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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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誰よりもずっと
こちらは、以前のHPで2002年03月09日にUPしたものです

拍手[3回]


◇◆◇

 それは、彼が悪魔の媒体を離れ、一年と少し経った頃のこと。

「…はぁ~…」
 握っていたボールペンを指先で弄びながら、思わず零れた溜め息。その背後で、その溜め息を聞きつけた一名の男。
『どうした?』
 彼の背後から、その手元を覗き込む眼差しを感じ、慌てて両手でその視界を遮る。
「見るなって…っ」
『何だよ。自分で来てくれって呼んだクセに、やってることは黙秘だもんな』
 苦笑しつつも、再び元の席に戻った姿に、再び小さな溜め息を吐き出す。
 呼び出した理由は…多分、察しているだろう。長い付き合いだったのだから、それはある意味当然のこと。
 だからこそ…改めて言い辛くもある…。
 だが、意を決して口を開いた。
「…なぁ…御前も、解散した後の自分の居場所って、考えたことあるだろう?」
 不意に問いかけられた言葉に、背後の姿はくすくすと笑いを零した。
『何だ。またその話か?いつまで悩んでいるんだよ』
「…悩んでいるって言うよりも…不安ばっかりだなって思ってさ」
『…は?』
 彼は、大きな溜め息を吐き出し、背後を振り返る。
 そこには…大きな姿見が一つ。そしてその中に写っているはずの自分の姿は…白い顔に赤い紋様を戴いた悪魔、だった。
「御前は良いよな。魔界へ帰れば、元の役職が待っている。素直に、それに戻れば良いだけの話だからな。でも俺はそうはいかない。これから未知の世界に踏み出さなけりゃならないんだから…不安以外の何ものでもないだろう…?」
『でも、それを選んだのは御前だろう?それに、俺だって御前が思っている程、楽じゃないんだからな。見ろ、この書類の山!おまけに遠征だの調査だの、立て込みやがって…俺だってロクに休めてないんだぞ?』
 そう言って、手に持っていた書類の束を見せる悪魔。その姿に、更に溜め息を吐き出すのは、人間の彼。
「…悪かったよ。わざわざ呼び出して…」
 その憂鬱そうな表情に、悪魔も小さく吐息を吐き出す。そしてその書類をテーブルの上に置くと、その琥珀色の眼差しで彼を見つめた。
『まぁ…それが俺の仕事なんだから、そのことは良い。だから、いつまでもそんな顔するなよ。御前はギターのセンスも技術も申し分ない。それは、俺が保障する。もっと、自分の音に自信を持って良いんだから。そうすれば、ちゃんと結果は出るだろう?』
「…結果、ねぇ…」
 溜め息を一つ吐き出す。
 悪魔の言うことも、一理ある。今まで自分が培って来たセンスも、モノにして来た技術も、決して彼を裏切らない。それはわかりきっていた。
 けれど、今までヒトに任せて来た部分だけは、未だに自信がない訳で。
「作詞だろう?作曲だろう?ギターだろう?歌だろう?おまけに編曲…今まで以上にやることが多過ぎて、目が回りそうだ」
 指折り数えた彼が目を向ける先にあるのは、数十枚はあろうかと言う紙の束。その半分以上は譜面である。そしてそれは、後にアルバムとして発売の予定がたっている品物である。
『音撮りも殆ど終わってから、今更何を言ってるんだよ、御前は…。何の為に相棒がいるんだ?御前が全部一人で抱え込むことじゃないし、責任を持つことと、全部背負い込むことは訳が違うだろう?御前たち二人で、話し合って進めて来たんじゃないのか?』
 呆れた溜め息を吐き出す悪魔。けれど、彼は苦悩の表情のまま、である。
『…今更…引き返すつもりじゃないだろう?何が引っかかってるんだ…?』
 わざわざ魔界から自分を呼び出した理由が、そこにはある。悪魔も必要以上声をかけずに見守って来たのだが…どうも、何かの踏ん切りが付かないらしい。
『解散後の御前の居場所、ってのが引っかかっているのか?』
 問いかける声に、彼が再び溜め息を吐き出す。
「この間…湯沢に会ったんだ。その時、彼奴からも説教喰らった」
『湯沢から?』
「後半の半分はライデンだったけどな」
 つい先日のことを思い出し、そう言葉を零す。
