聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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BROKEN ANGEL 4
そのドアをノックすると、直ぐに声が返って来る。
「どうぞ」
声に促されてドアを開けると、椅子に腰掛けたまま背を向けているダミアンの姿が視界に入った。
「…ヴィニーの身柄を確保しました」
そう告げたルークの声に、ダミアンは僅かに顔を動かしただけで、こちらに目を向けようとはしなかった。
「御苦労様。直に看守が身柄を引き取りに来るから。ここから先は、御前が関わることじゃない」
「…ダミ様…」
まるで、ルークが深く関わろうとしていることを最初から知っていたかのように、ダミアンのその声は否定的だった。だが、そこで素直に引くルークでもない。
「話だけでも聞いて下さい。彼は決して、魔界に対して反逆を企てた訳では…」
「反逆を企てたにしろ、そうでなかったにしろ、そんなことは単なる言い訳にしかならないだろう?彼は、罪もない一般悪魔たちを危険に晒した。罪を犯したんだ。それは事実だろう?御前にならわかっているはずだ、ルーク」
「…それは…」
「これ以上、関わるべきではない。それは、わたしからの命令だ」
その言葉の前には、口を噤むしかなかった。ルークの後ろで同じ言葉を聞いたヴィニーもまた、うつむいたまま口を噤んでいた。
ダミアンの言葉通り、直ぐに看守がヴィニーの身柄を引き取りにやって来た。連れられて行くヴィニーは抵抗する訳でもなく、促されるままに連行されて行く。
「ヴィニー…」
呼びかけた声に、僅かに歩みを緩める。ルークを見返した眼差しは、とても穏やかで。
「…御免…」
思わずつぶやいた声に、彼は小さく微笑んでいた。
ヴィニーが連れて行かれて暫くの間、ルークは口を噤んだまま、ダミアンの背中を見つめていた。勿論、ダミアンも口を開くことはない。だが、その重苦しい沈黙を裂いたのは、ダミアンの小さな吐息だった。
「…彼を助けようだなんて…御前の考えそうなことだ」
小さくつぶやいたダミアンの声に、ルークは小さく息を吐き出す。
「どうして…話を聞いてくれなかったんです?罪は罪として、認めています。ですが、言い訳と言われようと…貴方なら、聞いてくれると思ったのに…」
否定的なダミアンの態度が、ルークにそんな言葉を口にさせたのだろうか。
再び小さな吐息を吐き出し、ダミアンはルークの方を向き、真っ直ぐな眼差しで見つめた。
「前にも言ったはずだよ。御前のその優しさは、時として御前自身も傷つけると。何れ、御前自身をも滅ぼし兼ねないと。御前は、それをも厭わないと?」
その言葉はダミアンだけではなく、かつての上司であったマラフィアにも、育ての親の一名でもあるラファエルにも言われた記憶がある。
悪魔らしからぬ優しさだと。悪魔でいるには優し過ぎると。尤も…それが、ルークの強さの源だったとしても。周りからすれば、そのギリギリのラインにいるルークが、心配でならないのだ。その心配を知っているが故に…ルークにしてみれば、大丈夫だと胸を張っていたいのだが。
「…厭わない訳ではありません。ただ、自分の手で護れると言う確証があるうちは、見捨てたくはない。それがいつか俺の身を滅ぼすと言うのなら、それはそれで仕方のないことだと思っています。それは、俺が自分で選んだ路ですから。ですが…その状況に負けない自信はあります。今まで…そうやって来たんですから」
心配してくれる気持ちは、とても嬉しい。ただ、過保護になり過ぎては困るのだ。それが今度は、ダミアンの弱点となってしまってしまってからでは、取り返しが付かないから。
大切な者を護れなくなったら、おしまいだと。護っていけるうちは、精一杯の想いで護り続けるのだと。そう教えてくれたのは、誰だっただろう…
そんなことをぼんやりと考えていると、不意にダミアンが小さな笑いを零した。そして。
「色々…考え始めたらキリがない。"魔界防衛軍"が関わっているのではないかと思ってみたり…ヴィニーの背後に、誰かいるのではないかと勘繰ってみたりね。だが…御前は、ただ純粋に彼の…"堕天使"である、と言うことだけを心配する。それは、御前にとっては当然のことなのだろうが…我々にしてみれば、不安要素でしかない。御前は、それを何処まで理解している…?」
