聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
縁 5
こちらは、以前のHPで2003年11月30日にUPしたものです
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
5話完結 act.5
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
5話完結 act.5
雷神界には、魔界よりも更に深く雪が積もっていた。
真白な色は、何モノにも染まらない決意のようで…まるで、頑なに凍りついた、ライデンの心のように思えてならなかった。
俺は、小さな溜め息を一つ吐き出す。
俺たちが転移して来た場所は、雷神界の僻地。だがそこからでも、遠くの方に雷帝の神殿が見えていた。
「…遠いね」
ぽつりとつぶやいた俺の声に、エースが振り返る。
色々な意味を含んだ言葉。それを、エースは感じ取ってくれたのだろう。その赤い唇から、小さな吐息が零れた。
「そうだな。だが…その距離を作ったのは、他の誰でもない。御前自身だ」
「…うん」
そう。俺が、自分自身で作ってしまった距離。その距離を作った代償を、俺は今身を以って感じている。
「さぁ、行くぞ」
エースに発破をかけられ、俺は足を進めた。
当然、歩けば歩くだけ、神殿との距離は縮まって来る。でもそれは、ライデンとの距離ではない。幾ら歩み寄ったからと言っても、ライデンとの距離は一向に縮まってはいないのだから。
やがて、神殿の表門の前へと辿り着く。
極力、俺独特の気配を殺し、リーファになり切るように心がける。
門兵の視線から逃れるように、俺は無意識にエースの背後へと回っていた。
「先程連絡を致しました、地獄中央情報局長官のエースです」
エースの態度は、全く以って堂々としている。その背中に、動揺は微塵もない。それはまさに、情報局の長官と言う身分が相応しいくらい。
IDカードの提示を求められ、エースは素直にそれに従う。そして、彼が警戒を解かれた後、その視線は当然、背後の俺へと注がれた。
「貴君は?」
問いかけられ、俺は大きく息を吐き出し、気持ちを落ち着けてからその口を開いた。
「同じく、地獄中央情報局に在任しております、リーファと申します。エース長官の供として同行した者にございます」
そう言って、IDカードを提示する。
暫く気配を伺いながら、IDカードの内容が本物かどうかの確認に回ったようだ。
エースは幾度もここを通っているはずだから、それ程警戒はされていないようだけれど、俺(リーファ)は初めての来訪になる訳だから、警戒が強いのは仕方がない。
だが、そのIDカードが本物であり、実在の悪魔だと確認が出来たのだろう(これは気を回してくれたレイティスのおかげだが)。やがて、門兵はその警戒を緩めた。
「只今、御案内致します」
そうして、俺たちは表門を通ることが出来た。そして門兵と入れ違いに、あらかじめ連絡を受けていた宮廷官吏が上皇様のいる謁見の間へと案内に立った。
たかが、表門を通るだけのことが、これ程大変だと実感したのは、どれくらい振りだろう…。
小さな溜め息を吐き出した俺を、先に立ったエースは僅かに振り返った。
「緊張しているのか、リーファ」
「…えぇ、まぁ…」
曖昧に濁した俺の言葉に、エースは小さな笑いを零した。
「そんなことじゃ、生き残れないぞ。しっかりしろ」
「…御意に」
確かにその通り。
改めて気を引き締めた俺は、真っ直ぐにエースの背中を見つめた。
その時。カタンと、小さな音を立てて何か小さなモノがエースの手元から下に落ちる。けれど、少し前を行く宮廷官吏はその音には気付かなかったらしい。そのまま歩みを進める。
一瞬立ち止まりかけた俺は…僅かに振り返ったエースが、小さく首を横に振るのを見た。
ここで立ち止まってはいけない。それは、エースからの無言の指示。
小さく息を吐き出した俺は、結局歩みを止めずエースの背中に着いて歩いて行った。
そして暫く神殿の中を進み、奥まった場所にある控えの間へ入り、更に奥の謁見の間の重々しいドアの前で、宮廷官吏は足を留めた。
