聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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蜘蛛の糸
「…世知辛い世の中になったな…」
そうつぶやいたのは、一体誰だっただろう。
小さな溜息が零れる。
高いビルの屋上に立ち、眼下を見下ろしながら零した溜息。
乱立する建物。列を成す沢山の車。その視界に映る範囲に、緑はごく僅か。それを発展の象徴と証することは間違いではないかも知れないが…汚れた空に汚れた空気。それも当たり前となりつつあるのだろうか。
これは果たして…自分が望んだ世界だっただろうか?
これが、あの美しかった惑星の、現実なのだろうか?
そう思う度に、胸の奥がチクリと痛む。
自分は、選択肢を間違えたのだろうか…?
それは、彼にしては珍しい、後悔とも言える思いだった。
瞳を閉じると、蘇って来る映像。それは、初めて目にした、青き惑星の透明な輝き。
けれどそれは、既に過去のモノ。
今のこの世界に、かつての姿を見ることは出来なかった。
そっと、瞳を開ける。そして、思わず零れた溜息。
「…切ないな…」
小さく零した言葉に、小さな笑い声が返って来た。
「そんな言葉、らしくないな」
「………」
何処で気配を嗅ぎ付けて来たのか、ビルの屋上にもう一つの影が現れる。その途端、先程とは違った意味での溜息が零れる。
「…何の用だ?」
背を向けたまま、そう言葉を返す。
「別に用はない。ただ、気配を感じたんでな。ここは、吾輩のテリトリーだからな」
「…そう、か」
居場所がまずかったか。そう思いながらも、この場所を選んだのは自分なのだから仕方がない、と言う諦めもあった。
相手のテリトリーに入ってしまったのなら…いっそうのこと、吐き出してしまった方が良いのかも知れない。そう思ったのは…どうしてだろう。
再び、溜息が零れる。すると、背後の影は場所を移動し、彼の隣へとやって来た。
「どうだ?この世界は。この前来た時とまた違うだろう?」
「…そう、だな…この前よりも、もっと………」
----荒んでいる、か…
その言葉を飲み込み、大きく息を吐き出した。
そして。
「デーモン閣下。一つ…聞かせてくれないか?」
そう、言葉を切り出した。
「…何をだ?」
相手…デーモンは、隣に立つ彼の方には顔を向けず、そう問い返す。
顔を向けなかったのは…否、向けることが出来なかったのは…彼が、余りにも切実な表情をしていたから。
「…この惑星は…何処に向かっているんだ…?破滅への道を、着実に辿っているのか…?」
そう言葉を放つ彼は、とても苦しそうな表情を浮かべている。それは、普段の彼からは決して見ることの出来ない表情。勿論、デーモンも彼のそんな表情を見るのは初めてであった。
「…どうかな。少なくとも、貴殿たちの期待通りには進んでいないだろうな。まぁ、それも当然か」
デーモンはそこで一旦言葉を区切り、大きく空を見上げた。
「知的生物たちは…"生命の尊さ"と言うモノを、忘れたのかも知れないな。長い年月をかけて成長し、短い年月で衰退する。まぁ、進化と衰退とはそんなものだろう」
自嘲気味な笑いと共に吐き出された言葉。けれどそれが、発した本魔にとって、どれだけの想いが込められているのだろう。
「善悪の常識が狂い始め、何が良くて、何がいけないか、それすらもマトモに認識出来ない。それが、今ここにいる人種だ。いつからそうなったのかは、吾輩にも正確に認識は出来ない。けれど、歪み始めた理由はわかる」
「…その理由とは…?」
思わず問いかけた声に、デーモンは小さく笑った。
「わからないのか?天界の、総帥ともあろう貴殿が」
「………」
口を噤んだ彼に、デーモンは小さく言葉を零した。
「神の、不在だ」
「………」
