聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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ANGEL HEALING 後編
上弦の月から半月、そして満月へ。
月の太さが変わる度、月の位置が変わる度。エースは、月に願いを込めた。
望みは、たった一つ。もう一度…彼の声を聞かせて欲しい。
雷神界からは、月が太っていく様子が魔界よりも良く見えた。
月の太さが変わる度、月の位置が変わる度。デーモンは、月に願いを込めた。
望みは、たった一つ。もう一度…彼の悪魔の名を呼びたい。
そして、月は満ちた。
澄んだ空気の中、闇に浮かぶのは満月。
その月明かりの中、エースは約束通り雷神界を訪れていた。
静まり返った空気の中、感じ慣れた気が流れて来る。
「…デーモン?」
気が流れて来る方向は、神殿からではなかった。
エースはデーモンの気を追って、森の中へと足を向けた。
闇の中に、月が浮かんでいる。その光は小さな小川の流れに反射して、輝きを分散させている。川面に漂う穏やかな満月。それをぼんやりと見つめていたデーモンは、自分に近寄って来る一つの気配を感じ、振り返った。
そこには、闇を纏った悪魔。
『…久シ振リダナ』
自分を見つめて佇む姿に小さく微笑み、デーモンは意識下の声でそう言葉を紡ぐ。
『有難ウナ。吾輩ノ我侭ヲ聞イテクレテ』
「…逢いたかった…」
そうつぶやいた姿は、躊躇うことなく、デーモンに歩み寄った。そして、その姿をきつく抱き締める。息も出来ぬ程、強く。
だが、されるがままに抱き締められた身体を捩り、そのきつい抱擁から逃れたデーモンに、エースの表情が変わる。
「…それが、御前の答えか?俺よりも…地球(ガイア)が必要なのか…?」
問い返された言葉を紡ぐ悪魔の、眼差しは哀しかった。
最早、過去の記憶でしかない彼女。けれど、その存在が未だデーモンの中にあることは、エースにもわかっていた。
だからこそ、問いかけた言葉。
『ソウダトシタラ…吾輩ヲ、忘レラレルノカ?』
再び問い返したデーモンの眼差しもまた、哀しかった。
「忘れられるはずなどない。御前は、俺が求めていたたった一名の悪魔だ。御前以外の誰もいらない。御前以外の誰も…それが、俺の結論だ。御前の唇が、何の言葉を紡がなくても良い。俺を呼ぶ声が聞けなくても良い。御前には、それが不服だと言うことはわかっている。でも…俺は…ただ傍にいてくれさえすれば、それで良いんだ…」
『エース…』
デーモンを見つめたまま、背けることのない眼差し。それが、強く胸に突き刺さる。そんな錯覚を、デーモンは覚えていた。
「知らず、御前を追い詰めていたのなら…それは俺の責任だ。だが、声を紡げなくなったから…元の御位に戻れないとわかっていたから…そう結論が出ているから…あの夜御前は、俺の気持ちを確かめる為だけに、俺に抱かれたのか?そして、俺の本心を知っても尚…御前は、そうやって逃げるのか?」
三度(みたび)、問いかけられる。
逃げているつもりなどはなかった。ただ、言葉を紡げなくなった自分が何の役に立つのだろうと。
言魂師としての役割を果たせなくなった今、前副大魔王と言う身分すら塵と一緒なのだ。うっかり気を抜けば、直ぐに野望の渦に巻き込まれる。そんなことが起こらないように、エースはいつもデーモンに気を配っていた。
そんなことをさせる為に、エースの世話になっているのか?
