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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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覚醒 ~side L~
こちらは、本日UPの新作です
注)あくまでも創作ですので、辻褄が合わないことがあっても目を瞑ってください…(苦笑)

拍手[2回]


◇◆◇

 それは、唐突に訪れた。
 大学を卒業し、会社に就職し、何とか体裁を整えた頃…俺は、あの人に会った。

「…篁?」
「…はい?」
 会社の帰り道。偶然立ち寄ったコンビニでそう声をかけられた。
「久し振り。元気だったか?」
「…小暮さん…」
 ホントに久し振りに会ったんだけど…この人は何も変わらない。にっこりと笑った顔も、その声も。何もかも。
「…仕事帰りか?」
 俺の姿を見て、そう問いかける。
「…うん…」
「飯は?」
「いや、まだ…」
「良かったら、一緒にどうだ?久し振りに会ったんだし、話したいこともあるし。俺が奢るから」
「…うん…」
 何だか、強引な誘いだったけど…まぁ、特に予定もなかったし。
 奢って貰えるなら…と、安易な考えだった訳で。
 そして俺は、土壷に嵌ることになる……。

 近くの飲み屋に連行された俺は、取り敢えずビールで喉を潤すと、聞きたかったことを問いかける。
「…デビュー、したんですよね…?」
「ん?…あぁ、まぁ…な」
 どう言う訳か、小暮さんは曖昧に返事をした。その顔は…ちょっと、変な表情をしている。
「…どうしたんです?やりたかった事なんじゃないんですか?」
「まぁ…色々あってな」
 思わず問いかけた俺の声に、小暮さんはビールを口にしてそうつぶやき…そして、少し間を置く。それは、何かを考えているようで。
 そして、暫しの後…ゆっくりと口を開いた。
「お前に…頼みたいことがあるんだが…」
「…俺に?」
「曲をな、書いて欲しいんだ」
「………はい?」
 何で俺が?と言うのが、まず最初の疑問。
 俺は素人で、俺の前にいる人はプロなのに。そして、曲を書く人もいるはずなのに。何で俺、なんだろう?
 そんなことを考えていると、小暮さんは言葉を続けた。
「…いや、お前の言いたいことはわかってる。だが…聞いてみたいんだ。お前の曲」
「…それは…小暮さんの個人的なことで?あなたの組んでるバンドとは関係なく…ってことで?」
「…そう…なんだが…」
 …そうだよな。俺が、プロが歌う曲を作るだなんて有り得ない。
 勘違いも甚だしい…ってとこか。
 思わず苦笑いをした俺に、小暮さんは首を傾げる。
「…篁?」
「…あぁ、スミマセン…」
 いかんいかん。小暮さんは真面目に話をしているんだから…俺も、きちんと聞かないと。
「まぁ…書くのはいいんですけど…」
「ホントか?」
 途端に、嬉しそうににっこりと笑う小暮さん。
 そう。俺は…この人の笑顔が好きで…そして、この人と一緒にステージに立つことが夢だった。それを、ふと思い出した。
 もし、俺の作った曲を小暮さんが気に入ってくれたら。もし、運が良ければ…この先そんなこともあるかも知れない。
 そんな些細な…そして邪な野望と共に、俺は小暮さんの要望を受け入れた訳なんだが…。まぁ、世の中はそんなに甘いもんじゃないとわかっているんだけどね。
 現実…俺は早々に、壁にぶち当たった。
 それは…俺には理解不能な壁、だった。

◇◆◇

 小暮さんに頼まれて、曲を作り始めたものの…その頃から、どうも耳の調子が可笑しい。と言うよりも…余計な何かが聞こえる。
 まるで…傍に、誰かがいるみたい。そんな感じがする。
 勿論、部屋は俺一人で他には誰もいない。
 最初は空耳かと思ったんだけど…どうも違う。
 それは、俺がギターを弾き始めると聞こえる。まるで、それを待っていたみたいに。
 いつしかそれは、俺の曲に意見するようにまでなって…一体何がどうなっているのやら…と頭を抱え始めた頃。
 偶然、彼に会った。

