忍者ブログ

聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Re Start 後編
こちらは本日UPの新作です。
パスワードはありませんが、
些かエロっぽいのでお気をつけて…(笑)

拍手[5回]


◇◆◇

 石川が打ち合わせをしている頃。
 一旦自宅に戻って着替えた湯沢は、とあるスタジオに来ていた。
「あれ?今日は来ないんじゃなかった?」
 そこにいたのは、彼の昔から現在進行形の仲間…篁。
「うん…ちょっと、時間潰し中」
「え?石川さんは?」
「仕事。夕方から打ち合わせだって」
「そっか」
 ギターの手を休め、近くの椅子に座っている湯沢を、篁は小さく笑う。
「元気ないじゃん。夕べ、行ったんでしょ?石川さんのところ」
 ぼんやりと彼のギターを眺めている湯沢。まぁ、元気がないと言えば元気はない。
「まぁね。でもさぁ…何って言ったら良いか…」
 返す言葉は、どうも歯切れが悪い。
 湯沢の行動に関して、察しているのだろう。篁はくすくすと笑いを零した。
「どうせ、はっきり言わないで突進したんでしょ?それで、石川さんが引きまくって?」
「…どうかなぁ…引かれてはいないと思うんだけど」
 事に石川に関しては、半分は無自覚。もう半分は、本能。そんな湯沢の行動パターンは、一番長い付き合いの篁は良くわかっていた。
 そして、御互いの、御互いへの執着心が未だ薄れていないことも。
「…話はしたんでしょ?」
 問いかけた声に、湯沢は溜め息を一つ。
「…今朝、軽くはね。悪い返事は返って来ないと思うんだけど…まだ、詳しいことは何にもだけどね。石川くんの打ち合わせが終わったら、食事に行く約束してるから、その時に…とは思ってるんだけどさ」
「じゃあ、夕べは何してたのさ…」
「何って…石川くん帰って来るの遅かったし…それから、ちょっと違う話をして…んで、ナニを……」
「…はぁ?ナニって…何?」
「いや、だから……ちょっと、煩悩に負けて…」
 ちょっと赤くなって言い淀む姿には、流石に察した。
「…大事な話しないで、何してんのさ…良い年して、欲望に負けてどうすんのさ…」
 思いがけない方向に話が進み、篁は突っ込みどころ満載の湯沢に思わず問いかける。
「…だって…しょうがないじゃん。言い辛くて酒飲んだら寝ちゃって…起きたら、風呂上りの石川くんいるんだよ?良い匂いしたし…何か数年振りにムラッと……ねぇ」
「いや、ねぇ、って言われたって…そんな姿見ても、俺は石川さんには欲情しないし」
 呆れたように笑いを零す篁に、湯沢は溜め息を一つ。
「されたら嫌だし。それに俺にとっては、そっちも大事なの。仕切り直し、って言うか…何と言うか…」
「まぁ…あんたの気持ちもわからなくはないけどねぇ…」
 篁も、湯沢と石川の微妙な関係のことは知っていたし、そのことで湯沢が時々悩んでいるのもわかっていた。
 同い年で昔から仲も良いし、今一番傍にいて、一番今の湯沢を良く知っている。だから、どうするべきなのかもわかってはいた。
 だからこそ…RXの活動再開の相談をされた時、その背中を押してみたのだ。
 けれど、その大事な話もしないで、何をしているんだ…と言う気持ちもあったのだが…まぁ、湯沢にとっては、どちらも大事なのだから、それはそれで仕方のないことなのだ。
「ちゃんと、話しなよ。後悔のないようにね?」
 篁にそう釘を刺され、湯沢は溜め息を一つ。
「…わかってる…」
 どちらかの家でゆっくり話をしようかとも考えたのだが、そうするとまた、煩悩に流されてしまいそうで。だからこそ、外で会って話を…と思っていたのだ。
「本能で突き進むのも良いけど、欲望だけに押されないように頑張れ~」
「…それは俺だけの話じゃないけどね」
 思わず、くすっと笑いが零れる。
 きっかけを作ったのは…踏み込んだのは、確かに自分の方。けれど…それで、前へ進めたのだと思いたい。
 その為には、ちゃんとやるべきことをやらなければ。
「気分転換に叩いてけば?」
 そう言う篁の背後には、昨日の昼まで湯沢が叩いていたドラムセットがそのままセットされている。
「…そうね…ちょっとだけ…」
 ストレス解消には持って来いだが、調子に乗ると体力を消耗するので、その辺は加減をしつつ。
 石川から連絡があるまで、湯沢は時間潰しを満喫していた。

