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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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かがやきのつぼみ 水端(前半) 2

第四部"for CHILDREN" (略して第四部"C")

こちらは、以前のHPで2005年08月27日にUPしたものです。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
4話(前半) act.2

拍手[1回]


◇◆◇

 ゼフィーがリディと出会ってから、数日後。久し振りに、医務室にやって来たゼフィーの表情は、先日とは全く違っていた。
「…今日は、怪我ではないようですね」
 授業中ではなく、放課後だったと言うこともあり、リンはくすっと笑ってゼフィーを見つめていた。
「はい」
 にこにこと笑うゼフィーは、実に嬉しそうに見えた。
「良いことでもあったんですか?」
 そう問いかけた声に、満面の笑みが零れる。
「僕、少しだけど強くなったような気がするんです」
 そう答える声も、弾んでいて。それはそれは、とても嬉しそうで。
「…そうですか。良かったですね」
 にっこりと笑って返すリンに、ゼフィーは更に微笑みを零す。
「この間、訓練室で六階級の先輩と知り合ったんです。その先輩が、僕に剣術のコーチをしてくれて。そうしたら、あんまり怪我もしなくなって。やっぱり、基本が大事なんですね。僕、医務室に行くことが多かったから、大事な所、わからなくなっていたみたい」
 嬉しくて仕方がない、と言う表情で言葉を続けるゼフィーを、リンはただ眺めていた。
 これ程までに、この少年が楽しそうに話をする姿を見たのは初めてのこと。それも、大の苦手だった実技の上達も加わっているのだから、その気分は最高潮なのだろう。
 そして、そんなゼフィーを見ているリンも、ほんのりとした胸の温かさを嬉しく感じているのだった。
 つい先日までは、強くなりたいと思う気持ちとは裏腹に、怪我ばかりでなかなか上達しないことでかなり沈んでいたのだから。
「僕…もっと強くなりたいんです。だから、一杯頑張らないと」
「…そうですね。きっと、その思いは叶うと思いますよ」
 今のゼフィーなら、大丈夫。
 そんな想いを込めて、そう言葉を送ったリン。
 けれど、その倖せな時間は今が頂点だとは…まだ、誰も気が付いていなかった。
 頂点を過ぎれば、あとは転がり落ちるだけ。
 それは、ほんの些細なことから始まった。

◇◆◇

「…あれ…?」
 その日、実技の授業を次の時間に控え、準備室にやって来たゼフィーは小さく首を傾げた。
「どうしたの?」
 ゼフィーの後ろからやって来たアルフィードは、首を傾げ、きょろきょろと視線を巡らせるゼフィーに、怪訝そうに声をかける。
「…僕の剣がない…」
 いつもなら、きちんとしまってあるはずの剣が、どう言う訳か見当たらない。
「昨日の放課後、リディ先輩と練習したんだろう?その時、違う所にしまったんじゃないの?一緒に探してあげるよ」
 アルフィードも一緒になって辺りを見回すが、見慣れたゼフィーの剣は見つからない。
「…可笑しいな…ちゃんと、しまったはずなのに…」
 昨日の記憶を辿りながら、ゼフィーは一つ一つ丁寧に見て回る。
 昨日は確かに、自分の場所に剣をしまったはず。リディに教えて貰い、小柄な身体に合った少し小型の剣に換えて貰っていた。その大事な剣を、間違えるはずはない。大事に扱うよう心がけて来たのだから、失くすはずもない。けれど、どんなに探しても剣は見つからないのだ。
「…授業の時間になっちゃうよ。今日は、誰かのを借りるしかないよ」
「…うん…」
 アルフィードの言う通り、その日の授業は空いている剣を借りて、不自由ながらも何とかこなすことが出来た。
 けれど、そこには当然胸の奥に引っかかる"何か"がある。
 そして、その日の放課後。
「ゼゼ!あったよ!」
 授業が終わってから、アルと一緒に再び剣を探していたゼフィーの耳に飛び込んで来たアルフィードの声。その声に呼ばれるように行って見ると、見慣れた剣を持つアルフィードがいた。
「ホントだ。有難う、アル」
 アルフィードから剣を受け取ったゼフィー。けれど、渡したアルフィードは奇妙な顔をしている。
「…何処にあったの?」
 そう問いかけてみると、アルフィードは小さな皺を眉間に刻んだ。
「…向こうの、倉庫の奥…」
「…倉庫?」
 思いがけない返答に、ゼフィーもアルフィードと同じように眉根を寄せる。
「うん。いつもちゃんとしまっているはずの倉庫のドアが少し開いていたから、変だと思って覗いたら…奥に、剣が見えたから…」
「………」
 何かが、ゼフィーの脳裏を過ぎった。そして、奇妙な程、鼓動が早くなる。
「…きっと、サイズが違うから誰かが勘違いして片付けたのかも。気にしない、気にしない」
 ゼフィーの表情を見て、その不安を察したのだろう。慌ててフォローするかのように、アルフィードはにっこりと微笑んでみせる。
「…うん…」
 アルフィードに励まされ、その時は頷いて見せた。
 けれど、それで終わる程の簡単なものではなかった。
 悲劇の本番はこれから、だった。

