忍者ブログ

聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

縁 2
こちらは、以前のHPで2003年11月03日にUPしたものです
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
5話完結 act.2

拍手[1回]


◇◆◇

 気が付くと俺は、ライデンを抱えたまま王都にある、まだ俺名義の屋敷に戻って来ていた。
「レプリカ…っ!レプリカ…っ!!」
 両腕の塞がっている俺の代わりに、ルークがその玄関のドアを叩きながら、声を上げる。
 その声を聞きつけ、やがてドアが開かれた。
「…ルーク様、一体どうなされたんですか…?」
 声と共に開かれたドアの向こうにいるレプリカの視線が、俺を捕えたのはわかった。
「…ゼノン様…」
 驚いたような表情を浮かべたレプリカ。それは多分、当然の反応なんだろう。でも俺は、それに応えている場合ではなかった。
「ライデンが倒れた。早く、部屋の用意を…っ」
「…は…はいっ!」
 指示を出しながら駆け込む俺よりも先に、レプリカは廊下の電気をつけ、駆け出していた。
 ルークも俺の背後から駆け込んで来る。
 そして、かつてからライデンの為にと用意されていた部屋に駆け込むと、あっと言う間に支度を調えたレプリカが現れる。
 何もかもが、昔と変わりなく思えた。

 暖房を入れた部屋のベッドで、暖かく包まれたライデン。
 一息吐いた俺は、漸く落ち着いてその寝顔を見つめることが出来た。
 何もかもが、変わりない屋敷。部屋の掃除も行き届き、いつでもまた使用出来るように準備された部屋の中を見つめながら、俺は小さな溜め息を一つ吐き出した。
 レプリカは仕事を続けながらも、たった一悪魔で、この屋敷を昔と寸分も変わらずに保って来たのだ。話は聞いていたけど…実際に目にすると、何ともやるせない気持ちになる。
「…酷くならなくて良かった」
 ぽつりと聞こえた声に振り向くと、壁に寄りかかって俺たちを見つめるルークがいる。
「流石、だね。居場所も一発で見つけるし。レプリカもそうだけど、ここに駆け込んで来てからの手順が慣れてる」
「まあ…回数熟したから」
 そう。ライデンが熱を出すことなんて、珍しいことじゃなかったから。だから、俺が指示を出さなくたって、きっとレプリカも自然に対応出来たはず。それが、習慣と言うモノ。
 ドアの傍に立っていたレプリカに視線を向けると、レプリカはじっと俺を見つめていた。
「…御苦労様。有難うね」
 そう声をかけると、レプリカは黙って首を横に振る。そして再び、俺へと視線を向けた。
 その眼差しは…今にも泣き出しそうに潤んでいる。
「…御帰りに…なられたんですよね…?」
 ふと問いかける声。
 ずっと、待っていたのだと言うことを実感させられる言葉。でも俺は…まだ、答えが見つからなかった。
「…馬鹿だね、御前も。もっと良い主は幾らでもいると言うのに…」
 その言葉に、レプリカは再び首を横に振ると、軽く微笑んだ。
「わたくしの主は、ゼノン様だけです。例え仮面を返されても…それは変わりませんから」
「…レプリカ…」
「只今、御茶を御持ち致します。ルーク様も、どうぞごゆっくり…」
「いや、俺は良いよ。ライデンが見つかったからね、ダミ様に報告に行って来るから。後は頼んだよ」
 レプリカの言葉を遮り、そう口にしたルーク。
「ちょっ…ルークっ」
 思わず腰を上げた俺の肩を押さえつけ、再び座っていた椅子へと腰を落とさせるルーク。そして俺の耳元で、小さくつぶやいた。
「約束、しただろ?アフターケアも忘れずに、って」
「…もぉ…」
「じゃあな」
 俺が暫くはここに留まることを確信したかのように、にんまりと笑いを零したルークは、レプリカの横を通り抜けて部屋から出て行った。
 そして、レプリカも御茶を淹れに部屋から出て行ってしまうと、俺とライデンの二名だけとなった。
 改めて、眠っているライデンへと視線を向ける。
 昔と何も変わらないと思っていたけれど…よくよく見れば、昔よりも少し窶れたみたい。抱きかかえた感じも、少し軽くなっているみたい。それだけ、俺が苦しめてしまったんだと言うことを、ライデン自身に触れてみて感じ取った。
 遣り切れない思いから吐き出した小さな溜め息が消えるか消えないかのうちに、ライデンはゆっくりと目蓋を開いた。
「…大丈夫?」
 声をかけると、視線がこちらを向く。
「…ゼノ…?」
「うん」
 俺の姿を確認すると、ライデンは大きく息を吐き出した。
「…そっか…あんたの屋敷、だ…寝心地良いと思った…」
 部屋の中をぐるっと見つめたその眼差しは、とても懐かしそうだった。
「黙って来たの?みんな…心配してたよ?」
 そう問いかけると、くすっと小さな笑いが零れた。