「ここから先は、エース長官のみ、御進み下さいませ。御付の方は、ここで御待ち下さい」
「…と、言うことだ」
エースは俺を振り返り、そう言葉を発した。が、その眼差しが僅かに色を変えた。
一瞬…ニヤリと笑ったように見えたのは、俺の気の所為ではないはず。
その証拠に、エースは………策士へと変わった。
そして、自然な仕草でその襟元に触れたエースは、小さく息を吐き出して宮廷官吏を振り返った。
「…申し訳ない。何処かに…長官の襟章を落としてしまったようだ。ここへ来る前は確かにあったのだが…上皇様との謁見に、正装でなければ失礼に当たる。悪いが…一緒に捜してはいただけないか…?」
「…は?…襟章…ですか?」
俺も、その言葉にエースの首元へと視線を向ける。
確かに…いつもエースの軍服の襟元についているはずの軍章と階級章。その一つがない。それも…一番大事な、長官の階級章。
よりによって…一番失くしてはいけないモノ。思わず、困ったように眉根を寄せた俺の表情も相まって…探さない訳にはいかないと、向こうも察したのだろう。
「…では…来た道を戻りましょう…」
小さな溜め息と共に吐き出した言葉に、エースは申し訳なさそうに頭を下げる。
「御協力、感謝致します」
そう言って、宮廷官吏と来た道を戻りかけた時、ふと足を止めた。
「…あぁ、そうだ。わたしが、上皇様と謁見することはわかっているのだから…もしかしたら、誰か届けに来るかも知れない。御前はここで、待っていてくれ」
俺を見つめてそう言ったその眼差しの奥に見えた光。それは、わかっているな、と俺に念を押しているようで。
「…畏まりました」
小さく言葉を放ち、頭を下げる。
それを見届けたエースは、再び宮廷官吏を促して、来た道を戻って行った。
エースに念を押された通り、俺は二名の姿が見えなくなると、すかさず目の前のドアを押し開けると、その部屋へと滑り込む。
「…何者だ?」
エースではない姿に、そう声が届く。
声のする方に視線を向けてみれば、怪訝そうに眉を寄せた上皇様の姿が見えた。
「…失礼を、御許し下さい…」
その場に跪き、頭を下げてゆっくりとそう口を開いた俺の声に、上皇様は大きく息を吐き出した。
「…そなたは…」
上皇様は、その先の言葉を飲み込んだ。だが、俺の正体がわかったことは明らかだった。
何よりも俺は…直ぐにわかって貰えるよう、"ゼノン"の声で話しかけたのだから。
「謁見は、エース長官ではなかったのか?それに、そなたのその姿は一体どう言うことだ?」
他へと漏れないよう、声を低くして問いかける上皇様の言葉に、俺は顔を上げ、言葉を紡いだ。
「わたしが、ここへの立ち入りを禁じられていることは御存じのことだと思います。ですが、どうしても上皇様に聞いていただきたいことがありまして…姿を替え、こちらへ参りました。エースは事情を知っておりますが、わたしが頼み込んで力を貸して貰っただけです。彼に、罪はありません」
もしここで罰を受けることになったとしても、エースを巻き込む訳には行かない。だから、あくまでも俺の一存で決めたと言うことを通さなければならなかった。
上皇様は…俺の本心を見透かしているかのように、じっと俺の顔を見つめていた。
勿論、仮面を被っているのだから、そこに本来の表情が出る訳ではないけれど…仮面の下の素顔は当然強ばっている。ここで拒否されたら、何も前へ進まないどころか、二度と前へは進めないのだから。
小さく息を飲んだ俺を、じっと見つめていた上皇様。暫しの沈黙の後、その重い口がゆっくりと開かれた。
「…わかった。まず、話は聞こう。だが、内容によっては、即刻立ち去って貰う覚悟をしておいて貰おう」
「有難うございます」
何とか話は聞いて貰えそう。そのことだけで、わずかに安堵の溜め息が零れた。
「…して、何を話しに来たのだ?」
そう問いかけられ、俺は一呼吸置くと、言葉を選びながら話し始めた。
「わたしが身分を捨てて王都を去ったことは…ライデン陛下から、話を聞いていることと思います…」
「…あぁ、確かに。先日、ライデンが魔界で世話になるまで、ずっと行方知れずだったと聞いたが…?」
ゆっくりと答えを返す上皇様。
