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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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風花 2
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
5話完結 act.2

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◇◆◇

 屋敷の中へ入ると、出迎えた使用魔にアリスをリビングへと案内するように声をかけ、一旦服を着替えに自室へと戻る。
 どうしようか…と僅かに迷ったものの…念の為、剣の核を身の内に潜めてリビングへと戻る。
 そこには、使用魔に御茶を淹れて貰っているアリスの姿。初めて来る客が皆そうであったように、アリスもまた、その使用魔の姿を興味深げにじっと見つめていた。
「御待たせ」
 そう声をかけると、使用魔はルークに一つにっこりと微笑むと、踵を返してリビングを出て行った。
 その背中を見送り、ルークへと視線を戻したアリスは、不思議そうに小さく首を傾げていた。
「彼は…玄関で会った使用魔ときょうだいですか?」
「うん?あぁ、まぁね。玄関にいたのが姉で、今いたのが弟。良く似てるでしょ?」
 くすっと笑ったルークに、アリスは僅かに目を細める。
「珍しいですね。姉弟の使用魔だなんて。それにしても、無口な使用魔ですね」
 通常は、主が戻って来るまで客の相手をするのが使用魔だと思うのが当たり前なのだろう。
 だが、ルークの屋敷の使用魔は一味違う訳で…にっこりと美麗な微笑みを溢すものの、一言も言葉を発しない。しかも…美麗とは言え、片目を覆っている眼帯が、何とも言えず不思議な雰囲気を醸し出しているのだ。初対面の客なら、大抵そこに興味をそそられる。アリスもまた、例外ではなかったのだ。
「まぁね。珍しくて良いでしょ?眼帯姿も蒼羽は似合うしね」
 ルークの方は慣れているので、そう言ってくすくすと笑っている。寧ろ、その反応を面白がっているようで。
 ふと見せた、そんな素の姿に、アリスは小さな吐息を一つ。
「貴殿は…相変わらずですね。そうやって、無意識に私を惹きつけるんですから」
「…別に、そんなつもりじゃないんだけど」
「だから無意識だ、と言うんです」
 アリスは再び、小さな吐息を吐き出すと、改めてルークへと視線を向けた。
「…話が脇道に逸れ過ぎました。本題に戻りましょう。私を引き止めた理由を、教えて頂きたい」
 いつも通りの冷静な表情へと戻ったアリスに、ルークも表情を引き締める。そして…暫し、アリスをじっと見つめたまま、想いを巡らせる。
 アリスを引き止めたのは……一つの賭け、でもある。
 本来ならば、そんな手段を使うなど以ての外。邪道でしかない。けれど…"魔界防衛軍"の真相を暴く為。ダミアンの潔白を、暴く為。その為に……
 大きな溜め息を一つ吐き出したルーク。そして、ゆっくりとその口を開いた。
「…俺と、取引しないか?」
「…取引、ですか…?」
 突然の申し出に、当然、怪訝そうな表情を浮かべたアリス。けれど、ルークの表情は変わらない。
「そう。取引」
 一つ、息を吐き出す。
「あんたが知っている事全部、話してくれない?"魔界防衛軍"に関する事と、"特別警備隊"の事も全部。その見返りに…俺は、今夜一晩、あんたに俺の全部を差し出す。それが取引内容だ。あんたの条件だったろう?見返りとして、一晩、俺の心と身体と全部手に入るのなら、生命をかけられるってな。だからあんたに、俺の一晩を明け渡す」
「…ルーク参謀…」
 思いがけない言葉に、アリスは一つ息を飲む。
