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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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かがやきのたね 前編

第四部"for PARENTS" (略して第四部"P")

こちらは、以前のHPで2004年07月23日にUPしたものです。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;

拍手[1回]


◇◆◇

 夢を見た。
 頭上から落ちて来た小さな"光"。思わず掌で受け止めると、その手の中で輝きを増す。
 柔らかくて、とても温かい。
 それは、未来への"希望の種"、だった。


 雷神界の雷帝が婚姻の儀を終えてから幾度か季節が周っていた。
 その間に魔界でも皇太子たるダミアンの婚姻の儀と王位継承の戴冠式が執り行われていた。
 確実に、時間が過ぎていく。
 だがしかし。雷帝にも、大魔王にも、未だ新たなる生命は実っていない。当然周囲は焦りにも似た感覚を抱いていたのだが…双方とも何処吹く風、と言ったように、飄々としていた。
 そして、再び冬が訪れる。
 その頃になって急に、最近の雷帝はどうも職務に身が入っていないのではないか、と言う囁きが何処からともなく聞こえ始めていた。

 その日雷神界へ戻って来た伴侶たるゼノンは、ライデンに会う前に側近であるロシュに呼び止められた。
「少し…御時間をいただけますか…?」
 控えめに問いかけられた言葉に、ゼノンは小さく頷きを返す。
 そしてそこで、思わぬ話を聞いた。
「実は…先日、ゼノン様が魔界へ御戻りになられた後から、陛下の様子が少し可笑しいのでは、と思っておりまして…わたくしだけではなく、周囲からもそんな話が出ていると聞いているのですが…何か心当たりは御有りですか…?」
「…様子が可笑しい、って…体調云々ではなくて?」
 ゼノンにしてみれば、普段は魔界にいる自分よりも、常に傍にいる彼等の方がわかるのではないか…とも思うのだが、そこは伴侶であると同時に医師でもあるゼノンに話を通して…と言う思いもあったのだろう。
「体調は特に変わりないようです。何処か具合が悪いと言う話も聞きませんし…フィードに聞いても、特に変わった様子はないと…ですが、職務に集中していないと言うか、ぼんやりとしていることが多いのです。ですから、今までならば時間になるまでにはきちんと終わっていた職務が終わらない日が続いておりまして…」
「…そう…なら、少し様子を見るよ。何か変わった様子があったら、直ぐに伝えるから」
「御願い致します」
 神妙な表情のロシュはそう言って頭を下げると、踵を返して職務に戻って行った。
「…様子が可笑しい、ねぇ…」
 果たしてそれが何なのか。まだ、ゼノンにもわからないことだった。

「ただいま。御免ね、遅くなって」
 職務の終了時間をかなり過ぎてから戻って来たライデンは、自室で部屋で机に向かっていたゼノンの背中に、そう声をかけた。
「大丈夫。俺もちょっと仕事してたし」
 振り返りながら、その気を探り、様子を伺う。
 自分が前回ここへ来たのは、ほんの二週間ほど前。何らかの変化はその後から起こり始めたようなのだが、この間見た時と何かが違うかと言えば…確かに、特に変わった様子もない。急激に痩せた訳でもないし、やつれている訳でもない。纏う気も、それ程大きく変わっている訳でもない。本当に、何が可笑しいのか…と、首を傾げるくらいだった。
「…忙しいの?」
 ふと問いかけたゼノンの声に、ライデンは小さく笑う。
「ん~…そうでもないんだけどね…何だか気が乗らなくてさ。集中出来ないって言うのかな…それで仕事が進まなくてロシュに怒られてばっかり。だから、今日も残業」
「そう。でもあんまり無理しないでね。何かあったら、みんなに心配かけるんだから」
「わかってるよ。でも、体調は良いんだよね。最近だいぶ暖かくなって来た所為か、無性に眠かったり腹が減るくらいで、他に特に何がある訳でもないんだけどさ…ふっと、気持ちが途切れるんだよね…ついぼんやりして手が止まったりとかさ。あんたのことは全然関係ないんだけど、それがあんたの所為にされるのだけは困るから、気をつけてはいるんだけど…」
「俺の心配はしなくて良いから」
 小さな溜め息を吐き出したゼノンは、そっとライデンを抱き寄せる。
「何かあったら、直ぐに連絡してよ?俺だって心配してるんだからね?」
「…うん。わかってる。御免ね、来た早々心配かけて」
 そう言いつつも、ライデンはいつもと変わらず笑っていた。
 ゼノンといる時は、何の変わりもない。だからこそ…ゼノンには、その話が酷く引っかかっていた。

