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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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渦 3
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
3話完結 act.3

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◇◆◇

 ラルが帰ってから暫くして、エースがやって来た。
「言ってくれれば出向いたのに」
 そう言った俺に、エースは溜め息を一つ。
「呼んで待ってる暇があったら、俺が動いた方が早い」
「…あ、そう…」
 まぁ…確かにね。自分で動く方が早いって思うのはわかるけど。
「…じゃあ……」
 俺はもう一度例の箱を持って、ソファーへと座った。
「何だ、それ」
「ん?ゲーム。ついさっきまで、ラルにも相手して貰ったんだけどね」
「………暇だな、御前…」
 呆れたように溜め息を吐き出したエースだけど…しょうがないじゃん。他にやりようがないんだから…。
「まぁ…取り敢えずやろうよ」
『内密な話もあるし』
 意識波も添えてそう言葉を投げかけると、エースも小さな溜め息と共に俺の前に座った。
『ラルにも相手して貰った、ってことは…何か情報は得たんだな?』
 カードを配る俺をじっと見ていたエースは、そう意識波を飛ばして来る。
『…まぁね。さっさとラルに話聞いときゃ良かった、って思うくらいのヤツね。でもその前に、あんたの話も聞かせて。何か見つけたんでしょ?』
 そう問いかける声に、エースは再び溜め息を吐き出す。
『取り敢えず、ライデンには連絡は入れた。特に、誰かに見られているだとか、そう言う感覚はないそうだ。まぁ、御前も暫く行ってないみたいだしな、その辺は大丈夫だった』
「…そう」
 小さくつぶやきながら、俺たちはゲームを始めた。
『"オズウェル"に関しては、やはり何も出て来ない。それが偽名だとしたら、どうにもならないからな。取り敢えず…それだけ、だ』
「…は?」
「それだけ。後は何にも」
「………あんたにしては珍しいね…」
 思わず零した言葉に、エースも溜め息を一つ。
『情報がなさ過ぎだ。それに退魔の呪は、基本的に口伝えだからな。遣い手に聞くのが一番早いんだが…一応ライデンにも聞いてみたんだが、わからないらしいしな』
『あぁ、そのことなんだけど…ラルの話だと、どうやらシェリーは遣い手の知識があるらしいんだ』
「…は?」
 今度はエースが、そう零す。まぁ…俺も同じだったし、そう零したい気持ちはわかるよね。
『彼奴の魔力のレベルを考えると、自分が扱うことは出来ない上に、入り込まれてもわからないくらいの最低ラインみたいなんだけどね。でも扱えるか扱えないかは別として、知識だけはちゃんとあるみたい。だから、彼奴に聞くのが一番早いかも知れない。それから…もう一つ聞いた話だとね、彼奴、ラルの部下ではあるけど中途で入局してまだ一年で、誇れるのは剣術だけって言うレベルなんだけど…その前は枢密院の衛兵だったらしいよ』
「………」
 エースは完全にゲームの手を止め、真剣に何かを考える顔になっていた。
『やっぱり…引っかかるよね?"魔界防衛軍"の残党…』
 俺の言葉に、エースはその視線だけを俺に向けた。
『…それは御前の話を聞く前から引っかかってる。ゼノンの解任の話が出た時からな。だが、その時もそう思ったんだが…ちょいちょい証拠を残していくのは…どう言う事だと思う?』