「どう考えたって、悪魔の姿の方が追いかけやすい。でもそれが一つの械でもあり、悪魔の姿では本当にやりたいことは出来ないかも知れない。かえってそれが不釣合いで、幻滅させてしまうかも知れない。良い思い出ばっかりを残しておきたい、だなんて言うのは、こちらの我儘な意見だと思うってな。彼奴も同じことで悩んだ末に、人間として歩いて行くことを決めた、って。だから、悪魔の姿であり続けるデーモンを尊敬する、ってな。結局…俺たちが考えることは同じなんだ。悪魔か、人間か。その二択。そう考えると、一足先に…と言うか、さっさと人間として活動を始めた石川は、肝が据わってるよな」
 そう。抱えていた思いは、みんな同じ。
 御互いに、解散後の話をじっくりした訳ではないけれど…それでも、進む方向性は自分たちで決めたはず。
「確かに俺も、居場所を求めて一年以上考えた。その結果、今こうしている訳だから…踏ん切りをつけなければならないのはわかってる。勿論、本田には何の不満もない。御前のソロの時にも世話になってるし、寧ろ、俺をわかってくれる、有難い相棒だと思ってる」
『だったら何を…?』
「…ホントに…これで、良かったのかな…"エース"ではなく、"俺"で…」
『…ばーか』
 眉根を寄せる彼に、悪魔は小さな溜め息とその言葉を吐き出した。
『散々、話し合っただろう?悪魔だから、人間だから、ってことは、俺はそんなに重大なことだとは思わないって。御前が信者たちを裏切れないと言う気持ちも良くわかる。でも、人間の姿なら信者たちを裏切ることになるのか?悪魔の姿なら、それだけで信者たちの想いに応えることになるのか?それは違うだろう?大事なのは、御前が本当に伝えたいことを、御前なりの方法で伝えることだ。悪魔の姿ではなくたって、御前の目指す"音"をきちんと送ることが、信者たちの想いに応えることになるんじゃないのか?』
 確かに、散々話し合った。この悪魔とも、新しい相棒とも。
 それでも…まだ何か割り切れない思いは、心の何処かに残っている。だからこそ…最後の最後まで、こうしてぐずぐずになっているのだ。
『もう…何にも縛られる必要はないんだ。御前は、御前なんだから』
「……」
 溜め息を吐き出す彼の姿を暫く眺めていた悪魔は、やがて小さく笑った。
『…なぁ…覚えてるか?御前が覚醒する時に、俺が御前に言った言葉』
「…言葉?…色々あって、御前の指す"言葉"が何なのかは良く覚えていないけど…一生、大事にしてくれる、って言うのは覚えてるぞ?」
 未だに眉根を寄せたままの彼は、悪魔に向け、そう言葉を放った。
『そうだな。確かにそう言った。でも俺は…他にも大事なことを言ったんだ。"御前の人生、これで終わり、って訳じゃない。御前の意思は尊重する。媒体だからって、御前の一生の自由を奪う訳じゃない"ってな』
「…覚えてない」
『だろうな。そんな顔してる』
 くすくすと笑う悪魔。
『俺の想いは…その時と、何も変わらない。御前の事が大事だって言うのは勿論そうだし、御前が手を貸してくれと言うなら、いつだって手を差し伸べてやる。でもな…御前は、"俺"じゃないんだ。俺は、これから先の御前の人生の邪魔をするつもりはない。御前は…もう、一人で歩いて行けるから』
 その言葉に、小さな溜め息が零れた。
 そう。一番の不安の種は…もう、この悪魔が傍にいない、と言うこと。
 ある意味、この悪魔の恋悪魔よりも大事にして貰って…護って貰っていたからこそ…本当に、自分で歩いていけるのか、受け入れて貰えるのか…それが不安なのだ。
 彼の表情でその心の歪みを見つけた悪魔は、そっと微笑んだ。
『何の心配もいらないさ。迷ったこと、躊躇ったこと。そこから飛び立てたこと。その全てが、御前の想いとして素直に伝えられたら、きっと待っている人たちにその想いは届くから。御前が、信者たちから貰った勇気を、もう一度返してやれば良い。それだけのことじゃないか』
 再び零れた溜め息。そして彼は無言のまま悪魔に背を向けた。
 全てに、踏ん切りをつける為に。
 それを理解している鏡の中の悪魔は、小さな笑みを浮かべたまま口を開いた。
『…頑張れよ。これからは、御前が"エース"だからな』
 その微かな声に答えるかのように、彼は振り返らず、僅かに空いている左手を上げた。
 その姿に、悪魔はにっこりと笑みを零し、徐々に闇へと溶けて行った。

