聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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恋衣
生まれて初めて、自然発生のその瞬間を見た。
それは、とても綺麗で、息をすることさえ忘れてしまうくらいの目映さだった。
そして、後にそれが初恋だったのだと気付いた。
初めて出逢った、生まれたばかりの悪魔。短い白金の緩いウエーブの髪に、赤い紋様。そして、真っ直ぐ自分に向けられた眼差しは、綺麗な碧色。
その色は…未だに、翳ることのない光のようだった。
「ねぇ、あんたの好きなタイプって、ダミ様じゃないんでしょ?どんな悪魔がタイプなの?」
呼ばれたその執務室の主…ルークに不意にそんな話を振られ、一瞬何の話か…と他悪魔ごとのように聞いていた彼。
「…ねぇ、ジュリアン?」
「………わたくし、ですか?」
「あんた以外に誰がいるのさ」
「……誰もいませんね」
確かに、この執務室の中にはルークと彼以外には他に誰の姿もない。つまり、今の話は完全に自分に向けられた話題なのだと、今更ながらに気がついた。
「…それを知って、どうなさるおつもりで?」
「うん?ただの興味本位。後は、強いて言えば…あんたがほんとに、俺のライバルにならないか否か、ってとこかな」
そう言いながらにっこりと微笑むその姿に、彼…ジュリアンは溜め息を一つ。
「何度も申しましたが、わたくしはダミアン殿下の好みの範疇ではありませんので…」
「まぁ、それは何度も聞いたよ。でもさ、同じ色を持っていて、似たような容姿なのに、好みの範疇じゃないってのは変じゃない?」
「容姿だけが好みであるなら、容姿が変わってしまえばもうその想いは続かないのでは?ダミアン殿下は、"貴殿そのもの"に執着があるからだと、わたくしは思っておりますが…?」
「まぁ…ねぇ…」
執務机の上に頬杖を付いていたルークの顔が、ほんのりと赤くなった。
確かに、ジュリアンの容姿は背格好も良く似ている。すらっとした体躯に、緩い癖のある短い黒い髪、黒い瞳。そして、蒼い紋様。今は髪の長さが違うが、出逢った頃は主とジュリアンの容姿は瓜二つと言っても過言ではなかった。
そして何より…ジュリアンは、ルークの想い悪魔である皇太子の隠密使である。ある意味、ルークよりも近い場所にいるジュリアンに、昔から徒ならぬ思いを抱いていることは、ジュリアンも良くわかっていた。
「でも、それにしたってさ、あんた自身の好みは聞いたことないしね。この際だから、教えてよ?そしたら、俺も納得行くし」
「………」
そう言われ、一瞬口を噤む。
まぁ、それでこの先の疑いを晴らせるのなら…そう思いながら、小さな溜め息を吐き出した。だがそれと共に、零れた言葉。
「…碧の瞳…」
「…碧?」
思わず零してしまった自身の言葉を問い返され、ジュリアンはハッとしたように口を噤んだ。
「…口が滑りました…」
慌てて口を押さえたジュリアンに、ルークはくすっと笑った。
「へぇ。あんたのそんな顔、初めて見た。そっか、碧の瞳が好きなんだ」
「…それは…」
「まぁ、ダミ様の瞳は碧じゃないしね。碧ってーと、ゼノンみたいな?って言うか、ゼノンじゃないよね…?」
思わず問いかけたルークの言葉。最後の一言は、明らかに警戒している。
大事な仲魔であり、恋悪魔のいる身。当然、横から手出しされては困る。それを察したジュリアンは、一つ、息を吐き出した。
「……違います」
「その間は何だよ。彼奴はライデン一筋だから、周りに無関心だけど…彼奴、文化局内では結構モテるらしいじゃない?邪魔しないって言ったって、信者は多いみたいじゃない。あんたもその一名じゃないよね?」
ジュリアンの様子を伺うように、問いかけたルーク。当然、その眼差しは…もう、笑ってはいない。
「誤解です。わたくしの初恋は、ゼノン様では…」
「初恋?あぁ、初恋の相手が理想な訳?」
