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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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影従 1
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
 6話完結 act.1

拍手[1回]


◇◆◇

「…ちょっと…王都に行って来ます…」
 養い子のその言葉に、くすっと笑いが零れた。
「あぁ。エースのところに行くなら、宜しく言っといてくれよな」
 何処へ、とは言われてはいない。だが、長年育てて来た子供の考えなど、その顔を見れば容易いこと。
 その言葉に、目の前の顔がうっすら赤くなる。
 本当は…別の目的があるはず。だが、その目的の相手は、最早この魔界にはいないはず。だからこそ、何かのきっかけとして、このところ何かを考えていたようだった。そして、やっと実行に移した、と言うところだろうか。
 多くを語らず、そのまま王都へと向かった背中を見送ると、大きく一息吐き出す。そして、読みかけの本を手に取ると、そのまま椅子へと腰を下ろした。栞代わりに挟んであるのは、先日届いた一通の封書。封筒の中から便箋を取り出すと、その視線を落とす。
 もう、幾度も読み返してはいる。返信の必要のない、現状報告のみの手紙。だが…ずっと、心の奥に引っかかっている想いが、幾度も読み返すと言う行動に出ていると…自分で分析していた。
 記憶の奥に引っかかっている、"彼"の姿。
 自分にとっては、既に遠い記憶。けれど…それは、今では魔界の"脅威"であるらしい。
 どうしたものか…と溜め息を吐き出しつつ、再び封書を本へと挟み込んだ。
 忘れてしまえれば…どれだけ良かったか。
 そんな想いは、いつまでもその胸の中で、燻り続けていた。

◇◆◇

 遡る事、十数万年前。それは、まだ王都で現役で働いていた頃の事。
「…隠密使…?」
 彼の執務室を訪れ、その話を持ちかけて来たのは、軍事局の参謀長たるルシフェル。
「そう。皇太子殿下の為に、貴殿に協力していただきたいと思いましてね」
 にっこりと微笑んでそう返すルシフェルに、彼は溜め息を一つ。
「俺に、皇太子殿下の隠密使になれと…そう言う事か?」
「はっきり言ってしまえば…ですけれどね」
 このルシフェルとは、彼の立場上、仕事での繋がりは強い。だが、突然そう言われたところで、直ぐに返事を出来る訳でもない。
「ダミアン殿下…だったな?」
 名前を聞いた記憶は、まだ数回程度。入局の予定はあるが、まだもう少し先のことだったはず。なので、顔も見たことがなければ、どんな悪魔なのかもわからない。
 そして何より…まだ、子供のはず。
 そんな子供の隠密使として、そろそろ退官を考えても良いか…言う年齢でもある彼が選ばれた意味もわからない。
「どうして俺を?」
 率直に問いかけてみると、ルシフェルはすっとその表情を引き締める。
「貴殿の実力を知っているから、ですよ。退官を考えていらっしゃるようですが、それは余りにも勿体無い。どうせなら、もう少し御自分の能力を活用してみてはどうか…と、提案している訳でね」
「そう言われてもな。自分の能力は、自分が一番良くわかっているんだが」
 思わず苦笑すると、ルシフェルも小さく笑いを零した。
「御謙遜を。貴殿は、まだまだ現役を続けられますよ?相棒としてのわたしが言うのですから、間違いないはずですよ?」
「買い被り過ぎだ」
 確かに、彼とルシフェルは、戦地へ出れば相棒として動くことが多い。けれど、相手は元熾天使。そして現在は軍事局の参謀長ではあるが、皇太子の教育係も兼任している。年齢的には大差はないはずだが、正直、真剣に戦っても勝算などない訳で。実力的には、遥かに上の相手である。
