聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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ある愛のカタチ
想いのすれ違い。それが険悪な雰囲気を作り出すことは、ごくごく当り前なこと。
そしてそれが例え、人間の能力をを遥かに越えた悪魔であっても同じこと。
しかしその裏には、抱え切れない想いもまた、有り得ること…
当時、魔界の副大魔王閣下であったデーモンが、初めて情報局長官のエースと顔を合わせた時、をれを痛感せずにはいられなかった。
冷たい美しさと評判で、悪魔受けのする顔立ちのエースであったが、目上のデーモンに対して…と言うよりも、彼に接する大半の者に対しても…であるのだが、エースはその顔に無粋の表情しか浮かべはしなかった。
勿論、上辺だけのビジネススマイルならごく稀に見ることが出来ても、本心から零す微笑みは、まさに封印されたと言っても可笑しくはない程、悪魔前に出ることはなかった。
それは皇太子から与えられた任務…地球と言う惑星で人類滅亡の為の布教活動を、副大魔王閣下のデーモンを頭に軍事参謀のルーク、文化局長のゼノン、雷神の息子でありながら、現在は魔界で修業中のライデン、そして情報局長官のエースの五悪魔に変わってからも同じことであった。
魔界に在籍していた頃、エースからの憎悪の眼差しを受けることとなってしまったデーモンであったが、それはこの地球任務についてからも、同じことであった。
ただ、デーモンの本心は、と言うと…まだ名前も知らなかった頃一目惚れをしてから、今でも変わらぬ想いを抱き続けているのだが…それを表に出せるほど、今はまだ平和ではなかった。
そんなデーモンが、ふとしたきっかけで見た、エースの心からの極上の微笑み。決して、簡単には見ることが出来ない、至上の産物。少なくとも、デーモンにはそう見えていた。
未だその胸に凝りがあるのだろう。デーモンに対しては無愛想で、滅多に口も尋かず、仮面の微笑みでさえ仕事以外では見ることは出来ない。当然の如く、デーモンはエースのその穏やかな微笑みに目を奪われた。
しかし、やはりと言っては何だが…デーモンにその微笑が向くことはなかった。。
「はぁ~…」
教典のレコーディングの為に、スタジオにいたデーモンは、他の構成員から離れ、一名でぼんやりとしていた。
が、その静けさを破る者が一名…
「…大きな溜め息吐いちゃって、どうしたの?」
「…ルークか」
「俺で悪かった?」
「……」
テーブルの上に肘を付き、溜め息を吐くデーモンの前に居座ったルークは、デーモンのその姿にくすっと小さな笑いを漏らした。
「なぁに?らしくない」
「…悪かったな」
再び溜め息を吐き出したデーモンに、ルークは言葉を発した。
「で、何が原因?あんたにそんなに溜め息を吐かせるんだから、よっぽどのことなんでしょ?」
「…別にそんなことはない。ただちょっと疲れただけだ」
「へぇ~。エースのことで?」
「…御前には関係なかろうが」
悟られていた、と言う気まずさが出たのか、僅かに顔を赤らめたデーモンはすっとルークから顔を背ける。
「何、今更そんなこと気にしてたの?ほっときゃいいのに」
表情の冴えないデーモンとは引換に、ルークはいつにも増して嬉しそうで。
「御前は何か、いいことでもあったのか?妙に嬉しそうだが…」
不機嫌をあからさまにそうつぶやいたデーモンに、ルークはきょとんとした表情で答える。
「そう?別に何もないけど…まぁ、強いて言うならば、誰にも邪魔されないであんたの傍にいられるってことぐらいかな?」
「冗談はよせ」
「あら、俺は本気だけど」
