聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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風花 3
まだ、夜は明けない。
しんと静まり返った空気の中、微かな足音と共に道を進むその姿。だが、その前に現れたもう一つの姿に、足を止める。
「もう…やめませんか?」
そう口を開き、真っ直ぐに見据えた眼差しは、色の薄い碧。
「情に溺れたヤツが何を言い出すかと思えば」
まるで嘲笑うかのような言葉。そして伸ばされた指先が、その首筋へと触れる。
既に熱は引いている。けれど、何処か気まずいその雰囲気に、碧の眼差しが伏せられる。
「任務とは言え、想い悪魔に抱かれて満足だろう?想い残す事はないんじゃないか?」
「…馬鹿な事を。あの方は、そんな事しませんよ。わかってらっしゃるでしょう…?」
触れられた手を振り払うと、言葉と共に小さな溜め息を零す。
「どうだか。ならば、何時間も二名で部屋に篭って何をしていた?」
嘲笑を込めた声でそう問いかけられ、再び溜め息が零れる。
「…話をしていただけです。内容までは報告する義務はないはずです。私の任務は…"彼"の警戒を解く事。方法は、私に任されていたはずですから」
「まぁ、な」
小さく笑いが零れる。その笑いは…正直、先ほどまで見ていた相手の笑いとは正反対。不快さを感じる事この上ない。
先ほどまでの事は、二名だけの密約。そう言い交わした。決して、あの部屋の中で起こった事は誰にも口にしないと。そうしなければ…取引は、成立しないのだから。
小さく息を吐き出し、再び顔を上げる。
「…これから、どうなさるおつもりで?本気で、"彼"を取り込むつもりなのですか…?」
最初に聞いていた話は、そう言う事だったはず。
この国を支配する為には、現在政権を担っている皇太子を手に入れる必要がある。その為に、皇太子が誰よりも大事にしている"彼"を、引き込む。それが、"彼等"の現在の目的だったはず。
その為に、"彼"に近付いて…警戒を解き、誘い込む。それが、"彼女"に与えられた任務だった。
ただ…"彼女"にとってそれは、ただの任務ではない。寧ろ、任務を利用して"彼"に近付くきっかけにしたかっただけで。
「"彼"は…以前にも増して、警戒していますよ。"魔界防衛軍"の事も…"特別警備隊"の事も。"彼"は一名ではありません。その真意を探れるだけの"頭脳"は、"彼"の周りにいます。それも、一名ではなく、複数名。それぞれが仮説を持ち、我々が思っていたよりもずっと状況を把握しています。安易に懐に入れる状況ではありません。手を引く事が…最善だと思いますが」
その報告に、笑いが零れる。
「手を引けだと?御前は、わたしを誰だと思っているんだ?自分の立場を良く考える事だな」
「…貴殿が、手を引くつもりがないと言うのなら…私は手を引きます。このまま、部隊を抜けさせていただきます。そして"彼"に全てを打ち明け、私は…"彼等側"に着きます」
真っ直ぐに向けられたその眼差しは決してぶれる事はなく、それが"彼女"の精一杯の抵抗なのだと言う事はわかった。
「御前の戯言など、信用して貰えると思っているのか?幾ら頑張ったところで、御前は既に"奴"が尤も嫌う"裏切り者"だ。我々にとっても…な」
その言葉と共に、その胸に突きつけられた剣先。その冷たい輝きに、僅かに息を飲む。
「御前一名失ったところで、痛くも痒くもない。御前など、ただの捨て駒だ」
「…捨て駒…ですか」
その言葉は、予測の範疇にあった。だからこそ…寧ろ、冷静さを取り戻した。
小さく息を吐き出すと、徐ろに腕を上げる。その手にしっかりと握り締めた剣が、相手へと向けられていた。