「………」
今日はとことん、口が滑る。それがルークの思惑ならば…当然分が悪い。
そう思いながら、再び溜め息を吐き出す。
昔話など、するつもりはなかったのだが…ルークの興味を引いてしまった以上、最早避けられないだろう。
そんなジュリアンの姿を見つめながら、ルークは暫し想いを巡らせ…そして、口を開いた。
「碧、か…ってーと……別の"鬼"、かな?"鬼"の種族は碧の瞳が多いしね?」
「………」
「…で?碧の瞳の、どんな奴?あんたの想い悪魔」
にっこりと笑うルークに、ジュリアンは目を伏せる。そして、吐息混じりの言葉を吐き出した。
「…もう、いません」
「…は?」
「亡くなりました。もう、ずっと前に」
「……そっか…」
思いがけない返事に、ルークはすっと顔色を変えた。
「…悪かったね。変に深追いして…」
「いえ…」
ジュリアンの表情に、特別な感情は見えなかった。
隠密使として、普段から感情は表に出すことはなかった。だからこそ、今はいつも通り冷静でいられる。
訓練した成果がこんな時にも役立つとは。そんなことを考えながら、ジュリアンはその口元に小さな笑みを浮かべた。
「誰かが死ぬことぐらい、良くある話です。仕事柄、貴殿の方がそんな状況は良くあるでしょう?」
「…まぁ、ね。でも俺は…ウチの局員を…俺が信頼する部下を、無駄死にさせるのは嫌いだから。護れるものなら、みんな護ってやりたいよ。もし、あんたが想っていた悪魔がそんな無駄死にをしたのなら…俺だって、哀しいからね」
「…ルーク殿…」
相変わらず…皇太子が酷く心配するくらい、優しいこの悪魔。
色々なモノを背負って来たことは、ジュリアンも知っていた。そしてそれでも失わなかったその優しさが、このルークの強さであることも。
「あんたがずっと想ってるくらいだから…きっと、綺麗な瞳、してたんだろうね」
そう言って笑ったルークに、ジュリアンも小さく笑った。
「…えぇ。とても綺麗でしたよ。真っ直ぐで透明な、碧の瞳でした」
そう。ずっと記憶に残っている、その瞳の色。
報われることなどない想いでも…多分、この先もずっと、忘れることなど出来ない記憶だった。
碧の瞳。その悪魔に出逢ったのは、三度。
最初の出逢いは、"彼"もまだ小さな子供だった頃。
"彼"の親に連れられて偶然訪れたその場所は、"鬼"の生息場所として知られている場所だった。
用事のある親と離れ、近くの森を散歩していた"彼"は、偶然にもその瞬間に遭遇した。
それは、悪魔が"自然発生"する瞬間。
小さな光が集まり、やがて大きな光となる。そして眩い光の真ん中に現れた生命体。
短い白金の緩いウエーブの髪に、赤い紋様と、碧色の瞳。そしてその頭には、小さな角が二本。
生まれ出でたばかりの"鬼の子"は、真っ直ぐに"彼"を見つめていた。
"鬼の子"にとって、初めて出逢った悪魔。それが、"彼"。
息をするのも忘れるくらい、呆然と…そしてある意味うっとりと、その姿を見つめていた"彼"であったが…そっと歩み寄った"鬼の子"が、"彼"の顔へと手を伸ばす。そしてその指先が、"彼"の鼻の頭に触れた。
《…またね》
囁くような声。多分それは、実際に発せられた声ではなくて…直接"彼"に送り込まれた声。
ただただ、見つめるだけの"彼"に小さく微笑み、"鬼の子"はそのまま姿を消した。
その時は、何が起こったのか、全てを理解することは出来なかった。けれど後になって良く考えてみれば、姿を消したのは、行くべき場所に"呼ばれた"から。
ほんの一時の…たった、それだけの出逢い。
けれど…名前も知らない"鬼の子"の、碧色の眼差しだけが…"彼"の脳裏にこびりついて離れなかった。
二度目の出逢いは、子供の時からどれくらいの時間が過ぎた頃だっただろうか。
士官学校を卒業し、枢密院に入局して少し経った頃…たった一度だけ、あの"鬼の子"を見かけた。
