聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
HEAVEN 前編
それはまだ誰もが若かった頃。まだ彼らが魔界で暮らしていた頃のことである。
その日は良く晴れていた。
澄んだ青い空は高く、遠くに聞こえる鳥の声も、なかなか情緒に溢れている。
その空の下、森へ向かって歩いて行く姿が一つ。その姿は、恰幅のいい身なりとは裏腹に、何処かこっそりとぎこちない。
「……様ぁ…」
「…バレたかな…」
遠くから聞こえた声に肩を竦め、そそくさと木立ちの中に姿を消したのは、言うまでもなく文化局局長たるゼノンだった。
「最近は、警護が厳重になっていけないね…」
職務を放棄して脱走しているのは自分であるのに、まるで他悪魔事のように宣うゼノン。その言葉には、悪気が全く感じられない。要は、無意識に…なのである。
「…おかしいな…もう来てもいい頃なんだけど…」
小川の近くまでやって来たゼノンは、辺りを見回してみる。勿論、誰の姿もない。だがその仕種からして、どうやら誰かを待っているようだ。
と、その時。
「おまった~」
陽気な声と共に、一つの羽音が頭上から聞こえた。空を降り仰いだゼノンの視界に、それは当然入っている。
「やぁ、ライデン」
にっこりと微笑んで迎えられたのは、魔界で修業中の、雷神の子息であるライデンだった。
まだ上層部にしか身分が明かされていない為、自由に出歩くことは制限されてはいるが、相手がゼノンであるが故に、多少は多目に見てくれている節がある。
「ね、聞いてよ。昨夜、デーさんったらさぁ…」
くすくすと笑いながら、衣食住の面倒を見て貰っている副大魔王を話題に乗せるライデンを、ゼノンは微笑みながら見つめている。
それは、久しく感じていなかった幸福感。
勿論、今までの生活に不満を感じている訳ではなかったが、こうして彼と向き合ってみると、足りないモノがあることを思い出したのだ。それが何であるか、久しく忘れていたことであることも。
「……聞いてる?」
思わず問い返したライデンの顔は、何処か不満そう。自分の話がゼノンにとって、右から左へ抜けているのではないかと言う感じである。
「大丈夫。聞いてるから」
「なら、いいけど」
にっこりと微笑むゼノンを前に、ライデンは僅かにその頬を染め、目を伏せる。
「…ねぇ、ゼノン…」
「何?」
問い返した声に、ライデンは答えない。目を伏せたままで、ゼノンと視線を合わせようともしない。
怒らせたかな…?
一瞬、そんな表情を浮かべたゼノンに、ライデンはぽつりとその言葉を零した。
「恋悪魔…いないの?」
「何で?」
「だって…そんな話、聞いたことないし…もしいるならいるで、俺だってこうしてあんたを独占するのも悪いかなって思って…」
いつも昼過ぎから二時間余り、こうして悪魔知れず逢っていることが、ライデンに罪悪感を感じさせているのだろうか。
それと思い当たる節のないゼノンは、思わずにっこりと笑いを返していた。
「恋悪魔と呼べる相手は、"他に"いないけど」
「じゃあ、少なくとも好きだと想う相手はいるんだ」
意味深な取り方をしたのだろうか…今日のライデンは、嫌に絡んで来る。
「そう言う意味じゃ…」
訳もわからず、眉を潜めたゼノン。その視線の先に、ライデンの思い詰めた表情がある。
「…ライデン?」
呼びかけ、顔を覗き込もうとした途端、ライデンはふっとその視線を反らせた。
「御免、何でもない」
ライデンはぱっと立ち上がると、背中に翼を構えた。
「今日は帰るね…」
ゼノンが何を言う前に、ライデンはそのまま大空へと飛び立って行った。
「……?」
小さくなって行く姿を見送りながら、ゼノンは不思議そうに首を傾げていた。
大きな溜め息が一つ。
それは、副大魔王たるデーモンの執務室で。
「どうしたんだ?一体」
窓辺に凭れかかって、ぼんやりと遠くの森を見つめているライデンに、デーモンは声をかける。
「…別にぃ…」
ここからは見ることが出来ないが、森を越えた向こうには、魔界文化局の局社が立っているはずだった。多分ライデンの視線はそこに向いているのだろうと感じつつ、デーモンはその背中を見つめている。
「喧嘩でもしたのか?」
「してないよ」
「じゃあ、どうしたんだ?」
改めて問いかけると、今度はすんなりとその答えが返って来た。
「ホントに、恋悪魔…いないのかな…」
「…は?」
一瞬、ライデンの言葉が誰を指しているのかと考えてしまったが…やがて、それがただ一名を指す言葉だと判明した。
「…ゼノン、か?」
「……」
デーモンの声に、その頬が僅かに朱に染まる。
「何だ、そう言うことか」
くすくすと笑いを零すデーモンを、ライデンは小さく睨み付けた。
