聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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MASQUERADE 1
その日は何だか朝からざわざわと落ち着かない雰囲気が漂っていた。
「…何だか落ち着かねぇな」
手に持っていた書類を机の上に抛り投げ、俺はふうっと溜め息を吐き出す。と、その時。
『ルーク参謀、入ります』
「…どうぞ」
ノックの音と共に届いた聞き覚えのある声に、俺はドアの方に視線を向ける。やがて入って来たのは、ダミ様の隠密使、だった。
「…ジュリアンじゃん。どうした訳?」
俺と良く似た容姿のジュリアン。長さこそ違うものの、緩い癖のある黒髪に蒼い紋様。体型も良く似てる。パッと見…俺の影武者にも見えなくもない。まぁ、彼がそんな役割を担わないことは間違いないけど。
で。久しく見かけなかった彼に、そう尋ねてはみたものの…ジュリアンは常に冷静な表情を崩さない。笑ったのを見たのは、初めて会った時ぐらいだったかな…無表情って言う方が相応しいかも知れない。
「貴殿に、仕事を頼みに参りました。それに伴い、今回はこちらで相棒を着けさせていただきます」
「相棒?」
徐ろに発したその不快な台詞に、俺が眉を潜めたのは言うまでもないことだ。だって、俺の相棒は…
「エースは?」
「エース長官は、只今激戦区の戦線にて戦っております。御存じ、なかったのですか?」
「…御存じ、なかったね」
エースもデーさんも、そんなこと一言も言ってなかったし。それに、俺にエース以外の相棒を着けようだなんて…ダミ様も、何を考えてるんだか…
思わず吐き出した溜め息を、ジュリアンは不快な顔で見つめていた。
「…宜しいですか?」
「あぁ、御免。どうぞ」
俺が答えを返すと、ジュリアンはドアに向かってその言葉を発した。
「アリス」
聞いたこともない名前、だった。ジュリアンに呼ばれて入って来たのは、赤茶色の緩い癖毛のセミロング。鋭い光を浮かべた薄い碧の眼差しは、真っ直に俺を見つめていた。
「アリス=レイドです。隠密使として、特別な訓練を受けていますから、貴殿の足手纏いにはならないはずです」
「そりゃ、どうも」
しかし…隠密使が相棒とは。一体、何の仕事を回されることやら。
「で、出すモノは早く出したら?」
溜め息交じりにジュリアンにそう言うと、それを差し出したのはアリスの方だった。
「書類はここにあります。貴殿には、ある者を捕える協力をしていただきたい。それが、我々に科せられた任務です」
ハニーボイスと称すると相応しいんだろうか。甘さを含んだような声がアリスの外見に、良く似合っている。まぁこの場に於て、そんなことを考えている場合じゃないんだろうけれど。
「ヒトを捕える?」
受け取った書類には詳細は記入されていない。アリスからもう一つ手渡されたのは、一つのファイル。
「詳しくはこれを見ろ、ってことね」
溜め息混じりに言葉を吐き出し、俺はコンピューターにそのファイルのデータを入力する。まもなく出て来た画像には、見慣れない顔が写し出されている。
「…こいつを捜せって言う訳ね。えぇーっと、名前は…」
画面の文字を追っていると、背後からアリスの声が届いた。
「セルジュ=ノアン」
「…は?」
聞いたこともない名前。それが、"奴"の名前であることは間違いないんだろうけど。
「…セルジュ=ノアン?一体、何者?」
画像に写るのは、俺よりも多少若いであろうヤツ。画面からでは、性別までは区別出来ない。いわゆる中性的な顔立ちだった。そして色薄の金色の髪に、薄い碧色の瞳。これは、どう見ても魔族ではないんだが……。
俺の問いかけに、アリスは小さな溜め息を吐き出す。
「何者かわかっていたら、とっくに捕まえています」
そりゃそうだろう。魔界屈指の皇太子の隠密使が、所在のはっきりしている奴を、わざわざ俺に協力しろなんて命は下さないだろう。
もう一つ溜め息を吐き出した時、見兼ねたようにジュリアンが口を開いた。
