聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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覚醒 ~side X~5
「…遅くなって…ごめんね……"ゼノン"…」
「……っ」
その言葉の意味。それは…至極簡単。
俺は、何かに引っ張られるかのように、表に引きずり出される。
「……ぁっ…」
背筋がぞくっとして、強く目を閉じる。物凄い重力に押しつぶされるような感覚が一瞬俺を包み込んだ後…ふわっと、抱き締められた。
「…"ゼノン"…やっと、会えた……」
「……"ライ"…?」
ゆっくりと目を開けてみれば…そこには、目に一杯の涙を溜めた、愛しい恋悪魔がいた。
「…"ライ"…」
「…ごめんね……もっと早く、見つけてあげたかったのに…遅くなっちゃった……」
泣きながら、そう言って俺を抱き締める。その腕の強さに、これは夢ではなく、現実なのだとやっと実感した。
やっと…覚醒出来た。
「…ありがとう。見つけてくれて」
俺は、"ライデン"の背中へと腕を回す。
「体調、どう?」
ふと思い出して問いかけた声に、"ライデン"は小さく笑った。
「一瞬で治った」
「…そんな馬鹿な」
「うぅん、治ったよ。だって、こうして"ゼノン"を目の前にしたら、ストレスなんて何にもなくなるもん」
「…"ライ"…」
えへへっと笑った"ライデン"は、ホントに顔色も良い。まだ、目に涙が一杯浮かんでいるけれど…懸命に笑う姿に、俺は大きく息を吐き出す。
一瞬、"ダミアン"様に言われた言葉が脳裏を過ぎった。
だから、と言う訳ではないけれど…ここは、素直になろう。
「やっと…触れられる。ずっと、会いたかったよ」
「…俺も…ストレス溜まるくらい、会いたかった」
「もぉ……心配したんだからね?」
「ごめんね」
そう言って笑う"ライデン"の涙を拭い、そのまま顔を寄せる。
深く、唇を合わせる。そのついでに…と言うと言い方は悪いけど、少しずつ回復を促す魔力を送る。
"ライデン"の波動が漸く落ち着いて来ると、ほっと一息。
「もう大丈夫。あとは、湯沢が回復するのを待つだけだね」
「…ムードがない…」
ちょっとムッとしたような表情を浮かべる"ライデン"。まぁ…それはそうか。
「ごめん」
くすっと笑いを零し、じゃあもう一度…と思った瞬間。
チャイムが鳴った。
「…どうする…俺ら、悪魔のままだし…」
"ライデン"は困ったようにそう囁く。
確かに。石川も強制的に眠らせてしまったから、直ぐには元に戻れないし…と思ったのだけれど、僅かに感じた気配に、安堵の溜め息を吐き出す。
「…待って。多分、大丈夫だと思う…」
俺は"ライデン"をそこに待たせ、玄関へと向かう。
「…はい?」
一応、ドア越しに声を返す。
『あぁ…小暮だが…』
「今開ける」
やっぱり。
俺は、顔の判別が出来るくらいだけドアを開ける。
「……"ゼノン"?」
「…そう。手早く入ってくれる?」
「…OK」
状況を察してくれたんだろう。隙間から滑り込むように部屋へと入って来る。そして、魔力を開放して、本来の…悪魔の姿に戻る。
そして、小さく笑った。
「久し振り」
「うん、久し振り」
つい夕べ、声を聞いたのに…まぁ、あの時は石川だったから、厳密には俺ではない。顔を合わせるのは、本当に久し振りだった。
「"デーさん"?タイミング悪い~」
ベッドの中から、"ライデン"の声。
「悪い悪い」
くすくす笑いながら、靴を脱いであがって来る。
「すっかり元気そうだな。安心した」
本当に、ほっとした表情の小暮…否、"デーモン"。
そして俺と一緒にベッドの傍に座ると、まず俺に視線を向けた。
「無事、覚醒出来たようだな」
「うん、お蔭様で」
