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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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雨色の詞
こちらは、以前のHPで2008年09月08日にUPしたものです

拍手[3回]


◇◆◇

 その手は…誰と、繋がっているのか。

「随分ご機嫌だね」
 くすくすと笑う声と共に届いた言葉。
「……そうか?」
 ふと我に返り、笑う声に答える。
「だって、さっきから鼻歌歌ってるし」
 くすくすと笑う声は相変わらず。そして、それが無意識だったのだろう。言われた本人は、気まずそうにやや頬を赤らめた。
「何か、楽しみなことでも?」
 そう問いかけられ、一瞬記憶を辿った。
「…いや?別に、特別なものは…」
 特に、これと言って思い当たる節はなかった。
「そう…」
 その声は、納得したものではなかった。だが、話はそこで途切れ、唐突に変わった。
「そう言えば、今度、デーモンさんがミュージカル出るってね」
 唐突な話題変換にやや眉を潜めたものの、先日聞いた話を思い出す。
「あぁ、そんなようなこと言ってたな…」
 そうつぶやいた声に、敏感な反応が返って来る。
「最近、デーモンさんと会ったの?」
 言葉だけ聞くと、何だか妙な勘繰りをされているようだ…と思いつつも、そこはやんわりと否定した。
「会う訳ないだろうが。電話がかかって来たんだよ。良かったら見に来ないかって誘われたんだが、ライブが立て混んでるからな。当然断った」
 今日だってライブの打ち合わせじゃないか。
 そう言いたげな表情を浮かべて見たものの…目の前の顔は、にんまりと笑っていた。
「…ビンゴ?」
「…あのなぁ…」
 相変わらず笑っている姿。けれど、その表情がふっと変わった。
「でも、どうしてデーモンさんとそんなに仲悪いの?悪いヒトじゃなさそうだけど」
 不意に問いかけられ…一瞬、言葉が見つからなかった。
「何でって言われてもな…本能的に合わないとかかな…?"俺"とは相性悪いんだよ、昔っから」
「何年も一緒にやって来たのに?」
「…まぁ…それとこれとは話が別だしな。本能には抗えない。でも、悪魔捕まえて、悪いヒトじゃない、って言うのもどうかと思うけどな…」
 呆れたように溜め息を一つ。
 確かに、長いこと一緒にはいたはず。まぁ、媒体として…であるから、直接関わって来たと言う訳でもない。だからこそ、の想いでもあったはず。
「多分…初対面の印象が悪かったんだろうな」
 小さくつぶやいた言葉に、小さな笑いが返って来た。
「どうせ、エースさんの方が悪態ついたんでしょう?」
「何を言う…こんなに腰が低くて謙虚なのに?」
「今と昔じゃ違うでしょうよ。相性悪いってのは昔っから聞いてるけどね」
 くすくすと笑う声に、思わず溜め息を吐き出す。
「だったら聞くなよ…」
「聞いてみたいじゃないの。そこから今に至るまで、何があったのか」
「…何にもないよ。何だよ、この浮気の現場抑えたみたいな状況は…」
 ニヤニヤしたままの顔は…どう見てもあらぬ詮索をしている…。
「…言って置くけどな…」
 余計な煩悩を刺激しないように、その詮索を否定しようとしたのだが、間の悪いことにスタッフの声に遮られた。
「…済みません~。本田さん、ちょっと来て貰えますか~?」
「はいよ~」
 にこやかに姿を消した相手に溜め息を吐き出しつつ、改めて今の会話を思い出す。
 自覚していなかった鼻歌の正体が、悪魔だって?それも…自分の本体だった悪魔の恋悪魔。
 それが影響しているのかどうかは知らないが…正直、相性は良くないと自覚している相手だった。どちらかと言えば、極力関わりたくないと思っていたはず。
 その想いは、活動真っ盛りの当時よりは薄れたのかも知れないが…今だって鼻歌が出るほど楽しいと言う訳ではないはず。それは、自分自身が一番良くわかっている。
「…ったく…」
 溜め息をもう一つ吐き出すと、気分転換に…と、煙草に手を伸ばす。
 しかし、それもスタッフの声に遮られた。
「エースさんも御願いします~」
「……もぉ…っ…」
 聞こえないように溜め息を吐き、聞こえないように愚痴を零す。スタッフには何の罪もないのだから、八つ当たりは良くないか…と、気持ちを改める。
「今行くよ」
 のっそりと腰を上げ、呼ばれた方へと向かう。
「あ~、雨降って来ましたね~」
 何処かでそんな声を聞いた。
 その途端に、奇妙な胸騒ぎを感じた。だがそれも一瞬の事。
 現場の忙しさは、小さな変化など簡単に飲み込んでいた。