「心配しなくても良いって、何度も言ったのに…まぁ、抜け出して来たのは確かだけどさ、そうでもしないと、魔界に行かせてくれないし」
 そう言いながら腕を上げ、ずっと掌に握り締めていた鳥の羽根を見つめた。
「…わざわざ、餌をやりに?」
 呆れる理由。でも、ライデンは酷く真剣な顔を見せた。
「だって、雪が降ったら、餌がないでしょ?それに、今年に限ったことじゃないし…」
「毎年来てたの?」
「だって、大事な友達だよ?あんただって、雪が降ると毎日餌あげに行ってたでしょ?」
「…そりゃ…」
 ホントに…。街悪魔が溜め息を吐き出す気持ちもわかる気がした。
 これがホントに雷帝だろうか?
 鳥に餌をあげる為に雷神界を抜け出して大騒ぎになったことに、何処まで罪悪感を感じているんだろうか…いや、多分…罪悪感なんか、感じていない。ライデンの顔を見ればそれくらいはわかることだった。
 すっと、俺の目の前に差し出されたのは、鳥の羽根。それを、俺の手に握らせるライデン。
「また…"こいつ等"の世話になっちゃったね…」
「…ライデン…」
 ライデンの言わんとしていることはわかっていた。
 そう。"彼等"がいなければ、俺たちは…きっと出逢ってはいなかった。もし仮に、出逢えたとしても…こんなに深い仲にはなっていないだろう。
 俺の表情に溜め息を吐き出したライデンは、ゆっくりと上体を起こすと、俺の眼差しを真っ直に捕えた。
 そして、その言葉を、包み隠さずに打つけて来た。
「帰って来たんじゃ…ないんでしょ?」
「…何で…?」
 僅かに戸惑いの表情を浮かべた俺に向けたライデンの眼差しは、何とも言えない寂しそうな色を見せていた。けれども、その表情はそれに伴っていない。
「だって、抱き締めてくれないし、キスもしてくれないもん。それに…"ライ"、って呼んでくれない。それって、あんたの意志で戻って来たんじゃないってことでしょ?」
「……」
 習慣のように無意識に紡いでいた名前でさえ、ライデンにとっては…ちゃんと意味があったんだと、改めて思い知らされた。
 確かに、"ライ"と愛称で呼ぶのは俺と父親である上皇様だけで…それは、恋悪魔として許された特権みたいなものだと思っていたのは確かだった。そして、昔みたいにそう呼べない俺の心の内を…あっさりと見透かされた気分だった。
 そしてそれを、笑いながら言われるだなんて…思ってもみなかった。でも、事実。ライデンは笑っているんだ。
 それが…突きつけられた現実、だった。
「何で、戻るつもりがないのに帰って来たの?」
 再び、そう問われる。
「…ルークにね、見つかった。それで、御前がいなくなったって大騒ぎで…俺まで借り出されたって訳」
「なぁる…ルークのやりそうなことだぁね。あんたがいなくなってから、デーさん以上に御節介になったんだよ、ルークの奴。まぁ…俺もね、心配かけたから…仕方ないけど」
 それは、俺も気が付いていた。どう言う訳か、ルークは妙に御節介になっていた。そしてライデンは、十分強くなった。
 ここに、もう俺の居場所はない。
 そんな思いが脳裏を過ったその時。ライデンが、小さな吐息を吐き出した。
「あんたの意思を確認したら…一つ、やらなきゃいけないことがあるんだ」
 ライデンはそう言うと、俺の頬へと指先を伸ばした。そして俺の頭をそっと引き寄せると…額に、自分の額を押し当てた。
「…御免ね。随分時間はかかったけど…あんたを、解放してあげる。俺は、もう大丈夫だから…」
「……ライデン…」
 にっこりと微笑むライデン。その微笑みで…俺は、もう彼には必要ないのだと悟った。
 それが…彼なりの、けじめなのだと。
「…御免ね…一杯、傷つけて…辛い想いさせて…」
「…ゼノン…」
 俺は少しだけ顔をあげると、ライデンの額にそっと唇を押し当てた。
「…有難う…ライデン」
 沢山の想いを込めた言葉。それは…上手く、伝わっただろうか…。
 大きく息を吐き出すと、俺は椅子から立ち上がって、外套に手を伸ばした。
「…じゃあ…俺は行くね」
「身体にだけは、気を付けてね」
「うん。御前も…こんな時に言うのも何だけど、元気でね」
 俺もにっこりと微笑み、外套を羽織ると踵を返した。
 そして、そのドアに手を伸ばした時、ふと思い出したように、小さく振り返った。
「遅くなったけど…就任、おめでとう」
「有難う」
 微笑むライデンを背中に、俺はドアを開けた。
 するとそこに佇むレプリカの姿が見えた。
 多分、俺たちの会話を聞いていたのだろう。物言いたげな表情は、今にも泣き出しそうだった。
「…また…行かれるんですか…?」
 やっとの思いで紡いだ言葉。
「御前も…自由になると良い。この屋敷に縛られていてはいけないよ」
 手を伸ばし、ポンポンとその頭を軽く叩くと、俺は振り向かずに屋敷を後にした。