「…篁?」
「……?」
 会社帰りに声をかけられて振り返ると、以前よく見た顔がある。
「…清水さん…」
「久し振り。元気か?」
「…まぁ…」
「……元気そうな顔じゃないが…?」
「………」
 そう言えば…この人も、あのバンドのメンバーだったか…。
 そんなことを考えていると、清水さんは俺の腕をぐいっと掴んだ。
「…なっ…何…?」
「呑み行こうぜ」
「……金欠なんだけど…」
「奢ったるから」
 くすくすと笑う声に、俺は渋々着いていく。まぁ、真っ直ぐ部屋に戻ったところで…ギターを出せばまたあの声が聞こえるんだし。声の主もわからないから、ノイローゼになりそうだったから、良い気分転換だったかも。
 某飲み屋に入り、ビールで乾杯をする。
「…この前、小暮さんにも会いましたよ?何でか急に、曲作ってくれ、って頼まれて…」
「…曲?お前に?」
「…そう…」
 俺の言葉に、清水さんはちょっと奇妙な顔をした。
 そして、暫く何かを考えていたが、やがてその口を開いた。
「…ちょっと…触ってもいいか?」
「…は?」
 俺の返事を聞かず、清水さんは俺の額へと手を伸ばしてその指先を触れると、そっと目を閉じる。
 そして、暫し。
「…わかった」
 そう言うと、大きく溜め息を一つ。
 そして。
「…お前…何か、声が聞こえたりしないか?」
「…何で…知ってるんですか…?」
 ぽろっと口にしてしまってから、何でこの人がそんなことを知っているのかが疑問になった。
 すると清水さんは、再び溜め息を吐き出す。
「…小暮から、何を聞いてる?」
「…何を、って…曲を作ってくれ、ってことだけで…バンドは関係なく、個人的に俺の曲が聞きたい、って…」
「…あのヤロー…」
「あの…俺何か…」
「いや、お前は悪くないな。悪いのは全部、"お前の大好きな小暮さん"だから、それに関しては気にすんな」
「………」
 同じバンドでやってる割に…ホントにこの人は、前から小暮さんのこと良く思ってないんだから…。小暮さんはそうでもないはずなんだけどね。だから、一方的に。
 他の人には、良い先輩、なんだけどね…不思議で仕方ない。
「…で、声のことなんだけど、それはまぁ…そのうち慣れるから」
「…は?」
 何だ…この歯切れの悪い返事は…。
「…何か…知ってるんでしょう?だったら、教えてくださいよ!もう、ストレス溜まりまくりなんですから…っ!」
 思わず声を上げた俺に、清水さんは大きな溜め息を吐き出した。
「…まぁ…お前がそう言いたくなる気持ちもわかる。だがな…一応、手順ってのがあってな…小暮が何を思って、お前に曲を頼んだのか、俺はわからないからな…」
「…何ですか、それ…」
「…もう少し、待ってくれな。そしたら、きっとわかるから」
「………」
 全く…意味がわからない。でも…この人は、色々わかって言っているんだろう。
 暫し、頭の中を整理する。
 そして。
「…曲を書けば…わかるかな……小暮さんが、何を言いたいのか…貴方が、何を隠しているのか」
「…多分、な…」
 それが、一番の近道なら。そうするしか、ないじゃん。
「…わかった。曲、書く。"彼奴"と…一緒に」
「…篁…」
 詮索するのは諦めた。
 小さく笑った俺を、清水さんは不思議そうに眺めていた。
「…何で、そこで笑うんだ?」
 ふと、小さく問いかけられた言葉。それは、俺も聞きたい。
「…何でかな?わかんないや。でも…不思議な感じがする。"あの声"には、ストレス溜まるけど…多分、間違ったことは言ってないんだ。急に曲を作ってくれ、って頼まれて…色々考え過ぎちゃってさ。迷走してるんだろうな~ってことは、自分でもわかってる。"彼奴"は…それを、宥めようとしているんだろうってことも。意味わかんないけど…"彼奴"の声を聞けば、きっと…曲は書ける」
 大きく息を吐き出して、そう言葉を紡ぐ。
 そう。単純に、"彼奴"の声を受け入れれば良いんだ。そうすれば、仕事は一つ終わる。その後は、それから考えれば良い。
「あと一週間。それで、終わらせるから。小暮さんに、そう言っておいてくれます?」
「…何で俺が…」
「ここで会ったから、でしょ?」
 くすっと、笑う。目の前の清水さんは…苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