「この任務は、貴殿を信用されて下された命であること。それだけはわかっていただきたい」
「…まぁね、嫌だって言ってる訳じゃないんだよ。ただ…これが気になってね」
先程から俺の視線の先にあるのは、詳細を述べている文字の一つ。
「…好かないんだよね、こう言うの。ウチは軍事局であって、情報局じゃないの。わかる?何を好き好んで、暗殺者(テロリスト)の捜査なんか…」
そう言いかけると、それを遮るかのようにジュリアンが口を開く。
「殿下が生命を狙われているとしても…?」
「…まさか」
思わず、息を飲む。
「確信はありません。ですが、可能性はあります。だからこそ、有能な副大魔王付きの参謀でもある貴殿に…」
「わかったよ。引き受ければ良いんでしょうが」
ダミ様の生命が狙われているとわかっていて、俺に拒むことなんか出来ないって、わかってたクセに…でも、ジュリアンがそこに浮かべたのは、あからさまな安堵の表情だった。
「では、今後のことは貴殿に御任せ致します故。アリス、君も頼みましたよ」
「…御意に」
頭を下げるアリスに頷くと、ジュリアンは俺に頭を下げ、執務室から出て行った訳だけど…
俺の視線は、再び画面の文字を追っていた。
「コードネームが《angel》、ねぇ…」
引っかかるっちゃ、引っかかるんだ。けど、こんな得体の知れない奴がダミ様の生命を狙ってるって?こんなあからさまなコードネームで呼ばれてる奴が…?
「…乗り気ではないようですね」
「…あ?」
いかん、いかん…すっかり惚けていたみたいだ。目の前で、アリスが表情を曇らせてるじゃない。
「…乗り気じゃないって訳でもないんだけどね…」
ぼりぼりと頭を掻きつつ、俺は溜め息を一つ吐き出す。何だか、嫌な予感がして来たんだけど…
「もしかして、情報局の提携もナシ?」
「もしかしなくても、情報局との提携は結んでいません」
「あー…そりゃ面倒だわ……じゃあ、この資料は何処から出て来た訳?」
「提携を結んでいないのですから、当然この詳細は、情報局の関連情報システムから得た資料ではありません。我々が……」
「あ~、わかった。皆まで言わなくても良い。つまり皇太子属隠密使の独自の調査による報告書ってことね。まぁ、あんたたちが信用出来ないって訳じゃないんだけど、情報局の資料も一見の価値があると思わない?」
「こちらの情報を漏らす訳には行きません。例え、それが情報局であろうとも」
「…御堅いんだから…」
ホント、隠密使ってば、頭堅いんだから…
「要は、こちら側の情報を漏らすことなく、情報局からの資料を手に入れれば良い訳だろう?」
溜め息を一つ吐き出しながら、俺は席を立ってコーヒーを淹れ始める。その背中を、きっと怪訝そうに見ているんだろう。返って来たアリスの声は、不穏げだった。
「情報局からの資料を手に入れる場合、提携を結ぶのが常ではないんですか?こちらの要請する資料を提供して貰うのだから、その経過報告も…」
「それは正規のルートで情報を得ようとする場合でしょ?俺が言ってるのは、"裏から"情報を手に入れる、ってこと」
「…裏から?そんなこと、出来るんですか…?」
「まぁ、やろうと思えば出来ないことはないよ。幾ら、厳重な警戒体制を敷いている情報局であろうともね……とにかく、一服しない?」
俺は、淹れたばかりのコーヒーのカップの一つを、アリスに手渡す。
柔らかい芳香に酔い痴れながら、俺は先程の椅子に腰を降ろし、コーヒーを一口啜る。
「情報局ってのは、厳重な警戒体制で有名じゃない?でもさ、それは裏を返せば、上手くやれば情報を手に入れたことも漏れることもないってことな訳よ。つまり、こちらの手の内は死守されるってこと」
「でも、どうやって…」
「いるでしょ?"情報局の実権を握ってる奴"が。まぁ、誰にでもそれが通る訳じゃないし、情報外で報酬は必要だからね。あとは秘密ね」
「ルーク参謀…」
思わず息を飲むアリスを前に、俺はニヤリと笑みを零した。
当然…"彼奴"しかいないでしょう。ねぇ。見返りの報酬なんて、良い酒持ってけばОKなんだけどね。
