聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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Disaster 7
こちらは、以前のHPで2004年02月21日にUPしたものです
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
7話完結 act.7
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
7話完結 act.7
雷神界に戻って来たデーモンとライデンは、ゼノンを閉じ込めておいた魔法球の呪を解き、再びベッドへと寝かしつけていた。
その表情は、相変わらずとても穏やかで。ほんのりと赤みを帯びた頬は、先程よりもだいぶ精気を感じられるようになっていた。
「後は、目覚めるのを待つだけだな」
デーモンの言葉に、ライデンは上掛けをそっと直しながら、小さな吐息を吐き出していた。
「何とか間に合ったけど…目覚めた時に、記憶も伴っていて貰いたいな…」
やはり、一番心配なのはその点である。過去に一度、記憶をなくしたエースを見ているだけに、実際にそうなってしまったら…と思うと、胸が痛いところなのだ。
「でも…」
と、ライデンは言葉を続けた。
「…実際、記憶がなかったとしたら、確かにショックだろうけど…今は、生命が助かってくれただけで良いよ。最初は、もう二度と会えなくなると覚悟してたんだもん。生命が助かってくれて、もう一度元気な姿を見せてくれれば…仮に記憶を失くしていたとしても、構わないよ」
そう言葉を零したライデンの、ゼノンを見つめる眼差しはとても柔らかい。まさに、愛しい恋悪魔を見つめる眼差しだった。
「…御前は強いな。昔、ゼノンが言っていたんだ。御前はホントは誰よりも強いんだ、ってな。確かに、その通りだ。生きてさえいてくれれば…もう一度、出逢えるからな」
デーモンの声に、ライデンはにっこりと微笑む。その微笑みを受け、デーモンも小さな微笑みを零したものの…ふと引っかかったのは、彼の恋悪魔のこと、だった。
「なぁ、ライデン…御前たちは…あの"剣"の中で…何処まで、話を聞いた…?」
問いかけた声に、ライデンの微笑みもすっと消えた。
「あ…あぁ……」
「エースの態度を見れば…冷静ではいられなかったんだろうとは思う…」
溜め息交じりの言葉に、ライデンも小さな溜め息を零した。
「…デーさんは…知ってたの?あの剣の中に…前のエースと……ルシフェル参謀長がいること…それから…ダミ様が、あの剣の名前を変えて封印したこと…」
その問いかけに、デーモンは視線を伏せた。
「剣の名前を変えて封印したことは知らなかった。前のエースがいることはわかっていたし…ルシフェル参謀長がいることも…何となく、な…」
「じゃあ…やっぱり、ルシフェル参謀長は……ダミ様が……?」
「…ライデン…」
「ルシフェル参謀長は、誰とは言わなかった。後悔はしていないって言ってたけど…その所為で傷つけた者もいたことは事実だ、って。それって…ダミ様のこと、でしょ?」
ライデンが辿り着いた答え。それは、エースとは違っていた。
勿論、ルークも傷付いただろうが…ルシフェルが言っていたのは、その剣を握った、ダミアンなのだと。
「エースは…きっと、ルークを傷つけたんだと思ってる。多分、その時の状況を知っていたからだと思う。でも、俺はダミ様だと思ってる。だから…何も、言えなかったんでしょ?エースの時もそうだった。ダミ様は…ずっと、苦しそうだったもん。デーさんが、自分と同じように…大事なヒトを殺してしまったと言う、"罪"を背負うから…」
そう紡がれる言葉を、デーモンは黙って聞いていた。
そして、漸く開いた口から零れた言葉。
「…御前は、いざとなれば冷静に物事を判断出来る。きっと、良い雷帝になるよ」
「…デーさん…」
小さく、笑いを零したデーモン。
