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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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"do one's bit"
こちらは本日UPの新作です。

拍手[2回]


◇◆◇

 空を、見上げる。
 まだほんの少し残っている、淡い花弁。けれど、緑の若葉が茂り始めたその枝に、ピンクの花びらなどもう心許ない。
「花見は流石に……なぁ」
 思わず零れた、大きな溜息。けれどそれも、口元を覆うマスクに吸い取られる気分。
 今年は、花見どころではない。仕事も儘ならず、ただ家に閉じ籠る日々。時々気分転換に散歩に出るものの、極力接触を控えている。
 世間を騒がせている緊急事態宣言。昔、似たような題目のツアーを海外でやったことがあったな…などとぼんやり考えながらも、現状を考えると溜息しか出て来ない。
 溜息を吐き出しつつ、軽い運動を兼ねた散歩を終えて自宅へと戻る。
 習慣と化した、うがいと手洗い。せめてもの自己防衛をしつつ、コーヒーを淹れにキッチンへと向かう。
 このところやることと言えば、急遽早まったアルバム作りの作業。その合間に気分転換しつつも、極力出歩かないように、閉じ籠ってはいるものの…既に、朝起きると何曜日なのかさえすんなり思い出せない。
 幾度目かの溜息を吐き出し、淹れたばかりのコーヒーのカップに口をつける。
 先の見えない日々。幸い、今のところ体調は良い。つまり…腐るほど、時間がある。
「…あんなこと、言わなきゃ良かったかな…」
 思わず零した言葉。勿論、ただ零しただけの言葉に、世界中を脅かすほどの威力などないのだが…それでも、ほんの少しの後悔が胸に残っていた。

