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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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BROKEN ANGEL 3
こちらは、以前のHPで2003年01月25日にUPしたものです
 4話完結 act.3

拍手[1回]


◇◆◇

 デーモンとルークが揃って皇太子の執務室に報告に向かうと、出迎えたダミアンはいつもの華やかな微笑みではなかった。
「…ゼノンから一報は入っているよ。エースが行方不明だって?」
 開口一番にそう問いかけられ、デーモンは大きく息を吐き出す。
「まぁ…言ってしまえば、そう言う事なのですが…」
 そう口を開き、思わずルークへと視線を向けるデーモン。
 その視線を受け、ルークは小さく息を吐き出した。
「詳しいことは、俺から説明します」
 患者として床に伏せっていたデーモンよりも、状況を把握しているのはルークの方である。その説明は当然、ルークが口を開いた。
 そして、ダミアンの顔色を伺いつつ、言葉を続けた。
「まず、王都付近の街に流行っていると言う奇病のことからですが…」
「あぁ、それもゼノンから少し報告を受けているよ。何でも、"夢"が絡んでいるとか…これも途中までで、その後の詳しい報告は出ていないんだが…?」
 全く、どうなっているんだか…
 溜め息を吐き出しつつ零したダミアン。その小さなぼやきを聞き流しつつ、ルークは言葉を続ける。
「"夢"が絡んでいるのは確かなようです。まるで風邪と思わせる病魔の看病をしていた者ばかりが、ざっと二~三十名…昨日の報告での人数なので、今の時点ではもう少し増えているかも知れませんが…とにかく、それだけの一般悪魔が消えているんです。その共通点が、病魔が見ている"夢"です。何者かに身体を束縛されているような、重苦しい夢だそうで…」
「妙に詳しいじゃないか」
 そう返した言葉に、デーモンが口を開く。
「…吾輩が…一昨日の晩にその夢を見ました。単なる風邪だと思っていたのですが…その看病をしていたのが…」
「エース、だとでも?」
「…そうです」
 答えたデーモンの苦渋の表情を眺めつつ、ダミアンは小さな溜め息を一つ。
「エースもその被害者だと言う訳か」
 その声に、ルークは思わず口を挟む。
「あの…実は、エースだけじゃないんですが…」
 思いがけないルークのその言葉に、ダミアンはルークへと視線を向ける。
「どう言うことだ?」
「あの…ゼノンの看病をしていたライデンも……」
「……全く、何をやっているんだか…」
 溜め息と共に吐き出されたのは、果たして愚痴なのだろうか。呆れたように机に肘を付き、頭を振る。
「…あれでも、雷帝だからね、いなくなったとすれば雷神界に連絡を入れなければならないんだが…目星は付いているのか?」
 溜め息を吐き出しつつ、そう問いかけたダミアンに、ルークは小さく頷いた。
「一応…"夢"を操っているであろう奴の目星は付いています。ただ、行方を眩ませているので…それに、確かな証拠はありません。ただ、一番疑わしいのは事実です」
 ルークの声。その声は…酷く、固い。
「行方不明…か。御前がそう判断したのなら、まず間違いはないんだろうね。で?何処の誰だい?」
 問いかけた声に…その視線が、下を向く。
「…ウチの総務部の主任補佐です。名前はヴィニー。彼は…夢織人から夢魔に変わった、堕天使です」
「…成程、ね」
 溜め息を一つ吐き出したダミアンは、その真っ直ぐな視線をルークに向けた。
「下手な情をかけるモンじゃないよ。堕天使だろうが、魔族であろうが、魔界で問題を起こしたのなら罰せられるのは同等だ。差別をするつもりはないよ。わかっているね?」
「わかっています。"魔界防衛軍"の事もありますから…所在も真意も、きちんと確かめます」
 そう。事実確認をきちんとしなければ、納得がいかないのだから。
「ま、ライデンの連絡はこちらがするから。御前たちはとにかく、首謀者とエース、ライデン、一般悪魔たちを見つけるように」
「御意に」
 深々と頭を下げた二名が踵を返し、ドアを出て行こうとしている背中に、思い出したようにダミアンが声をかけた。
「そうそう。先ほど連絡があったが、魔界の穴に僅かな生態反応があるそうだ。調べてみるのも良いかも知れないね」
「…御意」
 改めて頭を下げる二名にダミアンはにっこりと微笑み、軽く手を振って送り出した。ドアが完全に閉まると、途端に溜め息を吐き出す。
「…ったく…相変わらず、騒々しいんだから…」
 それは、誰に対しての愚痴なのか…当然、追求する者はいなかった。

