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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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縁 1
こちらは、以前のHPで2003年10月25日にUPしたものです
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
5話完結 act.1

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◇◆◇

 とても、遠い場所。
 辿り着くまで、どれくらいの時間がかかるかわからない。
 それくらい、遠い場所。
 ただ、それが本当の目的地ではないけれど。

◇◆◇

 やたらと冷え込むと思ったら、鈍色の空から白いモノがちらほらと落ちて来た。
「…雪、か…」
 手を差し伸べてみると、細かな雪は、掌に落ちて来る。
 体温で直ぐに水になってしまうけれど、なかなかの風情だよね。
 雪を見ると、どうしても昔の記憶が甦って来る。
 あれは、どれくらい前のことだっただろう…?
 熱を出した"彼奴"が、行方をくらませた時のこと。
 もう、ずっと前の出来事だったような気がする。
「…若かったね、あの頃は」
 そうつぶやいてみて、その口調に自分で苦笑してしまった。
 まるで、もうよれよれの爺さんみたいじゃないか。
 確かに、あの頃程若くはないけれどね。
「元気かな、みんな…」
 不意に押し寄せて来た感慨。
 もう、どれくらいみんなと会っていないんだろう?
 時を数えることも忘れてしまった。だから、王都を飛び出してからどのくらい経ったのかも良くわからない。
 任務も何もかも抛り出してしまったのだから、もう帰ることは出来ない。
 何より、もう俺が戻れる場所は何処にもないんだ。
 そう思っていたのは確かなこと。
 "彼奴"のことを、風の便りに聞くまでは。

「…就任、したんですか?ライデン殿下が…?」
 そう聞いたのは、つい先日。魔界の外れ、雷神界とも近い、割と栄えている街で。
「あぁ、そうだってよ。雷帝殿も、幾ら元気だと言ってももう御歳だからねぇ。んでも、"あの若様"だろう?この街も、雷神界との行き来もあるもんでねぇ。心配があるっちゃあるんだがなぁ…」
「…はぁ…」
 陽気な街悪魔の老店主は、聞きもしないことまで語って下さる。しかも、御丁寧に溜め息まで添えて。
「そう言や、あんた見かけない顔だねぇ?旅悪魔かい?」
 突然、そう言われる。
「…えぇ、まぁ…」
 こんなところまで顔が知れ渡っている訳はないけれど、どうしてもちょっと俯いてしまう。
 だが、この老店主は、そんなことにはまるで気に留めていないようだった。
「良いねぇ、若いモンは。あっしみたいに歳を取るとなぁ、自由が利かなくなっていけねぇや。出歩けるうちは、何でもやってみたかったけどなぁ」
「はぁ…」
 全く、年寄りは愚痴が多くていけないね。
 俺もこれくらいの歳になったらあぁなってしまうんだろうか。
 ここも、駄目だ。
 暫く腰を落ち着けようと思っていたけれど、"彼奴"の噂で持ち切りのこの街には、とてもいられない。
 そう思って、その街を出た。
 そして、現在に至る……。

