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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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骸 3
こちらは、以前のHPで2002年6月22日にUPしたものです
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(基本DxAですが、色々複雑です…スミマセン…/苦笑)
3話完結 act.3

拍手[3回]


◇◆◇

 どれくらいの時間が経ったのだろう。だがそれすらも、もうどうでも良いことだったが。
 頭を巡るのは、青い夢。その色は、次第に薄くなる。でも…それでも魘されるのは、何故だろう。
 悩むことすら気怠くて。
 解放されたい。その総てから。

◇◆◇

 感じ慣れた気が、近付いて来る。
「エースっ!」
 慌しく飛び込んで来た姿に、エースは視線を向ける。
「…ライデン…」
 驚きの表情は…ない。全てわかっていたかのように平生なエース。
 ライデンはエースに駆け寄り、その身体を抱き締める。
「…エース……」
 されるがまま身を任せたエースの耳許で、零れたライデンの声。
 もう直ぐ、楽にしてやるから。
 そう聞こえたのは幻聴だろうか。それとも、無意識にライデンの意識に同調していたのだろうか。何にせよ、エースがそれを感じたのは確かだったはず。
「エース…待っててね。もう直ぐ…デーさん、来るから」
 ライデンはエースの肩口に顔を埋めたまま、小さくつぶやく。その声は、震えていて。
 エースの瞳から、流れ落ちたモノ。その正体さえ、今は自身の適わぬところにあるようで。
 何故、こんなに切ないのだろう。何故、涙が出るのだろう。何故…
「…俺は…」
 言葉は、続かない。
 ドアの向こうにいるサラとディール。行き合った眼差しは声にもならない。
 苦しいのは、彼一名ではないのだ。
 悲痛な眼差しをサラが伏せたその時…彼等は、やって来た。
 それは…いつか見た、あの青い紋様を頂いた悪魔。そして、先ほど見かけたゼノンと、もう一名…見たこともない、綺麗な真白き翼を背負った、蒼き悪魔。
 様子からするに…あの青い紋様の悪魔が、エースが呼んでいた"デーモン"なのだと、サラにも理解は出来た。
 彼は…全部、聞いていたのだ。あの時の、自分とライデンの話を。そして…彼が、"あのヒト"が言っていた、"担当者"なのだと。
 彼等は、ディールとサラに向け、黙って頭を下げる。そして、エースとライデンがいる部屋へと足を向けた。
「エース…待たせたな」
 青い紋様の悪魔が、口を開く。
「…デーモ…」
 つぶやいた、エースの声。最初に二名に歩み寄ったのは、ゼノン。
「…ライ…おいで」
 そう声をかけると、ライデンはエースから離れた。そしてそのまま、ゼノンの肩口に顔を埋める。
「…大丈夫…」
 その背中を軽く叩いてやると、ライデンは小さく頷く。
 解放されたエースのその視線は、真っ直にデーモンを見つめたままで微動だにしなかった。デーモンはエースに歩み寄ると、頬の涙を手で拭ってやる。
「デーモン…俺を…殺して、くれ」
 譫言のように、小さくつぶやく声。その姿を、デーモンは目を細めて見つめていた。
 もう、後戻りはしない。そう心に決めてやって来たのだから。
「あぁ。殺してやる…御前の望み通り…」
 その声を聞いてハッと顔を上げたのは、サラとディール。
 震える手でギュッとディールの服の端を握り締めているサラの気持ちを代弁するかのように、ディールは今まで噤んでいたその口を開く。
「ちょっと待て!エースを助ける為に来たんじゃねぇのかっ!?殺すだなんて、話が違うじゃねぇかっ!!平気で仲魔を殺すような奴に、エースは渡せねぇぞ…っ!!」
 今にも殴り込みそうなディールを、ルークが慌てて制する。
「これしか方法はないんだよ!口出しはしないでくれ…っ」
 ルークの倍程もある腕のディールとでは、到底力では適うはずもない。だが力で押さえ込もうなどとは、ルークも最初から考えてはいなかった。
「悪く思うなよ」
 小さく呪文を唱え、ディールとサラを結界で囲む。これではどう足掻いても、結界の外に出ることは出来ないだろう。彼等が、ルークよりも優れていなければ。
「…嫌…嫌よ、殺さないで…エースを殺さないでっ!助けてくれるって、言ったじゃない…っ!!」
 結界の中から聞こえるサラの声。だが、今はそうすることしか出来ないのだ。
 傍観者たちに見守られ、再びデーモンは口を開いた。
「…なぁ、エース…一つだけ、答えてくれ」
「何を?」
 僅かに目を細め、エースは問う。
「御前は…吾輩をどう想う?」
 その言葉に、エースはふっと小さな笑みを零す。
「俺は御前を…愛してるよ。だから…御前が俺を殺してくれるのを待っていた。御前が俺を、愛してくれているのなら…きっと、俺を殺してくれると」
「あぁ…愛してる。誰よりも…な。だから御前を、自由にしてやる。吾輩の手で」
