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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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ひかりのしずく 1

第四部"for EXTRA" (略して第四部"E")

こちらは、本日UPの新作です。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
3話完結 act.1

拍手[1回]


◇◆◇

 ミカエルとガブリエルが王都を出て行ってから、一年近く。中枢で権力を持つ二名が突然いなくなったものだから、その混乱は非常に大きかった。けれど、唯一残ったラファエルが彼らの補佐たちと奔走した甲斐もあり、漸く落ち着き始めた頃。
 求める安定はまだ遠かった。

◇◆◇

「…ライデン陛下とゼノン博士が…?」
 それは、側近たるレイが吐息交じりに報告した言葉に問い返した声。
「…はい。近いうちに、こちらに来訪したいと…ミカエル様に連絡がつかないので、こちらに回って来たようです。都合の良い日を、折り返し連絡していただきたいとのことですが…いかが致しますか?」
「…そう…」
 小さな溜め息を吐き出し、ラファエルは椅子へと深く背を凭れる。
 雷帝と魔界の文化局局長が揃って来訪して来る理由はわかっていた。それが、喜ばしい報告であることも。ただ…今この状況を、どう伝えたら良いものか。それが、悩みどころだった。
「そうですね…明日なら予定は何も入っていませんから大丈夫ですが…急ですかね…」
 大変なことは早く終わらせてしまおうか。そう思いつつ、言葉を零す。
「連絡は入れてみます。もし都合が悪ければ、また日を改めて…と言うことで宜しいですか?」
「…そうですね。そうしてください」
「畏まりました」
 頭を下げ、執務室を出て行くレイを見送り、ラファエルは大きな溜め息を吐き出していた。
 これからどうするべきか。その選択肢を色々と考えていると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
 レイが返って来たのだと思い、返事を返す。その声に促されるようにドアが開く。そしてその向こうに見えた姿に、思わず息を飲んだ。
「…ガブリエル…」
「…こんにちは。御久し振りね」
 そこには、以前よりもほんの少しだけ柔らかい表情になった仲間の姿。
「どうしたんですか、急に…」
 王都を出て行ったガブリエルが、突然戻って来た。その思いがけない状況に、ラファエルは唖然としている。
「…忙しい時に御免なさい。ちょっと、話したいことがあって…」
 そう切り出したガブリエルをソファーへと促し、ラファエルもガブリエルの向かいへと腰を下ろす。
「心配しなくても大丈夫ですよ。それで…話とは…?」
 わざわざ王都へと戻って来るほどの話。幾ら忙しくても、それを無碍にすることは出来ない。そんな思いで話を切り出すと、小さな吐息が一つ零れた。
 そして。
「…精霊の森…覚えている?」
「…森、って…あの、グレインのいた…?」
 心当たりのある森ならば、ラファエルも訪れたことがある。
「あの森が何か…?」
 怪訝そうに首を傾げるラファエルに、ガブリエルは再び小さな吐息を吐き出す。
「その様子だと…何も知らないようね…」
「何も、って…何かあったのですか…?」
 ガブリエルのその様子に、眉を寄せる。
「あの森が…なくなりそうなの」
「……え?」
 そう切り出したガブリエルは、とても辛そうに見えた。
「誰の差し金かはわからないわ。でも…王都からの使いの者が、"彼ら"の許可なしに、森の伐採を始めたの。当然…私が、疑われたわ。グレインとのことで…彼を唆したと、良く思われていないから。その腹癒せにあの森をなくそうとしている、と。勿論、そんなことはないわ。私は何も関わっていない。ただ…それを証明するには、黒幕を知る必要がある。だから、王都へ来たの。誰が…あの森を、消そうとしているのかを知る為に」
「…そう言う事ですか…」
 そう返事をしながら、ラファエルも記憶を辿る。
 伐採の許可を出した覚えはない以前に…そんな申請も受けてはいない。となると、ラファエルの与り知らぬところで…と言うことになる。