 皇太子の執務室から出て来た二名は、デーモンの執務室にやって来るなり、二名揃って溜め息を吐き出した。
「…にしてもさぁ、久々にすっごい緊迫感だったね…」
 それがダミアンを指す言葉であることを察したデーモンは、小さな溜め息を吐き出す。
「御前がそう感じているのなら、多分、吾輩が感じたのはそれ以上の緊迫感だぞ?」
 今、一番ダミアンの傍にいて、一番気を許せるはずのルークでさえ、そうなのだから。デーモンが感じる緊迫感は並じゃなかった。
「…まぁ、状況が状況だしな。ライデンまで巻き込まれているからな、当然魔界側としては責任を取らざるを得ない訳だ。そりゃ、緊迫もするな…」
「そりゃ、わからなくはないけどね。でも、エースだってライデンだって、わざと捕まったんじゃないんだから、しょうがないじゃん。ま、魔界の穴のことは教えて貰ったから、取り敢えず確かめに行かないとね」
 ルークは、すっと表情を引き締めた。
 魔界の穴には、自分も思い入れがある。確かに、ダミアンの忠告はルークには確証に近かった。
「魔界の穴…な。堕天使が辿り着く、魔界の入り口か…」
 つぶやいたデーモンの声など、今のルークには届いていないだろう。
 昔を思い出すように、ルークはその記憶を一つ一つ辿って行く。何故、彼はそこにいるのだろう。彼にとって、その場所が何を意味するのだろう。
「とにかく、行ってみる。あぁ、デーさん忙しいなら、俺一名で行くけど…」
「いや、吾輩も行こう。エースとライデンも心配だしな。何かあった時に、御前一名よりも誰かいた方が良いだろうしな」
「OK。じゃあ、行こうか」
 ゆっくり腰を落ち着ける暇もなく、再びデーモンとルークは執務室を出て行った。

◇◆◇

 心が踊ったのは、もう昔の話。
 新天地を求めて来たはずだったのに…今はどうしてこうも昔が懐かしいのだろう。
 帰りたい。
 そう思うようになったのは、いつからだっただろう…
 帰りたい。彼の地に。その為には、どうしたら良いだろう……?
 悩んだ末に選んだ選択肢は、魔界への謀反行為、だった。
 魔界に反旗を翻せば、彼の地に戻れるかも知れない。
 それは…ささやかな希望、だった。