「…笑うことないじゃんよぉ…」
そう、ライデンにとっては、笑い事ではないのだ。
一度、キスをしたことはある。好意を持っていることも、相手は知っているはず。だが相手からは、ただ『一緒にいようね』と言われただけであって、その気持ちの真意がはっきりとわからなかったのだ。
多分、大切に思ってくれているとは思う。ただ…それだけでは満たされない想いがある。
だからこそ、恋悪魔がいるのかも知れないと思ったのだ。
「…あぁ、済まなかった」
やっとで笑いを納めたデーモンは、小さく息を吐き出す。
「今のところ、"他に"特定の恋悪魔はいないようだぞ。研究が忙しくて、それどころじゃないんだろう」
「研究?」
「あぁ。御前と逢う時間以外は、今は大抵研究室の方にいるらしいぞ」
「へぇ…」
いつも森で見かける姿からは、そんなことは想像もつかなかったのだろう。
意外そうな表情を浮かべたライデンは、一目、ゼノンが研究に没頭する姿を見てみたいと思った。
「研究室って、文化局にあるの?」
「あぁ。局の地下にあるはずだが……ライデン?」
「出かけて来る」
デーモンの声も聞かず、ライデンは執務室を飛び出していた。
ライデンが文化局へ足を踏み入れるのは、まだ二度目であった。
最初に訪ねた時は、まだゼノンが局長だと言うことを知らなかった頃。
あの頃から、もう随分経っているにも関わらず、ライデンにとってここは、まだ未開の地なのだ。
受付に座っている悪魔の目が、怪訝そうに自分を見つめているのを感じながら、意を決したようにIDカードを差し出す。
「ゼノン局長は?」
「…地下三階の第二十三研究室です」
表情一つ変えることなく、そう告げた声。
「サンキュー」
IDカードをしまい込むと、足早に地下へと向かう。そして、第二十三研究室と書かれたプレートが掲げてある扉の前で、その足を止めた。
軽くノックすると、暫しの沈黙の後、僅かにその扉が開かれた。
「…ライデン…?」
覗いたのは、ゼノンの顔。それは、驚いたように目を見開き、自分を見つめていた。
「ちょっと…いい?」
「あ…っと……ちょっと待ってね」
一端閉ざされた扉が開かれるまで、数分かかった。
その間、廊下はしんと静まり返り、他に誰も存在していないかのようだった。
「御待たせ。どうぞ」
再び扉が開かれると、今度はすんなりとその内側へと促された。
「…あんた一名なの?」
他に、誰の気配も感じない。
「そう。今日は俺だけだからね」
そう言いながら、研究室の奥へとライデンを促して行くゼノン。その背中に続きながら、辺りをゆっくりと見回してみる。
特に、何がある訳でもない。簡素な書類棚の上には、幾つもの薬品が並んでいるだけである。
やがて、テーブルと一対の椅子の前で、ゼノンの足が止まった。
「なんで、ここに…?」
椅子を勧めつつ、ゼノンはそう問いかける。ゼノンにしてみれば、それは当然の問いかけである。
「…デーさんに聞いたんだ。あんたが研究室に閉じ込もってるって。だから、一度来てみたくて…」
分が悪い。
咄嗟にライデンは、そう感じていた。
ゼノンはいつになく、怒っている。勿論、ライデンも良くわかってはいるのだ。
「それで、危険を承知でIDカード使った訳…?」
「…だって…」
どうやらゼノンは、扉が閉ざされていた数分間のうちにライデンがどうやって入って来たかの確認をしていたらしい。
「デーモンから言われてるよね?生命に関わることになりかねないから、使い方を良く考えろって」
「…わかってるよぉ…」
「だったら、どうしてそんなに軽率に…」
「軽率じゃない!」
流石にその言葉には、カチンと来たらしい。
「俺にとっては、軽率な行動じゃない!そりゃ、あんたから見れば、軽率な行動に思うかも知れないけど、俺にとっては一大決心だったんだからっ!」
最初は単なる思いつきがきっかけだったのかも知れないが、それを行動の起こすのは、ライデンにしてみれば一大決心だったのだ。
その思いを察したのか、ゼノンも大きな溜め息を吐き出した。
「…御免、言い過ぎた…」
ついつい、過保護になり過ぎててしまう。その原因は、かつての事件にあることは言うまでもないのだが。
ふと、昔のことが脳裏に過る。
自分の管理不行きが原因で、自分の相棒にライデンが襲われた時のこと。
何もなかったとは言え、それが自分とライデンとの間に奇妙な過保護観念を与えたのは言うまでもないことなのだ。
思い出さないように努めて来たものの、まだそれが何処かに痞えているようで。
「…俺も…御免。あんたが心配するってこと、わかってたのに…」
ライデンも素直に謝る。ゼノンの心配症が、自分を案ずるが故のことであることはわかっていたのだから。
「もう、この話はおしまいにしよう」