「神は勝手だな。自分の思い通りに操れる知的生物を作ったはずなのに、いざ思い通りに駒が進まなくなったら、あっさりと姿を眩ませた。そして後はほったらかしだ。それで、平和な世の中が続くと本気で思っているのか?知恵をつけた知的生物たちは、自分たちの欲望を満たす為の方法を考える。そして、罪を犯すことも覚える。罪を犯せばどうなるかを知る。当然、悔い改めることも覚えるだろう。だが、次第にその制御も利かなくなる。そして、取り返しのつかない罪を重ねる。当たり前のことだ。そんなこと、生物の発展途上プログラムでも明らかだ。それが目の前で起こっているだけのこと。そう驚くことでもない」
淡々とそう言葉を紡ぐデーモンに、彼は溜息を吐き出す。
「…わかって…いる。神の不在が、どんな影響を及ぼすか。そんなこと…ずっと昔からわかっていたことだ。だからこそ、何とかしなければいけないと思った。神に、見捨てられた訳ではない。必ず…神は、戻って来る」
「そう、自分に言い聞かせて来たのだろう?己の心を…支える為に」
「…デーモン…閣下…」
「図星、か?」
くすっと、笑いを零したデーモン。けれど、目の前の彼は笑ってなどいない。
デーモンの言っていることは、間違ってはいない。それは、デーモンに言われなくともわかっていたこと。
わかっていたからこそ…誰にも、言えなかった。
本当のことなど、口が裂けても言えなかった。
けれど……自分一名で苦しんだところで、最早修復が効くはずもない。もがけばもがくだけ、深みに填まる。そうして、抜け出せなくなったところで…一筋の光が見えたのだ。
まるで…彼に救いの手を差し伸べた、蜘蛛の糸のように。
彼は、空を振り仰ぐ。
日は沈み、暗くなった空。けれど、くすんだその空には、星影も見えない。
大きく息を吐き出し、彼は、覚悟を決めた。
「…閣下。一つ…良いことを教えようか?」
「…ん?」
突然の言葉に、デーモンは彼へと視線を向ける。
彼は…笑っていた。
「何だ?良いことって」
デーモンも小さく微笑み、問い返す。
彼は、空を見上げたまま、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「…わたしはね…本当は、堕天使、なんだ。貴殿たちと出会う…ずっと昔から、ね」
「…ミカエル総帥…」
それは、デーモンにも想像もしない言葉だった。思わず息を飲んだのは、言うまでもない。
以前、彼と彼の奥方の間に生まれた堕天使を、エースが保護したことがあった。あの時も、原因は明らかにはならなかったが…疑惑だけは僅かに残っていた。
勿論、誰も彼にそれを問いかけはしなかった。天界の総帥たる彼は、清廉潔白であるはず。だからこそ…まさか、彼自身が口を割るとは思いもよらなかった。当然、デーモンも二の句が告げなかった。
けれど、彼の表情は変わらなかった。
穏やかに微笑み…そして、天を仰いでいた。
「神に見放された地がどうなるかなど、わたしは貴殿たちが生まれる前からわかっていた。天界とて…神に見放された地だ。総帥として職務についているわたしが、知らないはずはないだろう?」
「…だが…それと、貴殿が堕天使だと言うことと、どう繋がりが…」
デーモンの問いかけに、彼はそんなことは聞いてもいないかのように、更に言葉を続けた。
「今現在…天界に神の次に最高位である熾天使の身位がずっと空白になっているのは、どうしてだと思う?」
「…いや…」
天界の事情を語り始めた彼は、既にいつもの精神状態ではなかったのだろう。それを目の当たりにし、困惑した表情のデーモン。けれど、敢えて余計なことを言わず、彼の話を聞くことにした。
それが、彼の心を開放する方法であるのならば。
彼は、再び言葉を続ける。
「最後の熾天使は…ルシフェルだった。唯一神と交信出来る立場である熾天使が、どうしてその後存在しないのか…答えは簡単だ。神は、いない。熾天使は、それを偽る為の身位だったんだよ。歴代の熾天使たちは、皆、神が既に天界にいないことを知っていた。けれど、あたかも神がいるかのように振る舞い、仕える天使たちに偽りを伝え続けた。何処の誰が、最高身位の熾天使が偽りを続けると思う?答えは簡単だ。神の祭壇にいたのは…権力を持ち、全てを支配したいと思う気持ち。それはある意味、"悪魔の囁き"だ。ルシフェルも含め…"悪魔"に魅入られた熾天使たち。言わば、皆堕天使だったんだよ。ルシフェルは…それを、自分の代で切り捨てようとした。だからこそ、次の熾天使を任命せず、天界を去った」
