聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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かがやきのたね 後編
第四部"for PARENTS" (略して第四部"P")
こちらは、以前のHPで2004年07月23日にUPしたものです。第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
ライデンがフィードと他愛もない話をしていると、小さくノックする音が聞こえた。
「ロシュかな」
「もしもそうであったら、追い返して差し上げます」
くすっと笑ったライデンに苦笑しながら、フィードがドアを開ける。
「ゼノン様。御帰りなさいませ」
「ただいま……どうかした?」
くすくすと笑うフィードに、ゼノンは首を傾げる。
「いえ、若様が、ロシュが無情にも迎えに来たのかもとおっしゃっていたので」
「ライデン起きたの?」
「はい。先ほど。すっかり元気になられて」
「…そう」
すっかり元気になったのは、ライデンだけではないようだった。元気なライデンの姿を見て、フィードも元気になったようだ。
ゼノンがそのまま部屋の中へ入ると、窓辺にいたライデンがにっこりと笑って出迎える。
「御帰り。御免ね、心配かけたみたいで」
「…うん、大丈夫。仕事の方は、まぁ…何とかなるし」
そう言葉を零し、ライデンの隣へと腰掛ける。
「親父と、何を話して来たの?まぁ、俺のことだろうけど…やっぱり、どっか悪いの?俺」
ゼノンの横顔を眺めながらそう言うライデン。その表情は、やはり少し不安そうだった。
「いや…病気ではないよ。それは大丈夫」
「じゃあ…」
ゼノンは、大きな吐息を一つ吐き出すと、入り口で不安そうにしているフィードに視線を向ける。
「…フィードも、こっちに来てくれる?話を…一緒に聞いて」
「…はい」
不安そうなライデンと、不安そうなフィード。その二名に見つめられ…ゼノンも再び息を吐き出す。
そして、ゆっくりと"それ"を口にした。
「御前の、異変のことだけど…さっきも言った通り、病気じゃない。じゃあ何か、って言うと……」
一つ、息を飲む。
何よりも、一番不安なのはゼノン自身。けれど、先ほど上皇と話をして、ライデンなら不安に思わずにしっかり受け留めてくれるはずだと言われたはず。
それを、信じなければ。
口を噤んでしまったゼノンを見つめていたライデンは、ふとその口を開く。
「……子供…?」
「…ライ…」
思わず、ライデンの顔を見つめたゼノン。すると、目の前の顔はふっと微笑みに変わった。
「あ、もしかして、ビンゴ…?」
「………ビンゴ」
「やったぁ、大当たりっ」
くすくすと笑うその顔に…先ほどまでの不安の色は、確かに見えない。
「…本当ですか…?」
フィードも驚いた表情で問い返すと、ゼノンは小さな溜め息を一つ吐き出して頷いた。
「では…御祝いの御膳ですね」
にっこりと笑ってそう言うフィード。
「いや…そんなに慌てなくても…」
相変わらず素直に喜べないゼノンの言葉にも、フィードは笑みを絶やさない。
「わかっております。まだ公には致しません。ですが、身内だけなら宜しいでしょう?御世継ぎですよ?上皇様もきっと、御喜びです。雷神界も安泰です」
「大袈裟だよ、フィード」
余りの喜びように、ライデンの方が苦笑する。
「でもまぁ…良いんじゃない?たまには、フィードの好きにさせてやって」
くすくすと笑いながら、ゼノンにそう声をかけるライデン。
「…わかったよ。じゃあ、任せるね」
「はい」
にっこりと微笑んだまま、フィードは部屋を後にする。
