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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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DEPARTURE
こちらは、以前のHPで2000年08月29日にUPしたものです

拍手[1回]


◇◆◇

 ある日、構成員が全員で暮らす屋敷のエースの元に、一名の子供がやって来た。
 外見では男女の区別は出来ないが、褐色の肌と、それに対照的な色の薄い、白に限りなく近いシルバーの髪。大きな愛らしい琥珀色の双眼と…そして、額に開かれた、第三の目は、エースと同じ邪眼だった。
 その子の名前は"エナ"と言う。
「エナは父様の子」
 エナの第一声は、それだった。

◇◆◇

「この場合、"父様"ってのは、エースを指す言葉だよね…?」
 リビングのソファーにちょこんと腰掛け、与えられたジュースを飲んでいるエナを前に、一同茫然としている。
 尤も…一番茫然としているのは、当然エースだろうが。
「お…俺は知らないぞ!大体、妖魔に手を出す訳ないだろうが…っ」
 声を荒げるエースに、誰からともなく、小さな苦笑が零れる。
「誰も、エースが妖魔に手を出したなんて思ってないと思うよ」
 そう口を開いたのは、ゼノンだった。
「デーさんがこの場にいなくて良かったね」
 くすくすと笑うのは、ライデン。
 そう。デーモンは丁度仕事で出かけており、まだエナとは顔を合わせていない。ライデンの言う通り、恐らく本気にはしないだろうが、この場にいれば良い気分はしないであろうことは確実である。
「でも、エースを見て"父様"ってことはさぁ、やっぱりどっかで接点があったんじゃないの?でなけりゃ、慕って来る訳ないじゃん」
 ジュースを飲むエナに笑いかけながら、ルークはそう口にする。
「…言われてみれば、そうかなぁ~。エースに似てるとこって言ったら、目の色と邪眼ぐらいだけど…邪眼族って、他に生き残りがいたっけ?」
 ライデンの言葉に、エースは眉間に皺を寄せる。
「御前、わかってて言ってるだろっ」
「聞いてみただけじゃんよぉ~」
 明らかに機嫌の悪いエースに、ライデンもちょっと押され気味である。
 邪眼族の生き残りは、今はエースただ一名。それは、魔界の履歴を調べればわかることである。他に生き残りがいるとは考えにくいのだ。
 と、すると、答えは一つしかない。
「じゃあやっぱり、エースの子、かなぁ~?」
「あのなぁ…違うって言ってるだろうがっ」
「まぁまぁ」
 このまま放っておいたら、いつまでも続きそうな会話に制止をかけたゼノン。そして、ジュースを手にちょっと不安そうな表情で座っているエナへと、視線を向けた。
「君、出身は?何処の生まれかわかる?」
 そう問いかけられ、エナはこくんと頷いた。
「Sunken rock」
「……」
 その言葉に息を飲んだのは、エースただ一名。
「心当たり、あるの?」
 そう問いかけられたが、既にエースの耳には届いていないようだった。
 口を噤んだ表情は…何かを、思い詰めているようで。

