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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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楽園
こちらは、以前のHPで2004年1月1日にUPしたものです。

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◇◆◇
 それは、ある日の昼下がりのこと。
「…あ…れ?道、間違えたかな…?」
 そこは、閑静な住宅街。平日の昼間とあって、割と大きな通りではあるが、歩いているのは彼一名であった。きょろきょろと辺りを見回し、やっと住所表記のある一般民家の表札を見けたのだが、その住所に見覚えはない。
「…完璧に迷ったな…どうしようかな…」
 元の道を辿って帰ろうにも、ぼんやりと足を進めていただけに、どうもはっきりとした記憶がない。そんなだからこそ迷うのだと言う事実に、彼が気づいているのか、いないのか…。
「ん~…取り敢えず、わかるところまで戻ってみようかな…」
 前に進むよりも、戻るほうが良いとの結論を出し得たのだろう。
 くるりと踵を返したのだが、その拍子に彼の背後から、横を通り過ぎようとした一名とぶつかってしまう。
「あっ!…済みませんっ!」
 慌てて頭を下げた拍子に、手に持っていた鞄を取り落とし、中の書類がばさっと零れ落ちる。
「あぁ~…っ」
 度重なる失態に、落胆の声を上げた彼。
 顔を上げてぶつかった相手の顔を見る間もなく、地面にしゃがみこんで落とした書類を拾い始める。
 と、その時。
「…手伝おうか…?」
 気の毒そうな声と共に、地面の紙に差し伸べられた手。その時初めて、彼は顔を上げて、自分がぶつかった相手の顔を見た。
 帽子を目深に被った相手の表情は良く見えない。だが、その口元は微かに笑っているようにも見える。つまり、あまりの失態が、相手の笑いを誘っていたのだ。
「…申し訳ありません…」
 溜め息を吐き出しつつ、言葉を零す。
 全く、情けない…。だから、いつまでも昇格出来ず、半ば左遷のような外回りをさせられているんだろう。
 そんな気持ちを抱きつつ、再び紙に手を伸ばす彼。その時、彼の袖口から僅かに覗いたブレスレットに、相手の視線が止まった。
 一見すると、普通のサラリーマンの様な格好をしている彼。その姿には似つかわしくない、銀色の太めのブレスレット。余計な装飾はないがそれ自体が彫り込まれていて、シンプルではあるが、確かに人目を引くかも知れない。
 だが、相手の視線が止まった理由は、それが理由ではなかったのだ。
「…お前…天使、か?」
「…え?」
 思いもかけず、そう声をかけられ、ドキッとして顔を上げた。その拍子に、相手の眼差しが自分を見つめていることに気が付いた。
 金色の目。全てを見透かしているかのような、透明な色。その瞳が、自分を見つめているのだ。
「…何の…ことですか?」
 否定しようとする声も上擦ってしまう。まるでそれを見透かしたかのように、相手はくすっと小さな笑いを零すと、彼の瞳を真っ直に見つめた。
「まぁ、そのブレスレットを外してみろ。そうしたらわかるだろう」
「…ブレスレットを…?でも、これは…」
「良いから。まぁ、言う通りにしてみろ」
 押しの強い相手の言葉に、彼の警戒心が僅かに緩んでしまう。そして、掴んでいた紙が乾いた音を立てて地面に落ちる頃、彼の右手は、ブレスレットが填っている左手の手首を掴んでいた。
「ほら」
 促されるままに、彼はそのブレスレットを外した。
 その途端。感じ慣れない巨大な気に包まれ、反射的に固く目を瞑り、呼吸が止まる。
「大丈夫。大きく深呼吸をして、ゆっくりと目を開けてみると良いぞ」
 すっかり、相手の話術に填っている彼。その言葉に促されるままに、大きく深呼吸をして呼吸を整えると、意を決したようにゆっくりと目を開けた。
 そして、その目の前にある姿が視界に入ると、違う意味で再び呼吸が止まった。
「あ…悪魔っ!?」
「まぁ、落ち着け、落ち着け」
 思わず尻餅をついた彼の姿に、くすくすと笑う声。笑いを零す相手は服装こそ先程と変わらないものの、その顔は白く、紋様まで戴いている。とても普通の人間ではない。
