聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
雨夜の傘の下
二週間前。
その連絡は、珍しいカタチで届いた。
「…招待状?」
書類と共に届けられたその封筒を眺めながら、この執務室の主は不思議そうに首を傾げた。
「あぁ、その招待状、ルークからですよ」
書類を持って来た当の悪魔…副大魔王のデーモンの言葉に、主は更に首を傾げた。
「ルークから?珍しいね」
「御自身の発生日のパーティーの招待状ですよ。みんなに送った、と言っていましたから」
そう言われ、封筒から取り出した招待状に目を通す。すると、デーモンの言う通り、二週間後のダミアンの発生日パーティーの招待状だった。けれど、その日付は…。
「…ルークらしいね」
くすっと、小さな笑いが零れる。
「どうかしたんですか?」
問いかけた声に、その招待状を渡す。
「…あれ?日付が違いませんか?」
「そうだね。でも、多分それで良いんだろうね」
本魔は、納得しているのだろう。ニコニコと笑うその姿に、デーモンの方が首を傾げていた。
自分の執務室に戻って来たデーモンを待っていたのは、恋悪魔たる情報局長官。勿論、仕事で訪れて来ていたのだが。
そこで、ダミアンの発生日パーティーの招待状の話になった。
「…日付が違う?」
「そう。六日ではなく、七日になっていたんだ。ほら、吾輩のところに来たのもそうだ」
そう言ってデーモンは、自分の執務室に届いていた招待状を開いてエースに見せる。
「御前のところのは?」
「俺はまだ見ていないが…まぁ、多分同じだろう。ルークならそうするだろうな」
「……?」
「ダミアン様が納得しているんだったら、それで問題ないじゃないか」
「…それはそうだが…」
理由がわからないデーモンは首を傾げているが…エースの方は、小さな笑いをその口元に浮かべている。
事の発端は数年前の発生日のパーティーの時の事。その幹事を持ち回りでやっていた彼らだったが、ダミアンの発生日の幹事に当たったのがエースだった。そして、毎年自分の発生日にいなくなるダミアンを捕まえる為に巻き込まれたルークと共に、その難しさを思い知ることとなった。
その理由は、エースは聞かなかった。けれど、ルークはダミアンから何か聞いたのかも知れない。
それ以来、ルークは個悪魔的にも翌日に予定を入れていたはずだった。
「このところ、みんな忙しいからな。発生日のパーティーも暫く振りだろう?まぁ、個悪魔的に祝うことはあったり、簡単に集まったりはあったが、パーティーとなると準備が忙しいからな。敬遠気味だったよな…」
「まぁな。でも、今年はみんな都合がついたからな。ダミ様の発生日を祝いたかったんだろう。自ら幹事を申し出るくらいだからな」
くすくすと笑いながら、コーヒーを入れているデーモン。
デーモンもエースも、ルークの気持ちは良くわかっているつもりだった。
誰よりも…一番大事な人の発生日を祝いたくて。ただ、その想いだけで。
「…プレゼントは何が良いかな…」
「ルークにリボン結んで渡せば良いんじゃないのか?」
「…幾ら何でも、それじゃ手抜き過ぎるだろう…」
「御前も手を抜いたのか?」
「…いや、そうじゃなくてだな…」
思わぬところで昔の話を穿り返され、デーモンは思わず赤くなる。
リボンを結んで、自分をプレゼントに。それは余りにもベタだが…実際に以前エースの発生日にそれをやった(やらされた)デーモン。我ながらあれはなかった…と、今更ながらに思っていたりするデーモンだった。
「…真面目に考えよう」
咳払いを一つして、デーモンは赤くなった顔を背ける。