 街の陰は、もう見えない。
 次の街へ向かおうと歩みを進めていた俺だったけれど、気が付くと森の中をどんどん深く進んでいた。
「…迷ったかな…」
 決して、方向音痴ではなかったはず。でも、今森の中から一向に出られないところをみると、やはり迷ってしまったんだろう。
「…仕方がない。雪が小降りになるまで、ここで待っていようか」
 雪は絶え間なく落ちて来て、気温も下がって来ている。
 まだ濡れていない木の下を見つけ、俺は腰を落ち着かせた。
 そして、色々と想いを巡らせること数刻ばかり…。
「…あ…」
 ハッと我に返ると、辺りはもう真暗になっていた。
「…しまった…これじゃ、街になんか行けやしない…」
 この暗闇の中、当然街へなんか辿り着けるはずもない。と言うことは、今夜はここで野宿決定、と言うことになるのだけれど…雪は降り止むどころか、ますます激しく降り積もる。
 せめてもの寒さ凌ぎにと、外套の前を掻き合わせたその時。
「ねぇ、そこのあんたっ」
「…え?」
 思いがけず、声をかけられた。
 振り返ってみれば、そこに佇む姿が一つ。
 いつ来たのか…足音も、気配さえも感じさせずに、そいつは俺の背後に立っていた。
 眉を潜め、怪訝そうに様子を伺う俺に向かい、その男は再び言葉を放つ。
「凍死したいの?」
「…凍死したいように見える?」
 凍死したい奴が、必死になって外套の前を掻き合わせたりするか…っ!
 思わず答えた俺の声に、そいつ…頭からポンチョのような外套を羽織り、その下も顔の半分はマフラーで隠れていると言う完全防備。その為、顔の判別は出来ない。けれど声で男だとは判別出来たその相手は、くすっと小さな笑いを零した。
「直ぐ近くに、小屋があるんだ。今夜の暖ぐらいなら、取らせてやるけど?」
 多分、情けをかけてくれたんだろう。俺が、余りにもみすぼらしい格好をしていたから。
 これでも、今まで一応防寒の役目を果たしてくれた外套なんだから。王都を出たその時のままだから、既に薄汚れて、雪に塗れて、元の色も良くわからなくなっているけれど…。
 それにしても…マフラー越しでやや聞き取り辛いとは言え…そのポンチョ男の声、何処かで聞いたことがあるような…?
 俺が僅かに首を傾げていると、ポンチョ男はすたすたと先に行ってしまった。
「あ、ちょっ……」
 追いかけるしかない、か。
 この際だから、有り難く今夜の暖を取らせていただくことにしよう。

 ポンチョ男の後を追いかけて来た俺は、古ぼけた一件の山小屋に辿り着いた。
 小屋の中は既に暖炉に火が入っていて、とても暖かい空気が流れている。
 ポンチョ男は、暖炉に薪をくべながら、向こうを向いたまま口を開く。
「雪、払ってから入ってくれよな。一応、借り物だから」
「あぁ…うん」
 素直に言葉に頷きつつ、俺は雪を払って外套を脱いだ。
「御前も、早く脱いだ方が良いよ。風邪をひくから。ね、"ルーク"」
 その声に振り返ったポンチョ男。だが、マフラーを外して見えたその口元が、明らかに笑っていた。
「へぇ、覚えててくれたんだ」
 頭からかぶっていたポンチョを脱ぐと、途端に鮮やかなウエーブの黒髪が見えた。
 暖炉を背に、また少し痩せたかなと思えるくらい、綺麗なった身体のシルエット。見間違えるはずなどない、懐かしい仲魔、だった。
「てっきり、忘れられたかと思ってたけど」
「忘れるはずないじゃない。まぁ、一瞬わからなかったけどね」
「それを忘れたと言わずに何と言う」
 くすくすと笑いながら、ルークは俺の外套も一緒に壁へとかける。そして、御茶を淹れに、キッチンへと向かう。
「しかしまぁ、こんなところであんたを見つけるとは思わなかったよ。長い間行方知れずだったの奴がさぁ。見つける時はホント、あっさりしてるのな」
「俺もこんなところで、見つかるとは思わなかったね」
 ホント。偶然って恐ろしい。
 それはともかく…。
「何で、ここに?」
 そう。俺はともかく、ルークがこんなところにいる理由が知りたかった。
 するとルークは淹れたばかりの御茶のカップを両手に持って戻って来た。そして、一つのカップを俺に手渡しながら、口を開いた。
「休暇中。夏に偶然ここを見つけてさ。それに、用事もあったしね」
「…用事?休暇中に、雪の降るこんな森の中で?」
「そう。まぁ、森は関係ないけど…近場だからね、様子見がてら立ち寄ってた訳よ。用事ってのは…一週間前だけど、継承式と戴冠式があってね、行って来たんだ。ライデンの」
「あぁ…そう、か」
 俺はカップを受け取ると、椅子に腰を落ち着かせた。
「あんたも、来られれば良かったのにね」
 ぽつりとつぶやいたルークの声に、俺は小さく笑いを零す。
「行ける訳、ないじゃない。俺は無官のただの旅魔だしね。招待状なんて届くはずないでしょ?継承した、って言う噂は聞いたけどね」
 そう。もう俺は、文化局の局長じゃない。だから、もう…ライデンと、顔を合わせることも出来ない。
 身位は、天と地ほども違うのだから。
「何か、窮屈そうで可哀想だったよ。周りはみんな御堅い連中で固められてたし」
「でも、みんな顔見知りでしょ?噂ではロシュが側近に付いたって聞いてるし。だったら大丈夫だよ」
 昔からライデンに付いて働いていた側近が、そのまま雷帝の側近として付くことも噂で聞いていた。
 だから、雷神界のことは、何の心配もいらないはず。
「…薄情だな」
「……」
 そうつぶやいたルークの表情は、今までとは違って、とても寂しそうに見えた。
「でもね、雷帝を継ぐことは、ライデンだって最初からわかっていたことだよ。継承することが正式に決まってからは、覚悟だって決めてたはずだから」
 言葉を繕うつもりでそう零したつもりだけど、それは全然フォローになっていないと思った。
 言葉を紡ぐ自分が、まるで自分ではないみたいに。
 ルークもそれを察したんだろう。小さな溜め息を吐き出すと、その言葉を口にした。
「変わったな、あんた。昔はもっと、心配性だったのに。何があったのさ…?」
「……別に、何もないよ」
 俺もそれは感じていた。でも敢えて、俺は笑って見せた。
 ライデンの継承が喜ばなければならないことならば、当然俺は、喜んでみせる。それが世間体と言うモノだし…弱みを見せるつもりは、毛頭ないから。
 それが、俺がライデンへの想いを犠牲にして選んだ道だった。

