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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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壇香 伽羅~鍵 2

第四部"for CHILDREN" (略して第四部"C")

こちらは本日UPの新作です。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
3話完結 act.2

拍手[3回]


◇◆◇

 ゼフィーと天狼がフレアに会った翌日。
 その日エルは、習慣になっている図書館へは寄らず真っ直ぐに帰るつもりでいた。寄り道をすれば、それだけフレアに出会う確率が高くなる。それを避ける為にはさっさと帰るのが一番だった。
 帰り支度を終え、学舎を出る。が、そこで背後から声をかけられた。
「エル」
 ドキッとして足を止める。けれどその声は、エルが避けて来た声ではなかった。
「今日は寄らないのか?」
 続けざまにそう言葉を投げかけられ、小さな吐息を一つ吐き出す。そして、ゆっくりと振り返った。
 そこに立っているのは、天狼一名。
「…ゼフィーさんは…?」
 大体傍にいるはずのゼフィーの姿が見えないことを問いかけると、天狼は溜め息を一つ。
「実技の補習、だとよ。ったく…研修目前だって言うのに、何をやってるんだか…知ってるか?彼奴あれで、軍事局希望なんだぞ?強くなりたいんだってさ。補習受けてる分際で、何処を目指してるんだか…」
「…そうですか…」
 自分だって、課題の再提出があったクセに…と心の底で思いつつ…エルにしてみれば、別にゼフィーが何処の局を希望していようが、そんなことは関係ない。
「…時間、ある?」
 ふと、天狼の声が変わった気がした。
「…別に、良いですけど…」
 ただでさえ目立つ天狼と一緒にいれば、必然的にエルも目立ってしまう。ここは、素直に言うことを聞いた方が無難だろう。そう判断したエルは、天狼に誘われるままに学舎の中へと戻ると、屋上へとやって来た。
 そこは、誰の気配もない。故に、内密な話をするには丁度良かったのだろう。
「…何ですか?」
 一息吐いてから、エルは天狼に問いかける。
 考えてみれば…天狼と二人で話をしたのは、初めて図書館であったあの時以来。後はずっとゼフィーも一緒であった。勿論、天狼の正体を知っても尚、エルの天狼への接し方は変わらないが。
 天狼も一つ息を吐き出すと、柵に凭れたままエルへと視線を向けていた。
「昨日の話」
 そう切り出すと、瞬間的にエルの表情が変わった。
 何処か怯えたような…緊張した表情。それがエルの心そのものだった。
「フレア、って言ったっけ?興味があるならともかく…迷惑なら、相手にすんな。あの調子だと、きっと御前だけじゃなくて、ゼフィーにもあれこれ聞きに行きそうだからな。彼奴も馬鹿正直だからな…邪険にしたら悪いとか思ってそうだからな…」
 そう言って溜め息を吐き出す天狼の姿に、エルも溜め息を一つ。
 心の中が…酷く、モヤモヤする。
 そう思った直後…その思いは、言葉となって口から出ていた。
「天狼さんには関係ありませんから。誰も二番だなんて言っていませんし」
「は?関係ない訳ないだろう?それに、ゼフィーが一番なら、他に誰が二番なんだよっ」
「二番は…ルーク様です」
「…は?何でルークが出て来るんだよっ」
 思わず言い返したエルの言葉に、天狼もカチンと来て言葉を返す。一番でも二番でも、本来はどうでも良い話なのだが…そこにルークの名前が出て来る意味がわからない天狼。
「親ならともかく、御前とルークこそ関係ないだろうがっ」
「関係ないです。殆ど会ったことありませんから」
「だったらルークなんか引き合いに出すなよっ」
 いつもなら、そこでゼフィーが間に入って来る為、これ以上の言い争いにはならない。けれど今日は、そのゼフィーがいないのだ。気の短い天狼と、強気なエルの会話が、平穏に終わる訳もない。
 ムッとした表情と共に、エルに向けられた眼差しはとても鋭い。けれど、それに臆するエルではなかった。
「少なくともルーク様は、私の気持ちを最優先してくれました。貴方やあのヒトみたいに、勝手に心の中に踏み込んでは来なかった。だから二番なんです」
「は?何で俺が彼奴と同等なんだよっ」
 流石にそれは納得がいかない。そんな想いで食ってかかる天狼に、エルは更に言葉を続ける。
「やってることは同じじゃないですか!大体、何なんですか?ゼフィーさんにくっついてばっかりいて、課題の資料探しまでさせて!ゼフィーさんは貴方より年上でしょう?そう聞いています。貴方がゼフィーさんに構って貰いたくて、纏わりついているだけなんじゃないんですか!?ゼフィーさんが好きなら、ゼフィーさんにはっきりそう言えば良いじゃないですか!」
「…は?誰が、誰を好きだって…?」
 天狼にしてもゼフィーにしても、御互いに大事な仲魔だという認識はあれど、恋愛感情などさらさらない。それは、昔からずっとそうだった。それなのにそんな風に捕らえられていることに驚きだった。
「…御前なぁ…っ!いい加減にしろよっ!」
 カッとなった天狼が、思わずエルに詰め寄ろうとしたその時。
 不意に屋上のドアが開き、そこから慌てた様子のフレアが飛び出して来た。そして、エルに詰め寄る天狼の姿を目の当たりにし、顔色を変える。
「ちょっと!」
「……っ」
 突然のフレアの登場に、当然エルも顔色を変える。けれどそれはフレアの誤解を招くには十分な状況だった。
 天狼は詰め寄っただけで、エルには指一本触れてはいない。幾らエルが強いとは言え、体格の差も能力の差も皇太子である彼との違いは歴然である。それを自覚している天狼は、エルに手をあげようとは微塵も思ってもいなかったのだが…フレアには、天狼に襲われかけて怯えている、としか見えなかった訳で…当然、カッとなったその怒りは天狼へと向けられた。
「貴様…っ!」
 怒りに任せて握ったその拳は、天狼を殴り飛ばす。そして、エルが反論する暇も与えず、その手を掴んで走り出していた。
「ちょっ……!?」
 驚いたエルであるが、フレアよりも小柄なエルは手を掴まれて引っ張られている以上、どうすることも出来ず。引き摺られるように、フレアと共に屋上から姿を消した。
 そして残されたのは、フレアに殴り飛ばされた天狼一名。
「…ってぇなぁ…何なんだよ、彼奴はぁ…っ!!」
 訳もわからずに殴られ、転んだ拍子に背中と腰をぶつけた。おまけに口の中も切れて血の味が口の中に広がっている。
「ったく、どいつもこいつも……一体俺が何したって言うんだよっ!」
 流石に腹が立って、声を荒げる。しかし、その怒りを向ける相手は既にそこにはおらず…だからこそ、何処にその矛先を向けて良いのかもわからない。
 屋上の床に寝転んだまま、空を見上げる。茜色に染まる空に、大きな溜め息を吐き出す。
「…もう知るかっ!勝手に何でもやってろっ!」
 そう声を上げた天狼。モヤモヤとした心は、未だ静まらなかった。

