忍者ブログ

聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Anniversary
こちらは、以前のHPで2000年01月05日にUPしたものです
デーさんの発生日記念に…(苦笑)

拍手[3回]


◇◆◇

 甘い、香り。
 それは…酷く、心を惑わす。

 時計は、真夜中の一時を指していた。
「…エース、いつまでシャワー浴びてるつもり?」
 出かけていたエースが帰って来て、直ぐにバスルームに籠ってから、既に一時間近くが経っているはずだった。
 バスルームの曇り硝子はエースの影を映し、シャワーの音も絶えず聞こえているのだから確かにいるはずである。しかし、当のエースは呼びかけに答える訳でもなく…ただじっとシャワーを浴び続けているのは、尋常ではない。
「ちょっと、エース?」
 僅かにドアを開け、中を覗き見たのはゼノン。
「…あ?」
 開けられたドアの音で気が付いたのか、はたまたその気配で気が付いたのか…向こうを向いていたエースは、僅かに頭を巡らせる。
「さっきからずっと呼んでたんだけど…」
「あぁ、悪い。ちょっと、考え事してたからな。気付かなかった」
 そう答えたエースは再び向こうを向いてしまったが、その頭に降り注ぐシャワーは、どう見ても湯気が立っていない。その上一時間も籠っている割に、バスルームには湯気が立ち込めているどころか、空気は妙にひんやりとしている。
「…それ…もしかして、水?」
 再び問いかけたゼノンの声に、エースはシャワーを止めて脱衣所へと向かって来た。
「一応、御湯。限りなく水に近いけどな」
「風邪ひくよ?夏じゃないんだから。それから……シャワーは、"服を脱いでから"、浴びるものだからね」
「……あぁ…そうだな…」
 何処か、上の空のエースの返答。その姿に、ゼノンは溜め息を吐き出す。
 そう。エースは、服を着たままシャワーを浴びていた訳で…着ていたシャツもズボンも、当然ずぶ濡れで。
「…全く…しっかりしてよ」
 呆れた表情でエースにバスタオルを渡したゼノン。
 まさか、この時期に、限りなく水に近いシャワーを浴びて…それも、服を着たまま。酔っている訳でもなさそうだが、心ここにあらず…。そんな状態を目の当たりにして、溜め息が出ないはずはない。
「何か、あったの?」
 まぁ…正常な返事は返って来ないだろうとは思いつつ、取り敢えずそう尋ねてみる。
「何か、ねぇ……あぁ、特にないな」
 濡れた服を脱ぎつつ、そう、返して来た。やはり、この状態でエースの本心を聞き出すのは至難の技である。だから、エースのその答えは当然である。
「冷たくない?」
「平気。これでも炎を司る種族だからな」
 くすくすと笑いながら、脱いだシャツをバスルームで絞ってから洗濯籠へと放り込む。そして。
「…で?御前は、俺が全裸になるのを待ってる訳…?」
 確かに。このままここにいれば、確かにエースの全裸を待っているようにしか思えない訳で…。流石のゼノンも、そこまで無粋ではない。
「…御邪魔様」
 溜め息を吐きつつ、ゼノンは脱衣所を出て行った。その背中をエースは小さな笑いと共に見送る。そして、一言。
「その気があるなら相手するぞ?」
「遠慮するよ。デーモンに殺されるしね」
「俺はライデンに…か?」
 笑い声を背中に、ゼノンは脱衣所のドアを閉める。そして、頭を横に振りながら、大きな溜め息を吐き出していた。