「吾輩は…ダミアン様を、信じている。あの方の傍についてから、ずっとな。その気持ちは今でも変わらない。誰よりも傍で、あの方を見て来た。だからこそ、我々を護ろうとしてくれたあの微笑みを信じられるんだ。だが…エースにもルークにもその想いが届かないのなら…離れて行ってしまうかも知れないな…」
「…そんなこと…」
そんなこと、あるはずがない。そう、思いたい。けれど…ライデンには、どうすることも出来ないのが現状だった。
溜め息と共に、首を横に振ったデーモン。その顔は、とても寂しそうで…苦しそうで。
「偽りなら、幾らでも語ることは出来る。だが、現実は酷く残酷だ。真実は…必ず、誰かを傷つける。だが、それを背負うのは…一名で十分。ダミアン様は…そう、結論を出したんだ。残酷な現実を知るのは、自分だけで良いと。そんな痛みをずっと心の中に置いて…これから先も、ずっと抱いて生きて行く。それが、魔界を継ぐ皇太子として…大勢の仲魔を護る為に、あの方が選んだ道なんだ」
「…そんな…」
それは、とても悲しい現実。
言えなかったのではない。敢えて、言わなかった。何が正当で、何が邪道なのか。今なら、ルシフェルが言った言葉の意味がわかる。
大事な仲魔を守る為の、偽りの微笑み。決して、周りに癒しを与える為ではなく…自分自身の痛みを隠す為の微笑み。それが、現実の全てだったのだと。
ライデンの表情で、その胸の内を察したのだろう。デーモンは目を伏せ、小さな溜め息を吐き出した。
「…吾輩はな…それを知った時から、あの方を傍で支えて行こうと決めたんだ。勿論、今でもその気持ちは変わらない。例え、エースの気持ちを逆なでする結果だとしても…それが、副大魔王としての…そして、"友"としての吾輩の仕事なんだと、覚悟は決めている。だから、我々の心配はしなくて良い。立場としては、御前も同じ皇太子だったが…御前には、それを理解してくれるゼノンがいる。色々葛藤はあっただろうが、彼奴なら大丈夫だ。だから御前は、ゼノンのことをちゃんと見てやってくれ。彼奴の気持ちを…素直に、受けてやってくれ。そうすればきっと、御前の想いは届くから。せめて…御前たちだけは、倖せになるんだぞ」
「…デーさん…」
小さく微笑んだデーモンは、ライデンの頭をポンポンと軽く叩くと、そのまま踵を返して魔界へと戻って行った。
残酷な現実に、胸が痛い。
このまま、バラバラになってしまうのは…とても切ない。けれど、どうしたら良いのか…その為に、自分に何が出来るのか。
そんな想いを抱き、残されたライデンは…涙を堪え、きつく唇を噛み締めていた。
その頃魔界に戻った面々には、奇妙な沈黙だけが残っていた。
ダミアンは己の執務室に戻り、エースも"錬叛刀"を持って情報局に戻っていた。
"錬叛刀"を再び保管庫に戻し、エースは状況の報告を…と思って、ルークに連絡を取ろうとした。だが、軍事局にはルークの存在はなく、何処にいるのかもわからないとの返答が戻って来た。
「…可笑しいな…」
常に、連絡が取れるところにいるはずのルークと連絡が取れない。その奇妙な事実が、エースの感情に更に追い討ちをかけた。
「出かけて来る」
副官のリエラにそう言い残し、エースは枢密院のダミアンの執務室へと駆け出していた。
静寂を重んじる枢密院。常ならばその決まりが守られているはずの廊下を走り抜ける足音。
「…来たか」
ダミアンが小さくそう零した瞬間、その執務室のドアが勢い良く開かれた。
そこには、怒りに燃える瞳をダミアンに向けるエースがいた。
「ルークはどうした!?」
「…ルークがどうかしたのか?」
「しらばっくれるなっ!ここに来てから行方不明なんだぞ!?」
バンッ!と両手で執務机を叩くエース。その怒りは、更に燃え上がっているようだった。
だが、ダミアンは顔色一つ変えず、小さな溜め息を吐き出していた。
「…そう言う事か」
「ルークを何処へやった!?」
いつになっても的確な答えを得られず、エースの苛々も募るばかり。だが、目の前のダミアンは顔色一つ変える様子も見られないことが、更にエースの苛立たせるのである。