「………」
「わたしは、一度だけルシフェルと関係を持った。それは多分、紫苑のことでもわかっていたんじゃないかと思う。だから、わたしも堕天使だ。いつしか神の不在を知り…それでも尚、神がいるかのように振舞って来た。歴代の熾天使たちと何ら変わりない。ルシフェルに関しては割り切ったが…ルークはわたしやラファエルも一緒に育てたからな。今でも子供のように思っているのは確かだ。だからこそ、魔界との関係を強制的に切り捨てもしない。自分が堕天使であることを偽りながら、神の存在を信じようとした。だが、そんな我々のところに、神が戻って来てくれるはずもない。ならば、自分たちの手でどうにかするしかないだろう?それが…堕天使として偽り続けた、わたしの罪だと思っている。だから…最悪の結末が待っていようとも…足掻き続けるしかないんだ」
そこまで一気に続け、やっと大きく息を吐き出す。
そして、自分のしていることに嘲笑を零した。
「…馬鹿だな、わたしは。何も、魔界の副大魔王にこんな告白をする必要などないのに…」
思いがけない告白は、デーモンの表情を険しいものに変えていた。
「…ラファエル殿は…貴殿が堕天使だと言うことを知っているのか?貴殿が…神はいないとわかっていることを、知っているのか…?」
問いかけた言葉に、彼は首を横に振った。
「ラファエルは、何も知らない。彼奴は、わたしよりも早く、神の不在を知っていた。だが、わたしにはずっと隠していたんだ。わたしが…何も知らないと思って。わたしを、護る為に、ね。独りで全てを背負って、苦しんで。全く、馬鹿な話だな。だが、だからこそ…わたしは、ラファエルの気持ちを考えると、自分が堕天使だと言うことは黙り通すしかなかった。黙って、自分に出来る限りの手を尽くすしかなかった。そう考えると…わたしもラファエルも、同じように馬鹿、だな」
一瞬、苦悩に歪んだ彼の表情。デーモンは、その表情を見過ごさなかった。
最初から言えていれば、きっと楽にはなれたのだろう。けれど、彼の身位がそれを許さなかった。
苦しんだのは…多分、過去の熾天使たちも同じこと。
「…期待が大きいと…辛いな」
デーモンには、返す言葉がなかった。
かつて、神とは幾度か顔を合わせたことがあった。けれど、今は何処にいるのかすらわからない。またどこか別の場所で、この惑星と同じような状況を創っているのかも知れない。そして、その尻拭いをしなければならないのは、神の支配下にある天使たちなのだ。
自分たちの住む地は、当の昔に見放されていると言うのに。
「……きっと…全てのシガラミを切り捨ててしまえれば、楽だったのかもな。だが…天界で、神の存在は大き過ぎた。勿論それは、神が最初に創り上げた世界なのだから仕方がないのかも知れないが…そのおかげで苦しんだ輩は山のようにいる。ルシフェルのように、天界を捨てた者も大勢いたのかも知れない。けれど貴殿は…天界を護ることを期待されてしまったばかりに…そこから抜け出すことが出来なかったんだろうな。清く、正しく、美しい天使様でいなければならないばっかりに…な」
その言葉に、彼はちょっと笑った。
「確かに、ね。でも、それがわたしの運命なのだから仕方がない」
「運命は、自分で切り開くモノだ。抜け出したかったら抜け出せば良い。違うか?」
その言葉は、悪魔の誘惑。けれど、彼はそれを一笑した。
「生憎、身分上そう簡単にはいかないもんでな。天界を護ろうとする、大勢の天界人たちを…そして、闇に紛れ込んで、もがき苦しんでいる知的生物たちを、見捨てることも出来ない」