「…どうして、私にそんな事を…?ダミアン殿下を、裏切るおつもりで…?」
 果たして、何処までルークが本気なのか。それを探るように問いかけた言葉にも、ルークは表情を変えない。
「悪いけどさ…俺は別に、清純って訳じゃないんだよね。まぁ、遊び歩いている訳じゃないけど…ダミ様が初めての相手、って訳でもない。あんまり思い出したくはないけどね。だから、今更な訳だよ」
 そう零しながら、ふと過ぎった過去に小さく首を振る。
 自分にとっては、忌まわしい部類に入る記憶。その記憶が甦るのを恐れ、積極的に恋悪魔を求めなかったところもある。
 だが…その呪縛を解き放ってくれたダミアンを、裏切るつもりはない。だからこそ…ある意味、賭けなのだ。
「どうする?」
 ルークはソファーに凭れたまま、じっとアリスを見ていた。そしてアリスもまた、ルークをじっと見つめていた。
 そして、暫しの沈黙の後…アリスは小さく笑いを零す。
「…そう来ましたか。確かに言いましたね。生命を懸ける見返りとして、一晩、貴殿の心と身体をいただけるのなら、とね。まさか、こんな時の切り札にされるとは思いませんでしたが」
 笑いながら、アリスは僅かにその視線をルークから背けた。
「仮に…貴殿の言う通り、私が…"特別警備隊"が、"魔界防衛軍"と関わりがあるとして…どうしてそれを私に問いかけるのですか?私が彼等を裏切り、反旗を翻して、貴殿の言う通りにするとでも?」
 その問いかけには、ルークも笑いを零した。
「まぁ、かなり自惚れてるとは思うよ。あんたが仲魔を裏切って、一晩だけの関係に生命を捧げるだなんてね。でも、"魔界防衛軍"が動くのをただ待ってたって、埒が空かないだろう?だから、自ら斬り込んでみようと思った訳。あんたに却下されたらそれまでなんだけどね」
 些か自嘲的な笑いを浮かべながら、ルークはアリスの様子を伺う。その視線が再びルークへと戻って来た時、先程よりも慎重な言葉を選んで、ルークに問いかけた。
「では…何故、"特別警備隊"と"魔界防衛軍"が関係あると…?」
「それに関しては、色々考えた末の答えだ、って事。俺の考えが甘いと、あるヒトに釘を刺されてね。もう一度今までの状況を考えた結果、一番怪しいのはあんたたち"特別警備隊"だと結論が出た。枢密院の名簿のデータベースに、あんたの名前もジュリアンの名前もなかった。でもあんたたちは存在してる。だとすれば、考えられるのは…あんたもジュリアンも、別名で登録されている、って事だ。ついでに言えば、"特別警備隊"の記載もない。そこに何名所属しているのかもわからない。普通に考えて、そんな状況は可笑しいだろう?一番怪しいじゃないか」
 ルークの話を聞きながら、アリスの視線が再び伏せられる。
 けれど敢えて、ルークはそのまま言葉を続けた。
「前に…ロイドが殺された時、あんたは俺に言ったよな? もし、誰かが共犯だったとしたら…と言う可能性を考えないのか、と。だから俺は、敢えてあんたに言うんだ。あの時俺と一緒にいたあんたは、ロイド殺しの嫌疑を免れている。でも、共犯がいたとすれば…話はもっと辻褄が合うだろう?あの時、ロイドが地下にいる事をあんたは知っていたんだから。その情報を実行犯に流せば、当日のあんたのアリバイは作れる。単独犯だと思うから無理なのであって、複数犯なら簡単な話だよな。まぁ、何であんたがそれを俺に言ったのかは謎だけど」
「…そう言う事ですか」
 大きく息を吐き出したアリス。そして、伏せていた眼差しを上げた
「…わかりました。取引しましょう。今夜一晩…貴殿を、貰います」
「…OK」
 ルークは大きく息を吐き出す。そして、ソファーから立ち上がると、すっとアリスの前へと手を差し出した。
「おいで、アリス」
 差し出された手を取り、アリスもソファーから立ち上がる。