浮かれた足取りで出て行ったフィードを見送ったライデンは、思わず小さな苦笑を零していた。
「…御免ね。フィードが一番浮かれてて」
「しょうがないよ。フィードが望むのは、何よりも御前の倖せであり、雷神界の平和、だからね。世継ぎが出来て安泰だと思えば、気持ちはわからなくはないし…」
「でも、あんたはあんまり嬉しそうじゃないよね?」
「…ライ…」
真っ直ぐにゼノンを見つめる、その茶色の瞳。
「別にさ、あんたを責めてるんじゃないよ?ただ、あんたのことだから…どうせ、何か不安だとか、心配だとかなんだろうな~と思って。でもそれは、医者としてなの?それとも、俺の伴侶として?」
何処までも見透かされていると思うのは…流石に長い付き合いだからなのか。
「ほら、フィードもいないし。はっきり言ってみ?」
ゼノンにぴったりと寄り添い、顔を覗き込むように見つめるライデン。
「…敵わないね、御前には」
小さな溜め息を吐き出し、ゼノンはそう零す。
ライデンに隠し通せないことぐらい、最初からわかっていたこと。
「…正直、不安で一杯だよ。俺は自分がされたことがないから子育てのことなんて何もわからないし、医者としても、何をどうしたら良いのか…まさか、子供だなんて想像もしてなかったし…」
「なのに、何で子供出来た、ってわかったの?」
「…それは…エースがね…」
「エース?」
思いがけず出て来た名前に、ライデンはきょとんとした表情で首を傾げていた。
「御前が倒れたって連絡が来た時、丁度ウチの執務室に来ていてね、話してたところだったんだ。御前の不調のこと。そうしたら、世継ぎのことね、周りからせっつかれてないのかって言われて…ダミアン様のところもまだだけど、向こうよりも先に結婚している訳だから、いつまでも呑気にしているんだ?って話をしていたんだ。そうしたら、雷神界から呼び出しがあって、向こうを出る直前に、エースが一度きちんと確認した方が良いって……」
「…ふぅん。エースはどうして思いついたんだろうね?別に、デーさんだって子供出来た訳じゃないでしょ?」
「…それを俺に聞かないでくれる…?まぁ、デーモンに子供が出来た訳じゃないのは確かだけど」
まぁ…ゼノンにはそこに辿り着いたエースの思考はわからないのだから、それを問われても困る訳で…。
「でも…確かにエースの言う通りだよね。俺はまだそこまで考えていなかったんだけど…ダミアン様も、顔には出さないけどルークを待たせているんだからってそれなりに焦りはあるんだろうし…俺が知らないだけで、御前も周りから何か言われているんじゃないか、って。そこまで察していたのかも知れない。考えていないとは言っても、エースたちだっていつその立場になるかはわからないしね」
「…まぁ、ね。結婚しなくたって、子供は望めるんだしね」
ゼノンの言葉に、ライデンはちょっと笑いを零す。
「そう言う御前も、何でわかったの?」
思わず問いかけたゼノンの声に、ライデンはその視線を真っ直ぐにゼノンへと向け、軽く細めた。
「俺はね…夢、見たんだ」
「…夢?」
「そう。この間、あんたが魔界に戻った後にね。何だか良くわからないんだけど、小さな光の欠片を見つけたの。何だか、凄く倖せな夢。その後からも、ずっと夢に見てた。さっきあんたにも言ったでしょ?良い夢見てた、って。誰かが呼ぶんだよね、俺のこと。言ってる言葉もわからないし、姿も見えないんだけど…確かに呼ばれてる、って。その夢に引っ張られるみたいに、妙に眠くなって…それで、仕事中に寝落ちして今日はこのザマだけど」
くすくすと笑うその姿に、ゼノンは溜め息を一つ。
ただ、確信がなかっただけで…誰よりも、本人が一番良くわかっていたのだと。