そう。彼は、一名で生きている訳ではないのだ。未だ神を信じ、彼を慕う天界人は数多くいる。自分が今消えてしまったら…天界はどうなってしまうのかもわからない。それは、この惑星にも言えること。
彼は彼を慕うものたちには、なくてはならない存在なのだ。
「多分…わたしは一生今のままだろう。このまま…天界と一蓮托生、だ。生きるも死ぬも…な。それが、ルシフェルから託された想いだ。天界を護ることが…約束だからな」
忘れられない想いは、今でも同じこと。
「この惑星も…出来る限り、見守り続けたいと思っている。救えるものなら…知的生物たちも救ってやりたい。もし…それが不可能だとしても…出来る限り、精一杯の手を尽くす。そうしなければ、わたしは…神に顔向けが出来ない」
自分に出来ることを、精一杯やらなければ。それが、彼なりの償いなのだ。
裏切り続けた天界人へ。そして…この、愛すべき知的生物たちへの。
「…閣下は…どうする?良い情報を手に入れたんだ。魔界に報告するなり、天界へ攻め込むことも容易なはずだ。魔界の支配下に置くことも簡単じゃないか…?」
そう問いかけた彼の言葉に、デーモンは苦笑した。
「まぁ…な。やろうと思えば出来ない話じゃない。だが…今は、敵じゃないだろう?」
「…デーモン閣下…」
「確かに、かつては随分色々やりあったな。だが…今、この地を思う結果はきっと同じだ。我々が、人類滅亡の布石を巻き終えたとは言え…貴殿たちが、愚かな知的生物たちを救おうと手を差し伸べているとは言え、どちらもこの惑星が滅んで喜ぶ訳ではない。我々も、知的生物たちに手出しはしない。布石を撒き終えた以上、あとはただ、見届けるのみだ。生きるも滅ぶも…奴ら次第だと思っている。ただ、この惑星が生き延びていてくれればそれで良い。それは、貴殿たちも同じはずだ。だったら、敵ではないさ。共に…この地を、いとおしいと思っているのなら」
「………」
「それに、吾輩は別に、個人的に貴殿やラファエル殿に恨みがある訳でもないしな。天界を潰したところで…今は、何も得られるモノはない。今はまだ…そう言う気分でもないしな」
くすっと、デーモンが笑いを零した。
それは、悪魔には似つかわしくない程…暖かい微笑み。
「さ、吾輩と話し込んでいることが天界にバレないうちに、戻った方が良いんじゃないのか?今日の話は、吾輩の胸の中だけにしまっておく。だから…今まで通りの関係でいようじゃないか。味方ではないが、敵であって敵ではない。このままの関係で…共に、見護って行こうじゃないか。この…愛すべき惑星を。愚かな、知的生物たちを…な」
「…相変わらず…損な性格だな、貴殿は」
彼も、くすっと笑いを零した。それは、彼に良く似合う…天使の微笑み。
不思議と、とても穏やかな気持ちになれたのはどうしてだろう。先ほどまでは…否、デーモンに全てを吐き出すまでは、酷く塞ぎ込んでいたのに。それが今は、とても穏やかで。そして…胸の奥が、ほんのりと暖かい。
「じゃあ、な」
先に、デーモンが踵を返した。そして、彼の前から姿を消す。
「…あぁ…」
小さく返し、そして大きく息を吐き出す。
まさか、悪魔に救われるなど。昔の自分なら、考えもしなかっただろう。
滅びかけた知的生物にとっての救いが自分たちであるように…その自分たちにとっての救いが、彼らだなんて。
「情けない。こんなことじゃ…世も末、だな」
そんな言葉も笑って零せる。
もう少し、気長に見て行こう。そうすればきっと…この惑星の知的生物たちは、きっと、改心出来るはずだから。
今は、ほんの細やかな希望でしかない。けれど…きっと、大丈夫。
彼は、微笑んで見せた。
愚かな…知的生物たちの為に。その柔らかな微笑が、彼らの救いとなるように。
世の中はまだ、何も変わってはいなかった。
けれど…そこには、希望の光が差し込んでいた。
まるで…蜘蛛の糸のように。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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