聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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風の記憶
アナタに、一輪の花を。
この、想いを込めて。
久々に訪れて来た王都。枢密院の前でその建物を見上げ、大きな溜め息を吐き出す。
呼び出された理由は一つ。
辞令が、下りたから。
「ジェイル、久し振りだね」
皇太子の執務室を訪れた彼は、にっこりと微笑む皇太子に向け、頭を下げる。
「御無沙汰しております」
変わらずに微笑むその姿に、顔を上げた彼は目を細める。
王都に懐かしさはある。けれど…自分の居場所は、ここではない。
その想いは…今でも、その胸の奥底にあった。
その足で情報局長官の執務室へとやって来た彼は、ソファーに腰を下ろして今さっき受け取ったばかりの辞令をまじまじと眺めていた。
《魔界帝国治安判事に任命する》
それが、今回彼が受けた辞令だった。
「…拷問官の俺に、裁判官の辞令が下りるとはね~」
改めてそう零した言葉に、御茶を入れたカップをテーブルの上に置いた情報局長官…エースは、苦笑しながら彼の前へと座る。
「はっきり言って、今更だろう?その気になれば、もっと前に昇格出来ていたはずなのに、間近になると直ぐに何処かへ姿を消したのは何処の誰だよ。だからダミアン様もなかなか辞令を出せなかったんだろう?」
「縛られてるのは好きじゃないからね」
溜め息を吐き出しつつ、手に持っていた辞令をしまう。そして、御茶のカップへと手を伸ばした。
「今度は王都も近くなっただろう?たまには会いに来いよ」
そう言ったエースの声に、今度は彼が苦笑する。
「居心地悪いんだもん。こっちはみんな御堅いからね」
「何を馬鹿なことを」
闇雲に逃げ出した訳ではない。ただ…何となく、そこにじっとしていることが出来なくて。
自分の居場所は…王都ではない。ずっと、そんな気がしていて。
「じゃあ、どうして今になって、辞令を受けたんだよ」
不思議そうに問いかけるエースに、彼は吐息を吐き出す。
「あんたの、為」
「…は?」
「あんたの為、だよ」
「…どう言う事だよ…」
二度、同じことを言った。その意味を問いかけると、ソファーに背を凭れて深く座る。
「人間界で、あんたの穴埋めをする為、だよ」
「…ジェイル…」
困ったように眉を寄せたエースに、ジェイルはくすっと笑いを零した。
「流石にね、あんたが参加しないとなると…言いだしっぺの俺に出番が回って来る訳だよ。その時に、いつまでも俺だけ下っ端じゃ、みっともないかなと思ってね。良い機会だから、辞令でも受けてみようかと思ってさ」
「…俺のことは気にしなくても良いのに…」
溜め息を吐き出したのはエース。けれど、その困ったような顔を、彼は笑った。
「いつか、あんたが帰って来る場所をね、取っておいてあげようってことよ。でも別に、恩着せがましく待ってる訳じゃないから。俺も、あのヒトたちに恩返ししなきゃいけないしね。タイミング的に丁度良かった。それだけのこと」
「…ったく…」
何処までも、身勝手で…何処までも自由で。それでも憎めないのは、昔からの仲魔だから。
そして…彼の性格を、良く知っているから。
「色々ね…考えてはいたんだ。一度は追放されたとは言え、それでももう一度受け入れてくれた魔界にも、勿論恩がある。受け入れてくれたあんたたちにも勿論恩がある。だから、って訳じゃないけど…良いオトナになったってことで、もう一度良く考えてみようと思った訳……なぁんてね」
その言葉の何処までが本心なのか。エースには、それも良くわからない。
それが彼の魅力だと言えば聞こえが良いが、掴みどころがないと言えばそれまで。尤もそれは、彼の天性のモノなのでどうしようもないのだが。
「…まぁ、王都は御前を縛り付ける為の場所じゃないから。恩返しの気持ちは良くわかったが、無理するなよ。あんまりそれに拘ると、また何処かに行きたくなるぞ?まだ…御前の傍にいるんだろう…?」
問いかけた声に、くすっと笑う声。
「いるよ?相変わらず、彼女への当たりが強いね。あんなに穏やかなのに」
「御前の前では、だろう?惚れた相手以外には見向きもしないからな」
「根は素直で可愛いんだけどな~」
笑いながら答えたその言葉の指す意味は、敢えて問わなくてもわかっている。
それは、彼の伴侶とも言える相手。尤も…相手は悪魔ではない。
昔から彼を捉えて離さないのは、風の民。気分屋で、自由を好み、束縛を嫌う。その性格も波長も、彼と丁度噛み合ったのだろう。
彼の故郷は強風地帯として有名なRich Bridge。風を司る種族でもある彼とは、必然的に相性も良い。だからこそ、魅入られたのかも知れない。
けれど、炎を司る種族でもあるエースにしてみれば、風の民は煽るだけ煽っておきながら後は自己責任ね、と突き放されるようで、余り相性は良くない相手。ついつい、溜め息が零れる。
「まぁ…御前の相手だからな。御前が良ければそれで良いだろう?別に否定している訳じゃないんだから、俺のことは気にするな。ただ、俺とは相性が悪い、ってだけの話だから」
「そうね。風と炎じゃ、大炎上だしね」
相変わらず、くすくすと笑う姿は…捕らえどころがない。
風の民に愛された者の宿命。今更ながらに、その運命を実感させられる。
共にいると、誓った相手。だからこそ、彼自身も王都にずっと留まることが難しい。
