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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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BROKEN ANGEL 1
こちらは、以前のHPで2003年01月04日にUPしたものです
 4話完結 act.1

拍手[1回]


◇◆◇

 濃い灰色の雲が、薄闇の中に立ち込めている。
 胸の底から何かに圧迫され、呼吸すら儘ならない。何者かに身体を束縛されている…そんな錯覚さえ覚える。
 苦しさは、何者の仕業か。

◇◆◇

「…デーモン」
 遠くで、自分を呼ぶ声がする。それを認識するや否や、意識は不意に引き戻された。
「…大丈夫か?だいぶ、魘されていたみたいだったが…」
 目を開ければ、自分を見つめる眼差しがあることに気付く。
「夢でも、見たのか?」
 労るような声と共に、汗ばんだ額に触れられた冷たい手の感触に、大きく息を吐く。
 呼吸は、苦しくない。胸の圧迫感もない。
「あぁ、大丈夫だ。悪かったな」
 そう言いながら、凭れて眠っていた椅子の背から身体を起こす。
 いつの間に寝入っていたのか、自分でも定かではない。
 確か、明日のオフが久し振りにエースと重なったので、自分の屋敷で一緒に酒を呑んでいたはず。そんなに強い酒を呑んだ訳でもないし、酔い潰れる程無理な呑み方をしたつもりもなかった。なのに、どうして眠っていたのだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、デーモンは再び大きく息を吐いた。
 何となく、身体が怠い。頭も重いような気がする。久々に、酒に呑まれてしまったのだろうか。
 傍らの存在は額に張り付いた黄金の前髪を優しく後ろに流すと、そのまま身体を寄せ、その唇を額に押し当てた。
「ちょっ……エース…っ!!」
「暴れるな」
 静かに返って来た声。突然の行動に頬を染めたデーモンをよそに、エースの冷静な声は更に言葉を続ける。
「御前、熱があるぞ。無理しないでさっさと寝ろ」
「…熱があるって?まさか」
「現に、顔が赤いじゃないか」
「……」
 それは、熱の所為じゃないだろうが…
 デーモンの眼差しはそう言いたげであったが、エースはそんなことに気を留めない。
「熱を計るには、唇で計るのが一番いいんだ。唇は、熱に敏感だからな」
「…それならそうと、最初に言ってくれ…」
----動揺した自分が、馬鹿みたいではないか…
 つぶやきかけて、その言葉を飲み込む。これ以上口走ったら、何を言われるかわかったものではない。
「…熱があるように思うのは、呑み過ぎた所為ではないのか?」
 実際、デーモンはそう思っていたのだから。
「ばぁか。熱が出る程、呑んでない。グラス一杯のワインでいきなり潰れたんだぞ?具合が悪いか疲れが溜まっていたかのどっちかだろう?それに熱がプラスされているんだ。具合が悪い以外の何があるんだよ」
「……」
 正当なその判断に、思わず溜め息を一つ。
 何とも間抜けな醜態を曝してしまったものだ。たった一杯で潰れたなど…今までになかったことだ。我ながら情けない。まぁ、デーモンの表情から察する心境は、そんなところだろう。
 エースは溜め息を吐くと、デーモンを無理矢理ベッドに押し込む。
「…とにかく…安静にしていてくれ。酷くなられると困るんだ…」
 その言葉に、デーモンは僅かに眉を寄せる。
「たかが微熱ぐらいで大げさな…吾輩を重病扱いしてないか…?」
 思わずそう零したデーモンに、エースの表情がふっと曇る。
「…嫌なんだよ。御前の病に伏せる姿を見るのは…酷く…不安になる」