◇◆◇

 約束の一週間を半分過ぎた頃。
 会社帰りに気分転換に立ち寄ったバー。滅多にそんなところには行かなかったんだけど…その日はどう言う訳か、足が向いた訳で…。
 カウンターの席に座り、一杯頼む。
 さて、頭の中の"声"と、どう折り合いをつけようか…と考えながら飲んでいると…目の前にすっと、別のグラスが置かれた。
「…頼んでないけど?」
「…あちらのお客様から、です」
「………」
 何だ、このドラマみたいな展開は…と思いつつ、ドキドキしながら視線を向けると…
「よぉ」
「……大橋…」
 見知った顔に、溜め息を一つ。何だか…最近、"彼奴等"に良く会うんだけど…。
「偶然だね~」
 隣へ移動してきた大橋は、もう酔っ払っているんだろう。やけに陽気だ…。
「一人?」
「…まぁ、ね。気分転換」
 くすくすと笑う大橋。
「…そう言えば、小暮さんと清水さんに会ったって?」
「…まぁ…」
 内部事情って言うの?それはわからないけど…俺のことは、どう伝わっているんだろうか…。
 俺がそんなことを考えていると、大橋は更に笑いを零した。
「俺の文句、言ってたでしょ?」
「…え?いや…聞いてないけど…何で?」
 大橋の話は、一切聞いてない。だから、そう答えると…大橋はすっと、笑いを収めた。
「…そう、か。あんたには、言ってないのか…」
「…何かあったの?」
 そう問いかけると、大橋はグラスの中身を飲み干す。そして、新しいものを注文すると、大きく息を吐き出した。
「…理由なんてさ…言ったところで、反感を持っている奴には言い訳にしか聞こえない訳よ。俺だってね、好きでヒール役をやってる訳じゃない。だけど…みんなが納得出来ないんじゃ、しょうがないでしょうよ。綺麗事だけ言っていられる訳じゃない。そうなると、不満しか聞こえない訳よ」
「…どうしたのさ…喧嘩でもしたの?」
 随分、やさぐれてるじゃないの…。
「飲みすぎじゃない?」
 溜め息を吐き出しつつ、そう声をかける。すると再び、大橋が笑いを零した。
「相変わらずだね、あんたは。みんなに優しい。無駄に争うことを善しとしない。だから…欲する訳だ。平生を保てる、優秀な"駒"を、ね」
「…意味がわからないんだけど…?」
 何が言いたいんだろう…。かなり酔っ払っているから、察するのも難しい。
 すると、大橋は俺の頭をぐいっと引き寄せると、俺の耳元で小さくつぶやく。
「俺、辞めるから。後宜しくな」
「…は?」
 辞める、って…何を?
 いや…答えは一つしかないんだけど……え?宜しく、って…何?
 一気に混乱…。
「あんたしかいないでしょ?俺の後釜なんて」
「…どう言う…」
「結局、今必要とされているのは"あんた"であって、俺じゃない。丁度良いタイミングだった、ってこと。"閣下"だって、"エース"だって…俺よりも"あんた"の方が良いに決まってるじゃん。あんたの方がずっと、協調を保てる」
 吐き出すような言葉は…酷く重い。それは本当に…大橋だけの言葉、なんだろうか。
「ねぇ…聞こえてるんでしょ?"彼奴"の声。だったら、それが答えじゃん」
「…大橋…」
 俺の耳に聞こえる"彼奴"の声。それは…既に、俺だけの問題じゃないところにあるみたい。
 "彼奴等"の中で…何が起こっているのか、俺にはわからない。だけど…辞めるだの、自分が必要とされていないと言うような話は…聞いていて気分の良いモノではない。
 例えそれが…俺だけではなく、"彼奴"が関わっているのだとしても。
「何で…辞めるのさ?」
 問いかけた声に、大橋は真っ直ぐに俺を見つめた。
「何でって、それを聞いてどうするの?全部、俺の一身上の都合。それで十分でしょう?彼奴等は、それが納得出来ないって。じゃあ、どうすれば良いのさ?やりたいことを目指すのが間違いだとでも?じゃあ、彼奴等は今やっていること以外、脇道に逸れない自信がある訳?」
「…いや、俺に言われても…」
 そう言ったものの…その気持ちは、わからなくはない。
「俺は…やりたいことを、一度諦めた」
 小さな吐息と共に、俺はそう言葉を吐き出す。
「俺だって…音楽で生計を立てたいと思ったよ。だけど…現実はそんな思い通りにはならなかった。俺は、選んで貰えなかった。だから…あんたが羨ましい。俺が立てなかった場所にいて…更に、自分のやりたいことを追求しようとしているんでしょ?全部、俺が出来なかったことじゃん」
「…諦めんのか?」
 そう…問いかけられた。
「…正直…わかんないよ。ちょっと前までは…諦めるつもりだったけどね。今は…ほんのちょっとの期待はある。でもまだ手探り状態。もし足を踏み込んだら最後、今までの生活には戻れないかな~とは思うよ。だって、未練が多すぎるもん。ちょっとでも踏み込んだら、誰だって欲が出る。そうしたら俺は、現状を断ち切って歩き出せるんだろうか?って考えると…ちょっと怖いよ。この先、また諦めなきゃいけなくなったら…俺は、どうなるんだろう、って…。だから…誰かに反対されたって、踏み出そうとする大橋を、俺は凄いと思うよ。そりゃ、反対する方にだって理由はあるんだろうけど…それを断ち切ってまで、目指すものに魅力があるんでしょ?」
「そりゃ…ね。そうでなかったら…簡単に断ち切ろうとは思わないさ。"彼奴等"のことは…俺だって大事だよ。沢山世話にもなったし…愛おしい仲間だと思う。だけど…俺は…"大橋"の夢を、応援したい」
「…"大橋"?」
「あぁ、こっちの話」
 くすくすと、再び零れた笑い。
「やっぱり、あんたしかいないわ。そうやって、はっきり言えるって相当だぜ?あんたならきっと…良い曲、作れるよ。これからも…ずっとな」
「…そりゃどうも…」
 その辺は良くわからないけど…まぁ、励まされたと思うことにしようか。
「まぁ、吐き出すだけ吐き出したしな。そろそろ帰るわ」
「随分呑んだみたいだしね。それが良いよ」
 酔った上での戯言。そうでなければ…多分、吐き出せなかったんだろう。
「あんたに、変に説得されなくて良かった。これで…思い残すことなく、歩き出せる」
「…俺、みんなに恨まれる?」
「さぁね。でもあんたなら…歓迎されるだろうよ」
「…だから、それはどう言う…」
「聞いてみなさいよ。あんたの大好きな、"小暮さん"に」
 くすくすと笑いながら、大橋は席を立った。そして俺の分まで払いを済ませると、にっこりと微笑む。
「愚痴を聞いて貰ったお礼。じゃあ、な」
「…ありがとう」
「いや、こっちこそ」
 笑いながら、大橋は店から出て行った。
 と言うか…俺が話していたのは…俺の知っている"大橋"じゃなかったんだろう。
 何となく…そんな気がしていた。