◇◆◇

 その日の打ち合わせは、滞りなく終わった。予定よりも少し早く終わったこともあって、湯沢くんに連絡を入れたものの、それでも待ち合わせた時間までちょっと余裕があった。
「…何だ、まだ帰らないのか?」
 どうやって時間を潰そうか…と考えていると、俺に声をかけて来た姿。
 色々あって…打ち合わせに同席していたその相手…まぁ…同じく元悪魔の、清水さんなんだけどね。
「ちょっと、時間潰し中…」
 そう言った俺の声に、清水さんはちょっと笑った。
「潰してるのか?ぼんやりしてるだけじゃないのか?」
「…色々、考えることが沢山でね…」
 小さく溜め息を吐き出した俺の顔をじっくりと見ていた清水さん。
「何か悩みでも?でも、この前よりも肌艶は良いよな?夕べ、何かあった…?」
「…そう言うの、ホントに目ざといよね…」
 思わず、溜め息を一つ…。
「この後、デートか?」
「…ご飯食べに行くだけだよ」
「この前の新しい彼女と?」
「…ちょっ…何の話してるのっ!あの子は彼女じゃないってばっ!ただの知り合いだって…っ」
「じゃあ、縒り戻したんだな?」
「…戻したって言うか…」
 そう言いかけて、ふと口を噤む。
 何で、こんなにすんなりと口を割ってしまうんだろう…誘導尋問が上手いのか、俺が馬鹿なのか…。
 ふと我に返った俺に、清水さんはくすくすと笑った。
「…湯沢だろ?」
「……もぉ…最初からわかってたんでしょ…」
 俺たちの関係は、清水さんも知っていたはず。だからこそ、縒りを戻した、とか言う言葉を使ったんだろう。
「それで、何で溜め息?」
 もう、聞き出す気満々で、椅子まで引っ張って来て…。
「…何と言うか…ホントにこれで良かったのかな、って…」
 溜め息混じりに吐き出した言葉を、清水さんは煙草を銜えながら聞いていた。
 一応…俺の前だからか、まだ火はつけずにいてくれているけど。
「きちんと、向かい合って話が出来ているなら大丈夫じゃないのか?前の時は、話もきちんとしないで、すれ違っていたんだろう?」
「それはそうなんだけど…」
「その様子だと、夕べ湯沢とやったんだろう?問題なく出来たなら心配ない」
「…あのねぇ…」
 思わず溜め息…どストレート過ぎる…。流石、清水さん、としか言いようがない…。
「…まぁ、冗談は扠置き…」
 呆れる俺の表情に、清水さんは小さく咳払いをして、そして俺の顔を見つめた。
「どうせ、彼奴の方から踏み込んで来たんだろう?だから御前は、そんな顔しているんだろう?でも、考えてみろ?彼奴だって、どれだけの勇気を振り絞って踏み込んだと思う?御前が流されたにしろ、そうでなかったにしろ、もう一回一線を越えることがどれだけのことか、良くわかってるだろう?」
「…まぁ、ね。それはわかってるよ。だから尚更…引っかかるんだ。湯沢くんは、RXも、もう一回やりたいって言い出すし…それに関しては、色々準備もあるし、予定も組まなきゃいけないから、直ぐには返事は出来ないけど…何だか、急に色々動き出した気がして、気持ちが着いて行かない…」
 そう。それが、正直な気持ちだったのかも知れない。
「今更何を…何年この仕事してるんだよ。急に仕事が決まることだって、幾らだってあっただろうよ」
 溜め息交じりの声に、俺も小さく溜め息を吐き出す。
