聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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音のない森 1
ゼノンが王都から姿を消して数ヶ月。
文化局の局長の座も医務局の責任者の名義も、相変わらず形式上はゼノンのままになってはいた。だが実質は文化局は副官が、医務局も次官が、その職務を熟していた。
それが、日常になりつつある。勿論、そうでなければ機関が機能しないと言うこともそうではあるが…いなくても何とかなる、と言う認識になりつつある。それは…未だ根強くゼノンの帰還を願う者にしてみれば、脅威のナニモノでもなかった。
その日の朝、いつも通りに登庁して来たレプリカは、監査室に入るなり声をかけられた。
「レプリカ、ちょっと…」
「…はい?」
彼を呼んだのは、室長たるテオ=ホリィ。その執務室にレプリカを促すと、しっかりと鍵を閉める。
「どうしたんですか?」
そう問いかけた声に、テオは小さな溜め息を吐き出した。
「局内の上層部の方で、もういい加減にゼノンの後任を選んだ方が良いんじゃないか、って話が出回ってるらしいぞ。医務局の方からはまだ何も言っては来ないが…何か聞いてないか?」
「……いえ、何も…」
そう問いかけられたレプリカは思わず息を詰め、やっとで紡ぎだした言葉はそれだけ、だった。
ゼノンがいる当時から、文化局の局長などいてもいなくても大差はないのではないか、と一部では噂されていたこともあったのだが、やはり実際にいなくなってしまうと色々な場面で支障が出て来る。勿論それは想定内であり、レプリカやテオだけではなく、デーモンもエースもルークも…勿論ダミアンも、副官にも事情は説明していたのだが…やはり、何処からともなくそんな声が聞こえ始めて来たとは。
「翠雨(すいう)様は、何と…?」
副官たる翠雨は、仕事は出来るが物静かで余り自分から何かを主張することは少ないタイプだった。けれどだからと言って人に流される訳でもなく、我が道を行くと言うところでは、ゼノンに似ているのかも知れなかった。
ゼノンのことを打ち明けた時でさえ、驚きの表情を見せたのはほんの一瞬。後は実に冷静に、その職務を熟している。今のままで不満はないと思っていたのだが…実のところ、彼がどう思っているかはわからなかった。
「翠雨様からはまだ何の発信もない。だが…もしかしたら、翠雨様が言い出したのかも知れない。局長と同じ仕事をしているのに、いつまでも副官扱いなのは気に入らないのかも知れないしな」
「………」
確かに、テオの言うことも尤もなのだが…確証がないまま、彼が言い出したことだと決め付ける訳にも行かない。
「…どなたかに…相談した方が良いでしょうか…」
このままでは…ゼノンの居場所がなくなってしまう。ふと、そんな思いに襲われたレプリカは、不安げにそう言葉を零した。
「あんまり勝手に動くと、御前も首を切られかねないぞ。何せ、御前がこの局で一番、ゼノンの息がかかっていたのはみんな知っているんだ。御前は大人しくした方が良い」
いつになく真剣な表情のテオに、レプリカはそのまま口を噤むしかなかった。
そんなことから数日が経った頃。
その日、職務を終えてレプリカが屋敷へと戻って来ると、その門の前に佇む姿を見つけた。
「……ルーク様?」
「あぁ、レプリカ。御帰り」
宵闇に紛れるようにそこに立っていたのは、ルーク。レプリカに声をかけられると、にっこりと微笑んだ。
「どうなされたのですか?」
思わずそう問いかけた声に、ルークはくすくすと笑う。
「顔見に来たんだ。暫く会ってないから、元気かなと思ってね」
「…そうですか。わざわざ済みません。言っていただければ、こちらから御伺い致しましたのに…」
そう言いながら、門を開けて中へと促す。
玄関のドアを開けると、中は真っ暗で、冷え冷えとしている。
「…ホントに、あんたしかいないんだね」
「えぇ。他の者は全員、ゼノン様が手配した御屋敷に移りましたから…」
玄関の電気をつけ、リビングへと促す。そこも冷え冷えとした感じはしたが、掃除は相変わらず行き届いており、いつでも元通りの生活が送れそうだった。
「今、何か御飲み物を…」
「あぁ、別に気にしなくて良いから。ゆっくり着替えておいで」
「…済みません…」
ソファーに座り、レプリカが出て行く背中を眺めながら…ルークは、小さく溜め息を吐き出した。