「…流石だね。この状況を平然と受け入れられて。上皇様が言ってたよ。御前なら、不安に思わずしっかり受け入れてくれるはずだ、ってね。確かにその通りだよね。困惑してるのは俺だけで、周りのみんなは素直に喜んでくれているもの。それが…多分、当然なんだよね。雷神界の世継ぎだもんね。御免ね、俺一名、着いていけなくて…」
小さな溜め息を吐き出してそう零したゼノンの顔をじっと見つめていたライデンは、小さく笑いを零してゼノンの手をそっと握った。
「だって、俺にはあんたがいるもん」
「ライ…」
「正直言うとね…老主たちから、ほんのちょっと、言われたことはあった。子供は、いつ頃予定しているんだ?ってね。まぁ、俺たちの様子から、直ぐに子供が出来ると思ってたみたいよ。だから聞かれたんだけど…俺としても、そんなに慌てるつもりはなかったんだ。だけどさ、俺たちの意思でまだ早いと思うのと、その気になってるのに出来ないのとは話が違うじゃん?その辺も引っかかってたみたいよ。何処か調子の悪いところはないのか、とか、結構頻繁に健診受けさせられたりとかね」
「…知らなかった…」
「まぁ、言わなかったし?あんたに心配かけそうでさ」
怪訝そうに眉を寄せたゼノンに、ライデンはにっこりと笑いかける。
「言われたからどうの、ってことじゃないんだけどさ。まぁ…そろそろ真剣に考えても良いかな~って。でも、子供が出来た、ってことはさ?俺独りの想いじゃない訳でしょ?あんたも、そう思ってくれてた、ってことじゃないの?」
問いかけられ、ゼノンはちょっと気まずそうに溜め息を一つ。
「まぁ…御前が望むなら、とは思ってたけど…余りにも突然でね…」
双方が望まなければ、実を結ばない。それは、魔族の同性間では当然知っているべきの前提である。つまり、今回子を成した、と言うことは、ライデンもゼノンも、同等の想いがそこにあった、と言うこと。
「そりゃ、俺だってそう見えないかも知れないけど…これでも、一応不安はあるんだよ?でも、俺は独りでいる訳じゃない。あんたはちゃんといてくれるじゃない。俺は、それで十分。これからのことは、一緒に考えていけば良い。子育てのことなら親父がいるし、俺が赤ん坊の頃に面倒見てくれた官吏もまだいるしね。物心ついてからのことは俺も自分でもわかってるし。まぁ、親の気持ち云々はさ、その時になってみないと実感はないだろうけどね。だから、一気に何もかもやろうとしないでさ、ゆっくり歩いて行けば良いじゃん。約束したでしょう?一緒に、倖せになる、って。だから、慌てない、慌てない」
「…そうだね」
くすっと、ゼノンから零れた笑い。
ライデンが、これほどまでに心強く感じるとは。流石雷帝、と言わざるを得ない。
「一緒に、頑張ろうね」
「うん」
握り締めたその手の暖かさは、決して独りではないと、教えてくれた。
それは、どちらに対しても。
季節は刻々と過ぎ、雷神界の長くて寒い冬が過ぎて暖かい春も終わりに近付いていた。
不安定だった雷帝の体調も漸く落ち着き、職務中の寝落ちもなくなって来た。
その事実を知っているのはまだ上層部と、ライデンの周りの官吏たち。そして、魔界の上層部のみであった。
「具合はどう?」
そう問いかけるのは、伴侶たるゼノン。
「ん…大丈夫。最近は調子良いよ」
久し振りに雷神界を訪れて来た伴侶を、にっこりと出迎えたのは、勿論ライデンである。
「それにしてもさぁ、子供出来たっつーから、腹膨らんで来るのかと思ったら…そうでもないのな」
自身の身体を見下ろし、凡その日数を指折り数えながらそう呟くライデン。その細身の身体は、昔と殆ど変わりはない。そんな姿に、ゼノンはくすっと笑いを零した。
「だって、御前は男性型でしょう?御腹で子供が成長する訳ないじゃない」
