聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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Re Start 前編
それは、再々結成から二年ほど経った頃。
微妙な距離に納まっていた俺たちは…新たな分岐点に立っていた。
その日仕事を終えて夜遅くマンションへと戻って来ると、そのエントランスの傍…壁に寄りかかって座り、携帯ゲームをしている姿が一つあった。
リュックを抱え、Tシャツに細身のジーパン。帽子を目深に被り、顔は良く見えないけど眼鏡をかけ、少し伸びた襟足を無造作に束ねた髪。はっきり言って、見た目は不審者そのものだ…。でも…。
「……湯沢くん…?」
それは、見覚えのあるシルエット。思わず声をかけると、ふっと顔が上がる。
眼鏡をかけたその顔を…久し振りに見た。
「おぉ、御帰り」
「…待ってたの?」
「うん。まぁ…」
微妙な返事。
「…取り敢えず…入る?」
「…良いの?」
「何を今更、遠慮なんか…それに、そのままそこにいると、不審者で通報されかねないよ…?」
「いや、それはマズイでしょ…」
「だから、ほら」
思わず苦笑すると、オートロックの玄関を開け、湯沢くんを促してエレベーターで部屋へと向かう。
「いつからあそこにいたの?」
そう問いかけると、湯沢くんは腕時計を見た。
「…二時間前ぐらいから?」
あの姿であの場にいて…他の住人も良く二時間も見逃してくれたものだ…。
「…連絡入れてくれれば良いのに…」
「いや…仕事中だと思ってさ…」
そう言うところは、妙に遠慮するんだから…。
「仕事終わってから見てわかるんだから。待ってるならもっと早く帰っても来れたんだし…用があったらちゃんと連絡してよ」
「…うん、御免…」
正直…あんまり、視線が合わない…。
湯沢くんは目線を落として足元を見つめたまま。そのうちに自宅のある階に着いた。
「まぁ…どうぞ。ちょっと散らかってるけど…」
「平気平気。お邪魔しま~す」
その辺はあまり変わりない。でも、部屋の中をぐるっと見回して、小さく笑っていた。
「何?どうかした…?」
何か、笑いを誘うものでもあったかな…と思いつつ聞いてみると、湯沢くんは首を横に降った。
「いや、変わらないな~と思って…ここに来るの、何年振りだっけ…?」
「何年だったっけね…」
俺は、荷物を片付けながら考える。
RXを休止して、何となく離れる時間が増えてから…御互いの足が徐々に遠退いて行った。そう考えると…ざっと五~六年は経っているだろうか。
と言うか…それに関しては、湯沢くんが悪い訳でもない。御互いに違う仕事で忙しくなって、すれ違い始めたのがきっかけだったんだ。それに関しては、一回揉めたな…とか思い出していた。
でも、その後はちゃんと御互いに納得して過ごせていたし、二十五周年ではツアーも普通に熟した。家への行き来がないだけで、その後も気まずい関係になった訳でもない。
ただ…変わらずの恋人同士、と言うのは…今では微妙だけど。
どちらかと言えば…今は、親友…と言うべきなんだろうか…。
「…何か飲む?」
荷物をしまい、一息ついてから問いかけると、湯沢くんはソファーに座っていた。
「…ビール飲みたい。ある?」
思いがけない言葉だ…。
「…あるけど…大丈夫?」
「大丈夫」
「そう…?」
まぁ、大丈夫って言うなら…と、俺は冷蔵庫から缶ビールを出し、グラスと一緒にソファーの前のテーブルに置く。
「今、おつまみ何か出すから待ってて」
「…うん」
簡単に見繕ったおつまみを出す。でも湯沢くんはぼんやりとテーブルの上を見つめたまま…。
「…どうしたの?」
問いかけた声に、湯沢くんはハッとしたように顔を上げる。
「御免、眠くなって来た…」
「…は?」
思わず、時計に目を向ける。まぁ、確かに…もう日付は変わる頃だけど。
「…何か、安心するんだよね、この部屋。だからつい…御免ね」
「まぁ…良いけど…」
やっぱり…何か変。
俺もビールを飲みながら、ちょっと様子を見ることにしたんだけど…。
湯沢くんはグラスに半分、ビールを注ぐと、一気に飲み干す。