「…はい。わたしは…局長として、責任者として…罪を背負いました。だから、ライデンを巻き込まない為に…傷つけない為に、傍にいることが出来ないと…全てを捨てて、王都を出て行きました。でも…ライデンを忘れたことは…一日もありません。今更そんなことを言っても…言い訳にしか、聞こえないかも知れませんが…」
俺は…小さく、溜め息を吐き出す。自分でも…ただの言い訳をしている気分だった。
真っ直ぐに、上皇様の顔を見つめる。上皇様も真っ直ぐに、俺を見つめていた。
本当は…何を、話したかったのだろう…?その気持ちさえ、わからなくなってしまっている。
「…わたしは…自分の本当の気持ちを抑える為に、感情制御のピアスを増やしました。先日ライデンに会った時は、その状態でした。多分…ライデンは、わたしに絶望したのでしょう…自ら身を引くことをわたしに告げ…再び、わたしたちは別れました。でも…その後、ピアスを増やしたことを仲魔に見つかり…無理やり外されて、ライデンが置かれている状況を説明され……やはり、忘れられないのだと実感しました。そして、仲魔の協力もあって、今のこの状況です…」
説明をしながら…何て情けないんだろうと…改めて感じた。
「…それで?そなたは、何がしたい?ワシにそれを伝え、何を求める…?」
ゆっくりと問いかけられた、低い声。その問いかけは、当然と言えば当然だろう。
小さく溜め息を吐き出した俺は、小さく首を横に振る。
「…わかりません。ライデンとの復縁を求めてここまで来てしまいましたが…この時点で、わたしは自分がこれからどうしたいのか…わからなくなりました。ライデンを取り戻したいと思っていたのは事実です。ですが…ライデンは、完全にわたしを拒否しています。そんな状況で…何が改善出来るかと言えば…何もありません。わたしが罪を背負ったことも、ライデンを傷つけて、苦しめたことも、全て事実です。今更…何を取り戻して、何を求めることが許されるのか…安易に踏み込んでしまったわたしが、浅はかでした…やはり…この選択は間違っていました。協力して貰った仲魔たちには申し訳ないのですが…これ以上、ライデンを傷つけない為に…苦しめない為に、もうライデンの前には二度と現れないと約束します。彼の目の届く範囲には…彼の耳に入る範囲には、立ち入りません。本当に申し訳ありませんでした…」
胸の奥が熱い。溢れそうになった涙を隠すように、俺は深く頭を下げた。
もう、何も望まない。それで、ライデンが平穏に暮らしていけるのなら。
色々と世話を焼いてくれて、協力してくれた仲魔たちには申し訳ないけれど…やっぱりそれは望んではいけないことなんだ。侵してはいけない場所に、俺は踏み込んでしまっていたんだ。
一つ、二つと…自分の足元に落ちた涙を見つめながら、俺は深く深く後悔していた。
俺は……なんて、馬鹿だったんだろう、と。
大きな溜め息が一つ、俺の耳に届く。そして、ゆっくりと紡がれた言葉。
「…先程…エース殿から連絡が入った後、ダミアン殿下からも連絡が入ってな」
「…ダミアン様から…?」
俺は手の甲で涙を拭い、顔を上げた。
「…ライデンを見舞う言葉と、これから起こるであろうそなたたちの非礼を詫びる言葉と…それから…ゼノン殿とライデンの仲を、もう一度取り持っては貰えないか、と言う願いと…な」
「………」
その言葉は…胸が痛かった。ダミアン様は、影ながら後押しをしてくれていた。俺たちがやるであろう無謀な計画にも、目を瞑って。
「そなたが…今のこの状況で、雷神界に受け入れて貰うと言うことは…ライデンが雷帝となった今では、正直厳しい現状だとは思う。だが…そこで諦めたら、全てが終わりではないか…?」
「…上皇様…」
真っ直に見つめる眼差しは、ライデンと同じ色。同じ想い。同じ眼差し。それは…とても、優しかった。
「そなたがここへ来るまで、どれだけの仲魔の協力を得た?どれだけの想いを背負って、ここへ来たのだ?そんなに簡単に、結論を出せるくらいのモノだったのか…?」
「…それは…」
ふと、頭を過ぎったのは…俺を送り出してくれた、仲魔たちの顔。このまま帰ってしまったら、俺は…その想いも…また、裏切ることになってしまうのだろうか…?