にっこり微笑むと、"デーモン"は俺と"ライデン"、両方に視線を向け、言葉を続けた。
「では…本題だ。お前が覚醒出来たら伝えるようにと、"ダミアン"様から託っている」
そう言うと、一つ咳払いをする。
そして。
「もしかしたら、"ゼノン"は聞いてるかも知れないが…"ゾッド"に帰獄の詔勅(みことのり)が出ている。お前の覚醒を待って、"ゾッド"は職務に戻る。それに則り、"ゼノン"、お前を…二代目べーシストとして任命する。吾輩はそれを、伝えに来たんだ」
神妙な空気が流れる。
"エース"から聞いていたから、わかり切っていたことだけれど…星島とも、"ゾッド"とも、知らない間柄ではない。寧ろ、石川は星島とは親しかったはずだから…ただ手放しに喜ぶ、と言うことも出来ない。
"ライデン"は初耳だったのか…唇を噛み締めて、じっと一点を見つめていた。
「…俺…迷惑ばっかりかけた…」
ぽつりと、口にした言葉。そこに見えるのは、深い後悔の色。
「そんなことはないさ。"ゾッド"だって、いきなりいなくなる訳じゃない。詔勅が下りているとは言え、"ゼノン"が正式に加入するまで、まだもう少し時間はある。お前が元気になってドラムを叩くことが、"ゾッド"に対しての餞になるんじゃないのか?」
静かに話す、"デーモン"の声。
「俺もそう思うよ。"ゾッド"だって、お前が楽しそうにドラム叩くのを見たいと思う。その為には、まず、早く元気にならないと。ね?」
「……うん…」
そう。今は体調の回復が一番必要なこと。それが叶わなければ、"ゾッド"といる時間は容赦なく減っていくのだから。
「まぁ、"ゼノン"も覚醒したし、お前の回復はそう時間はかからないと思っている。後は、湯沢が回復してくれるのを待つだけだろう。お前が元気になれば、湯沢の回復だって早まると思うんだが…どうだ?」
"デーモン"にそう問いかけられ、俺は小さく頷く。
「そうだね。覚醒後は、お互いがお互いの内なるパワーになる訳だから。どう考えてもお前が元気になる方が早い訳だから、そうすればお前が湯沢を癒してあげられる。一週間を待たずに、復帰出来ると思うよ」
「…頑張る…」
"ライデン"も、大きな吐息を吐き出しながら、そうつぶやいた。
「…前向きに、な。勇往邁進、だぞ」
"デーモン"はそう言うと、"ライデン"の頭をそっと撫でた。
「…うん。大丈夫…大丈夫」
自分にしっかり言い聞かせるかのように、"ライデン"は顔を上げた。その顔には、もう先ほどまでの後悔の色はなかった。
「よし、お前はもう大丈夫だな。では、吾輩はそろそろ帰るとしようか。いつまでもいると、気が利かないとか言われかねないからな」
くすくすと笑いを零しながら、"デーモン"は立ち上がる。
「あ、ねぇ…"ジェイル"と"ルーク"の方は、大丈夫なの?"エース"がかなり悩んでるみたいだけど…」
覚醒早々お節介かとも思ったんだけど…知らなかった、では、また"エース"との関係が悪くなると困るし…。
でも、"デーモン"は小さく笑って見せた。
「心配するな。これでも総帥だ。"ジェイル"のことも、状況はちゃんとわかってる。"エース"にしてみれば…まぁ、気が利かない総帥だろうけれどな。"ルーク"に関しては…もう少し様子見、だ」
「…そう?なら良いんだけど…」
まぁ…わかっているなら、あんまり口は挟まないようにしよう…。
「じゃあ、な。何かあったら、また連絡してくれ」
「うん、わかった」
"デーモン"は改めてそう口にする。
「"デーさん"、ありがとうね」
「ゆっくり休めよ」
小さく笑った"デーモン"は、"ライデン"の頭を一つ撫でて、玄関へ向かった。
「色々…ありがとうね」
玄関のドアを開ける時は、もう人間の顔になっている。その背中を見送りに行った俺は、一声そう声をかけると、にっこりと笑顔が帰って来る。