「…まぁ、隠密使の話は保留として…どうして今、なんだ?まだ入局もしていないだろう?」
 問いかける声に、ルシフェルは小さく息を吐き出す。
「入局してからでは遅いのですよ。周囲をしっかり固めてからでなければ、幾らなんでも危険でしょう?」
「相変わらず、過保護だな。だが、固めてから…と言うことは、その話を持ちかけたのは俺にだけではない、と言うことだな?」
 再びそう問いかけると、ルシフェルは小さく頷いた。
「えぇ、まぁ。一応、ソウェルにも話はしましたよ。後は、まだ確定ではないですが…誘いたい相手はいます。尤も彼は、実力はありますがまだ入局していないのでね。もう少し様子を見てから…と言うところですね。当面は、両脇を固めていれば何とかなるかと」
「…両脇、ねぇ…」
 彼と並んで、枢密院で実力派のソウェル。その名と肩を並べた時点で、既に巻き込まれているのではないか…と感じざるを得ない。
「それに、士官学校の中もなかなかの実力派揃いだと聞いています。卒業待ちの悪魔も数名いますからね。これからが楽しみですよ」
 くすくすと笑いを零すルシフェル。魔界に、新たな風が吹いていることは感じていたが…もしかしたら、この元熾天使の差し金なのではないか…とも思う。
 天界に反旗を翻した訳ではない。けれど、天界から手を引いて魔界へ降りた、最高権力を持っていたはずの熾天使。その意図は未だ見えず…相棒ではあるものの、御互いに何処か一線を引いたまま。親しい付き合いと言うまでには至らない。だからこそ、その誘いに素直に頷けないのかも知れなかった。
「…貴方は…どうして、そこまでダミアン殿下の為に…?」
 思わず、そう零れた言葉。
「確かに、貴方が育てたのかも知れない。だが、そこまで肩入れする理由は何処にある?貴方がその気になれば…魔界を滅ぼすのも容易いだろう?それだけの実力がありながら、全てを捨てて魔界へ降り、皇太子に傅く理由は?」
 そう問いかける眼差しは、とても真剣で。冗談だの、軽口で切り返すことなど出来ない空気に、ルシフェルは一つ息を吐き出した。
「肩入れする理由は…一つしかない。わたしは…大魔王陛下に助けられた。その、御恩返しですよ」
「…恩返し…」
 その言葉の意味は、至極簡単。けれど、それだけでは腑に落ちない。
「熾天使と言う立場は…天界では最高位かも知れません。ですが、魔界では一番の厄介者に過ぎない。貴殿も先ほど仰った通り、いざとなれば魔界に反旗を翻すのではないか。わたしにそんな気がなくとも、そう思われても不思議はないのですよ。けれど、大魔王陛下は…わたしを信じて、受け入れてくださった。参謀長の通例通り、皇太子殿下の教育係としても受け入れてくださった。そこまでしていただいて…反旗を翻せるはずはないでしょう?勿論、教育係として育てて来たのですから、ダミアン殿下に徒ならぬ情はあります。あの方を御守りするのが、わたしの仕事ですから。わたしは、真正面からダミアン殿下の盾になります。けれど、背後と横が手薄になっては困る。ですから、貴殿に御願いしているのですよ。貴殿なら…ダミアン殿下を護れると信じていますから」
「…信じる、ねぇ…」
 正直…彼には、そこまでの情はまだない。ただ、ルシフェルの言いたいことは理解は出来る。
「…要は、貴方は裏方は俺たちに任せ、自分は表立って護ると…そう言う事か?」
「まぁ、そう言う事ですね。その方が、周りにはわかりやすいでしょう?ダミアン殿下を狙うのなら、わたしを狙えば良いのだ、と。表立っての攻撃は、わたしが引き受けます。けれど実際は、わたしを倒しただけではダミアン殿下を狙うことは出来ない。そう言う事です。ですから、隠密使、なのですよ」