戯けてそう言ったルークの目は、確かに笑っていた。しかし、それが本心でないことが、デーモンにわかっているかどうかはわからない。
溜め息を吐き出したデーモン。その姿に、ルークもこっそりと溜め息を吐き出し、その眼差しを伏せる。
「…どうしても…エースを笑わせたいの?」
ふと問いかけた言葉。その言葉に、デーモンはルークを見つめる。
「…ルーク?」
そのつぶやきの意味がわからず、デーモンはルークに問い返す。
その声にハッと我に返ったルークは、先程の表情を隠すかのように、再び微笑んで見せた。
「何でもないよ。悪かったね」
「…そう…か?」
イマイチ納得出来ないと言ったデーモンの目から逃れるように、ルークは席を立った。
「何か飲み物買って来るわ。待ってて」
「あぁ」
ルークの去って行く後ろ姿を見送り、デーモンは再び大きな溜め息を一つ吐き出し、眉間に皺を寄せる。
「まだ…気にしてるんだろうな…彼奴は。どうしたらいいかなぁ…」
まだまだ先の長い任務である。いつまでもこんな関係でいるには、酷く心が重い。
再び、デーモンは大きな溜め息を吐き出していた。
飲み物を買いに来たルークは、自動販売機の前でエースと鉢合わせた。
「…あぁ、エースも買いに来てたの?」
そう声を掛けたルークに、エースはチラリとルークに視線を送った。
「あぁ。御前はデーモンの分も…か?」
「…まぁ…ね」
ルークは、エースのことは嫌いではない。むしろ、好きな部類だった。
勿論、エースもルークは嫌いではない。ただ、ルークがデーモンに仄かな想いを抱いている、と言うことが信じられないと、常々言われていた。
「ねぇ、エース…あんたさ、一体デーさんの何が気に入らない訳?何か、一方的にデーさんのこと嫌ってるように見えるけど…」
デーモンとエースの確執の原因を、知らない訳ではなかった。だが、先程のデーモンの表情が未だ頭から抜けないルークは、思わずそう問いかけた。
すると、エースから小さな溜め息が返る。
「…御前は気楽でいいよな」
「……?」
エースの言っている意味がわからず、ルークは首を傾げてエースを見つめた。
その整った顔に、一瞬見えたのは…何かを思い詰めた色。
鈍い、鈍いと言われていたルークにも、その色の意味は直ぐにわかった。。
「…先に行くぞ。遅れるなよ」
そう言い残したエースは、ルークのモノ言いたげな表情に気が付かぬまま、スタジオへと向かって歩き出した。
独り廊下に残されたルークは、その眼差しを伏せ、小さな溜め息を一つ。
「…そう言うこと…か…」
問いかけなければ良かった。
そう思いつつも、問いかけてしまったのは自分であるのだから、その後悔は言いようがなかった。
それから数日後。デーモンは再び、エースの心からの微笑みを見た。
ゼノンとライデンと一緒に雑談を交わしているエースは、物陰から見ていたデーモンの姿に気が付いていないのだろう。デーモンには一度も向けたことのないような穏やかな表情、柔らかな口調で二名と向かい合っていた。
最近、前にも況してデーモンを避けているかのように見えるエースが、まるで別悪魔のように感じる。
「…ったく…ちゃんと笑えるんじゃないか…」
溜め息混じりにそう零してみたものの、デーモンの表情もいつもエースに向ける険しいモノではなく、落ち着いた、柔らかな表情だった。
そんなデーモンの顔を…偶然通りかかったルークが複雑な表情で見つめていたのは、言うまでもない。
「ルーク」
「…?」
不意に名を呼ばれ、ルークは振り返る。
そこには、心配そうに首を傾げてルークを見つめるゼノンの姿がある。
「あ…何?」
ゼノンの表情に、ルークは初めて自身が惚けていたのを悟った。
「…元気、ないみたいだけど…大丈夫?」
「…あぁ、大丈夫。何でもないから」