たった一名だけこの屋敷に残ったレプリカ。文化局で仕事をしながら、たった一名でこの屋敷を今までと同じに保っている。その姿が…とても、不憫でならなかった。
せめて…その行方だけでもわかれば。そう思うものの…勝手に手出しすることが出来ない。
ゼノンを待つ気持ちは、ルークとて同じこと。けれど、その比重は…多分、ルークの比ではないだろう。
ただ…だからと言ってじっとはしていられなかった。だから、こうして足を運んだのだ。
この場所を、護る為に。
「……御待たせ致しました」
御茶の用意をして戻って来たレプリカは、ルークの前にカップを置いた。
「御免ね、急かしたみたいで。まぁ、座りなよ」
「…はい」
ルークに促され、レプリカもソファーの端に腰を下ろす。
「…今日は、何か…」
突然訪れたルークの様子を伺うように、レプリカは問いかける。
「うん、ちょっとね。聞きたいことがあって」
「…聞きたいこと…ですか?」
ルークは御茶を一口飲むと、カップを置いてレプリカへと視線を向けた。
「ねぇ…ゼノンの後任、選出するって話…ホントなの?」
「…ルーク様…」
一瞬にして、レプリカの顔色が変わった。勿論、ルークがそれを見逃すはずもない。
「…どうしてそれを…?」
「そう問い返す、ってことは、事実なの?」
問い返した声に、レプリカは小さく首を振った。
「…わかりません。ただ…テオも、同じようなことを言っていました。数日前に聞いたことですが…局の一部からは、そんな声が上がっているようだ、と…。わたくしは、何も聞いてはおりませんが…上層部の方の話のようです。ただ、翠雨様からは何の御話もありません。テオは、わたくしがゼノン様の息が一番かかっていることは、誰もが知っていることだから、何もするな、と…下手に動けば、直ぐに首が飛ぶから、と…」
「…へぇ。あのテオ=ホリィにしちゃ、マトモなこと言うじゃない」
小さな溜め息を吐き出したルーク。テオ=ホリィとは一対一で話したことはないが、天邪鬼である彼の今までの様子からは想像はつかなかった。まぁ、監査室の室長なのだから、いつもそれなりの態度ではいるのだろうが。
「…テオも、いつも悪気があって歯向かう訳ではないのですから…ゼノン様のことに関しては、"鬼"の解放を見逃してしまったことで、彼なりに責任は感じているようで…」
「そっか…なるほどね…」
レプリカから聞いたことが真実なら…レプリカの知らないところで、話は進んでいるのかも知れない。そして、新たな局長が選出されたとしたら…この屋敷はその新たな局長の物。レプリカの住居どころか、ゼノンの帰る場所はなくなってしまう、と言うことにもなりかねない。
「…リンから聞いたんだけど、医局の方はまだそんな話は出てないみたいだよ。あっちは別にゼノンが局長って訳でもないからね。一医師として…まぁ、それなりのポストではあるけど、いなくて混乱する訳でもない。言ってしまえば…代わりの医師は幾らでもいると言うのが現状だからね。一番困っているのは文化局の上層部だからね…」
ソファーの背に深く凭れながら、ルークは考えを巡らせつつ、そう言葉を零す。
「…翠雨に、直接聞いてみる?」
「…ルーク様…」
その、余りにも大胆な言葉に、レプリカは小さく息を飲む。
「多分、この話の要は翠雨でしょう?副官でありながら、今は本来の職務ではないゼノンの仕事を全て肩代わりしている訳だから。彼奴が文句を言うなら話はわかるし。ただ…そんなことを黙って目論むような奴だとは思わなかったんだけど…」
ルークのその言葉に、レプリカは大きく息を吐き出した。
「…わたくしは…信じません。翠雨様が、そんなことを言い出すだなんて…有り得ません」
固く握り締めたその手は、そんなことを言い出したルークに怒りを覚えているようにも見えた。
「…まぁ、あんたの気持ちはわかるけどさ。一般的に見て、それが一番しっくり来る訳だよ。だからこそ、直接聞いてみようか、って言ってるんだ。裏で何かを企んでいるんだったら、ちょっとした態度にだってそれは表れて来る。今まで忠実だったからと言って、黙って主がいなくなったこの状況で、その仕事の全てを押し付けられてさ、いつまでもその忠実さが続くかどうかはわからないんだよ。みんながみんな…あんたみたいに、ゼノンに全てを捧げる訳じゃない。それが…哀しいけど、現実なんだ」
「…ルーク様…」
真っ直ぐに、ルークに向けられた眼差し。それは…とても哀しそうだった。
溜め息を一つ吐き出したルーク。