 それから数日後。俺は、悪戦苦闘しながらも約束通り曲を仕上げた。
 そして…再び、小暮さんと会うことになった。

◇◆◇

 呼び出されたのは、静かな喫茶店。そこに、小暮さんは待っていた。
「…お待たせしました…」
「そんなに慌てなくても良かったのに」
 小暮さんは、くすくすと笑いながらそう言った。
 俺は小暮さんの前に座り、鞄から譜面を取り出して小暮さんの前に置いた。
「…見て貰って良いですか…?」
「…じゃあ…」
 小暮さんが譜面に目を通している間、俺は…黙って、目を瞑っていた。
 この一週間…色んなことがあった。
 その中で、俺は、"彼奴"の声を聞いていた。
 この曲の半分は俺。そして、もう半分は…"彼奴"が作った。それは、紛れもない事実。そして俺は…もう、前みたいに平穏な生活には戻れないんだろうと思っていた。
 大橋が抜け出そうともがいている現実。そして…俺が踏み込もうとしている現実。それは多分…同じ線の上にある。
 この曲が駄目でも…俺には、"彼奴"が付き纏う。切り離すことは出来ないんだと、この一週間で悟った訳で。だとしたら…もう…進むしかない。
 大きく息を吐き出す。そして顔を上げると、小暮さんと目が合った。
 にっこりと笑った、俺の…好きな笑顔。
「…良いな、これ」
「…そりゃ、どうも…」
 もう…戸惑いしかない。さて、俺はどうなるんだろう…。
「…吾輩は…好きだぞ、この曲」
「…"小暮さん"…?」
 ふと…周りの空気が変わった気がした。
 小暮さんは、俺の額にそっと手を触れる。
「…悪いな。試すようなことをして。だがな…吾輩も、確証が欲しかったんだ」
「…確証、って…」
「いるんだろう?お前の、中に」
 その言葉に…ドキッとして、息を飲む。
 そして。
「…吾輩が、待っているんだ。そろそろ出て来てくれないか…?なぁ、"ルーク"」
 甘い、声。それは…もう独りの"俺"を、呼んでいた。
 その声に、俺は…意識を手放していた。