ゼノンに軽く笑いかけ、ルークは己の常を保とうとしていた。だが、既に限界を通り越しているルークの精神状態を察することは、ゼノンにも容易だった。
「ねぇ…ホントに大丈夫?何か悩みがあるなら、相談に乗るけど…」
その声が、余りにも優しくて…ルークは思わず口を噤んでいた。
「…デーモンの…こと?」
「……」
ルークの表情が、堅くなる。
魔界にいた頃からのルークの、デーモンへの並々ならぬ想いはゼノンも知っていた。だからこそ、最近のデーモンの視線の方向を考えると、ルークが落ち込んでいることも察していた訳である。
「ねぇ…デーさんの好きな悪魔って…エースなんでしょ?」
ふと、問いかけられる。その問いかけに、一瞬戸惑ったゼノンであったが…ルークに偽ったところでどうにもならない訳で…。
「多分…ね。直接は聞いてないけど、ただ何となくそうかなって…」
以前から、デーモンには想う悪魔がいた。だが、ただ『赤き悪魔』と言うだけで、詳しいことは誰も知らないはずだった。だからゼノンとて、デーモンから聞いた訳ではない。ただ…デーモンとゼノンは一番長い付き合いであるし、その態度を見ていれば気がついても可笑しくはなかった。
「…俺…ずっと知らなかった。ずっとデーさんの傍にいたのにさ、全然知らなくて。なのに、急に…気づくって言うのも…ね」
「…ルーク…」
ゼノンに向けて、自嘲的な笑みを零す。けれど、自分自身が惨めに思えて…思わず顔を伏せる。
「デーさん…ずっと好きだったんだもんね。今更俺がどうこうしたって叶う訳もない」
ゼノンはルークの隣に腰を降ろし、ゆっくりとその言葉を紡いだ。
「…ルークは…どうしたいの?」
「…どうしたいのかな…自分でも良くわかんないや。でも…俺は、デーさんに笑って欲しい。だから…デーさんの想いが、叶えばいい…かな」
「…そう…」
ゼノンも、大きく息を吐き出す。
「…強いね、ルークは」
「…ゼノン…」
ゼノンの言葉に、ルークは思わず顔を上げる。そして、自分を真っ直ぐ見つめる眼差しを見つけた。
ゼノンはにっこりと微笑み、言葉を続ける。
「本気で…誰かを好きになることって、大変だよね。何でもかんでも自分の思うようにはならない。辛いのは良くわかるよ。でも御前は、それでもデーモンの想いが叶えばいいって言えるんだもん。俺は、強いと思うよ」
ゼノンの言葉に、ルークは小さく笑いを零した。
「俺は別に、強かないよ。みんなが…仲魔でいる為にさ、和を崩す訳にはいかないでしょ?余計なことしてさ、引っ掻き回すのは嫌なんだ。だから…俺の気持ちなんか、黙ってればそれでいい。無駄な労力を使わないだけの話」
そう言えば以前…ルークがまだ、悪魔に覚醒する前。その頃、篁がジェイルに言われた事を、ふと思い出した。
「…そうそう。昔ジェイルが言ってたわ。俺は、みんなに優しい。無駄に争わない。平生、協調を保てる、優秀な駒だ、って。自分ではそんなつもりはなかったけど…傍から見ればそうなのかもね。ホントは、あれこれ引っ掻き回すのが面倒なだけなのかも知れないけど」
くすっと、小さな笑いを零すルーク。そんなルークに、ゼノンは溜め息を一つ。
「ジェイルが…そう言った気持ちはわかるよ。御前はホントに、大きく乱れることが少ないからね。でも、無意識にでも…自分を押さえつけてるのも、俺にはわかるよ。気持ちを押し殺すのは、無駄な労力じゃない。ホントは何よりもキツイでしょ?だから俺は…デーモンに、伝えるべきだと思うよ」
「…ゼノン…」
「例え、駄目だったとしても…その方が諦めがつくと思う。それに…そんなことで崩れるような付き合いじゃないと思うよ?俺は…御前だけが黙って傷ついていいとは思っていないもの」
「…甘いな、あんたは」
ルークは笑いながら、溜め息を一つ。