その背中を、エースは笑いながら眺めていた。
「確実に喜んで貰えるとは思うんだけどな」
「まぁ、物欲の強いヒトではないからなぁ…他の物と言ってもなぁ…」
「プレゼントに関しては、まだ時間はあるからな。もう少し考えよう」
直ぐにこれと言うものを思いつく訳でもない。まぁ、最悪何も思いつかなければ…ルークにリボンを結んでやれば…と、エースは本気に思っていたのだが。
「…それはそうと、仕事の話で来たんじゃないのか?」
ソファーに座るエースの前と自分の執務机の上にカップを置いたデーモンに問いかけられ、エースは顔を上げる。
「あぁ、そうだった…」
すっと、仕事モードに戻ったエース。流石にまだ職務中。その日の話はこれでおしまいとなった。
「ルーク、まだ帰って来ないのか…?予定では、一昨日には戻って来ているはずだろう?」
ダミアンの発生日の当日。当然、朝からダミアンの姿はない。けれど、明日の発生日パーティーの幹事であるルークも、未だ遠征から戻って来ていなかった。
「あぁ、連絡はあったんだけどな。どうも手間取ったようだ。今日の昼には戻れそうだと言っていたが…」
報告に来たエースは、溜め息と共にそう言葉を吐き出す。
時計を見れば、もう昼になる。
招待状が届く頃に丁度遠征に出かけ、未だに帰って来ない。いつも予定通りに任務から帰って来るはずのルークにしては、珍しいことだった。
「まぁ、ルークのことだからな、心配ないさ。で、プレゼントは?」
気を取り直して問いかけたエースに、デーモンは小さく笑った。
「大丈夫だ。ちゃんと用意はしてある」
ルークと連絡が取れなかった為、残りのメンバーで決めたプレゼントは、結局デーモンが用意することとなっていた。
「なら良いんだが…ルークも何か用意していたんだろうか…?」
「さぁな…何も聞いてないからなぁ…」
今回のパーティーのことは、時間と場所が決まっているだけで、何一つ聞いてはいない。尤も、ルークももっと早く帰って来る予定だったのだから、帰って来てから話をするつもりでいたのかも知れないが。
そんな話をしていたその時。
デーモンの執務室のドアがノックされた。
「どうぞ」
声をかけると、ドアを開けて入って来たのはルークだった。
「…御免…遅くなって…」
「ルーク…」
恐らく…慌てて帰って来たのだろう。土埃で汚れたマントと戦闘服。そして、その顔もうっすら汚れている。
「あぁ…慌てなくて良いから…」
溜め息を一つ吐き出したデーモンは、ルークにそう言葉を放った。
「ダミ様は今日はいないし、報告書も明日の任務終了までに出来れば良い。取り敢えず…シャワーを浴びて着替えて来たらどうだ…?」
「でも…ダミ様の発生日パーティーの話も何もしてないし…報告書作り始めたら、時間なくなっちゃうから…」
溜め息を吐き出したのはルークも同じだった。
「場所と時間は決まっているんだろう?だったら、準備はほぼ出来ているじゃないか。料理だって頼んでおけば良いんだし…自分の屋敷だろうが」
「それはそうなんだけど…」
そう。明日のパーティーの場所は、ルークの屋敷。自分の屋敷なのだから、今更何を遠慮することがあろうか。
「でも…プレゼントもまだだし…」
「…デーモンが用意してるぞ?」
「…ホントに?」
心配そうに言ったルークの言葉に返したエース。その声にルークが声を上げる。
「あぁ、一応な。御前がどうしたいのかわからなかったから、我々で決めたんだが…」
「有難う、助かった…」
安堵の溜め息を吐き出したルーク。一番の心配事はそれだったのだろう。
「プレゼントなんて…御前がいればダミアン様は機嫌が良いんだ。御前がリボン結んでそこにいれば、問題ないじゃないか」