「…エース…」
 エースの言葉と、その不安そうな表情を前に、ふと過ぎった想い。
 デーモン自身は、自分事だったのでそこまで深く考えたことはなかったが…以前、魔界全土を揺るがせたウイルス事件で、感染したデーモンを前にエースがどれだけ不安だったか。そして今、それを思い出したのではないか、と。
「…大丈夫だから。そんな顔するな。ちゃんと休むから」
 エースを宥めるには、自分が妥協するしかない。
 そう思いながら口にした言葉に、エースは大きな溜め息を一つ。
「ゼノンには、連絡を入れておくから。無理するなよ」
 そう言いながら優しくデーモンの髪を梳いてやり、その瞼にそっと口付ける。
「今日は傍にいるからな」
「…あぁ」
 部屋の灯りを落とし、枕元のライトだけを灯す。その薄闇の中、デーモンの意識は再び眠りに落ちかけていた。

 どれくらい、眠っていたのだろう。日差しが眩しくて目を開けたものの、割れるように頭が痛い。
「…エース?」
 傍にいると言っていたはずの姿を捜したが、部屋の何処にもエースの姿はない。今日はオフのはずだから、局に向かっているはずもない。
 デーモンは怪訝そうに眉を潜めながら、怠い身体をベッドから起こす。昨夜より、熱が上がったようだ。しかも、頭は痛いし、吐き気もする。
 エースの心配が現実になってしまった。そう思いながら、溜め息を一つ。
「エース」
 呼びかけたが、返って来る声はない。
 一体何処に行ったのかと思っていた時、そのドアがノックされる。
「エースか?」
 開いたドアから顔を覗かせたのは、デーモンの屋敷の使用魔。
「御目覚めになられましたか?」
「…あぁ、アイラか」
 見慣れた使用魔の姿に息を吐き出し、デーモンはこめかみに手を当てる。
 先程から、酷く頭が痛む。
 痛みに顔を歪めたその姿に、アイラは眉を潜める。
「頭痛、ですか?御顔の色も悪いようですが…」
「あぁ、昨夜から少し具合が悪くてな。それより…エースが何処にいるか、知らないか?」
「…エース様ですか?いえ。夕べいらしてから、わたくし共は、御見かけしておりませんが…御帰りになられたのでは?」
「…吾輩の具合を心配して、傍にいると言っていたんだが…」
 屋敷の中にいないとなると、その行き先は全くわからない。
「何処に行ったんだ?彼奴…」
 眩暈がした。これは相当酷いのだろう。
「…もう少し休ませて貰う。食欲がないから、食事はいらない」
「わかりました。午後にはゼノン様がいらっしゃるそうですので、ゆっくり御休み下さい」
 エースは夕べの約束通り、ゼノンには連絡を入れたのだろう。だが…その姿は、まるで消えてしまったかのようで。
 溜め息を吐き出しつつ、再びベッドに潜り込んだデーモン。その意識は、直ぐに闇へと落ちて行った。


 酷く、頭が痛い。その意識の中に、何処か遠くで呼ばれているような気がする。それも、聞き慣れた声。
 これは、誰の声だっただろう。
 ぼんやりとした意識の中、デーモンはその声の主を思い出していた。そうだ。この声は彼奴じゃないか。
「…エース?」
 ふと口元から零れた言葉。戻りつつある意識の片隅に、直ぐ傍に誰かがいる気配がする。
----あぁ、エースが戻って来たんだ。
 そう判断した意識は、我に返る。
「…エース、何処に行っていたんだ…?」
 つぶやきながら開けた瞳に映ったのは。
「…大丈夫?」
「…ゼノン」
 エースでは、なかった。
 心配そうに覗き込んだ眼差しに、己がどれだけ酷い醜態を晒していたのかを察した。汗ばんだ額に、黄金の前髪が張り付いていることで、酷く汗をかいていたことも察することは出来る。
 刹那。突然の吐き気に襲われ、口元を押さえたデーモンに、ゼノンは焦って近場にあった洗面器を差し出すと、その背中を擦ってくれる。
