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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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STILL ALIVE 11
こちらは、以前のHPで2003年09月27日にUPしたものです
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
13話完結 act.11

拍手[3回]


◇◆◇

 リビングへやって来ると、ダミアンが言った通り、ルークは落ち着かない様子で出された御茶のカップを両手で抱えていた。
 そして、ゼノンの姿を見るなり、ソファーから立ち上がる。
「ダミ様は?どうだった?」
「…うん、何とか…ね」
「…あんまり、良くないんだ…」
 ゼノンの表情と、曖昧な返事にそれを察したルークは、大きな溜め息を吐き出す。
「後は、御前にかかっているからね。ダミアン様を信じていれば大丈夫」
「…うん…」
 浮かない表情を引き締めつつ、ルークはカップの御茶を一気に煽った。
「じゃあ、良い?行くよ」
「…了解」
 覚悟を決めたように、ルークは大きく呼吸を整えた。そして、ゼノンの後について、ダミアンの寝室へと向かった。

「ゼノンです。ルークを連れて来ました」
 そう声をかけ、声紋認識の結界が解除されると、ゼノンはルークを引き連れてダミアンの寝室へと足を踏み入れた。
 前回ルークがここへ来た時には、入ることを拒否された場所。だからこそ、ルークの鼓動も自然と早くなる。
「…いらっしゃい、ルーク」
「…ダミ様…」
 微笑みで迎え入れてくれたダミアン。だが、その表情は、見慣れた微笑みではなかった。
 その姿に…以前の、華やかさはなかった。やつれたその顔も、弱くなったその眼差しも…全てが、胸に深く突き刺さる。
「…大丈夫?」
 息を飲むルークの耳元で、ゼノンは心配そうに問いかける。
「…大丈夫…」
 呼吸を整え、気持ちを整える。そしてルークは、真っ直ぐにゼノンにその眼差しを送った。
 そこに見えたのは…変わらない、ルークの心。それを察し、ゼノンは小さく頷いて微笑んだ。
「では、わたしはこれで…」
----リビングにいるからね。慌てなくて良いから、落ち着いてね。
 ルークにそう耳打ちし、ダミアンに向けて軽く会釈をして立ち去るゼノン。その背中を見送ったルークは、高鳴る鼓動に、その場から動けずにいた。
 それを促したのは、ダミアン。
「傍へおいで、ルーク」
「…はい…」
 ルークが緊張しているのは、ダミアンにも容易に察することは出来た。よくよく見れば、右手と右足、左手と左足が一緒に動いている始末。
「そんなに緊張しなくても良いだろう?いつも通りで良いんだ」
「…はぁ…」
 そう言われたところで、これから先のことを考えれば、当然緊張は避けられないルークだったのだが、促されてしまった以上は拒絶は出来ない。ダミアンの傍へと歩み寄り、視線を合わせるかのように、その足下へと跪く。
「…すっかり、見違えてしまっただろう」
 そう切り出したダミアンの言葉に、ルークは小さく息を吐き出す。
「…済みません…正直、驚きました…でも、間に合って良かった…」
 ルークはそう言葉を零すと、手を伸ばしてダミアンの手の上にそっと重ねた。
「ずっと…気になっていたんです。病床にいても…ダミ様のことが心配で…そのことだけが、気がかりで…」
 そう。エースがデーモンを救おうと誓ったように…デーモンがエースの為に生きようと誓ったように、ルークはただ、ダミアンが生き延びることだけを祈って来たのだ。
 誰よりも大切な…想い悪魔の為に。
