聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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密契
事の始まりは、少し前のこと。
その日ライブのリハーサルをしていた清水は、リハの間にかかって来た電話に、怪訝な表情をしていた。
「…どうしたの?そんな顔して…」
携帯片手に、眉を潜めてしかめっ面をしている清水に、相棒の本田が声をかける。
「…知らない番号からアホなくらい着信がある…」
「…は?」
「ほら」
そう言って見せられた着信履歴は、到底電話番号と思えない数字の羅列が並んでいる。良くそれが電話だと判別出来ているものだ…と、寧ろ感心せざるを得ない。そしてそれが何件も続いているのだから、不気味でしかない。
「留守電は?」
「何件か入ってるんだけど…電波が悪すぎて、ほぼ雑音。さっぱりわからないんだが…」
「…何だろうね…?ちょっと気持ち悪いね。故障とかじゃないの…?」
眉を潜めた本田がそう零した途端。電話が鳴った。
着信の番号は…先程見た、不気味な番号。
「…出てみる…?」
眉を寄せ、奇妙な表情を浮かべていた清水は、その声に小さく息を吐き出すと、通話ボタンを押した。
「…はい?」
答えた声に返って来たのは、沈黙。そして、雑音交じりの微かな"声"。
それは……。
「…エースさん…大丈夫?」
思わず問いかけた本田の声に、清水はハッとしたように席を立ち、楽屋を飛び出していた。
そして、向かったのはトイレの鏡の前。
電話を片手に、鏡にそっと手を触れると、大きく息を吐き出した。
「…"エース"…なのか…?」
鏡の中の自分に、問いかける。すると、その顔はすっと懐かしの悪魔の顔へと変わった。
『悪かったな。変な呼び出し方をして』
「…ったく、何だよ…普通に呼べば良いものを…」
溜め息を吐き出すと、清水は電話を切った。
『ライブハウスってのは、色んなヤツの思念が妨害になってな、御前に届く前に掻き消されるんだ。電話で呼び出す方が早いと思って』
「だからって、これはないだろう?電話番号にもなっちゃいない。何より、不気味過ぎる」
再び、大きな溜め息を吐き出した清水。けれど、鏡の中のエースは、くすくすと笑っていた。
『たまには良いだろう?目に留まりやすくて』
「…あんな数字の羅列じゃ、何も知らなかったら、修理に出すところだったぞ…?」
『ちゃんと気付いたじゃないか。流石、俺の元相棒』
相変わらず笑っているその姿に、再び溜め息を一つ。
「…元、は余計だろう…これでもまだ、御前の相棒なんだから…」
『そうか。なら話は早い』
「で、用件は?」
問いかけた声に、エースはすっと表情を変えた。
『…実は、ちょっと頼みがあってな…』
「頼み?」
『そう。他の奴等には、内密に…な』
「………」
そう言って、エースの口から語られた言葉。それを、清水は黙って聞いていた。
やがて…小さく頷いた姿。その口元には、小さな笑みが、浮かんでいた。
暫くして楽屋に戻って来た清水の姿に、本田は小さく首を傾げた。
「エースさん…大丈夫?」
「あぁ、御免。"犯人"はわかったから、大丈夫。もう、心配いらないから」
小さく笑ったその姿に、安堵の溜め息が零れる。
けれど…その眼差しの奥に見えた"何か"に、ふとその表情を曇らせる。
それは…十年前の記憶を、呼び起こした。
「…そんな顔するなよ。俺は、何処にも行かないから」
本田の表情で、その不安を感じ取った清水は、小さく笑う。
「…本当に?」