「絆が…切れないって言う根拠はある訳?俺が切り捨てられないって言う…確たる何かがある訳?周りを巻き込んで、誰も傷つかないって言う確証がどこにあるの?」
その胸の奥にあるのは…天界人であることを切り捨て、悪魔になったルークだから思う、絆と言う強いような脆いような、複雑な感情。
周りの大人に振り回され、沢山傷ついて来たルークだからこそ…必要以上に求めないのかも知れない。
真っ直ぐにゼノンを見つめた黒曜石の瞳のその奥にあるそんな思いに、ゼノンはにっこりと微笑む。
「だって、デーモンだよ?御前が誰よりも信頼してる主でしょ?だったら、わかると思うよ。それに、俺たちはみんな…ルークが好きだよ。だから、大丈夫。御前なら、ね」
「…そう…か」
うっすらと涙の浮かんだ瞳で、ルークは笑った。
「有難う」
ゼノンの気持ちは、痛いほどわかった。
何よりも、相手を想うが為に。その為に、やるべきこと。
ルークは、一歩踏み出すことを決めたのだった。
ゼノンのおかげでようやく立ち直る道を見つけたルークであったが、デーモンの方は全く変わりばえのしない道を進んでいた。
ある日の夜更け過ぎ、月の光が眩しい所為もあったのだろうか。どうにも目が冴えて眠れないデーモンは、ベッドを抜け出しリビングへやって来ていた。
カーテンを開けて窓から空を見上げながら酒をちびちびとやっているところに、シャワーを浴びていたのだろう、バスローブを来て、濡れた髪を拭きながらルークがやって来た。
「あれ?デーさん、寝たんじゃなかったの?」
共同の屋敷ならではの光景であるが…ルークは実に呑気な格好である。
「あぁ…ちょっと眠れなくてな」
苦笑いを浮かべるデーモンの前に座ったルークは、持って来た缶ビールを開けながら、自分の思いを告げるには丁度いい機会だと思っていた。
ビールを一口飲んで、気持ちを落ち着かせる。そして、ゆっくりをその言葉を口にした。
「ねぇ、デーさん…一歩、踏み出さない…?」
「…何のことだ?」
言っている意味が良くわからず、問いかけるデーモン。
「俺、知ってるよ。あんたが、本当はエースをどう思ってるのか」
「…ルーク…」
その言葉に、デーモンは思わず目を見開き、ルークを見つめた。
その姿に、ルークは小さな微笑みを零す。
「あんたがずっとエースのこと見てるの、俺知ってたよ。エースに笑って貰いたいって…思ってたでしょ?」
瞬間デーモンの頬が微かに色付き、それが事実だと語っていた。
「過去にどんなことがあったって、今は今、だよ。想いは、きちんと伝えなきゃ。そうしないと、伝わらないよ」
それは、ルークが自分自身にも言い聞かせた言葉。
大丈夫。乗り越えられる。
大きく息を吐き出し、ルークは言葉を続けた。
「俺ね…ずっとデーさんのこと好きだったよ。知らなかったでしょ?あんたの目は俺のことに気付かないで、ずっとエースのこと追ってたもんね」
「…それは、その…」
一瞬、気まずそうに目を伏せたデーモンを、ルークは目を細めて見つめていた。
「今更、気にしなくてもいいよ。俺はもう、あんたのことは諦めたからさ」
「…ルーク…」
顔を上げたデーモンに、ルークはにっこりと微笑む。
参謀として…ずっと傍にいた。そしてこれからも…傍に、いる為に。
「俺…本気でデーさんが好きだったよ。でも…あんたがエースのことが好きだってわかったから…俺はもういい。ただ、自分の気持ちにけじめがつけたかったんだ」
いつものように何の躊躇いもなくそう言ったルークを、デーモンは黙って見つめていた。
「俺…あんたの隣にいてもいいのかな…?俺が…邪魔だったら…切ってもいいよ…?」
思わずつぶやいた、ルークの言葉。
「……何を馬鹿なことを…そんなこと…考えるわけなかろう…?御前は…これからだって、ずっと吾輩の大事な、片腕だ」
