聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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かがやきのつぼみ 水端(前半) 3
第四部"for CHILDREN" (略して第四部"C")
こちらは、以前のHPで2005年09月04日にUPしたものです。第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
4話(前半) act.3
ゼフィーに付き添って、病院までやって来たリン。担当の医師に、リンが知る限りの状況を説明して引継ぎを終え、ゼフィーの病室まで戻って来たところである。
未だ、眠り続けるゼフィー。その表情は、いつになく苦しそうに見えた。
彼を、苦しみから解放するにはどうしたら良いだろう?
けれど、病院の医師に託してしまった以上、最早リンには手の出しようがない。後は病院の医師に任せるしかないのだ。
大きく溜め息を吐き出したリン。これで良かったのだろうかとの思いが、未だ頭の中を巡っている。
色々と思いが巡る中、窓の外に目を向ければ、そこには漆黒の闇がある。
ゼフィーの心に喰らいついた闇の大きさは、リンには計り知れない。
幾度目かの大きな溜め息を吐き出すと、リンは覚悟を決めたように病室を後にした。
控えめなノックの音に、書類に目を落としていたゼノンは顔を上げた。
「…はい?」
職務時間は疾うに過ぎている。今頃訪ねて来るのは、恐らく仲魔の誰かだろう。そう思いドアに向けて声をかけると、ゆっくりと開かれた隙間から顔を覗かせたのは、久し振りに見た顔、だった。
「リン?どうしたの?」
思いがけない姿に首を傾げるゼノンに、リンは小さな躊躇いの色を浮かべたまま、小さく頭を下げた。
「…御無沙汰しております。ちょっと、御話がありまして…」
「あぁ、どうぞ」
執務室の中に促すと、リンは小さく呼吸を整えてから足を踏み入れる。その足取りは、とても重い。
「…何かあったの?」
リンをソファーへと促し、その重苦しい表情を目の前にしたゼノンは、ゆっくりとそう問いかける。
けれどリンは、ゼノンを目の前にしても尚、言うべきかどうかを悩んでいた。
「…まぁ、時間はまだまだあるから」
そう言いながら、ゼノンはコーヒーを淹れに席を立つ。その背中に視線を送ったリンは、吐息を一つ。
全てを正直に話さなければならない。けれど、それを聞いたら…この"保護者"は、どんな反応をするだろうか…?医師として、冷静な姿で淡々と話を聞くだろうか?それとも、怒りに顔色を変えるだろうか…?
ゼノンの反応が怖い訳ではない。ただ、助けられなかった医師としての自分が、何よりも情けなくて。
そんなことを考えている間に、コーヒーを淹れたゼノンがソファーへと戻って来る。両手に持ったカップの一つをリンの前に置くと、自分ももう一つのカップに黙って口を付ける。
リンが口を開くまで、のんびりと構えているゼノン。勿論、リンの表情を見れば、何かがあったのだろうと言うことは容易に想像出来ることではあるが。ただ、リンが何らかの決断をしてここへ来たのだから、リンが自ら口を開くのを待っていたのだ。
そして、暫しの沈黙。
ゼノンのカップのコーヒーがなくなりかける頃。リンが大きく息を吐き出した。そして、真っ直ぐにゼノンに視線を向けた。
「あの…」
一旦、言葉が途切れる。けれど、その眼差しは変わらずにゼノンを見つめていた。
「ゼフィー・ゼラルダの…ことなのですが…」
そう切り出すと、ゼノンは手に持っていたカップをテーブルの上に置いた。
「ゼゼのこと?」
首を傾げるゼノンに、リンは小さく頷く。そして、ゼフィーの身に起こった全てをゼノンへと伝えた。
「…彼は今、病院にいます。わたしの力では、最早どうすることも出来ません。ですから、ゼノン様に御願いに…」
自分の力不足だと思い詰めている表情。そんな表情を前に、ゼノンは小さな溜め息を一つ吐き出した。