 リビングに移動してビールを一杯。いかにも風呂上がりの定番をやって退けるエースを、向かいのソファーに座ったゼノンは、同じようにビールのグラスを手に、ぼんやりと眺めていた。
「…んだよ。俺の顔に、何か付いてるか?」
 ビールの入ったグラスを片手に、エースは眉を潜めてゼノンの視線に答える。
「別に」
 今度は、ゼノンがそう答える。
 ここ数日エースは同じ時間に出かけて、同じ時間に帰って来る。流石に何をして来るのかまでは追求はしないが、まぁ何処かで気晴らしをしているのだろう。そして、同じように冷たいシャワーを浴びて、同じようにリビングでビールを飲む。尤も、エースが毎日浴びているシャワーが冷たかったと言うことと、服を着たままシャワーを浴びていたと言う事実は、今日になって初めて理解ったことであるが。しかし、その毎日同じことの繰り返しを、エースは実に飽きもせずに続けている。
「…何か、あったの?」
 再び、ゼノンが先程と同じ問いかけをエースに投げかけた。
「特にない、って言っただろう?」
 平然と、エースは答えを返す。ボロを出す訳がない。そう理解ってはいても、このエースの奇妙な日課を、ゼノンは素直に受け入れることが出来ない訳で。
「…夕飯は?」
「食べて来た。連絡入れただろう?」
「何処で?」
「何処だって良いだろう?」
 エースが何処で何をして来るのか。確かに、そんなことはどうだって良い。
「デーモン、知らない?最近忙しいって、帰って来ないけど」
 ゼノンは、問いかけを変えてみた。
 エースを観察するかのように尋ねた声に、エースはこともなく平然と答えを返す。
「あぁ、今日は少しだけ一緒に呑んだ。ただ、仕事が忙しいからマンションに帰るってさ。ここに帰って来ない時は、あっちに泊まってるじゃないか。それに帰って来ないのはデーモンだけじゃないだろう?今日はルークもライデンもいないじゃないか」
「そう。みんな、出かけちゃって帰って来ないんだよね。俺は留守番」
 そう。今日は珍しく、ルークもライデンも自分のマンションに戻って帰って来ない。ゼノンも暇を持て余していた…と言ったらそれまでだが。
「暇してるなら、今度は御前も出かければ?写真でも撮りに…さ。別に、誰かが留守番していなきゃいけない訳じゃなし。みんな良い大人なんだから、放って置いたって死にゃしないんだから」
「そうだね。考えて置くよ」
 いつも通りに言葉を交わす二名であるが、そこがいつもとは違っている。ゆったりとソファーに座り、ゼノンは目の前のエースをただただ観察している。エースはその視線を気にしながらもグラスのビールを空にすると、ソファーから立ち上がった。
「寝るの?」
「あぁ。明日も仕事だからな。御先に」
 短く答えて廊下へ向かって歩き出したエースに、ゼノンは言葉を放つ。
「もう直ぐ、デーモンの発生日だね」
「…あぁ、そうだな」
 僅かに歩みを緩めたエース。
 確信、あり。
 エースの背に向けたゼノンの表情は、そう言っているかのように、小さな笑みを称えていた。
「それで、心の準備は出来たの?」
「…何の、ことだよ」
「別に?理解らなければ、良いけど」
 エースは、ゼノンの方を向かなかった。まぁ、ゼノンには凡その見当は付いていたが。
 くすくすと笑いを零し、まるで逃げるように立ち去ったエースの後ろ姿を見送ると、ゼノンも己の部屋へと向かった。
「まさか、あのエースがねぇ…」
 何のことはない。エースが心もとないのは、ただ単に…緊張しているだけ。
 冷たいシャワーは頭を冷やす為。服を着たままだったのは…ただ単に、脱いだつもりでいた、と言うことだろうか。脱いでいないことに気付かないほど、何かに対して緊張している。そして、アルコールで緩和して眠る。と言うことだったのだろう。
 それが、エースを観察し続けたゼノンの出した答え、だった。
 そして…そんなエースを、ゼノンはただ笑って見守ってみることにしたのだった。


『いつか…俺を、貰ってくれるんだろう…?』
『エース…?』
『そう言う約束だろう?人間界の法則に則って言うならば。そのつもりで…良いんだよな…?』
『…あぁ。まだ、その準備は何もしていないが……いつか、な』
『…約束、だからな。俺は、一生あんたに…』
----付いて行くからな。
『…あぁ、約束だ』

