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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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ぬくもり 前編
こちらは本日UPの新作です。

拍手[2回]


◇◆◇

「おいで」
 そう言って、差し伸べられたその手。
 ココに、おいで。
 微笑むその顔に…つい、手を伸ばす。
 手を取られ、引き寄せられ、ポスッと収まったのは、胡坐をかいたその膝の中。
 背中に感じるのは、相手の体温。そして全身を包まれるような温もりが、とても心地良い。
 けれど…そんな安らぎは、長くは続かない。
 抱かれた記憶は、それっきり。その後は…寧ろ、彼にとっては封じてしまいたい記憶。
 だから…忘れてしまおう。

----これが最後、だから。

 それは…決して思い出すことのない、消された記憶。二度と思い出すことのない過去、だった。

◇◆◇

 それはまだ、彼の一族が名を馳せていた頃。
 魂の融合と血の覚醒。一般的にも用いられる血筋を残す為の手段であり、どの種族も同様の手段で生命を繋いでいたはずだった。
 彼の一族を、除いては。
 彼の一族の生命は、全て長と繋がっている。尤もそれは内密であり、一般には知られていない。かなり特殊な発生形態を持つ彼の一族。当然、彼以外の者もみんな長の子と言えばそう言う事になる。勿論、彼もその一名に過ぎない。
 けれど、唯一その一族の名を受け継いだ彼。当然、その能力もまだ小さな子供ではあるが、誰よりも優れていると言われていた。そして何よりも、一番受け継いだのはその歌声、だった。
 言魂師として名を馳せる一族に伝わる"歌"。彼は、誰よりもその"歌"を…その旋律に乗せた"言魂"を、扱うことが上手かった。誉れ高きその歌声は、一族の誰よりも美しかった。当然、長の寵愛を受け、ある意味誰よりも大切にされていたはず。
 彼自身も、そう思っていた。
 自分は誰よりも、愛されていると。一族の跡取りとして、大事にされていると。だから、その名を貰ったのだと。
 けれど、そうではなかった。それを知った時…彼は…何も出来ない自分を、嘆いた。
 自分は…何て、無力なんだろう、と。
 そんな時、偶然迷い込んだ名も知らない悪魔に諭された。
----未来を拓くのは、御前だ。一族の未来も…魔界の未来も、御前が拓いていくんだ。御前には、それだけの能力がある。だから、勇気を持って。
 そこが…彼の、ターニングポイントだった。

◇◆◇

 その日、父親たる一族の長の部屋へと呼ばれた彼は、窓辺でのんびりと寛いでいるその姿を前に、呼ばれた理由を探っていた。
「ディー、おいで」
 戸惑う彼に向け、差し出されたその手。いつになく機嫌の良い長は、戸惑いながら差し伸べた彼の手を取ると、自分の膝の上へと抱き上げる。
「…どうしたの…?」
 膝の中にすっぽりと収まりつつ…いつもと違うその様子に、彼は相変わらず戸惑いの表情を浮かべたまま。けれど長は、その大きな手を彼の頭の上に置くと、そっと撫でる。
「今日は良い天気だから、御前の歌が聞きたいと思ってな。御前の歌声は魔界随一だからな」
「…歌…」
 長が、彼の歌声を高く評価してくれていることはわかっていた。言魂師として、優れた能力を受け継いだ彼。その歌声も然り。一族に伝わる"禍歌"を扱うのは誰よりも上手い。当然、長の寵愛も受ける訳だが…当然、それが気に入らない者も多い。彼も幼いながらにも、それは重々承知していた。
 けれど今は…自分だけに注がれる愛情を、堪能したい。
 そんな想いから、彼はその"歌"を口にする。
 歌いたい訳ではない。けれど…それしか、その想いを引き止める術を知らなかったから。
 一曲歌い終わると、彼の頭に置かれた長の手が、そっとその頭を撫でた。
「流石だな、ディー。相変わらず、御前の歌声は美しい」
 その温かい手の温もりに、ほんのりと口元が綻ぶ。
 褒められれば、素直に嬉しい。それは、束の間の幸福感。
 だがしかし。
 その直後。ノックの音と共に薄く開かれた扉。
「老、ちょっと良いですか」
 そう言って顔を覗かせたのは…一族の中でも戦士として有能なエリオス。肩までのプラチナのストレート、青い紋様を頂いた顔と深い碧色の瞳の彼女は、戦士ではあるもののその達者な口は流石一族の有能者である。
「どうした?」
 長の視線がエリオスへと向く。彼もまた、その不穏な空気を感じてその視線を彼女へと向けた。
 当のエリオスは…と言うと、真っ直ぐに長を見つめている。
「御話しがあります。ディーは…席を外してくれる?」
 そう言いながら、一瞬彼へと向けられたその眼差しは…ゾクッとするほど、とても冷たい。
「わかった」
 長はそう返すと、膝の上に座っていた彼の背を押して立ち上がらせる。
「ディー、部屋に戻っていなさい」
 長に背を押され、遠ざかる温もり。一瞬その顔を振り返った彼だが…既に自分には向いていないその眼差しに、小さな溜め息を吐き出す。そしてドアへと足を向け、彼女とすれ違う瞬間、射るような視線が降り注いだ。
 見上げたその視線に返って来たのは…見下すような、愚弄するような…冷たい眼差し。
 その眼差しを一瞥し、彼は自室へと足を向けた。
 嫌な予感がする。
 その直感は…直に、現実となった。