それを自問自答する度に、それが全てエースの負担になることを思い知らされた。
自分は、エースの重荷になる為の恋悪魔ではない。愛情と同情(あわれみ)を、一緒に受けるつもりはない。
それが、デーモンの出した結論だったのだ。
上辺だけの同情や、哀れみならいらない。だからこそ、自らの身分を捨てたのに。
重荷になるぐらいなら、自分から切り捨ててやろう。副大魔王であった悪魔(かれ)の、それは当然のプライドだった。
デーモンはエースの眼差しから逃れた視線を、月へと移した。
切ない程に蒼く、柔らかい月の光。デーモンは、意識下でその言葉を紡ぐ。
『吾輩ハ…御前ガ好キダ。ダカラコソ…ズット、御前ト共ニ生キテ行クト、約束シタ。ケレドソレハ、御前ト共ニ生キルコトデアッテ、御前ノ負担ニナルコトジャナイ。吾輩ガコノママノ状態デ生キテイカナケレバナラナイノナラ…吾輩ハ、御前トノ関係ヲ切ルツモリダ』
「…デーモン…」
デーモン自身も、ずっと考えていた答え。
勿論、何もせずに答えを出そうと言う訳ではない。
だからこそ…この日を、選んだのだ。
満月は、その能力が一番満ちる日。今日、この日なら…この時なら……失った能力を、もう一度、取り戻せるかも知れない。
たった一言を、紡ぐ為の能力を。
『知ッテイルカ?人間界ニイタ頃、聞イタ迷信ダ。満月ノ夜ニ託シタ願イハ、キット叶エラレル』
不意に、デーモンはそう言葉を紡ぐ。
「…あぁ、知っている。何処まで迷信だったのかはわからないけどな」
『ソウダナ。ダガ…ドンナ迷信デモ、縋ッテミタクナルコトモアルモノダ。ソレガ…コノプライドヲ崩ス為ナラバ…』
「…デーモン…」
『叶ワヌ願イデモ良イ。ソレデ、少シデモ胸ノ苦痛ヲイヤセルノナラ。ソレガ禁忌デアッタトシテモ…縋ッテシマイタクナル…』
悪魔にとって禁忌(タブー)なこと…それは、神の所業に他ならない。しかしそれを選んでまで、デーモンが月に託した願いとは。
「まさか…」
エースの直感が正しければ、それがどれだけ彼の苦痛であったことか。デーモンはエースに眼差しを向け、その言葉を発する。
『モウ一度…タッタ一度デ良イ。御前ノ名ヲ呼ベル…声ガ欲シイ』
エースは、息を飲んだ。
願ったのは、同じこと。たった一言の言葉が欲しいばかりに、禁忌をも顧みずに。
デーモンは空を振り仰ぎ、目を閉じる。やがて視線をエースに戻したデーモンは、想いを込めてその口を開いた。
「……」
しかし、声は出ない。震える唇は言葉を紡ぐことが出来ない。幾度も繰り返すが、それは声にも嗚咽にすらもならない。
「…もう良い…止めろ、デーモン」
過酷な姿に耐え切れず、エースは腕を伸ばしてデーモンを抱き締めた。しかしデーモンは身体を捩り、エースから逃れようとする。
デーモンの手頚を押さえ、それを留めたエースは、デーモンの瞳から零れ落ちる輝きを見た。
悲痛さを露にして隠すことなく零れ落ちる涙に、エースは再度デーモンをきつく抱き締めた。
「もう良いから…止めてくれ…」
本心から、そう思っていた。
もう良い。名を呼べる声がなくとも。
エースの腕の中で、デーモンは嗚咽を零し、震える唇を噛み締めていた。
『声ガ…欲シイ。一言デイイ…御前ノ名前ノ、タッタ一言デイイカラ…』
声を失った言魂師は、言魂師ではなくなる。その言い伝えが本当なら…デーモンは、デーモンでなくなってしまうのだろうか。
「御前が御前でなくなるのは、許さない。言葉なんかいらない。だから…ここにいてくれ。それすらも、叶わぬ願いなのか…?」
失いたくはない。その一心で紡いだ言葉。
「デーモン…」
紡ぎ合わせた言葉。それは、生まれ変わったエースが、デーモンの存在を必要としているのだと確信した重要句(キーワード)。
重ね合わせた唇から流れ込むその響きに、デーモンは何かが染み込んで来るのを感じた。それは、エースの想い。
決して…離れることは出来ない。
共に…生きる為に。その想いは、何よりも熱い炎のようで。
唇を離してからも、それはデーモンの中の何かを刺激し続けていた。
「デーモン」
再び紡がれた声に、デーモンは反応するかのようにその口を開く。
「……ス…」
零れた、声。
「…デーモン?」