 どれくらい、前のことなんだろう。
 俺が、最後にライデンを見たあの日。
 何の疑いも持たず、ライデンは笑っていた。俺を信じて。
 その想いを裏切ったのは、他の誰でもなく、この俺。
 帰れない道へと迷い込んだ俺は、もう取り戻すことの出来ない大切なモノを自ら捨ててしまったのだ。
 過去の俺は、ここにはいない。

「もう一度…会ってみない?」
 ルークのその声に、ふと我に返った。
「会えないよ。今更俺が顔を出したって、彼奴は喜ばない。だって…」
----俺は、彼奴を裏切ったんだから。
 その言葉は、どうしても口にすることは出来なかった。でも、ルークも俺の表情で、その心中は察したのだろう。眉間に皺を寄せ、思案に暮れている。
「御前が困る必要はないでしょ?これは、俺の問題なんだから」
 そう声をかけると、ルークは溜め息で返した。
「あんたがそうやって、勝手に自分で距離を作ったんじゃないのさ。ずっと一緒にいるって約束したんじゃないの?それなのに、自分から離れて行ってさぁ…訳もわからずに置いていかれたライデンが、どれだけ辛い想いをしたか…」
「訳ならわかっているでしょ?俺は罪魔だから、王都にはいられない。ライデンの傍にもいられない。そう言い残して出て来たでしょ?」
「それはへ理屈!あんたは罪魔じゃないって、何度も言ってるじゃない。それに……あんたのとこまで噂が届いているかどうかは知らないけど…ロイドが殺されたんだ」
「…ロイドが…?」
 一瞬、ドキッとして息を飲んだ。
「何で、ロイドが…」
「あんたがいなくなって半年ちょっとぐらいした頃だったかな、あんたの後任を決めた方が良いって、彼奴が言い出したんだ。でも、それが余計なことだと感じた奴に殺された。多分、口封じじゃない?俺たちが、事の真相に気付き始めたから。ホントは、あんたに罪はない。ウイルスを盗んだのも、広める手伝いをしたのも、第三者の命令に従ったロイドの仕業。あんたはそれに気付いていたけど、ロイドの罪を全部背負って、出て行った。俺たちはそこに辿り着いた。でも…ロイドを操っていた第三者を暴く前に、彼奴は殺された。だから結局そのまんま、真相は暴けなかったけどね」
「………」
 まさか…そう言う結末になっているだなんて…全く知らなかった。
「あんたもさ…ホントはわかってたんでしょ?ウイルスを盗んだのがロイドだった、ってこと。でもそれを託したのはあんただから…だから、あんたが全部背負った。ライデンとのことも…探られれば、その真実が見抜かれる。だから…王都から出て行ったんじゃないの…?」
 そう問いかけられ…どう答えようか、一瞬迷う。その迷いは…多分、ルークには見透かされていると思う…。
 大きく息を吐き出し、俺は気持ちを落ち着ける。
「証拠はあるの…?ロイドが盗んだ、って言う証拠」
「証拠?んなもんあったら、もっと早くわかってるでしょうよ。彼奴も、最後まで何も言わなかったみたいだしね。さっきのは、俺たちの推測であり、あくまでも仮説にしか過ぎない。でも…ロイドは、あんたに罪を背負わせたことを…多分、後悔したんだと思うよ。だから、あんたを忘れないように…あんたの居場所を明確にする為に、声を上げて殺されたんだ。黒幕にとって…彼奴は、謀反魔になったから」
「…そう…ロイドには、悪いことしたね…有能な研究者だったのに…」
 思わず、溜め息が零れた。
「…帰っておいでよ。ライデンの為にも…ロイドの、為にも」