 誰が、何の為に。そんな思いが過ぎる。
 場所を考えても、王都からかなり離れている。回りには特に何もない。あの場所を何かに利用しようと言う発想すら、今まで出たこともない。そして、そんな計画があるのなら、もっと利用価値のある場所が他にもあるはず。そう考えると…伐採する意味などない。
 ただ…その森に住まう精霊たちを、追い出すことが目的でなければ。
 小さな溜め息を一つ吐き出したラファエル。そして、ゆっくりと口を開いた。
「…わたしは、何の連絡も受けていませんが…あの場所に、何かあるのかも知れません。ちょっと調べてみます」
「御願いね、ラファエル」
 ラファエルに頼んだところで…直ぐに、不安は拭えない。そして何より…不可解なことがもう一つ。
「それからもう一つ聞きたいのだけれど……ミカエルは何処へ行ったの?」
「…ガブリエル…」
 真っ直ぐにラファエルを見つめたその瞳に、ラファエルのヴァイオレッドの眼差しが僅かに揺れた。
「ここへ来る前に…一応ね、最低限の挨拶をと思って、ミカエルに執務室へ行ったの。そうしたら、蛻の殻。局員を捕まえて聞いてみたら、私が王都を出た直ぐ後に職務を辞めた、って言うじゃない。どう言う事なの?聞いてないわよ、そんなこと」
 問い質すような口調に、ラファエルは再び溜め息を吐き出す。
「…言えると思いますか?職務を退いた貴女に」
「…ラファエル…」
 こちらも真っ直ぐに向けた眼差しは、王都の権力者としての強い意志が見られた。
「ミカエルの退任は、王都でも大きな波紋を呼びました。後任を任せずに出て行ってしまったので、彼の片腕たるわたしがその役目を引き受けましたが…彼と貴女の側近にも手伝って貰って、漸く落ち着いたところなのです。既に王都を退いた貴女は、関わるべきではありません。だから、何も言わなかったのですよ。例え貴女が、彼の妻であったとしても…それも、もう過去の話ですから」
 その言葉には、ガブリエルも溜め息を吐き出していた。
 確かに、ラファエルの言う通り。自分は今ここにいることも、本来ならば許されることではない。ただ、以前から見知っている局員の配慮で通されただけの話。今の自分は…何の身位も後ろ盾もない、ただの一天界人に過ぎないのだ。
「…それもそうね。御免なさい。貴方には…随分、迷惑をかけたわね…でもどうして、ミカエルまで…」
 自分が出て行った所為で、大きな迷惑をかけた。それは、わかっていた。けれど、どうして総帥たるミカエルまでも、王都を出て行くことになったのか。それが、未だわからない。
 そんな思いで問いかけたガブリエルに、ラファエルは小さな吐息を吐き出す。
「…ミカエルの本心はわかりません。彼は…黙って、出て行きましたから。その点では、貴女たちは良く似ていますよ。ただ…わたしが彼を裏切った。もしかしたら、それが一番…大きかったのかも知れません…」
 その言葉の重さ。ズシリとしたその重さは、御互いの胸の中にあった。
「…馬鹿ね、ホントに…ミカエルも、貴方も。でも…一番馬鹿だったのは、私なのかしら…」
 溜め息と共に吐き出した言葉に、ラファエルも溜め息を吐き出す。
「貴女は、自分で選んだ道です。勿論、出て行くことを選んだミカエルも。だからこそ…わたしは、ここに残ったんです。最終的な責任は、最初に口火を切ったわたしにありますから。ここに残ることが…わたしの償い、なんです」
 そう。この地に捕らわれていることが、ラファエルが背負った罪の重さなのだと。だからこそ…どんなことがあっても、何処にも、逃げることが出来ない。
 それは、相手がラファエルに託した"熾天使"の械。誰にも打ち明けることなど出来ない、天界の"闇"。
「…貴方が背負った"械"が、どれだけのモノなのか私にはわからない。でも、だからと言って、貴方だけがそれを背負わなければならないの?そこには必ず、相手がいたはずでしょう?だったら、その"械"を背負わせた相手も、同じだけの"械"を背負っているの?」
 ふと、問いかけたガブリエルの言葉に、ラファエルは暫し口を噤む。
 確かに…相手たる"熾天使"は、ラファエルにその"械"を背負わせた。けれど、相手が背負っていた"械"を、ラファエルは全て知っている訳ではない。ガブリエルの言う通り、同じだけの"械"を背負ったかどうかはわからない。寧ろ、その"械"から解放され、魔界でのうのうと生きていたのではないか。そう考えることも出来なくはないのだ。