嗚咽では、なかった。エースはデーモンの身体を引き離し、涙に濡れたその瞳を見つめた。
「御前、今…」
息を飲んでデーモンを見つめるエースに、デーモンは再びその口を開いた。
「…エー…ス」
掠れてはいるものの、それは確実にエースの名を呼んでいた。彼の唇は、声を紡ぐことを忘れた訳ではない。それを、明確にした一言だった。
「エー…ス」
その声が零れる度、デーモンの表情は苦痛に歪む。どれだけ懇親の力でその名を紡いでいるかと言うことが、エースにも感じ取れた。
「もう良い。無茶するな」
デーモンの精一杯の想いを受けて、エースは再びデーモンをその腕に抱き締めた。
本当に満月に込めた願いが叶ったのだろうか。それは、誰にもわからない。
けれど、もしも…謀反だと判断されたとしたら。その時は、自分も同罪である。
たった独りの、一生涯の恋悪魔である為に。それはエースには当然の結論だった。
「俺も…同じ願いを月に託した。だから、俺も同罪だ。御前となら…何処までだって、共に歩んでやる…」
御前と共に。デーモンとならば、何も悔いはない。
そう、エースが結論を出したのも束の間。
「…まぁ、そう焦るな、エース」
「ダ…っ…ダミアン様っ!?ライデンも…」
ギクッとして振り返ってみれば、その金の髪に輝く月の光を一身に集めたような、魔界の皇太子ダミアンと、その背後に雷神界の皇太子ライデンが立っていた。
二名とも、その表情はいつもよりもずっと真剣である。
「ダミアン様…何故、ここに…」
幾らライデンが一緒だとは言え…皇太子たる者が、護衛も付けずにたった一名だけで真夜中の雷神界にいるなど…雷神界が中立でなければ、確実に狙われて当然の立場である。尤も、ライデンが一名で出歩いているのもどうかとは思うのだが。
ダミアンはデーモンとエースに歩み寄った。エースの抱擁から逃れたデーモンは、その面前に跪く。
「…デーモン、魔界側から正式に御前の身分に関しての有無を通告してくれとの要請が出ている」
『……』
心持ち、緊張した意識が流れ込んで来る。だが、それに答えたのは、ダミアンの微笑みだった。
「確かに聞かせて貰ったよ、デーモン」
その言葉の意味すると思われることに、エースは思わず口を開く。
「願ったのは俺です。月に願いをかけたのは、この俺です。デーモンには、何の罪も…」
「…まぁ、焦るなと言っただろう?」
エースの言葉を遮るかのようにダミアンは言葉を発し、自らの前に跪くデーモンの前に腰を落とした。
「わたしが言いたいことは、わかっているね?デーモン」
----良かったね。
にっこりと微笑むダミアンの姿。その微笑みの前、デーモンも小さな笑みを零していた。そこで訳がわからないのは、エースである。
「あの…」
問いかけようとしたエースの意を察し、ダミアンは立ち上がった。
「御前の一言が、デーモンに再び声を与えたんだ。御前のデーモンを想う気持ちが…ね。ゼノンにも確証は持てなくて、賭けのようなモノだったんだが…見事に賭けに勝ったようだね」
「それでは…」
物問いたげのエースに、ダミアンはにっこりと微笑む。
「デーモンに、罪はないよ。勿論、御前にも…ね」
「では…戻れるんですね?副大魔王の御位に」
「まぁ、無事にリハビリが済めば、な」
その言葉に、エースは大きく息を吐き出す。そして、再びデーモンに向き合った。
「デーモン」
『エース…』
小さな微笑みを浮かべたデーモン。それはいつになく、倖せそうな微笑みだった。
「もう一度、ゼノンの診断を受けてみると良い。今度こそ、きちんとした答えが出るはずだ」
にっこりと微笑むダミアンは、問い質すことはなかった。
魔族としてのプライドを捨ててまでも、たった一言に拘わっていたデーモンの気持ちは良くわかっているつもりだったから。
それは、友として…仲魔として。
「ライデンの許可は得ているからね、今日は二名ともここでゆっくりして来ると良い。明日になったら、一緒に戻っておいで」
ダミアンはそんな言葉と微笑みを残すと、すっと姿を消した。後に残されたデーモンとエースは、当然茫然としている。
「…良かったね」
今までずっと黙っていたライデンが、小さくそう言葉を零した。
目に一杯涙を溜めたライデンは、それでもにっこりと微笑んでいた。
