聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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虹色の夢
虹の先には何があると思う?
昔、そんな話を聞いたことがある。
虹の端を見つけると、倖せになれる。そんな言い伝えがあるのだと。
だがしかし。
それは…一体誰の、倖せなのか。
それは、ルークがまだ副大魔王付きの参謀になって間もない頃のこと。
執務室の窓からぼんやりと外を眺めていたルークは、"それ"に気が付くと、小さく息を飲んだ。
「…虹、だ…」
確かに、つい先ほどまで雨が降っていた。そしてその雨がやむと同時に差し込んで来た日差し。その雨と日差しによって、青い空に大きな虹がかかっていたのだ。
「虹ってさ…何処から出てるか知ってる…?」
偶然、書類を持ってやって来た旧知の仲魔…ラルに、そう言葉を零す。
まぁ、ルークにしてみれば…それは誰であっても良かったのだ。たまたまいたのがラルであった、と言うだけで。半ば、独り言のようなモノだった。
「虹?あぁ、虹の端を見つけると倖せになれるんだろう?何処から出てるかなんて知らないけど、探してみれば?何か良いことがあるかもよ?恋悪魔とか、出来るんじゃない?」
くすくすと笑うラルに、ルークは顔を上げる。
「もっと…閣下に近づけるかな…?」
「…さぁね。それはどうだろう?」
ルークの片思いの相手である副大魔王閣下が話題に上り、ラルは苦笑するしかなかった。
決して叶わない恋だとは思っていない。副大魔王とて、恋悪魔の一名や二名、いたところで不思議はないのだから。けれど、ルークが"恋悪魔"と言う立ち位置に立てるかどうかは話が別なのだ。
「探してみたら?虹の端っこ」
笑いを含んだその声は、ルークの行動を起こすのには十分だった。
徐ろに椅子から立ち上がると、大きく窓を開けた。
「…出かけて来る」
そう言い残し、ルークは背中に真白き翼を背負うと、空へと飛び立って行った。
「まぁ…行動が早いこと」
くすくすと笑いながら、ラルはルークを見送っていた。
虹に向かって空を飛んでいると、ふと目に入ったものがあった。
それはまるで…虹の上を移動しているかのような、小さな小さな点。
「……?」
得体の知れない"それ"を、じっと見つめていると…次第に近付いて来る感じがある。
ふと、何かに呼ばれるかのように"それ"へと近寄っていくルーク。そして、"それ"が何なのかを判別出来るくらい近付いた途端、小さく息を飲んだ。
"それ"は…手を繋いで"虹の橋"を走る、二名の妖魔。
けれど、次第に薄くなる虹は、"橋"としては既に限界だったのだろう。足を踏み込んだ瞬間、薄くなった虹の橋を踏み抜き、あっけなく空へと投げ出された。
「ちょっ…!?」
突然放り出された二名の妖魔は成す術もなく落ちていく。その姿を目の当たりにして、助けない訳には行かない。
慌てて落ちる身体を追いかけて両手を伸ばす。そして地面まであと数メートル、と言うぎりぎりのところで、漸く両手にその二名を捕まえた。
すっかり気を失ってぐったりしているその妖魔たち。ルークよりも随分小柄なその姿はまだ成体ではないだろう。褐色の肌に、銀色の髪。良く似た容姿でしっかりと手を繋いだままのその両名は…身体の大きさから言って、恐らく姉弟だろうと思われる。まぁ、気を失ったままでは何もわからないので、何とも言えないが。
「…俺の倖せは何処行ったんだよ…」
自ら厄介ごとを背負ってしまった。そう自覚したルークは、大きな溜め息を吐き出していた。
ふと目覚めると、見慣れない景色。
柔らかなベッドの中に寝かされているとわかった途端、ハッとしたように身体を起こした。
隣には、未だ眠っている姿。その姿に、安堵の吐息を零した。
だがしかし。ここは一体、何処なのだろう。どうして自分たちは、ここにいるのだろう?