「…御免な。嫌な言い方して。俺たちは、ゼノンの事情を知ってる。でもさ…残された局員は事情を知らない奴等が殆どなんだよ。ある日突然、局長が黙って姿を消した。その仕事は全部、副官に引き継ぎます。局長の椅子は、そのままにしておいてください。いつ帰るかはわかりませんけど。そんな不条理なことをさ、黙って受け入れろって言われて…全員が受け入れられない気持ちもわかるんだ。これでも、俺も上に立つ立場だからね。あんたがどう思おうが…それはあんたの都合にしかならない。上層部は、寧ろ…目障りなのかも知れない。この屋敷だって、ゼノンの帰りを待つって言う名目で、あんたが暮らしてる。他に誰もいない。あんたがたった一名でこの屋敷を保っていることは、誰も知らないんだ。他の使用魔が整えた屋敷だとしか思っていない他の奴等は、それをどう思う?ってことなんだよ」
自分でも、キツイ言い方をしていると…ルークは自覚していた。けれど、それが現実なのだ。
「…あんたを傷付けたくて言ってるんじゃない。俺だって、ゼノンを待つ気持ちは同じだもん。だからこそ…はっきりさせたいじゃない。翠雨が何も言わないのなら、こっちから聞けば良い。彼奴がどう思っているのかを、あんたたちにはきちんと知る権利はあるんだ。今は…あんたたちは翠雨の部下になるんだから」
唇を噛み締めるレプリカに向け、そう言葉を紡ぐ。
「取り敢えず…ダミ様とデーさんには話すよ。良いね?」
「……はい」
そこまで言われてしまっては、レプリカも頷かざるを得ない。例え…納得出来なくても。
「…御免ね」
もう一度、ルークがそう口にする。
「…大丈夫です。この御屋敷のことは…ただの、わたくしの我儘だと言うことは、重々承知しております。わたくしがどう思われようと…それは構わないのです。ただ、ゼノン様の身勝手で…と、悪く言われるのは…」
「だから聞くんだよ、翠雨に。彼奴が関わっているのかどうか。彼奴だって馬鹿じゃないだろうし…上位を取りたい気持ちがないとは言えないだろうから。まぁ、本魔に聞くのが一番簡単だから。あんたは関わらなくて良い。俺たちが勝手にやることだから。そう言う事で」
ルークは小さく笑いを零すと、ソファーから立ち上がって、レプリカの頭の上にそっと手を置いた。
「…早く…帰って来ると良いな」
「……はい…」
涙の浮かんだ眼差しを伏せ、レプリカは小さく答える。
待つことしか出来ないその現実を、嫌と言うほどぶつけられ…そして、護らなければならないこの場所までも奪われ兼ねないこの状況が、堪らなく切ない。
「…悪いようにはしない。だから…もう少し、頑張ろうな」
「…ルーク様…」
見上げたその顔に、ルークはにっこりと微笑んだ。
彼もまた…ゼノンを心配している仲魔だから。だから…護らなければ。
「何かあったら、直ぐに連絡して。俺たちは、あんたの味方だからね」
その手でその頭をそっと撫でる。
「…はい。有難うございます」
ルークの気持ちが、とても心強くて。レプリカはやっと、小さな笑いを零した。
先は、まだ何も見えない。けれど…そこにはちゃんと、道があると信じて。
その翌日。
報告書を持ってダミアンの執務室を訪れたのは、文化局の翠雨副官だった。
「……御苦労様」
その中身を確認すると、ダミアンはにっこりと微笑んだ。
そして…その言葉を口にした。
「…ゼノンの代わりは、大変かい?」
「…何処か、不備がありましたか…?」
ダミアンの言葉を、どう捕らえたのだろう。僅かに不安そうな色を見せた翠雨に、ダミアンはくすっと笑う。
「あぁ、そう言う意味じゃないよ。君は十分、仕事を熟せているから、それは心配いらない。ただ、ゼノンがいなくなってもう半年以上だ。君の仕事とゼノンの仕事の両方を兼任しているのでは大変だろう?と言う意味だ」
そう言われ…翠雨の表情が変わった。
僅かに強張ったその表情は…ダミアンの言葉を、警戒し始めている。
「…それは…どう言う事でしょうか…?」
その言葉に、ダミアンは一つ間を置き…そして、問いかけてみた。
「もしも…新たに局長を決めようと言ったら…君に、そのつもりはあるかい?」
「…ダミアン殿下…」
真っ直ぐに翠雨を見据えたダミアンの眼差し。それは…真実を、見抜くかのようで。
翠雨は、大きく息を吐き出した。そして暫く考えてから…大きく、首を横に振った。
「…わたくしには、出来ません」
「…どうしてだい?君なら、十分ゼノンの代わりが務まると思っているんだが」
ゆっくりと問いかけられた言葉。けれど翠雨は、その名前と同じブルーグリーンの眼差しを伏せ、再び首を横に振った。