 そんな約束は、他愛もない戯言だったのだろうか?
 答えは…如何に。

◇◆◇

 デーモンの発生日を翌日に控えた、その夜遅く。
 直に日付が変わろうか…と言う時間に、仕事を終えてマンションへと帰って来たデーモン。だが、人間界の仕事と魔界への任務報告書の作成。ここ数日の間、既に嫌と言う程やって来た仕事であるが、まだ終わる兆しも見えてはいなかった。
「…明日は屋敷に帰らねばならんしな…今日は徹夜かな…」
 溜め息を吐き出しつつ、取り敢えずシャワーでも浴びようか…と思ったのも束の間。
 ピンポーン。
「…誰だ?こんな時間に…」
 そう言いつつも、日にちと時間を考えれば…心当たりがなくもない。
 溜め息を吐き出しつつ、玄関へと向かう。そしてそのドアを開けると…案の定、そこにはエースが立っていた。
「…やっぱり御前か…」
「悪かったな…俺で」
 苦笑するエースに、デーモンは溜め息を一つ。
 どうやらエースは、軽く酔っているらしい。ほんのりと酒の匂いが漂っている。
「悪いが…御前に構ってる時間はないんだ。明日は屋敷に帰って来いって言われているからな。それまでにもう少し仕事を片付けないと…」
「わかってる」
 小さく笑っているものの…いつもより断然、口数の少ないエース。
「…入っても…良いか?」
 様子を伺うように問いかけたエースに、デーモンは溜め息を一つ。
「この状況で、追い返せる訳ないだろうが…ほら、早く入って来い」
「どうも」
 くすくすと笑いながら、エースはデーモンのマンションへと足を踏み入れる。
「吾輩はシャワーを浴びて来るが…その後も仕事だからな。リビングで大人しくしてろよ」
「了解」
 デーモンに言われるまま、リビングのソファーに腰を下ろす。そして、デーモンがシャワーを浴びに行くその背中をぼんやりと眺めていた。
 そして。
「…約束、って…何だろうな…」
 ぽつりとつぶやいた言葉。
 それは…媒体との"約束"であり…デーモンとの"約束"。その双方が交わることは、絶対にない訳で…その狭間にいるエースは…時々、どうにもならない葛藤に襲われているのも事実。
「…ばぁ~か」
 そう言って、大きく息を吐き出す。そして目を閉じる。遠くで聞こえるシャワーの音が、妙に心地良い。
 そんなことを思っている間に…ほんの一時、その意識は落ちていた。