 その翌日から、奇妙な出来事が続くようになった。
 最初は、使っているモノが隠されていたり、通りすがりにぶつかる事が多くなったりなどの、ほんの小さなこと。けれど、それが毎日続くようになれば、それがどう言うことなのかと言うことは、どんなに鈍い感覚の持ち主でも気がつくこと。
 当然、ゼフィーもそれに気がついていた。
 どうやら、自分はいじめの対象になりつつあるらしい、と。
 けれど、あからさまに態度に出して来る者はなく、周囲のゼフィーへの対応は何も変わってはいなかった。そして、その"実態"が明らかになったのは…ゼフィーがその事実に気がついてから直ぐのこと。
 その日、アルフィードと一緒に学内を歩いていたゼフィーは、階段を降りる手前で一名の生徒とすれ違った。
 背も高く、顔も知らない。その姿は上級生に他ならない。だからこそ、ゼフィーとアルフィードは立ち止まって頭を下げ、挨拶をする。
 その直後。ドンっと強い力で身体を押されたゼフィーは、バランスを保てなくなり、そのまま前へと倒れ込む。
「うわっ!」
「ゼゼ…っ!」
 慌てて手を差し伸べたアルフィードは、階段を転げ落ちそうになるゼフィーを間一髪捕まえることが出来た。
「…助かった…」
 大きな安堵の溜め息を吐き出すアルフィード。ゼフィーはと言うと、驚きと恐怖にこわばった顔で、床に座り込んでいる。
 ほっと一息ついた瞬間、アルフィードはハッとして背後を振り返る。そこには、既に上級生の姿はなかった。それが意図的なのか、偶然だったのかはわからない。けれど、尋常ではないことは確かなのだ。
 勿論、ゼフィーとて悪魔なのだから、ちょっとやそっとでは死ぬようなことはない。けれど、階段から突き落とされると言うことは、それ相応の怪我を負うことは必然である。
「…大丈夫?」
 問いかけたアルフィードの声に、ゼフィーはゆっくりと頷く。
 多分、ゼフィーにもわかっているのだろう。それが…恐らく、意図的に行われたことだと。
「…平気だから。心配しないで。ちょっと、ぶつかっただけだよ」
 心配そうに顔を覗き込むアルフィードに、ゼフィーは安心させるかのように小さく笑ってみせる。
 余計な心配をかけてはいけない。
 アルフィードを…巻き込んではいけない。
 そんな想いが、ゼフィーの脳裏を過ぎっていたのだ。
 何が原因なのか、ゼフィーも全く見当がつかない。けれど、何かしらの理由があるのだろう。それも、ゼフィーに関係することで。対象になっているのは、ゼフィーだけなのだから。
「…行こう。授業に遅れちゃうよ」
 未だ心配そうに眉を顰めるアルフィードの手を取り、ゼフィーは立ち上がる。
 微かに震える膝が、自分が置かれている状況を現実だと知らしめていた。
「…ホントに大丈夫…?」
 もう一度問いかけるアルフィードの声。
「大丈夫」
 再度、そう口にする。
 それは、自分自身にも言い聞かせる為に。
----大丈夫。何の心配もない。単なる、悪戯だから…
 そう、心の中で何度も自分に言い聞かせる。そうしていなければ…不安で仕方がなかったから。
「…行こう」
 先に歩き始めたのは、ゼフィー。その後を追うように、アルフィードが着いて来る。
 それはまるで…ゼフィーが背後から襲われないようにしているかのようにも見えた。
 単なる悪戯であって欲しい。
 それは、御互いの胸の中にある言葉だった。