そんなことを思っていると、再び上皇様が口を開いた。
「皆…そなたのことを想っているのだろう?だったら、それに応えようと、必死になってみせろ。何があっても、ライデンを取り戻してみせろ。それが、その想いへの答えではないのか?」
「ですが…ライデンの気持ちは…」
「今は頑なになっておるが、心根は何も変わりはしない。そなたと出逢った時から、ずっとな。アレの頑固さも、一途さも、昔のままだ」
そう言って笑う上皇様。けれど、その笑いも、直ぐにすっと消えてしまった。
「先日…ダミアン殿下には少し話したのだけれどな…先日魔界へ行く前から、ライデンはずっと自室に引き篭っておる。今はまだワシがこうして元気であるから、雷帝が多少不在でも何とかなるが…今後はそうも言ってはおられん。婚約すると言っておきながら、まだ何も進んではおらん。顔も合わせてはおらんのだ。結婚の儀の準備もしなければならないと言うのに、いつまでもその状態では…雷帝としての立場も危ういのが現状だ」
「………」
まさか…そんな状態にあったとは…。
何も言わなかったけれど…ダミアン様は、俺が戻って来た時には、その状況をわかっていたはず。そして多分、ルークも…その辺りの何かは、聞いたのかも知れない。だからこそ…多くを語らず、"頑張れ"と、見送ってくれたんだろう。
でも俺は…そこで、何が出来る…?
俺は…どんな顔を、していたのだろう。
俺の姿をじっと見つめていた上皇様は…小さく、笑いを零した。
「そこで…だ。そなたが…ライデンを見舞ってやってはくれぬか?」
「…え?」
思いがけない言葉に、俺はドキッとして思わず顔を上げた。
微笑む上皇様が、そこにいる。
「ライデンを良く知る医師として…そして、恋悪魔として。そなたに会えば、きっとライデンも元気になると思うのだ。どうだろうか?」
「…上皇様…」
「ライデンの自室は、昔と変わらずに離れの皇太子宮にある。案内せずとも、行けるであろう?」
にっこりと微笑む上皇様。それが、上皇様の想いの全てなのだろう。
「そなたは、良い仲魔たちに囲まれておる。それは、今までのそなたの生き方を表しているのではないか?そなたが真っ直ぐに生きて来たからこそ、皆そなたを信じて待っていたのではないか?咎められることを承知で、無償の協力をしてくれたのではないか…?受けた恩義とその想いを、無駄にせぬようにな。精一杯、ぶつかって来れば良い。ワシも、そなたを信じておるしな」
「…上皇様…」
その言葉に…胸が熱くなった。
ずっと…信じていてくれたことが、何よりも嬉しい。そして何よりも…こんな俺を、肯定してくれたことが。
俺も、微笑みを浮かべた。
「…本当に…有り難うございます」
深く頭を下げ、俺は踵を返して駆け出した。
一刻も早く…ライデンに会う為に。
俺は謁見の間から外へ出る。けれど、そこにはまだ誰の気配もない。
上手く時間を作ってくれたエースに感謝しながら、俺は勝手知ったる皇太子宮へと足を早めた。
皇太子宮へ行くには、もう一つ門を潜らなければならなかった。けれど、昔ライデンから聞いていた隠し回廊を思い出し、少し遠回りにはなるけれど安全な道を…と、そちらへと走って向かう。
そして、誰にも会うことなく、隠し回廊を出た先…皇太子宮の裏庭へと無事に足を踏み入れた時…俺は、一歩、ライデンに近付いたような気がした。
時同じ頃、ライデンは自室のベッドに横たわったまま、ぼんやりと天井を見上げていた。傍には、心配そうに見つめるライデン付きの官吏、フィードの姿がある。
「まだ…御気分が優れませんか?」