 だがしかし。
「…相手の背負った"械"の大きさなど、知る必要はありません。背負ったのはわたし、ですから。わたし自身の問題でしょう?」
「そんなの、ただの言い訳じゃない。貴方だけが背負った罪ではないでしょう…?どうして貴方だけが、重い"械"を背負わなければならないの?不平等だわ」
 事情が良くわからないガブリエルだからこそ、そう思ったのだろう。けれど、ラファエルはその言葉に小さな溜め息を吐き出していた。
「言い訳だろうが、何だろうが…わたしがここに捕らわれていることには変わりありません。わたしには…その責任があります。ですから、わたしのことは…放って置いてください」
 その言葉は、これ以上ガブリエルが介入することを拒否する言葉だった。
 彼が背負ったその"重さ"に溜め息を吐き出しながら、ガブリエルはこれからの事を思案していた。
 確かに、自分は王都を捨てた。残務整理もほぼ終了した今、これ以上、職務に携わることも出来ない。
 そしてそれは、今目の前にいる友人たるラファエルに、全てを押し付けなければならないと言うことになる。
 それを諦めと言う言葉で終わらせてしまうのは…とても、胸が痛い。
「…御免なさい」
 小さくつぶやいた言葉に、小さな吐息。そして、小さく零した笑い。
「貴女がそんな顔をしなくても大丈夫ですよ。貴女やミカエルがいない世界にもだいぶ慣れましたから。昔ほど色々なことはまだ出来ないかも知れませんが…わたしはわたしなりに、自分がやるべきことはわかっていますから、御心配なく。それよりも…貴女自身が、御自愛くださいね。無茶をすれば、貴女に宿っている生命もまた、危険に晒すことになりますよ?」
「…ラファエル…貴方、知って…」
 ラファエルの言葉に、ガブリエルはすっと頬を赤らめる。そしてその手が、自然と自分の腹部へと添えられらた。
 にっこりと微笑むラファエルは、そのまま言葉を続けた。
「貴女から、もう一つ別の波動を感じましたから。喜ばしいことじゃないですか。貴女がもう一度、生命を繋ぐ決断をしてくれたのですから。我々には出来ないことです。ですから、王都の事は気にせず、心安らかに過ごしてください」
「…有難う」
 労わりの言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
 今度こそ…生まれて来る子供が、倖せになれるように。そんな想いは、ガブリエルの中にずっとあった。そしてそれは、ラファエルも同じこと。
 二名がそんな思いに浸っていると、再びドアがノックされる。
『レイです。宜しいですか?』
「…どうぞ」
 レイならば、ガブリエルと顔を合わせても大丈夫だろう。そう判断して返事を返すと、直ぐにそのドアが開かれた。
「雷帝陛下の都合は大丈夫だそうです………っ?!」
 手元の書類に目を通しながら入って来たレイは、その報告の直ぐ直後、顔を上げた拍子にガブリエルと目が合って息を飲んだ。
「…ガブリエル様…っ?!」
「久し振りね、レイ」
 目を丸くして驚くレイの姿に、ガブリエルは小さく笑いを零した。
 そんな穏やかな表情のガブリエルに、レイは更に驚きを隠し切れない。
「…御元気そうで何よりですが…どうなされたのですか…?」
 思わずそう問いかけた声に、ラファエルも笑いを零した。
「ちょっとした近況報告ですよ。それよりも、雷帝陛下の御都合は大丈夫なんですね?」
「…あぁ、はい。ゼノン殿も問題ないと。明日の朝一で来訪されるとのことです」
「わかりました」
 ミカエルのことをどう伝えようかと迷う気持ちはあれど、相手からは喜ばしい報告のはず。そう考えれば、いつまでも浮かない表情をしている訳にもいかない。
 ラファエルとレイの会話を聞いていたガブリエルは、会話が途切れるとラファエルへと問いかけた。
「雷帝陛下とゼノン殿が揃って来訪するの?」
「えぇ。そのようです。恐らく…結婚の報告かと。雷帝陛下は別の相手と一度決まりかけていた婚約を破棄した上で、ゼノン殿との結婚を決めたようですから。二世代続いての魔族との結婚ですからね、中立国としては、雷神界の決断だけでは済まされないと思っているのでしょう。各方面に頭を下げて回っているようです。そんな話は耳にしました。わたしも以前、雷帝陛下からそんな話を聞きました。まぁ…わたしは別に、反対はしませんけれどね」