 そして彼の記憶の中に、その白い顔に紋様を戴く存在は『悪魔』と言う存在であることは、幼い頃から植えつけられていたのだ。
「こちらは戦うつもりはない。それはお前も同じだろう?ならば、今は敵ではないと言うことだ。ちょっと落ち着いたらどうだ?」
 未だ同様を隠し切れない彼の顔色を伺いながら、悪魔は再び笑いを零す。
 よくよく見れば、帽子の下に隠れている白い顔に戴いているのは、青い紋様。そして、頬に灰色の陰。幾ら彼が上層部にいなくとも、その紋様を戴く悪魔ぐらいは知っていた。
「…デ……デーモン…閣下…?」
「ほぉ、下級天使にも知られていたか」
 笑いながら、悪魔…デーモンは、彼が取り落とした書類を全て拾い集めると、彼へと手渡した。
「ブレスレット、填めて良いぞ」
 書類と共にそう言葉をかけられ、彼ははっとしたように慌てて再びブレスレットをその手首へと填めた。
 その途端、目の前の悪魔は普通の人間と変わりのない姿へと変わる。
 そして、思いがけない誘い。
「ここで出会ったのも何かの縁だろう。良かったら、お茶でも飲んでいかないか?ウチの屋敷が直ぐそこだから」
「…でも…」
「まぁ、たまには気晴らしも必要だろう?どうせ、お前の上司は、お前の行動なんか然して気にしていないだろうからな」
「…はぁ…」
 確かに、デーモンの言うことは一理あるだろう。
 左遷同然で回された任務なのだから、彼の行動など見張られているはずもない。
 何より…彼には、天使の自分を誘ったデーモンの意図を知りたいと思った。
 そして彼は、誘われるままに、悪魔の屋敷へと足を運んだのであった。

◇◆◇

 彼らが出会った所から、ほんの数分の所に、悪魔たちの住む屋敷があった。
 周囲には結界が張られている所為もあり、そこに悪魔が住んでいるとは、彼もまるで気が付かない程であった。
 結界を通り過ぎると、デーモンは人間から悪魔の顔に戻っていた。それが、人間界にいながら悪魔の姿での生活に支障を来さない為の結界であることに、彼はその頃やっと気が付いたのだ。
「今は誰もいないから、まぁ遠慮するな」
 先に立って屋敷の中へと入っていくデーモン。そして彼もそれに続く。
 リビングに辿り着くまでの廊下の左側には二階へ登る階段と、二つの部屋。そして、右手側にはトイレやお風呂、洗面所にキッチンなどの水回り。塵一つない廊下を歩きながら、実際に目に見える訳ではないが、掃除が行き届いていて、きちんとしているのだろう。そんな印象を受ける屋敷であった。
「吾輩たちが住んでいる屋敷とはいえ、普通の家だから、そんなに物珍しい訳でもないだろう?」
 キョロキョロとする彼をくすくすと笑いながら、デーモンはリビングのソファーへと彼を促す。
「コーヒーで良いか?」
「はぁ…」
 問われるままに返事を返したものの、キッチンへと向かうデーモンの姿に、思わず目を丸くした。
「…閣下自ら、お茶淹れを…?」
「他に誰が淹れるんだ?ここは魔界じゃないからな、使用魔などいないし、お手伝いを雇える訳もあるまい?」
 キッチンから聞こえる声。成程、と納得しながらも、彼はその異様とも思える光景から目が離せなかった。
 そして暫しの後、トレーに二つのカップを乗せたデーモンが戻って来た。
「そう言えば…まだ、お前の名前を聞いてなかったな?」
 彼の前へとカップを置きながら問いかけるデーモン。
「……名前…」
 それを言ってしまえば、彼の素性は明らかになる。つまり、天界に密告も出来る訳だ。そう簡単に、口にする訳には行かない。
 彼の表情でそんなことを感じ取ったのだろう。デーモンは彼とテーブルを挟んでソファーへと腰を下ろすと、小さな笑いを零した。
「別に、お前をどうこうしようと言う訳ではないんだ。そう嫌な顔をすることもあるまい?」
「…はぁ…」
 デーモンの言っていることはわかる。だが、そこに確証がない限り、彼は口を開くことが出来ないのだ。しかし、彼とてここまでのこのこと着いて来てしまったのだから、余りにも頑なに拒むのも可笑しいような気がして…そしてつい、その言葉を口にした。
「…絶対…天界には言わないで貰えますか?」
 控え目に問いかける声。
「あぁ、約束しよう。別に今は、敵ではないしな」