「知ってるんだろうっ!?」
エースが再び声を荒立てた時、ダミアンの溜め息が再び零れた。
「ルークは…多分、出て行ったんだろう」
「な…んだと…?」
その、思いがけない言葉に、思わず息を飲んだエース。
「わたしに愛想を尽かしたんだろうね。ここにいろ、と言ったんだが…何処にもいないところをみると…黙って姿を消したんだろうな」
淡々と語るダミアン。その真意までは…今のエースには届かなかった。
「…全部…知ってたんだろう…」
怒りを押さえるかのように握り締めた両手は、その胸の内を物語るかのように微かに震えている。そしてその瞳も、まるで炎が宿ったかのように揺らめいていた。
「何もかも全部…あんたは知ってたんだろう!?"あの剣"をデーモンが扱うのを躊躇うであろうことも、その上で彼奴とライデンを、出口のない剣の中に行かせようとしたことも!そしてルークが姿を眩ますことも…っ!あんたは、全部知ってて黙っていたんだろうっ!?俺たちに何の恨みがある!?あんたの思い通りに動いて満足なのかよ…っ!!」
怒りに任せて叫ぶエース。その姿を目の当りにしても尚、ダミアンの表情は変わらない。それどころか寧ろ、冷めた目でエースを見つめている。
「そうだ、と言ったら満足なのか?御前の怒りの全てをわたしに打つければ、御前は満足なのか?」
「…他悪魔事みたいなこと言ってるんじゃねぇよ!あんたはいつもそうやって、俺たちを操って楽しんでたんだろうが…っ!」
多分、相手が皇太子でなければ…エースは間違いなく、相手を殴りかかっていただろう。時と場合によっては、殺されていたかも知れない。けれど、それを辛うじて理性で押し止めたのは……もう一名の自分が言った言葉。
----全てを吐き出すことが出来れば、ダミアン様もどれだけ楽だっただろうな。けれど、それを口にすることが出来なかったから…その秘密を明かすことが出来なかったからこそ、苦しかったんじゃないのか?
言っている意味はわかっている。だからこそ、手を上げることは辛うじて押さえたのだ。けれど、エースの心境はそう穏やかには行かなかったのだ。それでも大きく息を吸って、僅かばかり気持ちを落ち着けた。
「…あんたは知っているだろうが…"あの剣"の中で、ルシフェル参謀長に会った。あそこにあの方がいるってことは、あの方も剣を受けた、ってことだ。そして"あの剣"の封印を解ける者は、"あの剣"を封じた者だけだと言っていた。つまり、俺たちを"あの剣"から召還したあんただけが、"あの剣"の封印を解ける者…すなわち、"あの剣"を封じた者、ってことだ。そこまで言えば、あんたには俺が何を言おうとしているかはわかるだろう?」
僅かにダミアンの眉が動いた。けれど、それはほんの僅かな変化。決して、常魔には見抜けるはずもなかった。そしてエースもまた例外ではなく、その変化には気がつかなかった。
そしてエースは、とどめの一言を口にした。
「あの時…ルシフェル参謀長が常軌を異した時…あの方が亡くなったのは誰もが自害だと思っていた。だが、真実は違う。あんたが…あの方を殺したんだ。だから、あんたは必要以上にルークが"錬叛刀"に関わるのを拒んだんだろう。ルークが、それを知るのを避ける為に。彼奴から、憎まれることを回避する為に。全てを、隠す為に」
暫しの沈黙の後、今まで真っ直にエースを見つめていたダミアンが、初めてその眼差しを逸らせた。そして目を伏せ、大きな溜め息を吐いた後、ゆっくりと口を開く。
「……御前の予想の通りだよ。ルシフェルを殺したのは、このわたしだ。だから、剣に関する全てを黙殺した。そして、ルークは…わたしの口からその真実を聞いて、幻滅して出て行った。そう言う事だ」
その告白を聞きながら…エースは、何を思っていたのだろう。
皇太子の傍近くに務めるようになってから今まで触れて来た悪魔と、今目の前にいる悪魔。同一魔物であるはずなのに…今ここにいるのは、誰だろうと思うくらい…無表情で、冷たい表情に見えた。
