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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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ぬくもり 後編
こちらは本日UPの新作です。

拍手[2回]


◇◆◇

 士官学校へ入る前日の夜遅く。
 自室の鍵をしっかりと閉め、更に結界を張る。そうして、決して誰も入り込めない…そして、誰からも気付かれないように最大の配慮を払う。
 大きく息を吐き出した彼は姿見の前に立つ。そこに映る"彼"の顔は…緊張で強張っている。
 本当に…自分に出来るだろうか…?
 そう思いながらも…最早、彼に残された時間は今夜一晩だけ。明日になれば、強制的にこの場所から士官学校へと移されてしまう。そうなったら、もう手立てはないのだ。
 再び、大きく息を吐き出す。そして覚悟を決めたように、左手で握っていたナイフで、右手の人差し指に傷を作る。そして、その溢れ出た血で姿見に血の魔法陣を描く。
 魔法陣を描き終わると、その中央に反対の掌を当て、幾度も練習した通りに呪を口にする。そして、誓約の言葉を唱え、誓いを立てる為に鏡にそっと口付けた。
 その途端、姿見から光が溢れる。その光に目が眩み、思わず両腕で顔を覆う。
 そして暫し。光が薄らいで来ると、漸く彼は再び鏡へとその視線を向けた。
 目の前には…真っ直ぐに、自分を見つめる金色の眼差し。そして彼と同じ白い顔に青い紋様、頬に灰色の影。そして金色の髪。それは、鏡に映った彼の姿に他ならない。
 だが、しかし。
「……成功…したの…?」
 小さくつぶやいた声に、鏡の中の自分も口を開く。
『…早く…』
「あ……っ」
 思い出したように、慌てて鏡に手を触れる。そしてそのまま意を決して鏡の中へとぐっと腕を押し込む。すんなりと鏡の中へと吸い込まれたその手で、もう一名の自分の腕を掴むと、力一杯自分の方へと引き寄せた。
 その途端、鏡の中から現れた、もう一名の自分。勢い余って、一緒に床に尻餅をついた。
「…出来た…」
 ドキドキと高鳴る胸を押さえ、やや高揚した表情で零した声に、もう一名の自分が笑いを零した。
『大丈夫?』
「…大丈夫…」
 大きく息を吐き出し、改めて目の前の姿に視線を向けた。
 鏡から呼び出した、もう一名の自分。姿も声も、全く同じ。唯一つ違うのは…相手も、しっかりとした意思を持っている、と言うこと。尤も彼は…その意思を信じて、呼び出したのだが。
『…で?』
 彼の出方を眺めつつ、自分が何の為に呼び出されたのかがまだわからない相手に、彼は頭をフル回転させる。
「…まず、名前を付ける、だよね。えっと……」
 暫し思いを巡らせ、ハッとしたようにその視線を合わせる。
「"ディー"!御前、"ディー"ね!」
『"ディー"って…御前の呼び名じゃないのか…?』
 元々彼と同体なのだから、一応、彼の周りの事は何となく把握はしている。だから、彼が"ディー"と呼ばれていたことも知っていた。
 だが、問い返した声に…彼は、表情を暗くする。
「…多分…吾輩は、もうその名では呼んで貰えない。その名は、吾輩が子供の時だけ呼んで貰える愛称だ。長は…吾輩を、"デーモン"と呼んだ。それは、もう一族の名を継いだのだから子ども扱いはしない、と言うことだ。だから…その名は、御前にあげる。御前は…吾輩の"子供"、だから」
 彼の言葉の意味は、相手には…"ディー"には、理解出来た。
 "ディー"が生命を持つ為の誓約。それは、父親たる長が、一族を築いて来たやり方とほぼ同じ。自分の生命を削って生み出した生命だからこそ、"子供同然"、なのだ。
 ただ、長と違うところは、その能力の大きさ。流石にまだ子供の彼は、長が彼らを生み出すことに使ったほどの魔力を持っていなかった。だからこそ、長のように新しい生命を一から作るのではなく、鏡に映る自分の分身に別の生命を宿す、と言うカタチに至ったのだ。
「…"ディー"、御前に…吾輩が今まで生きて来た生命の半分と、その生命に見合っただけの魔力をあげる。今から御前は、吾輩の身代わりだ。御前は鏡の中の吾輩だから、鏡の中にいれば吾輩と同じ成長をする。鏡への出入りは自由だが、食事も睡眠も全て吾輩が担う。だから吾輩の代わりに…ここで、長を見張っていてくれ」
 "ディー"の顔を見つめ、改めてそう誓約を口にする。
『…吾輩を生み出したことで、自分の生命を縮めることになるんだぞ?本当に…それで良いのか?』
 改めて問い返す声に、彼は頷いた。
「それで良い。吾輩は、士官学校に入らなければならない。今のこの一族には、長を抑える役割を持つものはいない。このままでは…長はいつか必ず、暴走する。それを見過ごすことは出来ない。だから…"ディー"に、頼むんだ。長を見張って。もし、暴走するようなことがあれば…容赦なく、手を下して良い」
『…御前がそれで良いのなら、吾輩もそれで良い。御前の生命を半分貰ったんだ。その分の仕事はする。ただ…長が何も行動を起こさなかったとしても…吾輩が生命を使い果たした時は、御前の中から吾輩の記憶は消える。それでも…良いな?』
 今の彼の生命の半分を貰ったとは言え、それは今まで生きて来た分の生命。恐らく、彼が士官学校を卒業する頃には、何もしなくても消えてしまうだろう。
 それでも…そうしなければならないと決断したほど、彼の長への想いは深かった。
 何とかして助けられるものなら。その為に、自分の生命を削ってまで、見張りを立てた。彼の"子供"だからこそ、"ディー"はその想いを受けるしかなかった。
「…良いよ。どうせ吾輩の生命も長の手の中…だ。士官学校を卒業さえすれば、吾輩が何とかする。ただ、それまでに御前が消えてしまっても…他の誰も、同じことを繰り返さないように…この儀式の記憶も、全部御前に託す。全部、消してしまえば良い。吾輩に…一族の過去は、いらない」
 そう言いながら、彼は手を伸ばす。そして、目の前のもう一名の自分を、強く抱き締めた。
「…長く生きられない生命しかあげられなくて御免ね。御前を忘れてしまう吾輩を、許して欲しい。限られた場所で、限られた生命だけど…吾輩の過去を全部、御前にあげるから」
『吾輩は、大丈夫。長のことは、吾輩に任せて…御前は、強く生きて』
 そう言って、彼のその唇に口付ける。
 誓いの口付け。契約は、それで成立する。
 強く…強く、繋がった心。そして、その想い。それが…絆と、言うもの。
「…頼むね…"ディー"…」
 目を伏せ、額を寄せる。
『任せとけ、"デーモン"』
 くすっと笑った相手の姿が、とても心強かった。