「だってさぁ…『子供が出来た』ってことは、『妊娠した』、ってことだろう?"核"が成長してるって言ってるじゃん?」
「確かに俺は、『子供が出来た』、とは言ったけど、『妊娠した』とは一言も言ってないんだけど…」
雷帝の血を受け継ぐ"子供"が生まれるまでもう少し。既にその身体に"生命"を宿してからも数ヶ月…その間、幾度説明しても、この雷帝は、『子供が出来た』=『妊娠した』だと思い込んでいるようであった。尤も、かつて彼らが任務で訪れた惑星では、子供を宿すことが出来るのは女性だけであり、『子供が出来た』=『妊娠した』と言う図式が成り立ち、『妊娠』=『御腹が膨らむ』ことであったのだから、仕方のないことなのだろうが…。
「何回も言ってるけど、御前は男だから幾ら待っても御腹は膨らまないよ。わかった?」
「でも、"核"は"子供"なんでしょ?」
「それはそうなんだけど…"核"って言うのは、カタチを持たないんだよ。だから、生命が宿っていても、別に御腹は膨らまないの。まぁ、御前の"生命"を糧にしているようなモノだから、御前が考えている『妊娠』よりも、負担にはなるんだけれど…」
----それにしても、元気だよね…普通、もっと辛いと思うんだけど……
敢えてその言葉を飲み込んだのは、相手が未だ不思議そうに首を傾げているから。
確かに初期の頃には、意識がぷっつりと途絶えるくらいの睡魔に悩まされていたり、空腹かと思えば気分が悪いと訴えたりしていた。けれど、"核"が育って来るにつれ、段々元気になって来たのだ。通常なら、"生命力"を糧にされているのだから、寧ろ辛くなるはずなのだが…まぁ、元々体力はあるのだから、それに耐え得るだけの耐性が出来た、と言えばそれまでなのだろうが。
何はともあれ、順調に"核"は育っている。あと数ヶ月もすれば、待ちに待った"世継ぎ"が生まれて来るはずであった。
そう。雷帝の血を受け継ぐ"一名の"世継ぎが。
季節は巡り、夏の日差しも緩くなり始め、感じる風がひんやりと感じるようになった頃…いよいよ、待望の"世継ぎ"がこの世に生まれ出でる準備が始まっていた。
徐々に疲労感が酷くなり、起き上がることも侭ならなくなったライデンは、夕べからずっと自室に籠ったままである。それが出生の兆しであると見たゼノンもまた、夕べから共にライデンの自室に籠りきりである。
「…大丈夫?」
ベッドに横になったまま、一向に動く気配のないライデンに、ゼノンは小さく声をかける。
「…気持ち悪い…頭痛い…それより…腹痛ぇ……」
小さな声が零れる。
「そろそろだと思うんだけど…御免ね、ちょっと見せてくれる?」
気遣いながら、そっとライデンが被っている上掛けの隙間から手を入れる。そして、御腹を庇うように丸くなって横になっているライデンの御腹にそっと触れる。
指先から感じるのは、ライデンのモノではない強い波動。見た目の体型が変わっていないだけに、それはある種奇妙な感覚だった。
「"核"は元気一杯みたいだよ」
くすっと、小さな笑いを零すゼノン。
「…その分、俺が辛い思いしてるからじゃんよぉ…」
事ここに至るまで、医師たるゼノンから事あるごとに言われていたことを思い出す。
身体の中に宿っている"核"は、その肉体の"生命力"を糧として成長するのだと。そして、出生間際の現在が、最も辛い状態であることも。
「…まだ…?」
荒い呼吸を零しながら問いかけるライデン。その表情は憔悴しきっている。
「そうだね。そろそろ準備始めようか。ちょっと待ってて」
ゼノンはライデンにそう声をかけると、部屋の隅で心配そうに見つめるフィードに後を任せ、部屋を出て上皇の部屋へと向かう。
「ゼノンです。失礼します」
