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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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Disaster 4
こちらは、以前のHPで2004年01月17日にUPしたものです
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
7話完結 act.4

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◇◆◇

 ライデンが雷神界に戻って来た時には、既に夜も遅くなっていた。
 その姿を出迎えたのは、エースとフィードのみ。他の姿は見えなかった。
 ライデンの姿を見るなり、駆け寄って来たのはフィードだった。
 彼は、手にしていた畳まれた布を差し出し、"それ"をライデンへと差し出した。
「…若様…ペンダントは、やはり雪の中から見つかりました…ですが…」
「…あったんだ…良かった…」
 ホッと安堵の溜め息を吐き出して受け取った布を開く。そして、次の瞬間、小さく息を飲んだ。
「…申し訳ありません…水晶が…」
 鎖の切れたペンダントの先。小さな水晶のヘッドは、無残にも二つに割れてしまっていた。
「フィードが探し出した時には、もうこうなっていた。フィードの所為じゃないことだけはわかってやってくれ」
 フィードの後ろから、エースがそう声をかける。それでもフィードは、申し訳なさそうに俯いていた。
「…申し訳ありません…大切なものでしたのに…」
 その言葉に、ライデンは大きく息を吐き出した。そして小さく微笑むと、フィードの頭をそっと撫でた。
「有難うな。見つけてくれて。大丈夫だから…」
「若様…」
 顔を上げたフィードに再び微笑んでみせた。そして、その水晶のペンダントを再び布に包むと、そのままポケットの中へとしまいこんだ。
「大丈夫…ゼノンは、まだちゃんといる。だから…助けないとね」
 天界に行って、何を掴んで来たのかはまだ聞いていない。けれど、そのしっかりとした眼差しは、もう前を向いていた。
 立ち直ったライデンの姿に、フィードはやっと、その顔に小さな微笑みを浮かべた。
「何かあれば呼ぶから、それまで休んでて良いよ」
「…畏まりました」
 頭を下げたフィードが出て行くと、ライデンはエースへと視線を向けた。
「…ねぇ…デーさんたちは…?」
 問いかけた声は、僅かに固い。
 思っていた状況とは違っていた。デーモンとルークは、既に到着しているとばかり思っていたのだから。
 その言葉に、エースは小さく首を横に振る。
「…まだ来ていないんだ。魔界に連絡を入れてみたが、リエラのところには昼過ぎに訪れて、そのあとは雷神界に行くと言っていたそうだ。どう考えても…時間がかかり過ぎている。何かあったのかも知れない…」
 普段ならとっくに着いているはずだが、今日に限って到着が遅い。そして何より…"錬叛刀"を持っている、と言うことが、不安に繋がっているのだ。
 ゼノンが狙われたのは午前中。そして、もう直日付も変わってしまう。このままのんびりしていては、直に一日が経ってしまう。
 残されている時間は、あと二日と半日弱。
 刻々と過ぎる時間を疎ましく思いつつも、こればかりはどうすることも出来ない。
 溜め息を吐き出したエースは、頭を振って、気持ちを切り替える。
「…それはそうと、どうだったんだ?何か収穫はあったのか?」
 そう問いかけるエースの声に、ライデンも表情を引き締めてソファーに腰を据えると、ガブリエルから聞いた話を口にしていた。それから…"魔界防衛軍"との繋がりのことも。