「…心配、かけたな。悪かった」
素直に頭を下げたエースに、ライデンは笑ったまま首を横に振った。
「俺は全然。デーさんに、元気になって欲しかっただけだから」
「…ライ…」
「俺も先に帰るよ。いつまでもここにいるのも無粋だしね。部屋はデーさんが使ってた部屋、そのまま使って良いからね。二名でも十分寝られるから。官吏たちにも言ってあるから心配しないで」
そう言って、ライデンは踵を返して駆け戻って行く。
「…全く、唐突な皇太子たちだな。ダミアン様もライデンも…」
くすっと笑いを零し、エースがつぶやく。
『全クダ』
エースにつられ、デーモンも笑いを零す。
その笑顔の前、エースは小さく息を吐き出した。そして、改めてデーモンと向かい合う。
「…俺が御前の言魂にかかっていたにせよ、いなかったにせよ…御前の声は…いや、御前自身が…俺を捕らえて離さない。御前を、誰にも渡すつもりはない。一生…共に、生きよう」
確信した想い。捕らえて離さないのは言葉ではなく、その全てだったこと。
固く繋いだ手は、とても暖かかった。
「…エー…ス」
震える声を、デーモンは紡いだ。伝える想いは、同じ。今更、離れることなど出来ないのだから。
『…吾輩ハ…全部、御前ノモノダ。ダカラ…コノ言葉モ、御前ダケノモノ、ダ』
デーモンはにっこりと笑う。そして。
「…愛…してる」
囁くように、紡がれた言葉。
「…俺も、だ」
どちらからともなく唇を重ねる。甘い吐息に包まれた一夜は、忘れることなど出来ない現実だった。
翌日、魔界に戻って来たデーモンの屋敷には構成員全員が久々に揃っていた。
先日散々話し合った結果をほじくり返し、文句を零すエースに、デーモンの診察を終えたゼノンは、小さく吐息を吐き出してその説明を始めた。
「…つまりね、俺が言いたかったことは…言葉と気持ちは切り離せないってこと」
「切り離せない、って言われてもな…」
言魂の理屈がまるでわかっていないのか…困惑した表情で問い返すエースに、ゼノンはもう一度溜め息。
「言魂師だけが、言魂を扱える訳じゃない。俺だって、癒しの言葉(ことのは)は使える訳だしね。言葉に想いを込めること、気持ちを乗せることは誰だって出来るんだ。そこに、特別な能力は何もいらないんだよ。俺は、デーモンに能力を与えたのは、御前の"声"だと思ってる。御前も感じたはずだよ?デーモンに対して、一番必要な言葉」
「……」
確かに、何か感じたはず。エースが、デーモンを忘れられないと感じた、たった一言。その言葉(ことのは)に宿ったエースの想いが、再びデーモンの言魂師としての能力を甦らせたのだ。
「…ま、それは御前がわかっていれば良いことだし、御前でなければ出来ないことだったからね。何はともあれ、おめでとう、デーモン」
にっこりと微笑むゼノン。
「よっしゃ!宴会、宴会っ」
倖せそうにはしゃぐルークとライデンの前、エースは小さな微笑みを零すデーモンを見つめていた。
必要だったのは、たった一言。そのおかげで、大事な恋悪魔を失わずに済んだのだ。
「…なぁ、デーモン…」
小さな声で呼びかけたエースの声。振り返ったデーモンに、小さく問いかける。
「御前…知ってたのか?その重要句(キーワード)…」
一瞬の間。直後浮かべた、満面の笑み。それが、何よりの証拠だった。
「…御前…っ!」
思わず声を上げたエースに、傍にいたライデンが慌てて静止をかける。
「ちょっ…エース!」
勿論、本気でどうこうしようと言うのではない。その証拠に、それがわかっているデーモンの笑顔は失せることなかった。
----やっぱり、デーさんの方が一枚上手だわ…
思わず、ライデンも苦笑する。
誰もが願っていたデーモンの復帰。それは、もう目前だった。
一月後、枢密院にデーモンの姿が戻って来た。
副大魔王として最就任した彼の片腕には、真白き翼を蒼黒に変えた、軍事局参謀。もう片方は、愛しい情報局長官。
万人を操ると謳われたその声は、魔界に於て未だ健在である。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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