聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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オクルコトバ
大好きなヒトの、笑顔を見るのは楽しい。そして、とても幸せな気持ちになる。
ただ、それだけで良い。
そう思っていたのは、彼だけではなかった。
そして、報われたその笑顔を見るのは…ちょっと、苦しかった。
ただ、思っていたほどダメージはなかった。
自分は…彼にとって、特別にはなれなかったのだ、と言う…唯一つの、想い以外は。
まるで糸が切れた凧のように彷徨ったままの気持ちは、自分自身でも何処に辿り着いて良いのかは、まるでわからなかった。
それは、デーモンとエースがやっとで想いを繋いだばかりの頃。
取り残された想いがまだ一つ、そこにあった。
報告の為、魔界に戻って来たルークは、自分の執務室の窓からぼんやりと空を眺めていた。
青い空。それは、何処までも透き通って見える。
その空を眺めつつ、溜め息を一つ。
「…元気ないじゃない。どうしたの?」
様子を見に来た同期のラルが、苦笑しながらそうルークに声をかけた。
「大好きな閣下にくっ付いて同じ任務に出たんだから、溜め息とは縁遠いと思ってたんだけど。楽しくないの?」
ルークの想いは知っていた。だから、同じ任務に参加出来ている今が、一番楽しいはずだと思っていたのだが…ルークの表情から察するに、どうやらそうでもないようだ。
「……振られたの。っつーか、最初っから無理だったんだよね。俺なんて、眼中になかったんだし…」
「…は?」
思いがけない言葉に、ラルは小さく息を飲み、ルークを見つめる。けれどルークは相変わらずの表情であった。
「まぁ、片腕であることには変わりないし、仲魔としては大事に想って貰ってるからさ。俺だってずっと尊敬していることには変わりないし、何よりずっとあのヒトの参謀でいるつもりだしね。それで良いんじゃないかな~って…」
「…にしては、浮かない表情じゃない。それで良いって言いながら、ホントはまだ奥深くに何かあるんじゃないの?」
ルークが魔界に降りて軍事局に入局してから、暫くの間机を並べていただけのことはある。ラルよりも先に昇格し、副大魔王付きの参謀になった今でも、ラルはルークの表情を読むのは、誰よりも得意だったのかも知れない。
「不満、なのかなぁ…別に、そこまで感じてる訳じゃないんだけど…」
自分でも、自分の気持ちが良くわからない。それが、ルークの正直な感想だった。
ラルはルークへと歩み寄ると、その手を伸ばしてルークの髪をくしゃっと撫でた。
「まぁ、ゆっくり考えたら?任務だって、まだ長いんだし。慌てて自分の気持ちに結論を出す必要はないんじゃないの?」
「…まぁ、ねぇ…」
ラルが言わんとしていることはわかっている。その言葉には、もしかしたら…の意も込められているはず。けれど、ルークがそれを望むかと言えば…まさに、微妙、なのである。
再び、小さな溜め息を吐き出したルーク。だが次の瞬間、ハッとしたように時計へと目を向ける。
「そうだ、ダミ様のところに報告に行かなきゃ。また帰りに顔出すから」
そう言って慌しく執務室を出て行くルークの背中を目で追いながら、ラルは小さな笑いを零していた。
「さて、いつ気が付くことやら…」
小さなつぶやきを零し、ラルもルークの執務室を後にする。
その真意は如何に。
報告の為にダミアンの執務室の前へやって来たルーク。
そのドアをノックしようとした時、ふとドアの向こうから聞こえた小さな笑い声。
ダミアンの執務室から笑い声が聞こえて来ることなど、今まで経験がなかった。だからこそ、奇妙な感覚。
「…失礼します…」
先客がいるのなら失礼かと思ったのだが、ルークものんびりしていられる訳でもない。報告が終わったら、また人間界へと戻らねばならないのだから、取り敢えず相手によってはこちらの報告を先にさせて貰おう。そう思いながらのノックだった。
『どうぞ』
帰って来た声に、ルークはそっとドアを開ける。
「あぁ、ルークか。久し振りだね」