◇◆◇

 その日は、前日の地方でのライブからの帰りだった。
 もっと早く帰って来るつもりだったのだが、何だかんだですっかり遅くなってしまい、直に日付も変わるかと言う時間に、漸く帰宅した。
 途中で雨が降り出したこともあり、疲れも倍増だった。
 シャワーを浴び、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、間接灯だけの薄暗いリビングのソファーに腰を降ろす。
 静かな部屋の中は、雨の降る音が響いている。
 身体は疲れ切っているのに、神経は昂っている。それがライブの興奮が抜けきらない所為だとわかっているのだが…他にも奇妙な、胸騒ぎにも似た感覚を感じていた。
「…何だかなぁ…」
 溜め息と共に零れた言葉。何に対しての愚痴なのかもわからない。
 缶ビールをテーブルに置き、煙草に火をつけてゆっくりと紫煙を燻らせる。そうして、得体の知れない胸騒ぎを収めていると、不意に携帯電話の呼び出し音が鳴った。
「…誰だ?こんな時間に…」
 日付は当の昔に変わっている。まだ寝る状態ではなかったが、こんな時間の着信は良い気がしない。
 出るのをやめようかと思ったものの、一応相手を確認する。
「…デーモン?」
 その液晶に表示されているのは、確かに見知った悪魔の名前だった。
 これは、出ない訳にはいかないか…。
 小さな溜め息を吐き出し、電話に出る。
「…はい」
『清水か?吾輩だ。悪い、寝てたか?』
「いや。さっき地方から帰って来て、シャワー浴びたところだ」
『そうか。疲れているところに電話して悪かったな』
 悪魔のクセに、 一応そんな気遣いもみせる。実に…変なヤツ。
「別に構わないが…で、何か用か?」
 気遣いされても、どう応えて良いのか、正直良くわからない。多分、その辺りで今までの付き合いの深さが出るのだろうが…。
 自分が媒体となった悪魔の恋悪魔。即ち、自分には全く関係ない相手。否…関係ないどころか、ともすれば嫉妬もしかねない恋敵。それだけ、自分と本体たる悪魔との絆は深かったと自負している。
 だから…と言うには大人気ないのだろうが、苦手なものは苦手なのだ。
 だが、その意識を変えたのは…数年前に、久々に魔界に戻った主たる悪魔との再会。そして、二度目の別れ。
 正直…その時の胸の隙間を埋めてくれたのは、どう言う訳か…自分が苦手としていたこの悪魔だった。
 以前は一切音沙汰なかった相手が、仕事の合間合間にマメに連絡を入れて来るようになった。そして、それを苦だと思わなくなりつつある。多分、それだけで御互いにかなりの進歩だったはず。
 御互いの関係は、相変わらず一線を引いたまま。勿論、多少歩み寄ってはいるが、それ以上の何もない。本体の悪魔の恋悪魔なのだから、何かしようなんてことは、微塵にも思わなかった。
 所詮、自分とは違う世界の相手。その思いは、未だ胸の中にあった。
『…いや…何。雨が降って来たからな…その……』
「雨が降って来たから、何だって言うんだ?」
 いつになく、歯切れの悪い口調。
『…御前が、泣いてるんじゃないかと思って…』
「……は?」
 思いも寄らない、唐突な言葉。思わず口を吐いて出た声も、怪訝さを露にしていた。
「何で、雨が降ると俺が泣くんだよ」
 その発想がわからない。だが……当たらずとも遠からず、だったかも知れないと、ほんの少し思いが過ぎる。
『…昔な…エースが言ってたことがあったんだ。雨の日は…変な胸騒ぎがする、って。勿論、彼奴だって本当に泣いてた訳じゃないぞ。彼奴は炎を司る種族だから、雨とはあまり相性が良くなかったのかも知れない。はっきりとは言わなかったけれどな。だが…心の何処かで、いつもは眠っている不安が蘇るみたいだ。御前にそれが当て嵌まるかどうかはわからないが…媒体だったんだから、もしかしたら、と思ってな』