「捨て駒には、捨て駒の意地があります。私は、ロイドとは違う。貴方が私を殺す間に、私も貴方にこの剣を突き立てる事が出来ます。例え、生命を奪うだけの致命傷を与えられなくても…何処かに僅かにでも貴方の血が滴り落ちれば、"彼"は必ず、貴方を見つけ出しますよ」
その言葉に、相手はにやりと笑いを零した。
「成程な。まぁ、ただの研究者だったロイドとは確かに違うな。"奴等"と敵対する"魔界防衛軍"でありながら、"奴等"の前に平然と姿を見せ、恰も協力者であるかのような立ち振る舞いを見せた御前には、それだけの度胸がある。それは認めよう。ならば…わたしにも考えがある」
「…考え…?」
怪訝そうに眉を寄せる姿。そこにほんの一瞬、隙が出来た。
「こう言う事だ!」
相手は手に持っていた剣を、勢い良く横へと薙ぎ払った。その先にあったのは…"彼女"が剣を握っていた"腕"。
「…っ!!」
"彼女"には、一瞬何が起こったのかわからなかった。けれど、どさっと落ちた音に視線を向けると…地面には先ほどまで握っていた剣と、肘から先の"彼女の腕"が見えた。そして、その上に流れ落ちる、深紅の血。
「…ぁ……」
痛みは…まだ、感じない。けれど、自分の身体から切り離されたその"腕"が…とても、奇妙な感覚で。そして次の瞬間、背筋を這う悪寒と、血の気が引いていく感覚。
「…何…で…」
思わず零れた言葉に、相手は声を上げて笑った。
「見せしめ、に決まっているだろう?"奴等"はこれを見つけてどう思うだろうな?まぁ、わたしの知った事ではないがな。取り敢えず、暫く身を隠すとしようか」
そう言うと、"彼女"の身体に魔力を叩き込む。その衝撃で意識を手放した"彼女"を担ぎ上げると、その姿を消した。
そこに残されたのは…血溜まりの中の、剣と片腕。
それは…最悪の結末、だった。
その知らせは、突然だった。
自分の執務室で、いつも通り職務に向かっていたルークの元へとやって来たのは、いつになく鋭い気を纏ったエースだった。
「…どしたの?そんな怖い顔して…」
明らかに、いつもとは違う。そう思いつつ、ルークはエースへと問いかける。するとエースは、一つ大きな息を吐き出す。そして、その口を開いた。
「一緒に…来て貰おうか」
「…は?何処に?」
全く状況がわからずにきょとんとするルークに業を煮やしたエースは、徐ろにルークの腕を掴むと強引に椅子から引き離し、ドアへと足を向ける。
「ちょっとエース!何なのさ…っ!?」
声を上げたところで、エースの足は止まらない。無言のまま、結局引き摺られるようにエースの執務室まで同行する事となった。
エースの執務室へと連れて来られたルークは、そのままソファーへと座らされ、その背後にはまるで見張りのように副官のリエラが立っている。
「…何なのさ、一体…」
状況が全くわからないままなので、流石のルークも憮然とした表情。けれど、前に座ったエースもまた、同じ表情を浮かべていた。
「…今朝早く、ウチの局に連絡があった。正体不明の"腕"が落ちてるから回収しろ、とな」
「…"腕"…?」
怪訝そうに眉を寄せたルーク。当然、何の話なのかはまだ理解出来ていない。
「その"腕"と俺と、何の関係があるって言う訳さ。こんな強引に連れて来られてされる話な訳?」
そう反論してみたものの、エースは相変わらず表情を変えない。
「伝えられた通りの場所に、その"腕"は確かにあった。血溜まりの中に、一振りの剣と一緒にな。当然名前が書いてある訳でないし、手の感じからして女性だと言う事はわかったが、誰なのかと言う事まではわかっていない。だが…その手首にな、ブレスレッドが着いていた。まぁ、そこから当魔を見つけ出すと言うのは、普通は至難の業だが…」