また不意に何処かへ行ってしまわないか。それだけが、仲魔の心に常に引っかかっている心配事だった。
ずっと昔のこと。
それはまだ、彼が士官学校にいた頃。研修中に出会ったのは、風の民。
「御前も風の種族だよな?だったら、御前になら何か話してくれるかもな」
そう言われて引き合わされたのは…傷を負った"彼女"。だが、保護されてから一ヶ月程経っているとのことだったが、未だに口を開かない。誰とも、話をしない。当然、名前もわからない。
とある事件に巻き込まれた為事情を聞かなければならないのだが、口を開かないのでそれもままならない。かなり手を焼いていたようだった。
「…えっと…俺はジェイル。まだ研修生なんだけど…」
様子を伺いながら、そう話しかけてみる。
「風の民、だって?俺も風を司る種族で…」
そう切り出すと、その視線がふっと彼の方を向いた。
ブルーグリーンの眼差し。銀色の長い髪。その顔に紋様はなく、薄い肌の色に薄いピンク色の唇。まだ幼い見た目だが、その眼差しだけは真っ直ぐに彼を見つめていた。
つい、にっこりと笑いかける。だが、その表情は変わらず、口を結んだまま。
「…えっと……」
流石に彼もどうしたら良いかと考え始める。だが、その直後。
「……帰りたいの」
小さな声。
「…え?」
思わず問い返した声に、その視線がふっと下を向いた。そして再び、閉ざされた唇。
それっきり…彼女の声は、聞けなかった。
それから数日間、彼女の元を訪ねては行くものの、一向に口を開かない。それどころか、あれっきり目も合わない。
結局、彼も他の局員と同じ。誰もがそう思っていた。
だが彼は、その状況をそのまま納得して受け入れることは出来なかった。
たった一言聞いた、彼女の言葉。その意味を考えると、保護されたとは言え、事情を問われる為にじっとしていること自体が苦痛なのだろうと。
そして彼は、行動に出た。
半日休みを貰い、その後登庁して彼女へ会いに行く。
いつもと変わらず、顔を上げず、口も開かない。そんな彼女に歩み寄った彼は、持って来たもの彼女の視線が向いたところへとそっと差し出す。
「これ、あげる」
彼の声に、小さく息を飲んだ。そして、ゆっくりと上げられたその指が、それを掴んだ。
それは、一輪の花。恐らく…彼女の、生まれ故郷の。
「…風の匂いがする…」
小さな声。その声に、彼がくすっと笑う。
「好きでしょう?俺も好き。この風の匂い、良いよね。取って来たばかりだから、まだしっかりと香るでしょ?」
ふと、その視線が彼へと向いた。
ブルーグリーンの眼差し。その奥に見えたのは、帰郷の念。
それを感じ取っていた彼は、わざわざ休みを取って、彼女の故郷と思われる場所へ行ってその花を摘んで来たのだ。
たった一輪の、その花を。彼女の為に。
「帰ろう。俺が、ちゃんと連れて行ってあげる。だから…話、聞かせて?そしたら、帰れるから」
微笑んでそう言った彼の言葉に、小さな頷きが返って来る。
ゆっくりと開いた唇は、その現実を語り始めた。
それから数日後。約束通り解放された彼女を連れて、彼は彼女の故郷へと向かった。
風が吹き荒れる場所。それでも、その匂いは彼と、彼女の心に懐かしい記憶を呼び起こした。
生まれ故郷の匂い。そこに、共に戻って来ることが出来た。それは、ある種の共存意識だったのかも知れない。
自然と、握られた手。それは、御互いに惹かれていたのだと言う想いを繋いでいた。
「一緒に…いてくれる?」
----君が…好きだから。
紡いだ言葉は、風と共に舞い上がる。
綻んだピンク色の唇。そっと触れたのは、赤。
これから先、何処まで一緒にいられるかはわからない。けれど、そのキスは、まるで共に歩く未来を繋いだ誓いのようだった。
彼が辞令を受けた翌日。
登庁して来た彼が見たものは、執務机の上に置かれた一輪の花。
花を手に取り、目線の高さへと掲げる。
懐かしい匂いが、そこにある。
それは、彼が好きな…風の匂い。
「……ウィロメナ?」
思わず零した言葉。そして、その口元に浮かんだ笑み。
彼の昇格の祝いに、彼の一番好きな花を。多分、そんなところだろうか。
「あんたの彼女から?」
彼の背後からその手元を覗き込んだのは、仲魔たるルーク。ルークもまた、彼の昇格を祝って押しかけて来たのだ。
「名前、何だっけ?」
滅多に相手の名前を呼ばない彼。だから、ルークでもなかなか覚えられない。
ただそこには、秘められた想いがある。
風の民は、彼以外には滅多に姿を見せない。だからこそ、大っぴらにはせず、ひっそりと育みたい想いがあるのだ。
問いかけたルークの言葉を背中に、彼はグラスに水を入れ、机の上にあった一輪の花を挿す。
「俺のコイビトはハーちゃんよ?」
人間界での媒体の愛猫の名前を口にすると、ルークも笑いを零した。
「そりゃそうか」
深入りされたくないのなら、そっとしておこう。そんなルークの想いは、彼にもちゃんと伝わっている。
にっこりと笑った彼。満面の笑みは、実に穏やかだった。
一輪の花は、御互いに伝えたい想い。
この花を、この想いを、大事なアナタに。
だから、何処までも共に行こう。
それが、風が繋いだ想いだった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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