笑いを含んだ声でそう返したエースに、ルークは頬を膨らませる。
「もぉっ!それじゃ二番煎じじゃないのさっ」
「拘るなよ、そんなことに」
くすくすと笑いを零したエースに対し、デーモンは…何処か気まずそうに、うっすら赤くなっている。
「…じゃあ、報告書は明日出すから。これから一旦戻って、パーティーの準備の手配して、シャワー浴びて…あぁ、もうどうして予定通りに行かなかったんだよ…っ」
珍しく落ち込んだ姿を見せたルークに、デーモンは小さく笑う。
「…とにかく、ダミ様は御前の無事な顔を見るのが一番なんだから。気にすることはないさ」
「…うん…」
溜め息を吐き出しつつ、ルークは諦めたように踵を返した。
「…大丈夫か、彼奴…」
「…大丈夫…だとは思うけどな…」
執務室から出て行く背中を見送ったデーモンとエースは、いつにないその姿に溜め息を吐き出していた。
翌日の夕方。漸く書類を仕上げたルークは、ダミアンの執務室を訪れていた。
「…遅くなりました…」
そうつぶやきながら報告書を差し出したルークに、ダミアンは小さく笑った。
「デーモンが言っていたよ。予定が狂って御前が酷く落ち込んでいるとね」
「…そう言う訳では…」
問いかけたダミアンの言葉に、ルークは表情を引き締める。
「…大丈夫です…」
その言葉にダミアンも小さな吐息を吐き出すと、その顔に柔らかい笑みを浮かべた。
「まぁ良いけれどね。今日はもうこれで終わりだ。御前は何か仕事を残して来ているのかい?」
「…いいえ…」
「じゃあ、あと少しで職務も終わる時間だしね。ゆっくり御茶でも飲んで、それからパーティーに行こうか。折角、祝って貰えるみたいだしね」
「じゃあ、俺が…」
ルークは踵を返し、御茶を入れに行く。その姿を眺めていたダミアンは、背を向けたルークに向けて小さく問いかける。
「ここで吐き出して行くかい?それとも、他の誰かに吐き出すかい?まぁ、それは御前の自由だが…溜め込んだままでは駄目だよ。いつまでも、そんな顔をしているものじゃない。御前には、笑顔が一番似合うんだから」
「…ダミ様…」
振り返ってみれば、ダミアンはにっこりを微笑んでいる。
いつでも…笑顔に支えられている実感はあった。だからこそ、その想いに応えたいのに…こんな肝心な時に、どうして思い通りに任務が進まなかったのか。それが、ずっと引っかかっていたのだ。
御茶を入れたルークは、そのカップの一つをダミアンの前にそっと置く。
「…自分が情けなかっただけです。本当はもっと早く帰って来られるはずだったのに…何処で手間取ったのか、自分でもわからなくて。何年も参謀やって置きながら、何で今更、って…」
溜め息を吐き出しつつ、そう言葉にしてみると…本当に、参謀に成り立ての頃を思い出す。あの頃だって、もう少しマシだったかも知れない。そう思うと…溜め息しか出ない訳で。
そんな思いで吐き出したルークの言葉に、ダミアンはにっこり笑った。
「そう言う時はね、一杯笑って、気分転換すると良いんだ。そうすると、気持ちが楽になるんだよ。それで、もう一度前を向けば良いんだ」
「…そんな簡単なことですかね…」
「落ち込んでいる時は、少し難しいだろうね。でも、御前なら大丈夫。ほら、笑ってごらん?」
ダミアンにそう言われ、大きく息を吐き出すとその顔に笑みを浮かべる。
強引に笑ってみたものの…目の前のダミアンもにっこりと笑う顔を見ていると、少し、気持ちが楽になった。確かに、いつまでもそこで立ち止まっていても仕方がないのだ。
「有難うございます。ちょっと、元気になりました。俺、先に行きますね。準備もあるし…。あとで、デーさんたちと一緒に来て下さい」