「…御無沙汰しております…報告に参りましたが…宜しいでしょうか…?」
様子を伺うように中を覗くと、そこにはダミアンともう一名の姿があった。
振り返ったその姿を見た途端、息が止まるかと思った。
そこにいたのは、緩い癖のある短い黒い髪に、黒い瞳。そして、蒼い紋様を頂いた悪魔。すらっとしたその容姿はルークと良く似ていると、ルーク自身がそう思った。
勿論、顔も紋様も似ている訳ではない。ただ、同じ色を持ったその悪魔が、ダミアンに向かい合って立っている。それが…一瞬、昔の自分かと思ったのだ。
「…御邪魔でしたか…?」
思わずそう問いかけた言葉に、ダミアンもその悪魔も、小さく笑った。
「いや、遠慮することはないよ。どうぞ」
ダミアンに促され、ルークは小さく頭を下げると執務室の中へと足を踏み入れた。先にいた悪魔は、ダミアンの執務机の前をルークに譲るかのように、すっと身を引いた。
「こちらは…?」
問いかけたルークの声に、ダミアンは小さく微笑んだ。
「あぁ、御前は初めてだったね。彼はジュリアン。昔からわたしの身辺警護をしてくれているんだ」
「昔から…ですか…」
ダミアンから紹介され、ジュリアンと呼ばれた悪魔はルークに向け、小さく微笑んでみせた。
「今は、任務で魔界を留守にしておりますが…軍事局の、副大魔王付きの参謀、ルークです。宜しく御願い致します、ジュリアン殿…」
ルークはそう言うと、小さく頭を下げた。けれど、その心境は穏やかではない。
昔、と言うのがいつからなのかは、ルークにはわからない。ただ、自分が魔界へ降りてからもうかなり経つのだが、その間一度も会ったことがない、と言うことも奇妙ではあった。
「ただの警護ですから、わたくしに敬称は結構です。ルーク殿の御話は、常々殿下から伺っております。以後、御見知り置きを」
その声を、何処か遠くで聞いた気がした。
自分と良く似た感じの悪魔が、ダミアンの傍にいる。その事実に…一瞬、胸が軋んだ気がした。
----…何だ、今の…
その脳裏に過ぎったのは…つい先日も、感じた想い。
「では殿下、また後ほど」
「あぁ、有難う」
ダミアンの微笑みに見送られ、ジュリアンはルークに一礼すると執務室を出て行った。
「さて、それでは報告を聞こうか」
ダミアンにそう声をかけられ、ルークは淡々とその報告をした。
しかし、その心は既にそこにはなかった。
ルークが報告を終えて出て行くと、再びジュリアンが戻って来た。
「…それにしても、背格好も纏う色も、良く似ていますね。噂以上でした」
自分の事とは言え、ジュリアンも予想以上に良く似た感じのルークの姿に驚いていたようだった。
「御前もなかなかだが、ルークは特に美悪魔だろう?」
にっこりと微笑むダミアンに、ジュリアンは苦笑する。
「殿下の好みが手に取るようにわかります」
そして自分もまた、単なる外見で選ばれたのではないか。僅かにそんな表情を浮かべたジュリアンに、ダミアンは笑いを零す。
「まぁ、似通っているのは御前たちの責任ではないしね。それに、わたしの身辺警護にと御前を選んだのは、わたしではないんだが?」
「まぁ…そうですけれどね」
確かに、ジュリアンをダミアンの身辺警護にと選んだのはダミアン自身ではない。けれど、少しでもダミアンの好みに近づけようと選んだ可能性も無きにしも非ず。まぁ、それを今とやかく言ったところでどうなるものでもないのだが。
「…驚いてらっしゃいましたよ。恐らく…気分を害されたのでは…?」
ルークの姿を思い出しつつ、ジュリアンはダミアンにそう問いかける。
別に、敵意を向けられた訳ではない。ただ…混乱しているであろう事は間違いない。
「ルークは純粋だからね。悪い方へ取らないと良いのだけれどね」
ダミアンとて、わざと引き合わせた訳ではなかったのだが…まぁ、タイミングが悪かった、と言うところだろうか。
「ちゃんとフォローはするよ。心配しなくて良い」
「…御願い致します。わたくしは、ルーク殿と争うつもりはありませんからね」
「わかっているよ。わたしは御前の趣味じゃないことぐらい…ね」
くすくすと笑うダミアンに、ジュリアンは小さな溜め息を吐き出した。