 その日の放課後。
 ゼフィーは、リディから剣術の指導を受けることになっていた。
 先に授業が終わったゼフィーが準備室に剣を取りに来たのだが、いつも点くはずの電気が点かない。
「…あれ?可笑しいなぁ…?」
 倉庫も兼ねている為、物が多い準備室は、電気を点けなければ危ない場所でもある。けれど、幾らスイッチを押しても電気は点く気配がない。
「…仕方ないな…」
 電気をつけることを諦めたゼフィーは、大きくドアを開け、廊下の明かりで薄暗い準備室に入ることにしたようだ。しっかりとドアを開け、閉まらないようにドアストッパーを挟み込み、ゆっくりと準備室の中に足を踏み入れた。
 剣の置き場はわかっている。その行く道に危険なものが見当たらないことも、廊下の明かりで確認している。
 大丈夫。そう、自分に言い聞かせながら、ゆっくりと足を進めていた。そして、無事に剣の置き場まで辿り着いたゼフィーは、大きく息を吐き出して自分の剣を手に取る。
 しかし。何かが引っかかっているのだろうか。いつもはすんなりと抜けるはずの剣が、全く動かない。
「…あれ?取れない…」
 もう一度、今度は強く引っ張ってみる。その瞬間。閉まるはずのないドアが大きな音と共に閉まったかと思うと、引き抜かれた剣と共に何かが落ちて来る。
「うわぁぁっ!!」
 真っ暗な空間の中、ガラガラと音を立てて、ゼフィーの上に落ちて来る"何か"。瞬間に足に重い痛みを覚えたものの、暗闇の中の"それ"は恐怖以外の何モノでもない。
 暗闇の中で頭を抱えてうずくまり、悲鳴を上げるゼフィー。けれど、放課後の訓練室には誰の姿もなく、準備室のゼフィーの悲鳴は誰の耳にも届かない。
 ドアまで行こうにも、何かに挟まったのか、痛みを訴える足は圧迫されたように動かない。もし仮に足が無事だとしても、暗闇の中をドアまで行くには危険過ぎる。何が落ちて来たのか、全くわからないのだから。
 もう直ぐ、リディが来るはず。そうすれば、助けてくれるはず。
 そう願いながら、ゼフィーは蹲りながら、リディの名を叫び続けていた。
 そして、どのくらい叫び続けただろう。喉が痛くなり、声がかすれ始めた頃。廊下をバタバタと走る足音が聞こえ、閉ざされたドアの向こうから救いの声が聞こえた。
『ゼフィー!中にいるのかっ!?ゼフィー!!』
「リディさん…っ!助けて…っ!ここから出して…っ!!!」
 悲鳴にも似た声を張り上げるゼフィーの声を聞いてか、ドアがガタガタと揺すられる。どうやら、ドアが開かないように外側を何かで固定されているようだった。
 暫くガタガタとドアが揺さ振られ、漸くドアが開くと共に差し込んで来た明かり。そして、駆け込んで来るリディの姿を目にしたゼフィーは、今までの恐怖と、リディが来てくれた安堵感から、急に涙が溢れて来た。
「ゼフィー!大丈夫か!?」
 ゼフィーの足の上に落ちて来ていたのは、補充用の防具が入った大きな箱。かなりの重さのあるその箱をどかし、リディはゼフィーを準備室から何とか引きずり出した。
「…怖かった…」
 震える声を吐き出したゼフィー。手の甲で拭っても拭っても、溢れる涙は絶え間なく頬を伝い落ちる。
「もう、大丈夫だから…」
 安堵の吐息を吐き出し、リディはしっかりとゼフィーを抱き締める。
 恐怖に震える身体は、リディの腕の中にすっぽりと入ってしまうほど、とても小さい。
「…とにかく、医務室に行こう。足を見て貰わないと…」
 泣き続けるゼフィーを背中に背負い、リディは医務室へと歩き始めた。
 挟まれていた足は、ズボン越しにもかなり腫れているのがわかる。背中で震えながら泣き続けるゼフィーを宥めつつも、ゼフィーに襲い掛かった"何か"に対しての怒りと、未然に防ぐことが出来なかった悔しさに、に、リディの表情も悲痛さを露にしていた。
 外側からドアを固定されていた以上、誤ってドアを閉めてしまったということは有り得ないのだ。誰かが故意的に、ゼフィーを閉じ込めたのだ。単なる悪戯にしては、度を越している。
 誰が、何の為に。
 それは、まだ謎のままだった。