にっこりと微笑んだルークに、ダミアンも笑いを零す。
「あぁ、わかったよ」
ダミアンに見送られ、ルークは執務室を後にした。
ルークが屋敷へ戻ってから一時間もしないうちに、ゼノンとライデンがやって来た。
「悪いね、忙しいのに」
「何言ってんのさ。仕事より楽しいもん。来ない訳ないじゃん」
くすくすと笑うライデンの姿に、ルークも思わず笑いを零す。
ダミアンの言う通り。笑っていると、もやもやしていた頭もすっきりする気がする。
「ルークの方が忙しかったんじゃない?」
昨日の昼に任務から戻って来た、と言うことはゼノンも聞いていた。それから色々やることがあるのだから、一番忙しかったのではないかと問いかけた言葉に、ルークは小さく笑った。
「まぁね。でも…落ち込むより、笑った方が良いや。ダミ様の言う通り」
ダミアンに何を言われたのか、ゼノンにはわからないが…まぁ、笑っていろ、と言われたのだろうと察しはつく。
「そ。笑ったあんたが、一番のプレゼントだろうしね」
笑いながら、ライデンはルークの後ろへと回ると、ポケットから何かを取り出して束ねてある髪につけ始めた。
「ちょっ…何してんの?」
振り向こうにも、自分の後頭部である。当然見えるはずもない。
「ん?プレゼントの準備」
平然とそう言ったライデンに、ゼノンはくすくすと笑いを零した。
「ダミアン様にとって、一番のプレゼントだと思うんだけど…と言うのは、俺たちみんなの見解ね」
「…ちょっとぉ…本気でやるの~?」
以前、デーモンにやれと言った張本魔はルーク。それがまさか自分に返って来るとは…。
「どうなるかは、ダミ様に御任せだけどね。楽しみにしてたら?」
ルークの紋様と同じ、蒼いリボンを髪に結び付けたライデンはにっこりと笑ってそう言った。
「…何もないよ。だって…」
ルークは言いながら、ちょっと視線を伏せる。
想いを抱いているのは自分だけ。所詮、ダミアンは魔界での"親代わり"に過ぎない。そんなプレゼントを贈られても、迷惑なのでは…。
小さな溜め息を吐き出したルークは、自嘲気味の笑いを浮かべた。
「デーさんとエースじゃあるまいし。それに関しては、何もないからね。期待しないで」
そう言うと、準備の為にリビングを出て行ったルーク。その背中を見送ったライデンは、同じくそこに佇むゼノンに、ポツリとつぶやいた。
「…やっぱり、相変わらず鈍過ぎるね…」
「…まぁ…相手はダミアン様だからね。立場を考えれば積極的になれないのはわかるけど…」
小さな溜め息と共に吐き出された言葉。それは、自身も一国の皇太子と恋悪魔関係だと言う立場であるから、迷う気持ちは当然わかるのだろう。
「まぁ、見守っていようよ」
後は、ダミアンに任せるしかない。
半分は冗談だけれど、もう半分は本気。折角のダミアンの発生日なのだから、煮え切らないルークを後押ししてやろうとの気持ちは誰もが持っていた。けれど…受け取り手としては、どう受け取っても構わない。それは、暗黙の了解、と言うことになった。
パーティーは時間通りに始まり、準備の甲斐もあって誰もが十分に盛り上がり、滞りなく終わった。
そしてパーティーの終わった夜更け。ダミアンを送って行くと言う名目で一緒に出て来たルークであったが、二名きりで歩き始めたものの、この日はどう言う訳か話が弾まない。
「…済みません。わざわざ、徒歩での御帰宅になってしまって…」
その気になれば、魔力を使って転移することも可能だったのだが…どうしても今日は、一緒に歩いて行きたくて。
そんな気持ちで言葉を零したルークの横顔に視線を向けたダミアンは、小さく笑っている。