 デーモンの手に、ルークが持って来た錬叛刀が握られていた。その手で、錬叛刀を鞘から引き抜く。銀色の刀身は、冷たい輝きを放っていて。
 固唾を飲んで、その輝きを見つめるのは、傍観者たち。
 カタチよりも、確かだったモノ。それは誰よりも、デーモンとエースがわかっていた。
 狂い始めた歯車を止めることが出来ないのなら。修復することすら出来ないのなら、壊してしまえば良い。壊して、その動きを止めれば良い。戻れない道ならば、そのまま進めば良い。進んだ先で、けじめをつければ良い。
 全て…己が手で。
 それが、彼の下した最期の決断だった。
「エース」
 デーモンは錬叛刀を手に持ったまま、エースの身体を片手で引き寄せる。
「愛してる…エース…」
 小さくつぶやき、その唇を合わせる。エースはそれに答えるように、デーモンの背中に腕を回した。
 その光景に溜め息を漏らしたのは、誰が最初だったか。
 それは、別れの儀式。しかしその姿は、これから死を臨むモノではなかった。
 消え入りそうな程、儚く…溜め息が出る程哀しい。
「…最期だ…エース…」
 僅かに唇を浮かせ、デーモンはつぶやいた。刹那。その腕が動き、剣先は完全にエースの身体を貫いていた。
「…ぁっ…」
 小さく、声を漏らしたエース。強張るエースの背を抱き締めたデーモンの瞳から零れた、一筋の輝き。それは、皆が同時に見た幻覚だったのだろうか。
 背中に回されていたエースの腕は重力に従い、意識は途切れていた。
「嫌ぁっ!!エース…っ…エースっ…!!」
 結界の中、サラの悲鳴にも似た声が響いた。
「助けてくれるって言ったじゃないっ!!なのに、どうして殺したりしたのっ!?助けてくれるって言ったのに!どうして…」
 涙を零しながら叫ぶサラを、ディールはきつく抱き締める。
「見るんじゃない。御前は、見るな…」
 その冷静な眼差しを彼等に向けたまま、ディールは彼女の前では一介の父親を演じ続けていた。
 しかし傍観者の悲痛さとは裏腹に、デーモンの肩口にあるエースの表情は不思議と穏やかで。閉じられた瞳。閉ざされた唇。その全てが、眠っているようで。
 ぐったりとしたエースを抱え、デーモンはゼノンを振り返る。
「ゼノン、頼むっ!」
「御意」
 小さく答えたゼノンは、何かの呪文を唱え始めた。その呪文に伴い、その手は光り始める。
「良いよ、デーモン」
 その声に、デーモンは錬叛刀を一気に引き抜く。鮮血はとめどない。
 その傷口を塞ぐように、ゼノンはその輝く手をエースの傷に翳した。傷口は、何事もなかったかのように塞がっていく。
 そして傷が完全に塞がると、デーモンはエースを抱き上げてベッドの上にそっと寝かせた。
「全てを殺してしまったのではない。安心しろ」
「…どう言う、ことだ」
 サラの代わりに問い返したディールの声に、デーモンは目を伏せる。
「殺したのは、エースの魂のほんの一部だ。それさえ壊せばエース自身は助かる。勿論、今まで通り職務に戻ることも出来る」
「…殺した魂は、一体…」
「…吾輩への、想い…だ」
 その声はとても低くて。ディールが口を噤んでいると、デーモンは自らその答えともなる言葉を語り始めていた。
「元々…吾輩が傷付けたモノだ。吾輩が、エースの心を壊した。その結果、自ら、死を望んだ。吾輩が傷付けたモノなら…吾輩の手で、葬ってやるのが筋だろう?だから…殺したんだ。これ以上、エースを苦しめない為に…」
「…そんなことされて…エースは倖せだとでもっ!?あんなにも切なく、貴方を呼んでいたのに!どうして…」
 喰ってかかりそうなサラを、ディールが留めていた。しかしその感情ばかりは、どうにも出来ずに。
「それなら御前は、エースを見殺しにするのか?自ら死を望んだエースは、ホントに倖せだったと思うのか?彼奴は、己を責めることしか出来ない状態だったんだ。そんなままにしておいて、御前はそれが倖せに値するとでも、思っているのか!?」
 デーモンは、サラを見つめて問い返す。その眼差しは、誰よりも悲痛の輝きが強くて。
 それは…あの時サラが見た眼差しと同じ。
 ずっと…苦しんでいたのは…他の誰でもない。この、"デーモン"なのだ。
「どちらにしろ、あのままエースを放って置いたのなら、待っているものは死に違いない。それならば…彼奴が望む通りのことをしてやる方が、彼奴の倖せに値するだろう。それに…吾輩への想いがなくなったところで、エースのこれからに何ら影響はないんだ。他の記憶は、残っているのだから」
 デーモンは目を伏せ、そうつぶやく。これから先、辛いのは自分一悪魔で十分だと言う結論を、デーモンは出したのだろうか。それとも…
「…暫くすれば、目覚めるだろう。それまで寝かせておいてやってくれ」
 デーモンはそう言い放つと、踵を返した。だが、その時不意にルークが張った結界が壊れた。
「な…っ!?」
 訳がわからないと言う表情を浮かべたのは、ディールを除いた全員。サラでさえ、何が起こったのかわからないと言う表情を浮かべている。
 唯一平然としていたディールの回りには、今まで誰も想像もしなかった程強い魔力が漂っている。
「…差しで、話をしようか」
 振り返ったデーモンにそう言った、ディールの声。そこには、他者が割り込めない空気があった。