 エースも、それはずっと気になっていた。そして、ライデンもまた…同じように、不安を感じたのだと言うことは、"奴等"の思惑通りにことが運んでいる証拠だろうと。
 何より…エースとて、"錬叛刀"の事を詳しく知っていた訳ではない。だからこそ、ガブリエルの話は貴重だった。
「まぁ…"魔界防衛軍"のことは、取り敢えず保留だ。今の優先順位はゼノンの生命、だ。禁忌であるとは言え、ゼノンを助ける為には"制覇の剣"と"錬叛刀"が揃わないといけないと言うことか。だが…確かに御前の言う通り、"練磨の剣"が"錬叛刀"と名前を変えたことは引っかかるな。ただ、所属させる世界が変わったから、と言うだけに留まれば良いんだが…」
 ライデンが抱いた疑問に、エースもまた引っかかる。
 ライデンが聞いた話が正しいのなら…その剣を仕立てたのはルシフェルと言うことになる。深い関わりがあった訳ではないが、エースが聞いて知っているルシフェルの性格からすれば…所属世界を変えたから、と言うだけの理由で、名称を変えるはずもないのだ。
「覚悟は、必要だな」
 エースがそうつぶやいた時、彼等がいる部屋の空間が歪み始めた。そして、その歪んだ空間の隙間から、手が差し伸べられた。
「…な…っ!?」
 突然のことに、目を見開いた二名であったが、その歪みから感じる気配にまず気がついたのはエースだった。
「…ルーク…っ!?」
 大慌てで、差し伸べられた手を掴む。だが、すんなりと引き寄せられると思っていたその手は、予想外にも激しい抵抗を見せる。
「ライデン、手伝え…っ!」
 危うくエースも引き込まれそうになり、慌てて背後にいたライデンへと助けを求める。慌てたライデンも、大急ぎでエースの身体に腕を回し、エースと呼吸を合わせて再びその手を引き寄せる。
 幾度か、空間に歪みに引き摺り込まれそうになりながらも、一瞬の間を上手く掴み、差し伸べられた手を引き摺り出した。その瞬間、抛り出されるように飛び出して来たのは、彼等が待ち侘びていた二名。しっかりと手を繋いだルークとデーモン、だった。
「助かったぁ~」
 床に腰を落とし、大きく息を吐き出しながら、安堵の言葉を吐き出すルーク。そしてルーク同様、床の上で安堵の溜め息を吐き出しているデーモン。その手には、魔界から持参して来た"錬叛刀"が、ルークが腰に巻いていたスカーフでしっかりと括り付けられていた。
「一体、どう言うことだ?」
 穴の開いた空間から追手が来ないことを確認したエースは、穴を塞ぐことを申し出たライデンにその場を任せ、荒く息を吐く両名へと視線を落とした。
「どうもこうも…訳わかんないよ、全く…」
 愚痴を零すルークは、既に説明することを放棄しているようである。べったりと床の上に大の字に寝転び、ぜいぜいと息を吐いている。
 ルークに問いかけることを諦めたエースは、改めてデーモンへと向き直った。
「何があったんだ?あんまりにも到着が遅いから、心配していたんだぞ?」
 その言葉に、こちらもぜいぜいと大きく息を吐き出していたデーモンは、やっとで呼吸を整えると、心配そうに見上げるエースへと口を開いた。
「それがな…我々にもわからないんだ。ただ、この剣を持って、雷神界へと転移を始めたら、何者かに暗闇の空間へと引き摺り込まれたんだ。そこから先は良く覚えていないが、御前とライデンの気を辿って、漸くここまで辿り着いたと言うことだ。途中でルークのスカーフを借りて、結びつけておいて良かった」
 そう言いながら視線を向けた先には、左手にしっかりと括られた"錬叛刀"がある。
 穴を塞ぎ終わったライデンは、彼等の背後で僅かに表情を強ばらせ、その"錬叛刀"を見つめていた。
 ガブリエルは、"制覇の剣"を盗んだ犯人は、剣を奪うことだけが目的だったようで、奪った後はそのまま姿を消してしまったと言った。そして犯人は、あの剣のことも知っているのかも知れないとのことだった。