「…雨が降るのなんか…今に限ったことじゃないだろう?」
『確かにな。だが、今日はどうも…吾輩も、妙な胸騒ぎがしたんだ。だから、こんな時間だがつい、な…。まぁ、何もなければそれで良いんだ。悪かったな』
 そんな言葉を聴きながら、ぼんやりと窓の外に目を向ける。
 特に、何かがある訳じゃない。胸騒ぎだって…いつもは気にしなかっただけで、雨の度にそう思っていたのかも知れない。
 自分ですら、全く気にかけなかったそんな小さな想いを…馬鹿正直に心配して、電話をかけて来るだなんて。
 悪魔って奴は、ホントに理解出来ない。
 ふと、笑いが零れた。
『…清水?』
「あぁ、悪い。何でもない」
 くすくすと笑いを零しながら、そっと目を閉じる。
 自分も…やっぱり、無関係ではいられないのか。そう思ったら、急に可笑しくなった。
 目を閉じたまま、大きく息を吐き出す。
「…なぁ…一つ、良いか?」
『何だ?』
「…歌、歌ってくれない?」
『…は?』
「何でも良いんだ。御前の歌が聞きたくなった」
『………』
 こんな夜中に、突然何を言い出すんだ。
 多分、悪魔の表情はそう言っているだろう。だが、どうしても聞きたかった。
 そんな想いが届いたのか…悪魔は、電話の向こうで大きな溜め息を吐き出した。
『吾輩の歌は高いぞ?』
 冗談交じりの声が聞こえた。
「じゃあ…御前のミュージカル、一回見に行く。それでどうだ?」
 誘われていたことを思い出し、スケジュールを思い出しながらそう答えてみる。
『…まぁ、それでも良いか。何でも良いんだな?』
「あぁ。選曲は任せる」
『…そう、か。じゃあ…………』
 耳元で聞こえたのは、子守唄、だった。
 柔らかいメロディ。優しい歌声。それは、先程までの昂ぶっていた神経を優しく鎮めてくれる。
「…有難う。今夜は良く眠れそうだ」
 一曲終わると、大きく息を吐き出してそう告げる。
『そうか。なら良かった』
 くすっと、小さな笑い声が聞こえた。
「ミュージカル、楽しみにしてるからな」
『忙しいなら、無理しなくても良いぞ?』
「なぁに…心配するな。何とかなるから」
 くすくすと笑いながら、そう答える。
 不思議と、苦手意識が消え、気持ちが穏やかになっていた。
『じゃあ…そろそろ切るな』
 悪魔がそう切り出す。
「あぁ。有難うな。心配してくれて」
 素直に、そう口にした。そんな自分が、何だかくすぐったい気もするが。
『こっちが勝手にかけたんだ。御前に御礼を言われる筋合いでもないだろう。じゃあ、な』
 多分、悪魔も照れているんだろう。軽く挨拶をすると、電話はそのまま切れてしまった。
 残ったのは、未だに降り続ける雨の音。
 知らず、胸騒ぎは消えていた。
 ぼんやりと、雨の打ちつける窓を見つめる。そこには、小さく微笑んでいる自分の姿が映っていた。
「…俺も、御前だった、ってことか」
 そう、小さくつぶやくと、窓に映る自分に向けて、そっと手を伸ばす。
 指先がガラスに触れると、まるでもう一人の自分と手を繋いでいるようにさえ見える。
 途切れることのない絆。全ては、そこから始まっていたのだろう。
 遠く離れていても…多分、何処かで確かに繋がっている。
 それは、確かな想いだった。

◇◆◇

 とても、大切な、大切な絆。
 いつでも、傍にいるから。
 遠く離れていても、繋がっている想い。
 だから。
 その手を、離さずにいよう。
 大切な想いを、なくさない為に。

 雨の音は、子守唄に変わっていた。
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