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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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蒼き月の破片
こちらは、以前のHPで2003年06月28日にUPしたものです

拍手[3回]


◇◆◇

 蒼い月が零した涙。
 切ない程透明な、
 麗しい程、冷ややかな、
 蒼き、月の破片(かけら)。
 離れ離れの恋人の、
 片時も忘れ得ぬ想い。

 私ノ元ヘ、
 彼方ノ恋人ヲ、
 連レ戻シテ。
 逢イタイ。
 彼(カ)ノ人ニ…

◇◆◇

《逢イタイ…》
《逢イタイヨ…》
 ふと聞こえた声に、顔を上げる。
 蒼黒の夜空には、上弦の蒼い月。
「…エース、どうしたの?」
「…あぁ、何でも…」
 声をかけられて、我に返る。
 目の前に広がるのは、幾度となく巡って来る、深い碧の樹木。
「こう下草が生い茂ってるんじゃ、なかなか足が進まないじゃんか…ねぇ、エース?」
「…そうだな。随分、厄介な所に入っちまったみたいだな…」
 俺の前で揺れる、漆黒の髪。
 背中の中程まで伸びた緩いウエーブのそれは、襟足で結んである。それでも、細く伸びた枝に時々引っかかっているが…。絡まった髪を外すのは俺の役割じゃないんだが…後ろを歩く以上、必然的に回って来る役割だ。
「…ったく、一体何処に逃げ込んだんだか…あ、エース。そこ危ないから気を付けてね」
 愚痴を零しながら、その黒曜石は、しっかりと足元に注がれていた。
 俺は、奴の後に着いて歩いていた。

 俺とルークが指揮を取った任務で魔界の僻地まで来たのは、どれくらい前だったか。余りに長過ぎて、もう覚えていなかった。そして久しぶりの長丁場で、ルークは意気揚々としている。
 勿論、俺もつまらない訳ではない。いつもなら、ある程度の緊張感はあるものの、もっと血が騒いでいたはず。
 血を見るのは、決して嫌いじゃない。むしろ俺の邪眼は、それが楽しみであるかのように、その能力を発揮する。しかし今回ばかりは、そう楽しんでいられる心境ではない。
 枢密院に残るはずであった"奴"が、急遽別の任務の総指揮を取り、遠征に出かけた。俺たちが出発した少し後の事。本来"奴"に付くべきはずのルークは、俺と一緒に出発した後だった。だから、"奴"についているのは別の参謀。そして、俺たちの目的地とは、正反対の方角へ。
 "奴"が負けるはずはないとはわかっているが、御互い連絡もままならない僻地への任務の為、"奴"と"奴"の軍が、どんな状態なのかもわからない。
 つい最近入った報告によれば、"奴"の軍はかなりてこずっているようで、終結の行方は未だわからないとのことだった。
 そして俺たちの任務もまた、終結の糸口すら、見えていなかった。
 本格的な長丁場になるかと腰を据えかけたのも束の間、敵は原生林に逃げ込んだ。
 結果、俺たちは飛ぶことさえ出来ないこの原生林を、己の足で進まねばならなくなった。
 そして、現在に至る…

《逢イタイ…》
《逢イタイヨ…》
「…眠れないの?」
 声をかけられ、顔を上げれば、仲魔の顔がある。
 原生林を囲むように位置を変えた基地の中心。そこに寝所を設けた俺たちであったが、その夜はどうしても眠れず、こうして外に出て来た訳だ。
 それを目敏く見つけ、後を追って来たのがこのルーク。
「何、もしかしてあの日?」
 くすくすと笑いを零すルーク。
「馬鹿言え。遠征に出てまで、正確に欲情するのなんて、御前ぐらいだろうが」
「あ~、ひどいねぇ。別に俺がそうだって言ってる訳じゃないでしょ?」
 くすくすと笑ったまま、ルークは空を見上げた。
 空に浮かぶのは、蒼い、月。
 俺も同じように、空の月を見上げる。
 確かにルークの言う通り、任務に出動していなければ、こんな月の日には、そうかも知れない。
 でも遠征に来てまでそんなことを訴える奴は、きっと生きてなんか帰れないと、俺は常日頃から思っている。
 それが当り前だよな。
 それに今は…欲情(うえ)てる場合じゃない。そんな気も起こらない。
 ただ。
「…綺麗な月だね」
 小さく、ルークがつぶやく。
「あぁ。でも…寂しそうだ。まるで、泣いてるみたいだ…」
 俺には、そう思えて仕方がなかった。
 まるで……
「デーさん?泣いてるのって」
「…馬鹿。彼奴が意味もなく泣くかよ」
 そう、ルークの問いに答えたものの…実は、そう思ってた。
 まるで、"奴"が泣いてるみたいに。
 それぐらい切なくて、綺麗な月だった。
「…デーさんだって、泣くよ?あんたに何かあればね」
 冗談めかしに、零れた言葉。
「……泣かせる訳ないだろう?」
「…言ってくれるね…よっ!色男っ」
 笑うルークに苦笑しながら、俺は、寝所へと踵を返した。
 泣かせるような真似はしない。だから、"奴"より先には死ねない。
 "奴"を、泣かせない為に。