「だってね、五年も六年も、俺たちは違う道を歩いて来たんだ。RXに関しては、もっとブランクはあるし。幾ら間に再々結成があって、頻繁に顔を合わせることがあったって、全部が元通りじゃない。その間に…ゼノンとライデンはともかく、俺たちは身体の関係にだって一度もならなかった。それが今また、この年になって…こんな状況になってさぁ、昔と同じように何もかも出来る、って言う方が難しくない?」
「…御前が年の所為にしたら、俺はどうなるんだよ…」
「…いや、そう言うことじゃなくて…」
 清水さんは、苦虫を噛み潰したような顔をして笑っていた。本気で怒られてはいないみたいで、それは良かったんだけど…
「他に、恋人を作るでもない。さっき、猛烈に否定しただろう?いつになっても湯沢を忘れられないのは御前も同じじゃないか。御前がそうであるように、湯沢だって同じだろう?彼奴が何か変わったのか?」
「…え?」
 不意に問いかけられ、一瞬答えに困る。
「だから、変わったのか?御前に対する態度だとか、考え方とか…何か、違和感があるのか?」
 清水さんは、俺の顔を見つめたまま、そう問いかけた。
 その言葉に、俺はちょっと考える。
 夕べは唐突だったけど…根本は、昔のまま、だった。何も、変わってはいない。まぁ、多少は年相応に落ち着いて来たけど。
 小さく首を横に振った俺に、清水さんは小さく笑った。
「だろ?暫く会ってない俺だって、彼奴がそう簡単に変わるとは思ってないんだ。だったら、そこに違和感を感じる御前が、心配し過ぎなんじゃないのか?変に年の所為にしてみたりな。誰だって年は取る。当たり前だろう?話のネタに、年だ年だと言うのは良いけどな、心の中では否定してる。少なくとも俺は、草臥れたおっさんになるつもりはないからな。見た目も中身も、な」
「清水さん…」
 確かに。このヒトは、多分普通に会社勤めしている同い年の人に比べれば、見た目も中身も若いと思う。
 勿論湯沢くんだって、年齢は多少だけど、中身は俺よりずっと若いと思う。
「まぁ、無理に若ぶれとは言わないけどな。まだまだ老け込む年じゃないだろう?まだまだ働き盛りだぞ?」
「…まぁ、ね…」
 何だ、この説教…思わず笑ってしまう。
「…元気出たろ?」
 清水さんも笑いを零す。
「…出たね。年長者の言葉は重みがあるよ。有難う」
「御前なぁ…まぁ、それだけ言えれば大丈夫だろう」
 苦笑しながらも、清水さんも機嫌は良い。
「御前たちは、恵まれているんだから。悪魔であった時も、人間である時も、同じ相手を好きでいられるんだぞ?それ程恵まれていることってないだろう?全部を取り戻そうとするのは確かに無理だけど、年相応に進んでいけば良いじゃないか。まぁ、彼奴の方が体力も精神力も若いだろうから、昔と同様に相手してたら大変だろうけどな。その辺はちょっと加減しとけよ」
 確かに…それはそうだと思う。
 悪魔だとか、人間だとか…そう言うシガラミがある俺たちは、普通に生きているよりももっと複雑な生き方をして来たと思う。そして、報われない想いを知っている清水さんだから…俺たちを、恵まれているって言えるんだろう。
「…そうだね。色々御免。愚痴ばっかり零していないで、前向きにちゃんと考えるよ。折角…出逢えたんだからね」
 そう言った俺に、清水さんは小さく笑った。
「年長者の話はちゃんと聞けよ」
「…了解です…ちゃんと加減するし」
「そっちかよ」
 ぷっと笑いを零した清水さんの姿に、俺も思わず笑いを零した。
 こうして、ちゃんと笑って話せるんだから…大丈夫。
 振り返らずに、ちゃんと前へ進もうと思う。
 その気持ちは…清水さんにも、伝わっただろうか。
 多分、伝わっていると思うけどね。