「無理して堪えないで。胃の中のモノ全部吐き出した方が楽になるから」
 既に、副大魔王の威厳どころの話ではない。医師と言う姿を見せるゼノンの前、デーモンは患者でしかないのだから。ここは、素直に従った方が良いだろう。
 胃の中のモノを全て吐き出したデーモンは、咳き込みながらもやっと落ち着きを見せた。その背中をゆっくりと擦りながら、ゼノンは洗面器の汚物をデーモンの目に触れないところに置く。それは、病魔を前にした医師の行為にまるで代わりはない。
 そして、落ち着いたデーモンを再びベッドの中へと促して、改めて問いかける。
「大丈夫?」
「…あぁ、何とか…」
「ちょっと、熱計らせて」
 額に置かれたゼノンの手は冷たくて、とても心地良い。
「だいぶ、熱があるね。頭痛もするんだって?」
「…御前を呼んだのは…エースなのか?」
「そう。夕べ、デーモンの具合が悪そうだから、ちょっと見て貰いたいって。ちょっと忙しくて、午後イチになっちゃったんだけど…エースがいないんだって?御前が心配してるってアイラが言ってたけど」
 そんな話をしながら、デーモンの表情をじっと見ていたゼノン。勿論、その表情が心配そうに歪んだことも、見逃さなかった。
「昨夜から具合が悪かったの?」
 ゆっくり、そう問いかける声。
「…あぁ。初めは何となく怠かったんだ。そのうち、エースが熱があるだのなんだのと言い出して…傍にいてやるからゆっくりと休めと言っていたんだ。それが、今朝になったら姿がなかった」
 デーモンは、酷い頭痛と熱に、気怠げに目を伏せ、そう言葉を零す。その言葉に、ゼノンは溜め息を一つ。
「さっき…御前が目覚める前にね、情報局の方に連絡は入れてみたんだ。でも、リエラは知らないって。今日はオフの予定なんだってね。元々、登庁の予定はなかったから無理もない。あと、屋敷にも連絡入れたんだけど…ティムもわからない、って。まだ帰ってないらしい。エースの外套は残ってたから、外には出てないと思うんだけど…」
「しかし、この屋敷で姿は見られていないんだ。他に、何処に行くと言うんだ?」
 再び目を開けたデーモンは、ゼノンに視線を向ける。
「それなんだけど…」
 一つ、呼吸を置いてゼノンはデーモンを見つめる。その眼差しは、最早単なる医師の眼差しを通り越していて。
「…王都の付近の街を中心にして、突然行方がわからなくなる者が後を絶たないんだ。でも…行方がわからなくなった者はみんな…エースと同じように、病魔の看護をしていた」
「…と、言うことは…」
「デーモンと同じ症状の患者ばかりだよ。頭痛、熱、吐き気、関節痛…どれも風邪の症状と一致するんだけど…その看護をしていた者ばかり、ざっと考えても二~三十名はいると思う。可笑しいと思わない?同じ症状を訴える者の看護にあたっていた者ばかり、ごっそりいなくなるってのも…」
「理由があると言うのか?」
「多分。まだ、何も掴めていないけど」
 小さな溜め息を吐き出すゼノンに、デーモンは夕べのエースの姿を思い出した。
「…具合が悪いのは…何かのウイルス、ってことはないよな…?」
「…デーモン…」
「エースが…心配していたんだ。吾輩が病に伏せっている姿を見るのは…酷く不安だ、と…」
 その言葉に、ゼノンは大きな溜め息を一つ。そして、目を伏せる。
 嘗ての出来事が…エースのトラウマになっていたのだろうか。尤も…今回は全く無関係だ、と言い切れないのは…ゼノンもまた、その記憶を引き摺っているから、だろう。
「調べて来るよ。でも今回は…種族はバラバラだよ。そこに、規則性はない。王都付近の街とは言え…伏せっているのは一般悪魔。勿論、行方不明者も同じ。狙う理由はわからない」
「…そう、か。そう言えば…吾輩も何日か前に…用事があって王都の外へ出たな…近くの街にも立ち寄った…」