「…状況はわかった。別に、リンの所為ではないよ。医者だからって、そんな現場を未然に見つけなければならない訳じゃないから。ゼゼのことは、病院に任せれば良い。俺も様子を見に行くし、状況によっては俺が引き継ぐから。だから御前は、ゼゼを助けてくれた子のフォローに回る方が良いね」
「…ゼノン様…」
軽く微笑んで見せるゼノン。その顔に、怒りの色も不安の色も全く伺えない。それが医師としての本来あるべき姿であるように思えて、リンは再び小さく息を吐き出した。
自分は、まだまだ未熟者だ。
それを、自覚せざるを得なかった。
「…済みませんでした…」
その言葉を放つのが、精一杯で。
きつく唇を噛み締め、俯いたリンの頭を、ゼノンは手を伸ばしてそっと掻き混ぜる。
「大丈夫だよ。心配しないで。だから、自分の職務にゼゼのことを引き摺っちゃいけないよ。御前がやるべきことは、生徒たちを護ること。冷静に、ね」
リンを落ち着かせるかのように、そっと声をかける。その言葉が胸の奥に染み込んでいくような感覚に、リンは再び大きく息を吐き出した。けれどそれは溜め息ではなく、自分を落ち着かせる為の行動だった。
「…わかりました。宜しく御願い致します」
顔を上げたリンは、もういつもの表情を取り戻していた。それを見届け、ゼノンはにっこりと微笑む。
多分、リンはまだまだ悩むはず。それは、ゼノンも良く知っているリンの性格なのだから仕方がない。けれど、そのことで周囲を不安にしてはいけないのだ。それが、医師と言うもの。
「学校の方を頼むね。また連絡するから」
その声に、リンは深く頭を下げ、執務室を出て行った。
その背中を見送り、ドアが完全に閉まると、ゼノンは大きな溜め息を一つ吐き出す。
早速、ゼフィーに降りかかった災難。何事もなく、平和に生涯を終えられるはずがないことは、最初からわかっていたこと。
リンの前では、医師としての顔を見せ続けたゼノン。けれどやはり、彼も"親"なのだ。独りになれば、流石に心配になるもの。それは、"親"として当然のこと。既にその表情に不安の色が伺えた。
溜め息を吐き出しながら執務机の上の書類を手早く片付け、外套を羽織ると、表向きは冷静さを保ちながら…しかし実際のところ、高まる不安を懸命に押し殺しながら…病院へと向かったのだった。
士官学校に戻って来たリンは、医務室に入るなり、大きな溜め息を吐き出していた。
ゼノンに託した以上、もう心配は要らないはず。きっと直ぐに、元気になって戻って来るはず。ならば、自分は残された仕事を熟さなければ。
ゼフィーのことで頭が一杯だったが、もう一つ大切な仕事が残っていたのだ。
それは、残されたリディのこと。
ゼフィーのことで、かなり責任を感じているように見えたリディ。馬鹿な事をしなければ良いけれど…と思いながらも、リディの性格を把握していないリンは、心配で仕方がなかった。
全てが、平和的解決を迎えられれば良いけれど…。
それは、微やかな願いだった。
翌日。
微かに聞こえる物音に、意識が引き戻されると同時に、目蓋の裏に明るさを感じた。
ゆっくりと目を開けてみれば、白い天井が目に入る。そして、微かな消毒の匂い。
けれど、そこは見慣れた場所ではなった。
「…気がついた?」
声をかけられ、一瞬息を飲む。けれど、その声の主を思い出すと、ゆっくりと視線を巡らせた。
そこにいたのは、間違いなく彼の認識した通りの存在。
ごく自然に開かれた口元は、その名を呼ぼうとした。けれど、声は出ない。震える唇だけが、現実を思い出させた。
ゆっくりと動かされた手が、自分の喉元に触れる。それと同時に、悲痛に歪められた表情。その全てを、ただじっと見つめているのは…夕べから一睡もせず、傍に付いていた彼の"父親"、だった。
「心配いらないよ。ここは病院だから。昨日、リンが連れて来てくれたらしいよ。その後執務室に来てね、御前の身に起こったことを全て…まぁ、リンが知っている限りだけれど…話してくれた。御前の治療は、俺が引き継いだよ」
そっと差し伸べられた手が、彼の額に触れる。そして、優しく髪を撫でる。
とても優しい仕草。そして、とても懐かしく思えた。
----父…様……
そう、呼びたかった。けれど、彼の意思に反して、その声が喉元で止まっているのだ。