「……ス、おい、エース」
 肩を揺すられて呼びかけられ、ハッとして目を開ける。すると、目の前にシャワーを浴びたばかりのデーモンがエースの顔を覗き込んでいた。
 その、思いも寄らない状況に驚き、思わず息が止まりそうになった。
「大丈夫か?ここにいろ、とは言ったが…そのまま寝ると、風邪引くぞ…?」
「…あぁ…大丈夫……水、貰っても良いか…?」
 思わず口を突いて出た言葉に、デーモンは小さく笑いながらキッチンへと足を向けた。
 勤めて冷静に、大きく息を吐き出すと、目視で咄嗟に状況を確認する。
 時間は…壁にかけてある時計は、もう十二時をほんの少し、過ぎていた。まぁ…それは仕方ない。
 そしてデーモンは…と言うと、既に部屋着に着替えてはいるが、その髪はまだしっとりと濡れている。そんな無防備な姿を、今見せられたら……。
「…ほら」
 そんなことを考えていると、グラスに水を入れたデーモンが戻って来た。そしてソファーでぼんやりとしているエースの前に身を屈め、視線を合わせる。
「ホントに大丈夫か?随分呑んで来たんじゃないのか…?」
「…大丈夫」
 グラスを受け取りながらそう答え、その水を一気に煽る。そして大きく息を吐き出す。
「…御免」
「…エース?」
「時間…過ぎてた…」
「時間…?」
 そう言われ、思わず振り返ったデーモン。そして、壁掛け時計に視線を向け、小さく笑った。
「あぁ、あれな。最近、どうも調子が悪くてな。ちゃんと合わせても、いつの間にか早くなってるんだよな。今も確か…十分ぐらい、早いはずだぞ?別に、早い分には困らないからな」
「……は?」
「だから、まだギリギリ九日だ」
 エースが何を気にしているのかわかっているデーモンは、くすくすと笑いを零す。そして、エースから受け取ったグラスをテーブルの上に置くと、携帯の時計をエースへと見せた。
「良かったな。一分前だ」
「…あぁ…」
 確かにデーモンの言う通り、辛うじて十二時は回っていなかった。けれど、後数十秒。そう思いながら、ぼんやりとその時計を見つめていた。
 自分は…何をしに、ここへ来たのだったか。ただ、一番に誕生日を祝いたかったから?それとも…もっと他に、やりたいことがあったのだろうか…?
 そんなことを思っている間に、時間は十二時を回ってしまった。
「…発生日、おめでとう」
 目の前のデーモンに、そう告げたものの…エースは自分でも、何処か可笑しいと思っていた。
「あぁ、有難う」
 デーモンもそう返したものの…その眼差しは、真っ直ぐにエースに向けられたまま。その表情から、何かを探ろうとしているのは間違いなかった。
「…どうした?」
 ふと、デーモンが問いかける。
 その声に、エースは大きく息を吐き出した。そして、小さく首を振ると、徐ろにソファーから立ち上がった。そして両手を伸ばし、デーモンを抱き締める。そしてその首元に顔を埋めた。
 シャワーを浴びたばかりのその身体は、とても良い匂いがする。シャンプーやボディソープの匂いだけではなくて…本能として感じる、相手のフェロモンの匂いなのだろうか。その芳香に誘われるかのように、その項にそっと口付ける。
 せめてもの…想いを込めて。
「…エース?」
 突然の行動に、一瞬ドキッとして息を飲んだデーモンであったが…エースはその先の行為を続けるでもなく、小さく溜め息を吐き出した。
「ホントに大丈夫か?御前…」
 心配そうに、エースの背中をポンポンと叩くと、やっと少し顔をあげる。
 そして、耳元で囁かれた言葉。
「…電波時計…買ってやるから」
「…プレゼントに?」
「…そう。プレゼントに」
「……そう、か」
 思わず、笑いを零したデーモン。
「あと…何か吾輩に言いたいことは?」
 そっと、そう問いかけてみる。
 エースが、何やら胸に抱えて来ているのはわかっていた。そして、それをなかなか言い出せないことも。電波時計の話を出して来たのは、多分、その為だろうと。
 だからこそ…デーモンも、ほんの少しだけ踏み込んでみたのだ。
 エースは、小さな溜め息を一つ。そして、再びデーモンを抱き締めた。
「…迷ってる…自分がいる」
 小さくつぶやいた声。
「俺は…“清水”と約束した。人間界にいる間は、御前とは身体の関係は結ばない、と。俺たちは、ゼノンやライデンたちとは違う。彼奴等みたいに、媒体同士も恋人同士、って訳じゃない。寧ろ…媒体同士は性格上、どう考えても、混じり合うことはない。だから、彼奴の為にそう約束したんだ。でも俺は…御前と共にいることを望んでいる。約束を破るつもりはないんだが…目の前の欲望に抗えない自分がいるのもまた事実なんだ…」
 大きな溜め息と共に、そう吐き出された言葉。多分それは…他に誰もいないこの場所だったからこそ、吐き出せた想いだったのだろう。
 そして、エースの言葉を黙って聞いていたデーモンもまた…大きな溜め息を吐き出していた。
「…“清水”との約束があるのは、別に良いんだ。最初からわかっていた事だしな。だが、御前には御前の想いがあるだろうし…誰にだって、欲望もある。勿論、身体の繋がりだけが全てだとは思わないが、何処かで折り合いをつけないと、御前だけの負担になるんだぞ?それを“清水”が喜んで受け入れるとは、吾輩には到底思えないんだ。御前が“清水”を大事に想うように、“清水”だって御前を大事に想っているだろう?焦ることはないんだから、ちゃんと話した方が良い。吾輩は、ちゃんと待っているから」
「デーモン…」
 少し身体を離し、デーモンの顔を覗き込むと…デーモンは、目を細めて笑っていた。
「大丈夫、だから」
 その言葉に、エースは大きく息を吐き出す。
「…わかった。まぁ…こればっかりはな、俺一名で突っ走る訳にも行かないからな…妥協案を考えよう」
「…は?」
 突然そう言い出したエースに、当然デーモンはきょとんとする。
「妥協…案?」
「そう。妥協案。まぁ、清水にはおいおい話はするが…」
 そう言いながら、エースはデーモンを抱き寄せた。そして、その耳元で囁く。
「いつか…ホントに、いつになるかはわからないが…俺を、貰ってくれるんだろう…?」
 再び、その言葉を零したエースに、デーモンは小さく笑った。
「大丈夫、忘れてないから。心配するな」
 デーモンはそう言うと、エースの背中を軽く叩いた。
 そして。
「…少しだけ、な」
 そう言うと、デーモン自らそっと口付ける。
「…発生日おめでとう」
 改めてそう口にしたエース。
「有難う」
 くすくすと笑うその姿に、エースも小さく笑いを零した。
 その一時が、何よりも倖せで。
 今は、それ以上何も求めない。それが、御互いの理性を保つ為の距離であることもわかっていた。
 いつか…願いが叶う、その時まで。