◇◆◇

 時は流れ、暖かくなり始めた3月の頭。数ヶ月前に出したアルバムを引っさげてのツアーが待っていた。
 本番を明日に控え、前日のリハーサルを終えた"彼"は、ステージの上から客席を見つめながら、大きな溜め息を吐き出していた。
「どうしたんですか?溜め息なんか吐いちゃって」
 昔から馴染みのあるスタッフの声に、再び小さな溜め息が零れた。
「…いよいよだと思うと…緊張する」
 かつてからは想像も付かないその言葉に、スタッフから思わず笑いが零れた。
「エースさんも緊張するんですか?」
「ばぁ~か。俺は前任者とは違って、初めてのツアーなのっ。緊張するのも当たり前じゃないか」
 そう。例え長年ミサ活動に参加して来たとは言え、彼にしてみればそれは肉体を提供していただけのこと。自分自身がステージに立つことなど、学生時代を除けば殆どないに等しいのだから。しかも、自分がメインとなっているだなんて、尚更のこと。
「チケットの売れ行きも良かったそうですよ。皆さん、楽しみに待っていたんでしょうね」
 くすくすと笑いながら、仕事に戻るスタッフを溜め息で見送り、彼は愛用のギターを抱えながら、再び溜め息を吐き出そうと口を開きかけた。
 と、その時。
「"人"って言う字を、掌に書いて、三回飲み込んでみたらどう?」
 ふと、背後から声をかけられた。
「…それって、ホントに効く訳…?」
 振り返りざま、思わず真剣に問いかけた彼の言葉に、声をかけた本人が笑いを零した。
 それは、新しく彼が相棒として選んだ男。
「効くかどうかは、信心次第。だと思うけど?」
「…そうか」
 実に神妙に答える彼に、相棒は再び笑いを零した。
 とても、悪魔の媒体であったとは思えないくらい、音楽に対しては真面目な男。決して手を抜かず、想いを素直に音に乗せることが出来る彼を、新しい相棒はある意味新鮮な感覚で捕えていたのかも知れない。
 そしてまた、こんな純粋な姿を見せられると、かつてと比較して笑いが零れるのである。
「そっか。"エース"にぃさんは悪魔教の宣教師だから、そんな子供騙しは通用しなかったかな…?」
 笑いを含んだ相棒の声に、彼はやはり溜め息を零していた。
「俺は悪魔教の宣教師じゃないし。あれは、俺とは別人格。俺はただ、肉体を供給していただけ……って、御前に言ってもしょうがないか。どうせ、信じられないだろうしね」
 彼の回りで、それを事実だと受け留めている者はどれくらいいるだろう。そう考えると、ちょっと切ないような気もする。
 どう足掻いても、彼には"悪魔"が付き纏う。人間として歩き出そうと決めた時、それは覚悟していたはずであるのに…改めてその事実に向き合うと、真実を真実と受け留めて貰えないことが、こんなにも空しいモノだとは思わなかった。結局、自分はその事実から離れることは出来ないのだ。
 そう思うと、更に溜め息が零れる。
 いつにない程溜め息を零す彼の姿を眺めながら、相棒は自分の放った言葉を僅かながらに後悔していた。
 相棒として選ばれた時…彼と活動していこうと決めた時…彼の言葉を、すべて真実として受け留めようと思ったはずなのに、やはり回りと同じ反応を示してしまった自分。それが、彼の不安を増幅させているのだと言うことを、この時改めて感じたのだ。
 彼は、もう悪魔ではない。否、彼は元々、悪魔ではないのだ。ただ、悪魔の媒体として…選ばれし者として、肉体を提供しただけ。けれど、それは世間一般には通用しない事実。
 だからこそ、相棒は、相棒なりに、彼の気持ちに応えようと思った。それが、自分の役割なのだと。
 浮かない表情の彼を見つめながら、相棒は小さな吐息を吐き出すと、にっこりと微笑んだ。