◇◆◇

 場所を外に変えたデーモンとディールは、近くの古い大木の下にいた。
「…何者、だ」
 問いかけたデーモンの声に、ディールは小さく笑いを零す。その顔は、今までとはまるで別魔のようで。
「ディールってんだ。ディール=オリガ。まぁ尤も、この名前はもう錆付いちまってるだろうけどな」
 しかし、その言葉とは裏腹に、デーモンは顔色を変えていた。
「ディール=オリガ…まさか、情報局の…元長官の…?」
「昔の話だ。もう黴が生えてるぜ」
 小さく笑うディールに、デーモンは息を飲んだ。
 エースが就任するずっと以前にいた、情報局の敏腕長官。それが彼のかつての姿なのだ。
「その元情報局長官が、吾輩に何の話があると…?」
 様子を伺うように尋ねた声に、ディールはその表情を引き締める。
「昔は、それこそ今回みたいな事例が数え切れない程あったモンだ。俺も、幾度か目の当りにしたこともある。ルシフェル参謀長もその一悪魔だったな」
 確かに、その通りである。ルシフェルもまた自身を追い詰め、自己崩壊してしまったのだから。
「同じような状況を、嫌と言う程見てな…糞喰らえって、何度も思ったさ。そこまでして、他悪魔を護ってどうするんだってな。だが…あんたみたいな手段を選んだ奴は、初めてだ。しかし、サラの前でエースを殺したことはやり過ぎだったな。サラはまだ子供だ。粋がって見せても、所詮は御前たちの本当の想いは、掴み切れない。だが…」
 大きく息を吐き出し、ディールはデーモンを見つめる。その眼差しは、不思議と柔らかい。
「エースは、満足だったろうな。最愛のあんたに殺されてさ」
「……」
 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。
「あんたも、思い詰めない方が良い。今度は、あんた自身がエースの二の舞になるぜ。あんたが選んだ道は、間違いじゃない」
 そう言い切ってくれたのは、ディールが初めてだったかも知れない。
 選んだ道は、間違いじゃない。その一言が、胸の隙間に染み込んでいくようで。溢れて来た想いを留めることが出来ず、デーモンは思わずその腕で自身を抱き締めた。
 とめどなく零れる涙。今までの苦しみも、哀しみも全て、彼の前に曝け出していた。
 ディールがそっと伸ばした手が、デーモンの肩に触れる。そこから感じる温もりが、とても暖かい。
「泣くだけ泣いたら、気合い入れて行くんだな。誰もあんたを責めやしない。一番辛かったのは、あんただもんな」
「…ぁっ…」
 初対面の相手に、こんなに曝け出したことはないくらい…デーモンはディールの前で涙を零していた。