「ジュリアンは俺にこの職務を託した訳だし、あんたは俺の相棒としてここにいるんだから。多少は無茶は覚悟しといてよ」
「しかし…」
「のんびりしてる時間はないんじゃないの?」
そ、相手の所存もわからない状態から始めるんじゃ、どれくらいで解決するのかもわからない。のんびりやってる間にダミ様の生命が狙われでもしたら…それこそ取り返しがつかないんだから。
「さて、それじゃどうしようかなぁ…犯罪者リストなんて膨大な量だからね。ま、本魔に調べて貰おうか」
ホントは、エースのコンピューターの起動パスワードは知ってるんだけどさ。部外者のアリスがいるんだもん。勝手に使ったら、何どやされるかわかんないしね。まぁエースに頼むのが一番確実で、正確なんだから。
「えぇっと……エースが激戦区にいるってことは…リエラは局に残ってるんだよな。ってことは、エースの代わりにリエラに激戦区に立って貰って…あぁでも、それはリエラには酷か…とすると、ウチから出せば良いかな?…あぁ、そうだ。丁度良いのがいるじゃない」
俺はコンピューターの回線を繋ぎながら、不安そうな表情を浮かべるアリスに目をやった。
「大丈夫だって。こう見えても俺は…」
「副大魔王付きの参謀であり、情報局長官の相棒。また、軍事局でも名を馳せる総参謀長殿…でしょう?」
「…わかってんじゃない」
だったら、もうちょっと余裕のある顔してくれたって良いじゃん。そんな、あからさまに不安を出さなくたって…ねぇ。
まぁ、それは扠置き。回線が繋がり、御目当ての奴が液晶画面に現れた。
『どうした?総参謀長殿』
突然の呼び出しに応じたのは、我が軍事局でも特に名声高い参謀部実行班総長、ラル。彼は、俺が軍事局に入局したばかりの頃、机を並べていた同期だ。
「あぁ、掴まって良かった。ちょっと頼みがあるんだ」
『頼み…?また厄介な任務を押しつけようって言うんじゃないだろうね…?』
昔馴染みの、親しげな口調。俺にとっては、その方が気兼ねしなくても良いから好きなんだけどね。
皮肉げに笑ってみせるラルに、俺も思わず小さな笑いを零す。
「なぁんだ。見抜かれちゃしょうがない。白状しましょ。実は、あんたに行って貰いたい任務があるんだけど。勿論、あんたの実力を考慮した上で、頼んでるんだ」
『…ルーク参謀殿に頼まれて嫌だなんて言ったら、あんたの部下に何をされるかわかったモノじゃない。まぁ、良いよ。どうせ暫く任務もなかったことだし。で、何処?俺を強引に行かせようって言うところは…』
全く有り難いね。こうも直ぐに結論を出してくれると、こっちもやり易いよ。
「今、エースが行ってる激戦区。そこに、エースの代わりに立って欲しいんだけど」
『…エース長官の代わり?それは、正式な任務として…?』
「無論、無認可」
『…だろうね。あんたのことだから…』
呆れたような溜め息を吐き出したラル。でもその表情は、仕方がない、と言う諦めとも取れる。
『ちょっと待ってて。こっちの予定を確認する。それで大丈夫だったらOKってことで良いかな?』
「勿論」
俺はそう返すと、暫し席を離れたラルを待つ。
そして戻って来たラルは、小さな溜め息を吐き出す。
『残念ながら、俺が出向くほどの予定はなかった。しょうがないから、あんたの頼みを聞きましょ?こっちの準備が出来次第、向かうよ。それで良い?』
「溜め息吐き出しながら言うなよ…」
思わず苦笑する。だが、ラルが動いてくれるのは有難い訳で。
「それで良いから。頼むね」
『あぁ。それより、エース長官は御存じで…?』
「いーや。まだ御存じない。これから連絡する」
『…あんたらしいと言うか、何と言うか…相変わらず呑気なんだから…ま、大丈夫でしょう。じゃ、また後で』
「幸運を祈るよ」
小さな笑いと共に、ラルの通信回路は閉ざされた。
休む間もなく、俺はエースと連絡を取る為に 彼奴の専用の回線に通信を流した。
エースは任務中に通信を送られるのがあんまり好きじゃないみたいだけど、こういう時はしょうがないじゃない?