そして…決して本心を明かさないこの皇太子の御気に入りであるルークを、心底気の毒に思うのだった。
報告を終えたルークは、軍事局へと立ち寄ってラルに挨拶すると、人間界へと戻って来ていた。
戻って来た頃には、既に夜半を回っていた。
屋敷へと戻って来たルークは、眠っているであろう仲魔を起こさないようにそっと鍵を開けて中へと入る。そしてそのまま自分の部屋へと入ると、ベッドへと倒れ込んだ。
ダミアンの執務室で感じた想い。それは、既に明確である。
自分自身の、身勝手な想い。いつだって、それが空回りしているようで。一向に報われない。
大きな溜め息を吐き出し、ベッドから起き上がる。
「…馬鹿じゃね?俺…」
そう零しながら頭をガシガシと掻くと、再び大きな溜め息を一つ。
「…シャワー浴びて寝よ…」
着ていた軍服の上着を脱ぐと、着替えを持ってドアを開ける。
とそこで、デーモンと鉢合わせた。
「おぉ、帰ってたのか」
「あ…うん。まだ起きてたの?」
静かだったので、みんな寝ているとばかり思っていたのだが、デーモンは起きていたようだった。
「御前を魔界へ報告に行かせておいて、先に寝てしまうのは失礼だろう?」
くすっと笑ってそう言うデーモンに、ルークは小さく笑いを零す。
「他の奴等はがっつり寝てるみたいだけどね」
「まぁ、吾輩は責任者だからな」
「もう、管理職の性だね」
笑うルーク。その気持ちもほんの少し和んだようだ。
「一杯やるか?」
「じゃあ、御言葉に甘えて」
デーモンの声に、ルークは頷く。けれど、手に持った着替えを思い出す。
「あぁ…御免、先にシャワー浴びて来るから。直ぐあがって来るけど、先にやってて良いよ」
ルークはそう言い残すと、バスルームへと走って行く。その背中を見送り、デーモンは小さな笑いを零していた。
ルークがシャワーを浴びてリビングに戻って来ると、デーモンは裏庭に出る窓を開け、外を眺めていた。
「呑んでなかったの?」
「吾輩だけ先に呑んでいてもしょうがないだろう?」
頭を拭きながら傍へやって来たルークを見上げ、デーモンは苦笑する。
「ちゃんと乾かさないと風邪引くぞ?」
「だって、ドライヤー使ったらゼノン起きちゃうでしょ?」
「御前の髪で自然乾燥じゃ、明日大変だぞ?こっちならそんなに気にならないだろうから、ちゃんと乾かせ」
「エースの部屋の真下だもん。エース起こしちゃうから良いよ。ちゃんと拭くから大丈夫」
「じゃあ、吾輩が拭いてやるから。ほら、ここに座って」
何処までも気を使うデーモンに、ルークも苦笑しながら腰を下ろした。
「ヤダなぁ、こんなに優しくされちゃ、また惚れちゃうじゃない」
笑いながらそう言うルークに、デーモンはタオルでルークの髪を拭いてやりながら、ふと口を開いた。
「…何か、あったのか?」
「…何で?」
「いや…何となく…な」
いつもと同じように振舞っているつもりのルークだったが、デーモンにしてみれば空元気に見えていたのかも知れない。デーモンの言葉にルークもほんの少し、表情を変えた。
デーモンなら…"彼"のことを、知っているかも知れない、と。
「…ねぇ、デーさん…ジュリアンって知ってる…?」
問いかけた声に、デーモンの手が止まった。
「…ジュリアン?ダミアン様のところの…か?」
「やっぱり、知ってたんだ…」
「まぁ…ダミアン様とは付き合いも長いしな…」
明らかに沈んだ声。どうやら、ルークの空元気の原因はそこにあるらしいと踏んだデーモンは、髪を拭き終わるとキッチンから缶ビールを二つ持って戻って来た。そしてルークの隣へと座ると、一つをルークに渡した。
「ジュリアンと逢ったのか?」
「うん、まぁ…」
声のトーンの下がったルーク。まぁ、ルークにしてみれば、ジュリアンの容姿は複雑極まりないだろうと言うことはわからなくもない。事に…ダミアンの身辺警護であるなら尚更。
大きな溜め息を吐き出したルーク。そして、暫し想いを巡らせた後、ゆっくりと口を開いた。
「…癖のある髪も瞳も紋様まで…俺と同じ色。それで、俺よりも前からダミ様の傍にいるんでしょ?何か…変な感じ…」
「ルーク…」