「…そう。良かった…」
くすっと、ルークが笑った。
「御前の…気持ちには……その…答えることは出来ない…だがな、御前は…大事な仲魔、だ。だから…」
「もういいよ。大丈夫」
デーモンの言葉を遮り、ルークはにっこりと微笑む。
「有難う」
「…ルーク…」
「頑張って、デーさん。その恋、成就させてみぃ。したら俺も安心出来るってもんだ」
今のデーモンには、ルークのその言葉の何処までが本気であったのかはわからなかった。しかし、ルークの精神的な強さだけは、痛い程感じていた。
ルークからエースは裏の木立ちにいると聞き、意を決したデーモンは裏の木立の中を月の光を頼りに歩いていた。
暫く行くと、淡い月明りの中、古い巨木の幅広い幹に寄りかかって座っているエースの姿を見つけた。
エースはぼんやりと空を見上げていて、デーモンの気配には気付いていない。声をかけようかどうか迷ったデーモンだったが、その儚げな姿に、思わず口を開いた。
「…エース」
「…っ!?」
突然降って来た声に、エースはビクッとして視線を向ける。そして、その先にいるのがデーモンであると悟ると、エースは溜め息と共にいつもの表情を、その顔の上に造り上げた。
「…何の用だ…」
「…ただの散歩、だ」
エースに向けたデーモンの眼差しは、いつもと違って何処か優しい。それが、本来の意志であったかのように。
デーモンは大きく息を吐き出す。
ルークが勇気を見せてくれたのだから…自分だって…。
デーモンは、勇気を振り絞って口を開いた。
「…まだ…吾輩を、憎んでいるのか…?」
ふと問いかけた声。それが、過去の傷であることはわかりきっていた。
「…恨まれていると、思っているんだろう?」
「まぁ…な」
「なら、問いかけることじゃない」
そう言い放ち、エースはデーモンから視線を外した。
だが、デーモンはそこから食い下がらなかった。
「吾輩は…御前にとって、敵…か?」
改めて問いかけられた声が、余りにも切なく響いて。
「…敵、だ。少なくとも…あんたの判断ミスでクーヴェイは死んだんだ。俺にとっては、あんたは敵として見えても不思議じゃない」
その声は、デーモンの心を抉っていた。
エースの言葉に敢えて反論するのなら、それは『事故』と言えるはずであるのに。デーモンはそれを否定しなかった。
「だから御前は…吾輩に笑ってはくれないのか。吾輩が…彼奴を殺したから」
思わず、口を突いて出た言葉。
「…だったら…どうだって言うんだ…」
いつになく、重い声。それが…デーモンの胸を締め付けた。
責任を全て背負い込んで…それでも尚、許されない。忘れることも出来ない。
それが、自分の役目であるのなら。逃げるつもりはない。
だから……立ち向かおう。
「御前の仮面は、何の為にある」
ふと、デーモンが問いかける。
魔界に於て、エースの"仮面"は有名だった。その下の表情を見ることが出来る者は、ごく限られた者だけであると。
だが、その仮面が作られた理由は、誰も知らない。当の、エース以外は。
「…わからないのか?魔界随一の頭脳を持つと言われた、あんたが」
「…昔の話だ。それに、あの頃は直接御前たちと比較されたことがなかっただけのこと。今考えれば、誰が一番勝っていたかなどと言うことは、わからないだろう?」
そんなことを零したデーモンであったが、当初の疑問から大きく道を外していることを思い出し、改めてエースに問う。
「何故、だ?」
するとエースは、小さく溜め息を吐き出した。
「…俺自身を護る為だ。仮面を付けて自分を偽ることでしか、俺は俺を護れない」
名高いエースにしては、それは余りにも不釣合いな答えだった。
「…いやに弱気だな」
「当然だろ?誰にだって、護るべきメンタルな部分はあるはずだ。俺は俺のやり方で、今まで自分を護って来た」