例え任務地が何処か知らなくても、この回線さえ知っていれば必ず掴まるから、それだけが救いなんだけどね。
暫しの後、繋がった画面には、見慣れたエースの顔。
『…何だ、誰かと思ったら…御前か』
「そ、俺。御免ね、恋悪魔からのラブコールじゃなくて」
本当はズバッとデーさんの名前を出そうかと思ったんだけど…よくよく考えたら、アリスがデーさんとエースの関係を知っているのかどうかを、俺が知らないしね…勝手に広める訳にもいかないし。だから、そんな変な言い回しをしたんだけど…勘の良いエースは、他に誰かいる、って言うことを察してくれたみたい。
『ばぁ~か。戦地にラブコール送るような無粋な恋悪魔はいないな』
「やっぱり?」
くすっと笑った俺に、エースは溜め息を一つ。
『で、何の用だ?』
「…もしかして戦いの真っ最中?」
『いや。今は作戦会議の途中だった。時間がないんだ、用件があるならさっさと言え』
いつになく機嫌が悪いじゃないの。きっとてこずってるんだろうな。俺を参謀に選ばないから…なんて。それは今回の作戦参謀に失礼か。
俺は、咳払いを一つ。そして、その表情を引き締めた。
「じゃあ、単刀直入に言う。これから、ラルがそっちに向かう。彼奴が着いたら、あんたはこっちに戻って来てくれない?」
『…は?』
「だから、あんたの代わりにラルを行かせたっての。あんたに用があるから、帰って来て欲しい訳。わかる?」
『言ってる意味はわかるが…急用なのか?誰の命で?』
「誰のって…俺の独断で。ちょっと厄介ごとに首突っ込んじゃってね。手貸してよ」
『…御前ってヤツは…それでラルまで巻き込んだのか…?』
心底呆れた、と言う表情を見せるエース…それって、失礼じゃない?