◇◆◇

 ゼノンが完全に屋敷から姿を消すまで、レプリカはドアの向こうに立ち尽くしていた。
 唇を噛み締めた表情が、酷く悲しく見える。
「…そんなところにいないで入ったら?」
 ライデンがそう声をかけると、ゆっくりと足が動き出す。
「あんたはどうするの?ゼノンはあぁ言ってたけど…何処か他へ行くつもりがあるのなら、何とかしてあげるけど…?」
 その行く末を案じて問いかけた言葉には、レプリカは首を横に振った。
「わたくしは…許されるのならば、今まで通りこの御屋敷で、ゼノン様を御待ちしたいと思います。帰る場所があれば、きっと戻って来られます」
「そうだね。あんたは、ゼノンを待っていてあげて。誰も待っていない家じゃ、寂しいモンね」
「…ライデン様は…もう、御待ちにはならないのですか…?」
 ずっと、問いかけたかった言葉。
 誰よりも先に、留めたかったはず。誰よりも…ずっと、一緒にいたかったはず。それなのに、笑って見送ったことが信じられなくて。
 そんなレプリカの思いを感じたライデンは、思い出したように首にかかっている鎖を胸元から引き出した。
 それは、小さな水晶のペンダント。ゼノンがいなくなった時、ライデンへと置いていったモノだった。
 あの日から…ずっと、御守り代わりに肌身離さず身につけていた。それだけが、ゼノンとの繋がりであるかのように。
 その水晶を暫く見つめていたライデンは、そっと掌に握り締めると、小さく微笑んでみせた。
「…正直、わからない。俺ね…デーさんと約束したんだ。ゼノンの意思を確認するまでは待ってる、って。でもその後は…駄目だったら、潔く諦めよう、って」
「ライデン様…」
「運良くゼノンには会えたけどさ、ゼノンには…俺は、もう必要ないんだと思う。って言うか…俺が傍にいちゃ駄目なんだと思う。だから、諦めはついた。こんなことになっちゃったから、冬になってももうこっちには来られないけど…俺のことは心配しなくても良いからさ、ゼノンのこと…頼むよ」
 諦めがついたと言いながらも、そこに見えるのは先の見えない不安。ライデンがその不安と戦っているのは間違いなかった。
 悲痛げな表情を浮かべたレプリカに、ライデンは微笑む。
「そんな顔、しないで。俺は、ゼノンはきっと"ここ"へ戻って来ると信じてる。その気持ちは変わらないんだ。ただ…"俺"と言う械が一つなくなれば、その分安心して戻れると思っただけだから。だから…」
----泣かないで。
 小さく零したライデンの言葉に、レプリカは口を噤んで涙の溢れた両の瞳を拭う。
 自分よりも、ライデンの方が何倍も辛いはず。それでも…笑って、そう言わざるを得ない気持ちは、察するにとても胸が痛かった。
「…取り敢えず、ロシュに…俺の側近に、連絡してくれる?向こうも心配してるだろうから、迎えを寄越して貰いたいんだけど」
「…御意に…」
 納得出来ない思いはある。だが、今はそれに従うしかない。
 頭を下げたレプリカは、踵を返して部屋から出て行った。
 その後ろ姿を見送ったライデンは、大きく溜め息を吐き出す。先程までとは打って変わって、その表情はとても苦しそうだった。
 折角、愛しい恋悪魔に再会出来たと言うのに…自ら断ち切ってしまった。
 いつから…こうなってしまったのだろう。どうして…全力で護ってやると、言えなかったのだろう…。
 意地を張った訳ではない。ただ、自分が無茶をしなければ、何もかもを失ってしまうような気がして。
 握り締めたネックレスを再び胸元にしまうと、服の上からそっとその存在を確かめるように手を触れる。
 せめて、自分がここにいなければ…元に戻れるかも知れない。
 それは、彼が自ら雷帝として…一国の王として、生きて行く為に選んだ棘の道だった。