「あぁ、大丈夫。何も心配はいらない。俺は、今まで通りだから」
「…なら良いけど…」
まだ何処か、不安そうな表情を見せる相棒の肩を、そっと叩く。
「さて、リハの続き」
「…了解」
触れたその手から、悪魔の気配は感じない。
それだけで、安堵の溜め息が零れた。
大事な相棒は、ここにいるのだと。
その日、エースの執務室を訪れたルークは、馬鹿に上機嫌だった。
「はい、これ御土産ね」
そう言ってドンッと執務机の上に置かれたのは、エースが好きだった人間界の酒。
「…どうした、急に…」
突然置かれた酒に怪訝そうに眉を潜めたエース。するとルークは、くすっと笑いを零した。
「言ったでしょ?御土産。人間界に行って来たから」
「…あぁ…そうだったな。一悪魔復活ライブの準備だっけ?」
「そんな名称じゃないけどね。まぁ、中身はそんなようなモンだけど。取り敢えず下準備にね」
笑いながら、自らコーヒーを入れてソファーへと腰を下ろす。
「デーさんにも会って来たよ。元気そうで安心した」
「…そうか」
エースも席を立つと、コーヒーを入れ、再び自分の椅子へと腰を下ろす。
「篁から聞いたんだけどさ…」
エースの様子を眺めながら、ルークはそう口を開いた。
「デーさん、清水と随分仲良くなったみたいよ?三十周年の再結成が終わった後も、打ち上げ中に清水と電話してたって。ラブラブだって、湯沢が叫んでたみたいだし」
「…叫ぶって何だよ…」
呆れたような溜め息を吐き出しつつ、エースはコーヒーのカップに口を付ける。
「清水から話は聞いてるから。別に、彼奴に恋愛感情はないって」
「それは清水からの話でしょ?どんな脚色してるかなんてわかんないじゃん」
「それを言ったら、湯沢の話だってそうだろう?別に、彼奴が一部始終聞いてた訳じゃあるまいし。打ち上げ中ってことは、酔っ払ってるだろうが、彼奴も」
「まぁね。誰の話が本当かはわからないけど…でも、仲良くしてるのは間違いないよ?って言うか、あれ以来、清水と連絡取ってるの?」
確か、篁が清水に発破をかけたのは三十周年の再結成の準備中だったはず。それから二年以上経っているが、今度はまめに連絡を取っていたようだ。その方が、ルークには驚きだったのだが。
「…時々な。俺も彼奴も忙しいから、頻繁には無理だが…ほら、最近石川や大橋と一緒にやることも増えたみたいでな、連絡しろってしつこいらしい」
「成程ね。そう言う事」
くすっと笑いを零したルーク。
二十周年の再結成の後、殆ど媒体仲間との接触のなかった清水だったが、ふとしたきっかけで石川や大橋と一緒に仕事をすることが増え、それがどうやら多少なりとも良い方向に向いたらしい。
「だったら、デーさんにも連絡してあげれば良いのに。寂しがってるよ?」
「…それは…また別問題」
小さな溜め息を吐き出したエース。
別に、好きで恋悪魔と疎遠になっている訳じゃない。それは誰もがわかっているのだが、今まで再結成が終わった後の姿を直接見ていなかったが故に、その弱りようは聞いて察するくらいしか出来なかった。
けれど今回、ルークが所要で人間界に行ってみて、初めてわかったのだ。
何でもないように振舞ってはいるが、その心の奥は寂しい想いをしていると言うこと。そしてどうやら特定の相手にのみ、本心を打ち明けているらしい。それが、どう言う訳か一番相性が悪かったはずの清水なのだと。
それを、エースが何処まで知っているのか。それを、自分が打ち明けて良いものかどうか。ルークの悩みどころなのである。
迷った末に、ゆっくり問いかける。
「ねぇ…デーさんに、会いに行かない?」
「…何言ってんだよ、御前は…」
「だって…」
