聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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慶祝 ~PRESENTS 番外編~
窓から差し込む日差しが徐々に強くなる季節。人間界であった梅雨と言う時期がないだけに、この時期の魔界はとても清々しい日差しが溢れている。
この季節になると、思い出すことがある。
かつて、彼の君から初めて語られた家族のこと。それが、総てものきっかけ。
叶わぬ夢は…今も、この胸の奥にある。
「ねぇ~、ダミ様の発生日の幹事、誰にする~?」
ここは、情報局長官の執務室。即ち、エースの執務室である。そして、当の主に問いかける声の主は、軍事局総参謀長のルークである。
「俺の発生日の幹事は御前だっただろう?御前の時はダミアン様で…そしたら、残りの誰か、だろう?」
そう返すエースの声に、ルークは小さな溜め息を一つ。
かつてからの仲魔の発生日のパーティーの幹事を持ち回りでやることは決まっているのだから、幹事をやった者から抜けていけば良いだけの話なのだ。
「デーさんは無理、だよね。きっと。だとすると、ゼノンかライデンだけど…どっちも今忙しいみたいだしねぇ…あぁ、そうだ。適任がいるじゃない」
ルークはポンと手を一つ打つと、目の前にいるエースに向け、にっこりと微笑んだ。
「…と、言うことで、宜しく~」
「…んだよ、俺かよ…」
「だって、どう言う訳か、あんたが一番暇してるじゃん?」
確かに、その通りなのだ。いつもは一番忙しいクセに、何故か今一番手が空いているのは、エースだったのだ。
しかし…そこには、一つの問題があった。
「…だけど、ダミアン様は参加するのか?」
「…そこが問題、なんだよね…」
エースもルークも、当然のように溜め息を吐き出す。
構成員の発生日同様に、皇太子であるダミアンの発生日のパーティーも毎年準備するのだが、どう言う訳か、当日になるとダミアンは忽然と姿を消してしまうのだ。そして、翌日になるとひょっこり戻って来る、と言うことが続いている。
エースとルークが零した溜め息は、今年も…と言う不安。
「御前がリボンつけて、待っていれば良いんじゃないか?」
冗談粧しにそう言ったエースの言葉に、ルークはにやりと笑いを零す。
「あ~、そう言えば、あんたの発生日に、デーさん戻って来たんでしょ~?頭にリボンは、俺がデーさんに言ったプレゼントじゃん。あんたも貰ったんだよね~?」
けれど、エースはそんなルークの声にも表情を変えない。
「…ぜってー教えねー」
「黙秘権使っても駄目だよ。ちゃんと証拠は上がってるんだからね」
「…だったら聞くな、ばーかっ」
小さな溜め息を吐き出すエースを、ルークはニヤニヤと笑いを零しながら見つめていた。
しかしながら、今はエースの問題ではなく、ダミアンのことなのだ。それを思い出したルークは、すっと表情を引き締める。
「…で、どうしようか。何とか上手く、ダミ様を誘い出す方法はあるのかなぁ」
「誘い出す方法よりも、まず、発生日当日に何処に行っていたのか、と言う方が重要じゃないのか?」
「まぁね。誰か知らないのかなぁ。デーさんとかは?」
「いや、聞いたことないな。前の時には、彼奴も一緒になって捜してただろう?」
「そっか…」
そう。確かにエースと一緒に、デーモンもダミアンを捜して走り回っていたはず。ルークもそれを見ていたはずだ。
「まぁ、ここでごちゃごちゃ言ってても仕方がない。とにかく、準備だけは進めておく。その代わり、御前がダミアン様を連れて来いよ」
溜め息を吐き出しながらそう言ったエース。
その確証はないものの、ルークも頷くしかなかった。
さて、日は変わり、本日はダミアンの発生日の前日。要は、パーティーの幹事が決まった日から、数日が経っていた訳である。