◇◆◇

 湯沢くんと待ち合わせをしての食事中。
 一通り食べ終えて満足したのか、湯沢くんは徐ろに話を切り出した。
「…でさ、RXのことなんだけど…」
「うん」
「大きなことを考えてるんじゃないんだけどさ…来年で10年経つんだよね、休止してから。だから…俺たちが今いる証って言うか…そんな意味も含めて、アルバムぐらい出したいな~と…」
「…そうか。もう、十年も経つんだ…」
 色々あって、あっと言う間だったから、そんなに経ってるとは思わなかった。でも、キリが良いと言えば確かに良い訳で。
 もっと悩むかと思ったけど…改めて活動、と言うよりも、集大成のアルバム、と言うのなら、話は別。悩んでいる時間が勿体無い。
「まぁ…良いよ。来年を目処で良いなら、慌てなくても大丈夫だろうし…」
 そう言った俺の言葉に、湯沢くんは一瞬目を丸くする。
「良いの?」
「別に良いよ?」
「…ホントに?俺に、流されてるんじゃなくて…?」
「…何でそんなに疑うの…?」
 ホント、何でそんなに疑われているのか、俺の方が聞きたいよ…。
「だって…もっと、ごねるかと思ったんだもん…」
 ちょっと気まずそうに、そう零す湯沢くんに、俺は小さく笑う。
「ごねる必要ないじゃない?別に、大喧嘩して辞めた活動じゃあるまいし…それに、やりたかったんでしょ?」
「そうだけど…」
「だったら、やろうよ。きっと…楽しいよ」
 その言葉に、湯沢くんはやっと笑った。
 そう。俺は…この笑顔が好きだから。
 この笑顔を見る為なら、ちょっとばかりは無理も承知。だからいつも甘やかしてるって言われるんだよね。
 良く考えれば…俺たちが出逢ってから、もう三十年経つんだけど…それでもまだ、俺は…誰よりもこのヒトが、好きなんだと思う。甘やかしているって言われ続けても、それに甘んじていたのも…全部、この笑顔の為。楽しそうな…幸せそうな、その顔を見たいから。
「…俺たちが出逢う前よりも、出逢ってからの方がもう長いんだから。まぁ、その間には色々あったけど…俺は楽しかったよ。だから、きっと俺たちの想いの詰まった、良いアルバムが出来ると思うよ」
「…そうだね。頑張ろうね」
 にっこり笑いあって、握手を交わす。
「忙しくなるよ」
「望むところだっ」
 力強い握手は、希望に満ちていた。
 
◇◆◇

「…でさぁ…」
 帰り道。またもや不意に、湯沢くんが口を開く。
「…今度は何…?」
 次は、何の話だ…と思ったところに、湯沢くんはすっと寄り添って来た。
「…今日も行って良い?」
「…良いけど…」
 相変わらず…元気だな…。
「明日仕事は?」
 問いかけた俺の言葉に、湯沢くんは視線を斜め上に向け、何かを考えているようだった。
「えっとね……一応…リハがね……」
「…何時から?」
「…昼から…」
 そう言われ、思わず時計に目を向ける。
 時間は…そこそこ良い時間…。
「…そんな忙しい時に、君は、何をしようとしてるのかな…?」
 思わず問いかけた声に、湯沢くんは笑いを零す。
「何だろうね~?でも、昔もそうだったじゃん?俺、結構そんなんだったと思ったけど?オフの時よりも、ミサの立て込んでる時の方が妙に盛ってなかった?ずっとそんなんだったから、多分俺的には問題ないけど?」
 …何で彼は、そんなことをしっかり覚えているんだろうか…まぁ、それに関しては…多くは語るまい…。
「……盛る、って猫じゃあるまいし…御免ね。俺は君とは違って、中身も外見も年を取ったんだ」
「もぉ、石川くんったら…」
 ちょっと不貞腐れたように、頬を膨らませる。それを今でも可愛いと思うのは…俺も、相変わらずだと言うことだろうか。
「…今日は、早く寝るよ」
 小さな溜め息と共に、そう言葉を吐き出す。
 途端に、湯沢くんも笑いを零す。
「了解!」
「…ったく…」
 その代わり身の速さに、思わず苦笑する。
 そんなヒトに惚れてしまったんだから、今更…だな。