◇◆◇

 結局、エースはそのまま大人しく屋敷へと戻り、デーモンは徹夜で仕事を上げ、夕方近くになってやっと屋敷へと戻って来た。
 屋敷では、すっかりデーモンの発生日のパーティーの準備が整っていた。
「御帰り~。仕事終わった?」
 玄関に入るなり、待ち兼ねたようにやって来たライデンにそう問いかけられる。
「あぁ、何とかな」
 苦笑しながらそう答えたデーモン。そのライデンの背後から顔を覗かせたルークも、そこに口を挟む。
「夕べさぁ、エース、行かなかった?」
「……あぁ、来たが…仕事が溜まってると言ったら、大人しく帰ったぞ?いないのか?」
 何かを探られれているような気がして、当たり障りなくそう答えると、ルークは笑いを零した。
「いるよ。いや、変な時間に帰って来たからさ。夜半過ぎだったら、泊まって来ると思ったんだけど」
「あのなぁ…吾輩は徹夜して来たんだぞ?エースに構ってる暇がある訳ないだろうが」
 小さな溜め息を吐き出しつつ、ふと過ぎった記憶。
 抱き締められ、項にキスをされて…その先が何もない。確かに、エースが苦悩する気持ちもわからなくはない訳で…。
 勿論、デーモンにも欲望はあるし、この先何処まで続くかわからないその道に、不安がない訳でもない。
 ただ、今は…エースは、ちゃんと傍にいる。だから、そこまで大きな不安ではなかった。
「…とにかく、少し休ませてくれ」
 何か奇妙な居心地の悪さを感じ、そう零す。それと同時に、今更ながらに…キスされた項が、微かに熱を持っているような感覚を覚え…思わず、掌で隠すように覆った。
「そうだよね、徹夜明けだもんね。エースとゼノンが飲み物の買出しに行ってるから、帰って来たら呼ぶからさ、少し寝たら?」
「あぁ。そうするかな」
 そう言って階段を昇って行くその背中を眺めながら…ふと何かを感じたルークは、小さく首を傾げていた。