そんな疑問が脳裏に浮かんだ時、くすっと笑う声が聞こえた。
「気が付いた?」
その声にハッとして視線を向ける。今まで自分が見ていた方向とは反対側のベッドの向こう側にいた姿。
白い顔に、蒼い紋様を戴いた悪魔。漆黒の髪と黒曜石の瞳。その悪魔が、にっこりと笑っていた。
「貴方は…」
つぶやいた声に、にっこりと笑った悪魔が口を開いた。
「俺はルーク。因みにここは俺んちね。君は?」
問いかけられ、一瞬言葉に詰まる。
だがしかし。多分、彼に助けられたのだろうと言う思いは、答えなければ申し訳ないと言う選択肢を選んだ。
「私は朱凛(しゅりん)と言います。こっちは弟の蒼羽(あおば)。私たちは…虹の橋を渡って、妖魔界から魔界へ逃げるところでした…予想以上に消えるのが早くて、途中で落ちてしまったのですが…」
「あぁ、そうだね。丁度、落ちるところを見たもんだから、つい助けちゃったんだけど」
そう言いながら、ルークはじっと口を開く朱凛を観察していた。
妖魔らしく、褐色の肌に銀色の髪。そして、助けた時はわからなかったが、その瞳はグレー。良く似た容姿の妖魔が仲魔の屋敷で使用魔として働いているな…と、ぼんやりと思っていた。
「…で?何から逃げてた訳?」
興味本位で、そう聞いてみた。すると、朱凛は僅かに表情を変えた。
そして、暫しの沈黙の後…ゆっくりと口を開いた。
「弟が…蒼羽が、狙われていたので…」
「…は?」
思わず、奇妙な声を返したルーク。パッと見…狙われる要素が何処にあるのか、良くわからなかったこともある。けれど、朱凛は真剣な顔のまま、ルークを見つめていた。
「御願いです。もう暫く…ここに置いていただけませんか?私たちに出来ることなら何でもします。ですから…」
「ちょっと待って。話が飛躍してない…?」
突然の展開に、困惑気味のルーク。けれど朱凛は表情を変えなかった。
「蒼羽は、喋ることが出来ません。私もですが…勉強も教えて貰っていないので、読み書きも出来ません。それに蒼羽は、筋力も弱いので力仕事も出来ません。勢いで逃げて来てしまったのですが…私たちは、魔界に頼るところはありません。それでも私は、蒼羽を護らなくてはいけません。この先、どうにかして生きていかなければならないので…何とか…御願い出来ませんか…?」
「…あのさぁ…ちょっと、状況がわからないんだけれども…」
溜め息を一つ吐き出したルーク。
朱凛が真剣に話をしているのはわかる。だが、そこまで鬼気迫る何かがこの二名にあったのだろうと言う状況が、イマイチ理解出来ない訳で。
すると、朱凛も小さな溜め息を一つ。
「…蒼羽の目は、オッドアイなんです。右目は私と同じグレーですが、左目が虹色と言うか…幾つも色が混ざっている感じで、とても綺麗なんです。でも我々にとって、それは疫病神でしかないんです。珍しいモノは高値で取引されます。蒼羽は…と言うよりも、蒼羽の左目は、何れ誰かに奪われてしまう。声も出せず、学もない蒼羽は、片目では生きていけません。それに、先ほども言いましたが、筋力も弱いんです。そんな状況では、独りでは生きていけない。だから私が蒼羽を護りたいんです」
「…オッドアイ、ね…」
眠っている状態では、わかる訳はない。虹彩異色症…オッドアイは、確かに魔族では余り見かけない。まぁ、天界に多いか、と言えばそうでもない訳で…ルークも今まで出逢ったことはない。結局、希少価値があることには間違いないと言うことだ。それが狙われる原因であることは、納得は出来る。
けれど。オッドアイに加え、喋ることが出来ない。筋力も弱い。そんな三重苦を背負った彼は、確かに独りで生きて行くにはまだ幼い訳で…だからと言って、この先ずっと朱凛が蒼羽を背負って生きて行くと言うことにも厳しい現実であるだろう。
「…まぁね…暫くここに置くこと自体は簡単な訳だ。でも、その先は?あんたたちは、この先どうやって自分たちで生きて行く訳?勉強すれば、読み書きは出来るようになるだろうよ。でも、それが身を助けると言う訳じゃない。生きて行くには…それなりの覚悟は必要だ、ってことだ」
そう言いながら、ルークは記憶を辿っていた。