◇◆◇

 蒼い月は、
 遠い日の想い出に、
 涙を零す。
 彼の人に逢いたくて。
 淡い光は切なくて、
 熱い想いは、儚くて。
 再び巡り逢えるのかすら、
 わからないのだから。
 その想いだけが、
 躰を離れて行く。

 逢イタイ…
 逢イタイヨ…

◇◆◇

 終結が見えないまま、時間だけが過ぎ去った。
 その夜も、蒼い月だった。
 月は十六夜。
 気晴らしに寝所から外へ出て、空を見上げる。
 今日は、ルークも寝入っているらしい。
 ここ数日、眠る暇もないくらい、行く末のわからない戦の報告書に追われていたはずだから、無理もない。
 泣き出しそうな程の切ない光が、蒼い月から零れていた。
《逢イタイ…》
《逢イタイヨ…》
「…御前か…ずっと、嘆いていたのは…」
 俺は、蒼い月に向けて、言葉を発した。
 涙にも似た光が、零れ落ちて来る。
 それは、蒼き月の破片(なみだ)。
《逢イタイ…》
「誰に、逢いたいんだ?」
 近くの岩場に腰を据え、俺は空を見上げた。
《逢イタイ…》
《彼ノ人ニ…》
「…そうか。逢いたいのは、御前の恋人か…」
 蒼き月の恋人は、確か…禁忌により、引き裂かれた恋人たち。
 俺は目を伏せ、小さくつぶやいた。
「逢いたいよな。そんなに、恋焦がれていたのなら」
 しかし、恋人たちは、御互いに見えない壁に阻止されている。
 語り合うことも、触れ合うことも許されない。
 切ない想いだけを抱えて、永遠に…
「…俺にも、逢いたい悪魔がいるんだ」
 俺は、言葉を紡ぎ始めた。
 聞いているのが蒼き月だけならば、全てを吐き出しても良いだろうと思って。
「もう暫く逢っていないな。元気なのかもわからない。俺たちがもう一度顔を合わせる時は、御互いの勝利の宴だ。御前たちに比べれば、その距離はずっと短いけれど、俺にはとても遠く感じる。彼奴との、この距離が…」
 せめて、すぐに連絡が取れる距離ならば、俺だってこんなに遠く感じることはなかっただろう。
 "奴"が、枢密院に残っていてくれさえすれば。
 枢密院で、俺の帰りを待っていてくれさえすれば。
「御前が泣くと、俺には彼奴が泣いているように思えて仕方がない。多分、御前の恋人も…御前が泣くから、俺と同じように、眠れぬ夜を過ごすんだと思う。御前が嘆くのが、切なくて…」
 風向きが変わった。
 森が、騒いでいるようで。
 大地が、騒いでいるようで。
 俺は顔を上げ、空を振り仰いだ。
「ほら…御前を心配している。御前が嘆かぬように。御前が、哀しまぬように…精一杯、御前の為に…」
《…彼ノ人ハ…ソコニイルノ?》
「あぁ、いるよ。御前をいつも、見つめている。だから…嘆くことはないんだ。語り合えなくても、触れ合えなくても…いつも御前のことを見つめている。いつもここにいるからって。だから…御前が、破片(なみだ)を零す必要はないんだ」
 そうだよな。
 俺は、ここにいる。
 どんなに遠く離れても、俺は御前の傍に…
《本当ニ?》
「あぁ」
 俺は、僅かに微笑んで見せた。
 柔らかな、蒼き月の波長が流れ出す。
 恋人の存在を、確かめる為に。
 森が、大地が、騒ぎ出す。

 "僕ハ、ココニイルヨ。
 ダカラ、泣カナイデ。
 泣カナイデ…
 僕ノ、大切ナ恋人…"

 蒼き月と碧の大地は、決して交わることはない。
 近いように見えて、その距離はとても遠い。
 それでも…"そこに、いる"。
 だから…精一杯の想いを込めて。

 "…泣カナイデ…"