「…えっと…」
そう言われても…と、当然ルークは眉を寄せる。
ルークのそんな顔を眺めながら、ダミアンは小さく息を吐き出す。
「いつか…御前が何処かへ行ってしまうのではないかと…そんな不安は、いつでも付き纏うんだよ。御前まで、天界へ帰りたいと言うのではないかと…まぁ、今のところそんなことはないだろうけれど、その可能性はゼロではないんだよ。御前が、"彼"の血を引いている以上…ね」
「…ダミ様…」
"彼"の言葉が指す者は、ルークにもわかっていた。けれど、今こんなところで引き合いに出されても、どうにもならない。寧ろ、その感情をどうしろと言うのか、と。どうにも出来ない苛立ちさえ感じ始めていたが…そんな感情も、ダミアンの表情を見た途端、すっと消えてしまった。
その眼差しに浮かんでいたのは…とても、不安そうな色。それは、ダミアンにしては実に気弱な姿に見えた。
「…何処にも行かない、って…言ったじゃないですか」
小さな溜め息を吐き出しつつ、ルークはそう言葉を零す。
「そうだね。わかってはいるんだ。御前が天界へ帰る気などないこともね。だが…それは、今が安定しているからだ。いつか、そう思うかも知れないだろう?ヴィニーも…きっとそうだったはずだ。この先の未来に不安ばかりが募って、その想いが…天界にいた頃の、良かった記憶ばかり甦らせたんじゃないかとね。別に、本当にヴィニーの回りで、彼に対して酷い扱いがあった訳じゃないだろう。ただ…救われたいと思う気持ちから、天界に帰りたいと思うようになったんじゃないか…と、わたしは思うんだが?」
「…ダミ様、そこまで知っていたんですか…?だったら、どうして…」
そこまでわかっているのなら、どうしてルークの話を聞いてくれなかったのか。
そう言いたげな表情を浮かべたルークに、ダミアンは小さく息を吐き出す。
「わたしは、御前に関わるなと言っただけだ。別に、彼をどうこうしようと言った覚えはないよ」
確かに、それはそうであるが…どうも腑に落ちないと言う表情を浮かべたルークに、ダミアンは言葉を続けた。
「彼は、罪を犯した。重大な罪を犯した訳じゃないが、規律を破ったらその責任は背負わなければならない。まぁ、行方不明だった者は全員無事に帰って来た訳だしね。精々王都追放ぐらいで済む。けれど、残念ながら…天界からの帰還許可は得られなかった。一度天界を裏切ったのだからと、撥ねられてしまった。まぁ…それはそれで、天界側の言い分もわかるからね。それ以上はどうにもならない」
「そこまで…」
その早業に、流石のルークも呆然である。つまりは、何処から何処までもダミアンの目が行き届いていたと言う訳だ。だからこそ、ルークに必要以上関わらないようにと告げたのかも知れない。
「今後の行き先のことは、彼自身が決めることだ。帰還を拒否されても尚、天界に未練を持っているのなら、後は自分自身で何度も赴くしかないだろうけれどね」
「俺から…それを告げても良いですか?俺が連れて来たんです。それくらいは認めて下さい」
「…まぁ、それくらいは良いだろう。だが、今日はもう帰ること。彼にも、自分の行いを考える時間が必要だ。一度背を向けたからには、その後始末をするのは自分自身なのだから。誰かに頼れると思ってしまっては、同じことを繰り返すだけだからね」
「…御意に」
ダミアンは決して突き放した訳ではないと言うことも、その言葉に込めた想いだった。
ヴィニーのことも…自分のことも。
自分の屋敷に向かって歩いていたデーモンは、無言のままそっと後に付いて来るエースの気配に、思わず歩みを止める。
「…何だ、自分の屋敷に帰るんじゃないのか?」
そう問いかけた声に、エースは我に返ったように顔を上げ、デーモンの顔を見つめた。
「…え?」
「聞いてなかったのか?」
「あぁ、御免。ちょっと、考え事を…」
そう答えながら、再び視線が離れる。その指先も神経質そうに唇を辿っている。
「ヴィニーのことか?」
「…ヴィニー?誰だ、そいつは」
首を傾げるエースに、デーモンは一瞬の間の後、小さな笑いを零した。
「あぁ、そうか。御前は知らないんだな。まぁ、良い。どうせウチに来るなら、そこで話をしよう。外套も上着も忘れてる訳だしな」
「明日も休みだし」
「それは御前だけだ。吾輩はそろそろ登庁しないと、仕事も溜まってるんだ。のんびり休んでもいられない」
「大変だな、副大魔王も」
それは、明らかに皮肉と取れる言葉だったが、当のエースはデーモンよりも先に歩き始めていた。