「…成程な」
 そこまでの心意気があるのなら…まぁ、協力しないこともない。
 だがしかし。
「ソウェルはどうかは知らないが…正直、俺は兼任は厳しいぞ?これでも情報局の長官だからな?常に裏で護ることは出来ないな」
 そこが、一番の問題だった。
 枢密院にいるとは言え、ソウェルはトップではない。仕事量も違えば、立場も違う。その気になれば、隠密使としての業務との兼任は可能だろう。
 だがしかし。局のトップたる長官職である彼は、通常の職務を熟しながら、尚且つ他悪魔知れず皇太子を護る。それはどう考えても厳しい現状。
「だからこそ、貴殿に声をかけたのですよ?退官を考えていらっしゃるのでしょう?わたしが勿体無いと言うのは、長官職に限ったことではないと言うことです。退官なさった後の事でもあるのですよ?」
「…俺に長官を辞めた後、隠密使としての役に付けと…そう言う事か?」
 様子を伺うように問いかけた言葉に、ルシフェルはにっこりと笑った。
 それが、正解だと言わんばかりに。
 その笑みに…思わず、彼も笑いを零す。
「少し、考えさせてくれ。まぁ…なるようにしかならんがな」
「期待して、御待ちしていますよ」
 くすっと笑いを残すと、ルシフェルは執務室を後にする。
 その背中を見送った彼は…小さな笑いを零した。
 隠密使など、未知の世界。けれど…それも、また面白いかも知れない。
「…ジャンの奴も随分伸びて来たからな…そろそろ、明け渡しても良い頃か…」
 副官たるその姿を思い出し、腕を組んで小さく唸る。
 情に生きるタイプではないことは、彼自身良くわかっていた。だからこそ、隠密使など本来は興味はないのだが…彼に、現職に対する未練は殆どない。だったら、少しぐらい足を踏み込んでも良いだろうか。もし肌に合わなければ、辞めれば良い。王都にいられなくなったところで、職務を辞めるのであれば問題はなかった。

 それから数日、一応もう一度悩んでみたのだが、結果は何も変わらない。
 それが答えなのだと判断した彼は、軍事局のルシフェルの執務室を訪れていた。
「この前の話だけどな」
 そう話を切り出すと、ルシフェルはにっこりと笑った。
「決心していただけましたか?」
「…まぁ、な」
 完全に相手の思う壺。そう思いながら苦笑する。
「だが、今すぐに…じゃないんだろう?退官してからの話だよな?」
 そう確認をすると、ルシフェルは小さく頷く。
「えぇ、そのつもりです。ですが、ダミアン殿下の入局までには御願いしたいのですが…」
「あぁ、それまでにはな。こっちも、ジャンを新長官として任命するつもりだから、その手続きやら引継ぎやらあるからな。手間取らなければそれ程時間はかからないはずだ」
 そろそろ、長官職も引き際だろう。そう思い始めてから、後任として副官であるジャンを次期長官として鍛えて来た。そろそろ引き渡しても大丈夫だろう。それが、一つのきっかけでもあった。
「…で?ソウェルの方は?」
 もう一名、名前の挙がっていたソウェルの事を聞いてみる。
「ソウェルなら、あっさり了解しましたよ。まぁ…彼自身に関しては、もう少し様子を見たいのですが…」
「…どう言う事だ?」
 ルシフェルの意図が読めない。そう思いつつ、問いかけてみる。すると、小さな溜め息が零れた。
「ソウェルは、実力は十分あります。ただ…本心が見えない、と言いましょうか…」
「本心?」
 眉根を寄せ、怪訝な表情を見せると、ルシフェルは机の引き出しから一綴りの書類を取り出すと、彼に渡した。
「血筋を辿ると、王家の分家です。ただ…彼の父上は、王家には余り歓迎されていないようですね。今のところ、彼は大魔王陛下に忠実ですが…この先、どう転ぶかはわかりません。ですから、様子見です」