「…恋悪魔じゃ…なかったのかよ…誰よりも、愛していたんじゃないのかよ…っ!!だったら、何でこんな…」
「…愚問だ、エース。愛情だけでは生きてはいけない。これでもわたしは…この国の後継者なんだ。堕天使であるルークとでは…血筋を繋ぐことが出来ない。それが、現実だ」
ルークは…この悪魔に、何を見たのだろう。
幻滅か…絶望か。
大きく息を吐き出したエースは、未だ憎悪の炎の消えることない眼差しでダミアンを一瞥すると、ゆっくりと踵を返した。
「最低だな、あんたは。俺たちを良いように使って…あんなにあんたに一途だったルークを傷つけて。彼奴は、あんたの欲求を満たす為の傀儡じゃない。俺たちの信頼を裏切ったあんたを…俺は、絶対に許さないからな」
そう捨て台詞を残して執務室からエースが出て行くと、ダミアンは再び大きな溜め息を吐き出していた。
そして。
「…いつまで、隠れているつもりだ?」
目を伏せたままそう声をかけると、出入り口とは別の、奥の間に続くドアが開かれ、そこから強ばった表情のデーモンが姿を現した。
「いつの間に戻って来たんだ?」
「…先程…エースが、飛び込んで来た辺りで……」
罰が悪そうにそう口を開いたデーモンに、ダミアンは小さな溜め息と共に視線を向けた。
「ならば、エースとの話は聞いていただろう?わたしは、エースの信用も、ルークの信頼も愛情も全て失った。さて、御前はどうする?」
「…どうして…そう言う言い方をするんです…」
小さな溜め息を吐き出しながら、デーモンは首を横に振った。
「ルークにも…全てを話してはいないでしょう?もし、きちんとした真実であれば…ルークは、貴方の前から消えたりはしない。エースだってそうです。今の彼奴は…冷静じゃない…カッとなって、真実を歪めている。どうしてそれを、訂正しないんです…?どうして…自ら、嫌われるような言い方を…」
心配そうな表情を浮かべるデーモンを前に、ダミアンは小さく笑った。
「"錬叛刀"の中に入れば帰って来ることが出来ないことも、中に入った者がその真実を聞かされるであろうことも…わたしの行動如何でルークがいなくなるであろうことも…エースが怒鳴り込んで来るであろうことも、全部最初からわかっていたんだよ。わかった上で…わたしは御前たちに指図をした。そして、"錬叛刀"の中に入るのがデーモンからエースに変わったことを除けば、全てわたしの予想通りになった訳だ。それが、真実じゃないか」
「…ダミアン様…」
自嘲とも取れる、ダミアンの微笑み。全てを知っているデーモンには、それが酷く哀しくて…。
口を噤んだデーモンに微笑みを向けながら、ダミアンは傍へと歩み寄る。
「そんな顔をするものじゃないよ。御前は、気丈でいろと言っただろう?」
ポンポンとデーモンの頭に手を置きながら零したその言葉に、デーモンは首を横に振る。
「ですが…っ!ルークが触れることを禁じた理由はそれだけでは…っ」
「良いんだ」
デーモンの言葉を遮るかのように、ダミアンは口を挟んだ。
「これ以上、ルークを傷つけない為には…この方が良いんだ」
----あの話、本決まりになりそうだからね。
「…ダミアン様…」
ぽつりと零した言葉。思わずダミアンを見上げたデーモンは、その微笑みがとても優しくて…哀しい笑顔だと思った。
「御前も…わたしを軽蔑するだろう?わたしは、折角繋いだルークの想いを裏切るんだ。今更、どの面下げて愛しているだなんて言える…?わたしは、彼奴の父親の仇だ。そして、わたしはこの国の皇太子だ。このままこの国を途絶えさせる訳にはいかない。それは曲げようのない事実だろう?これ以上…傷つけて良いはずはない。それが許されるはずがない。だから、突き放すしかなかった。わたしには、もう…彼奴を護ってやることは出来ない。エースも同じだ。どうせ彼奴は、ルークを傷つけるわたしが気に入らないんだ。だったら…それで良いじゃないか。わたしは自ら撒いた種だ。一生恨まれたって構わない。だが…御前は違う。この先の未来も、エースと共に生きて行くと決めたのなら、ちゃんとエースと向き合えよ。生命をかけて、取り戻したのだから」