 今、その剣は雷神界で保管されている。まだ犯人がその剣を必要としているかどうかはわからないが…魔界にある剣のことも知っていたのかも知れない。そして、その剣が彼等と一緒に動く時に、彼等諸共闇へと引き摺り込むつもりだったのかも知れない。
 そう考えると、背筋が寒くなる。剣を持っていたのがデーモンとルークだったから無事に辿り着けたものの、もしも魔力が彼等程も強くない兵士たちであったならば、恐らく剣は奪われていただろう。そうすれば、また新たな犠牲者が出ることになる。
 そんな考えが脳裏を過った時、その表情で何かを感じたエースが、彼へと声をかけた。
「…ライデン、大丈夫か?」
 ライデンから話を聞いてたエースもまた、同じ結論に行き着いたのだろう。その眼差しが真剣さを増している。
「俺は…大丈夫」
 気持ちを落ち着けるように、大きく息を吐き出したライデン。そして、床に座り込む二名の前に腰を落とし、視線を合わせた。
「…御免ね。危ない目に合わせちゃって…」
 詫びる気持ちで一杯の眼差しを向けられ、一瞬デーモンとルークは顔を見合わせた。けれど、直ぐにその困惑の表情を和らげる。
「何を馬鹿な事を言っているんだ。御前が謝ることじゃないだろう?」
「…デーさん…」
「あんたは、ゼノンを助けることだけを考えれば良いんだ。俺たちのことは心配しなくても良いから」
「ルーク…」
 仲魔たちの気持ちが嬉しくて。胸が熱くなって、涙が零れそうになる。けれど、恋悪魔を取り戻すまで、もう泣かないとその心に決めていたのだ。唇を噛んで涙を堪えると、にっこりと微笑んだ。
「有り難う」
 その健気な姿に、胸が熱くなる。だが、のんびりしている暇はないのだ。
「とにかく、今の状況をもう一度まとめようか」
 そう口を開いたのは、デーモン。既にその手に括られていた"錬叛刀"は外されているが、他の誰に触れさせぬように、しっかりと手に握り締めていた。
 そして、一度全員がソファーに腰を据え、御互いの状況を確認しあった。
 ルークは、ダミアンから聞いた"錬叛刀"の話を。ライデンは、ガブリエルから聞いた"制覇の剣"と"練磨の剣"の話を。そしてエースは、ルーアン医師から聞いた、ゼノンの状況を。そして…"魔界防衛軍"が動き出した可能性があることも。
 "錬叛刀"と"練磨の剣"の話はしっかりと結びついた。ただ一つ、名称の変化のことは除いては。
 話を聞いたルークもまた、その疑問に首を傾げていた。だが、デーモンは何処か奇妙な顔をしている。しかし、それに気が付いたのは、エース一名だったのかも知れない。他の者が気が付かない程…もしかしたら、デーモン自身すら気が付いていないのかも知れないと思う程、その変化は微妙だった。誰よりもデーモンを見ているエースだったからこそ、気が付いたのかも知れない。
 だが、エースはそれを口にはしなかった。敢えて口を噤んだのは…デーモンが、口を割らなかったから。その先には何かがあると、エースも踏んだのだ。
「では、早速その"制覇の剣"と、この"錬叛刀"を持って、カオスに行くとするか?それとも、一休みするか?」
 口を開いたデーモンに、僅かに顔を見合わせる。けれど、誰もが休む、とは言わなかった。
 そして口を開いたのは、ライデン。
「俺は大丈夫。エースは?殆ど寝てないんでしょう…?」
「あぁ、俺も大丈夫だ。御前が帰って来るまで、少し仮眠を取らせて貰った。御前たちは?」
「俺は大丈夫。デーさんはどう?」
「吾輩も大丈夫だ。なら、早速行こうか」
「じゃあ、俺、ガブリエルに連絡入れて来る。それから"制覇の剣"を取りに行って、ゼノンを連れて行こう」
 ライデンはそう言ってソファーから立ち上がる。そして、天界と連絡を取る為に書斎へと向かった。
 ライデンが出て行ったドアを、誰もが黙って見送った。しかし、その表情は、一様に冴えない。
「…あと、二日とちょっと、か。このまますんなりと事が運ぶとも思えないんだがな…」