「あ~ぁ…」
思わず…口が開いてしまう…。大丈夫かな、この人…。
「ちょっ…ホントに大丈夫…?」
多少は呑めるようになったとは言え…いきなり一気呑みをしたら、まぁ…マトモではない訳で…。
トロンとした眼差しで、俺を見据えた湯沢くん。
そして。
「…今日、泊めて」
「…別に良いけど…」
俺がそう返すと同時に、湯沢くんは眼鏡を外してテーブルに置くと大きな欠伸を零し、コテンとソファーに横になる。そして、速攻寝てる。
本当に眠かったんだろうけど…何か解せない…。
「…まぁ…良いけどね…」
溜め息を一つ。どうせ、朝まで起きないだろうから…このまま、寝かせておこうか…。
湯沢くんが寝てしまったので、俺は風呂に入って暫し。そして戻って来ると…湯沢くんは起きていた。俺が、さっき上にかけた毛布に包まって、眼鏡をかけずにソファーに座っている。
「起きた?泊まるなら、お風呂入る…?」
問いかけてみると、ぼんやりとした表情のまま、首を横に振る。まだ半分、寝てるのかも…と思いつつ、グラスに水を一杯、入れて持って来た。
「飲む?」
「…飲む」
グラスを受け取って、中身を一気に煽る。そして、手の甲で口元を拭いながら、グラスをテーブルに置く。
そして、一息。
「…何か、あった…?」
ふと、そう問いかけてみる。どう考えても…ここ最近の、俺の知っている湯沢くんではない。
問いかけた俺の言葉に、湯沢くんは暫く口を噤んでいた。けれど、その表情は何かを言おうとしているのは間違いない。
そして暫くして、やっと口から零れた言葉。
「ねぇ……まだ、俺のこと…好き?」
「…はい?」
問いかけられた言葉の意味を…一瞬、考えてしまった…。
「…好きだよ?」
返した言葉に、湯沢くんは喰い付いて来る。
「どれくらい?」
「どれくらい、って…」
「…まだ…俺を、抱ける?」
「…湯沢くん…?」
思いがけない言葉に、思わず答えに困る。
「…年相応に、性欲も落ち着いたんじゃなかったの…?」
つい、そう問いかけてしまったが…大きく息を吐き出したのは、湯沢くんだった。
「…それは置いといて…あんたは、どう思ってるの?」
何があったのかは知らないけど…真剣に俺を見つめる眼差しに、嘘はつけない訳で…。
俺は、湯沢くんの顔を見つめたまま、小さく吐息を吐き出す。
「…抱けるよ。当たり前でしょう?俺の気持ちは変わらないもの」
「…そっか。なら…良かった…有難うね」
その言葉に…ちょっとイラっとしたのは、どうしてだろうか。
俺は…何を、期待したんだろう…。
そう思った途端、その気持ちは言葉として、零れていた。
「…どう言う事?俺を、試してるの?いつまでも自分のことを想ってくれているか…確認に来たって?それで自分だけ満足して、じゃあまたね、って?何それ…訳わかんないよ」
咄嗟に言ってしまってから…言わなきゃ良かったと思った。
久し振りに会って、何て会話をしているんだか…。そんなに溜め込んでいたのかと、自分でも情けなく思う。
そして…溜め息を、一つ吐き出す。
「…御免。言い過ぎた…」
俺の言葉に、暫く固まっていた湯沢くんも、大きく溜め息を吐き出す。
「…ううん。俺がいけなかった…御免ね。変な言い方した…そう言う事じゃないんだ…」
湯沢くんは、目を伏せ、膝を抱えるように毛布に顔を埋めた。
その姿に…ふと過ぎった想い。
「…他に、好きなヒトでも出来たの…?」
思わず問いかけた声に、湯沢くんはパッと顔をあげた。
「まさか。俺はあんたしか好きにならないよ。前からそう言ってるじゃん。別に、そう言うことじゃなくて…」
「じゃあ…」
再び問いかける声に、小さな溜め息が一つ返って来た。
「…最近…俺、ちょっと変かも…。仕事が上手く行ってない訳じゃないし、今の生活が不満な訳でもない。でも…何か、変なんだ。何か満たされない、って言うか…何かが足りない。それを他の誰かで埋めたい訳じゃない。そう思ったら、もしかしたら普通にあんたが足りないだけなのかな、って…ホント、今更良い迷惑だよね…御免…」
そう言って、再び溜め息を吐き出す。
「…戻りたいな…昔に…」
「湯沢くん…」