◇◆◇

 数日振りに医務室を訪れて来たゼフィー。けれど、今日の様子は尋常ではなかった。
 いつもは、どんな傷を負っても泣くことのないゼフィーが、上級生に背負われ、泣きじゃくっているのだから。そして、片方の足が驚く程腫れている。
「一体、どうしたのですか?!」
 いつになく声を上げるリンに、背負っていた上級生は眉間に皺を寄せたまま、言葉を紡ぐ。
「訓練室の準備室に…閉じ込められていました。真っ暗な中で…足の上に、防具の入った箱が乗っていたので、恐らく上から落ちて来たのだろうと思います。ドアの外側が固定されていたので、誰かが故意的にやったものと思われます」
「…貴方が、助けたのですか?」
 問いかけたリンの声に、彼は頷いた。
「わたしは、六階級Aクラスのリディです。彼に、剣術のコーチをしています。今日は、練習の日だったので、わたしは訓練室に向かいました。そうしたら、準備室からわたしを呼ぶ声が聞こえたので、駆けつけたところ、先ほど説明した状況でした…」
 状況を的確に説明するリディ。深い紫色の眼差しは、真っ直ぐにリンを見つめているものの、悔しい気持ちで一杯であろうことは一目でわかった。
「…そうですか。とにかく、診察します。彼を、ベッドに…」
 そっとゼフィーをベッドへと下ろすリディ。けれど、ゼフィーの手はしっかりとリディの服を掴んだまま。
「…ゼフィー、大丈夫だから…」
 リディはそっとゼフィーの手を包み込み、そう声をかける。
 未だ、泣き止まないゼフィーの姿を見つめながら、リンは小さく吐息を吐き出した。
 ゼフィーの身に、一体何が起こっているというのだろう。ついこの間まで、とても嬉しそうな表情をしていたのに、今の姿はまるで天と地との差をも感じさせる。
「…そのままで良いですよ。ゼフィーが安心するのなら」
 見兼ねたリンが、そう声をかける。リンを見上げたリディの、不安そうな眼差し。
「大丈夫。かなり興奮状態のようなので、治療の間、手を握ってあげていてください」
 その声かけに、リディは小さく頷く。それを見届けてから、リンはゼフィーの治療を始めた。
 その治療が終わるまで、ゼフィーは泣き続けていた。鎮痛薬を投与され、漸く少しだけ痛みから解放されたゼフィーは、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。その姿を、リディは唇を噛み締めたまま、じっと見つめていた。
「…心配いりませんよ。怪我は、直ぐに治ります。それよりも…もう一度、貴方に聞きます」
 問いかけたリンの声に、リディの眼差しが真っ直ぐに向いた。
 とても、苦しそうな…悲痛の眼差しがそこにある。
「ゼフィーに…何があったのですか…?ただの悪戯、ではないですよね…?」
 その声に、リディは僅かな間を置いた後、ゆっくりと首を横に振った。
「…わたしには、わかりません。ただ…誰かが故意的に狙ったとしか…」
 困惑した表情のリディ。勿論、リンもリディを責めている訳でもなく、ただ、何か心当たりはあるかと問いかけただけのこと。リディの表情から察するに、彼は本当に何も知らなかったのだろう。
 入学してから、医務室では一度も泣き顔を見せたことのなかったゼフィー。その意思と芯の強さは、相当のものだった。そのゼフィーの変わりようには、リンも困惑していたのだ。
 暫く、自分の足元を彷徨っていたリディの視線が、再びリンへと向けられた。そして、問いかけた言葉は…不安を表していた。
「ゼフィーは…狙われていたのでしょうか…」
 その言葉に、リンは記憶を辿る。
「…最後にここに来たのは、一週間ほど前だったでしょうか。怪我ではなくて…少し強くなれたと、嬉しそうに報告に来てくれました。その時は、何の心配もなさそうに見えたのですが…」
「……わたしの…所為、でしょうか…?」
 それを口にしたのは…自分と出会ったのが、それよりも少し前のことだったから。
「どうして、そう思うのですか…?」
 リディの様子を伺いながら、問いかけたリンの声。
「…少なくとも…わたしと関わる前には、何もなかったはず。剣術が上手くならないと悩んではいましたが、誰かにいじめられているだとか、そう言う様子はありませんでした。だから…可能性があるのなら、わたしと出会ったからかと…」
 声を落とし、表情もとても苦しそうなリディを見つめながら、リンは小さな溜め息を吐き出していた。
「…まだ、何の確証もありません。貴方の所為だと決まった訳ではないですし、わたしも心当たりを問いかけただけですから。ゼフィーが目覚めたら、聞いてみます。いつ頃から、何が起こっていたのか。一番良くわかっているのはゼフィーですから」
 そう口にしたものの、直ぐには問いかけられない状況であることは、リンにもわかっていた。
 ゼフィーの心は、まだ傷ついているはずだから。
 時間が癒してくれるまで…もう何事も起こらなければ良いけれど…。
 それは、リンにとってもリディにとっても、叶って欲しい願いだった。