「たまには良いじゃないか。酔い覚ましと運動を兼ねてね」
「…はぁ…」
どうも、いつものような雰囲気にならない。どう言う訳か、ルークは酷く緊張している。
パーティーが始まると同時に振り出した雨。それは、ルークの心を更に重くしていた。
見上げた暗い空から、雨の雫が次々と落ちて来る。止む気配はまるでない。
「…雨が降ると髪が纏まらないからな…」
小さな溜め息を一つ吐き出したルークは、そう言葉を零しながら傘を差す。
「どうぞ」
差した傘をダミアンへと差し出すと、ルークの隣で空を見上げていたダミアンは、その口元に小さな笑みを浮かべていた。
「一緒に入ろうか?」
「…はい?」
「相合傘。たまには良いだろう?どうせ、誰も見てやしないから」
「…はぁ…」
そこまで言われては、ルークも断る訳にも行かない。
細身のダミアンと細身のルーク。背の高さもダミアンが少し高いが、それ程大きな差がある訳でもない。なので、納まりは良い。
ルークが差す傘にダミアンも納まり、ゆっくりと雨の中を歩き出す。
まだそんなに激しく降ってはいないので、傘を叩く雨の音も心地良い。
暫く歩いた頃。
「わたしは…好きだよ」
「…え?」
不意に発せられたその意味深な言葉に、ルークはダミアンへと視線を向ける。
「…雨。御前は嫌いかい?」
くすっと笑って、ダミアンの視線がルークへと向いた。
「…雨…ですか…」
深読みし過ぎて…思わず赤くなる。
「俺は…あんまり好きじゃないです。髪が纏まらないし…湿っぽいし…遠征に出たら長引くし」
つぶやいた声に、ダミアンは笑った。
「御前の髪は仕方ないね」
「…笑い事じゃないんですから…苦労してるんですよ?」
溜め息を吐き出しながら、その髪に手を当てる。どうにもならずに襟足で結ばれただけの髪型は、ルークには不服だったのだろう。けれどそんなルークに、ダミアンは笑いを収めると目を細めた。
「それは仕方ないだろう。わたしだって同じだからね。まぁ、御前ほどではないけれどね」
緩いウエーブのダミアンの髪は、いつもと変わらずに綺麗に纏まっている。どんな技を使っているのか…それは未だにルークにもわからないが。
「昨日は…やはり、母上様に会いに…?」
足を進めながらふと問いかけた言葉に、ダミアンは小さく笑った。
「毎年のことだからね。こんな時でもないと、親父と親子に戻れる時間もないからね」
「…そうですよね…」
大魔王陛下のことはルークも良く知っている。けれどそれは、大魔王としての姿であって…ダミアンの父親、と言うことがわかる姿は見たことがない。だから、ルークには想像がつかないのだ。
父親、と言う存在そのものが。
「昔の話は…御前にも話したことがあるね?発生日が嫌いだったことも、母上の命日であることも…両親にとっても、特別な日だと諭されたことも」
「…はい…聞きました…」
不意に昔話を始めたダミアンに、ルークはその顔をじっと見つめていた。
真っ直ぐに前を見つめているダミアンの表情は、いつもと変わらない…否、いつもより…少しだけ、楽しそうだった。
「枢密院に入って間もない頃だったよ。そうやって、発生日に諭されたのは。でもね、それだけじゃなかった。わたしはその時に…初めて、御前の話を聞いたんだ」
「……っ」
思わず足を止めたルークに、ダミアンも一歩先で足を止めてルークを振り返った。
とても優しい眼差しと共に。
「もし…あの時、あの方に御前の話を聞かなかったら…わたしは、今でも自分の発生日が嫌いだったろうね」
「…どんな…話ですか?」
小さく息を飲み、ルークは問いかけた。
初めて聞いた、自分が魔界へ降りる前の話。彼の悪魔は…ダミアンに、何を話したと言うのだろう?