◇◆◇

 ふと目を覚ますと…俺の顔を覗き込む、真っ直ぐな眼差しとかち合う。
《…気がついた…?》
 それは…ずっと、聞いていた声。
「…あんたが…"ルーク"…?」
 "小暮さん"が…俺に…いや、俺の中の"彼奴"に、呼びかけた名前。それが…こいつ、なんだろう。
「あんた…何者…?って…聞くだけ野暮か…」
 俺を覗き込む顔を、じっくりと見つめる。
 白い顔に、蒼い紋様。そして、緩いウエーブの漆黒の髪に…深い深い、黒曜石の瞳。どう考えたって、全うな人間じゃない。
 そんな奴が…俺の中にいた?さっぱり、意味がわからないじゃないか。
 そう思ったものの…答えなんて、疾うの昔にわかっていたのかも知れない。
 だって…小暮さんも、清水さんも…"悪魔"だって、言ってるじゃないの。それが本当かどうかなんてわからなかったけど…今目の前にいるのは、多分…いや、間違いない。
 こいつは、"悪魔"、だ。
《…何かさぁ…俺が色々話す前に、悟っちゃってるみたいだけど…?》
「まぁ…状況が状況、だからね…。前例がいるでしょう?それを今更、何にも知らない振りしろとでも…?」
《まぁ…そりゃそうなんだけどさぁ…俺にも説明させてくんない?》
 "ルーク"は、そう言って溜め息を一つ。
「…良いよ。話は聞く」
 ここまで来たら、しょうがない。
 俺も溜め息を一つ。そして、"ルーク"の顔を見つめた。
「…で?」
《…で?って…お前さぁ……まぁ、良いや》
 "ルーク"は、そこで一旦言葉を区切る。そして、ほんの少し、表情を変えた。それは…真剣な、真面目な表情。
《俺は、軍事局参謀の"ルーク"。あんたが大好きな、小暮さんの…いや、"デーモン閣下"の、片腕ね》
「片腕?」
《そう。因みにもう片方は"エース"ね》
「"エース"って……清水さん?」
《御名答。もう知ってるんだしね。その辺は説明しなくてもわかるでしょ?》
 片腕、って…それなのに、仲悪いんだ、あの二名…。
 まぁ…俺が口出しすることじゃないけど。
「…幾らなんでも省略し過ぎ…」
《だって、どうせ俺が話したって、本気にしてるかどうかも怪しい状態でしょ?でも、俺たちは実際にここにいる訳。理屈で話をして、納得出来るかどうかはあんた次第》
 きっぱりとそう言い切った"ルーク"。
「…じゃあ、俺が納得しなかったら…あんたは消えてくれるの?」
 ふと、問いかけてみる。
《無理。今更、戻れません》
「…じゃあ…納得するもしないもないじゃん」
《だから、理屈で話をするのはやめた訳よ。わかる?》
「…じゃあ、何しに来たのさ」
 不毛な会話…。みんな…こんなんだったんだろうか…。
 溜め息を一つ吐き出すと、"ルーク"も一つ、溜め息を零す。
《…どうせね、俺は出遅れてんの。他の連中はさ、もっと時間をかけて、媒体を説得して、口説き落として…それでやっと覚醒する訳よ。でも…俺には時間がない。もうみんな活動は始めているし、実績を積み始めている。でも、俺にはまだ何もない。だから、ちょっと慌ててる訳さ》
「…慌ててるようには見えないけど?」
《慌ててんの。気持ちはね。でも、今ここで焦ったところでどうにもならないからね。今は冷静さ。どうやってあんたを口説こうかと思案中》
「………」
 みんな…こんなんだったんだろうか…。ホント…悪魔って、謎…。
 困惑する俺の表情に、"ルーク"はくすっと、小さく笑った。
《あぁ、御免ね。話は、ちゃんとするよ》
「…そうしてくれる?」
 "ルーク"は一つ、咳払いをする。
 そして。
《はっきり言うよ。あんたは、俺の…"悪魔"の、媒体として生きることになる。もう知っている通り…悪魔として活動する時に、身体を貸して貰う。その間、あんたは眠っている、って訳》