そう言うと、エースは一旦席を離れ…そして、箱に入った"それ"を持って来ると、ルークの前へと置いた。
「…これは…」
目を向けたルークは、思わず息を飲む。
「見覚え、あるだろう?ない訳ないよな?このブレスレッドは…御前のだ。そうだろう?ルーク」
「………」
エースの言葉に、鼓動が早くなるのを感じた。
「このブレスレッドが、御前の手首についていたのを、俺は覚えている。確か…ダミアン様からのプレゼント、だったよな?」
その言葉を…何処で聞いていたのだろう。そう思えるほど、ルークの意識はそこにはなかった。
「…俺の……所為、だ」
小さくつぶやいた声。それを、エースが聞き逃すはずもない。
「どう言う事だ?説明しろ」
「………」
「ルーク!」
苛立ち、声を上げたエース。だが、ルークはぎゅっと固く目を瞑る。
血がこびりついていたが、見間違えるはずなどない。そのブレスレッドは、確かにルークがダミアンから貰ったもの。そして…それを預けた相手が…その"腕"の、持ち主なのだ、と。
上手く、息が出来ない。鼓動が酷く早くて…胸が、苦しい。
「…ルーク様…っ!!」
悲鳴のような、リエラの声。それも、酷く遠くから聞こえるような気がする。
そう思っているうちに…その意識は、ぷっつりと途絶えてしまった。
深い口付けを交わした後…ぐっと胸を押され、強引にその身体を引き離される。
「…これ以上は、やめましょう。後悔する事になりますよ…?私は殿下ではありませんから…」
くすっと、小さく笑う声。その声に、ふっと我に返る。
「…それもそうだ」
思わず、笑いを零す。
だが、これから先の事を考えると…いつまでも呑気に笑っていられる訳ではない。そんな意識がふと過ぎると、必然的にその顔から笑いは消えていた。
「…それはそうと、これから先はどうするつもり?このまま黙って、"魔界防衛軍"に戻るの?」
問いかけた声に、相手の顔もすっと引き締まる。
「…この部屋での事は、どちらかが口を割らない限りは外には洩れないとは思いますが…私がいつまでも信用されていると言う確証は何処にもありません。ですから…先の保障は何も…ただ、何か私に探れる事があるのなら、もう少し身を置いても良いかも知れないとは思います。"彼等"の事は…私も正直、良くわからないので…」
「…そう、か…」
その言葉の重みに、小さく溜め息を吐き出す。
裏切り者は、殺される。それは、ロイドを見ていればわかった事。用済みになれば、本魔の意思など関係なく、あっさり切られるのだろう。
暫く何かを考えていたようだったが、やがて動いたその手は、自分の手首に填めていたブレスレッドを外すと、相手の手首へと填めた。
「…これは…?」
思わず首を傾げた姿。けれど、その手を掴んだまま、ブレスレッドにそっと口付けた。
そして。
「御守り、ね」
「…御守り…?」
「そ。これは、俺がダミ様から貰ったものだから。何処へ行っても必ず取り返しに行くから。だから…何かあったら、必ず呼んで。あんたは護られるのを拒んだけど、あんたを護るんじゃない。"これ"を、取り戻しに行くの。傷付けられたら困るしね。だから、絶対遠慮しないで」
「………」
一瞬、唖然とした顔。けれど直ぐに、くすっと笑った。
「本当に…貴殿らしい」
「でしょ?」
くすくすと笑い合う。
それは、束の間の安息。
その笑顔を守る為には…
すっと、表情を引き締め…そして、真っ直ぐに眼差しを向けた。
「…一つ…黙っていた事があります」
「黙っていた事…?」
問いかけた声に、小さな頷きが返って来る。
「現在の"魔界防衛軍"の目的は…貴殿を取り込む事、です」
「……どう言う事…?」
思いがけない言葉に、息を飲む。