小さく溜め息を吐き出したのは、ルークの方。
「…何をそんなに心配してるんだよ…」
浮かない表情のルークに、エースは怪訝そうに眉を潜める。
「…そのうち…デーさん、盗られちゃうよ…?」
「盗られるって…」
「だってそうでしょ?あんたが離れてる間に、デーさんと清水はどんどん距離を縮めてるんだよ?清水にその気がないって言ったって、それは今だけかも知れないじゃん。デーさんだって、遠くにいるあんたより、もしかしたら…近くにいる清水の方が…」
「…ばーか」
大きな溜め息を一つ吐き出したエース。
「そんなこと、御前が心配する必要はないだろう?そんな顔するなよ…」
「だってさぁ…」
「大丈夫だよ、彼奴等は」
「…エース…」
心配そうな表情を浮かべるルークの前、エースは小さく笑いを零した。
「そうやって心配してくれる気持ちは嬉しい。だけど、俺はデーモンも清水も信じてるから」
その気持ちは…昔から変わらない。
「そりゃあ…十年経てば、関係性が変わって来ることだってあるだろう。それは、俺だって重々承知だ。この十年を放棄した分は…それなりに考えているから」
「…考えてるって…何を…?」
「…秘密」
「ちょっと、エース…」
くすっと、エースが笑った。その琥珀色の瞳の奥には、不安など何処にも見えなかった。
「…ま、あんたがそう言うなら、信じましょ」
小さな溜め息を吐き出し、ルークも小さく笑った。
まぁ、この様子なら…多分、大丈夫だろう、と。
その年は、梅雨入りしたとは言え、まだ雨は少なかった。
ぼんやりと視線を向けた窓の外は、鈍色の空。それでも、雨は降らなかった。
「…雨が降らないと、きっかけがないよな…」
窓辺に頬杖を付き、そんな言葉と共に吐息を吐き出す。
雨さえ降れば、堂々と電話が出来るのに。
そんな子供染みた発想に、自分で思わず苦笑する。
用事があれば堂々と電話すれば良いのだ。けれど、用事も何もない。一方的に押し付ける想いでは、直ぐに拒否られてしまうのは目に見えていた。
"彼"に、執着する理由は、一つしかない。
愛しい、恋悪魔の媒体。聞こえる声は同じだから。
「…病んでる場合じゃないんだけどな…」
溜め息が一つ。
正直、まだそこまで病んでいる訳じゃない。二ヶ月ほど前に、恋悪魔の媒体と会って話をした。そこで、一旦気持ちがリセットされているから、もう暫くは保つことは出来る。
ただ…その間隔が、年々短くなっているような気がする。
恋悪魔の顔を最後に見てから、もう十年。その十年の間に、媒体との距離は少しずつ縮まっている。それが尚更、心に重くのしかかっているのだ。
別に、疚しいことをしている訳じゃない。時々電話して声を聞くくらい。顔を合わせたのは、ついこの間久し振りに会ったぐらい。でも、十年会っていない恋悪魔に比べたら、頻繁に接触があると言っても間違いではないのだ。
まるで…恋悪魔を、裏切っているような気がする。
ついつい、溜め息が零れる。
「…エース…」
零れた言葉に、切なくなる。
窓辺に付いた腕に顔を埋め、大きな溜め息を吐き出す。
そう言えば、先日一時帰還したルークに随分心配されたような覚えがある。
多分…こんな姿を、何処かで見られていたのかも知れない。
酷く…心が、疼く。
再び、大きな溜め息が零れた。
と、その時。電話が鳴った。
そこに表示された名前を見て、一瞬息を飲む。
それは、今電話をかけるのを躊躇っていた、恋悪魔の媒体。
「…もしもし?」
突然何だろう…と思いつつ、通話ボタンを押して声をかける。
『…デーモン?』
その声に…きゅっと、胸の奥が締め付けられるような気がして…途端に、上手く言葉が出せなかった。