 ふと思い出し、そう口にする。すると、途端にゼノンの表情が変わった。
「御免、血液取らせてくれる?」
「…あぁ」
 それが原因だったのなら、デーモンが発症したきっかけが確かとなる。
 テキパキと準備をして、採血をする。その最中。
「…さっきの話、エースにもした?」
 問いかけられ、記憶を辿る。
「…いや…何も話していないと思う。尤も…無意識で…となると、確証はないが…エースに聞かせるほどの面白い話でもないしな。取り立てて何か気になることがあった訳じゃない。ただ、休憩に立ち寄っただけだからな…」
「そう。わかった。取り敢えず…これを調べて来るから」
 ゼノンは採血を終えると、デーモンを寝かしつける。
「色々ありそうだから、調べて来るよ。デーモンはゆっくり休んで」
「あぁ、そうさせて貰う」
 目を閉じたデーモンを落ち着けるように、ゼノンはその手で張り付いていた黄金の前髪を後ろへ流してやる。柔らかなその仕種は、エースとはまた違った安らぎを与えてくれる。
 ライデンはいつも、こんな風にして貰っているのか。
 そんなことを考えながら、デーモンは再び眠りの淵に落ちていた。

 次にデーモンが目を覚ますと、既に日は傾いていた。
 まだ頭が痛むものの、気分は前程悪くない。少し起きても大丈夫だろうと、デーモンが半身をベッドの上に起こした時。
「デーさん、起きてる?」
 ルークの声がした。
「あぁ」
 短く言葉を返すと、開かれたドアからマスクをしたルークが顔を覗かせる。
「具合、どう?」
「それなりに…と、言うところだな」
「そう。良かった」
 マスクをした目が笑っている。ルークは、椅子を引き摺り寄せ、デーモンの枕元の傍に腰を下ろした。
「ゼノンがね、目星が付きそうだって言ってたよ」
「目星?」
 怪訝そうに眉を潜めたデーモン。
「そう。巷に流行ってる例の奇病。どうやら、変なウイルスではないみたい。ただ、感染ルートは確かに王都の外の街で流行ってる風邪の一種だったみたい。ただ…そこからが奇妙なんだよね」
「…奇妙…?」
 先ほどからどうも、話が可笑しな方向へと向かっている。そう思いながら、デーモンはルークの顔を見つめていた。
「"夢"…見なかった?何者かに身体を束縛されているような、そんな重苦しい"夢"」
「………見た…」
 ドキッとして息を飲むと、ルークは溜め息を一つ吐き出した。
「やっぱりね。ゼノンに頼まれてちょっと調べて来たんだけど、看病していた悪魔の行方がわからなくなる前、病魔はみんな、同じような奇妙な夢を見ているんだ。多分…病気のウイルスに、何らかの呪を乗せているんだと思う。だから、同じ夢を見るんだ。そう考えると…夢魔、夢織人の可能性がある」
 夢魔と夢織人。基本的に、夢を操るのはどちらも同じことである。夢魔と夢織人の違いはと問われれば、それは所属世界の違い。夢魔は魔界に、夢織人は天界に。それが、基本的な区分けであった。
「夢織人が絡んでるなら、それは天界の差し金だよね。でも、夢魔が絡んでいるのなら…魔界への反逆行為だ。見逃す訳にはいかないんだよね。それに…"魔界防衛軍"のこともあるからね。もし、そこに関わっているのなら…って思う訳」
 "魔界防衛軍"の言葉に、デーモンは再び息を飲む。
「しかし…今や、主を失った"魔界防衛軍"は機能していないだろう?夢織人の気も感じなかったぞ。と、なれば…必然的に夢魔の仕業だろう」
 確かに、デーモンの言う通り。"魔界防衛軍"の要たるソウェルは、完全に姿を消した。その状態で、厳重な警戒態勢の中で、誰が跡目を継いで動き出すと言うのか。
 けれど、ルークは溜め息を吐き出しながら、首を横に振った。
「彼奴等を甘く見ない方が良い。何処で、どんな手段を使って来るかわからないからね。だからこそ、様子見のまま、警備を緩めてないんだよ」