 そう言いながら、ふと過ぎった記憶。
 そう。ライデンからその話を聞いた時…ガブリエルが王都を出て行ったばかりの時だったはず。そしてライデンは、ガブリエルにも会いたがっていたはず。
「…同席します?」
「ラファエル様…それは流石に…」
 思わず、そう問いかけたラファエルの言葉に、レイが慌てて口を挟む。
 その意図するところは…既に職務を退き、王都からも去っているガブリエルを同席させるのはどうか、と言うことだろう。けれど、こちらも突然の話に唖然としているガブリエルへと視線を向けながら、ラファエルはにっこりと微笑む。
「わたしの友人として、同席するだけですよ?雷帝陛下もガブリエルに直接話をしたがっていましたから、丁度良いでしょう?」
「そうは言っても…ガブリエル様の御都合も聞かずに…」
 困ったように眉を寄せながらガブリエルへと視線を向けるレイ。当然、ガブリエルも困惑しているようだ。
「急ぐ用事がなければ、ゆっくりしていけば良いじゃないですか。泊まるところなら、わたしの屋敷へ来れば良いんです。部屋は空いているでしょう?それとも、グレインが心配しますか?」
 平然とそう言うラファエル。その相変わらずの強引さに、ガブリエルも思わず笑いを零した。
「相変わらず強引ね。でも…そうね。御会いして行こうかしら。もうそんな機会もなくなるでしょうしね。グレインのことは大丈夫よ、心配しないで」
「では、その方向で。部屋の準備の連絡をして置いてくださいね」
 にっこりとレイへそう言ったラファエルに、レイは小さな溜め息を一つ。けれど、最近めっきり元気のなくなっていた主が、久し振りに穏やかに笑っている。それが何よりも安心出来たのだ。
「…了解しました。では、御部屋の準備をさせていただきます」
「有難う。宜しくね」
 ガブリエルの言葉に、レイは頭を下げ、準備の連絡を入れる為に執務室を出て行く。
 その後姿を見送り、ガブリエルは小さく吐息を吐き出す。
「…そう。雷帝陛下が御結婚、ね…」
「えぇ。本当は、ミカエルに連絡を入れたそうなのですが…まぁ、状況が状況ですからね。わたしに回って来ました。でも、わたし一人では会い辛かったのも確かですから。貴女が同席してくれるだけで少し気が楽です」
 小さく笑うラファエルに、ガブリエルも小さく笑いを零す。
 そんな穏やかな時間が、いつまでも続くように。
 それは…御互いにとって、ささやかな願いだった。

 その夜。
 まだ職務が残っていたラファエルよりも先に、彼の屋敷へとやって来たガブリエル。
 彼女を出迎え、諸々世話をしてくれる執事たるレイの姿を眺めながら…小さな吐息を吐き出していた。
「…御免なさいね。余計な世話をかけてしまって」
 その背中にそう声をかけると、小さな吐息と共にレイが振り返る。
「わたくしのことは御気になさらず。それよりも…ラファエル様が上機嫌でいらっしゃるので、これで良かったのだと思います」
「…そう」
 恐らく…このレイには、余り好かれてはいない。それは承知の上だった。
 レイにとって、ラファエルが安らかに過ごせることが何よりの願いであることは、ガブリエルも知っていた。だからこそ、今こうしてラファエルに重荷を背負わせているガブリエルを、良くは思っていないのだろう、と。
 勿論、以前のガブリエルであるなら、何を甘いことを…と突っぱねていただろうが…今は、その気持ちもわかるが故に、申し訳ない思いだった。
「…状況が変わると、人も変わるのね…」
 まさか自分まで…と苦笑するガブリエルに、レイは小さく微笑んだ。
「時と場合によっては、それも宜しいのでは?今のガブリエル様は、とても優しい御顔をされてらっしゃいますよ」
 そんなことを正面から言われ、流石に照れたようにほんのりと顔を赤らめる。
「ごゆっくりして行ってください」
 軽く微笑み、部屋を出て行ったレイに、ガブリエルはラファエルの穏やかな微笑みを思い出していた。
 ラファエルを変えたのは…この、忠実なる側近。
 遥か昔…出逢った頃には既に、ラファエルの隣にはレイがいた。彼が側近としてその立場になる前のことは知らないが…それでも、彼と出会えたことは、ラファエルにとって良いことだったのだろう。
 そう。多分、ガブリエルがグレインと出逢えたことも…雷帝が、魔界の文化局局長と出逢えたことも。
 そう考えると…ミカエルとの出逢いは、果たしてどうだったのだろう…?