そう言ってにっこりと笑うダミアン。
どんなに苦しくても…切なくても、この皇太子はいつも笑ってみせる。例え偽りでも…それを本心だと言わんばかりに。それをわかっているからこそ…切なくて……
はらはらと、デーモンの頬に涙が伝った。
「ほら、泣くんじゃないよ」
何処までも優しく、デーモンの頭に手を乗せるダミアン。先程までの姿は嘘であるかのように、とても穏やかで。だからこそ、切なくて。
「吾輩は…貴方を、裏切りません。例え、彼奴等が離れて行っても…吾輩は…吾輩だけは…貴方の、味方でいます。貴方が…ずっと、吾輩を、支えてくれていたように…」
小さく零した言葉に、ダミアン笑ってはデーモンの頭をそっと撫でた。
「全く、御前は…律儀を通り越して、それではただの馬鹿だよ?」
その言葉に、デーモンは小さく首を横に振る。
「馬鹿で結構。吾輩は…ずっと、貴方を見て来たんです。貴方が、どれだけ苦しかったか…どれだけ、辛かったか。それを知っているのが吾輩だけなら…吾輩は、貴方の傍にいます。例え、エースとルークがいなくなったとしても…吾輩が、支えますから…」
涙を零しながら、そう訴えるデーモンに、ダミアンはにっこりと微笑んだ。
「……あの時…彼が御前を選んだことは…本当に奇跡だね。御前に出逢えて、良かったよ」
----有難う。
その言葉に、デーモンは何も言葉を返すことが出来なかった。
夢を…見ているのだろうか。
とても暖かい温もり。それは、久しく忘れていた…恋悪魔の芳香を纏っていて。
そうだ。自分は、この温もりを捨ててしまったのだ。なのにどうして…こんなに直ぐ傍に感じるのだろう。
もう一度、やり直したいと願った記憶。そして、それを目の前で断ち切られた記憶。
あぁ…そうだ。自分は…もう、この温もりを手に入れることは出来ないのだ。だって、自分は……彼の目の前で、殺されたのだから。
御免ね。もう、手遅れだ……こんなにも愛しているのに…もう二度と、傍にいることは出来ないんだ…
御免ね……
「…御免ね…ライ…」
譫言のようにつぶやいた声に、ハッとして顔を上げる。
気がつけば、辺りは既に薄闇が降りている。うっかりして眠ってしまったらしい。
「…ゼノ…?」
今の声は、確かに恋悪魔の声。相変わらず、目の前の恋悪魔は未だ眠っている。
けれど、聞き間違いではないはず。その証拠に…閉ざされたままのその眦に、零れた涙の跡があった。
生命は…確実に、そこにあった。
「…良かった…」
眠っていても、その確証が嬉しくて…もう一度、彼に巡り逢えることが嬉しくて。自分の名前を呼んでくれたことが、堪らなく嬉しくて。
「…ゼノ…待ってるからね…早く、帰って来て…」
はらりと零れた涙は、今まで堪えていた想いの全てだったのだろう。
眠っている恋悪魔の上掛けの上に顔を伏せ、その溢れる想いに涙を零し続けたライデン。
永遠の…一生涯の恋悪魔である為に。その為に、自分が選ばなければならない道は、もう見えていた。
その晩は目醒めることがなかったゼノンを、ライデンは一睡もしないで見つめていた。
前夜、フィードにゼノンの様子を見ていて貰いながら、ライデンは父親である上皇の元を訪れていた。
その理由は、たった一つ。
彼の恋悪魔と…共にいる為に。一生涯の、伴侶である為に。その為に必要だった決断。
それを、父親はあっさりと認めてくれた。元々、彼の本心を見抜いていたからだったのかも知れないが。
そして、彼は再びゼノンの元へと戻って来たのだ。
翌朝、朝日がうっすらと差し込み始めた頃…待ち悪魔は、戻って来た。
ずっと、暗闇を彷徨っていた意識が、ふと光を見たような気がした。
そう思った瞬間、それが、目蓋の裏に映る光なのだと認識した彼は、その光に導かれるかのように、ゆっくりとその目蓋を押し開けた。
ここは、何処だろう?自分は…一体、何処にいるのだろう?