 その目の奥に見えた、小さな光。それは果たして…敵なのか、味方なのか。
 未だ、心の奥に引っかかるそんな想いを押さえつつ、ルークはアリスの手を引いて自室へと向かった。
 表情を探られたくなくて、敢えて電気を消したままの部屋。心持ち、緊張した空気が張り詰めていた。
 そっと抱き寄せたその身体は、思っていたよりもずっと冷たい。
「…アリス」
 耳元で囁いた声に、アリスは小さく笑いを零した。そして、そっとルークの身体を押して距離を作る。
「シャワー、借りますね。貴殿がその気になったら、呼びに来てください」
 そう言って軍服の上着を脱ぎ、バスルームへと消えたアリスの背中を見送りながら、ルークは小さく溜め息を一つ吐き出す。そしてベッドの上に腰を下ろすと、そのまま倒れるように横になる。
「…馬鹿みたいだよな…」
 アリスの真意が、イマイチわからない。そう思いつつ、ぼんやりと天井を見つめていると、シャワーの音が微かに聞こえて来た。
 ゆっくりと、考えを巡らせる。
 アリスは、本当は何処まで知っているのだろう。もしかしたら、騙されているのではないか。ふと、そんな思いも過ぎっている。けれどここまで来たら…引き返せない。
 ふと、マラフィアの言葉が頭を過ぎる。
 自分の直ぐ傍に、"魔界防衛軍"がいる。そして…自分は裏切られるのだと。もし、アリスが本当に"魔界防衛軍"だとして…彼女に裏切られるとは、どう言う事なのだろうか…?今は、その状況がまだ想像つかない。
 色々とまだ頭の整理がつかないところもあるが…いつまでも引き伸ばす訳にもいかない。
「まぁ…仕方ない。なるようになれ、だ」
 大きく息を吐き出してベッドから起き上がる。そして、その手にゆっくりと能力を送りながら、バスルームへとやって来た。
 シャワーの音は、相変わらず聞こえている。そのドアに向け、声をかける。
「アリス。開けるよ」
 そして、ドアを開ける。そこには…頭からシャワーの御湯を浴びながらも、服は着たまま。そして、真っ直ぐにルークに剣先を向けているアリスがいた。
「…裏切り者」
 小さくつぶやいた声。その表情は、酷く冷たい。
「貴殿がここへ来た、と言う事は、殿下を裏切ったと言う事ですよね?」
「…あんたこそ」
 ルークもすっと腕を挙げる、掌に握っていた核は、既に剣へと姿を変えていた。
 御互いに向け合った剣先。それは既に、これから甘い言葉の一つでも囁こうか、と言う雰囲気を完全に消していた。
「あんたは何を知ってるのかは知らないけどな。だが一つ言える事は…俺に全てを話すと言う事は、あんたが同士を裏切るって事だ。本当は俺の事だって裏切るつもりだったんじゃないのか?自分の事を棚にあげて、俺だけ咎められるのはどうかと思うぜ?」
「………」
 暫し、無言で剣を向け、睨み合う。
 だが、先に剣を下ろしたのは…ルークの方、だった。
「…まぁ、良いや。こんなところで剣を向け合うのはどうかと思う。先に吹っかけたのは俺の方だしな。取り敢えず、俺が引く。それに俺は…あんたには悪いが、ダミ様を裏切らない。前以てそう言っただろう?」
 そう言うと、ルークはバスルームへと踏み込み、アリスを濡らし続けているシャワーを止めた。
「ほら、濡れたままじゃ風邪引くぞ」
 声をかけ、バスタオルをその頭にかぶせる。
「着替えは…俺のバスローブしかないけど、取り敢えずそれ着とけ。今着てるのは朱凛に乾かして貰うから。着替えたらその籠に入れといて」
 未だ、剣先を向けたままのアリスに向けてそう声をかけると、踵を返してバスルームを出て行く。
 そして廊下を覗き、使用魔に声をかけると、ベッドの傍の明かりだけを灯してソファーへと腰を下ろし、大きく息を吐き出した。
 暫くして、ルークから用件を使わされた朱凛と蒼羽が、御茶のセットを載せたワゴンと一緒に現れる。それとほぼ同時にバスルームのドアが開き、バスローブにその身を包んだアリスが戻って来た。