 そんな思いが、ふと過ぎった。
 時間が経てば…良い思い出だったと、笑える日が来るのだろうか…?
 今はまだ、そこまで思い出には出来ない。だからこそ…罪悪感も募るのだ。
 ラファエルに対しても…ミカエルに対しても。
 そんな想いを抱きながら、その夜は更けて行った。

◇◆◇

 翌日の朝一でラファエルの執務室を訪れて来たのは雷神界の雷帝たるライデンと、その恋悪魔のゼノンだった。
「…ガブリエル…殿?」
 執務室に通されるなり、状況を知っていたライデンは目を丸くする。
 ラファエルの隣にいるガブリエル。今は王都にいないはずのその姿に驚くのは当然と言えば当然。
「今は、王都で職務には着いておりませんが…わたしの古くからの友人なので、同席して貰うことにしました。宜しいですか?」
 微笑みながらそう問いかける声に、ライデンはその視線をゼノンへと向ける。
「あぁ、貴殿たちがそれで良いなら俺たちは…ね?ゼノン」
 天界の状況を聞いていなかったゼノンは、ラファエルの言葉の意味が良くわからずに、一瞬怪訝そうな表情を見せたものの…ライデンが小さく頷く姿に、状況の説明は後回しにすることを納得したようだった。
「…わたしも構いません」
 そう返したゼノンの言葉に、ラファエルとガブリエルは少し顔を見合わせ、そして彼らをソファーへと促し、自分たちも腰を下ろした。
「それで、今日の来訪の目的は…?」
 そう口を開いたラファエルに、ライデンが言葉を返す。
「前に…ちょっと話したと思うんだけど…俺たちが結婚することになったのでその挨拶と、まぁ…諸々の状況に関して、迷惑もかけたし…二代続けて魔族と、ってこともあるから…その許可をいただきに、と思って…でもガブリエル殿がいるのなら、ちゃんと御礼を言いたかったんだ」
 ライデンはそう言うと、ソファーから立ち上がる。そして、ガブリエルに向け、深く頭を下げた。
「あの時は…本当に有難う。おかげでゼノンも助かった。俺たちが一緒になれるのは、貴女のおかげだから。本当に…有難う」
「…ライデン陛下…」
「わたしからも、御礼を言います。本当に、有難うございました」
「ゼノン殿…」
 幸せそうなその二名の姿は、実に微笑ましい。
「別に良いのよ。私は、大したことはしていないもの。それに…貴方たちのおかげで、私も色々と考えさせて貰ったもの。良い経験となったわ」
「なら…良いんだけど…」
 ライデンのその言葉に、ラファエルはにっこりと笑いを零す。
「ガブリエルは嘘は言いませんよ。結婚はおめでたいことではないですか。貴殿たちのことは、昔から良く存じ上げています。雷帝陛下がゼノン殿と御結婚されたとしても、天界に対しての態度が変わるとは思っておりません。御心配なく」
 その表情は偽りではなく、本心から喜んでいるように見える。
「…ガブリエル殿は…?」
 神妙な表情のガブリエルに、ちょっと不安を覚えたのだろう。控えめにそう問いかけたその声に、ガブリエルは小さな笑いを零した。
「…私のことは、気にしなくても良いのですよ。私は王都にはいませんから。実権を握っているのはラファエルですもの。彼が良いと言えば、問題はありません。勿論…喜ばしいことだと思っておりますよ」
 ガブリエルのその言葉に、ホッとしたように笑いを零したライデン。そして、その視線を少し、隣のゼノンへと向けた。
 けれどゼノンは…安堵の表情の他に、困惑した表情が僅かに見受けられた。
「実権を握っているのは…ミカエル総帥ではないのですか…?」
 思わず、そう問いかけた声。その声に、当然…目の前の二名の表情が変わる。
「…口を挟んで申し訳ありません。ですが…先ほどのガブリエル殿の話もそうですが…現在、天界は一体どうなっているのですか…?」
「ちょっと、ゼノ…今じゃなくても…」
 ゼノンと言えば、ライデンとの婚姻がほぼ決まっているとは言え、魔界の上層部の一名である。軽々しく、天界の状況に首を突っ込むのは如何なものか…と言わんばかりのライデンの表情に、ラファエルは小さな吐息を吐き出す。