◇◆◇

 その頃、ルークは皇太子の執務室にその報告をしにやって来ていた。
「…そう。ゼノンがライデンを見つけたのか」
 上機嫌で報告したルークを眺めながら、ダミアンはくすっと小さな笑いを零した。
「御前はそれで満足?」
「…まぁ…一時的に、ですから。でも、これがきっかけで、ライデンとの仲も戻ってくれると良いんですけど…」
 そう。ゼノンとの約束は、ライデンを捜し出すこと。そして、そのアフターケアもすること。だが、このまま王都に残り、職務に戻ると言うことは約束されていない。寧ろ、その逆。ライデン捜しを協力してくれれば、その先は目をつぶると約束してしまったのだから。
 そう上手い話はないとは思いつつ、少しでも良い方向に向かって欲しいと言う思いはある。だからこそ、些か強引ではあるが、ゼノンを一名残して来たのだ。
 そんなルークの想いを感じ取っているダミアンは、小さな吐息を吐き出す。
「御前の御節介も堂に入って来たね」
「御節介を焼けと言ったのは、ダミ様でしょう?」
「それはそうだけれど、あんまりライデンにばかり構って、わたしにヤキモチを妬かせないでくれよ」
「…ダミ様…」
 冗談めかしにそう言ったダミアンに、ルークは僅かに頬を染める。
 だが、そんな仄々とした雰囲気も、長続きはしなかった。
 突如、呼び出し音が聞こえ、壁の液晶に次官が映る。
『殿下、ゼノン様の御屋敷から、緊急の連絡が入っておりますが…如何致しましょう?』
「…あぁ、繋いでくれ」
 嫌な予感がする。
 ルークの表情が一瞬にして強ばっている。そんなルークを横目に見ながら、ダミアンは回線が繋がるのを待った。そして画面にはレプリカが映し出された。
 その表情も、酷く哀しそうで。
「あぁ、どうした?」
『…実は…』
 口を開いたレプリカ。その唇から発せられた言葉に、ダミアンもルークも、大きな溜め息を吐かざるを得なかった。
「…わかった。ロシュ殿には、こちらから連絡を入れる。御前は、迎えが来るまで、ライデンのことを頼むな」
『…御意に』
 通信が切れると、ダミアンは椅子から立ち上がり、唇を噛み締めて佇むルークの傍へと歩み寄った。
「まぁ…ゼノンの考えそうなことだ。ライデンも、ゼノンを案じているんだ。素直になれない想いには、それなりの理由があるものだしね。もう少し、様子を見ようじゃないか」
「…でも…」
 ルークが納得出来ない気持ちは、ダミアンにもわかっていた。
 だからこそ、このまま放っておく訳にもいかず。
 腕を伸ばしたダミアンは、ルークの頭を軽く抱き込んだ。
「御前は少し、本来の任務に戻った方が良いね。御節介焼きは御前以外にもいるんだから、御前は息抜きをした方が良いよ」
「…ダミ様…」
「大丈夫。一旦王都へ戻った以上、ゼノンはまだ我々の網から逃れてはいない。情報網を駆使するのなら、適任者がいるだろう?まぁ、強引に…だろうが、何とかなるだろう。心配はいらないから」
 そう言って、ルークの髪に軽く口付ける。
「…御意に…」
 今は、それに従うしかない。
 渋々と頷くルークに、ダミアンは気付かれないように、小さな溜め息を吐き出していた。