まだ、研修中だったのだろう。士官学校の制服に身を包んだ彼は、以前より背も大きくなり、肩まで伸びた白金の緩いウエーブの髪、赤い紋様。そして、遠くからでもわかった綺麗な碧の瞳。
ほんの少ししか見ていなかったはずなのに、あの時の"鬼の子"だと判別出来たのは…まさに、あの碧の瞳を見たから、だった。
そしてその隣には、背の高い、黒を纏った悪魔。研修担当なのだろうか。それにしては親しげなその姿に、徒ならぬ雰囲気を感じ取った。そして、"彼"と一緒にいた悪魔に、初めてその"鬼の子"と…隣の親しげな悪魔の名前を聞いた。
その時初めて、"彼"はあの碧の瞳に恋をしていたのだと感じた。
勿論、今更報われるはずはないだろう。そんな、諦めにも似た想いは…その想いを、記憶の底に押し留めた。
それから更に数年が経ち、最後の出逢い。
その日…朝一番に飛び込んで来たのは、訃報だった。
区域調査に出た一団が、天界軍の襲撃により壊滅した、との連絡。
既に皇太子の隠密使として仕えていた"彼"だったが、調査の為に枢密院の調査団の一名として、その現場へと向かっていた。
惨殺と言う表現が相応しいその現場に…あの"鬼の子"がいた。
傷だらけで倒れていた身体。既に息絶え、骸となったその姿を目の当たりにし…"彼"は、小さく息を飲む。
《…またね》
ふと、その声が甦った気がした。
二度と開くことのない、碧の瞳。
一方的に見つめただけで…結局"彼"は、一度も声をかけることが出来なかった。
こんな再会を、望むはずはなかった。けれど、今目の前にある現実を受け入れなければならない。
大きく息を吐き出し、気持ちを整理する。
"鬼の子"は…否、すっかり成長した"鬼"は、倖せな魔生を送れたのだろうか。
既に、"彼"の手は届かない。その声も、想いも。
「…さようなら」
小さくつぶやき、黙祷を捧げる。
二度と、出逢う事のない、碧の瞳の"鬼"へ。せめてもの、想いを込めて。
ぼんやりと窓の外を眺めながら記憶を辿っていたジュリアンは、ポンと肩を叩かれ、ハッとしたように我に返る。
「どうした?御前にしては珍しいね?」
「…ダミアン殿下…」
慌てて居住まいを正し、表情を引き締める。
「何か、御用ですか?」
いつもならば、この部署へ直接皇太子が足を運ぶことはない。だからこそ、いつにない姿を晒してしまった。
そんな思いを隠した表情を眺めつつ、皇太子はにっこりと微笑んだ。
「いやなに。ルークがね、御前に余計なことを言ってしまったと言っていたからね。様子を見に来てみたんだよ」
「…そんなに気にかけていただかなくても大丈夫ですよ。ルーク殿にも、そう伝えていただきたいです」
小さな吐息を吐き出しつつ、ジュリアンはそう言葉を零した。
「誰だって、時には物思いに耽る事ぐらいあるでしょう?」
「まぁね。だが、さっきも言った通り…御前にしては珍しいね。御前が感情を見せること自体、殆どないからね。たまには、吐き出してみたらどうだい?」
相変わらず微笑んだままの皇太子に、ジュリアンは小さく溜め息を吐き出した。
「何を仰っているんです。私の話を聞いている暇があったら、職務に集中して頂きたい。ただでさえ、ルーク殿が来れば職務が滞るのですから」
「今日は全部終わらせたよ?それに、もう職務時間は終わっているしね?」
くすっと笑いを零す皇太子の言葉に、ジュリアンは時計へと視線を向けた。
確かに、もう職務の時間は終了している。今日はジュリアンの方が、ぼんやりとしていて仕事が進んでいなかったようだ。
「ほら。ルークに何を零したんだい?それとも、わたしには言えないことかな?」
ソファーへと腰を下ろした皇太子。その姿は完全にジュリアンの話を聞く気満々である。
「…大したことではありません。昔の事を思い出しただけです」
「昔?」
「…そうです。ですから、気になさらずに…」
そう言いながら、机の上の書類を片付ける。
「本日はこれから用事がありますので、御先に失礼致します」
そう言いながらソファーに座る皇太子に頭を下げ、ドアへと向かう。