「朱凛、アリスの服、乾かしといて」
「畏まりました」
 ルークに声をかけられ、朱凛は直ぐに濡れた服を入れた籠を持って部屋を出て行く。そして蒼羽も御茶の準備をすると、頭を下げて部屋を出て行った。
 再び、二名だけになった部屋の中。当然、居心地が悪いのは御互い様。
「…まぁ、座ったら?今、御茶淹れて貰ったし」
 そう声をかけると、アリスはルークの向かいに腰を下ろす。
 唇を噛み、目線を落としたままのその表情は、酷く思い詰めているようで。
「…悪かったよ。あんたを試すような事言って。でも、俺は…真実を知らなければ、ダミ様の潔白を信じられない。仲魔の潔白を、信じられない。だから…あんたに問いかけたんだ。何か知っているのなら、教えて欲しい。当然、あんたが狙われる事になったとしても、それは俺が責任を持って護るから」
「…義務感で護っていただかなくても結構です。私は…貴殿に剣を向けました。もしも貴殿が剣を持って来なかったら…私は、貴殿を殺すつもりでしたから。護っていただく道理はありません」
「アリス…」
 流石に、ルークもここまで誰かに拒まれるのは久し振りだった。そして、その事に胸の痛みを感じたと言う事は…恋愛感情とは違うかも知れないが、少なからずアリスに対して好意を持っていたのだろうと、今更ながらに感じていた。
 大きく息を吐き出したルーク。
 決して、交わる事のない想いがそこにある。それを利用したのは…裏切ったのは、果たして、どちらだったのか。
「あのさ…」
 気まずさを感じながらも、ルークは再び口を開く。
「何であんたは…俺の取引に応じた訳?俺がバスルームに行ったら殺すつもりだった訳じゃん?もし行かなかったら…どうするつもりだったの?」
 そう問いかける声に、アリスも小さく息を吐き出す。
「その時は…私の勝手な自惚れに、後悔していたでしょうね。少しでも、期待した自分が馬鹿だったと」
「…どちらにしても、あんたの想いは報われない訳じゃん?それなのにどうして話に乗ったのさ」
 再度問いかける声。まぁ、そう問いかけたくなるのは当然だろうか。
 どちらにしても…アリスの想いは報われない。そうわかっていながら、何故取引に応じたのか。その真意が知りたくて。
 そんなルークの眼差しに、アリスは視線を上げると、真っ直ぐにルークを見つめた。
「貴殿が好きだから、ですよ。報われない想いだなんて、最初からわかっているじゃないですか。貴殿こそ…どうして、あんな取引を提案したんですか?もし私があの時剣を構えていなければ…貴殿は、どうするつもりだったんです?本当に、私を抱くつもりだったんですか?」
 反対に問いかけられ、ルークは思わず口を噤む。
 そこまで言及されてしまうと…何と言って良いものやら。
 暫く考えていたルークだったが…小さな溜め息を吐き出すと、漸く口を開いた。
「耳…塞いでくれる?」
「…は?」
 思いがけない言葉に、アリスは僅かに眉を寄せる。けれど、ルークの言う通り、両手で耳を塞いだ。
「これで良いですか?」
「…まぁ…」
 耳を塞いだアリスの手前…言わない訳にはいかない。小さな咳払いをすると意を決し、声を潜めてその言葉をつぶやいた。
----あんたなら、抱けるよ。
 耳を塞いでいるので、その声はアリスには届かない。けれど、口の動きでその言葉を読む事は出来た。
「…どうして…ですか?」
 思わず、問い返した声。手を下ろし、真っ直ぐに見つめた眼差しは、困惑しているようだった。
「どうして、って…耳塞いでるクセに、何で問い返すのさ…」
 こちらも、問い返されて些か困惑しているルーク。だが、小さな咳払いを一つすると、言葉を続けた。
「あんた事は、好きだから、としか言いようがない。まぁ、恋愛感情がそこにあるか、と聞かれれば難しいところだけど…少なくとも、あんたならその気になれる…かな。でなきゃ、わざわざあんな選択肢は出さないって」