 真っ直ぐに俺を見つめる琥珀の眼差し。その理由に、エースは引っかかっているんだと思う。
『まぁ…俺もそれは引っかかったよ。調べれば直ぐに何かが出て来る。でも、肝心なところにまでは決して届かない。そう考えると…多分、彼奴等には余裕があるんだと思う。追いかけられるものなら追いかけてみろ。絶対捕まらないからな、って言う自信もね』
「…やっぱりそう思うよな…」
 大きな溜め息を零したエースは、ソファーから立ち上がって御茶を淹れに行く。
「御前も飲むか?」
「うん。有難う」
 俺の返事を聞いて、エースは二つのカップを持って戻って来た。
『多分…もう、魔界だけの問題じゃないな。ターディルの標的はデーモンだったが、今の標的はライデンだ。ターディルの後継者は、この状況で魔界に手を出すのは危険だと判断したんだろう。だから、標的を変えたんだ。雷神界は魔界よりも規模が小さいし、軍部も国を護ることに重点を置いているからな。責め返されるとは思っていないんだろう。だからこそ、踏み込めれば魔界よりも支配するのが簡単だと思っているのかも知れない。だから…ゼノンと御前を、利用しようとしたのかもな…』
『ホント…最低…』
 溜め息を吐き出し、御茶のカップに口を付ける。
『軍部の強化を、ライデンにも伝えておいた方が良いな。手遅れになる前に…な』
『そうだね。それはあんたに任せるよ』
『あと、一応念の為枢密院の衛兵も調べておく。まぁ…手がかりは残してはいないと思うけどな。御前はとにかく、シェリーに退魔の呪を聞いて、その厄介なヤツを追い出しとけよ』
 御茶を飲み終わると、エースはそう言ってソファーから立ち上がった。
「また来る」
「はいよ。結局、決着はついてないからね」
 俺はカードを翳してそう言うと、エースは溜め息を一つ吐き出して執務室を出て行った。
 その背中を見送り、カードを片付け、カップを片付け…さて、それじゃ…と、俺は紙に言いたいことをざっと書くと、シェリーを執務室に呼んだ。

 声をかけて直ぐに執務室にやって来たシェリー。
「…御呼びですか?」
「御呼びだね。まぁ、仕事でも振ってみようかと思ってね」
 緊張した面持ちで問いかけるシェリーに、俺はにっこりと笑って紙を差し出す。
 俺が差し出した紙を受け取り、その紙面に目を落とした。
《ラルから、ここに来る前の話は聞いた。
どうやら、俺たちの影に潜んでいる"ヤツ"は、遣い魔の類の可能性がある。あんたは半精霊らしいけど、遣い手の知識があるのなら、退魔の呪を知っていれば退けられるかも知れない》
 それを読んだ瞬間、シェリーはハッとしたように顔をあげた。
「…で、知ってる?」
 問いかけた声に、一つ息を飲んだシェリー。そして、少しだけ考えた後、小さく頷いた。
 そして。
「…直ぐに準備を、します。少し御待ちいただけますか?」
 ゆっくりとそう言った表情は、強張っているようにも見えた。
「OK。あんたに任せるよ」
 そう返した俺の声に、シェリーは頭を下げて執務室を出て行く。
 そして時間にして十分ほどが経った頃、シェリーは執務室に戻って来た。その手に、一本の剣を携えて。
「…済みません、ちょっと自信がないので…協力していただけますか…?」
 小さく零した声に、俺はちょっと笑いを零す。
「良いけど…でも、呪術師は御前だぞ?まぁ、取り敢えずやってみ。魔力の底上げは手伝ってやるから…自信持って」
「……はい」
 大きく息を吐き出し、シェリーは気持ちを落ち着ける。それから、手に持った剣を鞘から抜いた。そしてもう一方の手にも剣を呼び出す。
『…結界だけ…御願いします。わたしが張って、逃げられてしまうと面倒なので…』
 そう、俺の頭に届いた意識波の声。へぇ、ちゃんと練習して来たんじゃん。だったら、俺もそれに答えてやらないとね。