◇◆◇

 結局、ゼノンが雷神界にいる間は特に変わった様子もなく、ゼノンはそのまま休暇を終えて魔界へと戻って来ていた。
 それでも、何かが引っかかる。
 自分がいない間だけ、異変が見られる伴侶。それが、どうにも腑に落ちない訳で…溜め息は絶えなかった。
 そしてそれから数日が経った頃。彼の執務室を訪ねて来たのは、情報局の長官たるエース。
「どうした?そんな顔して」
 顔を見た早々にそう声をかけられる。
「…そんな顔って言われてもね…」
 そう言いながら、思わず溜め息が零れた。
「何かあったのか?」
 いつになく溜め息の多いその姿に、流石のエースも首を傾げる。
「…この間雷神界に行った時に言われたんだけどね…ライデンの様子が何か可笑しい、って…」
 そう話を切り出すと、相手も奇妙な顔をする。
「可笑しい?体調が?」
「いや、体調は良いんだ。職務中に、気が抜けたみたいにぼんやりすることが多くなってる、って…でも、俺が行ってる間は、特に変わりなくて…それがどうも引っかかるんだよね…」
 そう言って再び溜め息を一つ。
「ぼんやりねぇ…」
 エースはそう言いながら、思いを巡らせる。
「今まではそんなことなかったのか?」
「そうみたい。このところ、今まで終わってた仕事が終わらないって、ロシュがぼやいてたから。今までは仕事はちゃんと熟してたみたいだから、気になるんだろうけど…」
「…そう、か…」
 困惑顔のゼノンを眺めながら、エースはふと問いかける。
「なぁ…御前たち、結婚してどれくらい経ったっけ…?」
「は?どれくらい、って……?」
 エースが言わんとしていることが、いまいちゼノンに伝わっていない。それは、その顔を見れば明確だった。
「まぁ、つまりさぁ…アレだ。世継ぎの件で、周りからせっつかれてないのか、ってことだ。ダミアン様だって飄々として見えるが、それなりに焦ってるはずだぞ?かなりルークを待たせてる訳だからな。ダミアン様より先に結婚している御前等が、いつまで呑気にしてるんだ、ってことだよ」
「……別に、呑気にしている訳じゃないけど…」
 ここに至って、漸く問われている意味がわかった。けれど、ここで慌てたところで、どうにもならない訳で。
 一国の王が、世継ぎを残せない。それは重大なこと。今まではそこまで真剣に考えてはいなかったが…確かにエースの言う通り、考えなければならない時期なのだろうか。
 そんなことを考えているゼノンの顔を、じっと見つめていたエース。
 その頭を過ぎっていたのは…ただの、憶測なのだろうか。
「なぁ…ゼノン…」
 ゼノンの様子を伺うように、口を開いたエースが何かを言いかけた時。不意に呼び出し音が聞こえ、二名揃って通信画面へと視線が向いた。
「…雷神界から、だ…」
 そうつぶやくや否や、ゼノンはその画面を繋ぐ。
「はい」
 その向こうに見えたのは、側近のロシュ。
『ゼノン様、職務中に申し訳ありませんが、至急御戻りいただけますか?』
「…どうしたの?ライデンに何かあった?」
 問いかけた声に、小さく頷いた姿。
『つい、十分ほど前ですが、職務中に倒れられて…呼びかけても目を覚まされなくて…』
 そう答える顔は、心なしか青く見えた。
「ルーアン医師には診て貰ってる?」
『はい。ですが、特に病的なものは見当たらないと…意識がない、と言うよりも、眠りに落ちた、と言う感じのようで…ですので、様子を見るしかないと言われまして…』
「そう。わかった。とにかくこれから向かうから、そのまま様子を見てて」
 ゼノンはそう指示を出すと、通信を切って慌しく準備を始めた。
「御免ね、エース。これからちょっと行って来るから」
「あぁ…」
 倒れた、と言うよりも眠りに落ちた、と言う状態。慌てるべきなのか、大丈夫、と様子を見ていても良いのか、ゼノンにもわからなかった。とにかく、向かわねば。
 そんな思いはエースにも容易に察することは出来た。だからこそ、今言って置かなければ…と言う思いもあった。
「なぁ、ゼノン」
 落ち着かないその背中に、敢えて再び呼びかけたエース。
「一度、きちんと確認した方が良いと思うんだが………」
「………え?」
 エースが放った言葉に、ゼノンは一瞬、動きを止めた。
 それは、想像もしていなかった言葉。だからこそ…溜め息が、零れた。
「……とにかく、行って来る」
 その言葉は、明らかに困惑した色を乗せていた。