きっぱりとそう言ったエースを、デーモンは目を細めて見つめていた。
「吾輩が…御前を傷つけるとでも…?」
問いかける声に、エースは暫しデーモンを見つめた。
その眼差しに浮かべたのは…何だったのだろう。
デーモンにもわからないその色は、エースの心そのものだったのかも知れない。
「壊さなかったと言うのか?俺が、無傷でいられたと思ってるのか?」
「…吾輩が…御前を傷付けたのなら…吾輩がちゃんと御前を受け止める。罪を、償う」
真っ直ぐに向けられた、デーモンの眼差し。そして、その奥底にある…深い深い哀しみ。
エースは大きく息を吐き出すと、ゆっくりと口を開いた。
「それなら…俺が御前と共に任務に参加した当初の目的を果たすのは容易いってことか」
「目的…?」
エースを見つめ、デーモンは尋ねる。
エースから感じる気配は、尋常ではない。まさに、戦地に立っている気分であった。
「…俺は、あんたを殺す為に、あんたと任務を共にした」
そう告げたエースの声。
「あんたを殺せば、俺が魔界から咎められることは、重々承知だ。だが…あんたを殺すことが出来るなら、俺はどんな罰を受けても構わない。それを…果たすことが出来るのなら」
「………」
デーモンは息を飲んでエースを見つめた。
その眼差しの前、エースは悪魔的な笑いを浮かべた。
「覚えているか?あんたの生命は、俺の手の中にある。別に、天界に堕ちた訳でもないし、魔界に恨みがある訳でもない。ただ…あんたを討てれば、それでいい」
月の光を受けて輝くその瞳は…その言葉を裏付ける程、攻撃的な光を放っていた。
一瞬、記憶が蘇る。
『御前になら…くれてやる。この、生命を』
そう言った自分に、エースは答えたはず。
『…今は、殺しはしない。いざとなれば、幾らでもあんたの生命を狙うことは出来るからな…』
あの時から…何かが変わったと思っていた。
エースへの想いは、半ば諦めていたはずなのに…踏ん切りはずっとつかなかった。
だから、今でも引き摺っているのだ。
叶わぬ、初恋を。
「…そんなことを考えていたとはな。通りで御前が容易にこの任務に参加した訳だ」
溜め息を吐き出したデーモン。
「レイラ=クーヴェイの、仇…か?」
デーモンのその問いかけに、エースは首を横に振った。
「…彼奴のことが根本にあったことには変わりない。だが…それとこれとは、別問題だ。今の、俺の中ではな」
「まぁ、いい。だが、御前なら吾輩の生命を奪うことぐらい、容易いはずではないのか?今までにだって、何度もチャンスはあったはずだろう?何故、殺らなかった…?」
その問いかけに、エースは一つ間を置いた。
「確かに、チャンスは幾度もあった。だが…俺自身、気持ちの整理が付かなかったと言うことが、一番の理由だろうな」
「吾輩を殺すことに、心の整理がいるのか?」
それは、奇妙な返答だった。
憎んでいるのなら、殺すことは容易かったはず。それを躊躇う理由がわからない。
大きく息を吐き出したエース。その眼差しは、遠くの月を、見つめていた。
「あんたに聞きたい。何故あの時…俺に、生命をくれてやるだなんて言ったんだ…?」
多分、エースにはわからなかったのだろう。
生命をかけても良い程…デーモンが、自分を愛していたなど。
「御前だって、生命をかけてもいいと思う程…クーヴェイを想っていただろう?それと同じだ」
「………」
一瞬…エースには、デーモンの言っている意味がわからなかった。ただ黙って、デーモンを見つめていた。
いつにない雰囲気に、デーモンはエースへと視線を向ける。
そのほんの一瞬…仮面の奥の表情を覗かせた、エースの本心。何とも言えないような…戸惑いの表情。
困惑した表情を隠すかのように、エースは眼差しを伏せた。