「…悪魔が活動する目的は?地球征服、人類滅亡って…本気で言ってるの?」
《勿論。まぁ、尤も…今すぐにどうこうって訳じゃない。何れ…ってところね。だから、あんたを無駄死にさせるつもりもないし、人並みに…とは言えないけど、幸せに暮らしていけるようにさ、精一杯努めさせていただきますよ、ってこと》
「みんな…同じこと言われてさ、納得してるんでしょ?何で?」
 それは、ずっと思っていたこと。
 悪魔を名乗り、活動を始めた"元仲間たち"。彼らが、俺と同じように"悪魔"に口説かれたのなら…みんな言われている内容は同じはず。
 俺は…未だ、"こいつ"の言うことを丸ごと受け入れられないんだけど…。
 すると、"ルーク"は暫く口を噤んでいた。多分、考えていたんだろう。俺が納得する答えを。
 そして、口を開く。
《最終的な着地点は…同じだよ。この地球を、護る為。人類滅亡の布石を撒く為。その為に、俺たちはあんたたち"人間"の身体を必要とする。あんたたちは、その為に選ばれた"媒体"であること。俺たち悪魔は、その"媒体"を、精一杯護ること。みんな、それを伝えているはず。でもさ…それぞれが抱いている"想い"ってのは、みんな違う訳だよ。あんたたちだって、みんな同じ考えでいる訳じゃないでしょ?それをどう口説き落とすかは、それぞれの力量って事。さっきも言った通り…俺はみんなから出遅れてる訳よ。そうなると、あんたも事前に色んな情報を得ているでしょ?それを改めて丸ごと伝えたって、イマイチ納得出来ないって言うのはわかる。だから…俺は、俺なりに、もっとあんたに伝えたいことがあるんだ》
「…伝えたいこと…?」
《そう。俺はね、"デーモン閣下"の片腕。だから…"閣下"を、護るのが仕事。俺は…ただ、隣に立って…"閣下"の…"デーさん"の、笑顔が見たいの》
「…それだけ?」
《そうよ?面倒なことは良いの。それだけ》
 そう言って笑った"ルーク"の笑顔。それは…正直な気持ち、だったんだろう。清々しい笑顔だった。
 そして…俺は、"ルーク"のその気持ちは、納得出来た。
《あんたは?"小暮さん"の笑顔、近くで見たくない?》
 そう、問いかけられた。
「……見たい」
 それは…俺も、正直な気持ち。
 小暮さんの歌声を初めて聞いた時…自分の人生が変わった気がした。それからずっと…あの人の傍に、いられたら幸せだろうな~と思っていた。
 でも、現実は…俺は仲間に選ばれなかった。だから…全部忘れようと…就職して、せめてもの体裁を整えたはずなのに。それを崩したのは…やっぱり、小暮さんだった。
 こうして…"悪魔"を前にして、俺は…選ばれなかったんじゃなくて…出遅れただけなんだ、と。
 そう。何度も"ルーク"が言ってたじゃないか。出遅れたんだ、って。
 だったら…追いつけばいいじゃん。まだ間に合うのなら…懸命に、追いかけてやるよ!
《交渉成立…かな?》
 俺の様子を伺うように、"ルーク"が問いかける。
「…成立。俺も、あんたと一緒に…小暮さんの笑顔を見るっ」
《OK!頑張ろうな》
 そう言うなり、"ルーク"は俺を抱き締めた。
《じゃあ、契約!》
「は…っ?!」
 あっと言う間に…俺は、"ルーク"にキスされた…。
《あぁ、これが契約の儀ね?これで、あんたは俺と一心同体、だから》
「………」
 唖然…。何か、腑に落ちない…。でもまぁ…仕方ない、か…。
 大きな溜め息を吐き出した俺を、"ルーク"は笑った。
《まぁ、生きてく内にはそんなこともあるさ》
「…しょうがないな…」
 俺も、くすっと笑いを零した。
 まぁ…そんなこともあるか。