「変な言い方して御免ね。でも、にぃさんの言葉は…俺は、信じてるよ。相棒としてはまだ短いけど、付き合いだけは長いからね。にぃさんの性格もわかってるつもり。だから…この際、特権だと…思うことにしない?」
「…は?」
 不意にそう言われても、意味が良くわからない。そう言いたげな表情を浮かべる彼に、相棒は更に言葉を続けた。
「別に良いじゃない。元悪魔だ、って言われたって。別に、罪を犯した訳じゃあるまいし。悪魔と関わったことが、にぃさんの特権ってことなだけでしょう?姿は違っても、"悪魔のエース"と、"今のエース"の音は変わらない。伝えたい気持ちも、伝えたい言葉も、何も変わらない。ただ、普通に生きているよりももっと色んな経験が出来たってだけで。それはきっと、聖飢魔Ⅱにいたメンバーだけが味わう特権だよね」
「特権、ね…。まぁ、良い意味でも、悪い意味でもな。でも…確かに、良いファンを持ったとは思うよ」
 ぽつりと零れた言葉。
 本当は、ずっとわかっていたはず。
 昔からの信者たちのおかげで、今の道を歩く決心が付いた。待っていてくれると言う想いがあったから…大勢の想いを、しっかり受け取ったから…今の彼があるのだ。
「"悪魔のエース"を追って来たって良いじゃない。それは、ある意味当然だと思うよ。だって、今までずっと待ってたんだもの。だけど、"エース"を追って来た人は、にぃさんを嫌いにはならないと思う。それは、にぃさんだって"エース"だから。"悪魔のエース"と同じ音を奏でられる。同じ声で歌うことが出来る。同じ想いを、伝えることが出来る。ファンの子たちが待っていたのは、共有出来るその時間でしょう?だからそんなにこだわらなくても良いじゃない。それが、自然だと思うよ?」
 相棒の言葉に、ドキッとして言葉に詰まる。
 今まで、自分自身を通すか、"エース"になり切るか、と言う結論ばかり求めていたような気がして。二択のどちらかを選ばなければならなくて、誰もがそのどちらか片方だけを求めているような気がして。だから散々悩んで、自分自身に結論づけようとしていたのかも知れない。
 けれど、相棒は違った。結論など、必要ないのだと、教えられた気がした。
 ありのままの、自分でいれば良い。あの悪魔も、そう言っていたはず。
 これからは、御前が"エース"だから、と。
「…そう、かもな」
 そう零した彼の言葉。
「悪魔だ、人間だ、の結論は…もう良いや。受け取り手がどう解釈しようと、俺は…今自分が出来ることを、精一杯やるしかないんだからな」
----その為に、"エース"は自分を解放してくれたのだから。
 小さく笑いを零し、彼は改めて相棒と向き合った。
「俺は、良いファンと、良いスタッフと、良いメンバーと…それから、良い相棒に恵まれたのかもな」
 その言葉には、相棒も笑いを零す。
「今更実感?」
「そう。ツアーの前に気付いただけ偉いだろう?」
「…そう、ね」
 くすっと笑う相棒の顔を見て、彼も自然に、笑みが零れる。
 色んな思いが吹っ切れたのと同時に、先程までの緊張は既に解けていた。
 新しい、相棒のおかげで。

◇◆◇

 待ち兼ねた時。ステージに現れた"彼"の姿に、歓声が零れる。
 懐かしい感覚。それは、彼が前任者である悪魔から受け継いだ感覚。
 ステージの上で、彼はかつてと同じ、精一杯の想いをその音に乗せた。

「…ただいま~!」
「お帰り~~!!」
 客席からの大声援。その一言で、胸が一杯になる。
 ずっと、信じていたから。だから、待っていられた。
 そんな、信者たちの気持ちが嬉しくて…待っていてくれた想いに応えなければならないと、彼は改めて、その胸に刻み込んだのだった。


「今日は、本当に有難う。無茶苦茶倖せ者です……有難う!!」
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