 デーモンとルークが魔界の穴にやって来ると、ダミアンの忠告通り、一名の姿があった。
「…生態反応は、やっぱりあんただった訳か」
 薄暗い闇の中にぼんやりと座り込んだ姿に向け、ルークが言葉を放つ。ここは自分の出番ではないと察したデーモンは、口を挟まないことに決めたようだ。
「あんたが、ヴィニーだろ?」
 尋ねる声に、彼は顔をあげ、ルークを見つめた。
 金色の髪に金色の眼差し。そして、真白な装束。それは…天界人の姿に他ならなかった。
「巷で流行ってる奇病。あんたが操った訳?」
 再度問いかけられる声には、ヴィニーは口を噤んだままだった。だが、真っ直ぐに向けられた眼差しは、それが真実だと語っているようだった。
「どうして、罪もない一般悪魔を巻き込んだ?あいつらを巻き込んで、あんたに何の利益が…」
「貴殿に、俺の気持ちはわからない」
 ルークの声を遮り、ヴィニーはそう言葉を紡いだ。その表情から察することが出来るのは、彼が、酷く寂しそうだと言うことだけ。
「…わからないから、聞いてるんじゃないのか?ルークは御前の同族として…」
「良いよ、デーさん」
 見兼ねたように口を挟んだデーモンを遮ったのは、当のルークだった。
「しかし…」
 物言いたげな表情のデーモンを宥めるように小さな微笑みを返し、ルークは再びヴィニーと向き合う。その黒曜石は、ヴィニーの心の内を見透かすかのような光があった。
「あんたが何の為に一般悪魔を巻き込んでいるのかは知らない。でも、あんたがやったことは魔界への反逆行為だ。魔界を裏切ればどうなるか、わかってるはずだ」
「魔界なんて…大っ嫌いだっ!!」
「ヴィニー…」
 思わず上げたヴィニーの悲鳴のような声に、ルークもデーモンも息を飲む。
「…魔界は確かに、俺を受け入れてくれた。でも、所詮俺は堕天使だ。天界を裏切って、魔界へ降りたんだ。結局のところ、裏切り者には変わりない。そんな奴のことなんか、どんなに頑張ったって、回りは認めてなんかくれないんだよっ!」
「そんなことない。第一あんたの上司は、あんたのことをちゃんと認めてたじゃないか。勤務態度も立派で、真面目でって…」
「必死で頑張って、たったそれだけじゃないかっ!本心を隠して、自由に生きられるはずがない!」
 悲痛げに紡がれるヴィニーの言葉。それはホントに、ルークには届かない言葉だったのだろうか。そう思いながら、デーモンは黙ってヴィニーと、そしてルークの横顔を見つめていた。
「貴殿は良い。皇太子殿下に気に入られたんだ、然したる苦労もなく今の身分を手に入れたんだろう?でも俺たち、何の身位もないただの堕天使はそうじゃない。今のたいしたことのない身分だって、手に入れる為には、貴殿の知らないような苦労や差別を受けて来たんだ!どれだけの苦痛を強いられたか、貴殿にわかるのかよ…っ!!」
 悲鳴のような声に、聞いているデーモンも胸が痛かった。
 何が…彼の心を、ここまで歪めてしまったのだろう。それ程までに、苦しい何かが彼にあったのだろうか。それを、直属ではないが、上司たるルークが、本当に何も知らなかったのだろうか。
 そう思いながら、真っ直ぐにルークを見つめる。その横顔は…デーモンが驚くほど、冷酷に見えた。
「天界を捨てることを選んだのはあんただろう?どんなことがあったって、一度魔界に忠誠を誓ったなら、自力で乗り越えなきゃいけない壁だ。俺には…選択肢なんかなかった。勝手に能力を封じられて育てられ、覚醒したら捨てられるように魔界へ落とされた。天界のことも魔界の事も、ロクに知らないままでな。俺のそんな状況をあんたが知らないだけだろう?勝手なこと言うなよ」
 冷静に紡ぎだす声。けれど、その声の裏側にある感情を隠すように、ルークは視線を伏せた。
 堕天使へと覚醒したルークは、天界に留まることが出来ず、追われるように魔界へと降りた。その時から既にダミアンの御気に入りだったことには間違いない。だから、色々と目を掛けて貰ったことも確かなことだ。普通の堕天使に比べたら、それは大きな差に繋がる。だがそれは、ルークが抱えた大きな精神的苦しみを受け留め、癒してやる為のダミアンの情があってこそだったのだ。
 天界を裏切って魔界へ降りたのなら、どれだけ楽だっただろう。何度、ルークはそう考えたことか。
 愛する母親を彼女の実の妹に殺され、父親代わりだったミカエルに裏切られ…結果、天界を追われた。無残に切り捨てられて、行き場をなくしたルークの心をを受け入れてくれたのが魔界であり、ダミアンだったのだ。だからこそ、ルークの忠誠心は筋金入りなのだ。
 だがそんなルークの気持ちは、きっとヴィニーにはわからないだろう。
 ヴィニーの思いを、ルークが理解し切れないように。
「…確かに俺には、あんたの気持ちはわからないよ。あんたがどんな思いで、今まで仕えて来たのかもわからない。あんたに俺の思いがわからないのと同じことだ。俺が知る限り…ウチの局でも、他の局でも、堕天使に対して酷い扱いはしていない。魔界へ降りた以上、権利は同等だ。あんたの被害妄想が、酷い扱いを受けていると錯覚しているだけじゃないのか?あんたの勝手な生き方を受け入れてくれた魔界に恩義を感じるのならともかく、真実を歪め、被害妄想で魔界へ対しての謀反行為をするだなんて…それは違うだろう…?」
 眼差しを上げたルークは、もう一度ヴィニーと向き合う。
「どうして…真実を見なかった?あんたがちゃんと見ようとすれば、あんたの周りの悪魔たちの姿も見えたはずだ。あんたを…本心から心配している姿が、な」
「…ルーク参謀…」
 ほんの少し…ヴィニーの表情が変わった。けれど、まだその表情は頑なに見える。
 そんなヴィニーを見つめていたルークは、小さく息を吐き出す。そして、ゆっくりと言葉を続けた。
「…あんたが"ここ"を選んだ、ってことで…あんたが思ってることは何となくわかった。あんたは…天界に、帰りたかったんだろう…?」
 その一言に、ヴィニーはピクッと小さな反応を示した。
 その態度に確信を得て、ルークは言葉を続ける。
「あんたが、彼奴等を解放してくれたら…俺が、皇太子殿下とミカエル総帥に話を付けてやる。あんたが、天界へ帰れるように。だから…もう、罪もない奴等を拘束するのはやめてくれ。これ以上…罪を重ねないでくれ」
 ルークの声に、ヴィニーは信じられないと言ったように目を見開き、息を飲む。そして首を横に振った。
「…無理、だ。そう簡単に帰れるはずがない。俺は…天界を裏切って魔界に降りたんだ。これだけのことをしたって、天界側からは何の反応もない。それがどんなことなのかぐらい俺だってわかってる。第一そんなことすれば、貴殿も罰せられるはずだ。どうして、そんなことしてまで…」
「仲魔、だからな。同じ天界人の血を受けている者として…同じ魔界に住まう者として」
 事ここに至ってまで、仲魔と言う形態に拘わるのはルークだからなのかも知れない。だからこそ、大切にしてやりたかった。護ってやりたかった。それが自分に出来る、せめてものことならば。
「心配しなくても良い。あんたが思っている程、あんたの所属する軍事局の総参謀長は無能じゃないから。諦める前に、少しぐらい信じてくれても良いんじゃない?」
 くすっと小さな笑みを零したルーク。その微笑みの奥にある強さに、ヴィニーは反論することすら忘れていた。
 そして芽生えた、後悔。
 どうして…自分の属する上司を、信じられなかったのかと。
「必ず、帰してやる。だから…彼奴等を、解放してくれ」
「…ルーク参謀…」
 一筋、頬に流れた涙。その瞬間、魔界の穴の中で、何かが壊れる音が響いた。
「ルーク、ここは頼んだぞ」
「任しといて」
 一早く状況を察したデーモンが、ルークにそう声をかけて魔界の穴に飛び込んで行く。その背中を見送ったルークは、未だ頬の涙を拭うことのないヴィニーに、優しく笑いかけた。
「有り難うな」
 たった一言。だが、その一言で、ヴィニーは自分の裏切りを、酷く後悔していたのだった。