完全に毛布に顔を埋めてしまったので、その表情はわからない。でも…その声は、微かに震えていた。
俺は溜め息を一つ吐き出すと、湯沢くんの隣に腰を下ろした。
「…戻るとか、戻れないとか…そう言う事じゃないでしょ?前にしか進めないんだから、これからどうするかを考えないと駄目じゃない」
「…わかってる…だから、訳わかんなくて悶々としてるんじゃん…」
「…それもそうか…」
大きな溜め息を吐き出したのは、俺も湯沢くんも同じ。
「前も…何か揉めたよね、似たようなことで。あの時は、俺の方が酷かったけど」
そう。前も、離れた距離が急に不安になって揉めたんだ。その時…俺は、ゼノンに言われた。過去には戻れない。だから、進んだ先で新しい選択肢を見つければ良い、と。
進んだ道は…重ねた時間は、間違いではないと。
そうして俺たちは、御互いに、良い距離を保って、再び歩き出したはず。
「…多分…ほら、あれだよ。二十五周年でさ、久し振りに媒体に戻ったじゃない?その反動がずっと尾を引いてるのかも知れないよ?」
「…前の清水さんみたいに?」
顔を伏せたまま、湯沢くんはそう言葉を発する。
それは…俺たちにしても、ある意味衝撃だったのかも知れない。
主と媒体。その関係で、一番深かったが故に…失った反動も大きかった。そして、苦しい思いも沢山していたはず。
俺たちは、そこまで酷くはなかったけど…それでもやっぱり、悪魔がいなくなった身体は、何かが満たされない感覚は残っていた。
「…主の抜けた穴って言うのは、意外と根深いって言うのを実感したじゃない?俺たちも、そうなのかも知れない。ゼノンとライデンって、やっぱりずっと変わらず仲良いし、ほっとくとべたべたしてるし…だから、その反動も何処かにあるかな…と…」
自分でそう言いながら…多分、それはただの都合の良い言い訳であって、そんなことない、と思ってる自分もいる。
大体…二十五周年なんて、もう二年も前じゃないか…。今更、何の影響が出るって言うんだ。
別に俺は…ゼノンに感化されてる訳じゃない。俺は……。
「…俺は、御前に嘘はつきたくないし…誤魔化してまた揉めるのも嫌だから…今回は、はっきり言うよ。俺は、今でも御前が好きだよ。大好き。愛してる。どの言葉で受け取って貰っても構わないよ。俺の気持ちは、変わらないもの。前に揉めたあの時にもそうだったけど…年相応に落ち着いても良いと思ってた。でも…再々結成も経て、満たされない何かがあるとすれば…多分、ゼノンとライデンにあって、俺たちに足りないもの。その差だと思うよ」
「…それはわかってる。だから、聞いたんじゃん…俺を抱けるか、って…」
「…そう、だね。でも、俺はゼノンじゃないし、御前はライデンじゃない。俺たちは、俺たちのやり方で歩けば良いと思ってる。でも、御前が苦しいなら…俺は別に拒まないよ。御前が望むところまでは、協力するけど…」
そう言っては見たものの…湯沢くんは、顔を伏せたまま。
俺は立ち上がって冷蔵庫へ行き、缶ビールを取り出すと、湯沢くんに背中を向けたまま、そのままそこで飲み始めた。
不安は…ある。俺の気持ちを聞いてみただけで、湯沢くんはもう、そこまで踏み込まないだろうと。そう思いながら、俺はそれを口にしたのだから。
でも、自分で言い出したものの…協力、って何なんだか…素直に「今でも愛してる」って…「もう一度やり直そう」って言えないのは、俺も同じじゃないか…。
我ながら馬鹿だな~と思いつつ…溜め息を一つ、吐き出した時。
背後から、抱き締められた。
「…湯沢くん…?」
俺の胸の前で、しっかりと握り締めた両手。それだけがっしりと抱き締められたのは、久し振りだった。
肩口に顔を埋め、大きく息を吐き出している。
「…御免…駄目だ、俺…」
それが、どんな意味だったのか…到底、俺にはわからない。
「…別にさ、俺は今まで通りだから、さっきの言葉は何も気にしなくても……」
多分、俺の言葉を受け入れられないのだろう。そう思いながら口にした言葉を遮るように、湯沢くんは握り締めていた手を離すと、急に俺の身体をくるっと反対向きに回した。そして、自分と真正面で向き合う。
「……っ!?」
あれ……?