 こちらは、フレアに連れて行かれたエル。
 フレアに手を掴まれ、引き摺られるように走っていたエルだが、何処へ連れて行かれるのかもわからない状態は恐怖でしかなかった。
「ちょっ……離して…っ!!」
 屋上から階段を駆け下り、曲がり角でほんの一瞬スピードが緩んだ隙を見て、エルがその腕を振り解く。
「いい加減にして…っ!天狼さんにあんなことして…っ!」
 思わず声を張り上げると、腕を振り解かれて一瞬驚いた表情を浮かべたフレアが、少し行った先で足を止めて振り返った。
「だって、彼奴に襲われていたんじゃ…」
「そんな訳ないじゃない!あの悪魔(ひと)は私に指一本触れてなんかいない!そんな乱暴をする悪魔じゃない!一悪魔で先走って、勝手なことして!あの悪魔に何かあったらどうするつもりなんですかっ!?」
「何か、って…」
 天狼の正体を知っているエルは、事の重大さを良くわかっている。まさか、フレアが飛び込んで来て手を上げると思ってみなかったのだが、もしも天狼に何かあったら…生命を奪われても不思議ではない訳で。フレアがそこまで知らないにしても、仮にも上級生である。何もしていない相手に怪我をさせて、何の処分もないとは言えない。
 ここに至って、フレアは一つ、息を飲んだ。
 一呼吸終えたエルは、大きく息を吐き出す。そして。
「…自分の思い込みで他悪魔に手を上げるような悪魔は大嫌いです」
 そう言い残し、エルは踵を返して走り出していた。
 その背中を、フレアは唇を噛んで見つめていた。