 翌日の朝早く…彼は、士官学校へと旅立って行った。
 その背中を、もう一名の彼は彼の部屋の中から、そっと見送っていた。
 もう…二度と触れ合うことのない、たった一名の"血族"の姿を。

 そして、時は流れる。
 あの、運命の日まで。

◇◆◇

 その夜の月は厚い雲の覆われていて、その姿を隠していた。
 全てを知っているのは…ただ、一名。
 これで全て終わると思っていた。彼も、もう一名の相手も。
 けれど…どう言う訳か、生きている。未だ…生命を、繋いでいる。
 半ば混乱する意識の中で…出逢った悪魔。
「早く、行けよ」
 その一言が、その意識を正気に戻したのかも知れない。
 小さく息を吐き出し、自分に背を向けている赤き悪魔の背を見つめたまま、小さなつぶやきを零した。
「…有り難う」
 そして、踵を返して走り去る。
 いつまで…生きていられるのか。それは、わからない。
 消えなかった生命。けれど、多分…自分はもう、長くは生きられない。だからこそ、急がねば。
 懸命に走り、何とか自室へと辿り着く。そして荒い息を零したまま、鏡に手を触れた。
 早く、行かなければ。この想いを…届けなければ。
 その想いは…彼に、届いた。


 デーモン一族の長が、軍隊長を務めると言う噂を聞いた数日後の夜。厚い雲が月を覆い、一筋の明かりすら差し込まない闇夜。そんな中、彼は鏡に映る自分の姿をじっと見つめていた。
 噂は真実だった。明日になれば、長は軍隊長に任命されるはず。そこから先は…恐らく、誰も想像はしていないだろう。
 まさか…名高きデーモン一族が…魔界に反旗を翻そうとしている、だなんて。そして、軍を乗っ取り、魔界そのものを手に入れようと目論んでいるだなんて。
 あの日から…どれくらい、時間が経っただろうか。あの頃に比べれば、身体の大きさだけではなく、魔力も随分上がっていた。そして、その誉れ高き言魂師としての能力もまた、あの頃とは比べ物にならないくらい上がっていた。
 デーモン一族の跡取りとして。望んではいない評価が彼の背後にはいつもあった。
 けれど…もう、そんな評価は必要ない。
 時は…既に、満ちていたはず。
 そんなことをぼんやりと考えていると、何処かで自分呼ぶ"声"が聞こえた気がした。
 耳を、澄ます。けれど、それは実際に呼ばれている"声"ではなかった。
「…"ディー"…?」
 ハッとしたように鏡に触れ、そっと呼びかける。そこには鏡で繋がっているはずの、もう一名の自分がいるはず。
 自分の生命は、途切れてはいない。だから長も…まだ、生きているはず。けれど、妙な胸騒ぎがした。
 呼びかけた声に、直ぐに鏡の向こうの姿が変わった。
 いつもよりも…呼吸が荒い。そして顔色が悪い。そう思うのは、気の所為だろうか。
「大丈夫?」
 問いかけた声に、小さな溜め息が返って来る。
『…消える…』
「…"ディー"…」
 自分が与えた、生命の半分。その限界が、目の前にあるのは彼にもわかっていた。
『…長は…もういない。一族みんな、消えたよ。吾輩が、手を下した。でも、どう言う訳か…吾輩たちは、生きている。何で…だ?』
 自分を真っ直ぐに見つめる、金色の眼差し。それを見つめ返す眼差しも、同じ金色。
「…わからない。吾輩…何処か、読み落としたか…?」
 困惑した色を乗せた眼差しが、そっと伏せられる。