「置いてくぞ」
本来、エースが放つ言葉ではなかったのだが…その徒ならぬ雰囲気に圧倒され、デーモンは慌ててエースを追いかけていた。
ゼノンの屋敷同様、アイラを筆頭にデーモンの屋敷の使用魔たちは、帰って来たエースの無事に安堵の表情を見せていた。だが、エースの表情から察するに、その心ここにあらず、と言う感じである。
そんな訳で、使用魔たちの歓迎もそこそこに、デーモンはエースを自室へと招き、やっと腰を落ち着けた。
「何か飲むか?」
尋ねるデーモンの声に、エースは大きく息を吐き出す。
「いや、良い。それより、ヴィニーって一体誰のことなんだ?」
突然本題に入られ、デーモンは手に持っていたマントをしまう間もなく、仕方なく椅子の背に引っ掻け、ソファーに腰を降ろした。
「今回の、"夢"の事件の黒幕だ。直属ではないが、ルークの部下であり…堕天使でもある。"夢織人"から"夢魔"に変わった…な」
「成程な。ルークと一緒にいた、あの男か」
その姿を思い出すかのように、エースはそっと目を伏せる。
「多分、反旗を翻したとは言え、魔界に対して敵意があった訳じゃないんだろう。ただ…」
「天界に帰りたかった、と」
「エース…」
「煙草、良いか?」
デーモンの許可を取り、エースは壁にかけてあった上着のポケットから煙草の箱を取り出し、窓辺へ移動する。
開け放った窓から入る風が、紫煙をゆるりと溶かしていく。
「俺たちが閉じ込められていたのは、多分彼奴が作った空間だと思う。ライデンもそうじゃないかと言ってたから、それについては間違いないと思う。ただ、それだけの為のモノじゃないと思うんだ」
「と、言うと?」
「つまり、彼奴の意識空間にも繋がっていたんじゃないかと言うことだ。故意的に作った空間であるにも関わらず、彼奴の"想い"が強過ぎて、それが一つの結界にもなっていたんだ。だから、一般悪魔たちが彼奴の"想い"に当てられて、結果、魔力を奪われて衰弱していくと言うことになった。その"想い"の一つが、"帰郷"の念、だったんだろう」
ゆっくりと紫煙を燻らせ、一本を吸い終わると、エースは窓を閉め、デーモンの向かいへと戻って来る。
「考えてもみろ。何の関係もなく巻き込まれた一般悪魔たちが、どうして誰もそれを訴えようとしなかった?一般悪魔たちだけじゃない。ライデンもそうだ。誰も、黒幕を問い詰めようとしなかっただろう?それは多分、何処かで彼奴の"想い"を拾ったからじゃないだろうか。自分の故郷を捨てて王都へと出て来たのなら、誰しも多かれ少なかれ帰郷の念は持ってるはずだ。だから、それに同情した…若しくはそれに納得してしまった…」
「彼奴にとっては、一番良い状況だな」
「そう。上手く事が運べば、造作なく天界へ帰れる。まぁ世の中そんなに甘くはないけれどな」
誠に、裏切り者に厳しいエースらしい言葉だった。
そんなエースの言葉を聞きながら、デーモンはルークと話していたヴィニーの姿を思い出していた。
少なくとも、そこまで計画を立てていたようには思えない。あの姿が御芝居でなければ…の話だが。
「…何処までを裏切り者と判断するかは、相手にもよるんだろうが…まぁ、上司がルークであるのなら、彼奴そこまで重い罪にはならないだろう。確かに思い詰めた節はあるが、御前の言う通り、魔界に対してはそうあからさまな敵意はない。ただ、帰りたいと言う気持ちが強かっただけであってな」
「…そう言うこと」
不意に、第三者の声が聞こえた。その声を聞くや否や、デーモンもエースも思わず声のした方を向く。
テラスへ出る窓の向こうに僅かな影が動き、すっと窓が開き、かかっていたカーテンが風に揺れる。その隙間から覗いたのは、黒い影。
「…まぁた御前は、そんなところから…ちゃんと玄関から入って来いと何度も…」
「まぁ良いじゃないの」
くすっと小さな笑い声。彼等を見つめた眼差しは、降り始めた帳と同じ、吸い込まれそうな黒曜石。
「意外と元気そうじゃない」
エースに向けた微笑みに、呆れたような溜め息が返って来る。
「来たな、邪魔者」
「あ、酷ぉ~いっ!デーさん、何とか言ってよぉっ」
「冗談に決まってるだろうが。エースの言うことを一々真に受けるんじゃない」
エースがそんな気で言った訳ではないことは、デーモンだけでなく、ホントはルークにもわかってはいたのだ。だから、ちょっとだけ拗ねてみただけで。
「で、ダミアン様への報告はどうだったんだ?」