紅茶を淹れながらそう問いかける姿にも、ライデンの視線は変わらずに天井を見上げていた。
「変わんない」
ライデンが心許ない理由は、フィードにもわかっていた。
自分から恋悪魔を切り捨てたと言うものの…その心の奥深くでは、それがずっと引っかかっているのだ。その割り切れない想いを知っているからこそ、フィードもどうすることも出来ない。
「…後悔、なさっているんですか?」
思わず問いかけた声に、ライデンは、胸元から水晶のペンダントを引っ張り出した。
自ら離れることを決めた今でも…それを手放せずにいる。それは果たして…未だ残る未練、なのだろうか。
「…偽りの笑顔が得意になるなんて…ホント、最低だよね…どうして、昔みたいに素直に自分の想いを言えなかったのかな、ってね。それだけは後悔。でも…俺の所為で苦しめたくはなかったんだ。苦しそうな表情を見せるゼノンを…見ていられなかった…」
水晶を見つめながら、零した言葉。
雷帝の継承式と戴冠式の後、デーモンに言われた通りフィードにだけは、気持ちを吐き出すことにしていた。その甲斐もあってか、フィードにならこうして素直に想いを吐き出せるのに…それが、恋悪魔の前では偽りの微笑みを浮かべることしか出来なかった。
今でも、裏切られたとは思っていない。ずっと、信じている。でも…心の何処かで、もう自分は必要とされていないのだと感じたのは、どうしてだろう。どうして、待っていたと、素直に言えなかったのだろう。どうして…自分から手を伸ばして、抱き締めてやることが出来なかったのだろう。
素直になれない自分がいる。それは十分わかっている。けれどそれが雷帝として、しかるべき姿だと思わなければならない自分が…自分自身に嘘をつかなければならないその葛藤が、堪らなく嫌だった。
小さな溜め息を吐き出した時…ふと過った"何か"があった。
「……?」
僅かに上体を起し、もっとその"何か"を感じようと、視線を巡らせる。
「…どうなさったのですか?」
怪訝そうに眉を寄せるフィード。だが、そんなことなど気にしてはいられない。
ベッドから飛び降り、裏庭が見える窓を大きく開けると、その外へと半身を乗り出す。
「若様?」
不可解なライデンの行動に、フィードも同じように窓の外へと目を向けた。
再び降り出した雪の向こうに、何かが見える。
「…見慣れない者がいますね…?」
ライデンが見つめる先に、見慣れない姿が一つ。それは、真っ直にこちらを向いているようだった。
「…彼奴…」
明らかに、"何か"の先にいるのはその不可解な存在。
フィードにはわからないその"何か"の正体を、主であるライデンは気が付いたようだった。
本能に導かれるまま。その言葉が相応しいと思えるほど、半ば無意識にその身体は動いていた。
突然窓枠に足をかけ、薄い部屋着の上にガウンを引っ掛けた姿のまま…靴も履かずに、ひらりと外へと飛び降りていた。
「若様っ!」
フィードの悲鳴のような声にも見向きもせず、ライデンは裸足のまま、雪の中を走って来る。そして、俺の数メートル手前で、やっと足を留めた。
深い紫の瞳に、肩までの漆黒の髪。その間に立つ二本の角。そして、情報局の軍服。見たこともない赤い紋様の悪魔。ライデンにとっては…見たこともない、得体の知れない悪魔。その姿を、真っ直に見つめている。
「あんたは…」
ゆっくりと問いかけた声に、俺は…"リーファ"の声で答えた。
「…リーファと申します。エース長官の御付で参りました。初めてなものですから、神殿の中で迷ってしまって…」
そう言い終わるか終わらないかの内に、やっとライデンに追いついたフィードが口を挟む。