「勿論、根本は魔界を…そして、他の世界も全て、支配する事です。けれど、その為にはまず…ダミアン殿下を掌中に入れる事。ですが、彼の君はそう簡単には落ちません。その為に、貴殿を取り込もうと考えたようです」
「…成程ね…だから、俺の周りに裏切り者がいる、って言う事だったのか…」
そう言われれば、辻褄は合う。自分の元へ、謎の影が住み着いた理由も。そして、アリスが近付いてきた理由も。
「だから、シェリーは俺のところに来た訳か…別に、デーさんでもエースでも構わないんじゃないかとは思っていたんだけど…そっか、俺が狙われていたんだ。でもまぁ、それがわかれば警戒すれば良いだけの話だからね。問題はない。まぁ、それはともかく…何で、それを打ち明ける気になった訳?俺を取り込む事が目的だって事は…そこに現れたあんたが、今はその主犯としか考えられないんだけど?」
ふと過ぎったその疑問をぶつけると、アリスは小さく息を吐き出した。
「…貴殿が…私を信頼してくれたから、としか言い様がありません。確かに、私は貴殿の警戒を解く役目を与えられました。だからこそ、こうして度々貴殿の前に顔を見せていました。ですが…それはあくまでも与えられた任務であって、私の本心ではありません。私はただ…貴殿の近くにいたかっただけ、です。貴殿を好きになったのは、"魔界防衛軍"に入る前ですから…私も、利用されていたとしか言えません。勿論、私もその任務を利用して貴殿に近付いた。それが正しいのですから、裏切り者と思われても無理はありません。私は、知っている事は全て話しました。後は、貴殿がそれを信用して下さるかどうか、ですが…」
重いその言葉に、ルークは暫し考えを巡らせる。だが、やがて小さく笑いを零した。
「そっか、わかった。裏切り者云々は、まだ微妙なところだけど…俺はあんたを信じるって言ったしね。あんたが俺に向けてくれた気持ちが真実なら、今更そんな事で嘘は付かないだろうしね。まぁ、あんまり理解されないけど俺の持論、ね」
そう言った声に、小さな吐息が零れた。
「流石、総参謀長殿ですね。度胸が据わってらっしゃる」
「まぁ、それくらいはね。色んな状況も見て来てるし、それなりに真実を見抜く力はあると思ってる。それに一応、場数も踏んでるからね。俺が狙われてるって話だったら、自分が気をつければ良いんだもん。一番簡単じゃん」
軍事参謀として、色々な状況を見て来た。そして、魔界に降りてから今まで、色々な想いをぶつけられて来た。
その中で見つけたのは、誰かを疑うよりも、信じる事の方が難しいと言う事。そして、信じた相手が傷を負う事が、一番辛いのだと言う事。
ルークにとって、身内とも思える仲魔や部下たちの誰かが傷付く可能性と、自分一名が狙われていると言う状況を考えれば、自分の身を護るだけの方が何よりも簡単であり、その方が心の負担が少ない。それは、ある意味心に大きな傷を負った経験のあるルークだからこそ、見つけた答えだった。
そんな姿に、ふっと笑みが零れる。
自分の身よりも、周りを護りたい。昔から変わらないその想いを貫いて来たからこそ…今の彼があるのだと。そして、そんな強い意志を持っているからこそ…心を、奪われたのだと。
「私は…貴殿を尊敬します。貴殿に出逢えて本当に良かった。この先どうなろうとも…後悔は、何もありません」
にっこりと微笑まれ、ほんの少しの罪悪感に苛まれる。
「俺は別に、尊敬になんか値しないって。そう言う想いは、ダミ様に向けてよ」
「…そう、ですね」
再び、微笑みを零す。
「では、私はそろそろ戻ります。余り長居をすると、あらぬ誤解を生みますので…」
そう言葉を放つと、その手をそっと差し出した。
「貴殿に…御加護がありますように」
「有難う」
にっこりと微笑み、差し出されたその手を握る。
多分…今、この手を離したら…もう、自分の前には現れないだろう。そんな気がする。
