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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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開闢~かいびゃく~sideL
こちらは本日UPの新作です。

拍手[2回]


◇◆◇

 運命の歯車がまた一つ、動き出した。

「え~っと…確かここに……」
 その日、次の遠征先の資料を探しに、情報局が管理する膨大な資料室を訪れていた。
「あった」
 目的の資料を見つけ、手を伸ばした彼の耳に届いた、小さな声。
「…あ、それ……」
「……?」
 振り返ってみれば、そこには伸ばしかけた手を止めた"鬼"がいた。
「あ、御免…必要だった?」
 思わずそう声をかけ、手に取った資料へと視線を落とす。
「あぁ…っと……後でも大丈夫だけど…」
 そう返って来た答えに、彼はぱらぱらと資料をざっと捲り、徐ろに閉じる。そしてにっこりと笑って、それを"鬼"へと差し出した。
「はい。俺はもう見たから大丈夫」
「…良いの?一瞬だけど…」
 当然、"鬼"は困惑した表情を浮かべている。
「大丈夫。必要なことは見たし。今回は俺にはあんまり必要なかったみたい」
 笑ったまま"鬼"の手の中にその資料を押し込むと、彼は笑って手を振って踵を返す。
「じゃあね」
「…あ…うん……」
 困惑した表情の"鬼"を残し、彼はさっさと姿を消した。
「…今のって……」
 その背中を見送った"鬼"。記憶に残る、華やかな微笑み。そこに頂くのは、蒼い紋様。そして鮮やかなウエーブの漆黒の髪。その容姿は聞いた覚えがあった。
「…軍事局参謀部の"ルーク"…だよね…」
 初めて見かけたが…直ぐにわかった。そして、最近良く噂に聞いていた。
 近く…新たに副大魔王となる悪魔の片腕となるだろう、と。
「まぁ…様子見、かな…」
 正直、まだ彼がどんな性格なのかは把握出来ていない。けれど…多分、根っからの"良い奴"なのではないか…と、根っからの"良い奴"の"鬼"は笑ってみていたのだった。

 その日の夜。
「軍事局のルーク?」
 情報局の最上階。長官の執務室を訪れていたのは、文化局の局長。そして、その話題を振ったのは、文化局の局長たる"鬼"、だった。
「そう。今日、図書館で偶然会ってね。ダミアン様の御気に入りだって言ってたよね?」
「あぁ、らしいな。俺も何度か会ったことはある」
 その姿を思い出して、主…エースは小さく息を吐き出す。
 最初に会ったのは、もう随分前のこと。作戦参謀としての初めての任務の前に、夜中の情報局に忍び込み、この執務室に窓から飛び込んで来た兵だった。
 それから数回、任務先で顔を合わせたことはある。まだ相棒とまではいかないが、実績を積み始めた彼が相棒となることは遠い未来ではないと思っている。
「…で?御前はどう見た…?」
 昔馴染みの"鬼"に視線を向け、様子を伺うように問いかけると、彼…ゼノンは、くすっと笑った。
「良いんじゃない?自分の任務よりも他悪魔を気遣う"良い奴"みたいだし、マラフィア殿の信頼も厚いんでしょう?ダミアン様の御気に入りなら尚更、出世街道まっしぐらだろうし。問題ないんじゃない?」
 そんな話を聞きながら、エースは淹れたばかりのコーヒーのカップを、ソファーに座るゼノンの前に置いた。
「まぁ…御前の見立てが確かなら、問題ないだろうな。尤も…かなり身持ちは固いみたいだぞ。モテるが恋悪魔の話は聞いたことないしな。弄ばれただとか、そんな話も聞かないしな。ダミアン様の御気に入りでも、御手つき…ってことでもなさそうだし。そう考えると…多分、相当なウブだぞ」
「自分を基準にしないの」
「俺は別に何もしてないぞ?相手が勝手に寄って来るだけだから」
「…ホント、プレイボーイの台詞だよね」
「ばぁ~か。甘い言葉の一つも囁かないプレイボーイがいるかよ」
「いるじゃない、そこに」
 そう言って笑うゼノンに、エースは苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべている。だが…不快、と言う訳ではない。寧ろ、饒舌なところを見ると、エースの機嫌はかなり良い。普段の彼を知っていれば、かなりのレアだろう。
 王都でも指折りのモテ悪魔のエースと、こちらもそこそこ人気はあるが特定の相手のいないゼノン。御互い本気になる恋悪魔がいない、と言う点では共通点はあるものの、職務上は接点は殆どないはず。けれど、士官学校時代に知り合い、今でも交流を絶やさない。御互いに必要な情報を得る役割として御互いの立場を利用しつつ、気の許せる仲魔として、大事な役割を担う相手でもあった。
「まぁ、興味を持つのは良いが…程々にしろよ」
 相手は研究熱心な文化局の局長。興味の深追いをし過ぎると、御互いに火傷をしかねない。保身の為には、一線を引く必要もある。そんな意味を込めての言葉だった。
「大丈夫、加減はするよ。それに"堕天使"だからって、研究対象にしようって言う訳じゃないよ。ただ普通に興味を持った、って言うだけ」
 笑いながら、テーブルの上に置かれた封筒に手を伸ばす。
「じゃあ、この書類は有難く活用させて貰うから」
「あぁ、どうぞ存分に」
 まるで、用が済んだらさっさと帰れ、とでも言わんばかりに手を振るエースに一笑しつつ、ゼノンは執務室を後にする。
「…ホント、物好きだよな…」
 ゼノンの出て行ったドアを眺めながら、頬杖を付いたエースは溜め息を一つ。
 だが、敢えて…口を噤むことを選んだ。
 ゼノンのことを良く知っているからこそ…彼ならルークを悪いようにはしないだろう、と言う確証がそこにはあった。