「良いじゃないよ。ウチの有能な実行班総長を貸し出すんだから。とにかく、急用なの。だから、ラルが行ったら直ぐに帰って来てよ。良い!?」
『…わかったよ。じゃあな』
ったく、エースったら…さっさと通信切っちゃうんだもんな。まぁ、何はともあれ、エースがこっちに戻って来てくれれば文句はないんだけどね。
俺は、終始黙ったまま、俺の通信を聞いていたアリスを振り返った。
「さ、こうなりましたが。如何でしょうか?アリス殿」
「…文句の付けようはないですね。貴殿らしい即断と言うか、無謀と言うか、何と言うか…」
呆れた表情と言うんだろうか。それでも取っ掛かりの目星が付いたのだから、多少は表情が和らいだようだ。俺も小さく微笑む。
「これぞ軍事局の実権を握ったやり方、ってヤツね。早ければ夕方にも戻って来るんじゃないかな。取り敢えず、それまではやることがないから…あんたの持って来た資料の検討でもしてようか」
「御意に」
画面を切り替え、再び"セルジュ=ノアン"の資料を前にした俺たちは、エースが来るまで、じっくりと作戦を練ることとなった。
俺の予想通り、夕方の日差しに変わり始めた頃、エースが王都へと戻って来た。
戦地帰りの戦闘服は、当然埃に塗れていた。常ならば着替えをして来るであろうが、俺の様子が様子だったからだろうか、埃に塗れた戦闘服のまま、エースは俺の執務室へとやって来ていた。
「…そいつは?」
俺の背後に立つアリスを怪訝そうに見ながら、エースはソファーに腰を降ろして俺にそう言葉を放つ。
「アリス=レイド。枢密院の特別警備隊に所属しております」
アリスは俺が口を開く前に、顔色一つ変えずエースにそう答える。だが、俺はその答えに思わず眉を寄せてしまった。
枢密院の特別警備隊?何、それ。
俺のその怪訝そうな表情を見て取ったのか、エースがそれに食いつかないはずがない。
「初めて聞くな。枢密院に特別警備隊があったとは…なぁルーク」
「……え?…そう…だっけ…?」
一瞬頷きかけ、はたと我に返る。頷いてる場合じゃないよな。ダミ様の隠密使と言う肩書きを隠したいが為の、偽りの部署であるんだろうから。と、俺は勝手に解釈した訳だ。
曖昧な返事を返した俺の態度に溜め息を吐き出しつつ、アリスは言葉を続けた。
「一応、非公認の部署です。昔からあった訳ではなく、王都を揺るがした例の革命以後、作られた組織ですから」
「…革命以後…ねぇ」
革命の話には、エースも余り触れたくないらしい。勿論俺にだって、その気持ちは良くわかる。
俺たちはともかく…例え一時でも、ダミ様とデーさんがその身分を剥奪されたのが、屈辱なのだから。
俺が溜め息を一つ吐き出した時…ふと、エースの纏う気が変わった。そして次の瞬間、俺の横を風が抜けた…。
「…度胸は据わってるな」
その声に、俺は再び溜め息を吐き出す。
エースは…俺の正面から、俺の背後にいるアリスに剣を向けていた。俺の横を風が抜けた、と思ったのは…エースが瞬間的にアリスに向けた剣が風を切ったから。
そしてアリスへと視線を向けると、その首筋にあと一センチ、と言うところでピタリと止まっている剣先にも顔色一つ変えず、そこに立ったまま。けれど、エースに向けられたその眼差しは、強烈に鋭い光を放っていた。
「…いい加減にしなよ、エース…」
「本物かどうかを確かめただけだ。まぁ、肝は据わっているからな、存在自体が偽りではなさそうだ」
そう言い放ち、エースは剣をしまう。その一部始終を、アリスはただじっと見つめていた。
「信用しても大丈夫だって…」
全く…俺が下手に動いてたら、俺が怪我するじゃん…。
「…で?そいつがここにいる理由は?関係あるからいるんだろう?」
溜め息と共に吐き出された言葉に、俺も小さく息を吐き出すと、言葉を続けた。
「依頼の経路はちょっと複雑なんだけどね。ま、あんたへの御願いは簡単。情報局の方には内密に、こいつの情報が欲しいんだ」
そう言って俺は、エースが来る前にプリントアウトしておいた"セルジュ=ノアン"の写真をエースの前に置く。
「何者だ?」
「名前はセルジュ=ノアン。出身、種族共に不明。ただ一つわかっているのは、彼が《angel》と言うコードネームのテロリストだってこと」