◇◆◇

 眩しくて目を開ければ…そこは俺の部屋、だった。
 さて…どうやって帰って来たのやら…。
 俺以外は、誰もいない部屋。今までのは…もしかしたら、全部夢だったんじゃないかと思うくらい、いつもと変わらない。
 取り合えず、会社に行かねば…と支度を始めた時。電話が、鳴った。
「…はい」
『篁?小暮だが…朝早くから電話で悪いな』
「いえ…大丈夫です…」
 時計を確認し、まだもう少し時間に余裕があることを確認する。
『夕べな、お前から作って貰った曲、他の奴らにも聞いて貰った。みんな良いって言っていたぞ。それで…だ。次の新曲に…使っても良いか?』
「…はい?」
 突然の話に…俺は、ちょっと混乱気味…。
「新曲、って…」
『歌詞は、吾輩が書くから。共同制作、な?』
「……はぁ…」
『それから…話は聞いたと思うんだが…お前は間違いなく…我々と同じ、"悪魔"だから』
「…小暮さん…」
『また後でゆっくり話はするが…今は時間もないだろう?だから…一言だけ』
 そう言って、一旦言葉を切る。
 そして。
『お前は、吾輩の片腕だからな』
 それは…甘い誘惑。
 俺は…もう、絶望しなくても良いんだ。踏み出しても…大丈夫なんだ。
 そう思ったら…涙が出た。
『…篁?大丈夫か…?』
 ちょっと…徒ならぬ気配でも感じたんだろう。心配そうに呼びかけられる。
「あ…大丈夫です…」
 涙を拭い、鼻を啜り…呼吸を整えると、一言。
「…宜しくお願いします!」
 電話だと言うのに…俺は頭を下げていたりする…。
 受話器の向こうから…くすくすと笑う声が聞こえる。
『お前らしいな』
「…そりゃどうも…」
 流石に…ちょっと恥ずかしくなった…。
『また、夜にでも連絡する。朝の忙しいところ、悪かったな』
 じゃあ、な。
 そう言って電話は切れた。
 俺は…大きく吐息を吐き出す。
 夢では…ない。これは、現実。そう、だから…この先には、別れもある、と言うこと。
 浮かれてばかりはいられない。
《…これから、忙しくなるよ》
 耳に届いた、"ルーク"の声。
「…そうだね。取り合えず…仕事行かないと!」
 くすくすと笑いながら、俺は支度をして部屋を飛び出した。