 あの日…儀式の手順を記したあの書物。破り取ったのは、必要な箇所だけ。若しかしたら…残されたページに、その理由が書かれていたのかも知れない。
 けれど、もう遅い。書物はあの書物庫にある。今から取りに行っている時間はない。もう一名の自分が消えたら…記憶は、消えてしまう。もう…儀式の事も、自分を見つめるもう一名の眼差しも何もかも…記憶に残らない。
 大きく息を吐き出したのは…鏡の向こう。
『…吾輩は…もう直、消える。多分、あと少しで。でも、吾輩はそれで良い。ただ…御前が、何処まで生きられるのか…それはわからない。御前も吾輩のことは全て忘れてしまうだろうから…この話も、覚えてはいられない。ある日突然、生命が尽きるのかも知れない…』
 そう。それはある種の賭け。今一時、生き永らえているだけで…いつ消えても可笑しくはない。それが、血族としての繋がりならば尚更。
「…それでも…良いと、納得したのは吾輩だ…」
 大きく息を吐き出した彼は、鏡に額を押し当てる。
 冷たい感触。鏡なのだから、温もりなどない。けれど…繋がった心は、その温もりを伝えていた。
 相手が消えてしまったら…その記憶も全て、消える。そう約束した。
 何も、残さなくて良い。何も、思い出さなくて良い。相手が生きていたことも…彼の為に、相手がやったことも。
 何もかも…記憶から、消え去る。
「…御免な…"ディー"…」
 自分で選んだ選択肢。けれど、それがずっと心の奥に引っかかっていた。
 もっと、自分の能力が強ければ。もっと、自分が長く生きていたのなら。相手の生命も、もっと長く続いたはず。だからこそ…胸を抉る。
『…後悔はするな。選んだのは御前であり、吾輩自身だから。御前の過去は…吾輩が貰って行くから。それで十分。何の心配もいらない。だから…精一杯、生きろ』
「…"ディー"…」
 にっこりと笑う、鏡の向こうの自分。相手にとっては、それが自分の運命だと最初からわかっていたこと。だから、思い残すことなど何もない。
『ちょっとだけ…消えない良い記憶をあげる。これが最後、だから』
 そう言った相手から、ヴィジョンが流れて来る。
 黒を纏った…赤き悪魔。その鼓動も…声も…まるで、彼自身が、経験したかのような…そんな生々しささえ感じる。けれどそれは嫌悪感など少しも感じない。寧ろ…胸が高鳴る。
 目を閉じて、暫しその微かに甘い感覚に酔い痴れる。
 そうして…彼がもう一度目を開けた時には……そこには、鏡に映る自分がいた。
 赤い…血の涙を流した、ただ一悪魔の自分が。
「……吾輩…何を……?」
 今まで、何をしていたのか…全く、記憶がない。夜中に、ただ鏡に額を押し当てていただけ。そして…血の涙を、流していただけ。
 それはまるで…夢遊病のようで。
 訳もわからないまま、彼は朝を迎えた。

◇◆◇

 微かな記憶が、そこにある。
 消えなかったのは……愛する"親"への想い。そして…出逢ったことのない、記憶だけの赤き悪魔の姿。
 幾度となく、すれ違う記憶。その理由は…彼にもわからない。
 記憶と共に消えた、深い想い。ただ…その胸の傷だけは、消えることはなかった。
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筋金入りのオジコンです…(^^;
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