 ルークが、ゆっくりとそう言った。けれど…そんな都合の良い話は、有り得ない。
「…御免ね。俺は王都に戻る気もないし、元の職務に戻るつもりもない。ロイドには悪いけど…帰らないよ」
「みんな…待ってるのに…?」
「…ルーク…」
 思いがけない言葉に、息を飲んだのは俺の方。
「あんたの帰る場所は、ちゃんと残ってる。職務だって休任中のままだし、ロイドの件があってから…文化局の上層部がみんな、あんたの後任は出さないって決めたらしい。あんたが帰って来るまで、あんたの席を護るって必死に仕事してるんだ。屋敷だってちゃんとある。使用魔たちは、あんたが手筈を整えた通り他の屋敷に行ったけど…レプリカだけはあの屋敷で、たった一名で、あんたの帰りを待ってるんだ。あんたが帰って来る場所を、ちゃんと護ってるんだ」
 全く…。ヒトが捨てたモノを、全部拾い集めてくれちゃって。
 でもだからって、それに流される訳にはいかない。
「…帰れない、よ。御前たちの気持ちは嬉しいけど…俺は…信じてくれたみんなを捨てたんだ…裏切ったのは、俺だもの…」
 それだけは、譲れなかった。
 ルークは溜め息を一つ吐き出す。
「…そう。じゃあ、せめてもう少しだけ…連絡が取れるように、ここにいてくれない?もう少しだけで良いから…」
 そう言って俺を見つめる黒曜石が、悲しく揺らめく。
 こんな顔をされたら……
「…少しだけだよ。長居はしないからね」
「サンキュー」
 にっこりと微笑むルーク。俺は当然、溜め息を零す。
 その少しの間に、また何か御節介を焼こうと言うのだろうけれど…まぁ、なるようにしかならないんだろうから、しょうがないか。

◇◆◇

 翌日。その報告は、皇太子の執務室で行なわれた。
「…ゼノンを見つけた?」
 問いかける声に頷いたのは、ルーク。
「…まぁ…一応…」
 その曖昧な表現に、ダミアンは眉を寄せる。
「何だ、一応と言うのは…」
「見つけることは見つけました。ですが、元の鞘に納まる気はまるでない、と言うことです。ロイドの件の真相も、まだ話してくれませんし、"魔界防衛軍"の話もまだしてません。取り敢えず身柄だけは、俺が借りている山小屋に留めて来ましたけれど、いつまでそこにいてくれるのかもわかりません」
「…なるほどね」
 小さな溜め息を吐き出すダミアン。先程手元に来た連絡もまた、ダミアンを悩ませるに十分だったのだ。
「まぁ、ゼノンのことは置いておいて…」
「置いておける問題ですか!?ライデンが、あんなに辛い想いをしたって言うのに…っ」
「そのライデンがいなくなった」
「…え?」
 ドキッとして、息を飲むルーク。
「先程、雷神界のライデンの側近から連絡があってね。ライデンがいなくなったそうだ。魔界に対する思い入れも強いから、もしかしたらこちらに来ているのではないかとのことで、保護を要請して来た。エースにはもう連絡を入れている。御前も、捜してくれないか?」
「なら、ゼノンにも…」
「御前に、彼奴が動かせるかい?」
 興味深げに問いかけるダミアンの眼差しに、ルークは暫し思いを巡らせる。
 そして、見つけた答え。
「何とかしてみせます」
「精々、御節介しておいで」
「御意に」
 にっこりと微笑むダミアンに、ルークは深々と頭を下げた。
 この微笑みがあるからこそ、ルークは遮二無二頑張ることも出来る。
 この微笑みが、自分だけに向けられていることを知っているからこそ。