「…まぁ…それはわかっているんだが…今回は何となく、方向性が違うんじゃないか?消えたのは、エースを除いてみんな街の一般悪魔だろう?魔界の戦力になっている訳でもない。天界に狙われる意味がわからないだろう?まぁ…夢魔だとしても、一般悪魔を消す必要性は何処にもないと思うんだが…」
「そうなんだよね。問題はそこなんだよね…」
 デーモンの言うことは尤もである。
 戦力の要である者たちを消すのならともかく、全く関係のない一般悪魔が標的になった理由がわからない。デーモンも偶然立ち寄った街での感染だったのだから、エースに関しては運が悪かったとしか、言いようがない。
 ともかく、夢織人だとしても、夢魔だったとしても…"魔界防衛軍"だったとしても、今回の事件は利益を得るはずがない。
「…それはそうと、ゼノンはどうした?」
 そう言えば、ゼノンはどうして自分で報告に来なかったのか。
 そんな思いで問いかけたデーモンの声に、ルークは再び溜め息を吐き出す。
「ゼノンなら、自分の屋敷にいるよ」
「こんな早くに?まだ、終了時間ではないぞ?」
「ゼノンも、熱出したんだよ。もしかしたら、ここに来た時に感染したのかなと思って、俺が屋敷に帰した。俺も直接ゼノンには会ってないし、今はマスクしてるからね。あ、因みに結界も張って来たし。自分の身は自分で護らないとね」
「そうか…」
 確かにルークの言う通り。良く見れば、その身体にうっすらと光のバリアが見える。確かに、空気感染ならば、それが一番有効なのかも知れなかった。
「ま、一番傍にいる奴が消えるんだから、傍には誰も近寄らせないとは言っていたけどね。少し、様子を見ようかと思って」
「その方が良いだろうな。もし仮にエースが捕まっているのだとしても…もしかしたらエース自ら、何らかの手段を取れるかも知れないしな…」
 エースの事。帰って来られない、と言う状況に、ただ身を置いているはずはない。
 彼は、必ず帰って来る。
 デーモンはそんな思いから、小さく微笑んでみせる。そんな姿がいじらしく思えたのか、ルークは軽く微笑み、目を細める。
「…必ず、解決策を見つけるからね。心配しないで」
「頼んだぞ、ルーク」
「任しといて。こう見えても軍事局のトップなんだから」
 確かにその言葉の通り、ルークに任せておけば大丈夫だろうと察したデーモンは、再びベッドに潜り込む。
「悪いが…もう少し休ませて貰うぞ。ゼノンのことは、出来るだけ気にかけてやってくれ」
「わかってるよ」
 にっこりと微笑むルークに、安堵の溜め息を吐き出したデーモンはそっと目を閉じる。
 これ以上、何も起こらなければ良いのだが…
 そんな思いを胸に抱きつつ、眠りの淵に落ちていた。

◇◆◇

 既に日は落ち、空には青白い月が昇っていた。デーモンの屋敷から帰る途中、ルークはゼノンの屋敷にも足を運んでいた。
 使用魔であるレプリカに案内されたのは、いつもの自室ではなく、更に奥の書斎。
「…ちょっとぉ…病魔は寝てなきゃ駄目じゃん」
 ガウンを羽織ってマスクをして、大きな本棚の前に立つゼノンに、用心の為相変わらずマスク姿で結界を張ったルークは呆れたように、そう言葉を発する。
「うん…でも、気になることがあって…」
 そう答えたゼノンの顔色は、優れない。頬が僅かに赤いのは、やはり熱の所為なのだろう。
「熱は?」
「…ちょっとだけだよ」
「どれ」
 曖昧に逃れようとするゼノンを押さえ付け、ルークはその額に手を触れる。
「…あんたねぇ、これをちょっとって言うのは、デーさんが平熱だって言うのと一緒だよ」
 ホントに、こいつは…
 ルークは無理矢理ゼノンを引き摺り、寝室へと連れて行く。ゼノンの熱は、尋常ではない。下手をすれば、本当にデーモンよりも高いかも知れない。