俺は…キス、されてる…?
一瞬、何が起こっているのかわからなかったけど…触れた唇の感覚は、昔と同じだった。
軽く触れた唇は、一旦離れて吐息を吐き出した後、再び深く押し当てられる。
長い口付けは…今までの時間を、埋めるかのようで。
懐かしい、甘い疼きのような感覚が、背筋を伝う。
唇を離し、大きく息を吐き出した湯沢くんは、再び俺を抱き締める。
「…ちょっと…成長した?」
…それは俺の体型のことか…自覚はあるよ。悪かったね…。
「…御前よりもちょっと中年なモンでね…良いよね、御前は変わらなくて。寧ろ…痩せた?と言うより…また引き締まった?」
「わかんないけど…でも、あったかいな…相変わらず」
くすくすと笑うのは…どう言う風の吹き回しか。
俺の方が、混乱してるし…。
思わず溜め息を吐き出すと、湯沢くんはちょっと離れて、俺の顔を覗き込んだ。
「御免ね?振り回して」
「…ホントだよ…結局、どうしたいの…何が、駄目なの?」
思わず溜め息と共に零した言葉に、湯沢くんは小さく笑った。
「…ホッとしたの。あんたが、変わってなくて。前に揉めた時は…もう、前みたいな恋人同士には戻れないなって思ってたんだけど…やっぱり俺、こうして触れてみてわかった。俺、あんたのこと好きだ。大好き。愛してる。石川くんじゃないけど、どれを受け取って貰っても良いよ。それだけの想いは、まだ俺の中にもあるんだって、再確認した。駄目だっていうのは…つまりね…」
そこまで言って、湯沢くんはちょっと口を噤む。
「…つまり?」
その言葉に続きが、聞きたかった。
すると、ちょっとだけ何かを考えて…時計を見て…それから再び、口を開く。
「明日…っつーか、もう今日か…仕事は?」
「…夕方から打ち合わせがあるけど…」
何でそこで、仕事の話…?