それでも…それが、彼女が選んだ運命であるのなら。それに、従うしかない。
「あんたも…無駄死にだけは、するなよ」
最後に、そう言葉をかける。その言葉に微笑みが返り…そして、その姿が、部屋を出て行った。
その背中を見送り…小さな溜め息を一つ。
安全の保証など、何処にもない。けれど、わかっていながら見送る胸の痛みは…幾度繰り返しても、慣れるものではなかった。
「…必ず…生き延びろよ」
それが、今送れる言葉の全てだった。
夢を、見ていたのだろうか。
ぼんやりとした意識の中で、最後見た笑顔が甦る。
どうして…そのまま帰してしまったのだろうか。
どうして…"彼女"を護る事が出来なかったのか。
胸が痛くて…つと、涙が零れた。
と、その時。
「…ルーク、大丈夫…?」
遠慮がちに問いかけた声に、目蓋を開ける。涙で曇ったその視線の先には…心配そうな表情を浮かべる仲魔がいた。
「…ゼノン?ここは…?」
腕を動かし、涙を拭う。
「情報局の医務室。御前が倒れた、ってエースから呼び出されてね。一応、他者払いはしてあるから、ここには俺と御前だけだから心配しないで。まぁ…エースは、ドアの向こうで待機してるけどね」
そう言いながら、小さな溜め息を吐き出す。
「何があったのかは…エースから簡単には聞いてるよ。"腕"が誰なのか…どうして、御前のブレスレッドをつけていたのか。その辺がわからないから、どうにも足踏み状態らしいよ」
そう言葉を放つゼノンの眼差しは、とても心配そうで。
「エースもね、結構心配はしてるんだ。でも、状況が状況だからね。御前からちゃんと話を聞かないと、先に進まないって。俺としては…あんまり、御前の心を追い詰めるような事はしなくはないんだけど…」
「そう…か」
大きな溜め息を吐き出し、ゆっくりと身体を起こしたルーク。
「取り敢えず…大丈夫だから、エース呼んで」
「…ホントに大丈夫…?」
念の為、もう一度問いかけたゼノンの声に頷く姿に、小さな溜め息と共にドアへと向かう。そしてそのドアを開け、廊下へと顔を出す。
何か話をしている小さな声を聞きながら…その背中を見つめる。
医師として…仲魔として。その背中の大きさが、とても有難いと思う。
そして、廊下にいる仲魔もまた、責任を果たす為に問う事は必要なのだとわかっている。だからこそ、きちんと向き合わなければ。
小さな吐息を吐き出した時、廊下にいたエースを伴って戻って来たゼノン。
「御免ね、心配かけて」
エースの顔を見た直後に、そう口を開いたルーク。
ゼノンに釘を刺されたのだろう。その言葉に、ほんの少し、その顔が気まずそうに歪んだ。
「…大丈夫なのか?」
問いかけた声に、ルークは小さく頷く。
「うん。さっきは、突然だったから驚いたけど…もう大丈夫だから」
大きく息を吐き出したルークに、エースも小さな吐息を吐き出す。そして、ベッド横の椅子に腰を下ろすと、改めて口を開いた。
「色々…聞かなきゃいけないんだが…」
「うん…」
どちらとも、何となく気まずい。そんな空気を察して、ゼノンが一つ息を吐く。
「まず…あの"腕"の持ち主は誰なのか、知っているのなら教えてくれる?それが先決でしょ?」
「あぁ…そうだな」
ゼノンの意に同意したエース。その言葉に、ルークは暫し、唇を噛んで視線を落とす。
そして、大きく息を吐くと、漸く顔を上げた。
「本物を見てはいないから、何とも言えないけど…多分、見つかった"腕"は…アリスだと思う」
「アリス!?どうしてアリスが、御前のブレスレッドを…?」
当然、エースもゼノンも息を飲む。
「まぁ、話せば長いんだけど…」
そう言いながら、ルークは何処まで話せるか、瞬時に内容を選別する。当然、アリスとの密約は話す訳にはいかないので、話しても問題ない部分だけ…"魔界防衛軍"と"特別警備隊"の関係をざっと話した。