 嘘を言っている目ではなかった。その透明な金色の眼差しに、彼は小さな溜め息を吐き出した。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……アキ」
「アキ、か。良い名前じゃないか。誰の軍だ?」
「…言わなきゃ駄目、ですか…?」
「ここまで来て、黙秘はないだろう?大丈夫、ミカエルやラファエルなら交流はある。心配いらないから」
 そう言われ、再び溜め息が零れる。
 彼…アキの指先が、無意識に手首のブレスレットを探っていた。
 この地球での任務が決まった時、アキが所属する部署の部隊長が渡してくれたブレスレット。それは天使としての能力を封印する為のモノであり、それをつけている限り、彼は天使としての能力は使えない。つまり、人間として生活する為の制御呪術の一つなのだ。だからこそ、デーモンに出会った時ですら気づかなかったのだ。
 それだけ高度な制御呪術を託してまで、この地球に彼を送り込んだ者。そんな心当たりは、そう多くない。
「…ラファエル、だろう?」
 問いかけたデーモンの声。その声に、アキの指先が一瞬止まる。当然、デーモンがそれを見逃すはずもない。
「図星、だな」
「…何故…そう思われたのですか?」
 今度は、アキが問いかける。
「何故って…そうまでして、地球に…いや、人間に執着するのは、ミカエルかラファエルぐらいだろう?ついでに、そのブレスレットは…ミカエルの趣味じゃない。地味過ぎる。彼奴なら、もっと宝石とか鏤めてあるだろう?」
「…そうかも、知れませんね」
 くすっと、アキの口元から小さな笑いが零れた。
 相手は、現在休職中とは言え、副大魔王と言う立場にある悪魔である。こんなに気さくに…そして何よりも、こんなに独創的な見解を述べるとは思ってもみなかったのだ。
「やっと、笑ったな」
「………」
 それが狙いだったとばかりに、にんまりと笑みを浮かべたデーモン。
「そんなに険しい顔をしながら話をしてもつまらないだろう?吾輩は今は、地球任務に来ている訳だから、今は直接の敵同志ではないんだ。もっと気楽にいこうじゃないか。な?」
「…はぁ…」
 突然そう言われても、困惑するのは当然。流石にデーモンもそれは理解しているようだ。自分から口を開かないアキに向けて、自ら話の口火を切る。
「…で、どうだ?地球に来た感想は」
「…え?」
「だから、地球へ来てどう思ったか、と言うことを聞いているんだ」
「…どう思ったか、って…」
 突然、そんな話になり、アキは僅かに眉を顰る。だが、明らかにその答えを待っているデーモンの表情を前に、何も答えない訳にはいかないと思ったのだろう。暫し考えを巡らせると、ゆっくりとその口を開いた。
「…平和、ですね。いつも、戦いの中にいたので…それが、率直な感想です」
「平和、か…成程な。で、その平和な地球にお前が来た理由は?」
「理由…」
 改めて別の質問を投げられ、口を噤んだまま、困惑した表情を見せたアキ。
 その脳裏に蘇って来た、苦い記憶。思い出すだけで、後悔の念に刈られて落ち込んでしまう。それこそが、この左遷とも思える任務を任された理由だった。
 大きな溜め息を吐き出したアキの表情を見つめながら、デーモンはゆっくりとコーヒーを堪能している。
「…別に、嫌なら話さなくたって良いんだ。別に、吾輩とお前は、只単に道でぶつかった同志と言うだけの間柄だからな。ただ…ラファエルがお前の上司であり、この地球にお前を送り込んだ理由と言うモノを、お前がちゃんとわかっているのかと思ってな。何も知らないまま任務に着いているんじゃ、勿体無いだろう?」
「…どう言う…ことですか?」
 自分がここへ送り込まれた理由と、上司であるラファエルが彼を送り込んだ理由。それが別ものであると言わんばかりのデーモンの言葉には、アキも問い返さずにはいられなかった。
 単なる左遷だと思っていたのだから…その真相を知りたいと思ったのは、アキも同じこと。
 デーモンはと言うと、自分の言葉に興味を持ったアキの姿に、再びカップをソーサーへと戻すと、彼の腕に填っているブレスレットへと視線を向けた。
「そのブレスレットは…何の為にある?」
 ふと、問いかけられた声。
「何の為、って…能力を封じる為のモノであることは、閣下もおわかりでしょう?わたしがこれを渡されたと言うことは、天使としての能力を封じて、この地球上で人間として生活しなければならない、と言うことではないんですか?それが…わたしが、天界で犯した罪の償いなのでは……」