 夜になり、発生日のパーティーは既に大宴会になりつつあった。飲み物を買って来たのが酒豪のエースとゼノンなのだから…まぁ、それ相応のモノを用意している訳で。当然真っ先に酔っ払ったのは、一番弱いライデン。
「それにしてもさぁ、デーさん幾つになったんだっけぇ?まぁ、オリはそんなことどぉ~でもいいんだけどに」
 すっかり酔っ払っているライデンは、目の前で呑んでいるデーモンに、そんな質問をして来る。
「御前なぁ…」
 呆れたようにそう零しながらも、デーモンは結構楽しんでいるようだった。その時。
「ねぇ…さっきも思ったんだけどさぁ…何か今日のデーさん、いつもより色っぽくね?」
 ふと、そう口にしたルーク。酔っているのは顔を見ればわかるのだが、その言葉にはデーモンもエースも、そしてゼノンも一瞬動きが止まる。
「やっぱりなぁんかあったでしょ~?夕べ、エース変な時間に帰って来たし?」
「…何もないって言ったじゃないか…」
 我に返ったデーモンは、小さな溜め息と共にそう言葉を吐き出す。
「でもさぁ~?ほら、項の辺り。嫌に気になるんだよね~。ほんのりピンク色でさぁ、如何にも色気満載、って感じ?」
 その声に、デーモンは思わず項に手を当てる。そんなデーモンの姿を、ルークは組んだ足の膝に頬杖を付いてニヤニヤと笑いながら眺めつつ、エースの様子を伺う。ついでにゼノンも、息を潜めて成り行きを見つめている。
「酒呑んだからだろう?別に、いつもと変わらないじゃないか」
 確かに、見た目は特に何も変わった様子はない。だからこそ勤めて冷静に。如何にもを装うエースに、ルークは何かを思いついたようだ。
「よぉし、決めたっ!俺ね、今度のツアーでエースの代わりに、デーさんとツインコーラス取ったろっ」
 そう言いながら、ルークが突然立ち上がる。
「やっぱ、エルドラが良いな~。エース、代わって」
「何でそうなるんだよ。って言うか、だぁれが代わるかっ」
 流石にカチンと来たのだろう。まるで"デーモンは俺んだっ"と言わんばかりに、エースは隣のデーモンを抱き寄せる。
「こらっ!どさくさに紛れて…」
 反論を唱えようとしたデーモンであるが、それよりも先に、完全に酔っ払い組のルークが割り込んで来る。既に宴会を通り越して乱闘に近いのは、やはり皆酔っているからだろうか。エースに関しては、相変わらず何処まで素面なのかは理解らないが。
「とにかくっ!エルドラでデーモンとツインを取るのは俺だっ!文句あっか!?」
 無理矢理ルークを押さえ、肩で息をしながらそう結論を出したエース。
「たまには俺だってツインコーラスやりたいっ」
 その言葉に、エースはルークにむけてベーと舌を出してみせる。
 まるで子供の喧嘩のようだが…ルークも今は同等である訳で。ぶーっと頬を膨らませるルーク。
「…エースのケチっ。デーさんはあんただけのモノじゃないんだからねっ」
「ほざけ馬鹿者。俺んだ」
「…御前等…吾輩はモノじゃないっつーの…」
 呆れたような溜め息を吐き出すデーモン。その様子をくすくすと笑うゼノンと、そのゼノンに寄りかかったまま、既に潰れて眠ってしまったライデン。
 それでも、こんな賑やかなパーティーもまぁ良いか…などと思えるのは、祝ってくれるその気持ちが嬉しいから。
 収拾の付かないドタバタの騒ぎは、そのまま強引に御開きとなった。