「…暗殺者(テロリスト)?」
「そ、暗殺者(ヒットマン)」
「…で、このテロリストに狙われているのが誰だって?」
「それなんだけど……」
と、俺がそれを口にしようとした時、俺たちの話に口を挟んだのはアリス。
「ルーク参謀。口を慎んで下さい。それ以上はエース長官には無関係のはずです」
「…と、言うこと。ま、あんたの仕事はそこまでってことだから」
「ルーク、御前なぁ…」
「仕方ないじゃない。元々、俺とアリスの仕事だもん」
「だったらわざわざ呼び寄せるな。前に俺がいない時、情報局のデーター、内緒で取り出したことがあるんだろ?またその手を使えば良かったじゃないか」
ぎくっ…やっぱり見抜かれてたか。ホント、鋭いんだから。無断でパスワード開かなくて良かった。
「やぁだ、失礼な……一回だけ、だよ。何回もやってないからねっ」
「同じだよ。一度見ればな」
呆れたようにポケットを弄る手を見て、俺は咳払いを一つ。
「ここは禁煙。デーさんの執務室みたいにルーズじゃないからね。灰皿もないよ」
「…ったく…わかったよ」
煙草は諦めたようだ。テーブルの上に置いてあったコーヒーカップを手に取ると、既に冷めかけてはいたのだが、一口啜る。
「まぁ、このテロリストのことはわかった。何とか情報を捜してみる。調査報告が出来次第、連絡を入れる。じゃ、そう言うことだ」
そう言い残し、エースはさっさと執務室から去って行った。
「…気を悪くなされたでしょうか…?」
僅かに眉間に皺を寄せながら、アリスがつぶやく。
「大丈夫だよ。そんなに気にすることないって。それよりも、ホントなの?枢密院の特別警備隊の話…」
アリスを振り返り、そう尋ねた声に、アリスは小さく頷いた。
「本当です。まだ非公認ではありますが、殿下を御護りする隠密使として、ジュリアン主任や私を含め、数名が所属する部署です」
「へぇ。隠密使ってそんなに一杯いるんだ。俺、今までジュリアンしか知らなかったなぁ。あんたがいるってことも知らなかったし…ホントに非公認なんだな」
「まぁ…身分を知られると、仕事もやりにくいですし。私たちにとっては、今の状況の方が動き易くて良いのですが」
「だろうね」
妙に納得してしまったりして…まぁ、内密に動くんだったら、確かに面が割れてない方が動きやすいのは確かだしね。
でも、エースの眼力にも臆さないなんて…流石隠密使。
「ま、後はエースの結果次第だからさ、暫く様子を見るしかないだろうね」
そうつぶやいてみて、ふと気になったこと。
「…そう言えば、セルジュ=ノアンの捜索は俺が任されたけど、ダミ様の方はどうなってる訳?まさか、生命が狙われてるかも知れないってのに、護衛も付いてない、なんてことはないよね?」
考えてみれば、それが一番重要じゃないか。テロリストを捜すのも大事だけど、狙われた生命の方がもっと大事なんだから。
するとアリスは、当然と言う表情を見せる。
「ジュリアン主任が護衛に当たっています」
「あぁ、ジュリアンね」
ジュリアンなら安心だ。何せ、昔っからダミ様の身辺警護で付いてるしね。
生真面目で、妥協と言う言葉を知らなくて…まぁ、それが彼の良いところなんだろうけど。俺と容姿が似てるけど、表情はまるで逆だってよく言われるしね。
「…今日はもうやることもないし、エースからの連絡が入り次第、動くことにしようよ」
大きく伸びをしながら俺がそう言うと、アリスは何処か納得の行かないと言う表情を見せた。でもそれはほんの一瞬で、次の瞬間には俺に向かって頭を下げていた。
「明朝、また伺います」
そう言い残し、執務室を去って行く後ろ姿。その背中が妙に柔らかい線を描いているな…と、記憶に残った。
「…怪しいこと、この上ないけどね…」
それは…何が、と特定するものではなかったんだけど…この任務の全てにおいて、と言う意味で。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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筋金入りのオジコンです…(^^;
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