多分…ルークが魔界へ来たのは、彼等よりももう少し大きかっただろう。まぁ、年齢はわからないので、あくまでも想像だが…それでも、生きて行く為の必要最低限の学はあったし、剣術も叩き込まれていたことは大きかったはず。それは偏に、生きる術を叩き込んでくれた養い親に感謝しなければなるまい。
運良く皇太子に助けられ、軍事局に入れて貰えたからこそ、今がある。それは当然、自覚している。
もしも自分が、学もなく、頼る者もなく、魔界へ降りて来ていたら。それこそ、何も出来ずに野垂れ死んでいたかも知れないのだ。そう考えると…他悪魔ごとではない。
正直…厄介ごとを背負った。そう感じたのは間違いではなかっただろう。
俯いている朱凛。そして、その視線の先にいる、未だ眠ったままの蒼羽。その二名の未来は…どうなるのだろうか。
溜め息を吐き出したルークは、座っていた椅子から立ち上がる。
「まぁ、暫くいるのは構わないから」
そう言い残し、ルークは部屋を出て行った。
ルークはそのまま皇太子の執務室へとやって来ていた。
副大魔王付きの参謀になって、まだ間もない。今の屋敷に越して来たのも、使用魔を抱えることになったのも同じ頃。なので、あのままあの二名を置いても良いものかどうか、ルークには判断が付かなかった。
溜め息を吐き出すルークに、執務室の主たる皇太子…ダミアンは首を傾げる。
「どうした?」
不意に訪ねて来たことと言い、突然溜め息を吐き出す姿と言い、いつものルークとは何か違う。そんな思いで問いかけたダミアンに、ルークはもう一つ、溜め息を吐き出す。そして、事の顛末を話して伝える。
「…そうか。二名の妖魔ねぇ…」
ルークの話を聞き、ダミアンは腕を組んで椅子に深く凭れた。
「…で?御前はどうしたいんだい?」
そう問いかけられ、ルークは暫し、考えを巡らせる。
「どうしたい、と言うか…放って置くのはどうかとは思います。俺は、学も生きて行く術もそれなりに叩き込まれていたので、軍事局で働かせて貰うことが出来ましたが…もし、ミカエルやラファエルが何も教えてくれていなかったら、きっとあの子らと同じだったんだろうな、と…そう思うと、放っては置けない気がします。でもだからって、俺が何か出来るかと言えばわからないし…」
その顔は、心底困惑しているようだった。
偶然出逢った妖魔の姉弟。そこまで世話を焼く必要はない、と言われればそれまでなのだが…そこに、放って置けない、と言う感情が上乗せされているのだから、割り切ることも出来ないのだ。
「…ところで、御前の屋敷の使用魔は何名いるんだい?」
不意に話が変わり、ルークは一瞬何を言われているのかわからなかった。
「使用魔…ですか?」
「そう、使用魔。まさか、あの屋敷に御前一名と言う訳ではないだろう?」
「…それはそうですが…」
そう言いながら、ダミアンの意図を探る。
一体…何を、聞かれているのだろう、と…。
「…必要最低限しかいませんよ?まだ引っ越したばっかりですし…」
そう返す声に、ダミアンはくすっと笑った。
「そんなに警戒することはないだろう?まぁ、行き場がなくて困っていると言うのなら、御前の屋敷の使用魔として面倒見たらどうだい?と言うことだよ。必要最低限しかいないのなら、まだ悪魔手は足りないだろう?二名増えたところで困るものでもないだろう」
「…使用魔、ですか…」
「まぁ、無理にとは言わないけれどね。別に、使用魔として雇うに当たって、手続きぐらいは必要だが難しいことじゃない。デーモンかエースにでも聞いてみればわかるだろう。彼奴等の屋敷の使用魔にも妖魔がいただろう?それに、ゼノンなら一方的に慕われて押しかけて来られる側の気持ちもわかるかも知れないしね。ほら、御前の周りに聞けば済む話すじゃないのかい?」
「はぁ…」
確かに、ダミアンの言う通り。一概には言えないが、妖魔は手先が器用で、大きい屋敷で使用魔として働いている者も少なくはない。現に、ルークとて仲魔の屋敷の使用魔を思い出したくらいなのだから。
未だ、困惑の表情のルーク。
簡単に答えを出せないであろうことはわかっていたが…まさか、ここまで困惑するハメになるとは。
これ以上ここにいても、多分答えは出ないだろう。
溜め息を一つ吐き出したルークは、ダミアンの執務室を後にした。
ダミアンの執務室を出て、そのまま隣の副大魔王の執務室へと向かったのだが、生憎席を外している、とのことだった。