ノックしたドアを開けると、そこには上皇と、ライデンの側近たるロシュ。そして、ラングレー総統、雷神界の医師たるルーアンの姿。
「…皆さん御揃いで…」
まるで、申し合わせたような面々を前に、思わずそう言葉を零したゼノンに、上皇は小さく笑った。
「あぁ、みんな心配しているようでな。まだかまだかと押しかけて来られた」
「そうでしたか…」
何から何まで行動を見透かされているようで、ちょっと奇妙な感覚ではあるが…彼等にとって大事な雷帝であり、大事な世継ぎなのだから、無理もない。
「御察しの通り…もう直です。御協力を御願いしたいと思いまして」
ここで臆する訳にはいかない。医師としても…伴侶としても。そんな思いで口を開いたゼノン。
「ライデンと子供の生命を護る為、万全を期すつもりです。その為には、わたし一名では何かあった場合に直ぐに対応することが難しいかと思いますので、立会いと、核を召喚する為の魔方陣に能力を分けていただきたいと…何分、わたしも核を召喚するのは初めてなもので…」
緊張した表情のゼノン。勿論、自信がない訳ではないのだが、何が起こるかはその時になってみなければわからないのだから仕方ない。
「あぁ、我々で事が足りるのなら協力しよう。どうせ、じっとしてもいられないようだからな」
上皇はそう言って押しかけて来た三名へと視線を向け、小さく笑った。
「では…宜しく御願い致します」
ゼノンは深々と頭を下げると、彼等を促して皇太子宮へと向かった。
再びライデンの自室へと戻って来たゼノンは、準備を整えると大きく息を吐き出した。
「…じゃあ、始めようか」
ライデンにそう声をかけ、ゼノンは床に魔法陣を描き始めた。
それを黙って見つめる眼差し。その場に立ち入ることを許されたのは、上皇とルーアン医師、ラングレー総統、ロシュ。そして、フィードの五名だけだった。
「…では、御願い致します。ゆっくりと、能力を送ってください」
魔法陣が完成すると、ゼノンは見守る眼差しを振り返り、そう言葉を零す。そして、頷きが返って来るのを確認すると、ベッドに横たわるライデンを抱き上げ、自ら魔法陣の中心へと足を踏み入れる。そしてライデンを抱えたまま、床へと腰を下ろした。
「それじゃあ、始めるよ」
「…うん」
幾度もシュミレーションを繰り返したように、大きく呼吸を整えるライデン。そっと閉じられた両の目蓋が微かに震えているのは、今から始まる儀式に緊張している所為だろうか。
ライデンを抱えたゼノンもまた、大きく呼吸を整える。そして、ゆっくりとその詠唱を唱え始める。
その一部始終を、固唾を飲んで見つめる者たち。その誰もが、新たなる生命の誕生を待ち構えていた。
ゼノンの詠唱が進むにつれ、魔法陣を満たす魔力が高まる。そしてその魔力が最高潮に達した時、ライデンの身体の中から、一つの輝きが姿を現した。
小さな輝きは、やがて小さな赤ん坊の姿へと変貌し、微かな泣き声を上げた。
「…おぉ!皇子の誕生だ!」
その声と共に、歓声が上がる。
だがしかし。その次の瞬間、もう一つの輝きが、ライデンの身体の中から現われた。そしてその輝きもまた、同じように小さな赤ん坊の姿へと変わっていく。
「…まさか…」
詠唱を終えたゼノンは、目を見開いてその様子を見つめていた。勿論、立ち会っていた誰もが同じように息を飲んだ。
薄れていく意識の中で、ライデンが聞いた泣き声は…"二つ"、だった。
暗い闇の中を、ふわふわと漂っている感覚。けれど、その意識の片隅に、小さな泣き声が聞こえる。
泣き声は一つではない。二つである。それは紛れもなく…自分が先程生み出したはずの、雷神界の"世継ぎ"たる赤ん坊の泣き声。
----何で…"二つ"…?