 エナを自室へと連れて来たエースは、ベッドへと座らせてから、改めてそれを問いかけた。
「…本当に、Sunken rockの出身なのか?」
「うん。かぁ様が教えてくれた」
「…"Big Mam"が…?」
 小さくつぶやいた声に、にっこりと微笑むエナ。
 かつて…エースの初恋の相手で…最も愛した惑星。それが、"Big Mam"…エレナ、だった。
「かぁ様が言ってた。エナは、かぁ様の生命、だって。父様が分けてくれた"チカラ"で生まれたんだって」
「……」
 そう言われてみれば、能力を分け与えたと言う心当たりはあった。尤も、エースはそんなつもりで能力を与えた訳ではない。
 家出した自分が、元の場所に戻る為に必要だった力。
 エレナの生命が長くはない、と言うことはわかっていた。小さな惑星の寿命など、高が知れている。自分がまだ駆け出しの頃からの付き合いなのだから、それでも長生きしていた方だ。そんな自身の我侭の為に、"Big Mam"の…エレナの生命を削りたくなかっただけで。
 でもだからこそ、まさかエナと言うカタチとして生きているとは、思ってもみなかったのだ。
「…"Big Mam"は…エレナは、何故御前を俺の元に…?」
 エースは、その理由を、知りたかった。
 それが、エレナの判断とは到底思えなかったのだ。少なくとも、エースの見知っているエレナからは。
 エースには、今は誰よりも大切な恋悪魔がいる。それは、エレナも良く知っていることであった。だからこそ、今の生活を乱すようなことをするとは思えなかったのだ。
 すると、エナは僅かにその顔を伏せる。その眼差しは…とても、寂しそうで。
「…かぁ様は…眠っちゃったの」
「…眠った?」
 一瞬、その言葉の意味するところがわからなかった。
「もう…起きないの。だから…エナは、行くところがないの」
「…エナ…」
 話を察するに…エレナはもう、消えてしまったのだ。最後の力を…エナと言うカタチにして。
 だからこそ…それが、どうしてなのか…どうして、エナを残したのか…エースには、わからなかった。
 子供とは言え、エナも今の状況がわからない訳ではない。寧ろ…状況を感じ取る感覚は、鋭いのかも知れない。
 明らかに、自分は厄介者。幼いエナにも、雰囲気でそれを感じたのだ。
「…御免ね、父様…エナ、いない方が良かったね…」
「……」
 小さな子供に…言わせてはいけない言葉を言わせてしまった。
 そう思った途端、エースの胸が痛んだ。
 邪眼を閉じることが出来ないと言う時点で、まだ自分の力を上手く扱えないのは明らかである。そして、まだ惑星としての自分の姿を確立出来ていない以上…惑星の自我とは言え、独りでは生きていけない。
 思いがけない結末だったとは言え…元はといえば、自分が与えた生命であることには変わりない。それを突き放す程…エースは、無情にはなれない。
「俺は…御前に生命を与えた親、なんだな…」
 ぽつりとつぶやいた声に、エナは顔を上げる。
「…父様は…エナのこと、嫌い?」
 小さく問いかけたエナの声に、エースは小さく笑った。
「…いや。嫌いじゃない。ちょっと驚いたが…エナが、好きだよ」
「ホントに?」
「あぁ」
 何処にも行く場所がないのなら。愛してくれる相手がいないのなら、それは作るしかない。
 エースは手を伸ばして、エナの頭をそっと撫でた。
「一緒に…暮らすか?」
「…うん!」
 にっこりと微笑むエナ。
 誠に子供らしい笑顔に、エースも自然と顔が綻ぶ。
 ただ…その決断を、デーモンに告げなければならない。
 でも、デーモンなら…きっとわかってくれるだろう。
 それは、ささやかな期待だった。