 家に戻って来ると、湯沢くんは直ぐに身体を摺り寄せて来た。
 まだ、電気もつけていない上に…靴も脱いでいない。荷物も背負ったまま。
 それでも、首に腕を絡ませ、抱きついて来る。
「ちょっ…」
「ちょっとだけ充電。一日我慢してたんだもん」
「だからってこんな所で……」
 思わず、小さく声を上げたものの…俺の肩に寄せられた頭と、直ぐ傍に見える首筋。そして、俺の鼻を翳めたのは…懐かしい匂い。
 これは…俺を、惑わす匂いだ…。思わず、喉が鳴る。
「…ねぇ、湯沢くん…」
「…何?」
 抱きついたまま、言葉だけ返って来る。
「…昼間さ…ドラム、叩いた?」
「……何で?」
 一瞬の間があり、問いかけが返って来る。
「…汗の匂いがする…」
 そうつぶやいた瞬間、湯沢くんはばっと俺から身体を離す。
「…御免…シャワー浴びてなくて…臭かった…?」
「いや、そうじゃなくて…」
 まだ、電気は点いていない。なので、薄暗い玄関なんだけど…それでも、表情を歪めた顔は見えた。
「臭いんじゃなくて…懐かしいって言うの?色んな匂いがあるけど…その中で、煙草の匂いと、汗の匂いがね…懐かしいな、って…」
「…石川くん…?」
 夕べは、風呂に入った後だったからそんなに気付かなかったけど…今日は感じた。
 これは…昔から、良く嗅いでいた匂い。懐かしくて…胸の奥が、ぎゅーっとなって…抑えられなくなる。
 昔から自覚はあったんだけど…ここに来て再び、自分の性癖を改めて引きずり出された気分…。
「…昼間さ、時間つぶしも兼ねて…ちょっとだけ叩いて来たんだ。篁がスタジオ使ってたから。加減したから、そんなに汗かくとは思ってなかったんだけど…煙草も、なるべく控えてたんだけど…御免ね…」
 申し訳なさそうな声。でも、そうじゃないんだけどな…。
 俺は、くすっと笑うと、取り敢えず荷物を降ろす。そして、腕を伸ばしてその姿を抱き締めた。
「…臭うんじゃないの…?」
「だから違うってば」
 ちょっと逃げ腰の湯沢くん。その姿に、ちょっと面白くなって来てしまって…俺は身体の向きをちょっと変え、玄関のドアに湯沢くんの背中を押し付けると、片手をドアにつく。
「…これって、壁ドンってヤツ?」
「そう、ね」
「いやん、ドキドキする~」
 笑いながらそう言う声に思わず笑いを零しつつも、そのまま顔を寄せて口付ける。
 昨日の湯沢くんじゃないけど…鼻先を掠める匂いは、駄目だ…完全に、理性など遠くへ押しやってしまう。
 一度スイッチが入ってしまったら、もう抗えない訳で…。清水さんから言われたにも関わらず…ここまで引きずり出されると…加減は、出来そうにない…。
 もう、欲望に、従うしかない。
 軽い口付けを繰り返すと、甘い吐息が零れる。
「……どしたの?急に…エロいよ…?」
 思わず問いかける湯沢くんの声。
「…この匂いは卑怯だよ…興奮する…」
「…はい?」
「そう言う事。覚悟して」
 頭の中は、もうぐしゃぐしゃで。何も、考えられない…。
 俺は、目の前にある首筋に口付けると、綺麗に見えている鎖骨をそのまま舐め上げる。
「ちょっ…ん…っ」
 甘い声。その声は、更に興奮を促す訳で…。
 薄暗い中、身体を弄りながらそのまま首筋から耳まで舐め上げると、耳朶に軽く歯を立てる。そして再び、首筋から鎖骨へと、唇を這わせる。暗いからこそ…吐き出す熱を帯びた呼吸も、湿った微かな"音"も、耳に残る。それは多分…御互いに。
「…ぁっ…ん」
 小さく甘い嬌声を上げ、身を竦める姿は、もう…ねぇ。
「……限界。ベッド行くよ」
「ちょー…っ?!」
 俺はそのまま湯沢くんを抱えると、慌しく靴を脱いで寝室へと直行した。
 そこから先は……良く覚えていない…けれど、腕の中の身体が…そして自分自身が、快楽に落ちていくのは覚えていた。
 こんなに興奮したのはいつ振りか…と思うくらい、自分でもどうかしているとは思った。