◇◆◇

 ライデンがいなくなったと言う報告を受けた数刻の後、今度はゼノンも一緒に見つかったとの連絡を受けた。そして今度は、ゼノンがいなくなったとの報告と、ライデンが雷神界へ引き取られたと言う報告を受けたエースは、呆れたような溜め息を吐き出していた。
「良くもまぁ…」
 その溜め息を聞きつけたのは、彼が御邪魔している執務室の主、デーモン。
「忙しいなぁ、彼奴等は」
 そう零すデーモンに、エースはもう一つ溜め息を吐き出す。
「心配、してないだろ?御前は」
「そんなことはないぞ?ただ、つい数日前にライデンの気持ちは聞いて来ていたしな。今のライデンは、我々の言葉は耳に入っていかないのはわかっているんだ。だから、例えゼノンが見つかったとしても、こうなるんじゃないかとは思っていたんだ」
 その答えに、呆れるエース。
「わかっていて放置してるのか?」
「放置だなんて、ヒト聞きの悪い…吾輩は、ちゃんと状況を理解しているんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だ、って言ってるだけだ。ゼノンが生きていることはわかったんだし、ライデンだってそれが確認出来れば、取り敢えずは一安心だろう?今後どうなるかはまだわからないが…ライデンのフォローは吾輩がしているから大きな心配はいらない」
「…そう言う問題かね」
 呆れ顔のエースは、そのモノ言いたげな口に煙草を銜え、火を付ける。その煙がデーモンにかからないように配慮しながら、大きく溜め息を吐き出した。
「…で、御前はどうしようと言うんだ?」
「小休止、と言うところだな。もう少し、様子を見たらどうだ?ダミアン様もそう言ってることだし。対策を考えようじゃないか」
 くすくすと笑うデーモン。だが、エースの苦渋顔は相変わらずである。
「俺のスタンスじゃないな。ま、少し好きにやらせて貰うさ」
「無茶するなよ」
「わかってるって」
 じゃあな。
 煙草を灰皿に押しつけると、エースはソファーから立ち上がって、執務室を後にする。
 その後ろ姿を、デーモンは小さく笑って見送った。
 恐らく、今一番悲観していないのは、この悪魔かも知れない…。