声が出ない。出せない。その状況が、とても怖い。
思わず溢れた涙が、目尻から零れ落ちる。それは、幾筋も。
「…随分…怖い思いしたみたいだね。でも…もう、大丈夫だよ。俺が、ついているから」
指先で涙を拭ってやり、優しく微笑む"父親"。医師である前に、独りの"親"。それはごく自然な姿だった。
「急がなくても良いからね。ゆっくり、治そう」
暖かな言葉と手の温もりに、彼は素直に頷いていた。
その日の午後。ゼノンは、執務室に戻っていた。
その手には、ゼフィーの診断書。
足の怪我はリンの処置もあり、長引くことはないとのことであった。けれど問題は、精神的なもの。
失声症。それが、ゼフィーに下された診断だった。
声が出なくなった原因は、恐らく精神的なものではないかとの診断だった。短ければ数日で回復するが、長くなれば数ヶ月から一年。一般にそう言われている訳で…そうなると、長引くであろうことは必至である。
「…どうするかね…」
溜め息と共に吐き出された言葉に、返事を返すものはいない。それは、ゼノンが決断すべきこと、なのだ。
「もう暫く、様子を見るしかないかな…」
その気になれば、今直ぐその決断を下すことは簡単である。けれど、ゼフィーの今後のことを考えると、容易く決断するべきではないとも思える。
彼は…この魔界で、自力で生きて行かなければならないのだから。
小さな溜め息と共に、ゼノンは手に持っていた診断書を懐にしまい込む。そして、席を立つと再び執務室を後にした。
やって来たのは、士官学校の医務室。ゼノンは、リンを尋ねて来ていたのだ。
リンはゼノンの姿を見るなり、言葉を放つ。
「ゼフィーの様子は…いかがですか?」
問いかけられた言葉に、ゼノンは懐から診断書を取り出すとリンに差し出した。
「診断の結果が出たよ。怪我の方は、御前が処置してくれていたから、長引くこともないらしい。直ぐに元通りに歩けるようになるよ」
「…そうですか」
診断書を受け取り、ざっと目を通す。そして、小さな溜め息を吐き出すリン。
「…失声症…」
リンも、その病名を知らない訳ではない。だからこそ、精神的なダメージの大きいその病名に、溜め息が零れた。
「声の方は、もう少し様子を見ないとわからないけれど…恐らく、時間はかかるだろう、って言うことだよ。事件の恐怖で、パニックに陥っているからね。精神的に安定すれば、声も戻ると思うよ」
「…それは、暫く休学になる、と言うことですよね…?」
「…まぁ、ね…。学長には伝えておくよ」
ゼノンにも、まだはっきりと症状が見えて来ないと言うのが現実。だからこそ、長期休学になることは覚悟しているのだが…ゼノンもまだ、何処か迷っている。勿論、そこまで見透かされる程、ゼノンも表情を崩してはいないのだか。
「こっちの状況はどう?何かわかった?」
ゼフィーを閉じ込めた相手についてのことを問いかけるゼノンに、リンは小さく首を横に振る。
「それが、まだ何も…。放課後の時間帯で、その付近に誰もいなかったそうで…目撃者もいないようです」
「…そう。まぁ、悪戯を企てるのなら、大抵そう言う時間と場所を選ぶからね…」
ゼノンが学生の頃も、そこまで大きくはならなかったものの、ちょっとした悪戯は幾つもあった。その大抵は、放課後の誰もいない時間帯。そして、滅多に誰も来ない場所。
「なかなか、尻尾は出さないだろうね…」
ゼノンも思わずそう言葉を零す。そう簡単に見つかるのなら、もうとっくに処罰を受けていることだろう。
「…それで、リディって言ったっけ?ゼゼを助けてくれた相手。彼は、どう?」
「それが…今日の授業には出ていないそうです。寮にもいないとのことですから、学校内の何処かにはいると思うのですが…かなり責任を感じていたようなので、心配しているのですが…」
「そう。とにかく、主任識者とも良く相談して、適切な判断をね」
「はい。わかっています」
小さく頷くリン。その姿に、ゼノンは小さな吐息を吐き出し、踵を返した。
と、その時。小さなノックの音と共に、そっと医務室のドアが開かれた。
「失礼します…」