「いや。吾輩は何もしとらんよ。大変なのはまだもう少し続きそうだしな。これからはお前も巻き込まれるからな」
「…覚悟はしてるよ」
「じゃあ、な」
笑いながら帰って行った"デーモン"。
そう。これで、全部終わった訳じゃない。まだ、任務のスタート地点に立ったばかりなのだから。
「さて、そろそろ石川と湯沢を呼び戻してあげないとね」
俺の声に、"ライデン"はくすっと笑った。
「うん。でもその前に…」
「ん?」
「…さっきの続き。もっかい」
そう言って、両手を大きく広げる。
「…もぉ…」
そう言っては見たものの……俺も久し振りだし…まぁ、仕方ない。
"ライデン"の傍へ行くと、その腕が俺の首へと回される。
「大人のヤツ、ね」
「…はいはい」
くすっと小さく笑うと、俺も"ライデン"の背中へと腕を回す。そして、深く口付ける。
吐息さえ甘い。そんな感覚に酔い知れる。
暫し……思考停止。
誰かが…俺を、呼んでいる。
ゆっくりと目を開けてみれば…目の前に、心配そうに俺を見つめる顔。
「…石川くん…大丈夫?」
「…湯沢くん…」
周りを見渡すと…そこは、何もない薄暗い空間。
「…ここは…」
見覚えはあった。そう…"ゼノン"といつも話をしていた場所、だ。
「良かったね。同じ場所に辿り着いて」
湯沢くんは、くすっと小さく笑いを零す。
「…えっと……」
今の状況から考えて…"ゼノン"の覚醒と共に、俺は"ここ"へ飛ばされた、と言う訳か。
そんなことを考えていると、湯沢くんの口から、大きな溜め息が零れた。
「…どうしたの?」
思わず問いかけた声に、ふと顔を上げる。
その眼差しは…涙で潤んでいて。
「…湯沢くん…?」
その途端、湯沢くんの腕が俺の首へと回される。
「…良かった…」
「…ちょっ……」
意味が良くわからず、戸惑ったものの…そうだ。俺は、まだ湯沢くんには言っていなかったんだ、と思い出した。
俺も、悪魔の媒体なのだ、と言うことを。
抱きついたまま泣いている湯沢くんをそっと抱き返し、大きく息を吐き出す。
「…ごめんね、黙ってて…でも…俺からは、言えなかったんだ…」
「…うん…わかってる…」
"ゼノン"の覚醒は、"ライデン"が自分で見つけなければならない。その枷が、お互いに遠回りをする結果になったのだけれど…今、こうして腕の中にいる相手に、安堵の吐息が零れる。
「…良かった…石川くんが、"ゼノン"で…」
改めてそうつぶやき、湯沢くんはゆっくりと身体を離す。
「"ライデン"が覚醒してから、ずっと…考えてた。"ライデン"の恋悪魔は、どんな人なんだろう、って。恋悪魔ってことは、だよ?幾らプラトニックだ、って言ったって…傍にいたいでしょ?俺だったら、触りたいし、キスもしたいし…もっと深いところだって、考えるじゃん?そう思う相手だもの…媒体である俺が、感化されないとは限らない訳だし…俺は"ライデン"が好きだから、出来るなら…望みを叶えてあげたいって思う…でもそれが、俺の好きな相手じゃなかったら…俺はどうなるんだろう、って…勿論、"ライデン"だってそうなればちゃんと考えてくれるとは思うよ。でもさ…切ないじゃない…?」
「…俺も、それは思ってたよ。でも俺は…お前より先に、"ライデン"が誰なのか、って言うのがわかってたから…俺が、湯沢くんをどう思うか。湯沢くんが俺をどう思うか、って言うところで引っかかってた。お互いの気持ちが噛み合っているとは限らないからね」
「…だから、遠回りしたんだね、俺たち」
くすっと、湯沢くんから笑いが零れた。
ほぅっと大きく息を吐き出し、額を合わせる。
「もう、安心だ。"ライデン"の一番好きな人と…俺の一番好きな人が、同じ身体を共有しているなら。何したって、遠慮はいらないもんね」
「…何したって、って…何する気なの…?」
「何って…ナニよ。俺たち"大人"ですよ?」