さて、それではどうしようか…と一旦自分の執務室へと返って来たルークであったが…執務時間終了間際になり、文化局へと足を向けていた。
「どうしたの?」
ルークの顔を見るなりそう言ったのは、文化局局長たるゼノン。つまり、この執務室の主である。
「ちょっと、相談がね…」
「相談…?」
そう切り出したルークに、ゼノンは僅かに首を傾げる。
「まぁ…」
ゼノンなら、突如降って湧いたような展開を、多少はわかってくれるだろうか…。そんな些細な願望と、それ以上に彼の医師としての見解を聞きたくて。
溜め息混じりに話を始めたルーク。その言葉を、ただ黙って聞いていたゼノン。
そして、ルークが事の顛末を全て話し終えると、ゼノンは徐ろに椅子から立ち上がった。
「話はわかった。じゃあ…診察も兼ねて、その"蒼羽"を、見に行こうか」
「…あぁ…」
その表情は…非常に乗り気、である。滅多に見ないほどの軽い興奮状態を不安に思いつつ…取り敢えず、少しは前進しそうだとホッとしていたりもする。
「…そう言えば、俺もまだ起きてる蒼羽、見てないんだよな…」
綺麗なオッドアイだ、とは聞いているものの、その実物をまだ見ていなかった訳で。
そう零したルークに、ゼノンはにっこりと微笑んだ。
「そう。じゃあ楽しみだね」
その笑顔に、他意はない。多分、本当に楽しみなのだろう。
----ホント、珍しい物好きの研究者気質だよな…
思わず、溜め息が一つ。
だがしかし。今は何よりも頼りになる。
結局、ルークはそのままゼノンと共に屋敷へと帰ることとなった。
「御帰りなさいませ、ルーク様。ゼノン様もいらっしゃいませ」
屋敷へと戻って来ると、出迎えた使用魔の姿にルークは一瞬息を飲む。
「…あぁ、ただいま……って、あんた何してんの?」
思わず口を付いて出た言葉。その視線の先には…使用魔の服を着た、朱凛がいる。当然、ルークには訳がわからない。
「ルーク様、申し訳ありません。助けていただいた御恩返しに、どうしてもルーク様の御手伝いをしたいと…」
主に黙って勝手なことをしてしまった、と、申し訳なさそうな表情を浮かべる使用魔長。だが、どう考えても彼女の所為ではない訳で…それを怒ることも出来ない。
「まぁ…取り敢えず良いわ。蒼羽ももう起きただろう?朱凛、一緒に来て」
「…はい…」
流石にちょっと気まずそうな朱凛に声をかけ、ルークはゼノンと一緒に客間へと足を向ける。そしてそのドアを軽くノックすると、声をかけた。
「開けるよ」
当然、中からの返事はない。けれどルークはそのままドアを開けた。
ベッドの中には、引き寄せた上掛けで顔を隠した妖魔。
「蒼羽、大丈夫。さっき話したでしょう?この方は、私たちを助けてくれたルーク様だから」
朱凛がそう声をかけ、蒼羽へと歩み寄る。そして、安心させるようにその手をそっと握ると、漸く上掛けを下ろして顔を見せた。
朱凛と同じ、褐色の肌に銀色の髪。そしてグレーの右目に、虹色の左目。朱凛が言うように、それはとても綺麗で…蒼羽に良く似合っていた。
「蒼羽。初めまして。俺はこの屋敷の主のルーク。こっちは、俺の仲魔で医師のゼノン。君の診察をして貰おうと思ってね」
「診察…ですか?」
一瞬強張った蒼羽の表情に、朱凛も小さく息を飲んで問い返す。
「そう。ここに置くにせよ、何処か別のところで働くにしろ、自分の身体がどのくらい動くかを知っていた方が良いでしょ?だから、連れて来たって訳」
そう言うと、ルークは自分の後ろにいるゼノンを振り返った。
「俺はゼノン。宜しくね。少しだけ、診察させて貰いたいんだけど…勿論、痛いことは何もしないし、怖いことも何もないよ」
安心させるかのようににっこりと笑ったゼノン。その微笑みに、朱凛は僅かに蒼羽へと視線を向けた。
真っ直ぐにゼノンを見つめていた蒼羽だったが…やがて、小さく頷いた。
その姿を確認すると、ゼノンはルークへと視線を向けた。
「じゃあ、悪いけど…ニ名だけにしてくれる?」
「あぁ、良いけど…蒼羽、喋れないんだよな?大丈夫?」
朱凛と蒼羽の様子を伺いながら、そう口を開いたルークに、ゼノンは再び笑いを零した。
「こっちの言うことが聞き取れていれば大丈夫。これでも医者だよ?そんな心配しなくても良いから。ね、朱凛も」