 青い夢は誰の色だっただろう。消えてしまった感情は、何も語らない。
 赤い夢は、再び色を増す。消せない炎は、沈黙を守る。
 青と赤は、最早交わる術をなくした。
 今まで辿って来た道筋は、既に消えていて。今は、前に進むしかないのだ。
 その先に待っているのが…孤独だとしても。

◇◆◇

 同じ頃、デーモンが置いて行った錬叛刀を鞘に戻し、ゼノンは必死に感情を押さえているサラを優しく見つめていた。
「…君には、荒っぽいやり方だと思われたかも知れない。でも…これが一番良い手段だったってことは、きっと君の父上もわかってると思うよ」
「…父様が…?」
 怪訝そうに眉を潜めたサラ。彼女はまだ、自分の養い親の正体を知らないのだ。
「そう。エースの生命を尊重する為に、避けては通れない道だったってこと。だから…」
----デーモンを、恨まないであげて。
 小さく微笑み、ゼノンはサラの心を癒していた。
 そして、残されたルークとライデンも…潤んだ眼差しを隠すかのように、目を伏せ、大きく息を吐き出す。
「エースは…元気になるから。心配要らないよ。今まで、面倒見てくれて有難うね」
 涙を堪えたライデンは、そう言ってサラに向け、にっこりと笑ってみせる。
「…あぁ、そうだ。まだ、自己紹介してなかったな」
 重い空気を換えるかのように、ルークも大きく息を吐き出すと顔を上げ、そう言って小さく笑った。
「俺は、軍事局の総参謀長のルーク。そっちは、文化局の局長のゼノン。ライデンのことは…知ってるんだよね?で、外にいるのが、副大魔王閣下のデーモン」
「…っ」
 デーモンの関してはやっぱり、と思ったのだが、ルークとゼノンの役職を聞き、小さく息を飲む。
 状況が状況とは言え…魔界の錚々たるメンバーが、自分の家にいる、と言う事実。それは、多分この先一生有り得ないこと。当然、正体を知れば落ち着かなくなる。
「…緊張してるけど…言わない方が良かったんじゃない…?」
 思わず、そう零したゼノンの言葉に、ルークは苦笑するしかなかった。
 そうこうしているうちに、ディールが戻って来た。
「…デーさんは…?」
 問いかけたライデンの声に、ディールは平然と答える。
「あぁ、職務が残ってるからって、帰ったぜ」
「…帰った…そう」
 それじゃ…と、ゼノンが錬叛刀を手に、腰を上げる。
「デーモンのことは、俺に任せてよ。だから、ルークとライデンは、エースのこと、御願いね」
「あぁ」
 頷いたルークに軽く微笑み、ゼノンはドアに向かった。
「もう帰るの?」
 焦ってそう言葉を発したライデン。
「じゃあ、見送りに行って来る。良い?」
「あぁ、良いよ。どうせまだ、目覚めないと思うから」
 ルークの声にライデンは軽く微笑み、ゼノンと共に外へ出て行った。

 先程デーモンとディールが話をしていた場所。その大木の元に立ち、ゼノンは薄闇の中僅かに遅れてやって来たライデンを待っていた。
「ねぇ、ゼノン」
 後一歩と言うところで立ち止まったライデンは、真っ直にゼノンを見つめていた。
「何?」
 問いかける声に、ライデンは僅かにその眼差しを伏せた。
「デーさん…大丈夫かな…」
「ライ…」
「エースは…変わっちゃう訳でしょ?デーさんのこと、何とも思わないエースになっちゃうんでしょ…?自分で決断したとは言っても、やっぱり…」
----哀しいよね。
 小さくつぶやいた声に、ゼノンはその手をそっとライデンの頭の上に置いた。
「大丈夫。デーモンなら、きっと前を向けるよ。エースの全てが変わった訳じゃないよ。また、好きになるかも知れない。あの頃のエースだって、好きになった相手だもんね」
「…そう、だよね…」
 やっと、その顔が柔らかくなる。それを見届けたゼノンは、小さな笑いを零した。
「デーモンのことは心配しないで。どうせ、向こうでダミアン様も待ってるだろうし、心配いらないよ。御前とルークはエースが目覚めてから一緒に帰っておいで。待ってるよ」
「…うん。そうするよ」
「…じゃあ、ね」
 ゼノンは錬叛刀を手に、そして背中に翼を構えて飛び去った。ライデンはその姿を見送ると、再びサラの家へと戻って行った。