「黒髪も黒い瞳も、蒼い紋様も、別に珍しい訳じゃないから…偶然だって言えばそれまで。それはわかってる。でも…何かさぁ…腑に落ちないって言うか、何と言うか…」
ずっと、ダミアンの御気に入りと言われて可愛がられて来たルークだからこそ、気持ちは複雑なのだろう。デーモンにもその気持ちは十分わかっているつもりでもあった。
「俺…デーさんに振られたばっかりだし…エースからあんたを奪おうとか、そんなことを思ってる訳じゃないよ。だから、こんなことデーさんに言うのはどうかと思うのはわかってるけど…」
ルークはそこまで言ってから、一旦口を噤む。そして、真っ直ぐに自分を見つめるデーモンの眼差しから逃れるかのように、顔を伏せた。
「…俺は…デーさんの特別にはなれなかった。でも、それは仕方のないことだから別に良い。でも…俺は…ダミ様にとっても、特別じゃなかったんだな、って…」
「…何を馬鹿なことを…」
「馬鹿なこと、じゃないよ。俺にとっては。子供の頃からずっと…俺は、自分が誰かに必要とされているって思えなかった。母様は俺を愛してくれたけど…多分、特別ではなかった。俺の回りのヒトはみんな、本当に特別な存在だったのは俺の父様、だったんだと思う。俺は、ただの身代わり。だから…たった一名でも良いから、誰かの特別でいたかったのかも知れない」
その言葉に、デーモンも、溜め息を一つ。
昔のことを引っ張り出されてしまったら、それ以上何も言えない。けれど…魔界に来てからのことならば、話はまた別だった。
「御前なぁ…今まで、どれだけダミアン様に可愛がって貰っていたと思っているんだ?それが、特別以外の何だって言うんだ?」
「…わかってるよ。身位もないうちから執務室に入れて貰って、優遇して貰って…勿論、職務に関しては一切そんなことはなかったけど、色々陰口叩かれたりすることもあったよ…でも、ダミ様が"ここ"にいても良いって言ってくれたから、その想いに応えたくて頑張って来たんだ。だけどさ…今日、ジュリアンを見て思った。ダミ様の傍にいるのは俺じゃなくても良かったんだ、って。黒髪に黒い瞳。蒼い紋様。それがダミ様の趣味なんでしょ?だったら、同じ色を持っていれば、俺である必要性は何処にもなかったんじゃないか、って…そう思ったら、何か気が抜けた、って言うか…変な感じ…」
「…ルーク…」
「変だよね、俺。ずっと好きだったデーさんに振られたって、こうして平然と仲魔として続けていけているのに……ダミ様はただの、魔界での親代わり。俺が勘違いして、好い気になってた。ただそれだけなのにね…何でこんなに、ダメージ受けてるんだか…」
顔を伏せている為、ルークの表情はわからない。ただその声は…自嘲気味に笑ってはいるが…明らかに涙声、だった。
ルークの言葉を聞き、再び溜め息を吐き出したデーモン。そして、ルークの頭にそっと手を乗せた。
「確かに…好みの問題は何とも言えないが…だが、ただ好みだと言うだけで同じような容姿を集めるほど、ダミアン様は物好きじゃない。ジュリアンをダミアン様の警護にと選んだのも、ダミアン様の意図ではない。そう決められたから傍に置いているだけだ。御前の考え過ぎだ」
「…でも…だったら、俺だってそうなんじゃないの?誰かの勘違いで、配属されただけなんじゃ…それに、今だって俺はジェイルの代わりでしょ?技術的にはまだ追い着けてないかも知れないけど…丁度良い穴埋め魔材だった訳でしょ…?もし、他に適材がいれば、俺じゃなくても良かったんじゃん」
何処までも自虐的なルークの言葉に、デーモンは溜め息を一つ。そして、言葉を続けた。
「今の御前の配属に関しては、別にジェイルの穴埋めの為だけに選んだ訳じゃない。吾輩は御前の音が好きだし、御前が纏っている雰囲気は、彼奴が持っていたモノとはまるで違うだろう?それは、正当な評価だ。ただの身代わりじゃない」
「でもそれは、デーさんの意見でしょ?ダミ様はそうは思ってないかも知れないじゃん。今の話だけじゃないもん」
不貞腐れたようにそう零したルークに、デーモンは再び溜め息を一つ。