「………」
くすくすと笑いながらそう言う湯沢くん。
湯沢くんって…こう言うタイプだったんだ…と、改めて知った訳で…。
まぁ、それに関しては俺も…晩生ではないけど、と言うに留めて置こうか…。
「…さっきの…"大人のキス"をしてきたのは……因みに湯沢くんと"ライデン"、どっち…?」
思わず問いかけると…湯沢くんは再び笑いを零した。
「どっちだと思う?」
「………」
「試して、みる?」
「………望むところだ」
変なところで対抗心を燃やしてしまったけれど…まぁ、それはそれで…。
俺は顔を傾け、湯沢くんにそっと口付ける。
深く、甘く。"大人のキス"を。
「…石川くんも十分エロい」
唇を離すと、湯沢くんがそう言って笑う。
「…そりゃどうも」
褒められているのか、笑われているのか…まぁ、どちらでも結果は同じ、だけど。
「…で、どっちだと思った?」
そう問いかけられ、そうだった、と思い出す。
「…残念ながら、ちょっとわからないよ。俺は、"ライデン"とはまだ話もしたことなかったし」
「それもそうだね。じゃあ…その答えは、これから見つけよう」
そう。湯沢くんとは沢山話をしたけど、"ライデン"のことを知っているのは"ゼノン"だけだし…そんなんじゃわかる訳もない。
お互いに笑いを零す。ちょっと、一息…と言うところかな。
ゆっくりと体を離すと、湯沢くんは俺に寄り添うように座った。
「ね…いつから、"ゼノン"といたの?」
穏やかにそう問いかけられ、俺は記憶を手繰る。
「えっとね…湯沢くんに初めて会った時の、少し前かな?浜田さんからライブの話が来た時には…もう"ゼノン"と会ってた」
「…それって、もう随分前じゃん…しかも、俺より早いし…」
「"ゼノン"がヤキモキしてたよ。自分じゃどうにもならないってわかってるのに、心配で待ってられなかったんだろうね。その癖に妙に消極的だったりして…随分文句も言ったけど…でもやっぱり、俺も逃れられない運命じゃない?結局は"ゼノン"に口説き落とされた」
そう説明しながら、思わず笑ってしまった。口説き落とされた、って…改めて人に話すと、想像する絵面が奇妙だよね。
それには湯沢くんも同意だったのか、小さく笑いを零した。
「わかるわかる。俺も口説かれた」
くすくすと笑いながら、湯沢くんも自分の時を思い出したんだろう。やっぱり、みんなそうなんだ。
「…で、いつ俺が"ライデン"だってわかったの?」
湯沢くんは興味津々、と言った眼差しを俺に向けていた。
「…そうじゃないか、って思ったのは…湯沢くんが練習中に倒れた時ね。あったでしょ?俺が医務室で一緒にいた時」
「うん、あったあった。そう。俺、その後覚醒したんだわ。何だ。接点なかった癖に、殆どわかってたんだ。じゃあ、その後、ちゃんと連絡取って会っていれば…もっと早く、覚醒できてたんじゃん……何やってたんだろう、俺…」
大きな溜め息を吐き出し、湯沢くんは頭を抱える。
でも…それを言ったら、俺も同じこと。別に、湯沢くんの所為ではないし。
「"ゼノン"も、確証はなかった。それに何より…"ライデン"に忘れられているんじゃないか、って怖がってね。ホント、引きこもりみたいになってたし。それから随分経って…雑誌に出たでしょ?あの時にちゃんとそうだってわかったんだけど…その直後に"ダミアン"様の帰獄を聞いて…そっちも大変だろう、って落ち着くのを待ってたら…偶然会った清水に、湯沢くんの体調が悪いことを聞いてね。それが一週間前」
そう…。この一週間は、本当に早かった。まさか、こうなると思っても見なかったし…。
でも、これからはもう変に焦る必要はない訳で。そう思えば、今までの不安は消えたも同然だった。
それに…俺の中のもやもやしていた"何か"。それも…今思えば、簡単なこと。
「…俺ね…多分、嫉妬してたんだと思う」