◇◆◇

 どれくらい時間が経っただろう。茜色の空が薄闇に変わり始めた頃、屋上のドアがそっと開いた。
「…天狼、いるの…?」
「……ゼフィー?」
 その声に身体を起こすと、安堵の溜め息を吐き出したゼフィーと目が合った。
「終わったのか?補習」
 モヤモヤは、ゼフィーの顔を見たらほんの少しだけ落ち着いた。けれど、ずっと何かが引っかかっている気がする。
 そんな天狼の心情など何も知らないゼフィーは、天狼へと歩み寄ると、その前に座った。
「補習なんてとっくに終わったよ。寮に行ってもまだ帰ってなかったから、捜しに来たんだ。何してたの?こんな所で……顔、怪我してるし…腫れてるよ?」
 心配そうな表情で、天狼の頬に触れた指先。冷たい指先がほんの少しだけ温かくなるのを感じ、それが傷を癒す回復魔法を使ったのだとわかった。
「…何だか知らないけどな、修羅場だよ、修羅場」
「…は?」
 当然、意味がわからないのはゼフィー。
「…まぁ、後で詳しく話すわ。取り敢えず帰る」
 大きな溜め息を吐き出した天狼は、ゆっくりと立ち上がる。その背中も腰も、まだ痛む。
「…ったく…」
 イライラした表情で溜め息を吐き出した天狼を、ゼフィーは心配そうな表情で見つめていた。