「…泣かないで…か」
 例え聞こえなくても、そう訴えずにはいられない。
「…逢いたいな…"奴"(デーモン)に…」
 俺の口から、零れた言葉。
「デーモン…」
 ふと、蒼き月の波長が変わった。
《貴方ノ恋悪魔ハ…何処ニイルノ?》
「俺の仲魔(こいびと)?」
 思わず、笑い出してしまう。
 仲魔か、恋悪魔か。
 どちらがホントなんだか。
「俺の大事な悪魔は…俺と正反対の方向に、戦に出たんだ。ずっと向こうに…いるんじゃない?」
 俺は、王都の方角を指差した。
「"奴"は、元気だよ。きっとな」
 そう。
 心配はいらないよな?
 俺たちの距離は、そう遠くない。
 もう直…逢える気がするから。
 だから俺は、出来るだけ早く今の任務を片付けなければ。
 夜明けは、近付いていた。

 翌日、あれだけ手こずったのが嘘のように、俺たちの任務は終了した。
 誰にも言わなかったけれど、俺はその日、ずっと感じてた。
 蒼き月の恋人が、俺たちの勝利に、協力してくれたのだと。
 大地を味方に付けたのだから、負けはしないよな?
 "奴"も、きっと…

◇◆◇

 王都に引き上げて来たその足で、俺は皇太子の執務室へ、任務の終了を報告に向かった。
「エースです。失礼します」
 軽くノックをして、その扉を開けた瞬間、俺の目に飛び込んで来た姿。
「御帰り、エース」
「…デー…モン…」
 振り返って微笑む、"奴"の姿。
 一瞬、幻かと思った。
「やぁ、エース。御帰り」
 皇太子から声をかけられ、ハッと我に戻る。
「只今、帰りました」
 部屋の中を進み、"奴"の隣に立って皇太子に答える。
 殊の外、皇太子は上機嫌だった。
「遠征であるにも関わらず、同じ日に帰って来るとはね。全く、御前たちは」
 くすくすと笑う皇太子の声に、俺は"奴"を見た。
 俺たちの軍よりも、少し早く帰って来たのか。
「とにかく、二名共御苦労であったな。御疲れ様。デーモン、そしてエース。ルークにもそう、伝えてくれ」
「御意に」
 俺は、軽く微笑んだ。
 まるで…蒼き月と碧の大地に導かれたように、俺たちは再び、巡り逢えた。

 久方振りに訪れた時間。
 蒼き月は、柔らかな光を放つ。
「月を、見ているのか?」
 声をかけられ、小さく頷く。
「戦いに出てる間、習慣みたいに、空を見上げていたな…」
 その声に、"奴"は俺の隣へ来て、同じように空を見上げた。
「吾輩もな、戦の間、ずっと見ていたんだ。吾輩を恋しがって、御前が泣いているんじゃないかと思ってな」
「冗談。泣いていたのは御前だろう?俺を恋しがってさ」
「…そうかもな」
 くすくすと、笑いを零す。
「暫く、休暇だろう?ルークやゼノン、ライデンを呼んで、みんなで久し振りに酒でも呑むか」
「あぁ、そうだな。ルークがいつも言っていたぞ。御前は今頃何をやってるんだろうってな。戦いの話以外は、大抵御前の話だったからな。余程、心配だったんだろうな」
 彼奴は、御前の片腕だから。
 つぶやいた俺の声を、彼奴は笑った。
「御前だって、吾輩の片腕だろう?心配はしてくれなかったのか?」
「心配?負ける訳、ないじゃないか。御前がさ」
「そうとも限らんぞ」
「じゃあ何だ?御前は、俺に心配して貰いたかったのか?」
 様子を伺うように、俺は"奴"を見た。
 ふっと目を細め、"奴"は小さな笑みを零す。
「心配と、言うよりも…そうだな。覚えていて貰いたかった、と言うところかな」
「何だ。そんなこと…」
 当然じゃないか。片時も、忘れるはずはない。
「今更、そんなこと言わせるのか?」
「あぁ、聞きたいな。御前の口から」
「…馬鹿か…」
 思わず溜め息と共にそう言葉を零す。
 "奴"は、くすくすと笑ったまま、俺を部屋の中へ促した。
 その背中越しに…俺は、"奴"の耳元でそっと囁いた。
「…じゃあ、しょうがないから…一晩中、御前の耳元で囁いてやるよ」
----愛してる、って。
「……気っ障…」
 くすくすと笑った"奴"の顔。だが、満更ではなさそうだ。
 その微笑みが消えないうちに…蒼き月と碧の大地に紹介してやろうか。
 俺の、一番大事な…仲魔(こいびと)を。

 嘆きの声は、もう聞こえない。
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