「御冗談を。わたくしには…局長の座は大き過ぎます。周りがどう見ていようと…それはわたくし自身が、一番良くわかっております。評価して頂けることは嬉しく思います。けれど…ゼノン様の代わりは、勤まりません。あの方は…皆が思っている以上に、偉大でした。実際、半年以上代わりを務めましたが…それを、実感しております…」
翠雨はそう言って、大きく息を吐き出した。
「局長の仕事のみならず…あの方は、医師としても働き、研究にも勤しんでおられました。それを、顔色一つ変えず、大変さを微塵も感じさせず…寧ろ、手を抜いていると思わせるくらい、飄々と熟しておられました。わたくしは副官として、その仕事量は把握しております。この半年以上、わたくしは、局長の仕事の代理だけで精一杯でした。長年…あの方が局長としてその座におられたことには、きちんとした理由があります。わたくしがそれをわかっている以上…わたくしは…ゼノン様の代わりにはなれません」
「…そう。それは残念だ。だが…良い話が聞けたね」
くすっと、ダミアンは小さく微笑んだ。
「君が…そこまでゼノンを理解しているとは思っていなかったものでね。悪かったね、試すようなことを言って」
「…ダミアン様…」
顔をあげた翠雨に、ダミアンはにっこりと微笑みを向ける。
「確かにね、ゼノンはあぁ言う奴だから…局長の仕事も、医師の仕事も、研究も、趣味の範疇だと思われがちだけれどね。実際、魔界にとって彼はなかなかの功労者だ。君が、彼をきちんと評価していてくれて良かったよ。君が、ゼノンの副官で良かった。だから、はっきり言おう」
ダミアンはそこで一旦言葉を切る。そして、その表情を引き締めると、真っ直ぐに翠雨のその眼差しを見据えた。
「文化局に、ゼノンの代わりの局長を選出しようと言う声が上がっているらしいね。それに関して、君はどう思っているんだい?」
「……ゼノン様の代わりを選出…ですか?済みません、初耳…ですが……」
「…初耳?」
「はい…初めて聞いた話です。そんな話が上がっているのですか?わたくしはちっとも……」
驚いた表情でそう零した翠雨の顔をじっと見つめていたダミアンだったが、やがて大きな溜め息を吐き出した。
「…そう言う事か。わかった。悪かったね、突然惑わすようなことを言ったね」
果たして…誰が言い出したことなのか。結局、それはこの状況ではわからなかった。けれど…少なくとも、現文化局で権力を持っている副官は敵ではない。それがわかっただけでも収穫だった。
「…局へ戻ったら、確認致します。ゼノン様の代わりなど…誰にも、立たせません。ゼノン様が戻ってらっしゃるまで…わたくしが、その席を護ります」
大きく自己主張することのなかった翠雨の、今まで見たことのない表情。彼もまた…密かにゼノンの崇拝者だった、と言うことだろうか。
「君の気持ちはわかるが、余り無理はしないようにね。こちらも…少し、様子を伺うとしよう…」
ふっと、ダミアンの眼差しも変わった気がした。それを目の当たりにした翠雨は小さく息を飲むと、ゆっくりと呼吸を一つ吐き出す。そして、頭を下げて執務室を出て行った。
そして…その背中を見送ったダミアンは、大きく息を吐き出す。
「…で、これからどうするつもりだい?」
そう言葉を零すと、奥の間のドアが開き、そこからデーモンとルークが姿を現した。
「どうするも何も、誰が言い出したのかを確定しますよ。当たり前じゃないですか」
そう零したのはルーク。けれど、隣にいるデーモンは心配そうな表情を浮かべたまま。
「…だがな…様子がちょっと可笑しくないか?副官である翠雨が知らないことを、どうして監査室のテオ=ホリィが知っている?と言うか…御前は何処から、その話を聞いたんだ?」
「俺?俺は…リンから…」
「…リン?あの、軍事局の夜勤の医師か?」
「そう…彼奴はゼノンの部下だったし、研究室にも医局にも繋がりがあるから、多分何処からか掴んで来たんだと思うんだけど…」
「では…御前も、はっきりとした出所はわからない、と言う事だね?」
「………」
ダミアンの言葉に、ルークは思わず口を噤んだ。
リンの言うことが間違っているとは思っていない。多分…何処かでそんな話が出たのは事実だろうとは思う。けれど、それがここまで大きなことだったのかどうかはわからない訳で…たまたま、レプリカもテオから同じような話を聞いていたことで、取り返しが付かなくなる前に…とダミアンに伝えてしまったこと。それは…勇み足だったのかも知れない。
「…済みませんでした…」
目を伏せ、そう言葉を零して頭を下げたルーク。その姿にダミアンとデーモンは僅かに顔を見合わせ…そして、溜め息が一つ。それは、双方から。