 はらりと、ルークの頬に伝った一筋の涙。それが、堪えていた想いの全てだった。
「…前にここに来た時に…あのドアを開けることが出来なかったことが、どれだけ哀しかったか…ダミ様の顔を見られないことが…どれだけ辛かったか…ダミ様の配慮だったとしても…俺には、何よりも辛いことでした。まるで、ダミ様に見放されたみたいで…」
 ぽつりぽつりとその想いを紡ぐルーク。溢れる涙は幾筋にもなり、ルークの膝へと零れる。
 そっと手を伸ばしたダミアンは、その頬を拭ってやりながら、小さく笑ってみせた。
「そんなことで泣く奴があるか。わたしは何処へも行かない。約束しただろう?御前がそんなだから…わたしはいつまでも、御前の"養い親"になってしまうんだよ」
「ダミ様…」
 ルークの頬を拭う指先は、微熱の為ほんのり熱い。けれど、本来の温もりではないことが確かなのだから、それがルークにとっては何よりも切なかった。
「あの時…御前が泣きながらあのドアの向こうにいた時に…正直、わたしはもう、御前の涙を拭ってやることも出来ないのだと覚悟を決めたんだ。ゼノンには悪いが…自分の体調は、自分が一番良くわかっているつもりだったからね。だが…もう一度こうして、御前の顔を見ることが出来て…御前の涙を拭ってやることが出来て…わたしは倖せだね。願いが叶ったのだから」
 そうつぶやきを零すダミアンの微笑みが、酷く儚く思えて、ルークは大きく首を横に振った。
「そんなこと…っ!まだこれから何度だって、会うことが出来ます!だから、そんな言い方止めて下さい!」
 まるで、もう生きられないと言わんばかりのダミアンの言葉に、ルークは歯止めをかけるかのように、そう口にしていた。
「まだ…俺の気持ちも何にも伝えられていないのに…ダミ様がどう想っているか…何にも聞いていないのに…まだ、何も始まっていないのに…終わりみたいに言わないで下さい…もっと……生きて下さい。魔界の為に…俺たちの為に…」
 ただ、生きていて欲しい。それ以上は、望まないから。
 そんな想いを感じたのか、ダミアンはくすっと笑いを零す。
「"魔界の為"はともかく、"俺たちの為"…?相変わらず御前は謙虚だね。そこまで言っているのに、どうして"俺の為に"、と言えないんだ?」
「…ダミ様…」
「自信を持て、ルーク。御前は、そう言えるだけの立場を手にしたと言うのに。ここに呼ばれたことが、何よりの証拠だろう?それとも…今のこのわたしでは、幻滅かい?」
 くすくすと笑うダミアンに呆気に取られたルーク。その涙も、ダミアンの意外な台詞に、完全に止まってしまった。
「そんなこと…っ!何年来の想いがあると思っているんですか?!」
 慌てて声を上げたルークに、ダミアンは相変わらず笑っていた。
 その顔は…やつれていても、とても穏やかで。そして…とても、愛おしくて。
 認められたのだと言う、確証がそこにある。その事実が、信じられなくて。
「ならば…ほら、言ってくれないか?御前の声で、ちゃんと聞かせておくれ」
 言うことを強要させているようなダミアンの言葉に、ルークは意を決したように大きく息を吐いた。
 ここで臆しては、何も始まらない。今までと同じことを繰り返すだけなのだから。
 心を決めたルークは、その黒曜石の瞳を、真っ直ダミアンへと向けた。
 そして、つぶやいた声。
「…愛して…います。だから……生きて…下さい……俺の、為に」
 その言葉は、はっきりとダミアンの耳に届いた。
 だがその直後、ルークは真赤になって俯いてしまった。
 その姿に、ダミアンはくすくすと笑いを零す。だが、その口から語られた言葉は、ルークの耳にしっかり届いた。
「良いよ」
 ドキッとして顔を上げたルーク。目の前のダミアンは、にっこりと微笑んでいた。
 窶れてはいるが…ルークが一番好きな、微笑みがそこにあった。