 俺が、ルークが借りている山小屋に戻って来た時には、もう日はどっぷりと落ちていた。
 今度は何処へ行こうかと荷物を纏め始めたその時。誰かが、ドアをノックした。
「…はい?」
 怪訝そうに眉を潜めながらドアを開けると、そこには背中に翼を構えたまま、黒い外套に僅かに雪を乗せたエースが立っていた。
「…どうしてここへ?」
「御前の残留波を辿って来た。一旦王都に戻って来たからな、追いかけるのは簡単だ」
「…そう。ま、入ったら?」
 見つかってしまったのなら仕方がない。どうせ逃げられないんだから。
 俺は、溜め息を一つ吐き出して、エースを小屋の中へと促した。
「何の用?御節介なら、ルークだけで十分間に合ってるよ」
「俺の御節介は一味違うから」
 そう言葉を零し、エースは真っ直に俺を見つめている。
「…何?」
 その鋭い視線に、一瞬たじろいだ。
 エースの眼差しは、きっと真実を見つけている。だからこそ…俺は、無言の圧力を感じるんだ。
 ふうっと、大きく息を吐き出したエース。
「馬鹿、だな。御前は」
 思わず、絶句。何を言い出すのかと思えば…。
 息を飲んだ俺に、エースは更に言葉を続けた。
「ライデン…変わっただろう?御前がいなくなってから、泣かなくなったんだ。どんな時でも唇を噛み締めて、拳を握り締めて、感情を押し殺す。そうやって、堪えて来たんだ。幾ら、デーモンやルークが心配して様子を見に行ったって、絶対に弱音なんか吐かない。全てを堪えることで、自分を騙してるんだ。自分を、護る為にな。まるで…昔の自分を見ているみたいだ」
「……」
「まだ、俺たちがライデンに出逢う前…デーモンが初めて出逢った頃のライデンも、そうだったみたいだな。自分を傷付けることで、自分を護ろうとしていた。胸の痛みを堪える為に、自分の身体に傷を与えた。自傷行為を繰り返すことでしか、自分を騙すことが出来なかったんだ。それに比べちゃ成長はしたが…御前がいなくなった責任を、ずっと感じてるんだ。御前の気持ちを理解してやれなかったことを。御前を、護ってやれなかったことを。だから今、彼奴は彼奴なりのやり方で、何とかして…御前を護ろうとしてるんだ」
「……」
 自分の気持ちを隠す為に、ライデンは笑っていたのだろうか?
 そんな簡単なことにも、俺は気が付かなかったなんて。
 俺たちは…何処までも、すれ違ってしまった。だからもう…前と同じように、なんてことは無理なんだ。
 溜め息を吐き出した俺に、エースは追い討ちをかける。
「御前に、ホントにライデンを捨てられるのか?」
 俺に向けた眼差しは変わりない。それが、情報局の長官としてのあるべき姿。
 昔の俺なら、罪悪感を覚えたその眼差しを前に…俺は、平生を装うことが出来る。
 今の、俺ならば。
 大きく息を吐き出した俺は、ゆっくりと口を開いた。
「ライデンは…俺を、解放するって言ってたよ…」
「…解放?」
 エースは怪訝そうに眉を潜めた。
「…そう。だから、もう俺がいる必要はないんだよ」
 そう言いながら溜め息を一つ。
「…俺はね、綺麗事を並べて世の中を渡って行ける程、才長けている訳じゃないんだよ。ロイドのことだって、結局俺の魔望が足りなかった所為だし、止められなかったのは俺の責任だよ。幾つも罪を重ねた俺には、もうライデンを受け留めることが出来ない。ライデンだって、俺を必要としなくても生きて行けるんだ。一度狂った歯車を戻すことは出来ないんだよ。それは、御前にだってわかっていることでしょ?」
「まぁな。だが、狂った歯車なら…それを壊して前に進めば良いんだろう?御前だって、そうすれば戻れるんじゃないのか?全てを捨てる必要が何処にある?」
「あるでしょ?物質的法則。壊れたモノは、元には戻れない。御前たちの時とは状況がまるで違う。今の俺は無官で、ライデンは雷帝。それが何より証拠でしょ?それに…自ら捨てたモノだからこそ、自らもう一度拾うなんて都合の良いことは出来ない」
「ゼノン…」
 俺は、にっこりと微笑んでみせた。
「ホントに御免ね。気持ちは嬉しいけど…もう、戻れないんだ」
 すると、エースは溜め息を一つ吐き出す。
「御前…そうまでして、本気でライデンから離れたいのか?自分を苦しめて…無理やり感情を押さえつけてまで、平生を装う必要があるのか?」
「……あるから言ってるんだ」
 思わず…そう、口にした俺に、エースは視線を上げた。
「俺がそうしなかったら、誰が結論を出すのさ。誰が、雷神界の…ライデンの平穏を護ってやれるの?誰が、あの事件の全ての責任を取れるの?そんなの、誰が考えたって俺しかいないじゃないか。局長であった俺が背負う以外、どうにもならないじゃないか」
「…極論だな。誰かに相談すれば、手段は他に見つけられたはずだ。それをしなかったのは…御前が、真実を知っていたから、じゃないのか?」
 真っ直ぐに俺を見つめるその眼差しは、髪に隠れた俺の左耳を見つめていた。
「まぁ…御前のやりそうなことは想像が付く、って言うことだ」
 そう言うなり、エースは俺の腕を掴んで、そのまま身体ごと壁に押しつけた。
「ちょっ…エース!?」
「じっとしてろ!」
 片手で両手を押さえ付けられ、エースが露にしたのは、俺の左の耳。
「やっぱり、ピアス増やしたな。御前が変わったがこの所為なら…こんなもの必要ない」
「エース、やめ…っ!」
 きつく填められた四つ目のピアスは、そう簡単には外れない。だが、エースは力任せにそれを引き千切るように外した。
「や…ぁっ!」
 瞬間、鋭い痛みが左耳を襲った。そして、カタンと何かが足下に落ちた。
 その後のことは、良く覚えていない。
 溢れ出した感情の波に飲まれ、俺は…不覚にも、エースの足下へと倒れ込んだ。
PR
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
  
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
Copyright ©  -- A's ROOM --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by petit sozai emi / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]