 天狼とゼフィーが寮へと戻って来ると、その入り口に立っているエルの姿を見つけた。
「エル?どうしたの、こんなところで…もう暗いよ?」
 いつもはそんなことをしないエルの姿に、ゼフィーは小さく首を傾げる。
 事の真相を知らないゼフィーは、エルがそこにいる理由がわからない。だが、被害者たる天狼は、憮然とした表情で大きな溜め息を吐き出す。
「…何だよ…まだ何か文句あんのか?」
 そう吐き出した言葉に、エルは小さな溜め息を一つ。
「…御怪我は…ありませんでしたか?」
 その問いかけに、天狼はぷいと横を向く。
「怪我がない訳ないだろう?口の中だってまだ切れてるし、背中も腰も痛ぇよ」
「ちょっ…顔だけじゃないの?背中と腰、って…何した訳?」
 思いがけない天狼の言葉に、ゼフィーが驚きの声を上げる。そして、その背中へと手を伸ばす。
「触んなよ。痛ぇっつってんだろ?」
「だから、治すって…」
「良いって」
 ゼフィーの手から逃れようとする天狼を、心配して追いかけようとするゼフィー。そんな二名のやりとりを見ていたエルは、深く頭を下げる。
「…申し訳ありませんでした…」
 思わず、二名の動きが止まる。そしてその眼差しが真っ直ぐに頭を下げるエルへと向けられた。
「…エル?」
 相変わらず、理由がわからず、怪訝そうに眉を寄せたゼフィーの隣で、天狼は…こちらも相変わらず、憮然とした表情のまま。
「何に対して謝ってんの?」
 些か言葉に棘があるのは…やはり、先ほどの押し問答の所為だろう。だが、既に冷静になったエルは、その姿勢を崩さなかった。
「…御迷惑を…おかけして…」
 その言葉に、天狼は大きな溜め息を一つ。
「…別に、御前の所為じゃないだろう?御前とフレアは関係ないんだろう?俺が殴られたって、御前が謝る必要なんかないじゃないか」
「ちょっと!殴られたって…あのフレアに!?一体、何したの…っ」
「…何もしてねぇよ!御前、ちょっと黙れ」
 ちょこちょこ口を挟んで来るゼフィーの頭をぐっと抑えつけた天狼は、幾度目かの溜め息を吐き出す。
「彼奴が勝手にやったことだろう?それで御前が頭を下げるのは違うだろうが。そんな責任の取り方を求めてるんじゃない。口論はしたが、俺は御前に指一本触れていないし、彼奴に殴られるようなことをした覚えもない。謝るなら彼奴がちゃんと頭を下げるべきだ。そうでなければ、俺は許さないしな」
 真っ直ぐにエルへと向けられたその眼差し。透明なその蒼い瞳は、とても冷たかった。
 顔を上げたエルは、その眼差しの前…ぐっと、唇を噛み締める。
 確かに、天狼の言う通り。フレアが勝手に手を上げただけで、そこにエルの意思は何もなかった。それに対してエルが頭を下げる理由にはならない。
 全く持って正当な言葉に、エルは小さく息を吐き出す。
「…わかっています。ですが…私が、貴方に食ってかからなければ…誤解されることもなかったかと…」
「まぁ確かにな。御前が、あらぬ誤解なんかしなきゃそれで簡単に済んだ話だよな?」
「…あらぬ誤解、って…?」
 堪え切れず、天狼の腕の下から問いかけたゼフィーに、天狼は呆れたように言葉を返す。
「俺が御前を好きだ、ってさ。エルがそう言うから揉めたんだよ。それに俺は二番じゃないってさ」
「…は?」
 二番の話はともかく…恋愛感情とは、全くの初耳と言うか…突然そう言われ、困惑した表情を浮かべる。
「天狼が僕を…って…何かの冗談…?」
「そう思うだろう?」
 呆れた溜め息を吐き出す天狼に、ゼフィーは小さく笑う。
「僕は天狼の趣味じゃないから。だって天狼が好きなのはエー……」
「こらゼフィー!」
 言いかけた言葉を遮るように、慌ててその口を手で押さえる。まぁ…エルにそれを言えるはずもない。
「…とにかく、ゼフィーは一番大事な仲魔だけど、恋悪魔には一生ならない。それはゼフィーも同じだから。親父たちだってそうだろうが。仲が良ければ、ウチの親父と御前たちの親たちが恋愛関係になるとでも思ってんのか!?それと同じだぞ?」
 ほんの少し赤くなった顔。親たちのことを引き合いに出したのは、恐らく軽くパニックになったから…だろうが、勿論エルがそんな顔を見たのは、初めてだった。
「…天狼さんはともかく…ゼフィーさんはそう思わなかったら…?」
 思わず問い返したエルに、ゼフィーと天狼は一瞬顔を見合わせる。
「…僕もないよ?確かに、天狼の事は好きだけど…あくまでも仲魔としてであって、恋悪魔として他悪魔を好きになるって言う意味も、成体になる意味も良くわからないし」
 笑いを零してそう返したゼフィー。当魔はあっけらかんとして言っているのだが、その言葉に関して、天狼は少し奇妙な顔をしていた。そしてそれはエルも同じだった。
「…ちょっと待て?それは流石にどうかと思うぞ…?御前、もう直研修だよな?そんなんで…大丈夫なのか…?」
「え?何が…?」
 天狼が心配している理由が良くわからない。無邪気に首を傾げるゼフィーに、天狼は再び溜め息を吐き出した。
「無防備過ぎるんだよ、御前は。恋愛感情がわからないのは…まぁ、そのうちわかるだろうから仕方ない。だけどな、成体になることだって意味はあるぞ?俺だってもう直いなくなる。いつまでも御前の傍にはいないんだぞ?何かあったって、助けてやれないんだ。それはエルも同じだ。今の内に、ちゃんと危機感を持てよ?」
「護って貰おうとは思ってないけど…」
 元々、天狼の見張りとしてゼフィーがいたはずなのだが、気が付けば立場が逆転している。まぁその辺りは、最初からそうだったのだから彼らに不満は何もない。だが、その言葉に引っかかったのはエルの方だった。
「…もう直いなくなるとは…どう言う…?」
 思わず問いかけた声に、天狼の視線が再びエルへと向く。
「こいつが研修に出る頃には、俺は士官学校を辞めるから。元々短期での在学のつもりだったし、研修に出られる訳でもないしな」
「研修に出ないのですか?」