その間、ルークもただ単に時間を潰していた訳ではなく、ダミアンにばれないようにと気を使いながら、過去の情報を探っていた訳であるが…ダミアンたるものが、そう易々と足跡を残す訳もなく、当然と言えば当然。その結果は無惨敗退、であった。
「つ~か~れたぁ…っ!」
情報局の執務室。またもやこの場に居座っているルーク。
「御前なぁ…愚痴なら自分トコで零せよな~」
「うちの副官に愚痴ったって、しょうがないでしょうよ…」
ルークの言うことも尤もである。
「…で、全く駄目だったのか?」
その表情で、収穫はまるでなしだとわかってはいるが、取り敢えず聞いてみた。
「何でわかんないんだろう…あのダミ様が、毎年同じ日にいなくなるってのにさぁ…」
「あのダミアン様だから、だろう?あの屋敷の執事や使用魔は、ダミアン様のどんな行動にも暗黙の了解、だからな。絶対に口も割らないだろうしな」
「そぉだよなぁ~」
ぐったりと、ソファーに凭れ込むルーク。よくよく考えてみれば、その通りなのだ。
ダミアンだからこそ、今まで足取りが掴めなかったのではないか。
そう思うと、尚更溜め息が零れる。
「パーティーの用意は出来てるぞ。デーモンも参加となると、人間界の屋敷だけだからな。来られるかどうかは別として、彼奴にも声はかけた。あとはダミアン様が参加出来るかどうか、と言うことだけだ。一応、本魔にも伝えては置いたけれどな。まぁ要は、御前にかかってると言うことだな」
「そう言われると、異様にプレッシャーがかかるんだけど…?」
「そのプレッシャーに勝てるかどうかは、御前次第だ」
「…どぉしよっかなぁ~」
再び、深い溜め息。
「…もぉ、こうなったら、ダミ様に内緒で夜通し監視して、どっかに出かける前に引き留めるしかないよね~」
「ま、頑張れ」
「もぉ…他悪魔事なんだからぁ…」
「まぁ、そう言うな。局員の一悪魔ぐらい、貸してやるから」
そう付け加えたのは、エースのせめてもの思いやりだったのだろうが…
「じゃあ、あんたしかいないでしょうよ」
「御前なぁ…恩を仇で返すなよ…」
「御協力願いますよ、エース長官」
「…ったく…」
結局ルークに押し切られるままに、エースもルークと共に、ダミアンの私邸である皇太子宮にこっそりと忍び込んだ訳である。
…とは言うものの、警備上の問題もあるので、当然執事には許可を得てあるが。
明け方間近…小さな物音を聞いたような気がした。
ただ、それが現実だと素直に頷けなかったのは…自分が、青い睡魔の中を漂っていたから。
「…ク…起きろ、ルーク」
そう声をかけられ、ハッと意識が戻る。
「な…っ!何っ!?寝てないよっ!起きてたからね…っ!!」
慌ててそう声を上げたルークであるが、自身が眠っていたであろうことは誰にでもわかることであろうが…。
それは扠置き。そんな慌てふためいたルークを、声をかけた主…エースは小さな溜め息で見つめていた。
「別に…起きていようが寝ていようが、御前のことはどうでも良いが…それよりも、一大事だ」
「…は?」
「ダミアン様がいなくなった」
「…え…?」
エースの声に、ルークの顔色が変わった。
「やられたな。いつもはもうとっくに起きて来る時間なのに、いつまで経っても寝室から出て来ないと思ったら…寝室は藻抜けのから、だった。俺も気が付かないうちに、上手いこと逃げられた」
「…俺が、寝てたから…?」
奇妙な罪悪感が、ルークの胸を過った。だが、エースはと言うと、そんなことはたいして気にも留めていない様子だった。
「御前が寝ていなくても…夜通し寝室のドアの前で寝ずの番をしていたとしても、ダミアン様なら御前が瞬きしていた間にでも姿を消すことは出来ただろうな。別に、御前が責任を感じる必要はないさ」
「…でも…」
「まぁ、こうなったら仕方がない。潔く諦めよう。明日になったら帰って来るだろうし…そしたら、追求してやろうじゃないか」