◇◆◇

 ルークが情報局の資料室…通称図書館へ行った翌日。
 職務終了時間も過ぎ、そろそろ帰ろうか…と思っていたルークを呼び止めた声。
「ルーク、御客様ですよ」
「俺に…ですか?」
 上司たるマラフィアに呼び止められた上に、心当たりのない御客。当然、首を傾げると、マラフィアは状況を察しているのか、くすっと笑いを零した。
「えぇ。わたしの執務室に御待ちいただいています。まぁ、行ってみればわかりますよ。わたしは用事があるので先に失礼しますが、執務室は戸締りをしていただければ使って構いませんから。ゆっくりどうぞ」
「…はぁ…」
 執務室の鍵を渡され、マラフィアの背中を見送ったルークは、そのままマラフィアの執務室へと向かった。するとそこに待っていたのは、前日図書館で会った"鬼"、だった。
「どうも」
「あ、昨日の…」
 にっこりと微笑む"鬼"を前に、何故彼が訪ねて来たのかがわからないルークは、怪訝そうに眉を潜めていた。
「自己紹介がまだだったね。俺は地獄文化局の局長、ゼノン。宜しくね、ルーク参謀」
「……文化局の…」
 顔を合わせるのは初めてだったが、名前は聞いている。年は然程変わらないはずだったが、局長と言う時点で、一参謀であるルークにしてみれば相手は自分よりもかなりの格上に当たる。当然、気安く会話が成立する相手ではないのだが…"ゼノン"は、気にしていないようだった。
「…あの…ゼノン局長が、わたしに一体何の…」
 ルーク自身、文化局と直接何かの交渉をしたこともなければ、協力を頼んだこともない。なので、どうして自分を訪ねて来たのかもわからない訳で…
 困惑した表情のルークに、ゼノンはにっこりと微笑んでみせた。
「書類を届けに…ね」
 そう言いながら、ゼノンは書類の入った封筒をルークに渡した。
「これ、エースからね。今度の任務にいるんじゃないか、って預かったんだ」
「…どうも…」
 封筒を受け取ると、中の書類を確認する。確かにそれは数日前に情報局に提携を頼んだ書類、だった。
 だがしかし。何故それを、文化局の局長が持って来るのか。それがわからない訳で。
「…えっと…書類を持って来ていただいたことは有難いのですが…どうして、ゼノン局長が…?」
 怪訝そうに問いかけた言葉。まぁ、当然と言えば当然。
 すると、ゼノンはルークの警戒を解くかのように、穏やかな声でゆっくりと言葉を続けた。
「まぁ、ね。不審に思う気持ちはわかるよ。急に一度見かけただけの相手が押しかけて来たんだからね」
 そう言いながら、ゼノンの方もルークの様子を探る。
 彼は…自分に対して、どんな態度に出るだろうか?その反応如何では…警告も兼ねて、報告をしなければならない。
 そう思いながら、その表情へと視線を向ける。
「エースから…君の話を聞いているよ。"堕天使"、だってこともね」
 途端、ルークの表情がすっと変わった。
 警戒…と言うよりも、うっすらと敵意を浮かべた、真っ直ぐな眼差し。今までの怪訝な表情はすっかり消え、まるで敵に対して向けるような表情だった。
「だから…何ですか?」
 その声も、敵意を向けている。
「うん、一度本物の堕天使を見てみたかったんだ」
「……は?」
 にっこりと笑うゼノン。
「エースからね、研究材料にだけはするな、って釘を刺されたんだけど…でも、興味があるんだ。俺は魔界しか知らないけど、君は天界も魔界も、両方知っている訳でしょう?それって、かなりの強みになるんじゃない?今まで、君の周りが何て言っていたのかは知らないけれど、俺は純粋に、君そのものに興味があるってこと」
「………はぁ…」
 気が抜けた。はっきりとそうわかるように、ルークは大きな溜め息を吐き出すと、肩の力を抜いた。そして向けた眼差しは、つい先ほどまでの強い敵意などすっかりなくなっていた。
「…エース長官と、親しいのですか…?」
 思わずそう問いかけた声に、ゼノンはくすっと笑う。
「親しいと言えばそうなんだけど…単に、上層部としての繋がりではなくてね。士官学校の時に知り合って、それから御互いに切磋琢磨する間柄、って感じかな。俺は、やりたいことを諦めない為に上に行くと決めたエースの生き方が好きだし、尊敬している。俺もエースに感化されて、色々諦めたくないな、ってね。君にも興味を持ったから、こうして書類をダシに会いに来た、って訳。勿論、エース公認でね」
「…そう、ですか…」
 堕天使、と言うことが、文化局局長の興味を引いた。それが良いことなのか、悪いことなのか…ルークにはわからない。情報局の長官に、研究材料にはするなと釘を刺されたくらいなのだから、恐らく今までにも興味を持った相手にはこうして突進しているのだろう。そう思うと…本当に、どう接して良いのかわからない。それが、正直な気持ちだった。
 そんなルークの思考を読み取ったのか…ゼノンは、座っていたソファーから立ち上がった。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。別に、何かしようって言う訳じゃないから。ただの様子見。君が堕天使だろうが何だろうが、君であることには変わりないから」
「…ゼノン局長…」
 にっこりと笑ったゼノンは、そのまま踵を返した。
「じゃあ、またね。君が、副大魔王付きの参謀になるのを楽しみにしているよ」
 そう言い残し、ゼノンはマラフィアの執務室から出て行った。
 その背中を見送ったルークは…何とも言えない表情を浮かべたまま、だった。