「………」
 部屋の中が余り明るくはないとは言え…アリスの頬が少し赤くなったのはわかった。
 ルークにしてみれば、仲魔に対しての"好き"の延長なのかも知れないが…それでも、仲魔に対して身体を許しても良いとは思ってはいないだろう。そう考えれば、その想いとはまた少し違うのかも知れない。
 御互いに、譲れない想いはある。けれど…そこから一歩引いてみれば、一番愛されているのかも知れない。
 大きな溜め息を一つ吐き出したアリス。
 そして、意を決したように…口を開いた。
「……安心してください。ダミアン殿下を始め…貴殿の御仲魔の上層部は…完全にシロ、ですよ」
「…は?」
 突如口を開いたアリスに、ルークは思わず声を上げる。
「聞きたかったのでしょう?シロかクロか」
 平然とした表情でそう続けたアリスに、ルークは面喰らっている。
「ちょっ…確かにそれはそうだけど……何で…」
「取引、したじゃないですか。貴殿の一晩と、私の知っている真実を。御互いの妥協点が合わなかったものですから、貴殿の全てを…と言う訳にはいきませんでしたが、こうして貴殿の貴重な時間と本音を頂きましたから…私も、御話します」
「……アリス…」
 困惑した表情のままのルークに、アリスは再び小さく息を吐き出す。
「申し訳ありませんが…私は、全てを知っている訳ではありません。ですが…私の知っている範囲でなら、御話します。貴殿が知りたがっている…"魔界防衛軍"と"特別警備隊"の話を」
 そう前置きすると、アリスは再びルークへと真っ直ぐにその眼差しを向けた。
「貴殿が一番心配されていたダミアン殿下は、"魔界防衛軍"とは何の関わりもありません。あの方は、何も知らないはずです。そこに誰がいて…誰が、主犯なのか」
「…ホントに…ダミ様は関係ないんだな…?」
 アリスの言葉に表情を引き締め、問い返す。
「えぇ。少なくとも、私は…そう伺っています」
 小さく頷いたアリスに、ルークは大きく息を吐き出した。
「…そっか…わかった…」
 恐らくそれは、安堵の吐息。けれど、話はそこで終わりではないはず。そう思い、再びその表情を引き締めてアリスへと視線を向ける。
「…で?あんたはそれを誰から聞いた…?」
 アリスの姿を観察するかのように、真っ直ぐに黒曜石の眼差しを向ける。それは任務中の姿と同じだった。
「…ジュリアン主任から、聞きました」
「…ジュリアンから…って事は、ジュリアンもあんたも、"魔界防衛軍"と繋がっている、って事だよな…?」
 そう問いかける声に、アリスは目を伏せる。そして暫しの沈黙の後…小さく頷いた。
「…先ほど、貴殿が仰った通り…ロイドの居場所をジュリアン主任に伝えたのは私です。ただ私は、末端にしか過ぎません。"魔界防衛軍"に何名いて、それが誰なのかはわからないのです。ジュリアン主任が、どの名前で、何処の部署に登録されているのか…そして、"魔界防衛軍"でどの辺りの地位にいるのか…それすらも知らないのです」
 重い溜め息が零れる。それは、双方から。
「…で?因みに、あんたは何処の部署に、何の名前で登録されている訳…?」
 色々頭を巡る中、それを問いかけるルーク。
 アリスの言葉を信じるべきか、疑うべきか…まだ、その判断はつかない。だが、別名で登録されていると言う事が事実であれば、信憑性は増すはず。
「私は…"エリカ"です。総務の末端辺りにいるはずです。登録されている以上、基本はそちらに…多少、姿は変えていますが…」
「どっちが本名?まさか、両方違うとか…?」
「本名はアリスの方です。レイティスもそう呼んでいたはずですが…」
「…あぁ、そうか…」
 頭が回らない。それが、今のルークだった。
「…いつ、"魔界防衛軍"に…?」
 そう問いかけながら、記憶を辿る。