「御前が護ってくれた生命だ。御前の為に、生き延びよう。約束するよ」
「…ダミ様…ホントに……」
 ルークの言葉は、ダミアンからの口付けで遮られた。触れただけの以前とは違う…深く重ねられた唇。
 仄かに薫る、ダミアンの香料。甘いその薫りと甘い口付けは、とても官能的で…背筋が痺れる。そして過去のトラウマなど全て忘れてしまうくらい、完全にルークの意識を支配していた。
 自然と、その身体に腕を伸ばす。微熱の熱さを持った身体も、すっかり痩せてしまっている。それが、酷く気がかりで。
「大丈夫…ですか?」
 思わず問いかけたルークの声に、ダミアンは小さく笑う。
「あぁ、大丈夫だよ。心配しなくても良いから」
----愛しているよ。
 微笑みと共に、囁かれた言葉。その言葉にルークは思わず息を飲んだ。
「…ダミ様…」
 にっこりと微笑み、ルークの手をそっと取った。そして、まるで促すかのように軽く引き寄せる。
 口から心臓が飛び出そうだ。そう思いながらも、既に抗うことも出来ない。
 ルークは再び自ら頬を寄せると、ダミアンに深く口付ける。そして促されるまま、上着を脱ぐとそのベッドへと踏み込んだ。
 誰よりも、愛しい。それは、御互いに抱いた想い。
 ずっと抱いていた両名の想いは、今ここに成就した。

◇◆◇

 ダミアンの私邸のリビングで、執事から出された御茶をゆっくりと味わっていたゼノン。
 頭の中にぼんやりと過ぎっていくのは、これからのこと。まだ何も答えは出ていないが…もう、その決断が目の前に迫って来ている。
 そんなことを考えているうちに、窓から差し込む日差しがゆっくりと傾いていた。そして漸く、ルークがリビングへと戻って来た。
「御帰り」
 そう声をかけるゼノンに、ルークは小さく頷いた。その顔は、耳まで真っ赤、であったが。
「ダミ様が…呼んでるよ」
「そう。じゃあ、ちょっと待ってて。行って来るから」
 未だその余韻に浸っているのか、ぽぉっとしたままのルークに気を使いながら、ゼノンはくすっと小さく笑って、寝室へと向かう。
 そのドアの結界は、最早消えていた。
「ゼノンです」
『どうぞ』
 中から返って来た声に、ドアを開けて足を踏み入れる。
 部屋の中の空気が、今までとは違う。それは、率直な感想だった。
「御呼びだと伺いましたが…」
「あぁ、こっちへおいで」
 呼ばれるままにベッドの傍へ歩み寄る。変わらずにそこにいるダミアンではあるが、その表情はとても柔らかくて。
「…体調は大丈夫ですか?」
 無粋だとは思ったが、医師としては重症だったダミアンの身体を気遣わずにはいられなかった。
 するとダミアンはサイドテーブルに置いてあった体温計をゼノンに見せる。
「大丈夫。熱も下がったようだ」
 笑いを含んだ声。思わず息を飲んだゼノンに、更に傷付いていたその掌を差し出した。
「ほら。こっちも治ったよ」
 そう言われ、掌へと視線を移したゼノンは、安堵の吐息を吐き出していた。
 今まで、どんなに治療しても治らなかった傷が、綺麗に消えていたのだ。
「…良かった…」
 思わずそう零したゼノンに、ダミアンはゆっくりと口を開いた。
「…ルークの能力は凄いね。即効性だ。わたしの熱も傷もあっと言う間に治してしまった。正しく"神業"だね」
 ダミアンも、その予想外の能力には驚いているようだった。
 堕天使としての能力。その不安が、まさかこんなにも強力な効力を持っていただなんて、誰が想像しただろうか。
「どうだい?信じてみるものだろう?」
 くすっと、小さく笑うダミアンに、ゼノンも軽く微笑む。
 ダミアンの顔色も随分良い。長い間病魔に侵されていたのだから、やせ細って衰えた身体と魔力、体力の消耗は直ぐに回復できる訳ではない。けれど、この様子なら順調に回復に向かうだろう。そうすれば、ダミアンの能力を持ってして、最後の臨床実験も成功するに違いない。