 任務が一つ終わった。
 漸く緊張から解放されたルークは、その報告書を提出し終えると、そのまま情報局のエースの元を訪ねていた。
「これ、ありがとうございました。助かりました」
 先日受け取った書類をエースへと差し出す。
「あぁ、役に立ったのなら良かった」
 そう言いながら書類を受け取ったエースは、その視線をルークへと向けた。
「…ゼノン…何か言ってたか?」
「…え?」
「不満気な顔、しているぞ」
「………」
 確かに、エースの言う通り。不満と言えば不満。消化不良といえば消化不良。つまりは、すっきりしていない、と言うこと。
「彼奴、気は良いんだが、根が不器用だからな。多分御前は、モヤモヤしたままなんじゃないかと思ったんだ。で?何に引っかかった?」
 問いかけられ、一度ぐっと息を飲む。
 何処までも見透かされている。正直、それは不快だった。けれど…まだ御互いに踏み込んで探れるほど、親しい間柄ではない。ルークにしてみれば、エースも…そしてゼノンも、自分よりも上位にいる。当然、引かなければならないのはルークの方なのだから。
「彼奴には黙っているから」
 ルークの様子を伺いながらそう言ったエースに、ルークは今飲み込んだ息をゆっくりと吐き出した。多分彼は…吐き出すまでは、解放してくれない。そう思い、抵抗するのを諦めた。そして、目を伏せる。
「…俺が堕天使だから…興味を引いた、と…それって、裏を返せば…堕天使でなければ、俺には誰も興味を示さない、ってことになりますよね?今まで、俺が堕天使だから…その理由で陰口を叩かれたり、相手にされなかったりってことは沢山あったけど…それも結局、俺が堕天使だから、ですよね?堕天使でなかったら…俺は、埋もれて終わったのかな、って…そう思ったら、何だかモヤモヤして……」
「成程な。まぁ…言いたいことはわかるな」
 そう返すと、エースは目を伏せているルークをじっと見つめた。
 軍服の裾を、固く握り締めたその手。押さえ込んでいるその感情は…多分、純血の魔族である彼らには一生わからないだろう。
 けれど…その痛々しい姿に、エースは想いを巡らせていた。
 そして。
「昔……俺が知っていた"堕天使"は…ずっと、笑っていたな…」
「…は??」
 思いがけない言葉に、ルークは思わず顔を上げる。口を開いたエースの方が、そっと目を伏せ…そして、何かを思い出しているかのように、ゆっくりと言葉を続けた。
「"彼"と、そこまで親しかった訳じゃない。でも俺が知る限り…"彼"は、どんなに陰口を叩かれようが、いつか反旗を翻すんじゃないかと警戒されていようが…そんなことは我関せずと言わんばかりに、ずっと微笑んでいたな。堕天使であることを否定せず、寧ろそれを切り札のように思っていたのかも知れない。堕天使であることで、自分に注目を集めることが出来る。その上で、自分の実力を見せつけることが出来る。そう、思っていたのかも知れないな…」
「…エース長官…」
 ふと、エースが顔を上げる。そしてルークを真っ直ぐに見つめたその琥珀色の眼差しが、一瞬揺らめいた。
 それは…とても、楽しげに。
「堕天使だって良いじゃないか。それが御前だろう?寧ろ、それで注目を浴びられたのなら、他の奴等よりも上官の目に留まりやすくて有利じゃないか。"彼"がそうして来たように、御前も堕天使であることを逆手に取って、それを強みにすれば良い。堕天使であることに自信を持てば良い。そうして笑っていられれば、御前への注目は良い方向に向くんじゃないか?」
