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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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HEAVEN 後編
こちらは、以前のHPで2002年7月28日にUPしたものです

拍手[2回]


◇◆◇

 記憶が、蘇る。
 かつて…自分も上官に問いかけたことがあったはず。
 その時は確か…自分が初めて培養していたクローンの、頭脳カイロが壊れたと報告した時のことだったと思う。
 上官は、自分にこう言った。
『頭脳カイロが壊れてしまったのなら、しょうがないな。処分、しといてくれ』
『処分…?』
 そう、問い返したのだったはず。
『そうだ。新しいクローンを培養するから、培養液ごと処分しといてくれよ。感染するとやっかいだからな』
『ちょっ…待って下さい。処分って…』
『御前もわからないヤツだなぁ。捨てるんだよ』
『捨てるって……殺す、って言うことですか?』
『そうだ。それ以外に、なにがある?』
『…どうして…ですか?まだ、動くんですよ?確かに、頭脳カイロに異常はありますが、まだわたしの言葉には反応を示すんですよ?』
『それは反応じゃない。反射、だ。今まで、御前の声に対して反応していた身体が、御前の声で反射してるだけだ。こいつの意志じゃない』
『でも……』
『これは、あくまでも造物だ。子孫を残す訳でもない。それに、もう十分に研究材料にはなっているだろう?魔界の将来に貢献したんだ。もう十分だ』
『上官……』
『さ、わかったら、さっさと処分しろ』
 その時の思いを、忘れた訳ではなかった。
 ただ…時間が経つと共に、それに慣れてしまっただけで。
『…御免ね…』
 初めて自分が培養したクローンモンスターを処分するその日…初めて、涙を零したその想いも…全て記憶の底に埋もれてしまっていたのだ。
 彼に出会うまで、忘れていた。
 思い出させてくれたのは…純粋極まりない青年だった。