けれど…ドアへと伸ばしたその手がノブへと触れる直前…ジュリアンは僅かに皇太子を振り返った。
「…一つ…伺っても宜しいですか?」
「うん?何だい?」
ジュリアンの声に、皇太子は首を傾げる。
「あのヒトは…倖せだったと思いますか…?」
問いかけられたその言葉に、皇太子は暫し、口を噤む。
それが誰を指す言葉だったのか…皇太子にはわかっていた。だからこそ、どう答えようかと迷ったのだ。
やがて、小さく息を吐き出した皇太子。そして、ゆっくりと口を開いた。
「…志半ばで、想い残すことはあっただろう。でもね、多分"彼"は…倖せだったと思うよ」
「…どうして、そう思われます?」
小さく問い返した言葉。
「さぁ…どうしてだろうね。真実は、今となっては誰にもわからない。けれど、一番護りたい相手を護ることが出来た。その心を、解き放ってやることが出来た。だから…倖せだったんじゃないかと、わたしは思う。ただそれだけの事だ」
そう言葉を放つと、皇太子はソファーから立ち上がる。そして、今までジュリアンがぼんやりと見つめていた窓の外へと視線を向けた。
闇の降りたその世界。そこに…希望が見えるのだろうか。
「まぁ、御前にしてみれば…それすらも倖せなのかどうかはわからないだろうけれどね。心を解き放ってやると言うことは、自分はその記憶から消えてしまうかも知れない、と言うことだ。誰しも、忘れられることは嫌なものだ。そう考えれば、倖せではなかったかも知れない。だが、それを望んだのは"彼"の方だ。想い悪魔が、倖せでいられるように、ね」
「…それは、屁理屈、ですよね?」
「まぁ、ね」
実に冷静なジュリアンの言葉に、皇太子は笑いを零した。
「確かに屁理屈だ。だが…そんな感情も、時にはあるものだよ。御前も…自分が報われるとか、そ言う考える前に…"彼"は倖せだったのかと、それを心配しただろう?倖せではないと言われれば、ほら見たことか、と思うかい?違うだろう?倖せで良かったと思う方が、気が楽だろう?」
「…まぁ…そうですね」
「そう言う事だよ。死者に口なし。それを今議論しても無駄なことだ。だったら、考えを変えた方が良い。せめて…御前の想いが、昇華出来るように、ね」
「…ダミアン殿下…」
振り返ったジュリアンは、自分に向けてにっこりと微笑む皇太子を見た。
「"彼"は、きっと倖せだったよ。だから、大丈夫。もう…心配しなくても良いんだよ」
「………」
小さく息を吐き出した彼は、皇太子に一つ頭を下げると、執務室を出て行った。
その背中を見送った皇太子は、笑っていた表情をふっと変える。
それは今までとは違った、優しいけれど…何処か哀しそうな微笑み。
「…今日は、命日、か…」
小さくつぶやいた声は、既に執務室を出て行ったその姿には届かない。
「ゆっくり、話をしておいで」
皇太子はそう零すと、ソファーから立ち上がる。そして、その執務室を後にした。
すっかり日の落ちたその場所に、ジュリアンは立っていた。
そこは、碧の瞳の"鬼"が亡くなった場所。そして今日は、その命日。
見上げた空には、細い月。月の光も満足に届かないその夜は…闇に隠れてここへ訪れたジュリアンには丁度良いのかも知れなかった。
深く溜め息を吐き出し、足元へと視線を落とす。
あの日の光景は…未だに脳裏に焼きついている。
あの"鬼"は…想い悪魔の心を解き放った。幾度か見かけたその姿は、"彼"を失う前よりも生き生きしている。そう考えれば、解き放たれたことは明確だった。
けれど、たった数回見かけただけの自分は、どうして未だにここに捕らわれているのだろうか…?
毎年この地を訪れる度に、その疑問に襲われる。
「…出来れば…わたくしの記憶も、解き放ってください…」
思わずつぶやいた声。
思い続けることが負担だった訳ではない。忘れたくなった訳でもない。ただ…先ほどダミアンから言われたその言葉が、胸に引っかかっていたのだ。
いつか…自分のこの想いが、昇華する日が来るのだろうか?