 数日後。彼は再び長の部屋へと呼び出された。
 そこにいたのは…長と、エリオスの二名。
「…何か…」
 怪訝そうにそう問いかけた声に、長が口を開く。
「次の入学の時期に合わせて、士官学校へ入ることが決まった」
「…士官学校、って…誰の、ですか…?」
「御前の、だ。デーモン」
「……は?」
 いつも呼ばれる愛称ではなく…彼の本名で、呼びかけられた。そんな言葉に思わず眉を潜めたのは…彼には全くその心当たりがなかったから。
 学習面、技術面に関して、一族の者に手解きは受けていた。なので、無理に士官学校に入る必要はない。そのまま一族の中で過ごし、何れ長の後を継ぐ。それは、昔から彼が長に言われていたことだった。
 だがそれを翻すように、急に士官学校の入学の話を持ち出され…当然、戸惑うのは彼自身。
 次の入学の時期となると、もう目前。あと一月もなかったはず。
「…一体、どう言う…」
「学習面、技術面に関しては今のところ何の問題もないが、士官学校に入らねば身に付かないこともあるだろう。同年代の中で揉まれるのもまた良い経験になるだろう」
 平然とそう言う長を前に、彼は当然唖然としている。けれど…長の隣のエリオスへとふと視線を向けた瞬間、表情を引き締め、ぐっと唇を噛み締める。
 長の隣で…エリオスは、微笑んでいた。まるで…目的を果たして満足しているかのように。
「簡単で良い。荷物を纏めておけ。必要な物のリストは、エリオスが用意しておる。それに従うように」
 その言い回しは、既に決定事項。覆すことは出来ない。そう言っているようだった。
 つまり…彼は、それに従うしかない。
「……はい…」
 納得は出来ない。自分がこの場所を離れたら…長の性格を考えると、暴君と化すだろう。誰も、長を止めることはない。寧ろ、それが一族の発展の為だと…それが当然だと、唆すだろう。
 それがわかっていながら…彼は、その現実を飲み込むしかなかった。
 自分たちの運命は…長の手の中にある。それは、彼らが長の生命で繋がっている以上、抗うことの出来ない真実なのだから。
 小さな溜め息を吐き出し、踵を返した彼。そして長の部屋を出る。エリオスは彼の後を追うように一緒に部屋を出ながら、小さな紙切れを彼へと差し出した。
「必要な物はこれだけよ。制服や教科書は入学までには届くはずだから」
 見上げたエリオスの表情は、いつもと変わらない。けれどそれが尚更、彼の気持ちを逆撫でした。
「…長を唆したのは貴女でしょう?吾輩を士官学校に追いやって、何をするつもり?」
 苛立ちを押さえながら問いかけた声に、エリオスはくすっと笑った。
「ヒト聞きの悪いことを言うわね。まぁ、今更貴方が何を言ったところで現状は何も変わりはしない。貴方は士官学校に入るのよ。そこで、しっかり勉強していらっしゃい。貴方がいない間…私がちゃんと、老の相手をするから。何の心配もいらないわ」
 くすくすと笑うエリオスに、彼は睨むような視線を向ける。
「…吾輩を追い出してまで…長に取り入って、この一族を支配したいの?」
 すると、エリオスの表情がすっと変わった。そして、彼へと向けた眼差しは…とても鋭い。
「当たり前でしょう?この国を支配するのは、少しでも大きなチカラが必要なのよ。老は、貴方が思っているよりもずっと大きな力を持っている。幾ら、貴方がその能力の大半を引き継いだと言っても、それでも桁外れの能力をね。私は、それが欲しいのよ。はっきり言ってしまえば…幾ら"歌"を扱うことが上手くても、そんなモノは基盤たる身位がなければ何の役にも立たないわ。意気地も度胸もない貴方はただ邪魔なだけ。士官学校でも、何処へでも行けば良い。本当はもっと遠くへやりたかったけれどね。これでも気を使ってあげたのよ?それが、私の本心よ。尤も、それがわかったところで…貴方には何も出来ないでしょう?これから士官学校へ入るのですものね。せいぜい、指を銜えて見ていれば良いわ。私が…老と一緒に、この魔界を支配下に置くところを…ね」
「…エリオス…」
 笑いながら、長の部屋へと戻って行くエリオスの背中を睨みつけるものの…彼女の言葉の通り、今の自分には何も出来ない。
 強く唇を噛み締め…ただ、現状を受け入れるしかなかった。