◇◆◇

 ライデンを送り届け、局に戻って来たゼノンは、執務室の椅子に腰を降ろし、ぼんやりと壁を見つめていた。
 どれくらいの時間が経っていたのだろう。
 声をかけられて、ふと我に返ってみれば…そこは既に闇に閉ざされていた。
「…どうした?ぼんやりして」
「…デーモン…」
 何故、彼がここにいるのかもわからない。
「…どうしたの?」
 思わず問いかけた声に、デーモンは苦笑していた。
「御前こそどうしたんだ?吾輩が入って来たことにも気が付かないでぼんやりして…」
「いや…別に。ライデンはちゃんと帰ったでしょ?」
「あぁ、今頃は屋敷で晩飯でも喰ってるだろう。ちょっと元気がなかったようだが、食欲には勝てないさ」
「…だろうね」
 ゼノンも、くすくすと笑いを零す。だが、その目までは笑っていない。
「…見せたのか?クローンモンスター」
「…まぁ、ね」
 取り敢えず明かりを灯し、デーモンをソファーへと促しながら、ゼノンはそう答える。
「ショック…だったのかな、ライデンは」
「…そうかも知れない。泣いてたもの」
「彼奴には初めて目にする光景だろうからな」
 目の前に置かれた、暖かい紅茶のカップに手を伸ばしながら、デーモンはそうつぶやく。
「デーモンは驚かなかった?」
 デーモンの前に腰を降ろしながら、そう問いかける。
「吾輩か?まぁ…驚かなかったと言ったら嘘になるかも知れないが…多分、今のライデンよりは平然としていただろうな。そう言う御前は?」
「俺はね…初めて自分が培養したクローンを処分した時…物凄くショックだったことを覚えてる。どうしてまだ生きているのに、殺してしまうんだろう、って。"鬼"でいる時は、考えもしなかったことなのに。でも今はそれにも慣れてしまった。ライデンには…それもショックだったのかも知れない。俺の口から、あっさり『魔界の為』だなんて言葉が出て来たから…」
「『魔界の為』か…」
 つぶやいたデーモンの声。
「魔界に忠実を誓っている者は数多くいる。だが…吾輩は『魔界の為』と思ったことはないな…」
 副大魔王であるデーモンの口からは、それが予想外としか言いようのない言葉である。
 だからこそ…ゼノンは、それを問いかけた。
「じゃあ、デーモンは何の為に生きてるの?何の為なら…死をも選ばない?」
「吾輩は……」
 デーモンは、その口を噤んだ。暫く考えているようだったが、やがてその頬が僅かに朱に染まった。
「吾輩は、吾輩の為だけに生きてるんだ」
「嘘。顔がそう言ってるよ」
「……」
「例の、"赤き悪魔"の為、だね?」
「……」
「否定しないってことは、そうなんだ」
「う…うるさいっ」
 くすくすと笑いを零すゼノン。
 "赤き悪魔"とは、デーモンが片思い中の悪魔のようである。まだ、名前までは聞き出せてはいない。ただ、大方の想像は着いているのだが…今はまだ知らない振りを通しているのだ。
 耳まで真赤になるデーモンを横目に、ゼノンは笑いを押さえると、しみじみとデーモンを見つめた。
「きっと…親がいた所為だね。誰かを愛せるのは」
「…ゼノン?」
 不意に変わったゼノンの声に、デーモンは顔を上げ、ゼノンを見つめた。
「ほら、俺は自然発生だから。勿論親もいないし、子孫を残す必要もないでしょ?愛を育まなくてもいい訳よ。だからかな、いつの日にか、造物の生命もあっさり切り捨てられるようになったのは」
「…そんな、寂しいこと言うなよ」
 ぽつりと零れた声に、ゼノンは改めてデーモンを見つめた。
 その金色の眼差しが、寂しそうに自分を見つめている。そう、ライデンが見せたのと、同じように。
「御前がそんなこと言ったら…自然発生の悪魔はみんなそうだと言うようなモノじゃないか。血族だろうが、自然発生だろうが、生まれた以上、同じように生きて行くんだ。誰かを愛することもあるだろうし、愛されることもある。悲観するのはやめろ」
「悲観してる訳じゃないよ。大切だと思う相手はいるんだもの。ただ…いつかは、何もかも食い違って来るかも知れないって…」
「その時はその時だろう?まだまだ先は長いんだ。それに…御前がそんなこと言ったら、ライデンがまた…」
 大きな溜め息を一つ。
 もっぱらライデンの御守役も兼ねているデーモンとしては、これ以上厄介事を持ち込んで欲しくないと言うのが実情なのだろう。
 そんな姿に、ゼノンは笑いを一つ零した。
「大丈夫。ライデンは前向きだから。きっと俺が躓くようなことがあったら、諭してくれるよ」
「御前…」
 僅かに驚きの色を見せた眼差しに、にっこりと微笑むゼノン。
「ライデンは、強いんだから。やっぱり雷神界の皇太子だね。いざとなればしっかりしてるんだから。俺を諭すのぐらい、朝飯前だよ、きっと」
「…だといいけどな」
 再び、大きな溜め息を一つ。
 だが、どうやらゼノンは、ライデンとの未来だけは、悲観していないらしい。
「今日のこと、少し…フォローしとけよ」
 相変わらず、デーモンの口から零れるのは溜め息ばかりである。
「わかってるって」
 気苦労の多い副大魔王に、ゼノンはその想いを微笑みで返していた。