ゆっくりと、そう口を開く。
「…嫉妬?何に…?」
当然、湯沢くんにはそれはわからない訳で…。
「多分…湯沢くんの周りの色んな人に。俺の音が好きだ、って言ってくれたけど…結局、傍にいるのは俺じゃない。結局、俺じゃなくても良いんじゃない…?ってね。みんなで面白おかしくやってるんじゃない?って…俺の想像だったけどね。それで…ついつい、距離を置いた。ホント…馬鹿みたいだよね、俺も」
くすっと零れた笑いは…多分、自嘲。
すると湯沢くんも、小さく笑いを零した。
「…楽しかったよ。最初はね。でも、俺の感覚は、石川くんの音に慣れ過ぎてた。ほんの微妙な…自分でも良くわからないくらいの感覚のズレって言うの?星島さんの音も好きなんだけど、やっぱり駄目だった。で、その結果、ストレス溜まって倒れましたけどね」
「…ホント。ストレス溜まってるなんて、思わなかったし」
過ぎてしまえば、笑い話になる。俺も、湯沢くんも…笑ってそんな話が出来た。
「でも俺は…ちょっと嬉しいな。そんな風に思って貰えてたなんて。石川くんが、嫉妬してくれたなんて」
くすくすと笑う声。膝を抱え、顔を伏せ、肩を揺らして笑っている……のか?
「…湯沢くん?」
思わず問いかけた声。すると湯沢くんはゆっくりと顔を上げた。
その目に一杯の涙を溜めて…真っ赤な顔をして、笑っていた。
そして。両方の腕を伸ばし、俺の首に絡めて抱きつく。
「…だ~い好きっ」
耳元で囁かれた言葉。その言葉を前に…俺は……。
一瞬、手放しそうになった理性を、大きく息を吐き出して辛うじて留める。
場所が悪いし…何より、湯沢くんの体調が悪い。
「…どした?」
笑ったまま、俺の顔を見つめた湯沢くん…確信犯か…。
「…まずは、体調を治して下さい…」
「…頑張ります…っ」
そう言って、くすっと笑った。
と、その時。誰かに、呼ばれたような気がした…。
そう思った瞬間、俺は急速に引っ張られるような感覚を感じ、きつく目を閉じた…。
「…石川くん、大丈夫…?」
そう声をかけられ、目を開ける。
そこは…俺の部屋。そして目の前には…ベッドの中に、湯沢くんがいた。
「…えっと…?」
状況がイマイチわからなかったんだけど…湯沢くんはくすっと笑った。
「戻って来たんだよ。現実に」
「…そう、か…」
"ゼノン"と"ライデン"が何の話をしていたのかは知らない。まぁ…あまり深くまで詮索するつもりもないけど。
「体調、どう?」
ベッドに大人しく納まっている湯沢くんに、そう問いかける。
「まだ本調子ではないけどね。気分的にはだいぶ良い。"ライデン"も機嫌良いみたいだから、きっと二、三日で良くなるんじゃないかな」
「そう。なら良かった」
確かに、顔色も随分良くなった。まぁ、そう簡単には治らないだろうけど、ストレスの原因を摘んだのだから、回復を妨げるモノもないんだろう。
「ゆっくり休んでね」
「…うん」
湯沢くんは小さく笑った。
それから一週間、しっかり休んだ湯沢くんと"ライデン"は、すっかり元気を取り戻したのだった。
しっかり一週間休んで体力を回復させた湯沢くんと"ライデン"。
その仕事復帰の日。俺も一緒にスタジオを訪れていた。
目的は一つ。星島と"ゾッド"に会う為。
湯沢くんがずっと気にしていたこともあるし…俺も一度、ちゃんと話しをしたいと思っていたから。だから、湯沢くんにくっついて来た訳だけれど…どうも、場の空気そのものが澱んでいるような、そんな気がした。
「…あぁ、"ライデン"…元気になって良かった…」
湯沢くんの顔を見るなり、星島はそう言って吐息を一つ、吐き出す。その顔は、明らかに安堵の色を浮かべていた。
「…御免ね、心配かけて…もう、大丈夫だから」
「無理するなよ」
湯沢くんに向け、そう言葉を放つ。そしてその視線は…湯沢くんの背後にいた俺に、向けられた。