 眩しくて目を開けると、今日は隣にいた姿も目が開いていた。
「おはよう。良く眠れた?」
 にっこり笑顔でそう問いかけられる。
「…まぁ…ね。で、今何時?」
 問い返すと、彼は身体を捻って時計を見た。
「まだ七時。大丈夫」
「…そう…」
 一つ、欠伸が零れる。
 彼は俺のその姿を、じっと見ている。
「覚えてる?夕べのこと」
 横向きに寝転んだまま、そう問いかけられた。その声にふと視線を向ければ…その裸の胸元には、幾つもキスマークがついている…。服を着れば見えないけど…流石に、自分たちの年を考えれば…我ながらどうかと思う…。
「…夕べは…失礼しました…」
 思わずそう零すと、くすくすと笑う声。
「いいや、アレはアレで結構楽しかったよ?あんなに興奮してるあんたは久々だったけど、ちゃんと前みたいにベッドまで運んでくれたし。でも、何で急に…?何かあったの?」
「…別に、そう言うんじゃないんだけど…」
 俺は上体を起こすと、両手で顔を覆った。
「…匂いにね…弱いんだ…」
「…はい?」
「湯沢くんの匂い限定なんだけど…汗の匂いと、煙草の匂いがね…丁度良い感じでミックスされてると駄目なんだ。夕べは…その…久々に止まらなかった…」
「…何それ…初めて聞いたんだけど…?」
「…言ったことないし…」
「まぁ…そんな重要なこと、言われてたら覚えてるしな」
 くすくすと笑う姿に、俺は…多分、真っ赤になっているんだろう…顔が熱い…。
 一人、照れている俺を前に、湯沢くんはベッドから上体を起こすと、俺の耳にその口元を寄せた。そして囁くように言葉を紡ぐ。
「俺、覚えてる。初めての時も、仕事の後なのにシャワー浴びさせてくれなかったよね。もしかして…ミサの後や仕事の後、ロクにシャワーも浴びさせてくれないままが多かったのも、そんな理由…?時々、変なスイッチ入ってるな~と思ってたんだけど…ゼノンの余韻かな~とかね、考えてたんだけどさ」
「……そう言う事は良く覚えてるんだから…それは、俺だけの所為ではないけど…って言うか、そう言う状況で何でそんな冷静に考えてるのさ…」
 そう。昔は…半分以上、ゼノンの意識だったから。確かに俺だけの理由ではないのかも知れないけれど…でも、もしかしたらそうだったのかも知れない。
 ゼノンが…無意識に俺の意を汲んでいたのなら。有り得なくはない。
 と言うか…今更そんな昔の事を引っ張り出して来たり、冷静に分析しないで欲しい…。
 口篭る俺の姿を笑った湯沢くんは、俺の耳に軽く口付けると、耳元で囁く。
「…石川くん、チョー可愛い」
「……可愛いとか…やめてくれ…」
 きっと…耳まで真っ赤だろう…。
「何で?すっげー可愛いんだけど?まぁ、俺も当然興奮してる訳だけど、ふっと思う時があった訳よ。今この状況の石川くんを突き動かしてる興奮の原動力は何だろう?ってね。まさか匂いフェチだったとはね~」
「…フェチって……」
 まぁ…そう言われても反論は出来ないよね…フェチなのは事実だし…。
「まぁ、今回判明したからすっきりした。ドラムなんて、全身運動だからどうしたって汗もかくし、良い年のおっさんになったのに、それを臭いとも言わずに好きでいてくれるし。煙草の煙が嫌いだって言うクセに、俺の身体に残る匂いは好きだなんてさ?フェチ以外のナニモノでもないけど…俺のこと全部、好きでいてくれるみたいで、すっげー嬉しいよ?物好きって言われればそれまでだけどね」
「…湯沢くん…」
 気持ち悪いと思われるかも知れないと思いつつの告白に返って来たのは、上機嫌の声。そして、満面の笑顔。
----有難うね。
 そう言って、俺の頬に口付ける。
 真っ直ぐに伝えると、真っ直ぐに返って来る。それって、凄く難しいことなんだとは思うけれど…ちゃんと返って来ると、凄く嬉しい。
 確かに…俺は、恵まれているんだろう。改めて、そう実感した。
「俺こそ…有難うね。受け止めてくれて」
 ちょっと照れつつも…素直になってみる。
「当たり前じゃん?だって…"俺の石川くん"だもん。今更フェチぐらいどうってことないし」
 にっこりと笑う湯沢くん。
「俺の、って…あと…フェチを連呼しないでくれる?流石にどうかと思う…」
「事実なのに?まぁ、良いけどね」
----誰にも渡すつもりはないしね。
 笑いながらそう囁かれる。
 弱みを握られた感がない訳ではないけど……まぁ……それでも良いか、なんてね。
 ずっと、"俺の湯沢くん"であるのなら…ね。

 再び、歩き出した道に、今のところ不安は見えない。
 目指すところが違ったとしても、共に歩いて行ける。
 俺たちが新たに結んだ絆は、今までとはまた違った色を見せてくれた。
PR
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
  
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
Copyright ©  -- A's ROOM --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by petit sozai emi / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]