◇◆◇

 ゆっくりと目を開けてみると、そこは真白な天井。そして、僅かに消毒の匂いがした。
「…目が覚めましたか?」
 そう問いかけられ、彼はゆっくりと視線を巡らせる。
 見慣れた部屋。そして、見慣れた医師の姿。
「…礫に、連絡を入れました。もう直迎えに来てくれると思いますよ」
 軽く微笑みながらそう言った姿に、彼は小さな溜め息を吐き出す。
 ここにいる限り、心配はいらないはず。
 ここが、一番安全な場所であるはずだから。
「…起きられますか…?」
 問いかけられ、小さく頷く。そして、ゆっくりと身体を起こした。
 まだ、怪我をした片足が酷く痛む。けれど、我慢出来ない痛みではない。医務室で見て貰ったのだから、もう大丈夫。そんな言葉を、頭の中で繰り返す。
 自身に起こったことは…全部覚えていた。
 どうして、怪我をしたのか。
 どうして、ここにいるのか。
 けれど、自分をここに連れて来てくれた姿はもうなかった。
 頭の片隅が、微かに痛みを訴えていた。
「…大丈夫、ですか?」
 こめかみに手を当て僅かに顔を顰めたゼフィーの姿に、リンが問いかける。
「………」
 声を出そうとした。けれど、喉の奥が震えているようで、声を出すことが出来ない。思わず喉を押さえた手も、震えている。
「声が、出ないんですか?」
 問いかけた声に、小さく頷く。その身体も、微かに震えている。
 今更ながらに、恐怖心が襲って来る。真っ暗な闇が迫って来るような錯覚を覚え、思わず両手で頭を抱えた。
「…大丈夫、ですよ」
 両手を伸ばし、ゼフィーの身体をそっと包み込むと、その腕の中にも彼が震えているのを感じた。
 多分…士官学校の中で、誰よりも小さな身体。今まで、そんな小さな身体で精一杯頑張っていたはず。けれど、一瞬にして…恐怖の闇が、彼の心に完全に喰らいついてしまったのだ。
「…もう少し、休みましょうか…」
 それは、今のリンに出来る最善の処置。それ以上、彼の心を癒す手立ては、今この場所にはなかった。

 彼に悟られないように、魔力で強制的に眠らせた姿を見つめながら、リンは溜め息を一つ。
 原因のわからない"何か"が、ゼフィーの心を蝕んでいる。それを助ける手立てを見つけられないリンは、その選択肢を選ぶかどうかを迷っていたところだった。
 ゼフィーが眠りついて暫くして同室の礫が迎えに来たのだが、もう暫く眠らせることを理由に連れ帰ることを留めたものの、これからどうしたら良いものかと悩んでもいた。
 取り敢えず、この医務室ではこれ以上の処置は出来ないことはわかりきっている為、病院へ移すことは決めていた。既にその手続きも終わり、あとは病院からの迎えを待つのみとなっている。
 ただ…リンが悩んでいる選択肢は、彼の"保護者"に連絡を取るべきか、と言うこと。
 勿論、連絡を入れるに越したことはないだろうと思う。状況が状況だけに、これからどう転ぶかわからないのだから、それを知らせる義務がリンにはあるはず。けれど…それが、ゼフィーにとって良い事なのかどうかがわからないのだ。
 "保護者"に頼りたくないと思っている子供は大勢いる。早く独り立ちをする為に、みんな幼い頃から士官学校に入って来るのだから。しかも、彼の"保護者"は、彼を保護しただけであって、魔界での関わりは殆どなかったはず。ならば、その絆の深さは全くわからないのだ。
 大きく溜め息を吐くリン。だが、リン一名が悩んでいても仕方ないのだ。
 とにかく、病院に行ってから考えよう。
 今は、そう割り切るしかなかった。
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プロフィール
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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