まさか。
『…聞こえてるか?』
再び聞こえた声に、胸が高鳴る。
「…エース…なのか…?」
小さく問いかけた声に、笑いが返って来る。
『声は同じなのに、良くわかったな。流石』
「…どうしてだ?どうして、急に…」
『まぁ…色々な。清水に協力して貰ったんだ。携帯の電波利用させて貰って、声だけだけどな』
「じゃあ、こっちには来てないのか?」
『あぁ。顔見たら…恋しくなるだろう?』
くすくすと、笑う声。その声に、思わず大きく息を吐き出した。
『…デーモン?どうした…?』
ふと、その声が心配そうな色に変わる。
「…大丈夫…ちょっと、びっくりしたんだ。急に御前から連絡が来たから…」
相手を安心させるように、そう言葉を返す。けれど、その胸の内は…それだけの想いではなかった。
懐かしくて…甘く、自分を呼ぶ声に…胸が一杯で。
「何があったんだ?今まで連絡して来なかったクセに…」
気持ちを宥めながらそう問いかけた声に、再び小さな笑い声が聞こえた。
『俺にだって、色々とな…思うところがある訳だ』
「…思うところ?」
『あぁ。三十周年の再結成の前から…清水とはぼちぼち連絡を取っててな。全部ではないだろうが…御前の話も聞いてる。御前の心が…かなり弱ってるみたいだ、ってな。心配してたぞ?ルークも、同じこと言ってたから…ちょっと、気になってな』
「………」
思わず、小さな溜め息を零す。
心配をかけまいと、連絡をしなかったはずなのに…いつの間にか知られていた。そして何より…一番知られたくないことを、知られていた。
自分で言い出したことで…自分が一番、弱っているだなんて。
「…清水に聞いてるんだったら、わかってるよな…」
思わず、口をついて出た言葉。それは、もう留めることの出来ない感情だった。
「…そうだ…御前が足りないんだ…この十年…ずっと我慢して来た。だが…ずっと、頭の中から最後に見た御前の背中が消えないんだ。御前だけが足りない!何でだ…っ!どうして、いつも御前だけ足りないんだよ…っ!誰よりも…傍にいたいのに…何でいつも来てくれないんだ…っ!!」
『…デーモン…』
必死に堪えていた十年分の想いは、あっさりと決壊して溢れ出る。最早その状態では、気持ちを宥めることも出来なかった。
はらはらと零れる涙を拭いもせず、電話を握りしめたまま、そこに感情をぶつける。
「…この惑星の最期を見届けるまで帰らないと言ったのは、確かに吾輩だ。御前に会ってしまったら、心が揺らぐからと言ったのも吾輩だ。わかってる、全部自分で撒いた種だ。だから、十年我慢したんだ!なのに、どうして今になって、急に優しくするんだ…どうして電話なんか…っ!」
涙声で捲し立てるだけ捲し立て、言葉に詰まる。
「…エースのバカヤロー…」
嗚咽を漏らし、泣き続ける声を聞きながら…電話の向こうでも大きな溜め息を吐き出していた。
そして。
『…待ってろ』
一言そう言うと、電話は切れた。
「…エース…」
突如切れた電話に、相手の真意がわからず、涙も止まらない。
ずっと我慢して来たのに…どうしてこうなってしまったのだろうか。
心配をかけないようにして来たはずなのに…思いがけない声に血迷った挙げ句暴言を吐き、電話を切られてしまった。その事にショックを受けている自分が、酷く無様で…酷く不器用で…情けなくて。
珍しく号泣している自分を、何処かで冷静に見ている自分がいる。それもまた、厄介で仕方がなかった。
どのくらい泣き続けていたのかはわからない。けれど、不意に感じた気配に、ハッとしたように顔をあげると…目の前の空間が歪んでいた。そしてそこに穴が開き、そこから顔を見せたのは…さっき、電話を切った恋悪魔。