◇◆◇

 雷神界へやって来たゼノンは、真っ直ぐライデンの部屋へとやって来ていた。
 ベッドで眠るライデンを前に、ルーアン医師、ロシュ、そして官吏のフィードが困惑した顔でゼノンを待っていた。
 ロシュとルーアン医師から状況の説明を聞き、色々と疑わしき病状を思い浮かべるものの、これと言った決め手はやはりない。そして、フィードの話では、やはり体調的には頗る元気だった、と言う。
 となれば…やはり、エースから言われた言葉が頭を過ぎった。
「ちょっと…確認したいことがあるのですが…」
「確認…ですか?」
「はい」
 ゼノンは小さく溜め息を吐き出すと、ベッドで眠ったままのライデンへと歩み寄る。そしてその傍に跪くと、その寝顔にそっと声をかける。
「…ライ」
 すると、うっすらと目蓋が開く。
「…ゼノ?」
「うん。大丈夫?」
 問いかけた声に、ほんの少し、笑みが零れた。
「…何ともないよ?今、すっごく良い夢見てて………」
 そう言いかけた言葉が途切れ、そのまま再び眠りに落ちていく。傍から見れば…健康とは言え、尋常ではない。
 その姿に小さな溜め息を吐き出し、再び声をかける。
「御免ね、ちょっとだけ触るよ……」
 眠ったままのライデンから返事はないが、そっと上掛けの下から手を差し入れる。そして、触れたのはその腹部。そこで、慎重に気を探ると…溜め息を一つ。
 正直…気付かなかったのは、自分のミス。
 ゼノンは徐ろに立ち上がると、心配そうに見守る三名を振り返った。
「…えっと……取り敢えず、上皇様に報告に行こうと思うので…出来たら御一緒に…」
「何かわかったのですか?」
 ルーアン医師の言葉に、ゼノンはぽりぽりと指先で頬を掻いた。
「わかった、と言うか…何と言うか……まぁ、詳しい話は上皇様のところで…」
 いつになく、歯切れが悪い。
 ゼノンはそそくさと踵を返すと、その背中にフィードが声をかける。
「わたくしはここで御待ちしております。若様を御独りには出来ませんので…」
「…あぁ、そうだね。じゃあ、フィードには後でまた話すから」
 そう言うと、再び足を進めた。そして、ルーアン医師、ロシュと共に、上皇の部屋へと向かった。