 そうすれば、ウイルスは完全に撲滅されたと言っても過言ではない。
 そうすれば……やっと、肩の荷が降りるのだ。全てから、解放されるのだ。
 小さな吐息を吐き出したゼノンを、ダミアンは黙って見つめていた。
 先程…ルークが来る前に、ゼノンに問いかけた言葉。ゼノンは否定したが、その心の奥底にある真意は、察しているつもりだった。
 ゼノンがこれからどうするつもりなのか…予想が付かない訳でもない。けれど…それを決めるのは、ゼノン自身なのだ。
「御前のことも、信じているよ」
「…ダミアン様…」
「あくまでも…わたしは、みんなの気持ちを代弁したつもりだ。それを踏まえておいておくれ。みんな、御前に感謝しているんだから」
 にっこりと微笑むダミアン。それが、思いの全てだった。
 それを察したゼノンは、それ以上何も言えなかった。
「…また…様子を見に来ます」
「あぁ、御苦労様」
 ゆっくりと頭を下げ、踵を返す。
 部屋を出るまで、どちらも口を開かなかった。

 リビングで待っていたルークと一緒に帰路に着いたゼノン。
「緊張した?」
 ふと問いかけた声に、ルークの顔は再び真っ赤に染まった。
「あっ…たり前じゃん…」
 甦って来た記憶に、思わず本音が零れる。
「すっごい痩せてたから…壊れるかと思った…」
「…でも…流石ダミアン様だよ。普通だったら、あの状態では喋ることはおろか、意識を保っていることも難しいはずだから」
「…そうだよね…間に合って良かった…」
 手遅れにならなかったのは…ルークの回復が早かったから。それを何よりも、感謝しなければならない。
「有難うね」
 そうつぶやいたゼノンに、ルークはその視線をゼノンへと向けた。
「感謝するのは俺の方じゃん。何であんたにそう言われるかな」
 笑いを零しながらそう言ったルーク。
「俺たちが生き延びる為に…精一杯尽くしてくれたのはあんたでしょ?」
「…でも、実際に生命を削ったのは御前たちでしょう?俺は…提案しただけであって…実際は何も出来なかったのと同じだもの…」
「…ゼノン…」
 小さな溜め息を吐き出したゼノン。その姿を見つめながら…ルークは、空を見上げた。
 夜の帳の中に、青白い月が静かに見つめている。
「…あんたがいなかったら…俺たちみんな、こんな風に笑えてないよ」
「…ルーク…」
 にっこりと笑ったルークの顔は、実に倖せそうだった。
「誰も、あんたの仕事を批判なんかしない。実際に自分が手を下さなくたって、どうすれば助かるか。その道を見つけたのはあんただよ?自信持ってよ」
 その言葉に、ゼノンは大きな息を吐き出した。
「…自信を持って生きるって、難しいね。今まで、何の考えもなしに生きて来たのが良くわかった」
「俺もだよ。求める相手に必要とされることの有難さを知った。生きてて良かった、って…ホント、実感出来た。だから、今回のあんたの仕事は上出来だよ。あんたはもっと自信持って良いんだよ?俺たちも折角繋いだ生命だしね。大切に生きますよ」
 くすくすと笑うルークに、小さな微笑みを返す。
「……ダミアン様の回復…待ち遠しいね」
 そう答えることが、精一杯で。ゼノンには、それ以上何も言えなかった。

◇◆◇

 それから一週間が過ぎた。
 結論が出ていなかった《青の種族》もその後は容体が落ち着き、今や感染していた全員が完治したと言っても過言ではなかった。
 そして安静を言い渡されていたダミアンも、まだ以前より痩せてはいるがほぼ完治したと言っても良い程、顔色も良く、魔力も戻っていた。そこには、ゼノン以外は知りもしないが…ルークがダミアンの回復の為に足繁く通っていた、と言う事実も隠されてはいるが。
 そして直ぐに、最後の臨床実験へと移っていた。