 渡された書類に目を通すと、確かにソウェルは王家の遠い血筋らしい。勿論、それは少し調べれば誰にでもわかること。つまりは、公にしていることであり、隠し立てしている訳ではない、と言うこと。
「だったら、そんな微妙な奴をどうして皇太子の隠密使に?近くに置く方が危険だろう?しかも、背後を護らせようって言うんだ。尚更危険じゃないのか…?」
 それは、当然の疑問。けれどルシフェルは、そんな言葉にも顔色一つ変えない。
「敢えて、ですよ。そうならないに越したことはありませんが…もしもの時は、ダミアン殿下の目の届く場所にいる方が都合が良いでしょう?今はまだ入局前の子供かも知れませんが、大魔王陛下の血を継ぐ皇太子殿下です。周囲の気配には誰よりも敏感ですよ。御自身が狙われていると察した時、目の届く範囲にいる相手であればどうにでも対処出来ます。それが、背後から狙う相手だとしても」
「…喰えねぇな、あんた」
 思わず零れた本音。
「で、どうして俺にそれを話した?俺が、賛同しなかったらどうするつもりだ?俺が、反旗を翻すとは思わなかったのか…?」
「わたしが思うに…その若さで退官を考えておられるくらいですから、その身位に未練もないのでしょう。そして、ダミアン殿下に対する忠実心も深くはない。だからこそ、何かに執着するようには思えないのです。反旗を翻すには、それなりの労力が必要です。今の貴殿からは、反旗を翻すほどの強い反発心は感じません。勿論、貴殿の実力は十分理解しております。その上で、執着心の薄い貴殿を選んだのですよ。思いが深ければ深いだけ、志を変えることは難しいですからね」
 真面目な顔でそう返すルシフェルに、彼は笑いを零した。
「ホント、喰えねぇな、あんたは。流石、元熾天使だ」
 思いがけない返答に、ルシフェルも笑った。
「これでも、最上位で政権を握って来ましたからね。多少の駆け引きは然る可きです。勿論、ダミアン殿下に危害を加えるつもりはありませんから、何かあればわたしも全力でダミアン殿下を護りますよ」
 笑った瞳の奥に見えた、強い光。深い紺色の瞳は真っ直ぐに前を見つめていて、ぶれることのない意思を見せ付けていた。
「勿論それは、ソウェルだけに限った話ではなく、貴殿に対してもです。全てを貴殿に背負わせるつもりはありませんし、やはり駄目だと思ったら辞めていただいて結構です。唯一つ、約束だけはしていただきたい」
「…約束?」
「えぇ。隠密使として知り得た事は、誰にも公言しないこと。そして、貴殿の素性は明かさないこと」
 その言葉に、彼は小さく首を傾げた。
「知り得たことを誰にも公言しないはともかく…今更、素性を明かさないも何もないだろう?これでも、顔も名前も結構知られているんだが?」
「わかっています。けれどそれは、"情報局長官"としての貴殿です。わたしが言いたいのは、"隠密使"としての貴殿として、です。勿論、隠密使としての仕事は裏方ですから、基本表に出ることはないと思っていただいて結構です。なので、顔は…まぁ、変えようと思えば出来ないことはありませんが、そこまでする必要はないかと思います。貴殿の顔が知られていることは、ある意味強みにもなりますから。ですが、名前だけは…分別を付ける為にも、隠密使として動いている間だけは変えていただきたい」
「あぁ、それは構わないが…」
 確かに、隠密使は他悪魔に知られないように活動する役割なのだから、言わんとすることはわかる。別に、仕事の間だけならば、別名を使うことにも抵抗はない。
「…で?名前は何に変えたら良い?」
 ふと、問いかけた言葉。
「そうですね…」
 問いかけた彼の言葉に、ルシフェルは暫く何かを考えていたが、やがて机の引き出しからメモ紙を取り出すと、彼の名前を紙に書く。そしてそれを暫し眺め…にっこりと笑った。
「"アデル"、にしましょうか。それから…ソウェルは……"ウェスロー"が良いですかね」