◇◆◇

 その翌日の昼、約束の場所には、ゼノンよりも先にライデンが来ていた。
「早かったね」
 やって来たゼノンがそう言葉を放つと、ライデンは僅かに戸惑いの表情を見せていた。
「…昨日の、こと?」
 尋ねる声にも、だんまりを通す。
 それならば…と、ゼノンはライデンの隣に腰を降ろし、自ら口を開いた。
「昨日…御前が帰った後ね、色々考えてたんだ。昔は俺も同じ想いをしたな、って…」
「…同じ想いって…?」
 口を開いたライデン。その眼差しも、真っ直にゼノンに向けられている。
「初めて、自分で培養したクローンを処分した時…俺も泣いたな、ってこと、思い出した」
 くすくすと笑いながらつぶやく言葉には、既に悲観の色はない。
「泣いたの?あんたが…?」
「そう。信じられないでしょ?」
 目を丸くするライデンに、ゼノンは更に笑いを零す。
「自分が酷く残酷に思えてね。折角生命を与えたのに、結果的に殺すことしか出来なかった自分が、酷く残酷に思えて仕方なかった。でも…時間が過ぎて行くうちに、それも自然の摂理なんだと思ったんだ」
「…自然の…」
「そう。勿論、殺すことが、って言うことじゃないよ。でも、生まれて来た生命は、何れは死んで行くんだって言うこと。どんなカタチにせよ、彼らは自分の生命を全うしたんだと思う。魔族には魔族の、天界人には天界人の生き方があるように、クローンモンスターにもクローンモンスターの生き方があると思うんだ。だから…最終的に、自分の手で弔う気持ちがあるのなら、それで報われるんじゃないかと思う。勿論、俺の勝手な言い分だけどね。"鬼"である時は、そんなことは考えられないけど」
 切々と言葉を紡ぐ唇。
 そう結論を出すまでに、一体幾体のクローンを弔って来たかは覚えていない。
 ただ…そう思えるようになってからは、素直に別れを告げることが出来たのは覚えていた。
 そして、ライデンの言葉で、それを改めて思い出したことも。
「自分が与えた生命だから、自分で奪っていいとは思ってないよ。自分で与えた生命だから…自分の手で、弔ってやるんだ。それなら…納得出来る?」
「…まぁまぁ、ってとこ。俺はまだ、慣れないけどね」
 それは、ライデンにとっても正直な気持ち。
「慣れて欲しいとは言わないよ。ただ、わかっていて貰いたいだけ」
 そう。わかっていてくれれば、それでいい。それ以上のことを望むのは、束縛することにもなり兼ねないから。
 ただ…傍にいて欲しいだけ。
 想いは、それだけだった。
「…御前の、御陰だよ」
 小さくつぶやいた声。
「…え?」
 その言葉の意味を察し得なかったのだろう。不思議そうな表情のライデン。
「これからも…よろしくね、ライデン」
「…ゼノン…」
 そっと抱き寄せ、軽く口付ける。
 当然、ライデンは終始茫然としていたのだが…
 しかし、ゼノンの想いは通じたようだ。
 耳まで真赤になりながら、くすっと笑ってみせるライデンに、ゼノンも笑いを零していた。
「…そうそう。一つ言い忘れてた」
 笑いを納めたゼノンは、そう、ライデンに向き合う。
「…何?」
 問い返す声に、答えた声。
「この前…言ってたよね?恋悪魔がどうの、って…」
「あぁ…うん」
 思いがけない話に引き戻され、ライデンの表情が緊張する。
 たった今、キスされたばかりだと言うのに…ここで恋悪魔がいるなどと宣言されてしまえば、今のは何だったんだと言うことになるのだから。
 ライデンのその緊張を察したのか、ゼノンは緊張を解す為に、にっこりと微笑みかける。
「"他に"恋悪魔はいない、って答えたはずだけど…上手く伝わらなかったかな?」
「…へ?…」
「だから、俺の恋悪魔。でしょ?今更、問いかける必要もないじゃない」
「……」
 指を指された先には、ライデンの顔がある。
 そう言えば、確かデーモンも同じようなことを言っていたような…
 一瞬、呆然とした表情は、やがて満面の笑みへ。
「問題解決、ね」
 にっこりと微笑むゼノン。
 にっこりと微笑むライデン。
「好き、だよ」
 ゼノンの唇から零れた言葉。そして、再びゆっくりと唇を合わせる。
 零れる小さな吐息を拾うように、深く口付けながら、その甘さに酔い痴れていた。
 全てが、平和で穏やかで。
 まるで、楽園のようで。
 御互いが、御互いの安息の地。

 麗らかな午後は、ゆっくりと過ぎて行った。
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