「こんな…展開になるとは、思わなかったな…」
溜め息と共に吐き出された、そんな言葉。それは…完全に戸惑っている。
「ならば御前は、どんな展開を予想していたんだ?それ以外に、御前に生命をくれてやる理由があると言うのなら、吾輩はその方を知りたいものだ」
半ば開き直ったようなデーモン。
それは、デーモン自身にも予想の付かない展開だった。
「血迷ったものだな。副大魔王ともあろう、あんたが。自分を憎んでる相手に、そんな感情を抱いていたなんて…馬鹿じゃないか?」
「そんなことは理由にならないだろう?第一…」
そこまで言って、デーモンは思わず口を噤んだ。
エースは、デーモンが思いを募らせる原因になった出逢いを知らないのかも知れない、と思ったからだと言うことが一つ。
そしてもう一つ…エースの様子が可笑しいと思ったから。
「…エース…?」
思わず差し出したデーモンの指先が、一瞬エースの身体に触れる。
刹那。無下に払い除けられた指先。
「俺に触るなっ!!」
「エース…」
自らを、護る為に。その為に、今まで頑なに全てを拒んで来たはずなのに。それなのに…デーモンの言葉で、エースの鉄壁が脆くも崩れ去った。
「俺はあんたを殺す!その為だけに俺は…俺は…っ!!」
突然…声を荒立てたエースの瞳から、はらりと涙が零れ落ちた。
自身を抱き締め、感情を押さえるかの如くのその行為であったが、箍の外れた理性は、エース自身にも止められない。
「俺は…あんたを殺す!そうしなければ…あんたを……」
----奪えない…
思わず零した、エースの本心。
今まで、押し殺せると思っていた、心の奥底の感情。
「…エース…」
エースの仮面は完全に剥がれ落ちた。
「…あんたを俺のモノに出来るなら…死を咎められても構わない…一時でもあんたをモノに出来るなら…」
うずくまるように顔を隠したエースに、デーモンは膝を折ってエースの顔を覗き込む。
「吾輩は…誰のモノになることも出来ない。吾輩は…大魔王陛下に仕える身だ。副大魔王である以上…」
「…わかってる…そんなことぐらい…でも、他に俺に何が出来る…っ!?あんたを奪う方法は、あんたを殺すことだけだ…」
震えるようなエースの声が響く。
「死を以って想いを貫くなど…そんな馬鹿なことがあるか」
「じゃあ俺はどうすればいい!?どうすればあんたを手に入れることが出来る!?答えろ、デーモン!!」
エースは涙で濡れた顔を上げ、デーモンの胸倉を掴みあげて睨み付けた。
その想いは、何処までも真剣で。だが、今は現役ではないとは言え、デーモンは大魔王陛下の傍近くに仕える身。勝手な身売りは出来ないのである。
だが、それでも…デーモンの想いも、留められなかった。
デーモンは自身の胸倉を掴みあげているエースの手をそっと包み込んだ。そして、その耳元でつぶやく。
「…共に…生きればいい」
その声に、エースはビクッとしたようにデーモンを見つめた。
「御前が、吾輩を許してくれるのなら…共に、生きよう。一番傍で…」
あの時と同じように…デーモンはそっと、エースに口付けた。
唇を離した後、エースは大きく目を見開き、デーモンを見つめていた。
「…御前が、吾輩を憎んでいるのなら…御前に殺されてもいいと思った。それで、御前の気が済むのなら。だが…御前が、吾輩を殺して想いを遂げようと思っているのなら…吾輩は、殺されるつもりはない。そんな勿体無いこと…誰がするか。身売りは出来ないが…吾輩は、何処にも行かない。だから…」
精一杯の思いを込め、そう言葉を紡ぐ。
「御前の答えを、聞かせてくれ。今でも…吾輩を、嫌っているのかどうか。恨んで…いるのかどうか」
「……」
エースは、答えなかった。
デーモンの胸倉を掴んでいた手をそっと離す。そして、濡れた頬を自分の服の袖で拭い、大きく息を吐き出した。