「…エース…何で…」
思わずつぶやいた声に、くすっと小さな笑いが零れた。そして、差し出された手。
「…悪いな。どうしても清水のカラダは借りられないから…強引に、御前を迎えに来たんだ。どうせなら実体がある方が良いだろう…?」
笑う顔が…涙で歪む。
「ほら」
促され、躊躇いがちにそっと手を差し出すとその手を捕まれ、ぐいっと魔界へ引きずり込まれる。その勢いで二名とも床へと尻餅をついた。
だが、そのままきつく抱き締められ、耳許で囁かれた言葉。
「…御免な…泣かせるつもりはなかったんだ…」
「…エース…」
すがり付くように背中に回した手。その温もりが実体であることを確かめるように、その胸に顔を埋め、まるで子供のように泣き続けていた。
宥める様にその背中を擦りながら、恋悪魔は…エースは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「…この十年…俺も色々考えたよ。清水がどうのと、彼奴を利用して、再結成をはぐらかして来たけど…結局は、俺自身が弱かったんだ」
そう言いながら、溜め息が零れる。
「最初の再結成の時は、そこまで深く考えてはいなかったのかも知れない。でも、あの時俺がしたことは、清水に負担をかけて、苦しめたことだけだったんじゃないかと思った。俺は、彼奴の邪魔はしないと決めていたのにな。再結成の後、罪悪感で一杯になったのも確かだった。それに、御前のことも…待ってるからって約束したクセに…その約束すら、守れなくなりそうだった。次に御前に会ってしまったら、有無を言わさず魔界へ連れて帰ってしまいそうだったから。だから…色々言い訳して、二回も再結成を見送った。結局それが、御前を苦しめていたんだな…反省してるよ」
黙って顔を埋めたままの恋悪魔の背中を擦りながら、小さな溜め息を吐き出す。
どんなに言い訳をしても、過ぎた時間は戻らない。
それでも、気持ちを伝えなければ。
これ以上の後悔を、しない為に。
「でもやっぱり…俺はもう、人間界には…御前と同じステージには帰れないと思う。幾ら、清水の許可が出ても…それはあくまでも妥協であって、快諾じゃないんだ。その想いをわかっていながら、見て見ぬ振りをしてステージに立つことは、もう出来ない。清水のことも、御前のことも…どちらも大事だったから、離れていたつもりだったのにな。それが結局、御前を傷つけていただけだったな。御免な、デーモン」
そうつぶやいて、その髪にそっと口付けた。
「…わかってる…頭では、ちゃんと、わかっているんだ…」
漸く涙の収まったデーモンは、袖口で頬の涙を拭うと、やっと顔をあげた。
涙で潤んだ金色の眼差し。その眼差しが、真っ直ぐにエースを見つめていた。
「…取り乱して悪かった。清水のことは、重々承知している。彼奴にも散々、もしもはない、と言われているからな。だが…御前に対する想いは、ずっと胸の中に燻っていたんだ。今がどんなに満たされたとしても、御前一名足りないだけで、心にぽっかりと大きな穴が開いてしまう。それが年々酷くなって…三十周年が終わった時、つい清水に零してしまった。今までは、吾輩が彼奴にエースの名を呼ぶことを拒んでいたんだが、その時だけは許してくれた。それだけ…弱っていたんだと、彼奴に言われて初めて気が付いた。自分ではそう思っていなくても、周りの方が心配するって言うことは…やっぱり、酷いんだろうと…改めて思っていたんだ」
その言葉を聞き、その顔を見て…エースは、大きく息を吐き出すとふっとその表情を和らげた。
