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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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こちらは、以前のHPで2004年3月27日にUPしたものです。

拍手[2回]


◇◆◇

 吹きぬける風は、まだ肌寒さを感じさせた。
 大きく息を吐きながら、冷たい夜空を見上げる。
 その胸を過る感情は、奇妙な重さを抱えていた。

 ここに、おいで……。
 彼を呼ぶその声は、ずっとその脳裏に残っていた。

◇◆◇

 その日エースは枢密院に用事があり、出かけていた。
 その帰り道…ふと思い出したように、普段は通らない裏道を進む。
 僅かに開けたその道に聳え立つ、一本の大きな木。そこに、ほんのりとしたピンク色の花が綻び始めていた。
 そこは、副大魔王の執務室から良く見える道。
「…また、この季節か…」
 大きな木を見上げ、エースは小さく呟く。
 その木は…副大魔王が好きだった、桜の木。人間界からたった一本だけ持ち込んだ、副大魔王のお気に入りの木だった。
 大きな溜め息を吐き出し、エースはその木を飽きることなく見上げていた。
 この木を持ち込んだ時はまだ苗木だったはず。それが今や、見上げるほど堂々とした大木へと成長していた。
 けれど、その木の主は未だ帰らない。それでも春になれば桜の木は美しい花をつける。それを見上げる度…エースは、複雑な気分になるのだった。
 副大魔王が自分から帰って来るまで、彼を信じて待っている。そう、決めたはずだった。けれど…月日を重ねる度に、その思いが不安へと少しずつ姿を変えているのだ。
「…ば~か…」
 小さく呟いた声は…当然、想い悪魔に届くはずもなかった。

 その日はとても穏やかだった。
 枢密院の皇太子の元へ報告に行ったルークは、その帰り道にふと思い出して裏道へと向った。
「そろそろ見頃だよね…」
 にこにこしながら歩みを進めると、目的の物が見えて来る。
 淡い、ピンク色の山。そんなイメージを抱く、大きな桜の木。
「お~、見事、見事」
 にっこりと微笑むルーク。が、その視線は、その木の下に佇む悪魔を捕らえた。
「あれ…?」
 ぼんやりと、立ち尽くす姿に見覚えはある。お互いに忙しくて久しく顔を合わせることはなかったが、見間違えるはずなどはない、仲魔の姿。
「エース?」
「…ルークか…」
 歩みより、声をかける。その声に、相手…エースは、ゆっくりと視線をルークへと向けた。
「エースも来てたんだ。見頃だもんね~」
 隣へと歩みを進めたルークは、そのまま大きな桜の木を見上げる。下から見上げる花は、また壮大である。
「あ、ねぇ。さっきダミ様から聞いたんだけどさぁ、今日ライデンが雷神界から来るんだって。だから今夜、みんなで集まらない?」
 久し振りにみんなで集まることが今から楽しみなのだろう。ルークの表情はとても嬉しそうである。けれど、エースの方は…何処かぼんやりとしたまま、再び桜の木を見上げていた。
 そして。
「…悪いな。用事があるんだ…」
「…用事?」
 エースの横顔に問いかけるルーク。その視線が合わないことは、その時は然して疑問にも思わなかった。
「…じゃあ、しょうがないよね。ライデンにはそう言っておくよ」
「あぁ。また今度来た時に誘ってくれよな」
 再びルークへと視線を戻し、軽く微笑んだエース。
「うん。残念だけど仕方ないもんね」
 ルークも微笑んで、エースと挨拶を交わしてその場を後にする。
 その時はまだ、エースの心情など察せずにいたのだった。

 その夜。ゼノンの屋敷に集まったルーク、ライデンと、主のゼノン。そして、遅くに職務を終えて合流したダミアンの4名での酒盛りの最中、その話題はライデンの口から出て来たのだった。
「エースもさぁ、来られれば良かったのにねぇ~」
 かなり気分が良いのだろう。にこやかにそう口にする。すると、それに同意を示すルークの声。
「そうだよね~。あのエースが、酒の誘いを断るなんてね~」
 だが、その疑問の答えを告げたのは、ダミアンの零した言葉、だった。
「桜の季節、だからね。大目に見てやっておくれ」
 ダミアンがそう言った途端、桜の木がルークの脳裏に甦る。
 淡い、ピンクの大木。それを見上げるエース。
 その眼差しは…何を、見つめていたのだろう。
「…そうか。エースは…」
 グラスを握ったまま、ゼノンもぽつりと言葉を零す。
 よくよく考えてみれば、彼らが魔界へ戻って来てからと言うもの、桜の季節にエースが誘いに乗って来たことはなかった。
 エースにとって、生命の糧と言っても過言ではない程好きな酒盛りを断ってまで執着するのは、あの"桜の木"、だから。
「…何?」
 状況が良くわからないのは、ライデン。そして、ぼんやりと見えて来たのはルーク。
「…そっか。桜、か…変に声かけて、悪いことしたかな…」
 そう零したルークに、ダミアンは小さく微笑む。
「心配いらないよ。エースの気分の問題であって、御前がどうの、と言うことじゃない。エースがあぁなっているのは、今の時期だけだから」
 微笑むダミアンの姿に、ルークも表情も僅かに和らいだ。
「桜って…デーさんの執務室から見える、あの桜?」
「そう。あの桜。今、盛りだからね。綺麗だけど…散り際はちょっと切ないよね」
 未だ首を傾げるライデンに、ゼノンも小さく笑う。
「今だけ、そっとして置いてあげて。桜の季節が終わったら、エースも一緒に呑んでくれるよ」
「…へぇ…」
 状況を掴めずに首を傾げ続けるライデン。恐らく、その夜にはゼノンからその理由を聞くことだろう。
 エースが、これほどまでに桜に焦がれる理由を。

◇◆◇

 彼は、その木の太い枝の上に座っていた。
 ぼんやりと見上げる空に、丸い月が浮かんでいた。
 大きな溜め息と共に、そっと目を閉じる。
 思い出すのは、昔の記憶ばかり。その記憶を埋める相手は、まだ帰って来ないのだ。
 再び、溜め息を吐き出す。
 月の光は優しくて。彼の、頬に舞い落ちる花びらは、柔らかくて。
 それはまるで、恋悪魔からの、口付けのようで。
 けれどそれは、不確かな記憶になりつつある。
 大きく両手を伸ばしてみる。けれど指先に触れるのは、舞い散る花びらだけ。それ以外に、彼が求める実体はない。
 再び目を開け、空へと伸ばした自分の両手を見つめる。そして、思い直したように両手を握り締める。
「……早く…帰って来いよ…」
 いつか、その腕の中へ戻って来る恋悪魔へ。
 それは、恋悪魔には直接言えなかった想い。彼が抱いた、確かな要求だった。
----エース…
 不意に、呼ばれたような意識が巡り、彼は掌をそっと開く。
 そこには、散り落ちたピンクの花びらが一枚。
----そんな顔するな…?
 微かに、声が聞こえたような気がした。
 まるで、不安に怯える彼を、諭すかのように。
 彼は、小さく笑いを零した。
「…ここで、彼奴と繋がっているのか。それなら…もう暫く、待っていてやるから。ちゃんと…戻って来いよ」
 彼は、掌の花びらに、そっと口付ける。そして、再び掌をそっと握った。
 微かな温もりは…遠くの恋悪魔の、分け与えた温もり。
 彼はそっと目を閉じた。
 そして、その日も桜の木に抱かれたまま、夜を明かしたのだった。


 彼は、その年も桜の木から離れなかった。
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趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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