「…御前がそこまで言うのなら、話すけれどな…昔御前が吾輩のところに来ることが決まった時、吾輩よりもダミアン様の方が喜んでいたんだ。勿論、御前の実力が評価されたことは当然なんだが…その後の様子を見る限り、本当は誰よりも御前が心配だったんだろう。吾輩の執務室ならダミアン様の執務室の隣だしな。自分のところに来る用事ではなくても、気兼ねなく立ち寄れるだろう?そんな意味もあったんじゃないかとな。あの方の立場上、余計なことを言えば直ぐに御前の首なんか飛んでしまう。だから、用心に用心を重ねているように、吾輩には見えるんだ。今でも必要以上にずっと過保護だが、御前を思えばこその過保護だからな。甘やかしとは違う。何より…誰よりも、大事にされているし、十分特別だと思うぞ?それでも不安なら、ダミアン様に聞いてみれば良い。そうだろう?」
「…もぉ…デーさん、口が上手いんだから…すっかり納得させられちゃう…」
ルークはそう言って大きく息を吐き出すと、その腕で顔を擦った。そして、そっと顔をあげる。
「…ダミ様にそんなこと聞いて…笑われない…?」
ルークのその言葉に少し安堵の表情を見せたデーモンは、小さく笑う。
「…笑うだろうな。何を馬鹿なことを、ってな」
「…じゃあ言わない…」
余程、笑われるのが嫌なのだろう。ムッとした表情でそう返した声に、デーモンは笑いながら頭に置いた手でその髪を掻き混ぜた。
「ちゃんと聞いて来い。でないと、また一悪魔で悶々とするぞ?ちゃんと、ダミアン様の気持ちを聞いてくれば、納得出来るだろう?」
「……まぁ…ね…」
小さく溜め息を吐き出したルークは、すっかり呑み忘れていた缶ビールを開け、口を付ける。
「御免ね。変な話ばっかりして…でも…デーさんで良かった…」
「頼りになったかどうかはわからないけどな」
苦笑するデーモンに、ルークは小さく笑った。
「十分頼りになるよ。有難うね」
その言葉に、満面の笑みが返って来る。そして、わしわしと髪を掻き混ぜられ、ルークも笑いを零す。
----ホント…このヒトを、好きになれて良かった…
その想いは報われなかったけれど…こんなにも倖せで、安心出来る。そう思えることが…何よりも、嬉しかった。
翌日、ルークは再び魔界へやって来ていた。
夕べデーモンから言われた通り、ダミアンと話をする為にやって来たのだが…当然、その足取りは重い。
執務室のドアの前で立ち尽くすこと数十分…未だ、ノックすら出来ずにいたルークだが…大きな溜め息を吐き出したその瞬間、目の前のドアが内側から開けられた。
「……っ!」
ドアを開けたのは、主たるダミアン。柔らかな笑みを浮かべ、息を飲むルークを見つめていた。
「いつまでもそんなところにいないで、いい加減入っておいで」
「……はぁ…」
幾ら気配を消していたとは言え…数十分もドアの前にいたルークに、ダミアンも気が付いていた。そして、いつになっても入って来ないルークを、自ら迎えに出て来たのだ。
「…失礼します…」
ダミアンに促されてしまったら、中に入るしかない訳で…小さな溜め息をこっそりと吐き出すと、ルークは執務室へと足を踏み入れた。
「今日はどうした?報告書は昨日貰っているが…何か報告漏れでも?」
ダミアンにそう問いかけられ、僅かに口篭る。
果たして…本当に、それを口にしても良いのだろうか…?相手はあくまでも皇太子殿下であり…自分は、副大魔王付きとは言え、ただの軍事参謀に過ぎない。
そんな思いが巡る中…ルークの表情をじっと見つめていたダミアンは、その透明な蒼い眼差しを細めて小さく笑った。
「そんなに、悩むようなことなのかい?」
「…それは…その……」
その顔を見たルークは…ダミアンは、多分ここへ来た理由をわかっている。そう、感じ取った。
大きく息を吐き出し、その心を落ち着かせる。そして…ゆっくりと、口を開いた。
「…ダミ様は…俺が、黒髪で黒い瞳、蒼い紋様でなければ…拾ってはくれませんでしたか……?」
「……は?どうしたんだ、急に…」
思わぬことを問いかけられ、ダミアンは思わず目を丸くする。
ルークはてっきり、ジュリアンのことを問いかけてくるものだとばかり思っていた。だが、切り込み方がどうも変な方向へと向かったようだ。