「…"アデル"?"ウェスロー"??」
 何をどうやったらそう変わるのか…そんな疑問を浮かべた表情の彼に、ルシフェルは手元のメモ紙を彼に見せた。
 そして、彼の名前が"アデル"に…そして、ソウェルの名前が"ウェスロー"に変わった理由を聞いた。
「…成程な。それで"アデル"、か。良い名だな。気に入った」
 くすっと笑いを零すと、ルシフェルも笑いを零した。
「気に入っていただけて良かったです」
 そして、椅子から立ち上がったルシフェルは、彼へと手を差し出した。
「これから宜しく御願い致します、"アデル"」
「あぁ、宜しく」
 にっこりと笑い合い、しっかりと握手を交わす。
 彼は、皇太子の隠密使として…そして"アデル"として、新たな道を歩き始めることとなった。

◇◆◇

 ぼんやりと、昔の事を思い出していると、ふと玄関で誰かが呼ぶ声が聞こえた。
「あぁ、呼び鈴壊れてたな…」
 そう零すと、面倒臭そうに椅子から立ち上がると、本を机の上に置いて玄関へと向かう。そしてそのドアを開けると、そこには懐かしい姿が立っていた。
「…エースじゃないか。どうした?」
「御無沙汰しております…ちょっと、御話がありまして…」
 黒の軍服に身を包み、思い詰めた表情でそこに立っていたのは、随分前に半年ほど世話をしたその悪魔。尤も、相手はココロを病んでおり、その時の事は殆ど覚えていなかったはず。仲魔にも記憶喪失だと言われ、それを鵜呑みにしていたのは知っているが…こうして改めて訪ねて来られるとは思っていなかった。
「まぁ、入ったらどうだ?」
 些か緊張した面持ちのエースに声をかけ、家の中へと促す。すると、小さく息を吐き出したエースはその声に促されて入って来る。
「済みません、御忙しいところ御邪魔して…」
「あぁ、大丈夫。ぼんやりしていただけだからな」
 そう言って笑った彼は、エースをソファーへと促して御茶を淹れる。
「…サラは…まだここに?」
 家の中には彼一名。エースが御世話になってからもう随分経っている為、独り立ちしていても何ら不思議はない。そう思って問いかけた言葉に、何かを思い出した彼は苦笑する。
「まだいるよ。そう言えば、今日は御前に会いに行くと王都に向かったんだったが…完全に入れ違いだったみたいだな」
「…そうですか。急いで帰れば間に合うかも知れませんが…」
「あぁ、何か話があるんだったな?」
 エースの前に御茶を置きながらそう言葉を返した彼は、エースの前にと腰を下ろす。
「…で?俺に話ってなんだ?」
 改めてそう問いかけると、エースは軽く居住まいを正す。そして、小さく息を吐き出すと言葉を続けた。
「貴殿に…教えていただきたい。"アデル"と"ウェスロー"のことを」
「……は?何のことだ…?」
 思わず問い返した声。だが、エースは真剣な表情のまま。
「以前、情報局長官であった貴殿なら、御存知のはずですよね?その二名の名前を」
「…俺にそれを聞いてどうするつもりだ?」
 真剣な表情を前に、興味本位で問いかけてみる。
「話を聞きたいのです。ダミアン殿下の隠密使が、"魔界防衛軍"となった理由を」
「…"魔界防衛軍"…か」
 相変わらず、真っ直ぐに彼を見つめているエースから視線を落とす。
 その名称は、先ほどの手紙に書いてあった。今や魔界の脅威となっている"魔界防衛軍"。その彼等が、皇太子の隠密使として動いていた、と言う事実。そこまではどうやら突き止めたのだろう。けれど…どうもその先は、まだ闇の中と言う感じであった。
「…隠密使に関しては、まぁ…多少は知り得ている。だが…残念だが、俺は"魔界防衛軍"とは何の関わりもない。"ウェスロー"が何を考えているのか、それも全く理解は出来ない」
 溜め息混じりにそう答えた声に、エースは僅かに詰めていた息を吐き出す。