「そっか。俺は…明日は何もない。だから…」
「…だから?」
再び、そこに戻って来た。
「だから…風呂入って、"寝る"」
「…寝れば?」
「…一緒に、だよ?」
「…はい?」
「んもぉ、鈍過ぎっ!」
そう言うと、湯沢くんは身体を摺り寄せて来た。そして、俺の耳元で囁かれた言葉。
「……久々に、我慢出来ないんだけど」
「……あぁ、そうか」
駄目だ、って言うのは、そう言う事か…。やっとわかった…。
「………御免ね、ご無沙汰過ぎてピンと来なかった…多分、六年振り…それ以上だったかな…それぐらい振りですが…?」
最後にしたのがいつだったかなんて、もう覚えてない…。思わずつぶやいた俺の声に、湯沢くんは一瞬怯んだ顔をしたが…。
「……大丈夫。頑張る。だから…良い?」
問いかけられても…大変なのは、俺よりも湯沢くんだし…。
思わず溜め息を一つ。
「…俺は別に良いよ。言ったでしょ?御前の望むところまで、協力するって」
「…協力か~…協力、じゃないな…」
その言い回しに、湯沢くんもやっぱり引っかかったみたい。まぁ…俺自身が引っかかっているんだから、仕方ないけど。
「じゃあ、何?」
湯沢くんも、だいぶ、エンジンがかかって来たみたい。良く喋るようになって来たし。
「…共同作業?若しくは、非生産的行為?」
「…何それ…」
思わず、笑い出してしまった…。
けど、言わんとしていることはわかる。
はっきり言わないのは…一応、年甲斐もなく今更欲情して来ていると自覚しているから、だろうか…。まぁ、それは御互いに…だけど。
「共同作業はともかく…非生産的行為、って…何も生み出さない訳じゃないでしょ?ちゃんと、作れるじゃない。新しい絆、ってヤツ」
「…そうだね」
湯沢くんも、くすっと笑った。
「さ、風呂入って来よう~」
笑いながら、湯沢くんは風呂場へと消えて行く。常々思うけど…目が悪いクセに、裸眼でも良く真っ直ぐ歩けるもんだ…。昔から思ってたけど、慣れって凄い。
そして、ちょっと前の姿が嘘みたいに、すっかり元気だ…。
「…色々準備しないとな…」
さて…湯沢くんが上がって来るまでに一仕事だ…。まずは…寝室を、片付けようか…。
眩しくて目を開ける。時計を見ると、もう直昼だ。
今日も良い天気みたいだな…と思いつつ、大きな欠伸を零す。
すると、隣でもぞもぞ動く姿。
あぁ、そうだ。夕べ…と言うより、どっちかと言ったら、明け方に近かったか…久し振りに、煩悩にやられた…。全然、年相応じゃなかったし…って言うか、年相応なんて言葉とは正反対だ…。
「…眠い…」
「…まだ寝てれば?」
枕に顔を埋めたまま、まだ半分寝てるんじゃないかと思うんだけど…。
「…腹減った…」
「…じゃあ、ご飯出来るまで寝てれば?起こしてあげるよ」
「…うん…」
そう言うと、またトロトロと眠りに落ちて行ったようだ。
大半は枕に埋まっているけれど…その顔を眺めつつ、俺は溜め息を一つ。
俺の気持ちはともかく…湯沢くんは、ホントに立ち直ったのかどうか…ちゃんと覚醒してみないとわからない訳で。
まぁ…取り敢えず、ご飯を食べさせてみようか…。
俺はそっとベッドから降りると、なるべく物音を立てないように寝室を出た。
簡単な食事だけど用意をして、再び寝室に戻って来た。
湯沢くんは相変わらず、布団に包まって眠っている。
俺はベッドに腰掛け、向こうを向いて寝ている顔を覗き込む。
良く寝てる。その顔は、昔と何も変わらない。
この関係は、このまま続くのか否か…それは俺にはわからない。
今が満たされるだけでは、きっと続かない。でも…身体だけではなく、心が満たされた感覚は、俺の中にも確かにある。
夕べの湯沢くんではないけれど…俺もまた、何処かでホッとしたのかも知れない。
時間が戻った訳ではない。でも、それに近い感覚はある。
湯沢くんも寝てるし…今なら…言えそうな気がする。
「…ずっと……一緒にいよう。……なんてね」
小さくつぶやいた言葉に、自分で笑ってしまった。
すると。
「…良いよ」
「………何で起きてるの…?」
肩を揺すって、くすくすと笑う姿…。思わず、何で…なんて問いかけてしまったけど…
「何でって、起こしに来てくれたんじゃないの?」
「まぁ…そうなんだけど…」
聞かせるつもりではない言葉を聞かれるほど、恥ずかしいものはない訳で…。
赤くなっているであろう顔を伏せると、湯沢くんは笑いながら身体を起こした。