 ぽつりとそうつぶやいたエースの声。それは、酷く重い。
「ルークがダミアン様から聞いた話が本当なら、二本の剣が揃ったら…"破滅"が引き起こされる可能性がある訳だろう?"練磨の剣"が"錬叛刀"と名前を変えた理由もわからない。その状態で…本当に、ガブリエルの言葉も信用出来るのか…?」
「でも、だからって諦める訳にはいかないじゃない。ゼノンの生命がかかってるんだもん。今は、ガブリエルしか頼れない。俺たちは精一杯向かっていくしかないんだよ」
「それはそうなんだが…」
 発破をかけるようなルークの言葉にも、奇妙な不安が残る。けれど、ライデンも精一杯頑張っているのだ。何処までも前向きなルークの姿が、今はとても心強く思えた。
 しかし、先程から"錬叛刀"を抱えているデーモン何かをずっと考え込んでいるようで、口を噤んだままである。
「…デーさん、大丈夫?」
 その姿が不安になったのか、思わず問いかけたルークの声に、デーモンはハッとしたように顔を上げた。
「あぁ…大丈夫だ。ちょっと、考え事をしていただけだ。心配いらない」
 心配をかけまいと、微笑んでみせる。
 誰の胸にも、不安はある。けれど、それに打ち勝たなくては何も始まらないのだから。
 やがて、ガブリエルに連絡を入れたライデンが戻って来て、"制覇の剣"と意識のないゼノンを連れた四名はカオスへと向かった。

◇◆◇

 空が白み始めた頃カオスにやって来た彼等は、未だ姿を現わさないガブリエルを、苛立たしそうに待っていた。
 "錬叛刀"はデーモンが、"制覇の剣"はライデンが。そして、意識のないゼノンは、エースとルークが特殊な魔法球の中に封じて運んで来た。
 これから何が起こるのかはわからない。全て、ガブリエルに任せるしかないのだから。
 苛立ちが堪えられなくなり始めた頃、ガブリエルはやっと姿を現した。
「遅くなって申し訳ありません」
「そんな言葉はいらない。早く始めよう」
 急かすようなライデンの言葉に、ガブリエルは一旦目の前の姿を見渡した。
 そしてその視線は、デーモンが持っている"錬叛刀"と、ライデンが持っている"制覇の剣"へと注がれていた。
 "制覇の剣"にこびり付いていたゼノンの血は、既に拭き取られていた。今は、鞘に入っている方が"錬叛刀"だと判別はつくが、鞘から抜いてしまえば良く見なければ判別は付かない二本の剣。その対となる剣を感慨深げに見つめつつ、大きく息を吐き出して気持ちを宥める。
 そして、ゆっくりと口を開いた。
「…では、始めましょうか」
 その言葉に、誰もが息を飲んだ。
「まず、二本の剣を合わせます。すると、対になっている剣の能力で、特殊な空間が出来るはずです。その空間の中には、今まで双方の剣が取り込んで来た魂が集積されているとのことです。その中から目的の魂を見つけ出してください。無事、魂を連れ出すことが出来れば、肉体に戻すことも可能なはずです」
「…空間の中に閉じ込められると言うことはないのか?」
 問いかけたのは、デーモン。
「ある一定時間内であれば、大丈夫のようです。けれど、一定の時間を過ぎれば、出口は閉ざされるそうです。その時間はおよそ十分」
「…十分…」
 今まで、どれだけの魂が双方の剣に吸い込まれたのかはわからない。その中から、たった一つの魂を見つけ出さなければならないのだ。
 その時、ふとデーモンの脳裏に走った記憶。
 あの剣の中には…自分が殺したはずの、エースの魂がある。
 そう思い出した途端、デーモンの表情が強ばり、その手が僅かに震え始めた。
 微かな音を立てる"錬叛刀"の鍔(つば)。その呼吸も、既に安定していない。固く目を閉じ、それを抑えようと力を込めたその手首に、エースの手がそっと触れた。
「…俺が行く」
「…エース…」
 驚いて息を飲むデーモンに、エースはデーモンの手首を掴んだその手に僅かに力を込めた。
「今の御前は無理だ。一名は当然、一番ゼノンの気を捕えやすいライデンだろうが、もう一名は行ける奴が行けば良いんだ」