 前回同様、利用したのはデーモンの《歌》であり、前回は蚊帳の外だったルークとダミアンも参加しての、元構成員全員での《旋律》であった。当然そこにはダミアンの能力を乗せてある。これで、最後に残された《紋様のない種族》にも抗体が行き渡る、と言うことになる。
 その臨床実験が終わった日の夜のこと。
 そのままダミアンの屋敷で休息を取っていた彼等は、ふとしたことからルークの話題へとなった。
「…それにしても、ルークって可愛いね~。真っ赤になってたんだって?」
 何処からともなくそれを聞きつけてきたライデンが、面白半分にルークをからかっているようだ。
 いつもは逆の立場が多かったら、この時とばかりに、嬉々としている。
「う…るさいなぁ…っ」
 話題に乗せられただけで真っ赤になるルーク。
「ちょっと、ゼノンっ!喋ったなっ!?」
 その場に居合わせたのはゼノンだけだったのだから、それは当然ゼノンから流れたと考えるのが普通だろう。だが当のゼノンは、涼しい顔。
「さぁね。記憶にはないけど」
「あんたが喋らなきゃ、誰が喋るっつーのっ」
 ぶつぶつと文句を零すルーク。だが、誰も庇おうとは思っていないらしい。寧ろ、完全に面白がっている。
「…で、最後までしたの?」
 露骨にルークに耳打ちするライデン。瞬間、ルークは更に真っ赤になる。
「絶対に教えないからっ!」
「ケチ~!減るもんじゃなし~!ねぇ、エース?」
「きっと、ヒトには言えないようなことしてたんだろう」
「エースっ!余計なこと言わないでよねっ!!」
「まぁまぁ…」
 くすくすと笑いながら、それを制するデーモン。
 ライデンもエースも、勿論デーモンも、今までのルークを考えればそこまで度胸が座っているとは思っていないのが本心。ただ、赤面して向かって来るルークの反応が面白かっただけで。
 ただ一名、その直後にダミアンの部屋を訪れたゼノンだけが、真実を知っているのだろうが…流石にそれは口を噤んでいた。そして、日々ダミアンの元に通っていたことも口にはせず、ただ笑っていた。
 折角報われた想いなのだから、一番大切な想いだけは、誰にも邪魔されないように。
「…これもまた、倖せの一つだよ。ルーク」
 にこやかにそうつぶやいたダミアンの声に、ルークは未だ微かに頬を赤らめたまま、小さな溜め息を吐き出した。
「あとどれくらいからかわれたら落ち着けることか…」
「まぁまぁ」
 にっこりと微笑むダミアンに宥められたルークは、すっかり諦めたらしい。
 他のメンバーも何とかデーモンに宥められ、大盛あがりの休息は御開きとなった。
 そして、それぞれが真の休息を得る為に、それぞれの屋敷へと帰路に着いた。
 前の日まで一旦雷神界へ戻っていたライデンは最後の臨床実験の為に魔界へと足を運んでいたので、その日は当然ゼノンの屋敷へと泊まることになっていた。
 宵闇に包まれたテラスで、ライデンはゼノンと隣り合って手摺に凭れ、ぼんやりと空を見上げている。
「…でも、ダミ様が元気になって良かったね。これで一安心」
 先程の余韻もあり、満面の笑みを浮かべているライデン。無邪気なその笑顔は、今までずっと、ゼノンの心の安らぎにもなっていたはず。
 それが、今夜はどうして…こんなに胸が痛むのだろう。
 奇妙な胸の痛みに耐えながら、表面は平生を装うゼノン。そうすることでしか、今のこの平穏を守れないような気がして。
「これで《紋様のない種族》の全員が完治すれば、御役御免。やっとゆっくり出来るよ」
 微かに笑みを零し、そう言ってみせたゼノンに、ライデンは大きく息を吐き出すとにっこりと微笑む。
「今回…一番大変だったのは、あんただもんね。ゆっくり休暇でも取れば良いじゃん。何なら、ウチにでも遊びに来る?親父もきっと、あんたが来てくれたら喜ぶと思うよ」
「うん…考えておくよ。まだ、結果待ち、だからね。あと一週間は安心出来ないよ」
「大丈夫だよ。デーさん、ルーク、ダミ様って、みんな完治してるんだから。これで直らない奴がいたら、それはきっと違うウイルスだね」