 エースの表情は変わらない。いつだって本心を見せず、他悪魔の前で笑うこともない。けれど、その眼差しは…しっかりと、ルークを見つめていた。
 精一杯の、想いを込めて。
「ゼノンは、呑気者に見えても実は鋭いんだ。俺も昔…彼奴に発破かけられて、躍起になったくらいだしな。まぁ、彼奴に見込まれたら間違いないんじゃないかと思う。だからこそ、彼奴が偶然御前に会ったと話を聞いた時、御前をどう見るかと聞いてみたかったんだ。まぁ、彼奴の評価は上々だったぞ」
「………」
 すっと、ルークの頬に赤みが差した。好評価だと聞いて、ちょっと嬉しくも思う。それを素直に出せるのがルークなのだろうと、エースはルークを眺めながら思っていた。
「御前なら、大丈夫。御前が笑えば、きっと…良い意味で回りの目を惹くから。それを利用すれば良いじゃないか」
「利用する、って…それじゃ、タラシじゃないですか…」
「良いんじゃないか?それでも。結局のところ…俺も、利用させてもらっているしな」
「利用、って…」
 エースの言う利用が何処までのモノか、ルークには想像が付かなかったのだが…怪訝そうに首を傾げたルークに向け、エースはにっこりと微笑んだ。
 零れんばかりの色気を称えた、満面の笑みを。
 普段、無粋な表情しか見せず、決して笑わないエースが見せた満面の笑み。当然、それを目の当たりにしたルークは、普段とのそのギャップの大きい美麗の微笑みに、一瞬に真っ赤になって息を飲んだ。
「ま、そう言う事だ」
 そう零すと、浮かべていた微笑みをすっと治める。いつもよりは少し和らいだ表情ではあるが、笑みとは程遠いその表情に、大きく息を吐き出す。
「…確かに…そんな風に微笑まれたら、どんな御願いでも聞きたくなります…」
「だろう?自分で言うのもなんだが、俺もこの技を教わってから、随分利用出来ることがわかったからな。本心を見せずとも、あたかもそうであるように見せる技術を身につけろ。そして、それに耐え得る"心"を育てろ。その為に、その胸の内を吐き出せる"誰か"を見つけること。それが、"心"を育てる、と言うことだと…俺は、先代に教わった。だから、御前ももう少し自分に素直になって、自分自身に自信をつけた方が良い。ま、俺からのささやかな助言、だけれどな」
 胸の内を吐き出せる"誰か"は、ちゃんといる。あとは…"心"を、育てなければ。
 嘗て言われた言葉を思い出しながらそう口にしたエースに、ルークは暫く考えていたが…やがて、エースに向けて素直に微笑んだ。
「わかりました。頑張ります」
 エースの色気のある美麗な笑みとはまた違って、他悪魔の目を惹く、若々しくて華やかな良い笑顔。
「良いじゃないか」
 目を細め、眩しいものでも見つめるかのようなエースの表情に、ルークは漸くエースの内面が見えたような気がした。
 多分それは…自分が手に入れられないものを欲しがる本能。
 ずっと、自分を護る為に気を張り詰めて、感情を出さずに過ごしていたエースだからこそ…素直に笑えるルークが眩しいのだ。そして、素直にその姿を応援しようと思えたのだ。
 全て、本当のルークを見て来たからこそ。
「頑張れよ」
「…はい」
 彼らに認めて貰えたのなら、きっと大丈夫。その想いに応えられるように。それが、ルークの励みにもなった。