顔を覗かせたのは、寮でゼフィーと同室の礫とアルフィード。けれど、その視線がふとドアに向かっていたゼノンの視線と出会う。
「…御客様、ですか?だったら、出直して来ます…」
ゼノンの身位も素性も知らなかったのだろう。単なるリンの客だと思ったようで、二名は頭を引っ込める。
「あ、ちょっと待ってください。ゼフィーのことならどうぞ」
慌てて声をかけたリンに、二名は顔を見合わせる。
「でも…」
困惑した表情の二名に、ゼノンは自分のことか、と苦笑する。
「わたしのことなら気になさらず、どうぞ。わたしは、リンからゼフィーを託された"医師"ですから。リンに、報告に来たんだよ」
敢えて、"医師"としての立場のみを告げたゼノンに、二名の表情が変わる。
「あの…っ…ゼゼは…大丈夫なんですか…?」
思わずそう問いかけたのは、礫。夕べも肩透かしを喰らったのだから、それは仕方のないことだろう。
「怪我の心配はいらないよ。直ぐに良くなるから。けれど、少し参っているようだから、落ち着くまでは学校は休むことになるけれどね」
「…そうですか…」
にこやかにそう言うゼノンに、少しは安心したのだろう。ほっとした表情を見せた礫とアルフィード。やんわりと、余計な心配をかけないように選んだ言葉は、功を奏したようだった。
「紹介します。彼らは、寮でゼフィーと同室の礫とアルフィード。礫には、夕べゼフィーを迎えに来て貰う予定だったのですけれど、結局病院へ連れて行ってしまったので、無駄足を踏ませてしまって…」
「俺のことなら、心配しないで下さい。俺たちは、ゼゼが心配で…な?」
アルフィードに声をかける礫に、アルフィードも小さく頷く。その表情で、彼らが本当にゼフィーを心配しているのだと言うことは、ゼノンにも良くわかった。
ゼフィーは、良い仲魔に恵まれたのだと。
「…それから…アルが、気がついたことがあるって言うので…績羅先生にも話したんですけど、リン先生にも報告した方が良いと思って…」
「…気がついたこと?」
リンが問い返すと、アルフィードは小さく頷く。
「実は…少し前から、変なことが起こり始めて…」
思いがけない言葉に、リンの視線がふとゼノンの方を向いた。勿論ゼノンも、真っ直ぐにアルフィードを見つめていた。
「ゼゼの回りで、変なことが幾つもあったんです。丁度…ゼゼがリディさんと出会ってから、少しした頃から…。ゼゼのモノが色々隠されるようになったり、廊下ですれ違いざまにぶつかることが多くなったり…。でも、僕たちの周りでは、何も変わった様子はないし、クラスの奴も誰もゼゼに直接変なことする奴もいないし…単なる悪戯だと思っていたんです。でもそうしたら、昨日の昼間は階段から突き落とされそうになって…」
「階段から?」
当然、リンは驚きの表情を浮かべている。
「その時は、ただ上級生とぶつかっただけだと思ったんです。ゼゼも、心配しないで、って言うし…でも…僕には、どうしてもわざととしか思えなくて…誰かに相談しようかと思ったら、昨日の放課後、あんなことに……。ここに来る途中、リディさんにも会って、そのこと話したら急に何処かに行っちゃったから…僕、心配になって…それで、礫に付いて来て貰って、先生たちに相談しようと思って…」
もっと早く言えば良かったのだろうか。そう言わんばかりに表情の歪んだ小さな姿に、ゼノンは彼の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「そう。良く教えてくれたね。有難う」
困惑した表情のアルフィード。けれど、にっこりと微笑むゼノンの前、僅かに安心した表情に変わって行った。
「その上級生は、誰だかわかりますか?」
様子を見ながらゆっくり問いかけたリンの声に、アルフィードは首を横に振る。
「見たことはありませんでした。でも、僕たちの階級じゃないし…背はもっと高かったから、きっと上級生だろう、って…」
「そうですか。わかりました。有難う」
リンも、にっこりと微笑んで見せる。
彼らの医師としての"癒し"は、アルフィードに安心感を与えたようだった。
頭を下げて出て行く二名を見送り、リンは小さな溜め息を一つ。