今は…それすらも、わからなかった。
数日後。ダミアンから呼び出されたジュリアンは、その執務室を訪れていた。
「…何か、御用ですか…?」
問いかけた声に、ダミアンは執務机の引き出しから一通の封筒を取り出した。
「先日ね、これを持って来たヤツがいてね」
「…封筒…ですか?」
怪訝そうに僅かに眉を寄せたジュリアンは、ダミアンから封筒を受け取ると、その中身を確認する。
封筒の中に入っていたのは、二つに折られた、薄汚れたメモ紙。
「…これは…?」
「まぁ…心残り、ってヤツだね?随分前の事だが、亡くなったとある悪魔の遺品から出て来たと言っていたんだ。宛名がないから、誰に宛てたメッセージなのかわからない、とね」
「……それで、その相手を見つけろ、と…?」
微笑んだまま、ジュリアンを眺めているダミアンにそう問いかけると、ダミアンは更にくすっと笑いを零した。
「まぁ、そう言う事だ。目を通してごらん。御前ならわかるんじゃないか?」
「…では、拝見します」
その言葉に小さな溜め息を吐き出したジュリアンは、二つに折られたそのメモをそっと開く。
そこから溢れ出るのは…確かに、心残り、と言う思念。
そして…その走り書きのような文面に目を落としたジュリアンは、思わず息を詰めた。
「…どうだい?誰に宛てたメッセージか、御前に見当が付くかい?」
その様子を見つめつつ、そっと問いかけたダミアン。口を噤んだまま、ただメモ紙に視線を落としているジュリアン。何処か、思い詰めた節がある。そんなジュリアンの姿を見れば…心当たりがあるのは一目瞭然、であるが。
ダミアンとて、封筒を預かりはしたが…その文面に目を通した訳ではない。だから、そこに何が書かれてるかはわからない。そして、流石にそれを詮索しようとは思わなかった。ただ、そのメモを見つめるジュリアンをじっと見つめ、内容を推測するだけで。
「……これは…わたくしが預かっても宜しいですか…?」
暫しの後、大きく息を吐き出したジュリアンは、そうダミアンに問いかける。
「勿論。わたしは、御前に託すつもりで渡したんだけれども?」
そう答えを返すと、ジュリアンは僅かに口を噤んだが…やがて、そのメモを封筒にしまうと、上着の内ポケットへとしまいこんだ。
「了解しました。では…この"心残り"を、弔うことに致します」
そう言って頭を下げ、踵を返したジュリアン。
その声に、憂いはない。だから、ダミアンも引き留めはしなかった。
「まぁ、行っておいで」
ジュリアンが消えたドアに向かって、にっこりと微笑んだダミアン。
多分…これで、ジュリアンの想いも報われる。そんな気がしていた。
闇が落ち始めた頃。
ジュリアンがやって来たのは、はるか昔に訪れた、"鬼"の生息場所として知られている地。そして、微かな記憶を頼りに辿り着いた、あの"森"。
そこで足を止めたジュリアンは、上着の内ポケットから、ダミアンから預かった封筒を取り出して再びメモを広げると、その文面に視線を落とした。
"生まれて初めて見た、貴方へ"
そう書き出された文面は、明らかにジュリアンに宛てた内容だった。けれど相手は、ジュリアンの名前も知らなかったのだろう。そこに、明確に誰と示す名前はなかった。だからこそ、今まで誰も手をつけなかったのかも知れない。
簡単に書き殴られた言葉は、ダミアンも言っていた通り、"心残り"の一言に尽きた。
名前を問いかければ良かった。そして、もう一度…きちんと出逢いたかった。
そんな思いの込められたメモ書き。他に想う悪魔がいたはずだった。けれどそこには、自分だけに向けられた"想い"がちゃんとあった。
だからこそ…弔おうと思ったのだ。そうすることで、報われるような気がしたから。
メモ紙を掌の上に乗せたまま、小さく呪を唱える。すると、メモ紙が輝きを纏う。
呪を唱え終わると、暫し、掌で輝きを纏ったメモ紙を見つめる。そして。
「…有難う」
小さくそう言葉を零すと、ふっと息を吹きかける。すると、その輝きがまるで炎のようにぶわっと舞い上がり、そして消えた。
"彼"の"心残り"は、きちんと弔われた。それがわかると、ジュリアンはその顔に微笑みを浮かべた。
彼の想いもまた、昇華することが出来たのだ。
「…さようなら」
小さく言葉を残し、ジュリアンは踵を返した。そしてその姿は、闇に溶けるかのように消えてなくなった。
仄かな恋心は、闇に溶けて消えていった。
例え、報われなくても。そこに後悔はなかった。
胸に抱いた想いは、今でも心の奥底に。
それは、最早恋心ではなかったが…大切な、思い出として、心に残っていた。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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筋金入りのオジコンです…(^^;
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