一度も、会ったことはないはずなのに。
「一度も逢ったことのない、"ルカ"と言う…わたしとたいして年も変わらない子供がいると言っていた。いつか、堕天使として覚醒することを承知で、"彼女"に託した自分を、卑怯者だとね。でも…あの方はずっと…寂しかったんだと思う。生まれ育った地を捨て、好きな人と離れ離れで…生まれた子供の顔を見ることも出来ない。それでも、一度も祝うことの出来なかった、我が子の発生日の想いを…親として、わたしに伝えたんだと思う。決して、子を想わぬ親はいない、とね」
「………」
「親父は…わたしがあの場へ行くまでの年月、わたしの発生日をどう思っていたのか…それは、聞いたことがないかわからない。愛していた伴侶を失って、残されたわたしの誕生を…本当に喜んでいたかどうか…多分、本心は一生口にはしないと思う。それでも、わたしが生まれたことを喜んでくれていた。だからわたしも、唯一わたしが親父の子供であると、実感出来る日になった。仕事も全て放棄して…唯一、我侭が許される日だとね」
くすくすと笑うダミアン。その笑顔を見つめながら…ルークは、胸が一杯になった。
愛されている実感など、一つも感じたことはなかったのに…遠くで想っていてくれた"父親"が、ちゃんといた。それだけで、ちょっとだけ幸せな気分になれた気がして。
「他から見れば…そんなにたいしたことではないかも知れない。でもわたしは、あの方の秘密を教えて貰ったような気がして…誰にでも、大切な日があると感じたことが幸せだと思ったんだよ。御前に出逢えたことも含めてね」
ダミアンは目を細めてルークを見つめた。
「わたしは、御前の全部が好きだよ。真っ直ぐで強くて優しい心根も、雨の日には纏まらないその黒髪も、わたしを真っ直ぐに見つめる深い黒曜石の瞳も、何もかも。良い悪魔に、出逢えて良かった」
「ダミアン様…」
思わず…キュンとしてしまう。
「御前はそのままが良いよ」
にっこりと微笑むその姿は…既にルークには直視出来ない。
「…口説き文句じゃないんですから…」
真っ赤な顔で俯いたルークの隣で、ダミアンはくすくすと笑う。
「そんな受け取り方もあるね」
勿論、相手は皇太子である。ルークにとっては当然高嶺の花。けれど…仄かに想いを抱くぐらいは、許されるだろうか。
決して、口には出来ない想い。胸に秘めた想いは…既に許容量を超えていたのかも知れない。
そんなルークを暫く見つめていたダミアンは、ふと何かを思い出したかのように手をぽんと叩いた。
「そうだ。一つ、プレゼントを貰い忘れていたね」
「…プレゼント…ですか?」
突然何を言い出すんだろう…と、怪訝そうな表情を浮かべたルークに向け、ダミアンはにっこりと微笑んだ。そして、その指先でルークの顎に触れる。
「忘れたのかい?御前が髪に結んでいる"リボン"を」
「…"リボン"って…まさか…」
パーティーが始まる前。冗談半分に、ライデンがルークの髪に結んだ"リボン"。それはルークがダミアンへのプレゼントであると言う意味で。
自分の目に見えないところなので、すっかり忘れていたルーク。けれどそれを思い出すと、その頬が赤くなった。
「そのまさか、だね」
そう言ってくすっと笑ったダミアンは、手を伸ばしてルークの髪を結わえたゴムの上から結ばれた細いリボンを解くと、ルークの目の前で振ってみせる。
「わたしが貰っても良いんだよね?」
「…え…?」
ダミアンは再びルークの顎を少し持ち上げると、自ら頬を傾け、その唇に軽く触れた。
ほんの一瞬だけの感触。けれど…それは、甘くて優しい温もりだった。
呆然とするルークに、ダミアンは変わらぬ微笑みを向けた。
「ここで良いよ。屋敷はもう目の前だからね。御前も気をつけて帰るんだよ」
そう言うと、ダミアンは未だに固まったままのルークをそこにおいて、雨の中を傘も差さずに歩き出した。
「有難う、ルーク。今日は良いパーティーだったよ。良いプレゼントも貰ったしね」
じゃあ、御休み。
にっこりと笑ったダミアンをそのまま見送ったルークは、その姿が完全に見えなくなる頃にやっと我に返った。
「…俺がプレゼント貰っちゃったけど…?」
思わず、指先で自分の唇に触れる。
確かに触れた温もりは…何処までの意味を持っていたのだろう。それはわからないけれど…少なくとも、もうただの"養い親"ではない。それだけはわかった。
ほんの少し、その口元が綻ぶ。
それは、ルークにとって、ささやかながら…強い希望となった。
想う気持ちはいつになっても変わらない。
雨夜のプレゼントは、掛け替えのない思い出となった。
PR
COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
カテゴリー
最新記事
(06/23)
(10/08)
(10/08)
(09/30)
(09/10)
(09/10)
(08/06)
(08/06)
(07/09)
(07/09)
アーカイブ
ブログ内検索