◇◆◇

 俺は、暖炉の炎が爆ぜる音を聞きながら、ぼんやりと今後のことを考えていた。
 暫くここに留まると、ルークと約束してしまった以上、今直ぐに出て行く訳にもいかないし、あんまり長く留まれば、そのうち王都にまで連れ帰られそうだし…
 小さな溜め息を一つ吐き出した時、入り口のドアが乱暴に開かれた。
「ゼノン、いるっ!?」
 そう叫びながら、飛び込んで来たのはルーク。
「…何処にも行くな、って言って置きながら…」
「あぁ、いてくれた。良かった…」
 呆れた溜め息を吐き出す俺を視界に入れると、ルークは小さく安堵の溜め息を吐き出す。だがその表情は、途端に険しくなる。
「ライデンが、いなくなった」
「…はぁ?」
 唐突なその言葉に、俺は実に間抜けな声を零した。
「だから、ライデンが消えちまったんだよ。さっき、ダミ様のところにそう連絡が入ったらしい。だから、一緒に捜してくれない?」
「…ルーク…」
「御願いっ!」
 そう言われても…今ここで、ライデンと逢う訳には…
「…ライデンが行きそうなところは、幾つか教えるから、御前たちが…」
「見捨てるつもりっ!?」
 悲鳴のような声。
「何と言われようとも、それだけは譲れない」
 そう答える俺が、ルークの瞳にどう映っているかはわかっていた。
 酷く残酷で、薄情な奴。それが、今の俺だろう。
 ただ、俺にも譲れないこともあるんだ。全てを投げ捨てた理由が、そこにあると言うのに…どうしてのこのこと戻れる?
 ルークは暫く口を噤んで俺を見据えていた。でも、俺がそう腹を据えてしまった以上、滅多なことでは動かないことを悟ったのだろう。その唇は、やがて大きな溜め息を吐き出した。
「わかった。じゃあ、ライデンの"恋悪魔"としてのあんたにはもう何も言わない。でも、"医師"としてのあんたには言わせて貰う。この雪の中、放って置いたらどうなるかぐらいの想像はつくだろう?ただでさえヒトより弱いライデンを雪の中に放り出しておいて、"医師"として平気な訳?」
「…悪いけど、俺は医師としてのプライドも捨てて来たんだ」
 ルークの考えそうなこと。でも、俺もここでそう簡単に折れる訳にもいかない。医師としての職務を放り出した以上、プライドも捨てたも同然だもの。それしきの説得なんか、恐くもない。
 すると、ルークは最終手段に出た。
「…そこまで嫌だって言うのなら、もう情に訴えることはしない。でもその代わり…俺は、あんたの首に縄付けてでも、王都に連れ戻す。勿論、職務復帰もさせる」
「…それを断ったら?」
 興味本位で尋ねてみた。
「言ったろ?首に縄付けてでも連れ帰るって。断らせないよ。でも…もしもあんたがライデンを捜してくれるって言うのなら…勿論、アフターケアーも付けて、ってのが条件だけど…俺は、あんたの行動にこれ以上口を挟まない。無理に王都にも連れ戻さないし、旅に出たって文句も言わない。あんたには、どちらかしか選択肢はないよ」
「…全く…勝手なことを…」
 究極の選択と言う訳か。ヒトの弱みに付け込んで、良く考えるモンだね。
 でも、本当にどちらかを選ばなければならないとしたら…。
 捜すは一時、束縛は一生。必然的に、"それ"を選ばざるを得ないじゃない。
「…わかったよ。捜せば良いんでしょ?」
 溜め息を吐き出しつつ、俺は渋々、そう答えた。
 すると途端に、ルークの表情に笑みが戻る。
「最初から素直にそう言えよ」
「…無理矢理言わせたクセに…」
「何とでも。最終的に選んだのはあんただからね。そうと決まればぐずぐずしていられない。ほら、行くよ」
 俺の決意が変わらぬうちに…とでも思っているんだろうか。ルークは俺の外套をばさっと被せると、引き摺るように外へと連れ出した。