「…駄目だ。吾輩は…ダミアン様から、ルークも…そして御前も、"錬叛刀"に触れさせるなと言われている。これは、吾輩の仕事、だ」
 小さく首を横に振ったデーモン。その表情はとても険しい。
「どうしてだ?俺が、一度その剣を受けているからか?だから、その剣に触れるなと…?」
「…そう、だ」
 溜め息と共に、小さく吐き出された言葉。
 二名のやりとりを、ルークもライデンも…そしてガブリエルも、息を飲んで見つめていた。
「そうだとしても…今の御前が行くよりも、ずっと安全だと思うが…?」
「駄目、だ。二度目は…ないんだ…」
 小さくつぶやいた言葉。それは、そこにいた何名の耳に届いただろう。それくらい、小さな声。
 それでも引けないのは、その剣が"錬叛刀"であるから。
 デーモンが認識している"錬叛刀"の能力は、魂を吸い取るだけではない。今まで話題に上らなかったことから、他の者はその能力の真髄を知らないのだろう。
 その剣は…"錬叛刀"は、一度味わった血の味を忘れない。そして、二度目に味わえば、確実に死に至るのだ。
 エースは既に、一度その血を与えている。だからこそ、二度目が起こらないよう、もう二度と"錬叛刀"には触らせたくなかったのだ。
 そして、ルークもまた…その剣には触れさせないと、ダミアンと約束している。ならば、自分が行くしかないはずなのに…それなのに、デーモンの手の震えは止まらない。気持ちが急いても、身体が…そして本能が、拒否しているのだ。
 二度目があるかも知れないと言う恐怖と…これから出会うであろう真実に。
 デーモンが震える手を懸命に押さえようとしていると、エースの手がその震える両手を包み込んだ。
「大丈夫だ。俺を…信じろ」
「エース…」
 剣の曰くを知らない彼等には、到底デーモンの心境は理解出来ないだろう。けれど、その理由を明らかにすることもまた、躊躇う一つになる。
 大きく息を吐き出し、デーモンは心を決めた。自分が躊躇う時間を増やせば、それだけみんなに心配をかけること。迷惑をかけること。一つの生命を、危険にさらす時間を増やすこと。それを吹っ切らなければ、道は開けないこと。その全てを自分に言い聞かせて。
「御前は…冷静で、いられるか…?」
 そう言葉を零し、エースを見つめた眼差しは…不安に揺れていた。
「ルークにも…同じ事を言った。御前は…冷静に、真実を見ることが出来るか…?どんなことがあっても…気持ちを乱さずにいられるか…?」
 デーモンの予測が大きく外れていなければ…これから起こるであろう事に、エースが冷静でいられるはずがない。だからこそ、ルークと同じようにその言葉を問いかけた。
 その意味するであろう未来は…まだ、エースには見えていない。けれど…デーモンにこれだけの不安を与えているのだから、ここで否定は出来なかった。
「…必ず、その約束を守れるとは言えない。真実の意味は…俺と御前とでは、捉え方が違うかも知れない。それを全て、受け入れることは出来ないかも知れない。だが…俺は、今の御前を行かせられない。それだけは…真実、だ」
 真っ直ぐにデーモンを見つめる琥珀色の眼差し。その強い光は、拒むことは出来ない。
「…デーさん…俺も、エースが暴走しないようにちゃんと抑えるから…」
 流石に、このまま時間を無駄にすることは出来ない。そんな想いで口を挟んだライデン。勿論、デーモンもライデンの気持ちは良くわかっていた。
 小さく溜め息を吐き出したデーモン。そして、その金の眼差しを伏せた。
「…わかった。御前に任せる」
 デーモンは"錬叛刀"を小脇に抱えると、その両の手に填められていた黒い手袋を外し、エースへと差し出した。
 彼の血を与えない為に。それは、細やかでしかないけれど、今は精一杯の防御策として。そして、最善の為の賭けとして。
「素手では絶対に触れるな。決して…血を、流すな。それだけは、約束してくれ」