◇◆◇

 音量を絞り、ほぼ垂れ流し状態のテレビのニュース番組が相変わらずの現状を伝えている様子をぼんやりと眺めていたその耳に届いたのは、スマートフォンの着信音。
 ハッと我に返り、置き去りにしていたスマートフォンに手を伸ばすと、久し振りに見た数字の羅列。
 すぐに回線を繋ぐと、聞こえて来た声。
『清水?』
「…あぁ、エース…」
 懐かしい…と言うか、ほぼほぼ自分の声と同じなのだが…それでも、懐かしい相棒の声に、ほうっと息を吐き出す。
『いきなり溜息かよ』
 くすくすと笑う声に、切羽詰まった内容ではないのだろうと察するものの…今この状況で連絡を取って来た理由がわからない。
「…何の用だよ…」
 そう問いかけると…今までくすくすと聞こえていた笑いがピタッと止まった。
 そして。
『何だか知らないけど、気に病むことでもあるんじゃないかと思ってな。俺の声が聞きたかっただろう…?』
「自惚れもほどほどにした方が良いんじゃないか?」
 口をついて出た言葉は、何処か邪険にした、そんな言葉。だが、簡単に諦める相手でもなかった。
『自惚れじゃないさ。御前の波動が酷く不安定だったからな。多分…本田じゃ、そこまで感じ取れないだろう?』
「…エース…」
 やはり、侮れない相手。何処までも見抜いている。それが嫌味に思えなくもないが…今は、とてもホッと出来た。耳の奥に残る笑い声に…そして確信をついた言葉に、やはり誰よりも察してくれているのだろうと。
『…で?何を気に病んでいるんだ?』
 改めて問いかけられ…僅かに口を噤む。そして少しだけ考え…口を開いた。
「あのさ……俺の言葉の威力、って…どのくらいのモノだと思う…?」
『…は?言葉の威力…?』
 問いかけた言葉の意味が…果たして、何処まで通じているか。そして、何処まで理解をしてくれるか。その想いを汲み取ってくれるか。それは彼にもわからない。だが…相手なら、断片ぐらいは察してくれるのではないかとの期待を込めた言葉。
 答えを待つ彼の耳に、小さな溜息。そして。
『まぁ…気にするなよ。御前の心配事なんて、大した問題じゃない。幾ら悪魔の媒体だったからって、今の御前は普通の人間だから。御前の言葉の威力がデーモンの言霊を上廻るくらいだったら、今頃平然と生活なんかしていられないから』
「…そりゃそうだろうけど……って言うか、何、知ってんの?俺の心配事」
 相手の言葉は正論。当然、非の打ち所がない。だがしかし。相手が何処まで知っているのか。
 だが、相手は彼の言葉に再び笑いを零す。
『俺が知らないとでも?知ってるに決まっているじゃないか。あれだろ?"オリンピックが中止になれば良いのに"、とか言うぼやきだろう?』
「……知ってんのかよ…」
 思わず零れた溜息。
『小耳に挟んだ程度だから。それに、御前の言葉一つで、世界を脅かす事態になる訳ないだろう?さっきも言ったが、デーモンだってそこまでは難しいんだから。それを上廻るくらいなら、占い師だとか預言者だとか、そう言う仕事の方が向いているって話だ。そりゃ、ミュージシャンって言うことを加味するなら、聞く人の心に響く言葉を伝えられる方が良いけれどな。でも、御前が必要以上に心配する必要はないから。今回のことは、全く関係ないからな。同じようなことを思っていた奴だって大勢いるから。それに中止じゃなくて、延期だろう?半減してるじゃないか』
「…そりゃそうだ。確かに半減だな。まぁ、普通に考えたらそうだよな…俺が"中止になれば良いのに"、ってぼやいたくらいで本当にそうなるんだったら…もっと、違う能力の使い方をするよな…宝くじ当てるとかな…」
 全く以って、正論。タイミング的に現実になってしまっただけで、そこまで心配する必要はない。それを改めて言って貰えただけで、ホッとした。
 だがしかし。そう言って貰えることを期待していた癖に、いざ知られていると思うと、覗かれているようで余り好い気はしない訳で。
 それを察したのか、相手は再び口を開く。
『別に、御前の私生活を覗き見している訳じゃないからな。たまたま、そんな話をしているのが聞こえたんだよ。ライヴ中だっただろう?御前がギター弾いている時は、結構聞こえるんだ。やっぱり、今でも何処かで同調するんだろうな。俺も御前の音が聞こえると嬉しいんだ』
 改めてそう言われると、ちょっと考えてしまう。
 今でも、何処かで繋がっている。そう感じられることは、とても嬉しい。自分が奏でる音を、その音に乗せる歌を、聞いてくれていることもとても嬉しい。
 けれど…本当に、それだけで良かったのだろうか。今更ながらに、そんな想いが過る。
「…御免な…今回も…」
 ぽつりと零した言葉。短いその言葉の意味は、相手にはすぐわかる。だからこそ、相手は笑った。
『謝るな。御前がこうしたい、って決めたことだろう?俺は、留守番で大丈夫。王都の上層部が根こそぎいなくなるのもどうかと思うしな。俺とダミアン様とで留守番していると思ってくれれば良いだろう?』
「…エース…」
 もう直…悪魔たちがやって来る。そこに参加しない自分は、やはり何年経っても自分の中で小さなしこりが残っているような気がしてならない。そんな想いも、相手は察しているのだろう。
『毎回言っているけれど、気にしなくて良いから。デーモンには、俺からもちゃんと話してあるし、他の奴らもちゃんとわかってくれているから。御前は、御前がやりたいことをちゃんと全うすること。それが、彼奴らの想いに応えることにもなるから』
 毎回…この話が出ると、胸が痛い。けれど、それを丸ごと受け止めてくれる相手の言葉。それがいつも、胸の痛みを癒してくれる。以前よりもすんなりと連絡を取れるようになったことで、尚更安心する。
『このところ、家に籠ることが多いんだろう?ヒトと接していないと、どんどんネガティブになるから。電話でも良いから、ちゃんと誰かと繋がっていろよ』
「わかってる。それは心配しなくても良いから。今は外で仕事も出来ないけれど、何もしていない訳じゃない。これからの準備を始めているから、本田とも連絡を取っているし、他の現場の相手とも今後の予定の話を電話でしたりしているから」
 そうは言いつつも、引き籠りの一歩手前にいるのではないかと思ったりもしていたので、やはり心配して貰えるのは嬉しかったりもする。
 何よりも…それが、自分が一番大事な相手であれば尚更。
「…有難う、な。心配してくれて」
 改めてそう言うことも、照れ臭いが…今は素直に、その想いを伝えたかった。
『頑張れよ。今を乗り切れば…いつか笑い話に出来るから。今のうちに、ネタ貯めとけよ』
 相も変わらず、笑う声。その声が、とても心地良い。けれど…もう一つ、足りないモノ。
 彼は手にスマートフォンを持ったまま、洗面所の鏡の前へと向かう。そして、そっと手を伸ばして目を閉じた。
「…顔…見せて、エース」
 久し振りに、呼びかけてみた。そっと目を開けると、そこに映っていたのは白い顔に赤い紋様を頂いた悪魔。
『そんなに甘い声で呼ばれちゃ、顔を見ない訳にいかないよな…?』
 気障なセリフ。けれど、それがまた良く似合う。
 自然と彼も、笑いを零した。
「相変わらず…だな。ちょっと老けたみたいだけれども」
『ばぁ~か。それは御前も一緒だから』
 その言葉も嫌味にならない。それだけ、すっきりした気分だった。
 今がどんなであれ…やはり、築き上げた絆は、そう簡単に切れるものではない。ましてや、同じ"身体"を共有した共同体であるなら、尚更。顔を見るだけで、何よりも安心出来た。
「やっぱりあんたは変わらないな」
『変わってたまるか。俺は…何も、変わらないから。心配するな』
 色々な意味を含んだ言葉。そう感じたのは…彼自身、色々な想いが心の中にあったからだろう。けれど、何の心配もいらないと言われた言葉は、すっと胸に染み入る。
『もう少しの辛抱』
「…あぁ」
 そう。明けない夜はない。全世界を脅かしている"元凶"だって…必ず、収束する。
 だからそれまで、自分の出来ることを精一杯やれば良い。
 すべてが収まって、以前と同じ日常が戻って来た時に、その成果をきちんと見せられるように。
「頑張りますよ」
 苦笑しながら答えた声に、琥珀色の瞳がすっと細められる。そしてやはり笑い声が届く。
『ファイトー』
「おー」
 昔から変わらない。その"日常"が、そこにあった。

◇◆◇

 緊急事態宣言が出された非日常。
 今までと違う"日常"がそこにある。
 けれど、今までと変わらない"日常"の為に。
 今暫くの辛抱と、休息を。
 何よりも大切な、"日常"の為に、自分に出来ることを。
 "do one's bit"
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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