混濁した意識は、直ぐに確かなものとなった。
「…ゼノン」
名を呼んだのは、懐かしい声。ゆっくりとその声の方へと首を巡らせてみれば、そこには微かに微笑む、愛しい恋悪魔……
「…ライデン…?」
発した声は、掠れている。けれど、そんなことは大した問題ではなかった。
恋悪魔の手を借りて上体を起こし、辺りを見回す。そこは紛れもなく、見覚えのある、雷神界の…皇太子宮の一室。
「俺は……生きて…?」
動いたことで、傷を負った胸と背中が疼いた。けれどそれが、自分が生きている実感でもあった。
そして、そうつぶやいた声に、にっこり微笑んだ恋悪魔。
「帰って…来たんだよ。また、ここに」
----御帰り。
その言葉の意味するところは、察することが出来た。
自分は…一度、死にかけたんだろう。それを救ってくれたのは…多分、今目の前にいる、愛しい恋悪魔。
恋悪魔は、ポケットから布に包まれた何かを取り出すと、それを広げて彼に見せた。
「…御免ね。壊れちゃった。でも…俺は、これのおかげで…勇気を、持てた。必ず…あんたを助けようって…」
それは、鎖の切れた水晶のペンダント。あの時…恋悪魔の首からかかっていたそれは、水晶が二つに割れてしまってはいたが。
「…ずっと…持っててくれたの…?」
問いかけた声に、小さな笑いが返って来る。
「当たり前じゃん。俺の…御守り、だもん。あんたが帰って来てくれるように…ずっと、身につけてた。鎖が切れて、水晶も割れちゃって…もう、つけられないけどね…」
そして、その眼差しが真っ直ぐに彼に向いた。
「ねぇ…あんたが俺に言おうとした言葉…覚えてる?」
ふと、そう問いかけられた。それは、彼が事切れる前に言おうとした言葉。あの時…隠し通して来た本心。
「…覚えてるよ」
「じゃあ、聞かせて」
「え?」
突然そう言われ、一瞬答えに詰まった。けれど、目の前の彼の眼差しは、真っ直に自分を見つめていた。
「聞かせて。あんたが…俺に、何を言おうとしていたのか」
改めてそう言われ…ゼノンは大きく息を吐き出した。
勿論、忘れた訳ではない。それを言わなければ、自分たちはまた、遠く離れなければならないかも知れない。けれど…それを今言って良いものかどうかの判断に困っていたのだ。
「…ゼノン?」
なかなか口を開かないゼノンに、恋悪魔の表情は僅かに曇り始めた。
その表情を前に、ゼノンはその口を開く決心をした。どちらに転んでも…後悔はしない。みんなを巻き込んだ上で、そう決めてここへ来たのだから。
再び、大きく息を吐き出したゼノン。そして、その眼差しで愛しい恋悪魔を見つめ、ゆっくりとその口を開いた。
「もしそれが許されるのなら…もう一度…一緒にいたいんだ。それは、認められないことかも知れないけれど…俺には、御前しか…」
そう言いかけた時、今まで目の前で聞いていた恋悪魔の瞳から零れた涙に、彼の言葉は止まった。
「…御免ね…」
「ライ…」
瞬間、それは拒否の言葉だと思った。けれど次の瞬間、きつく抱き締められた。
「…一緒に、いよう」
「…え…?」
「ずっと…一緒にいよう。それで良いじゃない」
「でも…今、御免って…」
それが叶わぬ願いであることを、彼は知っていたはずだった。
恋悪魔は、婚約するはず。だから、共にいられるはずはない。
戸惑いの表情を見せる彼に、その真意に気が付いたのだろう。恋悪魔は身体を離すと、ゆっくりとその口を開いた。