「わかった。それは、約束する」
 深くは語らなかった。けれど、その眼差しが物語っていた。
 触れてはいけないのは、自分の…最愛の恋悪魔が殺した、自分の魂。だからこそ、彼自身が行くことも、自分が行くことも躊躇ったのだと。そして…自分が素手で剣に触れてはいけない理由もまた、そこにあるのだと。
 その思いを受け取ったエースは、大きく頷いて手袋を受け取った。そしてその手袋をはめると、デーモンは徐ろにエースの腕を取り、自分へと引き寄せた。
「…デー…」
 思いがけない行動に、エースが問いかけようとしたその時、それを遮るかのように重ねられた唇。
 他の目がある前でキスをしたのは、これが二度目。
「…必ず…帰って来い。もう…吾輩を、置いて行くな」
 囁くような、震えた声。
「…あぁ。必ず、帰って来るから。必ず…三名で、な」
 デーモンの頭を抱き寄せ、その髪に再び口付ける。
 暫しの別れ。けれど、必ず帰って来る。その約束は、何処まで確かなものだろうか。
 大きく息を吐き出したデーモンは、エースから離れると、錬叛刀を握った手をエースへと差し出した。
「頼むな」
「任せとけ」
 小さく笑ったエースは、デーモンの髪を一つ掻き混ぜると、先ほどから心配そうに見つめる眼差しを振り返った。
「じゃあ、始めようか」
 その声に、黙って見守っていたガブリエルは小さく息を吐き出した。
「…では、念の為に結界を張ります」
 ガブリエルのその声に、剣を持った二名の緊張が高まる。そして、見届ける二名の緊張も高まる。そして、旋律のような呪文が流れ始め、エースとライデンを包み込んだ。
 結界が完成すると、覚悟を決めたように、エースとライデンが大きく息を吐き出した。そして先に剣を抜いたのはエース。それに促されるように、ライデンもその刀身を引き上げた。
 ふと、その煌めきがライデンの脳裏に蘇る。
 最愛の恋悪魔の胸を貫いたあの光景が、もうずっと前のことのように思える。
----…もう一度…
 あの言葉の後、何を続けようとしたのだろう。
 変装までして、わざわざ会いに来てくれたこと。そしてその前の言葉から察するに、ゼノンもきっと、戻りたいと願う気持ちだったのだろう。
 心の中に交錯する思い。すれ違っていた御互いの心が、やっともう一度向かい合えると思った反面、その想いを甘受することを躊躇った自分もいた。けれど、あの瞬間は戻れると思っていた。共に過ごせて楽しかった、以前のように。
 それを無情にも打ち砕いたのは、今自分が手に持っているこの剣なのだ。そして、最愛の恋悪魔の魂を取り戻したとしても…昔と寸分も違わぬ姿が戻って来る確証がないことも、ぼんやりとわかっていた。
 それでも、自分にとっては掛け替えのない恋悪魔なのだ。だから…諦める訳にはいかなかった。
 ライデンは大きく息を吐き出すと、ポケットの上から、布に包まれたペンダントの存在を確認する。
 きっと、これが…ゼノンが、自分を護ってくれる。そう、信じたい。
 ふと目を向けた先に、魔法球に包まれたゼノンがいる。
 彼を助ける為なら…この生命をも、賭けられる。
 覚悟を決めたライデンは、煌めく刀身をエースへと差し出す。エースもまた、その剣先をライデンへと向けた。
「行くぞ」
 エースの声に、ライデンは小さく頷き、その剣先を合わせた。
 二つの剣が交わった瞬間、溢れ出た光と共に、結界の中の二名の姿が消えた。そして、乾いた音を立てて二本の剣が地に落ちた。
「…無事で…」
 小さくつぶやいたデーモンの声に、ルークは何も出来ない歯痒い思いに、ただ強くその手を握り締めて、対となる剣を見つめていた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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