ルークをソファーに促しつつ、デーモンはそう尋ねる。
「ん…まぁ、どう説明したら良いか…」
途端にルークの表情が変わる。すっと伏せられたのは、いつになく寂しそうな眼差し。
「とにかく、状況だけは話しておかないとね。結果はどうなるか、まだわからないんだけど」
そう告げると、ダミアンから聞いた話を紡ぎ始める。まぁ…ダミアンがルークがいなくなることを考えてブルーになっていることは秘密であるが。
話を聞き終えた二名は、揃いも揃って腕組みをして唸っている。だが、最初に口を開いたのは、やはりエースの方である。
「もし、御前なら…彼奴の為に、何処まで手を貸してやった?」
「何処までって…ヴィニーには、俺がミカエルに話を付けてやるからって…」
「そこまで関わって、仮に彼奴が天界に戻れたとする。だが、一旦は天界を裏切って捨てたんだ。また、いつ同じことを繰り返すとも限らないだろう?その時は、今度は御前にとばっちりが来るんだ。わかってるんだろうな?」
「そりゃ…」
エースに言われ、ルークはちょっとムッとしたように眉を潜めるが、確かにエースが言っていることは的を得ている。
「御前は、天界だけじゃない。魔界にとっても、裏切り者になる。ダミアン様は、それを避けたかったんだろう。だから、御前よりも先に、結論を急いだんじゃないのか?」
「……」
そう言われてしまっては、反論の余地もない。
「情けをかけることなら、誰にだって出来るんだ。だが、大切なのはそれだけじゃないだろ?寧ろ、その先だ。相手がどうやったら、更生出来るか、だろう?」
「わかってるよ、そんなことぐらい。エースやダミ様に言われなくったって」
ぷいと横を向くルークに、デーモンが小さな溜め息を吐き出す。
「ルークの気持ちも、良くわかる。御前だって、助けてやりたかったんだもんな」
「デーさん…」
「とにかく、彼奴に決めさせるのが一番良いことなんだ。そうだろう?」
諭すような声に、ルークが俯き、エースが溜め息を吐き出したのは言うまでもない。
「まぁ、一番かどうかは別として、今のところ、それが最も有効な手段であることには間違いないだろうな。最終的に自分を護れるのは、自分しかいないってことだからな。根は悪い奴じゃないんだ。更生する道はあるさ」
エースもルークの手前、これ以上相手を責めることも出来なかった。
誰よりもその気持ちを察しているのは、ルークであるのだから。
翌日の夕方、ルークはヴィニーが捕えられている地下牢へとやって来ていた。
ゆっくりと牢屋の前に立ち、鉄格子越しにその中を覗き込むと、予想以上にヴィニーの表情は穏やかだった。
「…処分、決まったんだってね」
そう声をかけると、ヴィニーはルークと視線を合わせた。
ここに来る前に、ルークもダミアンから連絡を受けていた。
「昼間、看守から聞きました。王都追放だそうです」
「軽いと言えば軽いけど…頼る者もない身で…と考えれば、それなりに重いね」
小さな溜め息を零したのは、当然ルーク。
「…で、決めたの?何処に行くか」
そう問いかける声にも、ヴィニーは穏やかな表情のままであった。
「まだ…ですが、なるようになるでしょう」
くすっと小さな笑いを零す。その眼差しの奥にも、不安の色は見えなかった。
ただ、ルークには、その微笑みも悲しく思えて。何もしてあげられなかった自分が、酷く惨めに思えて。
結局…路を切り開いたのは、ヴィニー自身なのだ。
「…御免な。大きなこと言って…結局、天界からは拒否されて、王都にもいられなくなって…」
「基を正せば、俺が招いた罪ですから。貴殿が、責任を感じる必要はありません。寧ろ…感謝、しています」
「ヴィニー…」
「貴殿が…認めてくれたから。俺の存在を認めてくれたから…だから、前を向ける」
「……?」
ヴィニーの言っている意味が良くわからず、ルークは首を傾げていた。その姿に小さな笑いを零し、言葉を続ける。
「今まで…裏切り者だと、後ろ指を差されているのだとしか思えなかった。自分自身に械をつけ、卑屈になることしか出来なかった。周りを、見ることが出来なかった。でも…貴殿が、俺の存在を肯定してくれたから。だから、貴殿なら、信じられると思ったんです。だから…もう、良いんです」
微笑むその顔が、とても優しく思えた。
それから数日後、ヴィニーは王都追放となった。
彼の行く先は……定かではない。