「まぁ…今までのことをどうこう言ったところで、時間は戻らないしな。清水が妥協するまで御前が弱っているのを、俺も知っていたんだから…もっと早く、こうしていれば良かったんだな」
「エース…」
「もう…御前に、そんな顔させないから。会いたくなったら、いつでもこうして会えば良い。御前の為なら、こうして会いに来るから。だから…もう、泣くなよ」
そう言って小さく笑うと、エースは再びデーモンを抱き寄せた。
「同じ場所に立てなくても…俺は、御前の傍にいるから」
それが、今のエースに出来る、精一杯のこと。
エースの胸に顔を埋めたデーモンも、それが精一杯の思いだと言うことはわかっていた。
「…悪かったな、心配かけて……有難うな」
その温もりは、何よりの現実。十年間待ち続けた…愛しい、恋悪魔。
「清水には…ちゃんと話してある。だから、変に遠慮しないで連絡しろ。そうしたら、俺に繋がるようにしてくれるから」
「…あぁ。有難う…でも、もうそんなに心配しなくて良いから…」
「…デーモン…?」
その意味深な言葉に、デーモンの顔を覗き込んだエース。その視線を受け、ゆっくりと顔をあげたデーモン。その眼差しは、悲観の色はない。
「御前に会いたくなったら、直接御前に連絡するから。あんまり清水を頼ると…彼奴が吾輩に嫉妬するだろう?吾輩がエースを独占してる、ってな」
「…そう、か」
くすっと、笑いが零れた。それは、双方から。
「そう言えば、ルークが変な心配してたぞ?御前と清水がどうにかなるんじゃないかって」
そんなことはないだろうと思いつつ…ほんの少しだけ様子を伺うように口を開いたエースに、デーモンは笑いを零す。
「そんなことないのにな。昔からずっと、清水には一線を引かれているんだ。それは今だって変わらない。電話では多少柔らかくはなったが、顔を合わせた日にゃ、未だに嫌味を言われるんだから」
「…学生の時分から三十年以上経つのに、未だにそれはどうかとも思うけどな…」
「いや、それで良いんだ。それぐらいの距離感が、多分我々には丁度良いんだ」
まぁ、デーモンがそれで納得しているのであれば…エースがこれ以上、二名を近づけようとする必要もないのだろう。
昔のように一方的に嫌うのではなく、丁度良い距離感で付き合っている仲間である、と言うことならば。
「…まぁ…俺は、信じているしな。御前も、清水も」
その言葉に、デーモンは小さく笑った。
「…じゃあ…改めて…」
にっこりと笑ったデーモンは、エースの腕に抱かれたまま、その顔を見つめた。
「…会いたかった。ずっと…会いたかった」
「…俺も、だ」
にっこりと微笑み、エースはその頬を寄せる。そして、重ねられた唇。
それは、十年の、想いを込めて。
梅雨も終わり、夏の日差しが本格的な暑さを運んで来た頃。
携帯にかかって来た、一本の電話。
「…もしもし?」
表示されている番号と名前で、電話の相手はわかっていた。
『あぁ、吾輩だ。今、時間あるか?』
「あぁ、大丈夫だが…エースに繋ぐんだろう?ちょっと待ってろ」
そう言いかけた声を遮ったのは、相手の言葉。
『いや、御前にかけたんだ』
「…デーモン?」
今日は、雨も降っていない。寧ろ、良い天気である。そんな時に電話をかけて来る理由など、思いつかなかった。
『この間は悪かったな。礼を言うのが遅くなってしまったが…有難うな』
「…いや…俺は、たいしたことはしてないけど…」
『エースと約束してたんだろう?吾輩が電話をかけたら、彼奴に繋ぐ、って』
「まぁ……エースの頼みだし、な…」
そのクセに、今はエースと話をしたいんじゃないのか…?