「まぁ…何処かで話が出たことは事実なのだろう。リンとテオ=ホリィの話は同じだからね。ただ…出処ははっきりさせないとね。エースにこの話は?」
ダミアンに問いかけられ、ルークは首を横に振る。
「まだ何も。任務で出ていて、まだ連絡が取れていないので…」
「そうか。なら…少し様子を見よう。その間に何か動きがあるかもしれないからね、翠雨の動きには注意するようにして…デーモン、一応エースにも連絡を入れておいてくれ。急いで帰って来る必要はないが、話だけはね」
「わかりました」
デーモンは一つ頭を下げ、自分の執務室へと戻って行った。
そして残されたルークは…大きな溜め息を吐き出していた。
「…済みません…」
再びそう口にしたルークに、ダミアンは小さく笑った。
「別に、御前が悪い訳じゃない。ただ、出処がまだはっきりしていないと言うだけだろう?接点のない二名から同じ話を聞いているんだ。何処からか出た話であることは間違いなさそうだからね。翠雨に関しては、まだ我々も彼を把握出来ていないからどうなるかはわからないが…」
そう言いながら、手招きをしてルークを自分の傍へと呼び寄せる。そしてルークが傍へとやって来ると、その髪をくしゃっと掻き混ぜた。
「いつまでもそんな顔をしているものじゃないよ」
「…だって…明らかに、俺の勇み足じゃないですか…」
落ち込んだ表情のルーク。
「まぁ、そんなこともあるさ。気にするな。取り敢えず御前は、リンから話の出処を聞いておいで。リンもテオも翠雨も、みんなゼノンを心配しているんだ。その気持ちは、御前と同じだよ」
「…ダミ様…」
ルークの頭に置いた手をそっと引き寄せ、ルークの頭を抱き寄せる。
「何事にも、慌てないことだよ。良いね?」
「…はい」
一時の癒し。それは、今のルークには効果覿面であった。
それから数日後。王都に帰還したエースは、既にデーモンから話を聞いていたのだろう。報告書を出し終えると、その足でルークの執務室を訪れていた。
「…で?ゼノンの解任の話はその後どうなったんだ?」
「…別に、解任の話じゃないよ。局長の選任の話でしょ?」
「要は一緒だろう?ゼノンを解任して、新しい局長を選ぼうって言うことだろう?」
「まぁ、そうなんだろうけど…」
小さな溜め息を吐き出しつつ、ルークはソファーに座ったエースの前に、コーヒーの入ったカップを置く。
「まだ、何の話も進んでないよ。俺はリンから話を聞いただけ。様子を探っているのか、翠雨にも今のところ動きはないし。レプリカの話だと、テオもその後は何も言って来ないらしいから…」
溜め息と共にそう言葉を吐き出したルークは、自身もエースの向かいのソファーに腰を下ろすと、手に持っていたカップのコーヒーを一口啜る。
「で、リンは誰から聞いたんだって?」
話の内容が内容だけに、エースも気になっているらしい。
「リンは、研究室で小耳に挟んだらしい。そっちの話だと…確か、ロイドとか言う奴が話していたらしいよ」
「…ロイド?」
「そう。ゼノンの研究の補佐をしていた奴みたい。身位は高くないんだけど、ゼノンに付いてたくらいだから、研究室ではそれなりの権力はあるみたい。そいつが、そんな話が出てるらしいって話しているのを聞いた奴がいるって。そこから更にリンが聞いたってこと。又聞きらしいけど…内容が内容だしね…リンも心配になって、俺に話に来たって訳」
「……ロイド、ねぇ…」
エースは何かが気になったのか、ソファーに深く凭れかかると、腕を組んで天井を見据えた。
「…何か引っかかる?」
明らかに何かに食いついた様子のエースに、ルークは身を乗り出す。
「…何処かで聞いたか見た覚えがあるような…」
そう零しながら、記憶を辿るようにその指先で顎に触れ、目を閉じる。
そして、暫し。
「………思い出した」
そう言うなり、エースはソファーから立ち上がると、踵を返す。
「ちょっと!何処行くのさっ!」
慌てて声を上げたルークに、エースはちょっとだけ足を止めて振り返る。
「後で俺の執務室に来い」
それだけ言い残し、エースはあっと言う間にルークの執務室から姿を消した。
「…何さ…一体…」
残されたルークは…当然、訳のわからないと言った表情を浮かべていた。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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