「…まぁ…ゼノン殿の御気持ちはわかります。これから雷神界との状況も把握して来るでしょうから、簡単に御説明はします。ミカエルと…ここにいるガブリエルは、諸事情から政権から退きました。今、中枢にいるのはわたしと、彼らの元側近、補佐たちです。ですから…今回、ミカエルと連絡が付かないのは当然、と言うことです」
「…政権を退いた…」
 その言葉には、ライデンも小さく息を飲んだ。
 諸事情から、と言う言い方をしたと言うことは、そこには触れてくれるな、と言う意味合いだろう。それはライデンもゼノンもラファエルとガブリエルの表情から感じ取った。
 だがしかし。
「…ミカエル総帥とガブリエル殿が離れたと言うことは…かなり、大変な状況にいらっしゃるのでは…?そんな状況で、安易にライデンとわたしの結婚を許可しても良いと…?」
 心配そうに問いかけるゼノン。その思いも、わらからなくはない。
「それに関しては、御心配なく。先ほども申しました通り、ゼノン殿とライデン陛下が結婚成されても、我々天界に対しての態度が変わらないと思っておりますから。ライデン陛下ならば…今までと変わらず、そうされるでしょうし」
 にっこりと微笑むラファエル。そんな姿には、隣にいたガブリエルの方が、思わず苦笑を零す。
「ゼノン殿が心配するのも無理はないわ。ミカエルは、天界でも絶対の存在だったもの。手前味噌だけれど…私も、それなりに名前は知られていたでしょうから。二名揃って王都を退いてしまったら、確かに心配にもなるでしょうね。でも、ラファエルも侮れないわ。彼は、ただミカエルの後ろに隠れていただけよ。その実力は、私も太鼓判を押すわ。ですから、御心配なく」
 後押しするようなガブリエルの言葉に、ライデンは大きく息を吐き出す。
「…まぁ、あんたたちがそう言うのなら、俺は心配はしてないよ。でも、大変だったら…連絡はして。俺たちに出来る範囲なら、協力するから」
 せめて、それくらいは。そんな気持ちを察し、ラファエルは笑いを零した。
「必要であれば、声をかけるかも知れません。ですが、我々には我々のやり方がありますから、暫くは見守っていただければと思います」
 やんわりとそう言葉を返すと、ライデンからもゼノンからも、大きな吐息が零れた。
「確かに…ね、状況も良くわからずに口を挟む訳にはいかないから。まぁ、俺たちの気持ちはわかっておいて貰えればと思うよ」
 ライデンの言葉に、ゼノンも小さく頷いた。
「えぇ、有難うございます」
 ラファエルのその言葉は、ある意味彼の決意でもあった。
 自分たちに出来るうちは、精一杯手を尽くす。それが…ラファエルの生き方なのだと。
 そして、それ以上口を挟んではいけないのだと。
「わかった。それじゃあ、俺たちはこれで。忙しい時間にどうもありがとう。日取りなんかはまた改めて連絡します」
 ライデンはそう言うと、ゼノンを促してソファーを立つ。
 執務室から出て行く二名の背中を見送り、再びソファーへと腰を下ろしたガブリエルは、自分の執務椅子へと戻るラファエルの姿をじっと見つめていた。
「…貴方…似ているわね。変なところで頑固で…融通が利かない。素直に助けてと言えないところは、ホント、似ているわ。ミカエルに…」
 小さな溜め息と共に吐き出した言葉に、ラファエルは笑いを零す。
「貴女も、ですよ。わたしたちは…本当に、彼に随分感化されていたのでしょうね。ですが、今貴女は素直にわたしに助けを求めに来てくれました。ですから…あの森のことも、精一杯のことはします」
 そう。ガブリエルが訪ねて来たきっかけは、まだ何も解決はしていないのだ。だからこそ、求められた思いには精一杯の事をしなければ。
 それが…全ての償いならば。
「…何かわかったら、また連絡します」
 にっこりと微笑んだラファエル。その心の奥底の想いを察し、ガブリエルは大きな溜め息を吐き出していた。
 彼を救うことは…今の自分には、無理なのだと。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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