◇◆◇

 仕事から帰って来たデーモンにその報告をしたのは、他の誰でもなく、エース自身だった。
 エースの自室へとデーモンを呼び、一から事情を説明する。
 全て聞き終わると、デーモンは小さな溜め息を吐き出した。
「…そうか。エレナが残した、一粒種か」
 エースのベッドで眠っているエナは、確かに幼かった。
「多分、地球の気はエナに合わない。それに、惑星の自我は成長が早いから、こっちの時間の流れなら、後二~三ヶ月もすれば成体になる。そうすれば、惑星としての姿を形成出来るから、生きて行くには問題はない。そう考えれば、手のかかる時期は一ヶ月もないだろう。だからそれまでの間…俺もエナと一緒に、魔界で暮らそうと思う」
「御前らしい決断だな」
 くすっと、小さな笑いがデーモンから零れた。
「しょうがないだろう?エナは、まだ邪眼の閉じ方さえ知らないんだ。エナに生命を与えた半分が俺なら、俺が育てるしかないだろう?」
「…確かに、仕方ないな。まぁ…一ヶ月くらいなら、きっと我々の活動にもそれ程影響もないだろう」
 デーモンは、思いの他冷静だった。だがそれが尚更、エースには申し訳なく感じてならなかった。
「…御免な。また勝手に決めて…」
 小さな溜め息を吐いたエース。
 その胸にある想いは…自分でも、上手く言葉には出来ない。
 複雑な表情を浮かべているエースの頬に、デーモンはそっとその指先で触れる。
「言っただろう?御前らしい、って」
「…デーモン…」
 くすっと、笑いを零すデーモン。
「エレナは…御前に、故郷を残したかったのかもな。御前は自然発生だし、産まれた場所も生きて行くには過酷な場所だ。だから、御前に…せめてもの、安息の場を残したかったのかも知れないな」
「…故郷、か…」
 そう思えば…エナと言うカタチで生命を繋いだ気持ちがわかったような気がした。
 エナは何れ成長して、惑星として生きて行ける。それは…エレナにとっては、残り僅かな生命を生き長らえるよりも、意味のある選択だったのだろう。
 ならば尚更。エレナにそんな選択をさせたのだから…エースも、自分の責任を果たさねば。
 大きく息を吐き出したエース。
 自分の思いを整理して…そして、ゆっくりと口を開いた。
「今度戻ったら、もう二度とあんたの傍を離れない。だから…今回だけは…目を瞑ってくれ」
 そうつぶやくエースの言葉を遮り、デーモンはにやりと笑ってみせた。
「わかってる。御前が戻って来れるのは、吾輩の元だけだからな。気長に待ってるさ」
「…デーモン…」
 目を丸くするエースの前、デーモンは、自分で言った言葉に、流石に照れているようだった。僅かに頬を染め、指先でぽりぽりと頬をかいている。
「ちょっと…カッコつけすぎたか?」
「…かなり、気障だな」
 その仕種に、エースも思わず噴き出してそう零す。
「正直に言えば、そりゃ想いは複雑さ。だがな、吾輩は御前を信じてる。あの一件で、それを痛感したからな」
 照れ笑いを浮かべたデーモン。あの一件とは、正しくエレナのことだ。
「想いは、ナニモノにも勝る、か」
「まぁ、そう言うことだ。だから、安心して行って来い。精々、いいお父さん、してくるんだぞ」
「…あぁ」
 小さく笑いを零すエース。
 信じて待っていてくれるデーモンが、何よりも心強かった。
「…有り難う、デーモン」
 頬を寄せ、唇を重ねる。
 帰る場所を、見失わない為に。
 想いは、何よりも確かな目印となった。

◇◆◇

 明くる朝、屋敷には既に、エースとエナの姿はなかった。
「…行っちゃったね、エース…」
 小さくつぶやいたライデンの声に、デーモンは小さく笑った。
「なぁに、すぐ帰って来るさ。一曲作るよりも早いかも知れんぞ?なぁ、ルーク?」
「…じゃあ、競争する?俺とデーさんとで一曲ずつ作るのと、エースが帰って来るのと、どっちが早いか」
 話を振られたルークもくすくすと笑った。
「吾輩も作るのか?」
 ルークに丸投げしようと思っていたのだろうか…思わぬ方向に話が進み、思わず声を上げるデーモン。
「当たり前でしょ~?言いだしっぺなんだから、責任持たなきゃ」
「来月は新曲が増えて良いね。さ、新教典はいつ出せるかな?」
 ゼノンもそう言ってくすくすと笑う。
「…わかったよ。作れば良いんだろう、作れば…」
 些か、自分の首を絞めた感じではあるが…それでも、この現状を笑えると言うことは、辛くはないのだ。
 誰も、未来に悲観などは見えなかった。
 寧ろ…エナの成長を楽しみにしている感もある。
 不思議と、誰もがそんな気持ちを抱いていた。
 そして、一ヵ月後…どんな曲が出来上がるかもまた、楽しみであった。
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