「では…"アデル"のことは、理解出来るのですね?"アデル"は何故、隠密使を辞めたのですか?」
 その言葉に、彼はもう一つ、大きな溜め息を吐き出した。
「御前なぁ…"アデル"のことを本当に何も知らないで、俺のところに来たのか?」
 心底呆れた。そんな表情を見せた彼に、エースはいつになく罰の悪そうな顔をした。
「現情報局長官のエースと言えば、正確無比で広い情報網を持っていることで有名らしいな。その上、百戦錬磨の兵だと言うじゃないか。王都から離れたこんな小さな田舎町にまで、そんな噂は届いているんだ。それなのに、その御前が肝心な情報を手に入れられず、右往左往していると?今まで情報局の長官として、何をして来たんだ?」
 現時点で、エースのここまで辛辣に説教する相手は王都にはいない。だからこそ、久し振りのその感覚に、大きな溜め息が零れた。
 彼の言うことに、間違いはない。だからこそ…ここで、尻尾を巻いて帰る訳にはいかないのだ。
「…確かに、貴殿に比べれば…まだまだ未熟者です。それは認めます。ですが、隠密使はその立場上非常に口が堅い。そこに何名所属して、誰がいるかなど何処にも記載もなければ、登録名と本名すら別物です。その状態で、必要な情報を掴めるのはほんの一握りの関わりのあった者しかいないはずです。ですから、貴殿に聞いているのです。仲魔たちを…この魔界を、護る為に」
 エースを取り巻いている状況は、大まかにだが知り得てはいる。だから、その心情もわかる。けれどそれは、エースの弱点でもあると、彼は考えていた。
 何かを護る為に、何かを、犠牲にする。
 その想いを…以前のエースは、乗り越えることが出来なかったのだと。
 だが、生まれ変わったエースがどれだけ強くなったのか。それはまだ、彼にはわからない。そして…今、エースが本当は何を護ろうとしているのかも。
「…仲魔を、魔界を護る為、か。なかなかの大義名分だな。だがな…俺は、情に生きる悪魔じゃない。御情け頂戴の話は大嫌いだ。御前が本当に護りたいモノは何だ?仲魔か?魔界か?恋悪魔か?それとも…自分自身か…?それを護る為に、何かを犠牲にしなければならないとしたら、何を犠牲にする?御前の返答如何では…俺はこのまま、御前を叩き出すぞ」
 些か、口調は厳しかったか…と思ったものの、彼にとってはそれはエースの覚悟を知る為の問いかけでもあった。その返答如何では、本当に何も語らず、家から追い出すつもりでいる。それは、彼が放つ気でエースにもわかっているはずだった。
 エースは…と言うと、唇を噛み締めて視線を落とし、暫く何かを考えているようだった。だがやがて顔を上げたエースは、大きく息を吐き出した。
 そして。
「俺は…何も、諦めない。何を犠牲にするつもりもない。仲魔も、恋悪魔も、魔界も…俺自身も、全部護りきってやる。その為に、ここへ戻って来たんだ。必ず…"オズウェル"を見つけ出す。だから…協力して欲しい。貴殿の知っていることを、教えて欲しい。この通りだ…」
 深く、頭を下げる。
 口調も、先ほどまでとは違う。それはまさに、エースの本心なのだろう。その姿に、暫く口を噤んでいた彼だったが…やがて、ソファーから立ち上がると、キッチンへと姿を消した。そして戻って来た時には、二つのグラスと一本の酒瓶を携えていた。
「…そこまで言われちゃ、しょうがねぇな。ま、取り敢えず一杯やろうか」
「………」
 ついさっきまでの姿とのギャップに、唖然とした表情を見せたエース。けれど彼は、そんなエースに笑いを零し、グラスに酒を注いだ。
「強いんだよな?まぁ、ちょっと付き合ってくれや」
 そう言いながら、グラスを一つエースの前に置く。
「…で、"オズウェル"って誰だ?」
 それは彼も聞いた覚えのない名前。彼の記憶の中に、そんな名前の隠密使はいなかったはず。
 問いかけた彼の声に、エースは一度唇をぎゅっと噛み締めた。そして、ゆっくりと口を開く。
