早何も言うまい。そう思いながら、ルークも割り切ることにした。
「今夜は…帰りませんからね?」
「…構わないよ」
 くすっと笑いを零したダミアンに、ルークは頬を寄せる。
 誰よりも愛しいから。誰よりも…護らなければならない。
 その想いは、更に強くルークの中に芽生えた想いだった。

 翌日。ルークが自分の執務室へと登庁して来ると、そのドアの前には既にジュリアンの姿があった。
「おはよう。早いね」
 そう声をかけると、ジュリアンは息を吐き出した。
「御迷惑でしたか?」
「いや、大丈夫。夜襲撃して来なかっただけ感謝してるよ」
 どうせ、見透かされていたのだろう。そう思いながら笑ったルークに、ジュリアンは小さく頭を下げる。
「その節は…」
「あぁ、それに関してはもう良いから。まぁ…あんたの気持ちもわからなくはないし。取り敢えず、入ったら?」
 執務室のドアを開け、ジュリアンを中へと促す。
 ジュリアンはルークの言葉に従い、執務室の中へと足を踏み入れる。
「…で?"エリカ"の辞職願、持って来てくれた?」
 そう問いかけると、ジュリアンは小さく頷いて手に持っていた封筒の中からそれを取り出した。
「こちらです」
「サンキュー」
 ルークはその書類に目を通すと、顔を上げた。
「暫く借りてても良い?」
「どうぞ。その為に御持ちしたのですから」
 ジュリアンのその言葉に、ルークは改めてその辞職願へと視線を落とす。
「…夕べね、"ソウェル"と"オズウェル"の筆跡鑑定の簡易結果が出た。同じ筆跡である確率はかなり高いらしいよ。まぁ、"ソウェル"と"オズウェル"が同一であることはこれでほぼ確定だ。あとは、この辞職願の筆跡が同じなら…明らかに偽造だからね。今更罪に問うことは出来ないかも知れないけど…あの後、アリスが見つかっていないところをみると、"ソウェル"と一緒にいるであろうことは、多分間違いない」
「…アリスが…無事でいると良いのですが…」
 小さな溜め息と共に零れた言葉。それが、同志を心配するものなのか…はたまた、本当はそれ以上の何かがあるのか。ジュリアンの表情からは、それ以上は読み取れない。けれど、心配する気持ちはルークも同じだった。
「…昨日ね、ダミ様と話をしたよ。"ソウェル"の…いや、"ウェスロー"のこと。ダミ様は…本当に、信頼してたんだ。だから、裏切られたことが苦しかったんだ。でも、"アリス"のことも、俺たちを傷つけたことも、全部自分の所為だって…自分が、護ってやれなかったんだ、って…だから、"アデル"に見放されたんだ、って……そんなことないのにね」
 溜め息と共に吐き出されたルークの言葉に、ジュリアンも小さな溜め息を吐き出していた。
「…あんたも、そう思う?全部、ダミ様の所為だ、って…」
 ふと、問いかけたルークの声。その瞬間、ジュリアンは慌てて首を横に振った。
「まさかっ!"アデル"が辞めたのは、私的な事情があったからで、ダミアン殿下の所為では…それに、我々はダミアン殿下を護ることが仕事です。護っていただくつもりは…」
「まぁね。あんたならそう言うと思ったんだ。だけど…俺たちはみんな、護って貰ってるんだよ。その大きな翼に護られてる。それに気付かないだけで、ね。だからこそ俺たちはダミ様の為に戦えるんだよ。あのヒトの…笑顔の為に、ね」
「…そう、ですね」
 ダミアンの笑顔を思い出し、ジュリアンもその口元に小さな笑みを浮かべた。
 確かに、ルークの言う通り。それを実感せざるを得ない。
「…因みにさ、"魔界防衛軍"と隠密使はあと何名いる訳?そいつらがどう出るか…それも考えとかなきゃいけないんじゃないかな…」
 それとなく問かけてみると、ジュリアンはすっと表情を変える。そして、暫しの沈黙。
 やはり、そんな安易な問いかけでは簡単に口を割らないか。ルークがそう考えている間に、ジュリアンは何か考えを纏めたのだろう。その黒い瞳は真っ直ぐにルークを見つめた。
 そして。
「…今の状態で、"魔界防衛軍"に何名いるのかは…申し訳ありませんが、わたくしには把握出来ておりません。ですが…隠密使は…"特別警備隊"は…"エリカ"、"ウェスロー"がいなくなった今…わたくし、一名、です」
「…一名…」
「はい。ダミアン殿下は…ルシフェル参謀長に説得され、我々を隠密使として認めていただけのこと。わたくしが隠密使としてダミアン殿下の傍に付き、、"アデル"様が辞めたあと…入って来たのは、"エリカ"だけです。"ウェスロー"が推薦したので…ダミアン殿下も妥協した、と言うことです。積極的に隠密使を集めていた訳ではありませんから」
「…そうか…」
 その言葉だけで、ダミアン自ら隠密使を立てていたのではない、と言うことがわかった。ルシフェルの指示だったからこそ…今まで、"ウェスロー"のこともそのまま黙認していたのだろう。
「この先、"特別警備隊"が機能するかどうかはわかりません。ですが…もしも、"特別警備隊"が…そして"隠密使"がなくなったとしても…わたくしがダミアン殿下を御護りすることに、異論はありますか…?貴殿はそれを…黙認、なさいますか…?」
 まさか、それを問われるとは思っていなかった。勿論、ルークにしてみれば…隠密使も特別警備隊も、謎の部署は存在しない方が有難い。けれど、残されたジュリアンの気持ちまで、ルークは考えてはいなかった。
 彼もまた、ダミアンに忠誠を誓っている。誰よりも、ダミアンを護ると言う気持ちは強いはず。
「…まぁ…ダミ様が認めるのなら、反対はしないよ。あんまり気持ちの良いもんじゃないけど…しょうがない。ダミ様を護る為に、ルシフェルが残した役割だもんね。俺が関わることじゃない」
 そこは、割り切るしかない。そんな気持ちで答えたルーク。
「ダミ様は多分、あんたのことは自らは切らないよ。あんたが今のまま、ダミ様の傍にいたいと思うのなら、それを受け入れると思う。だから、自信持ったら?」
 そう。ダミアンなら、そうするだろう。まぁ、本魔に聞いてみないことには確定ではないが。
 ルークの言葉に、少し安心したのだろう。ジュリアンの表情が幾分柔らかくなる。
「貴殿にそう言っていただけると…安心出来ます。ダミアン殿下には、近いうちに御話致します。あの方の反応よりも、一番気がかりでしたのは、貴殿の反応ですから…」
「…あ、そう。まぁ、俺のことは気にしないで。俺もあんたのことは…今まで通り、気にしないし。その分、見せ付けてやるから」
 くすくすと笑うルークに、ジュリアンも少し、笑いを零した。
「…前を、見ようね。御互いに」
 そう言ったルークに、ジュリアンも頷いていた。