「好み…なんですよね?黒髪と黒い瞳と蒼い紋様が…だから…俺を拾ってくれたんじゃないんですか…?」
「…ちょっと待て。何の話だ…?」
ルークの話の矛先がイマイチ見えず、ダミアンは溜め息を吐き出して頭を抱えた。
「…その色が好みだから、御前を拾い上げたと…本気で思っているのか?」
「…だって…」
困惑するルークを前に、ダミアンは再び溜め息を一つ。そして、顔をあげてルークへと視線を向けた。
「誰が何をどう勘違いしてそんな話が出て来たのかは知らないが…黒髪に黒い瞳、蒼い紋様が好み、と言う訳じゃない。まぁ確かに、御前の色は好きだよ。だが、それは御前に良く似合っている、と言う意味だ。別に、色が同じならそれで良いと言うことじゃない」
「……じゃあ…ジュリアンは…」
「あれはあれで…誰かがわたしの好みだと勘違いしただけだろう?わたしは、ジュリアンの魔選に関わった訳ではないしね」
そう言って、ダミアンは小さく笑った。
「確かにね、勘違いさせたわたしが悪かったのかも知れない。事ある毎に御前を褒めていたからそう思われていたんだろう。色の問題ではなく、御前自身を褒めていたんだけれどね」
「……ダミ様…」
にっこりと微笑んだダミアンに、ルークは思わず赤くなる。
「…で?御前はそれを聞きにわざわざ?」
「…だって……不安、だったんです。同じ色を持っていれば…本当は、俺じゃなくても良かったんじゃないか、って…ジュリアンが傍にいれば…ダミ様は、機嫌が良いんじゃないか、って…ただでさえ、俺は人間界の活動にも、ジェイルの抜けた穴埋めに入ったようなものだし…幾らデーさんが違うって言っても、腑に落ちないって言うか…」
「…何を、馬鹿なことを…」
くすっと笑うダミアン。その答えがデーモンが言っていた言葉と同じだ、と…ダミアンの顔を見つめるルークの脳裏に過ぎっていた。
「さっきも言った通り、同じ色を持っていれば良いと言う訳じゃない。御前にはその色が良く似合う、と言っているのは、色を褒めているんじゃない。御前を、褒めているんだと言っただろう?人間界の活動に関してもそうだ。確かに、タイミング的にそう思われても不思議じゃないが…ジェイルのことがある前から、御前を人間界に送っていただろう?それが御前の実力が評価されていると言う、全ての答えだと思うんだが?どうして、それを信じない?どうして、自分に自信を持てない?」
そう言葉を放つダミアンは、笑ってはいなかった。
だが、真っ直ぐにルークを見つめる眼差し。それは…とても優しい、"親"としての眼差し。
「御前は御前だよ。他の誰にも、代わりが出来るものじゃない。それは、何に関してもそうだ。例え御前が他の色を纏っていたって…わたしは、御前を保護しただろう。今と同じようにデーモンの片腕として認めただろう。それは全て、御前が御前であるから、だ。漆黒の髪に黒曜石の瞳。蒼い紋様。それは、偶然そうなっただけだろう?誰かと同じだから、自分じゃなくても良いだなんて…自分が誰かの代わりだなんて、決して考えるんじゃないよ」
「…ダミ様…」
ダミアンはルークの傍へと歩み寄ると、そっとその頭を抱き寄せた。
「自分じゃなくても良いだなんて…あんまり馬鹿なことを言ってくれるな」
「…御免なさい…」
ダミアンの、甘い芳香。それは、ルークの心をそっと落ち着かせてくれた。
「…一つ、御前に御守りを上げようか」
ふと、ダミアンがそう言葉を零す。
「御守り?」
顔をあげたルークは、そこににっこりと笑うダミアンを見た。
「御前が、迷子にならないように…ね」
そう言うと、ダミアンはルークの髪にそっと口付ける。
「御前は、特別だよ」
「…ホント…ですか?」
「あぁ、勿論。でも、内緒だよ」
くすっと笑うダミアン。そんな姿に、ルークは真っ赤になって小さく頷いた。
そんなルークの頭を、ダミアンは笑って掻き混ぜる。
「あぁ、御前の髪が一番良いね~」
「もぉ~っ。やめて下さいよ~っ」
嫌がってはいるが、それが本心から嫌だ、と言う訳ではないことは、ダミアンも良くわかっている。だからこそ、ダミアンもくすくすと笑っている。