「…わかりました」
先に口を開いたのは、朱凛だった。そしてベッドから離れると、先に部屋を出て行く。
「…じゃあ、リビングにいるから。終わったら来て」
「うん。終わったら行くよ」
踵を返したルークを見送るゼノン。その視線に見送られ、ルークが廊下へと出ると…そこに、不安そうな顔をした朱凛が立っていた。
「まぁ…ゼノンはあれで歴とした医師だからね。大丈夫だから。取り敢えず、診察が終わるまで待とうか」
ルークは朱凛の肩をポンと一つ叩くと、先にリビングへと向かう。その姿を追いかけながら…朱凛は、未だ拭いきれない不安を顔に浮かべたまま、唇を噛み締めていた。
一時間ほど待っていただろうか。
ソファーに座るルークの背後に立ったままの朱凛は、じっと唇を噛み締めたまま。そんな、緊張した雰囲気を背中に感じつつ、ルークは御茶の入ったカップを見つめていた。
すると、漸くゼノンがリビングへと姿を現した。
「御待たせ」
短くそう言葉を発し、ソファーへと腰を下ろす。
「どうだった?」
問いかけた声に、まずは大きな溜め息が零れる。
そして。
「朱凛は、もしかしたら知っていたかも知れないけど…蒼羽の左目…あの虹色の瞳は、何も見えていないと思う」
そう切り出したゼノンの言葉に、ルークは息を飲んだ。
朱凛は…と視線を向けて見ると、唇を噛み締め、俯いている。その姿から察するに…多分、その事には気付いていたんだと思う。
「他にも診察はしたんだけど…取り敢えず、朱凛の言うことは正しいかな。筋力もかなり弱いし、声も出せない。ただ…残念ながら、それは先天性のモノではないみたいなんだけど」
「…どう言うこと?」
ゼノンの言っている意味がわからない訳ではない。ただ…先天性のモノでないのなら、どうして…と言う意味だったのだが…ゼノンは小さく溜め息を吐き出すと、朱凛へと目を向けた。
「君は…きっと、全部見ていたんでしょう?」
「………」
きつく唇を噛み締めたその姿で、ゼノンの言葉が正しいと言うこともわかった。
「はっきり言うよ。蒼羽が喋れないのは、声帯を潰されているから。筋力が弱いのも、発達しないように予め処置されていたから、だと思う。どちらも、蒼羽の物心が着く前に施されているんだと思うよ。だから、蒼羽にはそれが後天性のモノだと言う自覚はなかった。でも、身体は正直だからね。調べれば直ぐにわかることだよ」
「……それって、何の為に…」
最早、嫌な予感しかしない。
「俺が思うに、"逃げられないようにする為"、だと思うよ。もし、あの虹色の瞳が狙われているのなら…その瞳だけ奪うにしろ、蒼羽そのものをそのまま商品にするにしても、余計な声を上げられたり、勝手に逃げ出されたら困るからね。読み書きを教えなかったのも、多分そう。外部に対して、文字を書いて助けを求められては困る。だから、蒼羽を何も出来ない状態のまま育てた…俺の見解は、間違ってる?」
多分、まだ子供である朱凛を前にしているのだから…と、かなり抑えてはいるのだろうが…それでもいつもよりも感情的になっている。ルークがゼノンと出逢ってからまだ数年だが、ここまで感情的なゼノンを見たことはなかった。
物言いたげなその碧の視線が、真っ直ぐに朱凛へと向けられたまま。
うっすらと涙の浮かんだ朱凛のその顔は、とても悲痛そうで。
「御免ね。もっと、オブラートに包んで、優しく問いかけても良かったんだけど…やっぱり俺は医者なんだ。医者って言うのは、病気や怪我を治すのが仕事だからね…真逆なことは納得は出来ない。勿論、今まで色んな状況も見て来ているよ。でも、物心もつかない小さな子供の声を潰したり、筋力を奪ったりするようなことは許しがたいんだ。それが…"親"のやることなら、尚更」
「…親…」
ゼノンの言葉に、ドキッとしたルークは朱凛へと視線を向けた。
「だから…朱凛に、全部見ていたんだろうって聞いたの…?」
「そう。俺の憶測だけどね」
溜め息と共にそう吐き出したゼノン。その表情も、何処か悲痛そうに見えた。
「俺は…自然発生だから、親はいない。だけど、親の役割は知ってるよ。親は、子供を責任持って護る。そこに向けられるのは愛情であって、虐待紛いの処置じゃない。幾ら、親に育てられていなくたって、それが間違っていることぐらいわかるよ。だから…逃げて正解だったと思いたい。まぁ、出逢ったのがルークだからね。その辺に関しては…多分、しっかり受け止めて貰えるとは思うけど」