 ノックの音に、上皇は顔をあげた。
「どうぞ」
 そう声を返すと、控えめに開かれたドアの隙間から、ゼノンの姿が見えた。
「…失礼致します。少し…御話があるのですが、宜しいですか…?」
 その様子はいつになく緊張しているように見える。
「あぁ、構わんよ。どうぞ」
 促されて入って来たのは、ゼノンとルーアン医師、ロシュの三名。
「ライデンのことで…」
 そう口を開いたゼノン。
「あぁ、倒れたらしいな。倒れたと言うか、眠っている、と聞いたが…?」
 何とも奇妙な報告に、上皇も怪訝そうな表情を浮かべていた。
「えぇ、そのことなのですが……」
 状況がわかっているのは、ゼノン一名。だから、ルーアン医師もロシュも、口を挟むことが出来ない。
 そして当のゼノンは…と言うと、何とも言えない表情を浮かべている。
「…どうした?」
 問いかけた上皇の声に、視線を落として大きく息を吐き出したゼノン。そして、意を決したように顔を上げ、口を開いた。
「ライデンの不調の原因は…その……"懐妊"、と思われます…」
「…"かいにん"…と言うと…」
 一瞬、その意味が理解出来ない、と言う表情。それは、ゼノン以外の全員。
「つまり…子供が、出来ました、と言うことで……」
 そう続けた言葉に、誰もが暫し、唖然とする。
「…まだ、本当に初期の初期で、そのつもりで診察しなければ判別がなかなか出来なかったとは言え…気付かなかったのはわたしのミスです。申し訳ありませんでした、御心配をおかけして…」
 ゼノンはそう言葉を零すと、深く頭を下げる。けれどその表情は…どうも、喜んでいるようにも思えない。
「…いや、めでたいことであろう?謝る必要はない。原因がわからないから不安視していただけの話だ。そなたの所為ではないから」
 苦笑する上皇。勿論、その場にいたルーアン医師もロシュも、同じ気持ちではあった。
「そうですよ。我々も気付かなかったのですから、ゼノン殿の責任ではありません。何はともあれ、おめでとうございます」
「…有難うございます…」
 にっこりと笑って祝福の意を込め頭を下げたルーアン医師とロシュに、ゼノンも困惑気味に頭を下げて応える。
「まぁ、今後のことはこれから話し合って決めていけば良い。今はゼノン殿も落ち着かないようだからな、日を改めようか。きちんとした報告はまた何れ改めてと言うことで、そなたたちは下がって良いぞ。まだ他言無用でな」
「御意に」
 上皇の言葉に、ルーアン医師とロシュは返事を返すと、頭を下げて部屋を出て行く。
 残されたのは、未だ困惑の表情を浮かべるゼノン。
「…さて。それでは…そなたの話を聞こうか。どうも何やら蟠っているようであるしな」
 二名きりになった部屋の中。静かにそう口を開いた上皇。ゼノンの表情で、その複雑な気持ちは察していたらしい。
 大きく息を吐き出したゼノンは、目を伏せたまま、ゆっくりと口を開いた。
「…伴侶として…こんなことを言うのはどうかと思いますが…上皇様には、正直に言います。嬉しくない訳ではないのですが…予想外のことに、正直恐怖の方が上回っています。怖いんです。親としても医師としても…これから先のことが、何もわからないので…」
「…わからない?」
 その言葉の意味を問い返すと、ゼノンは小さく頷いた。
「わたしは、自然発生で産まれました。ですから、親として接する相手はいませんでした。ライデンのように、愛されて育った経験がないのです。産まれて来る子供の成長の過程もわからなければ、どう愛して良いのかもわからないのです。そして、何より…今は抑えられているとは言え、残虐性を秘めた"鬼"と言う本性があります。雷神族の血は何よりも強いのは重々承知ですが…もし、その"鬼"が僅かでも遺伝していようものなら、どうなるかは想像も付きません…そう考えると、怖いんです。親になる、と言う自信もありません」
 それは、まだライデンにも伝えられない正直な気持ちだった。
 伴侶として、何れ世継ぎの親となることは当然覚悟はしていた。だが、思いも寄らないこの状況で突然それを目の前に突きつけられ、まだ心の準備が出来ていなかった、と言うのが正直なところだった。
 そしてその苦悩を、上皇に見透かされていたのだと言う、心苦しい想いも。
 ゼノンの、その苦しそうな表情を前に…上皇は、小さく笑いを零した。
「そなたが、そうやって気持ちを吐き出せるうちは大丈夫だ」
「…上皇様…」
 思わず顔をあげたゼノンは、そこで穏やかに笑う上皇の姿を見た。それはまさに…ライデンの父親、としての姿だった。
「何処の世界にも、子が産まれる前から自信満々の親などいないのだよ。子を持って初めて親になるのは、誰も同じこと。そなたはライデンと出逢ってからずっとその想いを胸の奥に秘めていたのかも知れんが、自然発生だろうが、親がいようが、関係のないことだ。今のそなたは、愛することも愛されることも経験したはず。そなたのおかげで、ライデンはしっかり成長出来たと思っておる。それに、予告して子を宿すことも出来ぬことだ。いつだって、予想外の連続だ。それに、今すぐ子が産まれる訳ではない。ライデンと共に、親になる、と言うことをこれから勉強したところで、まだ十分間に合うのだから。大丈夫。ワシは、何の心配もしとらんよ」
 上皇のその言葉を受け留め、ゼノンは大きく息を吐き出した。
「…色々…教えていただけますか…?」
 控えめに問いかけた声に、笑い声が返って来る。
「ワシのやった通りに育てたら、我侭で甘ったれで、どうにも扱いづらい子になるが?」
 その言葉には、ゼノンも思わず笑いを零した。あんまりな言われようだが…決して、愛情がない訳ではない。寧ろ、その言葉には溢れんばかりの愛情を感じた。
「十分です。わたしは…そう育ったライデンを、好きになったのですから。ライデンと同じく育つのなら、きっと将来はしっかりした雷帝になれると思います」
「そうか。なら、幾らでも聞いてくれ」
 上皇はそう言って笑うと、ゼノンを傍へと呼んだ。そして未だゼノンよりも一回りも大きなその身体で、ゼノンの身体をしっかりと抱き締めた。
「変な遠慮はしなくても良いぞ。そなたがライデンの伴侶になったその時から、ワシはそなたの"父"でもあるのだからな」
 それが、ゼノンが初めて体感した"親"の温もり、だった。
「……有難うございます」
 その言葉が、何よりも嬉しい。いつでも両手を広げて全力で子供を護る姿を見せてくれたこの偉大な上皇が、自分にとっても"父"であると言ってくれただけでも、気持ちを吐き出して良かったと思わせてくれた。
 上皇はゼノンの背中をポンポンと叩くと、その身体をやっと解放した。
「ライデンにはまだ話しておらぬのだろう?彼奴ならきっと、不安になど思わずにしっかり受け留めるはずだ。心配せず、きちんと話して来ると良い」
「はい」
 やっと、気持ちが落ち着いた。漸くそんな表情を見せたゼノン。
 その姿に、上皇もにっこりと微笑んだ。
 溢れんばかりの、"父親"としての顔で。