「ここは許可のない者の立ち入りを禁じている場所です。どのようにして立ち入ったのか知りませんが、即刻立ち去られよ」
一歩前へ出て、その身を呈してライデンを護るように立ちはだかるフィード。
フィードにとって、ライデンは生命をかけても護るべき主なのだ。
それは、昔から変わりない。だが、彼の後ろにいるライデンの表情は、僅かに変わった。
何かを思い詰めたような眼差し。それが、真っ直にリーファに向けられていた。
俺は、ただ黙ってそのモノ言いたげな表情を見つめていた。
ライデンは多分、俺の正体をわかっている。長い付き合いだもの…俺が幾ら仮面を被って、気配を殺したとしても…それを見抜けないはずはない。
小さな溜め息を吐き出した俺は、僅かに眼差しを伏せた。
フィードがいなければ、俺は直ぐにでも仮面を外したかも知れない。だが、フィードの前でそれは出来ない。その時点で、俺は捕えられて、罰せられることが目に見えているから。
このまま、踵を返してしまえば、この雰囲気から逃れられる。でも…そうしたら俺は、本当にライデンを失ってしまう。
俺の表情にも、迷いが見えたのかも知れない。
その雰囲気を破ったのは、ライデンだった。
「…どうして?」
小さく、問いかけた声。当然、その問いかけに息を飲んだのは、何も知らないフィードだった。
「…若様…?」
僅かに首を後ろに捻り、ライデンの表情を伺う。だが、ライデンの眼差しは、真っ直に俺に向けられたままだった。
俺は、ゆっくりと息を吐き出すと、再びその眼差しをライデンへと向けた。
そこで…その胸元にあるペンダントに気が付いた。
それは…俺が王都を去る時に残したモノ。それを…ライデンは、身につけていてくれた。それだけで…その想いは、伝わった。
俺は意を決し、胸に蟠っていた言葉を、少しずつ吐き出した。
「…何から…話したら良いんだろう。言いたいことが沢山あって…上手く、言葉を選べない。でも、まず謝りたかった。この前は増やしたピアスで感情を制御していたんだ。だから、無情に思えたかも知れないけれど…俺の想いは…本心は、何も変わりはしなかった。ただ…これ以上、御前を苦しめたくなかった。傷付けたくなかった。だけど、御互いに素直になれなくて…気持ちがすれ違ってしまっていたんだと…それがそもそもの間違いだったんだと、今更ながらに思い知らされた。それを伝えて、何かが変わるか、変わらないかはわからないけど…それだけは伝えたかったんだ。ホントに……御免ね」
「…貴殿は…」
怪訝そうな表情で、俺を見つめるのはフィード。もしかしたら、何か気が付いたのかも知れない。でも、今更戻れない。
俺は、そのまま言葉を続けようと口を開く。
「…だから、もし許されるのなら、もう一度……」
その時…ライデンの背後に、何かが見えた。
それが何かと判別する前に…俺の身体は、勝手に動き出していた。
「…ライ…っ!!」
「…っ!?」
咄嗟に、フィード諸共ライデンを突き飛ばす。
その刹那。
「…ぁっ…」
ドスンと、俺の胸に突き刺さったのは…一振りの剣。
俺は……どうなった…?
最後に俺が見たのは…白い雪に落ちた、自分自身の深紅の血、だった。
暗転。全て……闇に、落ちた。
雪は、降り続いていた。
溶けることを、知らぬままに………
PR
COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
カテゴリー
最新記事
(06/23)
(10/08)
(10/08)
(09/30)
(09/10)
(09/10)
(08/06)
(08/06)
(07/09)
(07/09)
アーカイブ
ブログ内検索