 士官学校では、卒業後は何処かの局に入局するのが常であり、その為に必要な実地訓練は必須となる。その為の研修なのだから、本来なら回避出来るはずはない。だからこその問いかけだったが、その言葉に天狼は溜め息を一つ。
「出られると思うか?この"俺"が。大体、俺に入局先の選択肢は一つしかないぞ?」
「…それは…」
 天狼にそう言われ、エルは当然口篭る。
 確かに、天狼は本来は皇太子である。既に入局は決まっていると聞いているので、今更の実地研修は必要ない。そして、下手に研修などに参加して、不必要な印象を植え付ける必要など何処にもない。と言うか、寧ろ研修に出られてしまうと後々面倒なことに成り兼ねない。それは、入学する時に教育係たるルークに釘をさされたことでもあった。
「とにかく、俺がいられるのもあと少しってこと。だからこそ、しっかりしろよ?」
 改めてそう言われ、ゼフィーは小さく息を吐き出す。
「わかってる、って…」
 既に、幾度も言われているのだろう。言葉を返すゼフィーは、ややうんざりした表情さえ見える。
 だがしかし。時間は、確実に前へと進んでいる。一足早く職務に着く天狼に、寂しさを感じているのも確かだった。
「…わかってはいるけど…やっぱり、ちょっと寂しいね…」
 思わず、ゼフィーの口を付いて出た言葉。だが、天狼はその言葉を一蹴する。
「馬鹿だな…職務についてからの方が、今までよりもずっと長いんだぞ?まぁ確かに、御前が入局して俺と顔を合わせられるようになるまで、まだまだかかるだろうけどな。でも、ずっと会えない訳じゃない。卒業したら、プライベートでは幾らだって会えるだろう?それまでの辛抱だから」
 口ではそう言うものの、流石に寂しそうな表情のゼフィーの前。天狼はその手で、ゼフィーの頭を軽く叩く。
「待ってるから。ちゃんと、上がって来いよ」
「勿論。そのつもりだから」
 天狼の知る限り…それが一体いつのことになるか、全く以って予測がつかない。それくらい、ゼフィーの能力は未だ平均以下なのだが…本魔がその気になっているのに、それを否定することも出来ない。
 今はただ、信じることしか出来ないのだから。
 そんな二名のやり取りをじっと見つめていたエルは、小さな溜め息を一つ。
「上層部の馴れ合いなんて…誰かが潰れたらそれまでじゃないですか…」
 その棘のある言葉に、ゼフィーも天狼も、その視線を向ける。
「何処か一ヶ所が潰れたら…誰かがそこをフォローする。それで本当に、国が護れるんですか?」
 その言葉に、天狼が溜め息を吐き出す。
 エルが言いたいのは…自分たちの父親たちのことだろう。上層部が強い絆の"仲魔"として繋がっている。それがどうにも引っかかっているのだろう。
 病床にいる父。そして、その所為で振り回された幼少期。それが、今のエルの中に根強く残っている。だからこそ、"仲魔"としての繋がりを遠ざけているのだろう、と。それは天狼だけではなく、ゼフィーもまた感じていた。
「まぁ…言いたいことはわかる。今の上層部は確かにそうかもな。ただの仲良しグループで固めていこうだなんて、俺だって思ってないからな。でも、今の上層部も最初からそうだった訳じゃないみたいだしな。仲魔の意義ってモノは、多分自分が本当に必要になったその時になってみないとわからない。俺は、そう思う」
 今はまだ、エルはそこまでの状況ではない。だから、独りでも大丈夫なのだと思っているのだろう。それは、天狼が士官学校に来てから今までの様子見で感じることが出来た。
 ただこの先の事となると、そこまでは天狼にもわからない。
 そして天狼自身もまだ、"仲魔"の意義の理解については微妙なところがある。それはまさに、彼の立場上のこともあるのだろう。
「確かに…"仲魔"なんて言葉一つでは、全てを理解は出来ないよね。でも僕は…"仲魔"がいてくれて良かったと思うよ。僕は……"仲魔"に、助けられた。だから、って言う訳じゃないけど…上層部が繋がっているって言う現実も受け入れられる。みんな優しくて、暖かいヒトたちだったけど…多分、僕たちが知らないずっと昔に、全員に"仲魔"を必要とした何かがあったんだと思う」
 少し視線を伏せ、ゆっくりとそう言葉を紡ぐゼフィー。いつもよりも低いその声が、ほんの少し震えているような気がしたのは…多分、気の所為ではない。
 箱入りとして育った三名ではあるが…その中でも、一番複雑な環境で、一番色々なことを経験したゼフィー。だからこそ…思うところは、天狼やエルよりもたくさんあるのだろう。
 大きく溜め息を吐き出したのは天狼。そして手を伸ばし、ゼフィーの手を握った。
「…御前は、忘れてろよ」
 小さくつぶやいた声。冷たいその手をしっかりと握ったその手は、とても温かかった。
「…もう大丈夫だよ。心配しなくても」
 思わずくすっと笑いを零したゼフィー。その顔も声も、もういつもと同じだった。
「とにかく…毛嫌いしているだけじゃ、見えないこともあると思うんだ。フレアだって、この前の様子からすれば、危害を加えたかった訳じゃないだろうし…きちんと話してみたら、また違う印象かも知れないよ?」
 にっこりと笑うゼフィーに、すっかり毒気を抜かれてしまった。そう言わんばかりに小さな溜め息を吐き出したエル。小さく頷くと、ゼフィーは天狼が繋いでいた手を離して、その手でエルの頭を軽くポンポンと叩いた。
「さ、もう暗いし。また明日ね」
 ゼフィーの笑顔に、何だか有耶無耶にされた気がしなくもない。
 天狼はそう思いつつも…それ以上深追いをしても良いことはない。そう察して、溜め息を一つ。
「…送ってくわ」
「…天狼が?だったら僕も…」
「御前は良いから。復習でもしとけ」
 そう言うと、ゼフィーが口を開く前にエルの腕を取ってさっさと歩き出した天狼。その背中を見送ったゼフィーは、何とも言えない不思議そうな顔をしていたのだった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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