その笑顔が、自分だけに向けられている。それが…堪らなく嬉しくて。
----あぁ、そうか……俺は……
ふと、過ぎった想い。それは、ずっと腑に落ちなかった気持ちがすっと落ちたような感覚。
「…信じます。貴方の言葉も…自分の気持ちも」
ダミアンの笑いが一息付くと、ルークはそう言ってにっこり笑った。
「そうかい?じゃあ、もう一頑張りしておいで。わたしは、"ここ"にいるからね」
「はい」
満面の笑みと共に返した答え。
行き着く先は、まるで見えない想い。けれど…そこにはまだ、不安は見えない。
だから、笑っていられるのだと。
ダミアンの執務室からの帰り道。
その廊下の影に、まるでルークを待ち構えているかのように佇んでいるラルの姿があった。
「あれ?どうした?」
思いがけないその姿に声を上げたルーク。すると、待っていたラルはルークの顔をじっと見つめて…そして、にっこりと笑った。
「なぁんだ。もう自己完結?」
「…はい?」
ルークはラルの言っている意味が良くわからず、首を傾げる。
「腑に落ちた、って顔してるし。もう気付いちゃったの?あんたの、本心ってヤツに。いつ気付くかって楽しみにしてたのに」
「…ラル…」
その言葉の指す意味を察したルークは、ほんの少しだけ顔を赤くする。
「まぁ、その想いが報われるかどうかはわからないけどね。少なくとも、気付いてないのはあんただけだったかな。閣下の話してる時より、殿下の話してるあんたの方が生き生きしてるってのを、俺はずっと見てた訳だしね」
「…あの……」
自覚していなかっただけとは言え…自分よりも先に、周りの方がその想いに気付いていたとは…非常に気まずい訳で…。だが、ラルは目を細めて笑いを零す。
「頑張んなよ。あとはあんた次第。ま、これ以上俺が心配する必要はなさそうだからね。やっと自由~」
「…ちょっと…それどう言う…」
困惑するルークの表情に、ラルはその指先でルークの眉間を差した。
「あんた、ホントに恋愛に鈍いからね。ちゃんと自覚してなきゃ駄目だよ。あ、それから。俺は別に、あんたに惚れてないからね。俺はちゃんと恋悪魔いるし。ただの、付き合いが長いが故の御節介だから。それは間違えないように」
くすくすと笑って、ラルは踵を返した。
「また魔界に戻って来たら、ちゃんと顔出すんだよ。殿下のところだけじゃなくて、俺等のところにもね」
「…おうっ」
そう言って笑って帰って行く背中を見送り、ルークも小さく笑いを零す。
胸の奥が暖かい。
「…さて、人間界に戻って仕事仕事!」
今は、頑張るしかない。そうしていれば、いつか…その想いも、もしかしたら報われるかも知れない。
特別だと思われていること。ただ、それだけで倖せだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※リクエスト内容は「参謀とダミアン様メインの話をお願いいたします。参謀は、最初は閣下の事を好きだったけれど、いつの間にかダミアン様の事を好きになっていたので。(私が今まで拝見していた限りでは、本当にいつの間に・・だったので)そこに至るまでの参謀の気持ちの変化やダミアン様に対する想い、ダミアン様の参謀に対する想いなども入れていただけたら嬉しいです」
と言うことでした。そう言えばそうだわね…書いた覚えはなかったわ~と言うことで。(苦笑)
サブキャラも出してみました。何気にジュリアンは好きです。(笑)
一周年のものが今頃になってしまって申し訳ありません…(^^;
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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お忙しい中、素敵な小説をありがとうございました。
なんか、もう、参謀が初々しくて、「あー、もう、可愛い〰!!」と思いながら読んでおりました。
この先、ダミアン様と一緒に幸せになってほしいです。
若いって良いなぁ…と、書きながら初々しさが楽しくなっておりました。(笑)
いつの日か、ちゃんと倖せになれますように。(^^)