大事なブレスレッドを託した理由も。
「…そうか…」
思いがけない展開に、エースは当然眉を寄せている。そして隣で聞いていたゼノンは、半ば想像していたとは言え、重い現実に溜め息を零していた。
「つまり…アリスは、"魔界防衛軍"に反旗を翻して、その制裁として"腕"を切られた…と?」
「多分、ね」
問いかけたエースの言葉に、ルークは頷きを返す。
「ただ、アリスはもう少し"魔界防衛軍"に関して探りを入れたいって言ってたから…どう言う話の流れでそうなったのかはわからない。向こうがどう言うつもりで"腕"を切ったのか…正確な意図もわからない。本当に謀反魔として認識されたのであれば、生命を奪われていない事の方が不思議だもの。アリス自身は、自分は"魔界防衛軍"の末端で、詳しい事は何もわからないって言ってたから尚更」
そう言葉を続けたルークに、エースは眉根を寄せたまま腕を組む。
「でもそれは、アリスの話だろう?何処まで本当の事を話しているかはわからない。御前には悪いが…幾ら御前に好意を寄せていたって言ったって、それだって何処まで本気だったのか。もしかしたら、全てが偽りだったかも知れないだろう?そればっかりは、アリス自身にしかわからない事じゃないか」
「…それはそうだけど…」
エースの言わんとしている意味はわかっている。ただ…ルークにしてみれば、アリスの事を信じるしかないのだ。
「俺は、アリスを信じるよ。恋愛感情は抜きにして、彼女の目は…本気だったよ」
そう。自分に剣を向けたあの顔も…自分に全てを打ち明けてくれた時の眼差しも。だからこそ…きっと、何らかの抵抗をした結果が、あの"腕"だったのだろう、と。
ルークの表情で、自分たちが聞いていない話がまだあるのだろうと…エースも、ゼノンも察していた。けれど、ルークがそれを口にしないと言う事は、それは言えない事なのだろうと言う事も感じていた。
そうでなければ…大事なブレスレッドを、そう簡単に託すはずはない、と。
「…取り敢えず、今日はこれくらいにしても良いかな?まだあんまり無茶はさせたくないから…」
そう口を開いたゼノン。
するとエースは、素直にその言葉に従った。
座っていた椅子から立ち上がると、すっと踵を返す。
「また明日、話を聞かせてくれ。もう少し聞きたい事がある」
「…わかった」
ルークの返事を聞くと、エースはそのまま医務室を出て行った。
その背中を見送り…ゼノンは、大きな溜め息を吐き出す。
「屋敷まで、送って行くよ。今日はもう仕事にならないでしょう?」
その言葉に、ルークは時計へと目を向ける。時刻はまだ昼を過ぎたばかり。執務時間はまだ後数時間はあるはずだった。
「…そんなに心配しなくても大丈夫だけど?」
いつになく心配そうなその表情に、ルークは苦笑を零す。けれど、ゼノンの眼差しは真っ直ぐにルークを見つめたまま。
「御願いだから、今日は屋敷に戻って。アリスが狙われたって言う事は、任務に失敗した事が相手にも知られている、って言う事だよ?一名にはしておけないから」
「…そう、か…」
確かに、ゼノンの言う通り。密約がばれているかはわからないが、アリスが寝返った事がわかったからこその制裁なのだ。その状況で、ルークに何もないと言う保障は何処にもない。
「…わかった。今日は屋敷に戻るよ」
「そうして」
表情の冴えないゼノン。そして、こちらも表情の晴れないルーク。
大きな溜め息は…御互いに零したものだった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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