 魔界の穴に飛び込んで来たデーモンは、その奥で感じる気を見付けた。
「エース!ライデン!」
 声を上げると、それに返す声が返って来た。
「ここだ」
 声のする方向に向かって行くと、崩れかけた空間が視界に飛び込んで来た。辛うじて支えているのは、エースとライデンが張った結界のようである。
「無事だったか」
 結界の中に入り、その元気そうな姿に安堵の溜め息を吐き出したデーモンに、エースは軽く吐息を吐き出し、自分たちの背後を指差した。
「俺たちは、な。だが、一般悪魔たちはもう限界だ。早く助け出さないと、みんな消えちまいそうだ」
 確かにエースとライデンならば、捕えられていた空間が崩れ去った今ならば、魔界の穴からの脱出など簡単なことだ。だが、既に限界に近かった一般悪魔たちに耐えられる訳がない。だからこそ、こうして二名で結界を張り、護るしかなかったのだ。
「わかってる。今、導いてやるから待ってろ」
 そう声を返し、デーモンは魔力を集めて穴の外へ向けて道を示した。そしてゆっくりと、外へと動き出した。しかし、病み上がりでまだ完全に魔力の戻っていないデーモンには、動かすだけで精一杯なことは目に見えてわかっていた。それを察したエースは、結界を維持し続けるライデンに、小さく声をかける。
「俺が、後押しする。ここは頼むぞ」
「任せといて」
 小さな笑みを返したライデンに頷きを返し、エースは結界をライデンに任せてデーモンの援護へと回った。そして結界を無事穴の外へと導いたのだった。