 思わず口走った言葉。途端に、アキの表情は再び険しくなる。だが、目の前のデーモンの表情は変わらない。恐らく、ある程度の予測は付いていたのだろう。ソファーにゆったりと座ったまま、じっとアキを見つめていた。
「全部話して、楽になるか?」
 その言葉は、ある種の呪文。ブレスレットの呪縛に捕われているアキへの、解放を意味しているようで。本来敵同志であるからこそ、確信をつく言葉だった。
 固く両手を握り締めたアキ。僅かに伏せた瞳は、デーモンが先程入れた、手付かずのコーヒーカップを見つめていた。
 そして、暫しの沈黙の後…ゆっくりとその口を開いた。
「…わたし…ここに来る前に任されていた任務で、うっかりミスから…一つの部隊を、壊滅させてしまったんです。勿論…直属の上司には物凄く怒られて…その直ぐ後に、ラファエル様から、今回の任務を命ぜられて…だから、もう天界へは戻れないと思っていたんです。永久追放を意味する左遷だと…」
 握り締めた拳に、更に力が籠もる。
 黙って話を聞いていたデーモンは、暫くそのアキの姿を見つめていたが、やがてゆっくりと息を吐き出すと、言葉を紡ぎ始めた。
「どんな大罪を犯したのかと思えば…それしきの事か」
「…わたしにとっては、大罪です…っ!」
 思わず声を荒げるアキ。だが、デーモンの表情は変わらない。僅かに細められた金色の瞳は、未だ真っ直にアキを見つめていた。
「自分のミスで部隊を壊滅させてしまったことは…吾輩だってあるさ。勿論、それを咎められたし、吾輩自身も辛い思いをした」
 そう語るデーモンの表情が、僅かに曇る。
 それを思い出して、胸が痛まないはずはない。けれど、副大魔王として…否、それ以前に一悪魔として、デーモンが乗り越えなければならなかった想いは、多分特別ではなかったはず。だからこそ、デーモンはその事実を語ろうと思ったのかも知れない。
 真っ直に見返すアキの瞳。その視線をしっかりと捕えながら、デーモンは更に言葉を続けた。
「だがな…考えるうちに、自分を責めるだけではいけないと思ったんだ。だから吾輩は、そんなことにめげずに、前を向いて進もうと思った。だが、開き直った訳じゃないぞ。ミスはミスと受け止めて、もう同じ過ちは繰り返さないと決めた。その為に何をしなければならないか、と言うことを、もう一度考え直したんだ。自分を追い詰めてもしょうがないだろう?だったら、前を向いて進まなければ、とな。お前と吾輩の立場は違ったかも知れないが…理屈は同じだと思わないか?」
 デーモンの言葉を、アキは唇を噛み締めて、ただ黙って聞いていた。
「ラファエルは…きっと、それをわかっていたんだろう。お前に全ての責任を押しつけるつもりはなかったはずだ。だからこそ、お前の記憶を残したまま、この任務を与えたんじゃないか?もし本当に追放するつもりなら、記憶を残したままにはしないだろう?記憶を封じ、能力を封じた上で追放する。吾輩は、そういう天使を幾度も見かけた。だが今のお前は、明らかにそいつらとは違う。それが意味することを…お前が認識していなくてどうする?」
「……でも…」
 困惑した表情のアキ。その姿に、デーモンは小さな笑いを零した。
「そんなに思い詰めることはないだろう?戦いだけが全てではない。もっと違う生き方をしているヤツは大勢いる。それを実感するには、この惑星は好都合だったのかも知れないな」
 未だ、困惑した表情のアキを見つめつつ、デーモンは更に言葉を続けた。
「まぁ…全ての国が平和に落ち着いている訳ではないし、戦いが起こっている国があるのも事実だ。だが、色んな意味で、ラファエルが『ここ』にお前を送ったのは偶然ではないと思う。平和なこの地で、天使としての能力を抑え、人間として生きてみるのもまた一興。だが、それは強制じゃない。お前の意志で、人間として生活するか、天使の能力を使うかを決めれば良いんじゃないのか?その為のブレスレットだろう?」
「…閣下…」
「たまには息抜きも必要。折角の任務なんだ。時には楽しむことがあっても良いだろう?」
 アキが見つめる先には、笑みと共に細められた、デーモンの金色の眼差しがある。
 相手は、悪魔であるはずなのに。それなのに…こんなにも満たされた気持ちになるのは、どうしてだろう?