素直になれば良い。それが、自然の摂理なのだから。
まるで自分に言い聞かせるかのように、心の中でそう繰り返す。
「エース」
名を呼ばれ、エースは顔を上げ、デーモンと視線を合わせた。
そう、嫌う理由はなかったはず。ただ…出逢いが少しだけ、噛み合わなかっただけで。
「俺は……」
言葉が、続かない。
もしも、自分が手を下すのではなく、不本意なカタチでデーモンを失ったら…生きていけないかも知れないと考えるエースが、何処かにいた。
いつからこんなに、脆くなったのだろう。
そう考えることすら、馬鹿らしい。
失うことが、怖いだなんて…低レベルの思考だ。
そんなことを意識の片隅で考えながら、言葉を補うかのように、エースは再び腕を伸ばしてデーモンを抱き締めた。
そしてその耳元で、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「俺は…あんたのこと、ずっと憎んで来て…だが、憎しみよりも、この胸から消えなかったのは……」
----あんたへの、想いだ。
囁くような声は、デーモンの胸に染み込んでいた。
報われない想いではなかった。ただ、すれ違っていただけで。
「…エース」
デーモンも、エースを抱き締める。その温もりが、とても心地良くて。
「愛してる」
それは、どちらの言葉と限定する必要はなかった。
どちらからともなく、もう一度、深く唇を合わせる。
かくして、エースは仮面を外れた。その下にあったのは、誰よりも臆病な本心。そして…誰よりも強い、デーモンへの想い。それは、憎しみから愛情へと。
そして、デーモンはルークとの約束通り、想いを成就させたことになった。
その後、エースは普段でも徐々にデーモンに微笑みを向けるようになった。勿論、心からの極上の微笑みである。
付け加えて言うならば、デーモンと相思相愛であったと言う事実が、必要以上にエースを上機嫌にしていたのであるが。
エースの仮面は、暫くは見なくて済みそうであると、密かに思っていたデーモンである。
エースの変貌により、ルークはデーモンがその想いを成就させたことを悟り、デーモンが一悪魔になった時、チャンスとばかりに声をかけて来た。
「良かったね、デーさん」
「ルーク…」
デーモンが座っていた椅子の前に腰を降ろし、ルークは微笑んだ。
「心配、かけたな」
「別に、心配はしてなかったけどね」
そうは言ったものの、ルークは微笑むデーモンを見て、自分も知らず知らずのうちに、倖せそうな微笑みを零していた。
ルークはエースの本心も気付いていたのだから、確かに心配する必要もなかった訳だ。
「これで俺も報われた」
にっこりと微笑んでそう言うルークの姿。それを目の当りにして、デーモンに罪悪感がないはずもない。
だが、何か口を開こうとしたデーモンを制し、ルークは微笑む。
「デーさんの幸せは、俺の幸せ。ね?」
言葉を紡ぐルークは、何処か戯けたようにさえ見える。だがそれがルークの強さであることを、デーモンはわかっていた。
けじめ付けると言っていたルークであったが…その心にはまだ、デーモンへの深い想いが残っているのかも知れない。
しかしそこはルークである。先程のほんの一瞬の光以外には、もうその心を見せはしなかった。
初めて見たのは、一体いつだっただろう。
初めて想いを抱いたのは、いつのことだっただろう。
遠い昔から、抱えて来た想い。
熱き想いは、変わることなくその胸の中にずっとあった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
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