「…わかりません。直接会ったことはありませんし…向こうからも接触はありません。ですが…こちらがかなり苦汁を飲まされていることは確かです。多分、"魔界防衛軍"の中では一番権力を持っているのではないかと…」
「へぇ…」
 現魔界に於いて、彼ら上層は最早最強と言われても過言ではないくらいの実力を持っていると聞いている。その彼らが誰とも良くわからない相手に苦汁を飲まされていると言うのだから、"オズウェル"と言う得体の知れない首謀者が脅威の元凶なのだと言うことはわかった。
 グラスに口を付けながら、ふとあることを思い出して暫し考える。そして、にやりと笑いを零した。
「…成程な、"オズウェル"、か…」
「…心当たりでも…?」
 彼のその表情で、何かに辿り着いたのだと察したエース。だが、問いかけたその言葉に、彼は笑いを零した。
「御前が、"アデル"に辿り着いたなら、きっと"オズウェル"にも辿り着ける。まぁ、それまで暫く自分で考えてみるんだな」
「…まずは"アデル"、ですか…」
「そんなに遠い話じゃないだろうよ。俺が何か知っていると踏んで、ここへ来たんだ。強ち…間違っちゃいない」
 くすくすと笑いながら、グラスの中身を飲み干す。そして、未だ困惑した表情を浮かべているエースを笑って見ていた。
「俺が今言えることは、一つだけだ。折角来たんだからな、それだけは教えてやる。隠密使を最初に召集したのは…ルシフェル、だ」
「…ルシフェル…」
 久し振りに聞いたその名前。だが確かに、わからなくはない。
 元々ルシフェルは皇太子の教育係であった。そう考えれば、皇太子を護る為に隠密使を集めたのだろうと言う意図はわかった。
 だがしかし。
「…では…ルシフェル参謀長も隠密使だったと…そう言う事ですか?」
 その辺りの事情が、当時はまだ下っ端だったエースには良くわからない。
「いや。ルシフェルは隠密使にはならなかった。彼奴は、自分は正面で盾となって皇太子を護ると言い切ったからな。その代わり、背後と横を護る為に厳選した悪魔を隠密使として召集した。"アデル"と"ウェスロー"はその時の面子だ。その後、何名か入って来たようだが、その辺のことは俺にはわからない。だが…当時は、ルシフェルの遊び心が隠されていた、ってことだな」
「…遊び心…?」
 怪訝そうに眉を潜めるその姿は、多分ルシフェルの事を良く知らないから、だろうか。
「そう。受け継がれているだろう?皇太子にも」
 くすくすと笑いながら、彼は再び自分のグラスへと酒を注ぐ。
「まぁ…わからなくはないですが…」
 確かに、皇太子の茶目っ気には幾度も振り回された記憶がある。けれどそれがルシフェルから引き継がれたモノだとは…想像もしていなかった。そして、その茶目っ気は…図らずも、"息子"にも受け継がれていると感じていたりもする。
「いっそうの事、はっきり聞いてみたらどうだ?皇太子に…さ。意外と教えてくれるかも知れんぞ?」
「…はぁ…」
 何処までも、思考の読めない彼の姿に、エースは小さな溜め息を吐き出していた。
 けれど、全くの無駄足ではない。それは、確実に前へと進める道だった。

 結局…エースはそれ以上彼から何を聞きだすことも出来ず…共に昼酒を酌み交わしただけで、王都へ戻って行った。
「…まだまだ御前は甘いな、エース」
 くすくすと笑いながら、窓からその背中を見送った彼。だが、もう直…その真意に辿り着く。
 再びここへと訪ねて来るであろうその日を楽しみに。
 笑う彼の姿は、実に楽しそうに見えていた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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