「…久し振り…です」
「…うん、久し振り…」
どう…話を切り出して良いのか、良くわからなかった。当然、他のメンバーもいる訳だから…興味津々の眼差しを向けられていることはわかっていたし。
「…外で、話して来たらどうだ?ここじゃ、落ち着かないだろう?」
そう、助け舟を出してくれたのは小暮、だった。
「そうしよう」
星島はそう言うと、先にスタジオの外へと出て行く。
俺もその背中を追って行く。そして、休憩所を兼ねた廊下の片隅のソファーに並んで腰を下ろした。
「…あんたに…何と言って詫びたら良いか…」
大きく息を吐き出した星島は、固く握り締めた両手をじっと見つめたまま、そう口を開いた。
「…何で?謝ることなんて、何もないでしょう?」
そう。星島が謝ることなんて、何もないはず。
でも星島は、俺の言葉に首を横に振った。
「…湯沢も"ライデン"も、追い詰めたのは俺だ。どうすることも出来なかったとは言え…倒れるまで体調を悪くさせて…その挙句、あんたに全てを押し付けて帰らなきゃいけない。俺は…何をしに来たんだか…」
大きな溜め息と共に、吐き出された言葉。それは…酷く、重い。
自分の存在を否定することしか出来ない状態は…非常に不安定極まりない訳で…それは、俺にもどうにも出来ない。
《…代わってくれる…?》
控えめに、"ゼノン"が俺に呼びかけた。
「…OK。星島、ちょっと待ってね」
俺は、意識の主導権を"ゼノン"に引き渡した。
「…"ゼノン"…」
姿は、人間の姿のまま。けれど、纏う気配は完全に悪魔になっていた。それに気がついた星島…否、中身は俺と同じく悪魔だから、"ゾッド"なんだけど…は、俺の顔を見て再び大きく溜め息を一つ。
「…人の顔見て溜め息吐かないでくれる…?」
「…御免…」
俺の言葉に、"ゾッド"は再び項垂れる。
「…謝ってばかりじゃ、気が重くなるよ。別に俺はお前に対して怒っている訳でも、恨んでいる訳でもない。それは、"ライデン"だって…湯沢だって、同じだよ。寧ろ、お前に迷惑かけた、って…」
俺も大きく息を吐き出すと、そう、言葉を紡ぐ。
そう。誰も、わざと傷付けようと思っている訳じゃない。それは、十分わかっていることだから。
「俺は…"ゾッド"にも、星島にも感謝こそすれど、恨む道理はないよ。精一杯頑張っていたのに、どうして恨んだり、憎んだり出来る?"ライデン"が体調を崩したのは、たまたま波長が合わなかっただけで、誰の所為でもないでしょう?」
「俺だから、波長が合わなかったんだろう?最初からあんただったら…こんなことにはなっていなかった」
「でも、それはあくまでも仮定でしょ?実際問題、俺は"ライデン"が見つけてくれるまで覚醒は出来なかった。当然、みんなと同じスタートラインには立てていなかった。"ダミアン様"の都合もあったんだし、お前以外に誰がいた?それには誰も異論はなかったはずだよ?」
「…迷惑はしていただろうな。随分愚痴は零された」
「それは…また別問題でしょうよ…」
まぁ…"ゾッド"のパフォーマンスがその一端だと言うのは知っているけど…そんなことは、真剣に問題視されたことでもないだろうし。
俺は、"ゾッド"の背中にそっと手を置く。
「…誰も、お前を嫌っちゃいないから。それは、誰に聞いたってそう言うよ」
「………」
黙ったまま、小さな溜め息を一つ吐き出す。その背中が…ほんの少し、震えたような気がした。
「俺だって…一緒にやりたかったよ。お前に帰獄の詔勅が出ていなければ、そのチャンスもあったんだろうけど…それだけが残念で仕方がない」
「…"ゼノン"…」
僅かに顔を上げた"ゾッド"。その顔を覗き込むように、俺は小さく笑った。
「石川と星島が羨ましいよね。俺たちよりも、一緒にいる時間が長かったんだもの。今は…それを取り戻すだけの時間はないけれど、いつか…時間が出来たら、また一緒にやろうよ」