「……」
納得出来ない、と言う表情を浮かべつつも、最早手遅れであることはわかり切っているのだから、これはエースの言う通りにするのが一番なのだろう。
小さな溜め息を吐き出したルークの髪を、エースは小さく笑ってくしゃっと掻き混ぜた。
「ダミアン様の発生日だろう?彼の君の、いつもの茶目っ気じゃないか。笑っていてやれよ」
「…エース…」
その言葉に、少し救われたような気がした。
6月6日。その日は、彼にとっては特別な日であった。
数日前、エースから発生日のパーティーをやると言う旨を聞かされてはいたが、その日はパーティーよりも大切な用事があるのだ。それが毎年のことであるが故に、エースもルークも、自分がいなくなることを警戒しているであろうことは、当然わかり切っていた。
そして昨夜。
誰が言った訳ではないが、屋敷の片隅から彼らの気を感じた彼は、くすっと小さな笑いを零した。
まるで、鬼ごっこをやっている気分だったのかも知れない。
そして彼は、見事に"鬼"から逃げおおせた。
明け方間近の、白んだ空の元…彼は、大魔王宮の別館…かつて、彼が生まれ育った別宅の屋敷へと、足を運んでいた。
遡ること、数万年前。まだ彼が、皇太子として執務に着いて間もない頃のこと。
その日も、6月6日であった。
「ダミアン様、発生日おめでとうございます」
年に一度のその日。当然のことながら、誰もが当事者の彼…ダミアンに、そう声をかけていた。
「有り難う」
そう答えるのも、半ば義務のようになってはいたのだが…それはそれで仕方のないこと。
だが、彼のその想いを変えたのは、彼の育ての親でもあった、軍事参謀長の言葉、だった。
「ご機嫌が悪いようですね」
小さな溜め息を吐き出すダミアンに、軍事参謀長のルシフェルは小さな笑いを零した。
勿論、露骨に表情に出すダミアンではないのだから、その小さな溜め息で機嫌の善し悪しを察したのは、ダミアンの傍近くで常に彼を見守って来たルシフェルならではである。
その洞察力に、ダミアンは思わず苦渋の表情を見せた。
「わたしの発生日だからって、みんな気を使い過ぎるね。わたしが皇太子でなければ、誰も気にも留めないだろうに…」
思わず吐き出したその想い。物心ついてから、幾度同じ想いをして来たことだろう。
奇妙な空しさを感じながらも、ダミアンは常に笑顔で応えて来た。それが、自分があるべき姿だと信じて。
けれど、ルシフェルはその言葉には賛同しなかった。
それは彼が、今日と言う日が彼にとってだけではなく…別の存在にとっても、特別な日であると言うことを伝えたくて。
「発生日は、貴殿だけでなく…ご両親にとっても、特別な日なのですよ」
思いがけない言葉に、ダミアンはドキッとしてルシフェルの顔を見つめていた。
「…でも…」
上手く、言葉が出て来ない。こんなことは、ダミアンにとっては初めてのこと。
両親、と言われることが、酷く空しく感じられて。その言葉一つで言葉を紡ぐことが出来なくなるだなんて、誰が想像しただろうか。
口を噤んでしまったダミアンに、ルシフェルは小さく微笑んだ。そして、ダミアンの頭の上に、そっとその手を置いた。
「貴殿が知りたい真実は、直接聞いてみるべきです。そうすることでしか、貴殿の想いに応えることは出来ないでしょう?」
「…貴公にはなんでもお見通し、ってことだね」
小さな溜め息が一つ。それは、ダミアンから。
「貴公も…そう思ったことがあるの?」
そう問いかけてみようと思ったのは、どうしてだろう。
考えてみれば、幼い頃から自分の傍に居たとは言え、ダミアンはルシフェルの過去は殆ど何も知らないのだ。
ただ一つ、堕天使だと言うことを除いては。
「貴公にとって…発生日が特別だって言うヒトがいたの…?」
ダミアンにしては珍しく、一方的に質問をぶつける。だが、ルシフェルの表情は少しも変わらず、微笑んだままだった。