 主役であるデーモンは早めに解放され、部屋に戻った。寝てしまったライデンも部屋に強制送還され、残されたエース、ルーク、ゼノンは片付けをしていた。
 ルークはリビングを。エースとゼノンはキッチンで片づけを。その状況で、ゼノンが聞かないはずもない。
「ねぇ、エース。夕べ…ホントに、何もなかったの?」
 洗い物をしながら問いかけた言葉に、エースは溜め息を一つ。
「ある訳ないだろうが…」
「にしては、一晩で急に穏やかになったよね?何日か前から、嫌に緊張してたみたいだけど」
 笑うゼノンに、エースは一瞬口を噤む。そして、小さく吐き出した言葉。
「何もない。清水の手前、何か出来る訳ないだろうが…」
「…そうだね。まぁ、欲求不満が爆発しないように気をつけた方が良いよ」
 くすくすと笑いながら洗い物を終えると、自分の部屋へと足を向けながら、ふと振り返った。
「あ、そうそう。デーモンには内緒なのかも知れないけど…デーモンの項に、何かやったでしょ?デーモン自身も何かしらは察してるみたいだし、ルークもさっき言ってたけど…結界ばりのオーラ、出まくってたよ?御前のモノだ、って言わんばかりにね。思念が強過ぎると、悟られちゃうよ?」
「………」
 エースの表情は変わらない。けれど、口を噤む姿は…それが真実だと、言っているかのようで。
「じゃあ、御先に」
 笑いながら、ダイニングを後にするゼノン。残されたエースは…大きな溜め息を吐き出していた。

 ルークも部屋へと引き上げ、エースも片づけを終え階段を昇って部屋へと戻る。
 とその時、デーモンの部屋のドアが開き、エースを呼び止めた。
「片付け終わったのか?」
「あぁ。ゼノンもルークも、部屋に戻ったしな」
「そうか。ちょっとだけ…良いか?」
「…あぁ」
 デーモンに呼ばれるままに、その部屋へと足を踏み入れる。
「夕べの話だけどな…ルークにも言われたが、吾輩の項にキスした時…何かしたか?」
 入るなり突然そう問いかけられ、エースの唇から小さな溜め息が零れた。
 黙っているつもりだったが…デーモン本魔にバレてしまったのなら仕方がない。
「…ほんの少しだけ…俺の想いを、刻み付けただけだ。別に外から見える訳でもないんだが…ゼノンにも、思念が強過ぎるって言われたけどな…」
 そう言ったそのエースの眼差しの奥にある不安げな色を、見逃さなかった。
 デーモンが、何処へも行かないように。他の誰のモノにもならないように。ゼノンの言葉ではないが、想いを刻みつけることで、自分の所有物(もの)であると誇示したかったのだろう。
「そうか。何だか熱を感じる時があったんだ。そう言う事か」
 くすりと笑いを零したデーモン。
「あんまり、思い詰めるな。吾輩は、何処にも行かないんだから」
「…デーモン…」
「吾輩が貰ってやるって言ってるんだ。だから、大人しく待ってろ」
 そう言葉を放ち、そっとエースの頬に手を触れる。
「一番に…祝ってくれて、有り難うな。エース」
 重ねられた唇。
「別に、電波時計なんか買わなくても良いから。これから先、御前が吾輩の傍にいてくれることが、何よりのプレゼントだ」
 くすくすと笑いを零しながらそう言ったデーモン。その言葉に、エースは思わず眉を潜める。
「それじゃ余りにも…」
「良いんだ」
 にっこりと微笑むデーモンに、エースは小さな笑いを零した。
「そう、か。じゃあ、安上がりで良いな」
「馬鹿だなぁ。タダより高いモノはないんだぞ?」
 くすくすと笑うデーモンを、エースは腕を伸ばして抱き締めた。
「そうだな。御前の存在は何よりも高いな」
「じゃあ御前は、その一番高い買い物をしたんだな。それに、一生モノだぞ?大事にしろよ」
「勿論」
 笑い合いながら、その唇を重ねる。その一時が、何よりも倖せだった。

 二名で同じ時を過ごせること。それが、何よりのプレゼントだった。
PR
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
  
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
Copyright ©  -- A's ROOM --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by petit sozai emi / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]