「ホント、医者ってのは自分の身体はどうでも良い訳ね」
 呆れた溜め息を吐きつつ、ルークはゼノンをベッドの中に押し込め、自分は椅子を引き摺り寄せ、ベッドの傍に腰を落とす。
「…デーモン、どうだった?」
 自分が病魔であると言う自覚に欠けているゼノンは、平然とそう問いかける。
「それなりに…だって。熱も少し下がったし、顔色もそんなに悪くなかった。俺から言わせて貰えば、あんたの方がずっと病魔なんだけど?」
「…そう。それより、ちょっと机の上の書類、取ってくれる?」
 ルークの話を聞いているのかいないのか…ゼノンはルークにそう声を返す。
「ったく…呆れてモノも言えないんだから…」
 ほとほと呆れた。ルークの表情は、まさにそれである。しかし、ゼノンの頼みをきちんと果たしてやるところは流石にルークである。
 机の上に投げ出されている書類を持って来ると、ゼノンはベッドから上半身を起こし、ルークを見つめた。その眼差しは、病魔ではない。
「ここに帰って来る前、ちょっと情報局の資料室から借りて来たんだけど…」
 それは明らかに、ゼノンが今手にしている書類である。
「前期の採用者名簿?」
「そう。それも、軍事局のね」
「…どう言うことだよ、それは…」
 ルークが良い顔をしないのは、無理もない。よりによってルークのいる軍事局、なのだから。
「これを、見てくれる?」
 そう言って差し出されたのは、総務部の主任補佐。その名前はヴィニーと言う。
「あぁ、こいつの話なら、聞いたことがある。何でも、天界から魔界に降りたんだよな?」
 かつての記憶を呼び戻すように意識を巡らせ、ルークはそう言葉を放つ。
「そう。夢織人から、夢魔に…ね」
「……」
 ゼノンの言わんとすることは、ルークにもわかった。尤も疑わしいのがヴィニーだと言いたいのだろう。
「…証拠は?」
 僅かにムッとした表情に加えて、その口調も明らかに不機嫌。
「ないよ。俺だって、出歩いている訳じゃないからね。でも、状況から言って彼が尤も疑わしいって言うことには、間違いないはずだよ」
「でも…」
 納得出来ないことは、初めからわかっていた。そのルークに言い聞かせるかのように、ゼノンはゆっくりと柔らかい口調で、言葉を選んでいた。
「…御前の気持ちは、わからないでもないよ。でも、見逃しておく訳にはいかないでしょう?エースが、行方不明なんだから。ううん、エースだけじゃない…罪のない一般悪魔まで巻き添いになってるんだよ?それに、"魔界防衛軍"の疑いも晴れた訳じゃない。放っておく訳にはいかないよ」
「それはわかってるよ…」
 裏切り者、と言う言葉が、今のルークには一番堪える。それは、ゼノンもわかっていた。
 けれど、疑わしいからこそ、早急に手を打たなければ。ゼノンのその思いは、ルークにもわかっていた。
 ただ…心境穏やかではない理由は…それが天界から降りた者である、と言うことなのだ。
「とにかく…俺が、調べて来るから。だからあんたは、ゆっくり休んでろ」
 無理矢理にそう言葉を放ち、ルークはさっさと踵を返してゼノンの部屋を出て行った。その後ろ姿を、ゼノンは溜め息と共に見送る。
「…どう仕様も、ないんだよね。こればっかりは…」
 それを伝えなければならない立場であったゼノンも、好き好んでこんな役割を買って出た訳ではないのに。
 大きな溜め息は、ルークには届いてはいなかった。
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プロフィール
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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