「だって…あの時、あんたも俺に謝ったでしょう?俺たち二名とも、素直になれなくて…御互いが御互いを傷つけて。でもあんたは、俺に逢いに来てくれた。ホントに…嬉しかった。だから、素直になる。はっきり言う。そうしないと…また、あんたを失うのは嫌だから。だから…一緒に、いようよ」
「…ライ…」
「昨夜、親父に…上皇に話は付けた。婚約はしない。俺は…俺には…やっぱり、あんたしかいないんだ。だから、結論を出した。あんたを失わない為に…あんたと、共に過ごす為に」
「ちょっ…それって…大変なこと何じゃないの?雷帝が、婚約破棄なんかしたら…」
「…確かに、老主たちなんかは色々言うかも知れないけど、それは俺が決めたことだもの。それに、まだ正式に婚約した訳じゃないし。ホントに好きな他悪魔と一緒にいたいって想いは、変えられない。だから、決めたの。あんたが…戻って来てくれて…俺を、覚えていてくれたら…婚約は解消しようって。そしたら、夕べ…譫言で、俺の名前を呼んでくれた。前みたいに…ライ、って…呼んでくれたから…だから俺も、覚悟を決めたんだ」
彼の言葉を聞きながら、そこに至るまでにどれだけ決心が必要だったかと言うことは、痛い程感じていた。そして、その想いに応える為には…自分にもまた、結論が必要なのだと言うことも。
「…ホントに…それで良いの?後悔しない?俺は…罪魔だよ…?」
改めて問いかけるゼノンの言葉に、彼は笑ってみせた。
「後悔なんかする訳ないじゃん。罪魔の汚名なんか、俺がちゃんと晴らしてやるから。あんたと一緒にいられるなら…俺は、全力であんたを護るから」
その微笑みに偽りはなく、それが彼の本心であることは間違いない。
「だから……」
----…俺の、伴侶になってください。
それは、控えめに囁いたような声。けれど、その言葉は確実に恋悪魔へと届いている。その証拠に……
「…先に言われちゃったね」
くすっと、笑いが零れた。
「ゼノ…」
僅かに息を飲んだ彼に、恋悪魔は小さく息を吐き出した。
「ここ数年…ずっと、胸の奥で燻ってた。御前の手を、離さなければ良かったのか、って。ピアスを増やして感情を抑えてみたものの、やっぱり御前の姿が記憶から消えることはなかった。強引にだけど…ピアスを外してくれたエースには、ホントに感謝しているし…ダミアン様やデーモンやルーク…レプリカにも、随分心配をかけたし、ここまで来るのに沢山協力もして貰った。だから…俺も、その想いに応えなければと思った。その答えが…御前と共にいることなんだ」
恋悪魔は、腕を伸ばして彼をそっと抱き寄せた。
「…沢山、苦しい思いをさせて御免ね。辛い思いをさせて、御免ね。沢山回り道したけど…もう、何処にも行かないから」
「…うん。帰って来てくれたんだから、もう大丈夫」
その肩口に顔を埋め、彼は微笑んでいた。
胸が一杯で…零れた涙と共に。
「…愛してるよ、ライ」
「…やっと言ってくれた…愛してる、って…」
涙を零しながらも、顔を真っ赤にして笑う姿。
きつく、抱き締められる。その腕の強さが、その想いの深さだった。
「一緒に、いようね」
「うん。俺も…誰よりも愛してるよ、ゼノ」
そっと、重ねられた唇。それが、御互いの想いの全て。
この倖せの絶頂にいる二名には、まだ魔界で起こっている事件など知る由もなかった。
けれど今は…この二名に祝福あれ。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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