◇◆◇

 屋敷の地下にある、鍵のかかった書庫。そこは、一族の重要書類と書物があると言われていた。勿論、鍵がかかっている以上、誰でも入れると言う訳ではない。
 夜も更けた、薄暗いドアの前…佇む、小さな姿が一つ。その手に握られた鍵は、昼間隙を見て長の部屋から持ち出したもの。それを鍵穴へと差込み、小さく呪を唱えながら鍵を捻る。
 カチリと小さな音を立て、鍵が開く。小さく吐息を吐き出すと、そっとドアを開け、滑り込むようにその書庫の中へと姿を消す。
 ドアを閉めた書庫は、当然真っ暗。呪を唱え、その手に小さな光の玉を呼び出すと、その光を頼りに書物を探す。
 なかなか目当ての書物は見つからなかったが…何度も書庫を回り、やっとで目的の書物を見つけた。
「…あった…」
 それは、彼の一族の素。全てを繋ぐ血筋を作る方法が書かれているはず。
 一般的に後世を残す手段は、魂の融合と血の覚醒と言われている。けれどそこには、掛け合わせる"親"となる血筋が最低二名は必要となる。
 だがしかし。彼の一族は、長一名の血で繋がっている。その方法を、知りたかったのだ。そして彼が見つけたその古い書物には、その方法が記されていた。
 全ての血が、長と繋がっている一族。その血を確実に受け継げる半面、長が倒れればそこで一族は消えてしまう。だからこそ、それを防ぐ為に内密にされている。勿論、その手法もこうして内密に保管されていたのだ。
 ゆっくりとページを捲る。そしてそれが記されているページを見つけると、ざっと目を通し…そしてその数枚のページを破り取る。それをポケットへと押し込むと、書物を元通りに戻し、元通りに鍵をかけ、書庫を後にする。
 全て…内密に。誰にも知られないように…誰にも、同じ過ちを繰り返させぬように。
 全てを飲み込んだ彼は、何もなかったかのように自室へと向かう。そうして、そのまま黙ってベッドへと潜り込むと、先ほどポケットへと押し込んだ数枚のページをそっと引きずり出す。
 枕元の灯りを頼りに、もう一度その紙に目を通す。
 何度も読み返し、頭の中でそれを整理して、噛み砕き、理解する。そうして出した結論が…最良の結果になるように。
 まだ"子供"の彼ではあるが、その手法に必要な魔力は十分にある。そして、その頭脳も。
 破り取ったページは、見つからないように日々その隠し場所を変えた。
 そして…運命の日が、訪れる。
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