「……有難う…」
うっすらと涙の浮かんだ眼差しを伏せ、"ゾッド"は小さく笑った。
「…さ、そろそろ戻ろうか。みんな、きっとやきもきしてるよ」
俺はそう言って、"ゾッド"の背中をポンポンと軽く叩く。
「そうだな」
"ゾッド"は袖で軽く目元を拭うと、笑って立ち上がった。
「あんたを独占していたら、"ライデン"に怒られる」
「何言ってるの。そこまでヤキモチ焼きじゃない……と思うよ」
「だと良いけど」
幾分、"ゾッド"の表情もさっきよりも柔らかくなったような気がする。
折角、縁あって出会えた仲魔なのだから。出来ることなら、諍いなく…と思うのは、俺が甘いのかも知れない。魔界では…戦地では、そんなことを言っていたら自滅してしまうかも知れない。でも…ここは人間界だし。それでも良いじゃない。
"ゾッド"は伸びと共に大きく息を吐き出す。
「じゃあ…もう一頑張り。あんたが来るまで、何としてでも繋いでおかないとな」
「…大げさだよ」
笑いを零す俺に、"ゾッド"は小さく笑った。
「大げさじゃない。俺も…早くあんたの音が聞きたいんだ。俺は、あんたの音に憧れたから…今こうしてここにいるんだから」
「…そう言われてもね…」
そう…俺の問題はそこ。
「…あんまり期待されても困るんだよね…俺はあくまでも素人だし…少なくとも、プロでやって来たお前とは違うんだよ」
思わず、溜め息を一つ。
俺が、即戦力だと言わんばかりに期待してくれるのは嬉しいけど…正直、俺自身は大きな不安でもある…。
でも、"ゾッド"は俺の言葉に大きく息を吐き出すと、俺の肩をポンポンと叩いた。
「…さっき…俺に言ったよな?お前以外に誰がいた?って。その言葉をそっくりそのままあんたに返す。今の状況で、あんた以外に誰がいる?」
「…"ゾッド"…」
「あんたなら、大丈夫。素人って言ったって、あっちこっちのバンドで引っ張りだこだったのは誰だよ?あんたに教わった俺が出来たんだ。あんたに出来ないはずはないだろう?」
「…買い被り過ぎ…」
「何より、"ライデン"が待ってるだろう?」
「……それを言われると、何も言えないね…」
溜め息を一つ。まぁ…ここまで来たらやるしかないんだけどね…。
「さぁ、戻ろう。ついでに、練習して行けば?」
「…そうだね。そうしようか…後戻りはできない訳だしね…」
くすっと、笑いが零れた。それは…俺と、石川の二人から。
もう…笑うしかない訳で。
進む道は…前にしか見えないのだから。
「…さぁ、行こうか」
声を出して、自らに気合を入れる。そんな俺の姿を、"ゾッド"は小さく笑った。
そして…みんな、一歩を踏み出した。
後戻りは、もう出来ない。
「"ゼノン"」
そう呼ばれ、顔を上げる。
そこには、愛しい恋悪魔がいる。
「時間だよ。行こう」
そう声をかけられ、差し伸べられた手。
辿り着いたのは…安息の地、なのだろうか。それは…正直、良くわからない。
でも…俺の居場所は、ここにある。
俺は…小さく息を吐き出すと、にっこり笑ってその手を取った。
「さて、頑張ろうか」
それは、俺の中のもう一つの存在に対しても、伝えた言葉。
共に歩く道は、目の前にある。
俺を、信じてくれた…"彼奴"と共に、歩いて行く道。
そして…隣を歩いてくれる、愛しい存在。それもまた…"彼奴"にとっても、愛しい存在であるように。
運命の針は、共に動き出した。
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COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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