そう思った瞬間、意識は急激に引き戻された。
目を開けてみれば、見慣れた自室の白い天井。泣き声は…聞こえない。
「…気が付いた?」
そう声をかけられ、視線を巡らせてみれば、柔らかく微笑むゼノンの姿。
「…"子供たち"は?」
その言葉は、ごく自然にライデンの口から零れていた。
「…ここにはいないけど、今は眠ってるよ。逢ってみる?」
表情を変えず、ゼノンは答える。
「勿論」
即答したライデンは、ゆっくりとベッドから身体を起こす。そしてゼノンに促されるままに、隣のゼノンの部屋へと足を運んだ。
そこには、以前から用意してあったベビーベッドが置いてある。そして医療用の魔法球がそのベッドを大きく包み込んでいた。
思わず息を飲んだライデンに、ゼノンは小さく笑う。
「驚いた?元気は元気なんだけれどね。身体が小さいから、保護しているんだ。人間界で言う保育器みたいな役目だから、あれに関しては心配いらないよ」
「…そう」
僅かに安堵の溜め息を零すライデン。けれど、まだその真実を自分の目で確かめてはいなかった。
「…ねぇ、ゼノン…俺の気の迷いでなければ……泣き声は、二つ、だったよね…?」
戸惑いながら、ゆっくりと問いかける声。ゼノンはその言葉を最初から予測していたのだろうか。その表情には、先程と変わらない穏やかな微笑が浮かんでいた。
「…おいで」
ライデンの手を取り、ゼノンは魔法球の中へと足を踏み込む。
ベッドに横たわる赤ん坊は二名。片方は薄茶色の髪。もう片方は金色の髪。まだ生まれて間もない所為もあり、良く見なければその髪の色の判別は難しかった。けれどそれよりもはっきりと判別出来たのは…金色の髪の赤ん坊がその顔に戴いた、雷神族の証とも言える、稲妻の紋様だった。
「良かったね。双子だったのは予想外だったけれど、ちゃんと世継ぎは生まれてるよ。最初に生まれたのは薄茶色の髪の子。世継ぎは、後から生まれた方だった。双子で生まれたから、身体も小さいし、魔力も平均以下だと思う。成体になれば、その差も埋まるとは思うけれど…双子のリスクを埋めるには、時間がかかりそうだね。でも、雷神族の血を引いているのなら多分そんなリスクは気にならないと思うよ」
ゼノンは、表情を変えずにそう口にしていた。
けれどライデンは…その声を聞きながら、何とも言えない複雑な心境であった。
「…あんたも、気付かなかったの?双子だったってこと…」
思わず問いかけた声に、ゼノンは小さな溜め息を吐き出した。
「…御免ね。そこまではわからなかった。ただ、少し波動が強いなとは思っていたんだけど…核が分裂しているとは思いも寄らなかった。それは俺のミスだけれど…"彼等"は生まれてしまったんだ。今更どうすることも出来ないでしょう?」
その表情が、一瞬苦悩に歪んだのを、ライデンは見逃さなかった。
予想外の展開に、一番驚いているのは主治医でもあったゼノンだろう。そして、継承の証である稲妻の紋様は持っていなくても…同じ血を分けた子供がもう一名、生まれてしまったのだから。それが何れ、争いの火種にならないとは限らないのだ。
けれど、生まれてしまった以上、放って置くことは出来ない。どちらも、ライデンが生命を削ってまで育てた"核"から生まれた子供であり、ゼノンにとっても大事な子供なのだから。
生まれ出でた生命を無駄には出来ない。その想いは、ライデンもゼノンも同じだった。だからこそ…ゼノンは、その決断をせざるを得なかった。
「…次期王位継承権を持っているのは一名だけ。でも、同じ血を分けた兄弟だからね…もう一名が王位を狙わないとも限らない。だから余計な争いを避ける為に、もう一名の子は俺が魔界へ引き取るよ。それで問題ないよね?」
ゼノンは、ライデンの顔を見ない。視線を真っ直ぐに子供に向けたまま、そう言葉を発していた。