 ルークが初めてアリスと出逢った時…まぁ、アリスはそれ以前からルークを知っていたようだったが…今とは別の姿であり、ジュリアン自身もアリスを疑っていたはず。その時点では、アリスは"魔界防衛軍"とは関わりがなかったのだろうか。
 ルークの表情で、アリスもその辺りの事を思い出しているのだろう。小さく吐息を吐き出し、目を伏せる。
「声をかけられたのは…貴殿ときちんと出逢って、この姿になってから、です。仮面師と言う事を知って、利用しようと思ったのかも知れません。その頃はまだ"魔界防衛軍"としての動きも殆どありませんでしたから…私も、貴殿の敵となるとは思ってもいませんでした。ただ純粋に、魔界を護るべき役割だと思っていましたから…」
「…そう…じゃあ、ウイルスが広まった時には、あんたはもう"魔界防衛軍"にいたんだよな。だったら、誰がダミ様の傍でウイルスをばら撒いたか知ってるんだろう?やっぱり…ジュリアン、なのか…?」
 普通に考えれば、ジュリアンが"魔界防衛軍"の残党であるのなら…隠密使として、ダミアンの傍近くにいるジュリアンが一番疑わしい訳で。裏切り者はアリスではなく、ジュリアンだったのだろうか。
 だが、その言葉にはアリスは首を横に振った。
「ウイルスに関しては、ジュリアン主任は無関係です。第一あの方は、"青の種族"ですから…もしもジュリアン主任がウイルスに関わっているのだとしたら、ダミアン殿下よりも先に発症していたはずです。あの時、ジュリアン主任もウイルスに侵されましたが…発症は、ダミアン殿下よりも遅かったはずです。ですから、多分…可能性があるとすれば…"オズウェル"だと思われます…」
「…"オズウェル"、ねぇ…」
 再び、その名前が甦って来る。やはり…"オズウェル"と言う名の悪魔は、何処かに存在しているのだ。
「因みにさぁ…"オズウェル"が何者なのか……は、知らないよな…?」
 念の為問いかけてみたが…やはり、アリスは首を横に振った。
「申し訳ありません。それはわかりません。ただ…我々と同じように、別名で枢密院の何処かに所属している事は間違いないと思います」
「そう、か…」
 ルークは大きく息を吐き出すと、腕を組んでソファーへと深く凭れかかった。
 多少は踏み込めたものの…肝心の黒幕に関しては、相変わらず闇の中。けれど…上層部がシロである事と、ジュリアンがその一角にいる、と言う事がわかっただけでも少しは前に進めたのだろうか。
「…でさぁ…ジュリアンは…何で、"魔界防衛軍"に…?昔から、ダミ様の隠密使として傍にいた訳でしょ?一体いつから…そして、何の為に…?ダミ様を陥れて、魔界を征服する手助けをする意味は…?」
「所属した時期と理由はわかりません。私が"魔界防衛軍"に入る前の話ですから。ただ…様子を見る限り、ジュリアン主任は…ダミアン殿下に対して、何かしようと言う気はないように思えます。寧ろ…"魔界防衛軍"がダミアン殿下に害を及ぼさないように、自らがストッパーになっているのではないかと…」
「…ダミ様を護る為に、"魔界防衛軍"に所属しているとでも?俺たちがどれだけ苦汁を飲まされたか知っているのに?」
「あくまでもそれは貴殿たちの話であって、ダミアン殿下に直接関わる事ではなかったから、です。直接的に被害を受けたのは、ウイルスの件だけのはずです。あの時は…目に見えないウイルスが相手でしたから…手出しが出来なかったのだと思われます」
「まぁ…確かにそうだけど…」
 イマイチ、腑に落ちない。そんな表情で眉を寄せるルーク。
 ジュリアンに関しては…未だに、その想いが掴めない。幾ら、ダミアンの好みではないとは言え、自分と良く似た容姿。そして、誰よりも傍にいるはずの存在。ダミアンに忠実であるはずの彼が…どうして、"魔界防衛軍"にいるのか。