「…ゼフィーは、やはり狙われていたのでしょうか…」
「多分ね。まぁ、そうとわかれば話は早い。多分、小さな悪戯をしていた奴らは主犯じゃないだろうから、階段から突き落とそうとした奴の他にも、まだ何名かいるはずだよ。リディが、馬鹿なことしなければ良いけれどね…」
もしも、リディがホントにゼフィーのことを心配しているのなら…多分、もう既に先走っていることだろう。そう思いながらも、ゼノンはそう付け加えた。
それは、リンへの気遣いでもある。
「とにかく、俺は病院へ戻るよ。こっちのことは頼むね」
「はい。畏まりました」
リンはゼノンに頭を下げる。その頭に手を載せ、ぽんぽんと軽く叩くと、ゼノンは医務室から出て行った。
見送ったリンが、大きな溜め息を吐き出したのは言うまでもない。そして、医務室から出たゼノンもまた、大きな溜め息を吐き出していたのだった。
最早、簡単なことでは済まなくなっているようだった。
ゼフィーが入院してから三日ほどが経った。
その日、士官学校の学長室に呼ばれたリンは、そこで思いがけない光景を目にすることになった。
その部屋にいたのは、主たる学長と、主任である績羅。そして、リディと、幾度か見かけたことのあるリディと同じ階級の生徒が三名。その三名は、誰もが争ったような傷を負い、不貞腐れたような表情を浮かべたまま、口を噤んでいる。そしてリディも傷を負ってはいたが、その眼差しは怒りに燃えているような色を見せ、真っ直ぐに前を向いていた。
「…一体、どうしたと言うのですか…?」
その異様な雰囲気に、リンは学長へと視線を向ける。
「先日、二階級生のゼフィー・ゼラルダが何者かに準備室に閉じ込められて怪我を負い、病院へ入院していると言う話は聞いている。彼は、その主犯の三名を捕らえたと言って、ここへ連れて来たと言う訳だ。君もゼフィーの検査報告を受けているだろうから、ここへ呼んだのだがね」
「…リディ…」
学長の言葉に、リンは困惑した表情でリディを見つめた。リディは、真っ直ぐにリンを見つめたまま、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。
「…アルフィードから話を聞いて…ゼフィーをあんな目に合わせた奴らを、意地でも見つけ出さなければならないと思ったんです。数日かけて何とか見つけ出して、理由を聞いてみれば…わたしに対する当てつけだと…たった、それだけのことで…ゼフィーをあんな目に…」
きつく唇を噛み締めるリディ。その表情が苦しそうに歪み、それだけで、リディがどれだけ苦しんだのかがわかる気がした。
「…馬鹿じゃないの?後輩に慕われたからって好い気になってさ」
尚もからかうようにそう言葉を零した一名の生徒に、りディはキツイ眼差しを向ける。
「ふざけるな!ゼフィーは関係ないだろう!?文句があるなら直接言えば良いじゃないかっ!!」
今にも食ってかかりそうなリディを績羅が寸前で留める。そんなやり取りを目の当たりにし、大きな溜め息を一つ吐き出した学長。
「リディ、落ち着くんだ。挑発に乗るものじゃない」
「……済みません…」
学長に窘められ、リディはきつく唇を噛み締める。当然、三名はそれをニヤニヤして見ている訳だが…その状況は異様この上ない。
「一応、それぞれの言い分を聞こうか」
そう言って視線を投げられた先にいた首謀者たる一名…先ほどリディを挑発したバルと言う生徒が、その口を開いた。
「気に入らなかっただけです。後輩に慕われたと調子に乗っているから、ちょっと痛い目に合わせてやろうと思っただけです。大体、大げさなんだよな。高だか閉じ込められたくらいで大騒ぎして。足の怪我ぐらい、普通なら直ぐに治るんだし。それを入院だなんて、リン先生も彼奴を甘やかし過ぎてるって噂だしな」
くすくすと笑いながらそう言葉を放つバルに、残りの二名も同じように顔を見合わせてくすくすと笑いを零す。当然、そんな姿を見せられれば、リディは腹が立つだろう。先ほどの二の舞にならないよう、きつく手を握り締めて怒りを殺しているその姿に、リンは小さな溜め息を吐き出していた。