 俺は椅子から立ち上がると、執務室に結界を張った。で、ついでに結界内の魔力も高めてやる。それでシェリーの魔力も幾分高まるはず。
『これでOK?』
 問いかけると、小さな頷きが帰って来る。
『では…いきます』
 シェリーは目を閉じると、その呪を口にする。
 最初は緊張した声だったけど…詠唱が高まるにつれ、その声にはしっかりとした自信が感じられた。
 そして呪が最高潮に達した時…それは、遂に姿を現した。
 俺とシェリーの足元から、不穏な気配を感じると思った途端、ぞわっと背筋を走った感覚。そして、足元に現れた黒い"影"。
「こいつ、か。どうする?」
「"影"を押さえます」
 シェリーはそう言うなり、自分の足元の"影"を剣で突き刺す。そしてもう一振りの剣で、俺の足元の"影"も同じように突き刺した。
 そして再び、呪を唱える。先ほどとは別の呪は、どうやら "影"の動きを封じるものらしい。
 呪を唱え終わったシェリーは、大きく息を吐き出して俺へと視線を向けた。
「…これで、暫くは動けないはずです。彼等を…如何致しますか…?用件がなければ、このまま消し去りますが…」
「用件、ねぇ…」
 俺は、自分の足元とシェリーの足元にいる"影"に視線を落とした。
 どう見てもそれは"影"であり、そのものが実体なのかはわからない。だから、こちらから何かを聞き出すことは出来ないだろうし…出来たところで、遣い魔なら決して主のことは何も言わないだろうし。
「消して良いや。戻されれたことがわかったら、用件があれば本体の方から何かアクションを起こすだろうしね。まぁ、多分…暫くは何も起こらないと思うけど」
 少し考えてから、俺はシェリーにそう言った。
 そう。多分…ここで"彼等"を消しても、何のアクションも起こさないと思う。
 これは…本気で俺たちをどうこうしようと言うものじゃない。それは、ゼノンの解任の件でもわかっていた。
 "奴等"の狙いは…俺たちが、全員揃った時だろう、と。その方が確実に捕らえられる上に、一つの爆弾を放り込めば受けるダメージも大きい。そう、思っているはず。
 だったら、こちら側から下手に手を出すより、相手の出方を見た方が良い。それは、俺の考えではあるけれどね。
「…了解しました」
 シェリーはそう言うと、大きく息を吐き出して再び呪を口にする。そして、呪を唱えながら自分の足元の"影"から剣を引き抜くと、その刃に手を触れる。
 触れた途端光を宿したその剣は、退魔の能力を乗せたのだと言うことは見ていてわかった。
 そしてその剣で、俺の足元の"影"を突き刺す。今度は先ほどとは違って、"影"はそのまま剣の光に飲み込まれるように姿を消す。
 それをもう一度、自分の足元へと繰り返したシェリーは、呪を唱え終わると大きく息を吐き出し、手に持っていた剣を鞘へとしまう。そして俺の足元に刺さっていた剣を引き抜くと、核へと戻して身の内にしまった。
「……終わりました。多分…これで、大丈夫です…」
 シェリーにしては、随分大仕事だったんだろう。緊張が解けたその顔に、疲労の色は隠せなかった。
 荒い息を零しながら、一瞬よろけたその身体を捕まえ、ソファーへと座らせる。それから、結界を解いて回りの気配を探る。
「…確かに、この前までの奇妙な気配はなくなった。これで悪夢を見なきゃ完璧、って訳ね」
 まぁ、そればっかりは寝てみないことには何とも言えないけど…ね。でも、自分の影から気配が消えたことには、ホッと息を吐き出した。
「御苦労様。やれば出来るじゃん」
 俺はそう言って、シェリーの髪をくしゃっと掻き混ぜた。
「…って言うか、退魔の経験あったの?」
 知識はある、とは聞いたけど…自分が扱える訳じゃない、って言ってたよな…?それにしては、いざ始めたら意外と堂々としてたけど。