そう思いつつ、その怪訝な気持ちはどうやら相手にも伝わっていたようだ。
『もう、大丈夫だから。エースには…吾輩がちゃんと自分で連絡を入れるから。御前は余計な心配はしなくても良いからな』
「…何で?」
それを、思わず問い返したのは…自分でも、どうしてなのか良くわからなかった。けれど、電話越しの相手が…馬鹿に、上機嫌なものだから。
あっさりと…切り捨てられたのだろうか?と、ふとその脳裏を過ぎった。
『御前だって忙しいんだ。吾輩の都合ばっかりで、そんなに迷惑はかけられないだろう?それに…吾輩も、約束したんだ。十年前に…御前の相棒に、な。御前の居場所を、ちゃんと護るって。頻繁に連絡して、それを破る訳にはいかないから』
「…デーモン…」
ふと、不安そうに自分を見つめた相棒の眼差しを思い出した。
「…そう、か。まぁ…それなら良いけど…」
『あぁ、でも雨の日には、ちゃんと子守唄歌ってやるからな?』
「…ばーか」
一応、気を使ってくれているのだろう。思わず笑いが零れた。
『吾輩は…御前との、今の距離感が好きなんだ。だから、子守唄は…吾輩の身勝手だが、もう少し付き合ってくれよな?』
「…あぁ、わかった。しょうがないから聞いてやるよ」
くすくすと笑いながら、そう返事を返す。当然、相手も笑っている。
何があったのかは…深くは聞かない。彼もまた、それ以上に踏み込むつもりはなかったから。
今のままで、丁度良い。それは、彼にもまた言えることだったのかも知れない。
『今日は、それだけだ。相棒に宜しくな』
「あぁ。わかった。じゃあな」
そう言って電話を切る。
まぁ…これで、大丈夫だろう。
そんな思いに、自然と笑いが零れていた。
こちらは、人間界にやって来ていたルーク。
デーモンのことを心配してはいるものの、自身の仕事が忙しくてなかなか連絡を取れずにいた。
と、そんなことを気に病んでいる時。まさに、その相手からの連絡が入った。
『ルークか?』
その電話の声に、彼は小さく笑う。
「良くお分かりで」
『わからん訳ないだろう?』
くすくすと笑うその声は、とても上機嫌で。つい先日までの、不安定さなど微塵も感じさせなかった。
「どうしたの?随分、元気そうだけど…」
思わずそう問いかけると、相手は笑い声を一つ。
『あぁ。色々心配かけたみたいだけれどな、もう心配しなくて良いから』
「…どう言う事?まさか、エースと会ったの…?」
『まぁ…な』
「へぇ…凄い進歩。どっちから連絡取ったの?」
思いがけない返事に、彼の方が興奮していたりする。
『エースの方からだけどな。御前も清水も、随分心配しているって気にしてたみたいだ』
「そうなんだ。まぁ、この間魔界で会った時にも、確かに…何か企んでる感はあったけどね。そっか。エースがねぇ…」
くすくすと笑いながら、あの時の顔を思い出す。
「良かったじゃない」
『悪かったな、心配かけて』
「清水さんも心配してたよ?」
『あぁ、ちゃんと謝ったから大丈夫』
その辺りは抜かりない。流石と言えば流石だと、彼も笑っていた。
「ま、元気になったみたいで良かった」
『あぁ有難うな。心配してくれて』
「当たり前じゃないの。俺は、あんたの笑顔を見る為に、地球任務に参加したんだから」
笑いながらそう言う声に、相手も笑っていた。
以前と何も変わらないそんなやりとりが、何よりも倖せであると言わんばかりに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※リクエスト内容は「もしできましたら、この間の聖飢魔Ⅱ30周年ミサについての、長官の思いを書いてくださるとうれしいです」
と言うことでしたので、こんな感じになりました…。(^^;
解散後からの流れが諸々ずっと繋がっています…(苦笑)
ルークちゃんがソロツアーやっていたので、ぶっこんでしまいました…。 御気に召すと良いのですが。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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お忙しい中、とても素敵な小説を書いてくださり、ありがとうございます。
私も再結成の度に「長官が足りない・・」といつも思っております。大変図々しいのですが、長官から答えをいただいたような気がして、嬉しく思いながら読ませていただきました。
これからの小説も楽しみにしております。
10月になったといはいえ、気候が安定しておりませんので、藍砂様はじめご家族の皆さま、どうかご自愛くださいませ。
喜んでいただけたようで良かったです。(^^)
ftaのライブに行くたびに、本当に楽しそうな姿に、やりたいことが出来て満足なんだろうな~と思いつつ。やっぱりA宗ですので、悪魔の姿ももう一度見たいな~と思いますね。(苦笑)
自分で書きつつ、いつかそんな日がもう一度来ると良いな~と思いながらも、諦め半分です。(^^;
楽しそうなエースを見るのが一番楽しいですから…(笑)