「…ちょっと…」
最後に付け加えられた言葉には思わず声を上げたものの、"親"に育てられたルークには、ゼノンが言わんとしているその想いは、確かに理解出来るものであり、手を差し伸べたいとも思う。
医者として、見て見ぬ振りは出来ない。だからこそ…こんな状況を前に、ゼノンは誰よりも胸を痛めているのかも知れない。
「…御免ね、御前に丸投げするみたいで…」
大きく息を吐き出したゼノンは、申し訳なさそうにルークの顔を見た。
その、幾分思い詰めたような表情を前に…ルークに断れるはずもなく。
「…まぁ…さぁ。言わんとすることはわかるよ。俺だって、このまま放り出すことは出来ないしね。ただ…一つだけね…」
こちらも溜め息を一つ吐き出すと、先ほどからずっと唇を噛み締めている朱凛へと視線を向けた。
「前にも言ったけど、俺がこのまま保護して、使用魔として屋敷に置くことは簡単なんだ。だけど、それに甘んじられても困る。これから読み書きも覚えて貰うし、使用魔としての礼儀や立ち居振る舞いも身につけて貰わなきゃいけない。それに、ここにいたって俺がいないことも多いんだから、いざとなったら自分の身は自分で護れるくらいになって貰わないと困る。何かあったら他の使用魔たちにも迷惑をかけるしね。勿論、出来る限りの協力はするよ。だから、それに応えられるだけの強い想いを持って貰いたい。それが出来るのなら、ここにいても良いから」
「…ルーク様…」
「朱凛も蒼羽も、今まで…辛い思いして来たんだもんね。育った環境は違うから、どんなに辛かったかは俺にはわからない。でも、逃げ出さなければと思うくらいだったんだもの、それだけの想いがそこにあったんだよね。だから、俺はそれを否定はしないし、関わった以上、俺に出来ることは協力するよ」
ルークのその言葉を聞いた朱凛は、深く頭を下げる。
「…有難う…ございます…」
その足元に、一つ、二つと落ちる雫。肩を震わせ、必死に涙を堪えるその姿は、やはりまだ子供だった。
「ま、少しずつ御互いのことをわかっていこうよ。あんたたちも俺のことは良く知らないだろうし、俺もあんたたちのことは良くわかんないからね。慌てなくて良いからね」
「…はい」
顔をあげた朱凛は、涙で濡れた頬を拭うとにっこりと微笑んだ。
そんな無垢な笑顔を、ルークだけではなく…ゼノンもまた、その姿を真っ直ぐに見つめていた。
「君は…運が良いと思うよ。逃げ出して来たって言ったって、魔界にも色んな悪魔がいるからね。必ずしも、逃げられるとは限らなかったと思う。でも、ルークならきっと大丈夫。まぁ、ここで暫く働いてみればわかると思うけど…きっと、信頼出来る主だと思うから。頑張ってね」
「はい。有難うございます」
ゼノンに向けても、にっこりと微笑んだ朱凛。
確かに…ゼノンの言う通り。逃げた先で、ルークに拾って貰えた。それは、実に運が良かったとしか言いようがない。
「私たちに出来ることは、精一杯、やらせていただきます。蒼羽諸共…宜しく御願い致します」
深く、頭を下げる。その頭にそっと手を置き、頭を撫でる。
「俺も、ちゃんとあんたたちを護るから。宜しくね」
にっこりと微笑むその姿に、ゼノンも漸く笑いを零した。
先の未来はわからない。けれど多分…この姉弟は、この場所で平和に…そして、穏やかに過ごせるだろう、と。
それから暫くして、ルークの屋敷に二名の使用魔が仲魔入りした。
褐色の肌に、銀色の髪、グレーの瞳の朱凛。そして、同じく褐色の肌に短い銀色の髪、グレーの右目と眼帯で覆われた左目の蒼羽。
使用魔として、まだ必要最低限の知識と礼儀、立ち居振る舞いしか出来ない。けれど、精一杯生きようとするその姿は、前からいる使用魔たちからも温かく迎え入れられた。
彼等が浮かべる倖せそうなその微笑みは、虹の端を見つけたからなのかも知れなかった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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