◇◆◇

「…ホントにここなの…?」
 俺の背後から、ルークの溜め息交じりの声が聞こえた。
「他の構成員の目を逃れられるライデンの行動範囲って言ったら、俺はここしか思いつかない」
 そう言いながら、俺は黙々と足を進めた。
 結局俺は、王都に戻って来てしまった。そしてここは、俺の庭とも言える、文化局の直ぐ近くの森の中。
 雪は、まだしんしんと降り続いている。森の中は当然、足場も悪い。でも、俺には"そこ"しか思い浮かばなかったのだから、もし仮にいなかったとしても文句を言われる筋合いはない。
 暫く足を進め、その場所へと辿り着いた。
 すると、そこには……。

「ほら、降りて来いってば!」
 落ちて来る雪に塗れながら、空を見上げ、声を張り上げる姿。その視線の先には、沢山の鳥たちがいる。
 様子からして、恐らく餌をあげようとしているんだろうけれど…どう言う訳か、"彼ら"は上空を旋回するだけで、降りて来ようとはしない。
「ほらってば!腹減ってんだろ?降りて来いよぉ」
 猫なで声を上げたところで、降りて来るはずもなく。ただ、無駄に時間だけが過ぎている。
 でも、俺はそこから動くことが出来ない。まるで、足が凍ってしまったかのように、その先の一歩を踏み出すことが出来ないんだ。
 俺の背後にいるはずのルークも、息を飲んだまま動かない。ただじっと、その視線の先にある姿を見つめていた。
 すると、空を飛び交っていた"彼等"が、一斉に下降を始めた。でもその止まる先は、声を上げる姿には見向きもせず…驚くべきことに、俺へと向かって来たのだ。
 "彼等"に奪われていた視線は、自然とその跡を追い…そして、"彼等"が所狭しと留まった俺へと、向けられた。
「…ゼノ…」
 ぽつりと、零れた声。途端に"彼等"が飛び立った。
 残されたのは…茫然と俺を見つめる"彼奴"と、ただ息を飲むだけの"ルーク"。そして、色とりどりの"彼等"の羽根を…恐らく頭に乗せている…"俺"。
 "彼奴"は、暫く茫然と俺たちを見つめていたが、やがてゆっくりと俺の目の前へとやって来る。
 次の瞬間、俺は思いもかけない姿に、息を飲むこととなった。
 "彼奴"は…俺たちが捜していた"ライデン"は、にっこりと微笑んだのだ。
 そして腕を伸ばし、俺の頭の上に乗っていた羽根を取ってくれた。
「御帰り」
「……」
 その一言だけをつぶやき、ライデンは俺の足下へと崩れた。
 咄嗟に抱き留めようと思ったものの…俺の身体は、まるで動かない。崩れていくライデンを、ただ見つめることしか出来なかった。
「ちょっ…何やってんだよ、あんたは…っ!」
 慌てたのはルーク。大急ぎで雪の中からライデンを抱き上げると、動くことが出来なかった俺の頬を、一発殴った。
「しっかりしろよっ!凄い熱なんだぞ!?早く運んでやれよ!!」
「ぁ…」
 その瞬間に、俺の硬直は解けた。そして俺は、ライデンを抱えて走り出していた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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