「身体、大丈夫?」
「ん、意外と平気。カラダは覚えてたかな」
そう言って笑う顔を見て、溜め息を一つ。
流石だね…このヒトは。俺の想像もつかない体力だ…。
「…で、さっきの、本気?」
俺の顔を覗き込むように身体を寄せて来る湯沢くん。その眼差しは、真剣そのもので。
「…じゃなかったら、寝顔には言いませんよ」
「…そっか」
くすっと、小さな笑いが零れる。
「…別にね、戯言だと思って忘れてくれて良いし」
そう言った俺の言葉に、その笑いは止まる。
「何で?折角、あんたがプロポーズしてくれたのに、忘れる必要ないじゃん」
「…プロポーズって……」
「あれ?違うの?そう言う意味じゃなくて…?俺の勘違いな訳??」
「いや……」
何と言ったら良いか…。
「…だって…前に、御前が言ったでしょ?今生では一緒にはなれないから、来世で一緒になろう、って…でもね…何か…今なら、一緒にいられるような気がしたんだ。単純だね、俺は…でも、プロポーズとか壮大な話になると、色々ねぇ…あるでしょ?都合が」
「…まぁ…わかるっちゃわかるけど…」
どうにも納得いかないと言う表情を浮かべた湯沢くん…でも、それは当然だし…。
すると、大きく溜め息を吐き出した湯沢くん。けれど、その後くすっと笑った。
「まぁ…形式的には色々大変なのはわかる。でも…俺も、一緒にいたいよ?要は、形式に拘らなければ良い訳でしょ?」
「…まぁ…ね」
「じゃあ、それで良いじゃん。仕事も別だったりするから、なかなか逢えない事もあるけど…ちゃんと、連絡しようよ。折角…繋いだんだから。新しい、絆」
「…そう、だね」
俺も、笑いが零れた。
「でさぁ…」
ふと、今まで笑っていた湯沢くんが、真顔に戻る。
「何?」
「…ホントはこっちの話がメインのつもりで来たんだけど…」
「うん」
「…RX…もっかいやらない?」
「…はい?」
また、思いがけない言葉だ…。
「…何でまた、急に…?」
思わず問いかけた言葉に、湯沢くんは頭をぽりぽりと掻いた。
「いや…ちょっと前から、ずっと考えてたんだ。夕べも言ったけど、何か物足りないって。だから、と思ってあんたに会いたくなって…やっぱり、一緒にRXやりたいなって。でも、夕べはなかなか言い出せないうちに、違う感情に火がついちゃったんだけど……」
「…ビール飲ませたのがいけなかった…?」
「いや、飲みたがったのは俺だし…」
「…まぁ…ねぇ…」
やるとなれば、色々と考えなきゃいけないことがあるし…今すぐに、返事をすることは出来ない訳で…。
「…まぁ、その話はまたあとでゆっくり…取り敢えず、ご飯食べよう。冷めちゃうし…俺も夕方から仕事あるし…」
時間は進んでいる訳で…のんびりしていると、俺も仕事に間に合わなくなるし。そう切り出すと、湯沢くんは頷きながらベッドから出て来る。
「そうだね。まっつぁんにも話さなきゃいけないしね」
「…まだ話してないの?」
「だって、あんたに聞いてから…と思ってさ」
「…そう…」
まぁ、順番はどうであれ…これから、忙しくなりそうだ、と言うことは確からしい。
「さ、飯、飯~」
呑気な湯沢くんの声。まぁ…良いけどね…。
結局、食事をしてシャワーを浴びたりなんかしていたら、あっと言う間に出かける時間になり、ゆっくり話も出来ないまま、俺は出発の時間になった。
「打ち合わせ終わったら会える?」
俺と一緒に出られるように準備を終えた湯沢くんに、そう問いかけられる。
「ちょっと遅くなるけど、それで良いなら良いよ。終わったら連絡する」
「じゃ、俺も一回家帰るわ」
そう言いながら靴を履き、玄関のドアを開けようとした時。
「…ちょい待って…」
「どうしたの?忘れ物?」
「いや……うん、そう。忘れ物」
そう言うとにやりと笑い…眼鏡を外すと、顔を傾けてキスをする。
「…もぉ…」
思わず赤くなった俺に、湯沢くんは再び眼鏡をかけ、くすくすと笑った。
「じゃ、また夜ね」
下まで行くと、にこやかに見送る姿。
「うん、じゃあね」
俺はそう言って、打ち合わせの場所へと向かった。
その胸に、奇妙な感覚を持ったまま…。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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