◇◆◇

 同じ頃。
 ベッドでぐっすり眠っていたライデンは、漸くその目蓋を開けた。
「……ゼノン…?」
 ぼんやりとした顔で呼びかけた声に答えたのは、残っていたフィードだった。
「ゼノン様は、上皇様に御話に向かいましたよ」
「……そう」
 大きな欠伸を零しつつ、その身体を起こす。
「御気分は…?」
 心配そうな顔で問いかけるフィードに、ライデンは暫く考えてから小さく笑う。
「…ん~…極めて快調、なんだけど…」
「…ですよね。そう言う御顔をしております」
 それは、常と変わらない姿。だからこそ、先ほどのように急に眠りに落ちられてしまうと心配で仕方がないのだが。
「…御免ね、心配かけて。何か、急に睡魔に襲われて、起きてられなかったんだよね…今はもうすっきりしてるんだけど…」
 頭を掻きながらそう言って首を傾げるライデン。
「ゼノン様が何か御分かりになったようですので、上皇様のところより御戻りになられましたら、話して下さると思います」
「そっか。何だろうね、ホントに」
 大きく身体を伸ばすと、窓を開ける。
 冬の寒さも緩み、今日はとても心地良い暖かさである。窓辺に座ってその空気を感じながら、ライデンはぼんやりと空を眺めていた。
 目が覚めるまで…とても、良い夢を見ていた覚えがある。
 ぼんやりとしか覚えてはいないが…誰かに、ずっと呼ばれているような感覚。けれど、恐怖は全く感じなくて、寧ろ胸の奥が暖かくなる感じがしていた。
 このところ、ずっとそんなような夢を見ている。まるで…夢に呼ばれるように、眠りに落ちているのだ。
 小さな溜め息を一つ。
「…大丈夫ですか?」
 御茶の入ったカップを持って来たフィードにそう声をかけられ、ふと我に返る。
「あぁ、大丈夫」
 カップを受け取り、小さく笑ってそう返す。
「今日って、仕事戻らなくても良いのかな…」
 再び外に目を向け、そう問いかけてみる。
「まさか、御倒れになられた後で仕事に戻す程、ロシュも無情ではないと思いますが…?」
 実は昔馴染みのフィードとロシュ。職種は違うものの、主を思う気持ちは同じであると思っている。だからこそ、無情に仕事に引き戻すことはないだろうとは思うのだが。
「まぁ、倒れたって言ったって、寝てただけなんだけどね。具合は悪くないんだけど、何となく…今日は、戻りたくないな~って…」
 まさに、気が乗らない、と言うところだろうか。
 それは、恐らく自分の本能がそうさせているのだろう。今は、その本能に従わなくてはならない。ライデンはそう自覚していたのだが、周りから見れば…一国の主である。そこに不安が伴わないはずがない。
「…若様の御身体が、休息を欲しているのですから。今は、御身体を休めるべきです。ゼノン様が何の指示も出さずに報告に行かれたのですから、緊急を要するものではないと思います。ですから、心配はいらないはずです。ゆっくり御休みください」
 ライデンの心中を察しているフィードならではの言葉。その言葉に、ライデンは安心したように吐息を吐き出した。
「御前がそう言ってくれるから、つい甘えちゃうんだけどさ。何処まで本能に従って良いのやら…ま、ゼノンが戻ったら何かあるだろうからね。それを待つしかないか」
 自力では何も出来ない。そんな思いを込めた言葉に、フィードは小さな微笑みを零す。
「わたくしは、何事もないことを信じております」
「…そだね」
 これ以上、心配はかけられない。
 くすっと笑いを零したライデン。
 彼等にとって、真相はまだ闇の中、だった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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