 すると、呼吸を整えたシェリーは首を横に振った。
「いえ、初めてです。ですが…ルーク様が、自信を持ってやれ、と仰ったので…」
「……あ、そう…」
 失敗したら、どうするつもりだったんだか…まぁ、俺が自信を持ってやれ、って煽ったんだから、何かあったら俺が責任を取るべきだったんだろうけど…上手くいったんだから、まぁ良いか。
「…頑張ったじゃん。初めてだったなら尚更ね」
----有難うな。
 にっこり笑ってそう言った俺の声に、シェリーもにっこりと笑った。
 多分…俺が今まで見た中で、一番の満面の笑み。
「…さて、それじゃ…諸々の後片付け、だな。取り敢えず、エースとダミ様の所に行って来るから」
「…はい。畏まりました」
 ソファーから立ち上がったシェリーは、持って来た剣を手に、頭を下げて執務室を出て行った。
 そして俺もまた、身軽になったことを実感しつつ、エースの執務室へと向かった。

◇◆◇

 俺がエースの執務室に着いた頃には、もう職務終了時間を過ぎていた。でもまぁ、エースのことだから定時で帰っているはずもなく。案の定、彼はまだ執務室にいた。
「…影は?」
 俺の顔を見るなり、そう言ったエース。
「うん?あぁ、シェリーがやっつけてくれた。初めてにしては上出来ね。花丸あげちゃう」
 笑ってそう言った俺に、エースは小さな溜め息を一つ。
「甘やかすと後が面倒だぞ?」
「別に甘やかしてませんよ?俺は結界だけ張って、後は見守ってただけだしね。自信ついたと思うよ」
 くすくすと笑う声に、エースはもう一つ溜め息を吐き出す。
「…御前、ホントに彼奴の話を一から十まで信じてるのか…?」
「…どう言う事?」
 思わず問い返す声が固いと…自分でもそう思った。
「少しは疑えよ。もしかしたら…彼奴の自作自演かも知れない。そうは思わないのか?そんなに都合良く、初めて呪術を使うヤツが上手に遣い魔を退けることが出来ると…?」
 そう言われて…俺も少し、思いを巡らせた。
「…まぁ、ね。その可能性もなくはないと思うよ。でも…俺は信じてみようと思う」
「…ルーク…」
 だって…あの満面の笑みは、俺を欺いている顔じゃない。
「前に…アリスにも言われたよ。俺は甘い、って。簡単に信用し過ぎるみたいね。でも俺は、それで良いと思った。勿論今でもそう思ってるよ。俺は、自分の直感を信じてるし…何より、俺は今までそうやって生きて来たしね。勿論、怪しいと思ったら疑うよ。でも今のシェリーの姿を見て、疑う必要はないと思ったからね」
「…ったく…彼奴にも言われてたのかよ…だったら、もっと危機感を持てよ…」
「持ってるつもりなんだけどね~。でも何かあったら、助けてくれる仲魔がいるしね。だから安心して、立ち向かえるんだけど」
 くすっと笑った俺に、エースも呆れたように小さな笑いを零した。
「自惚れ過ぎだぞ」
「だって、事実でしょ?」
「…まぁ、それが御前が築き上げて来たカタチだからな。俺には真似出来ないね」
 苦笑するエースに、俺はにっこりと笑いを返す。
 確かに…エースの言う通りなんだと思う。俺は、甘い。それは自覚している。
 魔界に降りてから…俺は、信用されることの大切さを痛いほど感じていたし…幾度もそれで辛い思いをした。だからこそ、自分が上に立つ今、必要がないのに疑いたくはない訳だ。
「まぁ…シェリーのことはこれから考えるとして…そっちはどう?何かわかった?」
 問いかけた俺の声に、エースは苦渋の表情を浮かべた。
「この短時間であっさりわかるなら、もっと早くわかってるだろうが」
「…それもそう、か」
 手がかりは見えても接点が見えない。それじゃ流石にエースもイラつくよな…。