軍事局の最上階、総参謀長の執務室でぼんやりしているルークの元を訪れたのは、エースだった。
「どうしたんだ?そんな、精気のない顔して」
「…俺だって、たまには物思いに更ける時があるのっ」
ぷいっと横を向いたルークに、エースはくすっと小さく笑いを零す。
「…ダミアン様に聞いたぞ。ヴィニーの最後の言葉の意味がわからなかったんだってな」
「…ったく…ダミ様のおしゃべり…」
確かにエースの言うことが図星であるが故に、ルークは拗ねたように頬を膨らませる。
報告に行った先で、ダミアンにも同じように笑われてしまったのだ。笑うと言うことは、ダミアンもエースも、その言葉が意味することがわかっているのだろう。だからこそ、仲魔外れにされたようで、かえって気に入らない。
大きな溜め息を吐き出した時、ソファーに腰を下ろしたエースが、意地悪そうに口を開く。
「教えてやろうか」
「…やなこった。あんたに仮を作ったら、後で何請求されるかわかったモンじゃないからねっ。自分で考えるっ」
「意地張るなよ。素直な方が可愛げがあって良いんだぞ?」
「今更可愛くなってどうするんだよっ」
「…絡むなって」
いつになく強情なルークの態度に、エースは呆れた溜め息を一つ。だが、その表情は、とても穏やかだった。
「…少しは昔を思い出したんじゃないのか?」
「…何で?」
「ったく御前は…」
再び、呆れた溜め息を吐き出す。今度はその表情も呆れている。
「御前が、ダミアン様に魔界に降りる許可を貰った時のこと、もう忘れたのか?」
「…忘れて…ないけど……」
忘れるはずもない。あの時のダミアンの言葉は、今でも一言一句、正確に覚えているのだから。
堕天使だった自分を受け入れてくれたダミアン。その真白き翼を、切ることも、色を染めることも許さないと言った。ありのままの自分を受け入れてくれた。それが、何よりも嬉しくて。だから、ここまで魔界に…そしてダミアンに、情を覚えたと言うのに。
「ダミアン様は御前の存在を受け入れてくれた。御前そのものの存在をな。だから御前は、殿下に忠誠を誓ったんだろう?誰よりも、信じられると思ったから。多分ヴィニーも、同じだったんじゃないのか?自分の存在を受け入れてくれたのが、御前だったから…」
「エース…」
「ヒトは、肯定することで優しくなれる。ヒトは、肯定される度に優しくなれる。それが御前の、"悪魔らしからぬ優しさ"の源だろう?」
全てを見透かし、くすっと笑うエースの声。表情。
彼も、昔に比べてずいぶん優しくなった。
多分それは、愛しいヒトが自分を肯定してくれたから。愛しいヒトを、肯定することが出来たから。それで良いんだと…そのままで良いのだと、受け留めることが出来たから。
「…みんなして俺の"悪魔らしからぬ優しさ"が、いつか自分自身を傷つけるだなんて脅し文句言っときながら…結局さぁ、それは自分たちが撒いた種、ってことじゃん?俺だけの所為じゃないじゃん」
思わず、くすっと笑いが零れた。
酷く、優しい気持ちになれるのはどうしてだろう。
あのヒトが、自分を受け留めてくれたから…肯定してくれたから、今の自分があるのではないか。
「…なぁんだ」
くすくすと笑うルーク。先程の憂い顔とは程遠いその表情に、エースも思わず頬を緩めていた。
「ヴィニーもきっと、今の御前みたいに笑ってるのかも知れないな」
「…だと良いけどね」
ルークが覚えているヴィニーの最後の微笑みは、とても優しく、柔らかかった。エースが言っていることが事実であるのなら、多分、今のルークと同じ気持ちだっただろう。
「彼奴なら、きっと大丈夫だ」
エースの声に、ルークも自然と頷いていた。
遠く離れた場所で、彼の地を思い出す。
そこにあるのは、一つの憧れにも似た想い。
あの悪魔が、そこにいた。
初めて、自分を肯定してくれる存在だった。
ただ、それだけが嬉しくて。
「…もう一度…夢を、紡ぐことが出来るかも知れません。貴殿の為に…」
一度は失った輝きさえも、取り戻すことが出来たのは、彼の悪魔がいたから。
微笑みが、一つ。それはまるで、彼の悪魔へ向けた微笑みのようだった。
夢を、信じてる。
いつも、傍にいる。
今を生きる為、笑顔絶やさずに。
アリガトウ。
ワタシノ…大切ナヒト。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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