けれど…その濃紺の瞳が、僅かに揺らめいたように感じたのは気の所為ではないだろう。
小さな吐息を吐き出したルシフェル。
「…あ…御免。迷惑、だね…」
この軍事参謀は、顔色一つ変えない。それはそれで、彼がいかに優秀かと言うことを物語る事実。でも、それは彼なりのバリケードなのだと気が付いたのは、ダミアンだけかも知れないが。
問いかけてはイケナイことを尋ねてしまった。
自己嫌悪に陥りかけたダミアンが、大きな溜め息を吐き出しかけた時。
「わたしは…裏切り者、です。だから…天界にはいられなかった。けれど……」
「…ルシフェル…?」
再び、ダミアンの眼差しがルシフェルを見つめる。
その濃紺の瞳には、先程までの揺らめきはなかった。あるのは、ただ真っ直にダミアンを見つめる、柔らかな色。
「名前は、"ルカ"。年は、貴殿と差ほど変わらないはずです。尤も…一度も顔を見たこともありませんけれど。"彼"は、わたしを知りませんから」
「ちょっ…ルシフェル、一体どう言う……」
問いかけようとした言葉が止まる。問いかける必要など、ないことがわかっていたから。
気持ちを落ち着かせるかのように、ダミアンは大きく息を吐き出した。
「…天界に…子供がいるの…?」
その言葉に、相手からくすっと笑いが零れる。
「"彼"は…自分の正体を知りません。いつか堕天使として覚醒するであろうことも。けれど…わたしはそれを承知で、彼女に"彼"を託した。卑怯者かも知れないが…いつか、"彼"はわたしの想いを理解してくれると信じています。貴殿には…理解出来ないでしょうけれど」
相も変わらず、ルシフェルの表情は変わらない。だからこそ…それが酷く心に響く。
「…寂しいんだね、ルシフェルも」
零れた言葉に、ルシフェルの表情が微かに動いた。
「遠くに…ずっと想い続けている家族がいる。けれど、逢うことが出来ない想いは…きっと寂しいんだよね。少しは…わたしにもわかるよ」
「…ダミアン様…」
ルシフェルの視線の先…ダミアンの表情が、やっと柔らかくなった。
いつもの、微笑み。そして…僅かな茶目っ気が、そこにある。
「出かけて来るよ。だから…あとは宜しくね」
「…行ってらっしゃいませ。お気を付けて」
くすっと、ルシフェルも笑いを零す。
総ては、ここから暗黙の了解となった。
ダミアンが訪れたのは、大魔王宮の別館。かつて、彼が生まれ育った場所。
その別宅の一室に、彼はやって来ていた。
彼が見つめる先の壁には、一枚の肖像画がある。
「…母上も…わたしの誕生を、本当に喜んでくれた…?」
そこに描かれているのは、彼の産みの母。今は亡き…王妃としての母。
かつてから、王妃は子孫を残すだけの役割として迎えられていたと言う。
もしもそれが真実ならば…自分も、そうだったのかも知れない。
ただ、皇太子としての世継ぎを残す為だけの役割だった母。当然、役割を終えれば切り捨てられる。事実、彼の母は…彼が生まれて間も無くの後に亡くなったと聞く。
大きく、溜め息が零れた。
愛されて生まれた子供ではないなら…誰かの犠牲の上に生まれた生命であるのなら、発生日にも感謝の気持ちなど生まれて来ない。
それが、真実であるならば。
もう一度、溜め息を吐き出そうとした時、部屋のドアがノックされた。
「…はい」
「…わたしだが」
「…どうぞ」
声の主が、どうして今この場にいるのかはわからない。だが、確かに聞こえた声は、間違いもない。
ドアが開き、姿を現したのは、大魔王陛下。彼の…父親。
「…御前がここにいるとはな」
「いてはいけない理由でも?」
「いや。ただ、御前はもうここには来ないものだと思っていたからな」
彼の父はそう言うと、彼の隣へと歩み寄る。そして、彼と同じように、壁の肖像画を見上げた。
「…父上は…どうしてここに…?」
その姿が余りにも自然だったから…思わずそう問いかけてしまった。