「取り敢えず、さっきも言った通り、"オズウェル"の存在は何処の局にも確認されていない。それに、一応枢密院の衛兵も調べてみたが、接点はない。一つ引っかかることと言ったら…まぁ、シェリーが軍事局に移った理由が曖昧だ、ってことぐらいか…?」
「…曖昧って…?」
 そんな言われ方をしたら、俺だって引っかかるし…。
「…はっきりとした理由と言うか…"あるヒトに説得されたから"、だと」
「……"あるヒト"…?」
「そう。衛兵など辞めて、その剣術を活かせる軍事局へ行くことを勧められたらしい。彼奴がやめた時期を考えると…丁度、ゼノンの解任騒ぎが起こった頃と重なる。偶然にしては…出来過ぎだろう?」
「……目撃者はいるの?…」
「目撃者と言うよりも、シェリーが自分でそう話して言ったらしい。相手を見たヤツはいないみたいだから、シェリーと内密に話をしたんだろう。それに、もしかしたらそうやって説得されたのはシェリー一名じゃないかも知れない。これから先、まだ現れる可能性がないとも言えない。今回の件は…まだ氷山の一角、なのかも知れないしな…」
 確かに、エースじゃなくても引っかかる。
 多分…俺が思い描いている黒幕と、エースが思い描いている黒幕は同じ、だ。
 あの…濃茶色の短い髪に、灰色の軍服を着た悪魔。
「一応、シェリーに確認はしておく。顔を覚えていると良いんだけどね…」
「それに関しては、期待をしない方が良いな。顔を見ていたであろうテオ=ホリィも、覚えていないって言っていたしな…そんなことは記憶を操作すれば、幾らだって可能だからな」
 溜め息を吐き出したエース。勿論、俺も…一つ、溜め息を吐き出していた。
「俺はこれからダミ様の所に報告に行くし…今日はもう帰ってると思うから、明日シェリーに確認してみるよ。期待は出来ないけどね」
「あぁ、頼むな」
 多分、エースも期待はしていない。俺だってそうだもの。
 溜め息を吐き出しつつ、俺はエースの執務室を後にして、ダミ様の執務室へと向かった。

◇◆◇

 その夜…夢を、見た。
 あの、闇に引き込まれる夢じゃない。けれど…不穏な空気が立ち込めている。そして…そこに立つ悪魔。
 俺に背中を向けるその姿は…"濃茶色の短い髪に、灰色の軍服を着た悪魔"。
 そいつが、僅かに振り向いた。
 顔は、はっきりとは見えない。けれど…動かした口元だけは、はっきりと見えた。
----まだまだ、序の口、だ。
 そう言って笑う、低い声。それは…酷く不快だった。

 翌朝、俺は登庁して直ぐにシェリーを呼んだ。
 ロイドのことを思い出し、もしかしたら…とは思ったものの、シェリーはいつもと変わらず俺の前に姿を現した。
「…おはようございます」
「うん、おはよう」
 挨拶をするシェリーの顔は、酷く不安そうだ。
「…夢を、見た?」
 問いかけた俺の声に、一瞬ビクッと肩を震わせたシェリー。そしてあげた眼差しは、何かに怯えていた。
「…見ました…ですが、闇ではなくて……"あのヒト"が…」
 そう言った瞬間、慌てて口を噤んだ。それはどう見ても…尋常じゃない。
「…"濃茶色の短い髪に、灰色の軍服を着た悪魔"…?」
「……っ」
 怯えた表情で目を伏せたその姿で、答えは明確だった。
「…そいつが、あんたに衛兵を辞めて軍事局へ行け、って言ったんだろう?あんたは、そいつの顔と名前を覚えてる?」
 様子を伺いながらゆっくりとそう問いかけると、慌てて首を横に振った。
「名前は…知りません。顔も…良く覚えていません……信じていただけないかも知れませんが、本当です…っ!どうして思い出せないのか、わたしにもわからないのですが……」
 掠れた声と怯えた表情で、そう零したシェリー。そこまで怯えるって言うことは…俺も含め、その夢は…直接送り込まれたんだろう。
「夢の中で、何を言われた?」
 再び問いかける。