 その後。捕われていた一般悪魔たちも医師の診察を受け、目立った後遺症もなく、無事に帰還することが出来た。
 まるで何事もなかったかのように、日常が戻って来る。
 だがそれはあくまでも一般悪魔たちに対してであり、加害者側には、裁きが待っているのは言うまでもない。

◇◆◇

 王都へと戻って来た彼らだったが、他の構成員よりも一足早く戻って来たのは、当然ライデンだった。
 ゼノンの屋敷の玄関のドアをノックすると、中から出て来たレプリカは、当然驚いたように目を見開く。
「…ライデン様…」
「ゼノンは?」
 ゼノンの容態が気になって仕方がないのだろう。落ち着かないように尋ねるライデンの声に、レプリカは我に返ったように口を開く。
「まだ、寝室に…今は眠っていらっしゃって…」
「そう。じゃあ、ちょっと…」
 心配をかけたと言う観念がなかった為だろう。ライデン自身、病気のゼノンを放って、ちょっと何処かへ出かけただけの気分だったのだから、それはそれで無理もないのだが。
 レプリカの横を擦り抜けようとしたライデンの背中に、予想外に声が届く。
「あの…ライデン様…っ」
「…何?」
 呼び止められた意味がわからず、振り返ったその眼差しが見つめたのは、今にも泣き出しそうなレプリカの顔だった。
「…ちょっ…ゼノンに何かあった訳…?」
 慌てて問いかける声に、レプリカは首を横に振る。そして。
「…御無事で…何よりでした…」
「あ…」
 ここに至って、やっとそれに気が付いた。
 きっと、自分が消えてしまったことで、通してしまったレプリカは責任を感じていたのだろう。だから、こんなにも心配そうな顔をしていたのだと。
「…あぁ、御免な。心配かけて。俺は何ともないから、大丈夫」
 軽く微笑みながら、ライデンはレプリカの頭にそっと手を乗せる。
「…御免ね」
 もう一度、そう口を開くと、レプリカの頬に、堪えていた涙が一筋零れ落ちる。だが、そこに見せたのは、微笑みだった。
 その安堵の表情に、ライデンもにっこりと微笑む。そして漸く、ゼノンの寝室へと向かった。