誰よりも怪我をして、医務室に来る回数が多かっただけで、贔屓している訳ではないのだが…そう見られていると言うことは、自分の対応にも非があったのかも知れない、と。
「では、リディ。君の言い分を聞こうか」
学長はそう言って、今度はリディへと視線を向ける。
「…彼らのやったことは、ただの八つ当たりです。ゼフィーにあんな恐怖を与えて、笑っていられる神経が許せない。ゼフィーには何の罪もないはずです。だからわたしは…っ」
吐き出すような言葉。怒りを押し殺していることは誰が見ても明らか。
「…君たちの言いたいことはわかった。では、リン医師。ゼフィーの診断結果を教えてくれるかい?担当のゼノン医師から、結果を聞いているだろう?」
今度はリンへと視線を向けた学長。その言葉に、リンは大きく息を吐き出した。
「ゼフィーの診断結果は、ゼノン様から聞いています。足の怪我の方は、処置も早かったこともあって長引くこともないそうです。直ぐに歩けるようになると聞いています。ですが…閉じ込められた恐怖とショックで、失声症を併発しています。そちらの方は…回復の見通しは、まだ立たないそうです。入院しているのはその為、です」
「…失声症…?」
聞いた事のない言葉に、生徒たちは怪訝そうに眉を潜めている。
「強いストレスやショックから、声帯の周りの筋肉がうまく働かなくなり、声がでなくなる病気です。声帯や声を出す神経が機能しなくなる場合もあります。 数日で治ることもあれば、数ヶ月、1年くらいかかる場合もあるそうです。ゼフィーがいつ復帰出来るか…それは、まだわかりません。それだけの恐怖を、彼は貴方たちから受けた。そう言う事です」
「………」
予想していなかった症状に、三名の表情が曇る。そして、神妙な表情で顔を見合わせていた。
「貴方たちが遊び半分でゼフィーにした悪戯は、貴方たちが思っている以上の被害を彼に与えた、と言うことを…きちんと理解していただきたい。わたしは医師として…ニ度と、同じような悪戯でヒトを傷つけて欲しくはない。それを、貴方たちに伝えたいのです」
リンの重い言葉の意味は…どれくらい、彼らに伝わっただろうか。
生徒たちの顔を見つめながら、学長はゆっくりと口を開いた。
「…リン医師の言う通りだな。君たちが軽く思っている悪戯は、時として予想以上の結果を出すものだ。しかもゼフィーは君たちよりも学年も下で、身体も小さければ魔力も弱い。リン医師がゼフィーを気にかけているのも、他の生徒よりも怪我をしやすかったからだ。医師として気にかけるのは、当然のことだとわたしは思うよ」
穏やかに語りかけてはいるが…その言葉の重みは、リンが先ほど言った言葉同等に、彼らの胸には確実に届いていた。
先ほどまでの、ニヤニヤ笑う姿も、執拗にリディを挑発するような姿も、そこにはもう見えない。ただ黙って俯き、唇を噛み締めている。
そしてリディは、真っ直ぐに学長の顔を見つめていた。
「ゼフィーの件に関しては、許されるべきことではない。常識的な見方をすれば、誰もがそう口を揃えて言うだろう。そしてリディ。君も、彼らに手を出してしまったことは咎められる。それはわかるかね?」
問いかけられ、リディは暫く考えた後、小さく頷いた。
「君が手を上げたことで、君は自分の将来を棒に振ることになったかも知れない。今回のことは、まぁ多少大目に見よう。だが忘れるな。君たちに、二度目はない。それは全員に言えることだ」
「…学長…」
軽く微笑んだ学長。勿論、甘い考えで許されるとは思えない。だが、士官学校の長として、ただ闇雲に咎めるだけで済ますことではない。それは誰もが感じ取っていた。
「君たちの処分は後で伝達する。今日は宿舎に戻り、大人しくしていなさい」
学長のその言葉に生徒たちは頷くしかなかった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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筋金入りのオジコンです…(^^;
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