「毎年…来ていたよ。今日、この日に」
真っ直に肖像画を見つめる眼差しは変わらない。
その横顔を見つめながら、彼は大きく息を吐き出す。
言葉の意味は、わかっていた。
今日のこの日は…皇太子たる自分の発生日。そして、母の命日。
夜になれば、顔を合わせていた。けれど、昼間父王が何をしているのかまでは把握していなかった。だから、毎年ここへ来ていることも知らなかった。
奇妙な程呼吸が苦しいのは…急に、心臓を打つ速さが速くなったから。
「…宿命、でしょう?王妃は、皇太子を産みさえすれば、役目を終えるそうですから。いつの時代も、皇太子の発生日は王妃の命日でしょう?」
皮肉を言うつもりではなかったのに、口を吐いて出た言葉。
勿論、父王を軽蔑している訳ではない。大魔王陛下として、尊敬しているのは当然のこと。けれど…母親のこととなると話は別である。
しかし、彼の父が見せたのは、小さな笑い、だった。
「いつの時代の話だ。今時、そんなことが黙認されているとでも?」
「けれど…っ」
「御前の母親は、身体が弱かった。だから、御前の出産に耐えられなかっただけのこと。故意的に生命を奪われた訳ではない」
「……本当…ですか?」
「あぁ。伴侶のわたしが言うのだから、間違いはない」
その言葉を聞いた瞬間、安堵の溜め息が零れた。そして、ぐったりと吸い込まれるかのように、傍にあったソファーに腰を落とす。
「今の今まで、そんなことを案じていたのか?」
くすくすと笑いを零す大魔王。そんな姿など、他の誰にも見せたことがない姿である。
「…仕方がないでしょう?文献通り、皇太子の発生日は、そう言うものだと信じていたのですから」
大きな溜め息を吐き出すダミアンに、大魔王は相も変わらずに笑っている。
そんな姿を見つめながら…ダミアンは、ふと言葉を紡いだ。
「母上を…愛していましたか?」
その言葉の直後、笑いは止まった。そして、彼と同じ色の眼差しが、真っ直に向けられた。
その顔に、柔らかな微笑みを称えて。
「勿論、愛していた。だからこそ…毎年ここへ来ることを欠かさなかった」
「ならば…わたしが憎いですか?母上の生命と引き換えにこの世に生を受けたわたしが」
ダミアンの表情はとても真剣で。その答え如何では、自分の存在が堪らなく嫌になるかも知れない。
だが、大魔王の表情はダミアンが想像していたものとは違っていた。
柔らかく微笑んだまま、その大きな手でダミアンの頭をそっと撫でた。
「自分の子供が憎い訳がなかろう?」
「…父上…」
「御前が生まれてくれたことに、感謝しているんだ。だから…素直に発生日を喜べば良い」
----発生日、おめでとう。
その瞬間、零れたのは極上の微笑み。発生日の日に、これ程の微笑みを見せたことがないと言うくらいの、とても嬉しそうな笑顔だった。
「…有り難うございます」
初めて…生まれて来れたことに感謝した日。
その時から、彼は毎年この日に、ここへ来ることを選んだのだ。
大切な時間を…親子で、共に過ごす為に。
皇太子宮のリビング。そこに、ぼんやりとしている一つの姿があった。
時刻は真夜中。間も無く、日付も変わる頃だろう。
「どうぞ」
眠気覚ましのコーヒーを差し出す執事に感謝しながら、大きく溜め息を吐く。
「…ダミ様、もう直ぐ帰って来ますよね…?」
その不安げな眼差しに、執事は小さく微笑む。
「毎年、日付が変わると戻って参りますので、今年もそうかと思いますが」
「…だと良いけど」
コーヒーを啜りながら、小さく溜め息を吐き出す。
当然、この待ち惚けを喰らっているのはルークである。他の構成員は、皆人間界の屋敷で準備を整えて待っているはず。ルークの役目は、ダミアンが帰って来るのを待ち、パーティー会場へと連れて行くこと。その為に、一日ここで帰り待っていた訳である。
小さな欠伸を噛み殺した時、古い柱時計が十二時を告げた。