 軽くノックをしても、返って来る返事はない。
「やっぱ、眠ってんのかな…」
 薄くドアを開け、中を覗いてみれば、やはりベッドの膨らみが目に付いた。
「…入るよぉ」
 小さく声をかけ、そっと部屋の中へ滑り込む。ベッドの傍まで行くと、やっと肩まですっぽりと上掛けに包まれたゼノンの寝顔を見ることが出来た。まだ、その頬が僅かに赤い。まだ熱があるのかと、起こさないようにやんわりと額に手を置くと、思った程熱は高くない。昨夜に比べたら、ずっと下がっている。
 安堵の溜め息を吐き出し、踵を返した時。
「…レプリカ?」
 目が覚めてしまったのだろう。ごそごそと身体を動かしてこちらを向いたようである。
「悪いけど、水を……」
 と、そこまで口にした時、やっとその視線の前にいるのがレプリカではないとわかったようだ。
「…ライ…」
 がばっと身体を起こし、信じられないと言うように目を見開いているゼノンに近寄り、ライデンはくすっと小さく微笑んだ。
「…ただいま。遅くなって御免ね」
 その言葉に、ゼノンは大きく息を吐き出す。
「…良かった、無事で…」
 あからさまな安堵のその表情に、ライデンはいかに自分が心配をかけていたかを改めて感じていた。
「デーさんとルークが助けてくれたんだ。エースも一般悪魔も、みんな無事だから」
「…そう」
 大きく息を吐き出したゼノン。そして、腕を伸ばしてライデンを抱き寄せた。
「…心配したんだから…」
「うん、御免ね。レプリカにも随分心配かけたみたいだし。反省してますよ?」
 その言葉と共に、ライデンもゼノンを抱き返す。
「看病してあげっからさ、早く良くなってね」
「大丈夫。もう直ぐ治るから」
 くすくすと笑うゼノン。その柔らかな表情に、ライデンもにっこりと笑いを零していた。
 自分は、本当に愛されているのだと実感しながら。

◇◆◇

 夢に追われ、夢に捕われ。
 そうして、真実を見失っていく。記憶を、その想いすらも。
 消し去ってしまうには、大き過ぎた損失。得るのは、莫大な絶望。
 しかし、そうして後悔に縋って生きるよりも、絶望に向かって生きよう。
 得られるモノが、それだけならば。


 病み上がりで無理をした為魔力の少なくなったデーモンと、一応念の為大事をとって休暇を取ったエースとは別に、ルークは今回の加害者、ヴィニーと一緒にダミアンの執務室へ向かっていた。
 うつむきながらルークの後ろを歩くヴィニーの足取りは、当然重い。それを感じつつ、ルークは彼に向け、軽く声をかける。
「…心配?」
 その言葉に、ヴィニーは立ち止まった。
「…どうして…」
 震える唇が、小さく言葉を紡いだ。
「どうして…俺なんかの為に…」
 その声に、ルークも足を止め、彼へと視線を向けた。
「直属ではないけど…一応、上司だからね。それなりの責任ってモンがある訳だよ」
「…部下のやることに、一々責任取っていたら…キリがないんじゃ…」
 怪訝そうに眉を寄せるヴィニーに、ルークは小さく笑いを零した。
「まぁね。でも…特別なんだよね、俺にとって堕天使ってのは。まとめて一括りで悪者にされたくないって言うかさ…それなりのプライドってモンがある訳よ」
「でも…俺に関わったら、貴殿まで裏切り者扱いされるんじゃ…」
 不安げに向けた眼差しを受け留め、ルークはすっと表情を変える。それは、一悪魔としてではなく、魔界の総参謀長としての表情だった。
「俺は、裏切り者にはならない。この先何があったって魔界を捨てるつもりはないし、ここを離れる気もない。俺は…俺の居場所は…もう、ここにしかないんだ。それにここには…俺の大切な仲魔がいる。愛しい悪魔がいる。だから、俺はそれを護りたい。それだけのことだよ。その為なら、今出来ることを精一杯するまでさ」
 ルークはそう簡単に言い切ってしまうけれど、自分は果たして同じ立場になったらそう言えるだろうか。それは、ヴィニーが感じたルークの強さ。
 だからこそ、自分も仲魔だと言われた時…必ず天界に帰してやると言われた時、彼を信じようと思ったのだろう。
 本来なら自分には到底届かない遠い所に、この総参謀長はいると言うのに…それをまるで感じさせない程、彼は誰に対しても優しくなれるのだ。それが、彼の強さなのだと。
「他の誰が納得しなくたって、俺が認めてやるから。あんたと言う存在をね」
 ぽつりと零したルークの言葉。何気ないその一言が、ヴィニーにどのような結論を出させることになるか、当然ルークが知る由もない。
 その後は交わす言葉も少なく、皇太子の執務室へと足を進めた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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