 自分の存在を、こんな風に受け止めてくれた存在。アキにとっては、それは初めてに等しい経験であった。
 アキは大きな溜め息を吐き出すと、改めて自分の腕に填っているブレスレットに視線を向けた。
「…ラファエル様は…本当に、そんな意図があって、でわたしを地球に送ったのでしょうか…?」
 未だに掴めない現実に、不安の色を隠し切れないアキ。だが、デーモンはそんなアキに向け、にっこりと笑ってみせた。
「もっと、自分の上司を信じてみたらどうだ?ラファエルは、お前が思っている程非情じゃない。まぁ…悪魔の吾輩に言われるのもどうかと思うけどな」
 くすくすと笑うデーモンは、アキにとっては、いつも見慣れている『悪魔』ではなかった。
 時には、自分が今まで持っていた常識に捕われずに、違う見解で物事を見てみるのも、また一興。
 それで良いのだ。そう思ったら、途端に気持ちが楽になったような気がして。
「折角の任務だ、楽しまないと損だぞ?」
「…そう、ですね」
 くすっと、アキの口元からも、小さな笑いが零れた。
 この、一般常識を覆すような悪魔に出会えたことは、偶然だったのだろうか…否、運命であったと言っても間違いではないだろう。そして、この地球での任務を与えてくれたラファエルに、心底感謝していた。

◇◆◇

 日も落ちかけて来た頃、悪魔の屋敷の玄関に、入って来た時とは全く違う表情のアキと、それを見送るデーモンの姿があった。
「長居をしてしまって、申し訳ありませんでした」
「いやいや。気にするな。吾輩も良い気晴らしになったしな」
 くすくすと笑いを零す二名。彼らが、本来は敵対する同志であるとは、誰も想像着かない程穏やかな笑顔である。
「さて、そろそろ帰らないと。多分、職場の人が…あぁ、人間界でアルバイトしているんですけれどね…その人たちが、きっといつまでも帰って来ないって、心配していると思うので…」
 そう言いながら、アキは片手に抱えている鞄を軽く持ち上げて、苦笑する。
「まぁ、平和な世の中でも、色々と気にしながら生きて行かなければならないからな。天使がアルバイトをするご時世とは、きっと神も想像はしなかっただろうな」
「そうですね。悪魔も、働いている時代ですからね」
 お互いに笑いを零しながら、暮れかかった空を見上げたアキ。その遠い空にむこうには、きっと新しい未来が見え始めたのだろう。
「気をつけてな」
 そう、見送るデーモンの声ににっこりと微笑んだアキ。だが、玄関から一歩出た瞬間、ピタリと足を止め、小さな溜め息を吐き出した。
「…そうだ…閣下にお聞きしたいことが、もう一つ…」
「ん?何だ?」
 また深刻な話かと、笑いを納めたデーモンであったが…振り返ったアキの、半ば深刻な表情から語られた言葉は、まさに予想外であった。
「あの…駅はどっちでしょう?」
「…は?」
「いや…あの…道に迷ってしまって…そこで、閣下にお会いしたもので……」
 真剣な表情を浮かべながら、心底困っていると見られるアキ。だが、事の状況を察したデーモンは、思わず一笑。
「ブレスレットを外して、空を飛んでみたらどうだ?そうしたら、駅までも見渡せると思うぞ?」
 笑いながらそう言うデーモンに、アキも一瞬目を丸くしていたが、やがて一緒になって笑い出した。
「そうですね。そうしてみます」
 くすくすと笑いを零しながら、アキは手首に填っていたブレスレットを外してみる。
 すると、その背中には、目映いばかりの真白の翼。
「では。閣下もお元気で」
「あぁ。またな」
 デーモンに見送られ、アキは空高く舞い上がる。途端に、もう先程までいた屋敷は豆粒程の小ささになる。
 久し振りに飛んだ空は、とても気持ちが良かった。またこんな気分を味わえるなど、つい数時間前までのアキには想像も着かなかったのだ。
 全て、あの副大魔王に巡り会ったおかげ。
「…ブレスレットを外してみるのも、また一興…」
 くすっと、笑いが零れた。
 眼下には、平和そのものの世界が広がっている。
 デーモンが言っていた通り、この平和を満喫出来るのも、今のうち。折角の任務を、楽しまなければ勿体無い。
 今やっと、その意味がわかったような気がした。
 多少の悩みや苦しみはあるが、天界にいた頃よりもずっと平和であるこの場所。楽しみに満ちた、この場所。
 そんな平和なこの場所を護って行きたいと思う気持ちの根本は、天使も悪魔も変わらないのだと言う事実。
 この地は、天使にとっても、悪魔にとっても、楽園なのかも知れなかった。





 今、一時の平和を。
 今、一時の安息を。
 何れ、滅ぶかも知れないこの地ではあるが、今はこの一時を楽しもう。
 そして、何かを感じて欲しい。
 生き行く者の為に必要な何かを。
 死に行く者の為に必要な何かを。
 天使と悪魔と人間と。共存できる土地であるなら、見つかるはず。
 そこが、真の楽園ならば。
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プロフィール
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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