その瞬間、リビングのドアが開かれた。
「あぁ、ルーク。いたのか」
「ダ…ダミ様っ!何処に行ってたんですか…っ!」
時間きっかりに戻って来たダミアンに、ルークは一日待ち続けた疲れをぶつける。
だが、当の本魔であるダミアンは、上機嫌に微笑んでいるだけ。
「随分待たせたようだね。悪かった、悪かった」
くすくすと笑いながら、ルークの頭をポンポンと叩く。
「…とにかく、一緒に来て貰いますよっ!」
そう言うなり、ダミアンの腕を取って人間界へと姿を消した。
その姿を見送った執事が、小さな笑いをヒト知れず噛み殺したのは言うまでもない…。
6月7日。日付が変わったばかりの深夜。
こうして、ダミアンの、一日遅れの発生日パーティーが人間界の屋敷で始まった。
明け方になり、やっとパーティーも終了の兆しを見せ、それぞれがそれぞれの部屋へと戻って行った。
当然、行き場のないダミアンは、そのままルークの部屋へと雪崩れ込んだ訳である。
「…昨日は…どちらに行かれていたんですか?」
ベッドに腰を降ろすダミアンに、今淹れて来たばかりのコーヒーを差し出しながら、ルークは問いかけてみる。勿論、このダミアンのこと。きちんとした答えが返って来るとは思っていないが。
「毎年毎年、発生日当日にいなくなられたら、俺たちが当日に祝うことが出来ないじゃないですか…っ」
「まぁまぁ」
くすくすと笑いながら、ダミアンは隣に座ったルークの頭をポンポンと叩く。
「悪いとは思っているけれどね。昔からの習慣だから、こればっかりは仕方がない。いい加減、諦めたらどうだい?」
「でも…俺たちだって…」
頬を膨らませるルークに、ダミアンは大きく息を吐き出す。
「…昔は…自分の発生日が嫌いだった。みんな、上辺だけの祝いの言葉を浴びせかけて来て、空しさだけが残っていたんだ。そして何より…わたしの発生日は、母上の命日、なんだ」
「…っ」
初めて語られた真実に、ルークはドキッとして息を呑んだ。
けれど、話の内容とは裏腹に、ダミアンの表情はとても穏やかで。言葉を挿むことも出来ず、ただ黙って、ルークはその続きを待った。
「…けれどね、あるヒトに教えられた。発生日は、自分の為だけではない。親にとっても、特別な日なのだとね。だから、わたしは……」
「…ダミ様…?」
言葉を切ったダミアンに、心配そうに視線を向けたルーク。だがダミアンは、にっこりと微笑んでみせた。
胸に抱いた夢は、永遠に叶わない。けれど…だからこそ、毎年忘れることはないのだ。
最愛の両親と、この日を祝えること。それは、唯一彼に許される我儘なのかも知れなかった。
「年に一度ぐらい、生命を授かったことに感謝するのも悪くはないよ」
「…そうかも…知れませんね」
深く尋ねなくても、わかったような気がした。
親から受けた愛情は…ルークにも、とても良くわかっていたから。
「それじゃあ、ダミ様の発生日パーティーは、来年から6月7日にしておきますからね。その日には、いなくならないでくださいよ」
「あぁ、わかったよ」
----有り難う。
その言葉に託された気持ちは、昔とはまるで違う。
にっこりと微笑むルークに、ダミアンも微笑みで応えていた。
あの時語られた"彼の子供"は、今目の前にいる。そして、自分を祝ってくれる立場にいるなどと…あの時は想像もしていなかった。
けれど…愛される想いは、あの時よりも深く感じられるようになった。
愛しい仲魔たちからの、心からの祝福の気持ち。それは、彼の両親に対する感謝の気持ちと同じくらい、大切な宝物、だった。
何よりも素敵なプレゼントを、アナタに。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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