◇◆◇

 遠くで、話し声が聞こえる。聞き慣れた声に目を開けると、そこに待っていたのはただの闇。
「…?」
 起き上がって回りを見回すと、微かに記憶があった。
 ここは、確か…
 しかし、何故自分がここにいるのかはわからない。それを確かめるべく、声の聞こえる部屋へと続くドアを開けた。

「エースっ!」
 姿を現したエースに最初に気がついたのは、ライデン。
「どう?気分は」
 その向こうに見えるのは、ルークともう二名。
「…あぁ、悪くない」
 エースはライデンにそう答える。そしてその眼差しは、背後の二名に注がれた。
「御前たちは…確か…」
 そう、つぶやき始めたエースの唇。彼等は、それをただ見つめていた。
「…ディールと、サラ…だよな?」
 確かにつぶやいた声に、サラは頷く。
「良かった…無事に目覚めてくれて…」
 ホッとした表情のサラ。見た目は、確かに変わりない。と言うか…サラが知っているエースとは、到底中身が違うのだが…多分、これが本来の、長官としてのエースだったのだろう。
「エース、あんたに大事な話があるんだ」
 様子を見ながら、切り出したルーク。
 言ってしまうなら、早い方が良い。あれこれと状況を察する前であれば、今のエースに必要のない情報は、予めカットすることが出来るのだから。
「大事な話?」
「そう。これから言うことは、良く覚えておいてよ」
 そこで一度言葉を切り、息を吐く。
「あんたはわからないかも知れないけど、半年ちょっと、あんたは任務から遠ざかってるんだ。今は休任中ってことになってるけど」
「休任中?どう言うことだ?」
 怪訝な表情を浮かべたエース。それは当然のことだが。
「つまり、あんたはこの半年ちょっと、記憶喪失でずっとこの家に保護されていたって訳」
 そう語り始めたルークの言葉に、一同口を噤む。それをいいことに、ルークは更に言葉を続けた。
「今はゼノンの治療のおかげで、あんたは元に戻った訳だけど、あんたの中から消えてしまった記憶には戻らない部分もある。そればかりはどうしようもなかった。まぁこれからの任務には何ら支障はない訳だから、あんたが困る必要はないだろうけどね」
 嘘も方便、口から出任せとは、良く言った言葉である。
 だが、躊躇うことなく平然とそう言って退けたルークの言葉を、エースは信じたようだった。
「そうか…」
 複雑な表情を浮かべるエースではあるが、任務には支障がないと言う言葉に、僅かに安堵の色を見せていた。
「任務に関しては、リエラが凡その代理を務めてくれていたし、そんなに困ることもないはずだよ。だから、安心して戻っておいで」
 にっこりと微笑むルーク。その笑顔は、一片の疑いすら、抱かせない。
「…流石だな…総参謀長」
 くすっと笑いを零したのはディール。
「良かったら、泊まって行けや。部屋も余ってることだし…なぁサラ」
「えぇ」
 ディールとサラの申し出に、三名は顔を見合わせる。
「少しぐらいは、サラにも楽しい思いをさせてやってくれよな」
 笑いながらそう言うディールに、サラはちょっと顔を赤くする。
「…確かにね。お世話にもなったんだから、良い思い出も残していかないと。ね、エース?」
 様子を伺うように、ルークはつぶやく。
「…あぁ…」
 状況をイマイチ理解出来ていないエースではあるが、半年もお世話になったことが明らかな以上、変にこのまま帰ってしまうことも出来ず。
「じゃあ、エースの復帰を祝って、宴会!」
 思わずそう言ったライデンの声に、笑い声が返って来る。
 穏やかに。そして、実に平和に。その夜は、過ぎて行った。