◇◆◇

 その日の執務終了後。ルークの執務室に集まった上層部。デーモン、エース、ゼノン。
 彼らを前に、ルークは先ほど届いたばかりの書類を出した。
「"エリカ"の辞職願に書かれたサインと、"ソウェル"と"オズウェル"のサインの筆跡が全部一致した」
「…そう、か…」
 と言うことは、やはり"アリス"を連れ去ったのは"ソウェル"に間違いない。そう言う結論が出る。
「…これから、どうするつもりだ?"ソウェル"は完全に姿を消してしまったし…と言うことは、"オズウェル"も消えてしまったと言うことだろう?だが、"魔界防衛軍"の残党が残っている可能性は未だある。また、虱潰しに見つけていくつもりか…?」
 問いかけたデーモンに、ルークは溜め息を一つ。
「毎回言うようだけど…やっぱり、様子を見るしかない。闇雲に動くことは出来ないし…魔界と雷神界の警備を強化するしか方法はないかな」
 ルークはそう言いながら、夕べダミアンから聞いた話をどうしようかと迷っていた。
 もしかしたら、デーモンはある程度は知っているのかも知れない。けれど、それをルークの口からエースとゼノンに告げることは…今はまだ、出来なかった。
「…と言うことで、一時解散!」
「おい、ルーク…」
 納得出来ない表情のエースが、声を上げる。けれど、だからと言ってエースに何か出来るか…と言われれば、それもまたわからないのだ。
「これからの大きなイベントって言ったら、ゼノンとライデンの婚姻の儀と、ダミ様の婚姻の儀でしょ?そこで動きがあるかも知れない。でも、それは何とも言えない。結局、用心するしかないじゃん。だから、そこに向けて強化しましょ?ってことよ」
「ちょっ…御前なぁ…幾らなんでも、投げやりじゃないか…?」
 未だ、口を挟むエース。だが、ゼノンはくすっと笑いを零していた。
「ルークの直感を信じるしかないんじゃない?警備責任者はルークだしね」
「そ。ま、傍観者はドンと構えてなさいよ」
「……ったく…」
 明らかに、機嫌の良いルーク。まぁ、そこに至るにはダミアンと何かあったのだろう…と推察するに至るのだが、流石にそれを詮索する訳にはいかない。
「ま、状況を見るのも大事だからな。我々も久し振りにゆっくり休めると思えば良いんじゃないか?」
 苦笑するデーモンに、溜め息を吐き出すエース。
「しょうがないな。ま、いつ何があっても対応出来るように準備だけはしておくか」
 今出来ることがそれだけならば、寧ろゆっくり身体を休め、英気を養うしかない。
「…頑張ろうね」
「…あぁ、頑張ろうな」
 小さくつぶやいたルークの言葉に、同意を示す。
 それは、誰の心の中にも秘めた言葉だった。

◇◆◇

 脅威の山は、越えたのだろうか。それが、現実だったのか。それすらも、わからなくなりつつある。
 進展は、何もない。ただ、変わる季節を感じながら…その記憶は、段々と薄らいでいく。
 全て…夢の中の出来事だったかのようで。
 そして、季節は巡る。
 彼らが進むべき新たな道は、今それぞれの目の前に現れていた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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