◇◆◇

 ルークがゼノンと出会ってから、幾度か季節が回り…その日が来た。
 皇太子たるダミアンの執務室に呼ばれたルークは、そこで自分がこれから仕えるべき上司たる副大魔王と初めて顔を合わせた。
 短めの金色のオールバック。青い紋様を頂いたその顔に、自分を観察するような金色の眼差し。
 初めて出会った相手。そしてその視線がかち合った時…ドキッとして、一瞬息が止まるような気がした。
「吾輩はデーモン。そう緊張しなくてもいい。まぁ、宜しくな」
「は…っ」
 差し出された手を固く握り、頭を下げる。
 彼らの歯車は、回り始めた。

 ダミアンの執務室へ挨拶に行った後、自分の執務室へと戻って来たルーク。
 数日前までは、そこは自分の上官の執務室だった。
 ルークが副大魔王付きの参謀に任命された直後、彼は職務を辞めた。そして、自分がその執務室を譲り受けた訳だが…まだ、その景色には慣れない。
「はぁ…」
 大きな溜め息を一つ吐き出して、その椅子の背凭れへと背を預ける。
 やるべきことは、これから沢山ある。けれど、まだ頭が着いて来ない。
 そんな状況にぼんやりとしていると、ドアがノックされた。
「…はい?」
 返事を返すと、そっと開いたその隙間から見えたのは、エースの姿。
「今、大丈夫か?」
「あぁ、うん、大丈夫。どうぞ」
 椅子から立ち上がって執務室の中へと促すと、入って来たのはエース一名ではなかった。
「…ゼノン局長…」
「どうも。こんにちは」
 エースの後ろから一緒に入って来たゼノンの姿に、ルークは一瞬困惑したような表情を浮かべた。
 ゼノンがルークを訪ねて来たあの日以来の再会。未だ、親しい訳ではない。けれど、そんな戸惑いを抑えて直ぐにその表情を引き締める。
 当然…エースもゼノンも、その一瞬の表情は見逃さなかったが。
「就任、おめでとう。今日はエースと一緒に御祝いにね」
 そう言ったゼノンは、手土産たる酒の瓶をその机の上に置いた。
「…ありがとうございます」
 改めて言われると、ちょっと照れ臭い。そう思いながら頭を下げると、ゼノンはくすっと笑いを零した。
「いつまでも敬語って言うのもね。メリハリは大事だけど、仲魔内でいる間は普通で大丈夫だよ」
「…はぁ…」
 そう言われても、そんなに直ぐには割り切れないもので。困惑したルークに向け、エースが苦笑した。
「とにかく、おめでとうな。これからも宜しく」
「…宜しく御願いします」
 一つ息を吐き出し、意を決したように気を緩めて小さく笑う。
 その笑顔の前、ゼノンも笑みを浮かべる。
 仲魔として、認められた。それが、何よりも支えになる。
 新たな一歩を踏み出したルークを、温かく受け入れる仲魔が、そこにいた。


 歯車がまた一つ噛み合った。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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