 アリスの言う通り、純粋にダミアンを護る為なのかも知れない。必要なのはダミアンの生命そのものであって、その周りにいる上層部に被害が出ようが、それは関係ないのだろう。彼等がどんな攻撃を受けようと、手を出す事もない。だからこそ、今まで尻尾を見せなかったのかも知れない。
 勿論、ダミアンの身が安全であるのなら、それに越した事はないが…それでも、何を考えているのかわからない以上、それが隠れ蓑であるとも考えられる訳で。
 そして何より…アリスの話を、何処まで信じて良いものか。それが、一番引っかかるところでもあった。
 大きな溜め息を吐き出したルーク。眉間に寄せた皺は、未だ消える事はない。
 ルークはソファーから立ち上がると、蒼羽が運んで来たワゴンへと歩み寄る。そして、そこに置かれていた酒の瓶を手に取り、二つのグラスに中身を注いだ。
 両手にグラスを持ち、ソファーへと戻って来ると、その一つをアリスの前へと置く。
 アリスは目線を伏せたまま、その手元をじっと見つめている。その姿を暫し眺めていると、ふとアリスが口を開いた。
「…幻滅、でしょう?」
「…はい?」
 アリスの言っている意味が良くわからず、思わず首を傾げる。するとアリスは、僅かにその視線を上げた。
「私は…同士を裏切って、貴殿を選んだのですから。貴殿の大嫌いな裏切り者、ですよ?それとも、幻滅するほどの思いはありませんでしたか…?」
「…あぁ、そう言う事か…」
 アリスの言葉の意味を理解すると、くすっと笑ってソファーへと深く背を凭れる。
「まぁ…好きか嫌いか、で聞かれたら、嫌いだけどね。でも…まぁ、昔受けた裏切りに比べたらずっとマシだよ」
「昔…と言うと、天界にいた頃…ですか?」
 問いかける声に、ルークは小さく頷いた。
「そ。思い出したくない記憶ってのは、色々あった訳だよ。まぁ、今にして思えば…それなりの理由はあったのかも知れない。でも、子供の心に刻み込まれたその記憶ってのは、多分一生消えない。だからこそ…それを救ってくれたダミ様に…俺は、一生着いて行くつもりでいる。そう、決めたんだ」
 そう。初めてダミアンに出逢った時…それは、ルークが心の刻み込んだ想い。だからこそ、今でもその想いは絶対なのだ。
「仲魔たちに関してもそう。俺は、疑うのが嫌い。だけど、そうしなければ信じられないのなら…そんな想いで、嫌疑をかけたけど…やっぱり、すっきりしなかった。だから、って訳じゃないけど…あんたが、シロだって言ったから…それを、信じようと思う。勿論、あんたの言葉も信じるよ」
「…ルーク参謀…」
 そんな想いを見せ付けられたら…断ち切れないほどの絆を見せられたら、アリスには、成す術もない。
「…それだけ深い想いが御有りなら…きっとそれが、貴殿の力になります。その力で、殿下を…御守りください」
 そう言ったアリスの顔は、何処か寂しげで。
 アリスが背負った、謀反魔の械は…そう簡単に外せるものではない。それは、ロイドの件でも明らかだった。
 そんな想いに、ルークは思わずそのままソファーから立ち上がると、アリスを抱き寄せる。
「…ルーク参謀…?」
 くすっと、笑いが零れた。そして、その色薄の碧の瞳を覗き込む。
 怪訝そうな色を見せたその眼差しに微笑みを返し、ルークはその耳元にそっと頬を寄せた。
「…夜はまだ明けないから。一晩の約束だろう?」
「…でも…」
 困惑した表情を浮かべるアリスに、ルークは小さく囁く。
「俺たちだけの秘密、ね」
 くすっと、ルークが笑う。その笑顔も声も、とても背徳的で…背筋がゾクッとするほど、酷く魅力的だった。
 寄せられた頬が重なる。
 零れる甘い吐息は、一夜限りの幻のようだった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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