多分…誰よりも責任を感じているのは、このゼノンなのだろう。余計な争いを避ける為には、それが一番有効な手段なのだ。けれどそれが明らかな今、ライデンにはやるべきことは一つだった。
ライデンは大きく息を吸い込み、にっこりと微笑んだ。
「…二名共…暫く、ここで育てるよ。だから、二名の名前付けなきゃね。名前がないと呼べないもん」
「…ライ…」
その、予想外に明るい声に、ゼノンはやっとその視線をライデンへと向けた。
「どっちも、俺たちの子供だよ。世継ぎは一名だとしても…二名とも同じように俺が産んだ子だもん。同じように育ててやりたい。魔界へ引き取るのは、今すぐじゃなくたって良いでしょう?」
「でも…自我を持つようになってからじゃ…自分たちの立場を知ってからじゃ、傷付けることになるよ?」
不安そうな眼差しを向けるゼノンに、ライデンはにっこりと微笑んで見せた。
「大丈夫だよぉ。あんたと俺の子だもん。そんなに身分に執着するとは思えないよ」
くすくすと笑うライデン。
「信じて、あげようよ。ね?」
そう声をかけられ、ゼノンは大きな溜め息を吐き出した。
「…わかったよ。御前がそう言うならね。でも、後で困っても知らないよ?」
「大丈夫、大丈夫」
「…もぉ。楽天家なんだから…」
そう零しつつも、ゼノンの表情も幾分柔らかくなった。
信じられると思ったのは…彼らも"親"になったから。だから、自分たちの子供を信じられると言う確証があったのだ。
「名前、どうしようか?」
改めて、子供たちに視線を向ける二名。一つのベッドで穏やかに眠る小さな二つの姿を前に、親としての実感が嬉しくて…ついつい、顔が綻ぶ。
「ねぇ?こっちの子が雷神族の血を引いてるんであれば、もう片方はあんたの血を引いてるってこと?だったら、鬼の種族かなぁ…?」
二名の赤ん坊を眺めつつ、ふとライデンがそう口を開いた。そして手を伸ばして稲妻の紋様のない子の頭に触れた。
小さな小さな頭。そして、羽根のように柔らかい髪の毛。けれどそこに、角の感触はない。
「それはまだわからないよ。雷神族の血筋はどの種族よりも強いでしょう?だから、純粋な鬼ではないと思うよ。元々、鬼は純血じゃないと殆ど能力を持たないから、鬼として覚醒する可能性はかなり低いかな」
「そっか…なんか、残念だな…角もないみたいだし…折角、あんたの血筋も残ったかと思ったんだけど…」
魔界に於て、鬼の種族は確実に少なくなっている。ゼノン自身は自然発生で生まれているから、その血は純血であるが…現在生存している鬼の多くは、多種族との掛け合わせも多いのが現状。だからこそ、角があっても鬼として覚醒しない例も少なくない。それが、衰退していく結果となるのだ。
「別に俺は、後世を残すつもりはなかったからね。拘る必要はないよ。雷神族の血筋さえ、きちんと残っていれば良いんだから。それはクリア出来た訳だし、後は二名が無事に成長してくれれば言うことないよ」
「…まぁ、ね」
何よりも、ただ無事に育ってくれればそれで良い。もう一名の子供の種族の問題など、二の次、三の次、なのだから。
「名前…ゆっくり考えよう」
ゼノンの言葉に、ライデンはにっこりと微笑んで頷いていた。
数日後。二名の子供たちの名前が決まった。
兄であり、薄茶色の髪と、碧の瞳。ゼノンの容貌と良く似ている子は、ゼフィー・ゼラルダ。通称ゼゼ。
弟であり、金色の髪と、茶色の瞳。雷神族の後継者たる子は、ラライ。通称ララ。
両名とも、親であるゼノンとライデンから名前を貰ったことは言うまでもない。
この先、この両名共に様々な試練が待ち受けているが…それは、彼らがもう少し大きくなってからの話である。
今は、この細やかな倖せを実感している親たちであった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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