◇◆◇

 戻れない場所がある。
 もう自分に対して、微笑んではくれないだろう。彼はなくしてしまったのだから。自分に対する愛と言う感情を。

 執務室の椅子に凭れ、机の真後ろにある窓から暗闇を見つめたまま、デーモンは大きな溜め息を吐いた。
 その表情は、まだ優れない。
「…踏ん切りは、まだ付かないかい?」
「…っ!?」
 突然、声をかけられてドキッとしたデーモンは、背後を振り返る。
「…ダミ様…それに、ゼノンも…」
 揃ってそこに立つ二名に、デーモンは苦笑する。
「そんなに、心配しなくても…」
 デーモンのその声に、ダミアンは小さく微笑んだ。
「先ほど、ルークから連絡があったよ。エースは無事に、目を覚ましたそうだ。直ぐに、職務にも戻るだろう」
「…そう、ですか…」
「ご苦労様。今日は、御前の労を労おうと思ってね。たまには、こんなメンバーで呑むのも良いだろう?」
「…ダミ様…」
 その、心遣いがとても嬉しい。
 そして、もう一名…微笑んで立つ仲魔も。
「…向こうは大丈夫なのか?」
 ゼノンに向けて問いかけた声に、ゼノンはくすっと笑う。
「大丈夫だと思うよ。ライデンもルークもいるしね。それに、俺はこれを持ち帰って来ないと。エースに、見せる訳には行かないでしょう?」
 軽く微笑んだゼノンの手には、あの時の錬叛刀。
「彼と…ディール元長官と、何話してたの?」
 不意に問いかけられ、一瞬デーモンの表情が変わる。
「…知ってたのか?あの男の正体…」
「…まぁ、ね。一応、書物庫の本は読破したから。あれだけ有名な悪魔だったんだもの。まぁ、俺たちは直接顔を合わせたことがなかったけどね」
 昔は、有名な悪魔だったんだよ。
 くすくすと笑いながら、今の姿を思い浮かべてしまう。
「そうか、ディール長官のところだったのか。わたしも、子供の頃に見かけたくらいだが…まぁ、それなら心配いらないね。彼奴等のことが洩れる事もない」
 思いがけない名前を聞いたダミアンも、くすくすと笑いを零す。
「さぁ、今日は気晴らしだよ」
「…そうだ。吾輩の家に、良いのがあるんだ」
「御相伴に預かるよ」
 くすくすと笑いを零すダミアンとゼノン。その笑顔に、デーモンも微笑みを浮かべていた。
 その心とは、裏腹に。
 多分ダミアンもゼノンも、デーモンが気落ちしているだろうと、わざわざ来てくれたのだろう。
 ゼノンはそう言う性格だ。自分事よりも、他悪魔事。偉く利他主義なのは、昔から。そしてダミアンは…誰よりも、その胸の痛みを知っているからこそ…心配しているのだ。
 一番の、友として。
「…今度エースに逢う時は、もう…吾輩の知ってるエースはいないんだな」
 改めて、そうつぶやいてみる。
「でも、根本的なトコロは、変わってないはずだよ。愛する感情の源がなくなった訳じゃない。ただ、その一部が欠如しただけだよ。もう一度好きになることは出来るよ。本気で愛した相手ならもう一度、愛せるよ。直ぐにとは、言えないけどね」
 慰めるように、ゼノンは言葉を発する。
「そう。ゼノンの言う通りだ。奇跡は、起こすモノだよ」
 にっこりと微笑むダミアン。その言葉は、とても心強かった。
「…だと、良いがな…」
 小さな笑みを浮かべ、デーモンは再び、窓の外に目を向けていた。
 その意識の端にあるのは、ディールから言われた言葉。
 気合いを、入れていかなければな。
 そんな想いで、デーモンはダミアンとゼノンに微笑んでみせた。

◇◆◇

 青い、夢。それは、誰の色?夢の中で幾度となく問いかける。
 しかし、答えは返って来ない。なくした記憶はもう戻らない。夢に捕らわれた子供は、何処に行ったのだろう。

 それでも…夢を見る。甘く、切ない夢を。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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