 その夜、約束通り小暮さんから電話があり、週末にある場所に呼び出された。
 そこには、メンバー全員が揃っていて…そこには、当然…大橋…否、"ジェイル"の姿もあった。
 そこで俺は、"ジェイル"が脱退すること。そして…俺がその後を継いで、ギタリストとして入って貰いたい、と言うことを聞いた。
 勿論、俺はまだ仕事があるから、直ぐに…と言う訳にはいかないんだけど…都合がつき次第、会社を辞めることになった。
 今後の話を煮詰める中…いつの間にか、"ジェイル"の姿はそこにはなかった。
「…御免、ちょっと野暮用…」
 トイレ休憩も兼ね…俺は打ち合わせをしている部屋から出ると、"ジェイル"を捜した。
 そして…休憩所の端に、"ジェイル"を見つけた。
「何してんの?こんなところで」
 そう声をかけて、隣に座る。
「ん?休憩。今後の事は、俺は関係ないし」
 そう言葉を零す"ジェイル"。けれど…その顔に、悲壮感はない。
「…仲直り、したの?"閣下"と…"エース"と」
 様子を伺いながら、そう問いかけてみる。
「まぁ…多少、歩み寄れたかな、ってとこだな。あんたと話してから…一応冷静にね、もう一回話はしたよ。完全に理解して貰えた訳ではないけど、まぁ…首切りではなく、ちゃんと送り出してはくれる。それで十分」
 くすっと笑いながら、そんな答えが帰って来る。
「そう。良かった」
 一つ、安堵の吐息が零れた。
「…あんたのおかげ。ありがとうな」
「…俺も、あんたのおかげ。踏み出す勇気、貰ったもん」
「じゃあ、お互い様、ってことで」
 俺は"ジェイル"が差し出した手を、しっかりと握り締めた。
「またいつか…帰って来てね。待ってるよ」
「…あぁ。それが許されるのなら」
「許されるって。大丈夫、大丈夫」
 にっこりと笑って、俺はそう言葉を返す。
 きっと、大丈夫。だって…俺たちは、いつまでも仲魔だもの。
 とても、大事な…大切な、仲魔だから。
 一度築いた絆は、そう簡単には切れない。だから…。
 にっこりと、"ジェイル"が笑った。
 

 そして、その数日後…"ジェイル"はいなくなった。
 そして俺は…正式に、聖飢魔Ⅱのギタリストとして、任命された。
 この先、何が起こるかはわからない。でも、それでも…俺は、小暮さんの笑顔を見る為に。そして、"ルーク"は…"デーモン閣下"の笑顔を見る為に。
 その為に…俺たちは、同じ道を歩んでいくんだろう。
 お前は間違いなく…我々と同じ、"悪魔"だから。
 その一言で…俺は、道を歩き始めたのだから。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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