「……余計なことをすれば……生命はない、と……」
「…なるほどね…」
 俺には挑発を。シェリーには死の宣告を。まぁ…良い趣味じゃないな。
「じゃあ…まぁ、大人しくしてな。そうすれば多分大丈夫」
 溜め息を吐き出してそう言った俺に、シェリーはパッと顔をあげた。
「根拠はあるんですか…っ!?大丈夫と言う根拠は…っ」
「根拠、ね…まぁ、ないけどね。でも、余計なことをすれば、って言われたんだろう?じゃあ、しなきゃ良い。違う?」
「……それは……」
 未だ怯えた表情のシェリーだけど、俺の言葉にほんの少しだけ、その眼差しが変わった。
「あんたを唆した"ヤツ"は、俺たち上層部をずっと見てるんだ。でも、直ぐに手を下す訳じゃない。何かのタイミングを見計らっているんだと思う。あんたはそれに利用されただけだから…これ以上何かをしなければ、多分大丈夫。あんたに大きな何かを期待した訳じゃないだろうからね。それでも怖いなら…後はあんたが強くなれば良い。違う?」
「…ルーク様…」
 俺は、シェリーを安心させるように、にっこりと微笑んでみせた。
「ま、不安な気持ちはわかるよ。俺たちも、ずっとその渦中にいるんだ。でも俺は負けないよ。自分の身は自分で護るつもりでいるし、仲魔も護るつもりでいるからね。あんたも負けたくないなら、強くなれば良いんだ。折角軍事局に来たんだから…その剣術と遣い手の能力を活かせるくらい、ね」
「………」
「で、どうする?このまま、俺の補佐を続ける?それとも、もう一回下積みから始める?あんたに任せるけど」
 その件に関しては…夕べ、ダミ様にも相談済み。もしシェリーが補佐として残りたいと言うのなら、正式に辞令が出しても良いってことになっているんだけど…当のシェリーは、どう言う答えを出すのか。それ次第って言うことで。
 様子を伺っていると…暫く考えていたシェリーは、小さく息を吐き出して俺の顔を真っ直ぐに見つめた。
「…もう一度…下積みから出直して参ります。このまま、補佐としておりましても御迷惑をおかけするだけですので…」
「そう?まぁ、あんたがそれで良いなら良いけどね。じゃあ、ラルにはそう言っておくから、しっかり修行しておいで。いつか…また戻って来るのを待ってるからね」
「……はい」
 小さく笑ったシェリー。闇から解放されたその笑顔は、とても柔からかくて。
「御世話になりました」
 シェリーは頭を下げ、執務室を出て行った。
 見送った俺は…溜め息を一つ。
 "影"の騒ぎはこれで一先ず落ち着いたんだろうけど…結局、黒幕には辿り着けなかった。
 それでも善しとするのが良いことなのか…まだ俺にはわからない。でも…。
「…ま、しょうがない…か」
 今は、それしか選択肢はないしね。
 結局…また、様子見ってことで…"その時"が来るのを、待つしかないってことか。それがどれくらい先のことなのかは、全くわからないけどね。
 まぁ…今夜から、安眠は出来そうだけどね。

◇◆◇

 翌日から、シェリーは再び参謀部実行班へと戻って行った。
 彼が上まで上って来るのは、まだまだ先のこと。
 俺たちには、また日常が戻って来た。
 でもいつか…真っ黒い渦の中に飲み込まれてしまうのではないかと…そんな不安が、ないこともない。
 あの夢のような…漆黒の闇に。
----まだまだ、序の口、だ。
 その言葉は、俺たちを深い闇へと誘う呪文のようで…俺の脳裏に染み付いて離れなかった。
 いつか…闇から解き放たれるだろうか。
 その時には…全て、解決していることを、切に願う。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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