「そしたら、またそのウイルスを倒さなきゃいけないじゃない」
「…そっか…それもまた大変か…ま、完治するって」
 誠に前向きなライデンの姿に、ゼノンは笑いにも似せ、僅かに目を細めた。
「いつまで、こっちにいられるの?」
 ふと問いかけた声に、ライデンはすっと笑いを収め、小さくつぶやいた。
「御免。明日、帰んなきゃいけないんだ。でも、また結果が出る頃には来るから」
「忙しいの…?」
 ルークの実験まではこちらにいたライデンであったが、その後は雷神界へと呼び戻されていたのだ。だから、向こうも忙しいのかと思ってのゼノンの問いかけだった。
 暫しの沈黙の後、ライデンはゆっくりと口を開いた。
「…あのね…まだ、正式には決まってないんだけど…」
「うん?」
「…王位継承式の準備が始まってるんだ」
「……」
 その言葉の指す意味は、一つしかなかった。
 ライデンが、現父王の跡を継いで、雷帝を継承する。彼は、一国の王となるのだ。
「正式には決まってないって、どう言うこと?」
 ゼノンの声に、大きな溜め息が零れる。
「継承式の日程は、まだ決まってないってこと。でも、準備だけは着々と進んでるみたい。尤も、俺はまだあんまり関与してないけどね。回りが勝手に進めてるだけ」
「急がなければならない理由でも?雷帝陛下の具合でも悪いの…?」
 そんな話は聞いた覚えがない。だが、もしかしたらと言うことも有り得る。
 しかし、ライデンはその問いかけには即座に首を横に振った。
「ううん。親父は相変わらず元気だよ。別に、急ぐ理由もないはずだけど…」
「…そう。でも、いつかは継承することが決まっていたんだもんね。じゃあ、もう直ぐ、ってことか」
「いつになるかはわからないけどね」
 そう言って、小さく笑ったライデン。
 昔に比べて、彼は随分逞しくなった。王位継承の話が持ち上がったくらいなのだから、雷神界でも皇太子としての信頼もしっかりして来たのだろう。
 ならば、もう心配はいらないのかも知れない。
 自分は…もう、必要なくなる。
 彼からも…この、魔界からも。
 そんな意識が、ゼノンの脳裏を過っていた。
「今日はもう休もう。疲れたでしょ?」
 小さく笑いを零し、ゼノンはライデンを寝室へと促した。
「…あんたの方が疲れてるみたい」
 ぽつりとつぶやいた、ライデンの言葉。自身に向けられたその眼差しも、先程とは打って変わって、何処か心配そうで。
「大丈夫」
 くすっと、笑いが零れた。それは、無意識だったのだろうか。今のこの雰囲気には、酷く不自然な気がしたのは、自分だけだろうか。
 そう思いつつ、無意識に伸ばした両手は、目の前のライデンを抱き締めていた。
「ライ…」
「…ゼノ…?」
 心地良い温もり。その温もりが、疲れた身体と心を癒してくれているようで…その腕を、緩めることが出来ない。
「ずっと…好き、だよ…ライデン。色々…有難うね」
 半ば無意識に、零した言葉。そこで…"愛している"と言えなかった自分が……とても、嫌だった。
 目を閉じて、その小さな罪悪感に耐えていると、ゼノンの背中に腕を回したライデンが、ポンポンとその背中を叩いた。
「疲れてるんだから、ベッドに行って、ゆっくり休もう。大丈夫、俺は何処にも行かないから」
 軽く笑いを零すライデン。その顔に、この前のような不安は見当たらなかった。
 全てが、丸く納まると思っているから。だから、ゼノンのこんな仕種にも、取り立てて心配している様子もなかった。
 その夜は、誰もの心が実に穏やかだった。
 ただ一名以外は。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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