ゼノンは、そう言葉を発した。
「で、何が見たかったの?」
記憶の糸を辿りながら、そう尋ねてみる。
「えっと……デーさんが、あんたが研究室に籠もってるって言ってたから、何の研究してるのかなと思って…でも、邪魔なら帰るから」
「いや、邪魔じゃないよ」
ここで邪険にしたら、ライデンは本当に帰ってしまい兼ねないだろう。そうしたら、また自分の目の届かないところで何かあるかも知れない。
そんなゼノンの心配症は、ちょっとやそっとでは治らないのだ。
「何の研究やってるの?」
ほっと安堵の溜め息を吐き出したライデンは、やっといつものペースを取り戻したようだった。
問いかけた声に、ゼノンは小さく笑いを零す。
「クローンモンスターって、知ってる?」
「…クローン…って…?」
「新薬とか、生体実験とかに使うモンスターだよ。クローンとして培養してるんだ。見てみる?」
そう言うと、壁の液晶に手を触れる。途端、その壁が左右に開き、奥へと続く道が現れる。
そこには無数の機械と共に、無数のクローンモンスターが培養されていた。
「うわぁ…」
思いも寄らない光景に、感嘆の声を漏らすライデン。
「俺が研修生の頃からあった研究室なんだよ。結果。俺が引き継ぐことになったんだけどね」
まさか、想像もしていなかったけどね。
ゼノンはそう言いながら、くすくすと笑ってライデンを促した。
無数にあるクローンモンスターの中には、いかにも動物系のモノもあれば、ヒト型をしているモノもある。その一つ一つを眺めながら、ゼノンに着いて進んで行く。
そのうち、ふと気が付いた。
培養液の中のクローンが、自分を見つめているのだ。
それも、興味深い眼差しで。
「…ゼノン…なんか俺…見られてる…?」
奇妙な感覚に、思わず手を伸ばしてゼノンの服の背中を掴む。
「来客なんて、滅多にあることじゃないから、珍しいんだろうね。いつもは俺か、研究員だけだから」
と、何食わぬ顔でそう宣うゼノン。
「…ってことは…意識はあるってこと?」
服を掴む手の力が、更に強くなったような気がするのは、きっと気の所為ではないだろう。
「無意識のヤツもいるよ。動物系のは頭脳カイロを埋め込んでいないからね、ほとんどは無意識だよ。ただ、ヒト型のは頭脳カイロがあるから、多分意識の感覚はあると思うよ」
その途端、ライデンの足がピタリと止まった。
「…どうしたの?」
ふと、背中から離れた手の感覚に、ゼノンは振り返る。
そこに佇むライデンの表情は…何処か、寂しそうだった。
「…それじゃ…こいつらは、意識を持ったまま、実験台になるってこと…?」
「…ライデン…」
「わかって、るんでしょ?自分が、これから何をされるかぐらい…」
「……」
ライデンが何を言おうとしていることは、ゼノンにもわかっていたことだった。
「…俺はね…意識を持ったまま、実験台に使おうと思ってる訳じゃないよ。実験に使われるのは、ほとんど動物系のモノだし、ヒト型の実験台がどうしても必要な時は、ちゃんと考慮して……」
「でも、その為だけに生まれて来たんだよね?頭脳カイロの中身まではわからないでしょ?色んなことを考えてるのかも知れない。どうして自分は、こんなところに入っているのか。どうして研究材料にされているのか、どうして自分は…死んでいくのか」
「…ライデン…」
ぽつりと、床に一雫の涙が零れ落ちた。
「…哀しいよね…たったそれだけの為の生命なんて。生涯をこの培養液の中で過ごすんだよ。楽しみも何にもない。ただ、ここに閉じ込められて、あんたや他の研究員の顔しか見たことないんだよ…何の為の…生命なの?」
「……」
「こいつらが、クローンとして、あんたたちの手によって与えられた生命だから?だから、そんな風に生命を扱えるの…?」
「…魔界の、将来の為、だよ」
そう、結論を出さねばならなかったのは…今初めてではなかったことを、ゼノンはぼんやりと思い出していた。
記憶が、蘇る。
かつて…自分も同じように、上官に問いかけたことを。
それが今、自分が同じ質問をされていると言う事実。
「…それが、正しいことなのかはわからないよ。でも…魔界の将来の為に、俺たちが残してやれる何かが、ここにはあるんだよ。だから…」
泣かないで。
そっと、ライデンの細い身体を抱き締めた。それしか、今のゼノンに出来ることはなかった。
PR
COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
カテゴリー
最新記事
(06/23)
(10/08)
(10/08)
(09/30)
(09/10)
(09/10)
(08/06)
(08/06)
(07/09)
(07/09)
アーカイブ
ブログ内検索